〜能力者への道68・人着〜



 グリーンを捜し出たブルーが戻ってきたが、どうもよくわからない反応だけ示す


 「アイツならきっと大丈夫」の言葉の真意は・・・?


 グリーンの首を狙った攻撃はペンダントとスーパーボール自身で防ぐ


 あまりにも冷静すぎるその判断と対応、対処法・・・グリーンは反撃なるか?


 グリーンの勝機は何か、皆は不安を隠しきれずに考え始める


 能力者の闘いはその闘いに懸ける想いが大きく影響し、理力同士の闘いなら尚更だという


 そんな・・・・・・パークルの理力、それは俗に三大理力が1つ『海の理力』と呼ばれるものと聞かされる


 各地方に数百年に1人だけ・・・太古から受け継がれし不変の効果を持った理力使いが生まれるという


 その『レヴェル2・力』の効果は・・・・・・驚くべきものだった


 『切り裂いた流動物の動きを完全に止め、その一方の行き場を無くしたエネルギーは徐々に圧力を高め、内部爆発を引き起こさせる』

 
またグリーンの理力の効果は『形無き敵を切り裂く』もの


 実はそれがパークルと同じく三大理力が1つの・・・『空の理力』に似ているという


 しかし、可能性は皆無に等しく・・・レッド達はやはり待つしか出来ないのだ


 そして、月夜の闘いに今、勝負が・・・決着がついた・・・・・・




 


 


 「終わったみたいだね」





 ・・・・・・





 「広いだろう、・・・・・・。 父さんは海って奴が大好きだ」





 ・・・・・・





 「やったぞ、能力者の新時代だ。 ようやく俺達も陽の目を浴びるんだ」





 ・・・・・・





 「莫迦な・・・! 俺達が何をしたと言うんだ」





 ・・・・・・





 「真実を知ったんですよ、我々は。 我々は能力者の存在を否定し、拒絶しなければならない」





 ・・・・・・




 
 「どうしても、僕に従ってはくれないのか・・・?」





 ・・・・・・




 
 「触れてはならない。 だからこそ、それを禁忌というのじゃよ」





 ・・・・・・





 「毒のあるものってさ、綺麗だよね。 だからこそ、触れたくもなるし、手に入れたくもなるんだよ」





 ・・・・・・





 「誰が、誰かがあの扉を開こうとしている・・・防がねば・・・」





 ・・・・・・





 「所詮、新時代なんてものはまやかしにしかすぎないの。 挙げ句の果てがこのザマさ」





 ・・・・・・





 「居たぞ、奴らだ! 能力者だ!」





 ・・・・・・





 「逃げろ、・・・・・・! カブトプス、後は頼んだぞ・・・」





 ・・・・・・





 「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だぁぁあぁぁあああ・・・!!!」





 ・・・・・・





 「復讐だ! 俺達一族を皆殺しにした連中を、俺は許さない・・・!」





 ・・・・・・





 「俺についてこい、カブトプス。 父さん達の敵を討つ、この海に誓って! 必ず!!!」





 ・・・・・・





 「チキショウ、俺は俺は・・・この力を何処へ振るえばいい!」





 ・・・・・・





 「ポケモン協会さ。 総ては彼奴らの所為なんだよ?」





 ・・・・・・





 「残念だけど、まだまだ君は弱い・・・。 少なくとも、『楽園の鍵』としては力不足だ」





 ・・・・・・





 「俺は誓ったんだ。 この海に・・・己の理に・・・ッ!」










 ・・・・・・





 「終わったんだね」


 暗い海から澄んだ声が聞こえた


 「まだ終わっちゃいねーよ」


 小島の上に動く影、むくりとその影は起き上がった
 海にいる影は驚いた様子でもなく、むしろふっと笑ったような気がした


 「そう。 終わってないんだ?」

 「・・・アンタか。 何の用だ」

 「別に。 僕は君が心配だったんだよ、本当にね」

 
 パークルは「テメェは嘘臭ぇ」と毒づいたが、相手は一向に気にしていない
 そして、ただ重苦しい雰囲気がこの辺りを包んだ・・・・・・


 「・・・ああ、海は広ぇなぁ・・・」

 「そうだね。 海だけじゃない、空も、陸も、いや・・・世界は広いよ。
 こんなちっぽけな人間が、その上に存在しているってのもおかしなものだね」

 「イチイチうるせぇよ」


 パークルがそう一喝すると、影は肩をすくめた・・・調子に乗りすぎたか
影が、パークルに訊いた


 「・・・で、どうだった? 同じ理力使いの腕前は」

 「・・・・・・あの野郎、途中で化けやがった」




 
 ・・・・・・ ・・・・・・


 


 その勝負は一瞬で終わった、何が起きたのか・・・互いでもよくわからなかったのだろう
 だが、立っていたのは・・・グリーンの方だった


 「礼を言う。 俺はお前のおかげでを乗り越えることが出来た。
 もう、この理と力を二度と手放すことは無い・・・」

 
 パークルは無様に横たわり、息も絶え絶えだった


 「死にはしない。 死なせはしない。 そうだ、俺は俺の道を行く・・・お前とは違う道だ」


 グリーンはゴルダックを出し、その上に乗り・・・暗い海の上に立った


 「破壊の鋼爪、『ディス・クロー』改め、『空の理力』が<破壊の空爪、『ディス・カイ・クロウ』>・・・。
 たとえ、道は違えど・・・またその道は交差し、俺達は戦うことになるだろう。
 それはこの『理性の右眼』の疼きと、その力の象徴の名が指し示している。 ・・・また会おう」


 そう言って、グリーンはそのままその姿を消した
 辺りには静寂が戻り、パークルは月明かりに遮られた星空を眺めていた・・・





 ・・・・・・ ・・・・・・





 ボロ屋のドアがきしんだ音を立てて、ゆっくりと開いた


 『終わったんだね』
 
 
 シショーは開口一番にそう言った、目の前にいるのは・・・無事とは言えないが、生きて帰ってきたグリーンの姿
 皆は口々に言った


 「おかえり」

 「疲れたんじゃないですか?」

 「随分と遅かったッスね、グリーンさんとあろう者が・・・」

 「昼間の怪我、痛みませんか?」

 「フン。 満身創痍じゃないか、剣山風髪狐目自虐的莫迦未熟男めが」


 紙一重ではあるが、誰も「心配したぞ」などとは言わなかった
 仲間として、グリーンの実力を・・・帰還を信じていたからこそ、言わなかったのだ
 何度も不安になった、幾度も議論した、しかし・・・・・・信じていた


 グリーンがふらふらと中へ入ってくると、その直後に怪我だらけの背中を思い切り叩いた者がいた
激痛にその背筋をピンと伸ばすと、背後からアハハハと笑い声がした


 「シャンとしなさいっ! 男でしょ」

 
 ブルーの激励に顔を歪ませ、皆に一言・・・声を発した





 「寝る」


 皆が古典的なパターンのままに、ずどぉっと音を立てて一斉にずっこけた
 グリーンは微動だにせず、マイペースに言った


 「悪いが、また奥の部屋で寝かせてもらう・・・今は眠くてしょうがないんだ」

 「きぇっきぇっきぇっきぇ・・・構わんよ、好きにしな」


 キワメ婆さんの許しを得て、グリーンはふらふらと奥の部屋へ足を運ばせた
 その時、すれ違った一瞬に・・・キワメ婆さんが言った


 「得たんだね、『空』を」

 「・・・・・・ああ」

「寝な、今は」
 

 グリーンがふっと不敵に笑うと、奥の部屋へと入っていった
そして、騒ぎの張本人が帰ってきたことで緊張の糸が切れたと言うべきか・・・互いの愚痴を言い始めた


 「ていうか、俺達も疲れたな」

 「最近、グリーンさん寝過ぎじゃないッスかね?」

 「理力の影響かしら。 ていうか、アタシも寝たいんだけど」

 「・・・ZZZZZ・・・」

 「あのぅ・・・イエローさんはもう寝てますけど・・・」

 『じゃ、明日に備えて・・・僕達も寝るとしますか』


 シショーがそう言うと、皆は同意し・・・キワメ婆さんに訊いた


 「・・・で、俺達の部屋は?」


 


 奥の部屋の汚いベッドに横になった時、ふと皆の声が耳に入った


 ・・・・・・確かに、俺は1人じゃないな


 そっと、目を閉じた





 ・・・・・・ ・・・・・・

 

 

 「昼間戦った時は、全っ然強くも何ともなかった。 ・・・ハズだった。
 それが今になって、『空の理力』が開眼か? ふざけてるぜ、全くよぉ」

 「血は争えない、ってことじゃないの?」

 「ジョ〜ダン、アイツとなんざ5代さかのぼって見ても、血の繋がりは見あたらねぇよ」
 

 そう言ってふてくされると、影はくすりと笑った
 

 「また、君は彼と再戦するのかな」

 「するさ、必ず・・・絶対にだ!! 悪ぃが、テメェがけしかけたのがいけねぇんだぜ?
 上等だ。 次こそはアイツを殺して、俺が『最強の理力使い』になる。 
 誰よりも強く、何よりも高い存在であること・・・それが俺の『理』だからなァ」


 パークルの眼に新たな火が宿ったように見えた、それだけで夜の海が・・・波がざわめいたようにも感じ取れた





 影は笑った、総ては思惑通りに事は進んでいる・・・


 彼、パークルは理力使いであった父親と母親を、目の前で『理力狩り』の手によって殺された
 その時に父親のパートナーがカブトプスの手によって、彼だけが生き延びることが出来た
 ・・・生き延びた幼き彼が、一族の為に復讐を誓う姿は想像に難くないだろう
 以後、カブトプスと共に修行を積み、誰よりも強い『負の理』を復讐の誓いと共に持ち続けた
 そう、『誰よりも強く、何よりも高い存在となって・・・一族に手をかけた連中をこの手で皆殺しにする為』に
 その為には圧倒的な力が、カントー地方出身最強の理力が『海の理力』を手にする必要があった
 数百年に1人だけ得ることの出来る力、彼がその力を得る可能性は零に等しいものに違いなかった
 しかし、彼はその力を・・・誰よりも強い『負の理』を以て、得ることが出来た
 海の理力を手にした彼は向かうところ敵無しだった、ひたすらに彼は強かった
 誰よりも強く、何よりも高い存在となった彼が残す目的は、もう1つしか残されていなかった


 嵐の海の如く荒れ狂う


 だが、そんな彼の力は・・・・・・既に無意味なものとなっていた
 彼の一族を手にかけた『理力狩り』の面々は次々に逮捕、処刑されてしまったのだ
 何を隠そう、『ポケモン協会』の手によって・・・・・・!
 彼は荒れ狂った、今まで懸けてきた想いを他人の手で果たされてしまった


 これから何を憎めばいい、どうやって俺は生き続ければいい


 一族の復讐に一生分の想いを注ぎ込んだ彼にとって、これは相当の迷いを生んだ
 そして、その行き場の無い矛先が実の大元である『ポケモン協会』に向いていったのも・・・容易に想像がつくだろう


 そんな時だった、影が彼の目の前に姿を現したのは
 影は人目を忍ぶように、厚手のローブを身に纏っていた


 影はそんな彼にグリーンの存在と、『空の理力』の素質があることを告げた
 そして、パークルに「君は彼、グリーンには絶対勝てない」と言った
 「所詮、井の中の蛙・・・君はカントー地方において最強の理力使いでしかない」、そう断言した
 それから、影はグリーンの行く先を教えた・・・・・・その後の行動はまた容易に想像がつくことだろう


 察しの通り、パークルは自身が最強であるという証明の為だけに、グリーンに闘いを挑んだ
 一度は勝ったものの、やはり彼は負けてしまった・・・そう、これも影にはわかっていた





 「(これから、パークルは彼に対して完全勝利を追い求めるようになるだろう。
 『海』は決して『空』に勝つことが出来ない。 それも大いなる理が1つ)」


 そう、パークルはグリーンに決して勝つことは出来ないのだ
 ・・・それこそ、天と地が逆転し、ひっくり返らない限りは


 「(ポケモン協会を相手にするのはまだ早い、そして・・・まだその利用価値が残っている)」


 それにポケモン協会破滅のシナリオは既に出来上がっている
 しかし、それでも彼をあのまま放っておけば、きっと余計な宣戦することだろう。
 まだ早い。 ジョウト地方、オーレ地方の制圧で能力者達が中心の組織が動き始めたことを向こうは知った
 向こうも能力者の怖さを誰よりも理解している、だから未だに彼らは動かないのだ
 それなのに、これからの大仕事の前にちっぽけな存在意義の為だけに更なる不用意な刺激をし、向こうに警戒以上のことをさせるべきではない
 

 「(その為には、彼が最強ではない真実を身を以てわからせる・・・・・・)」


 影自身が力ずくで止めても良かったが、手加減してやっても多分、殺してしまうから・・・同等レベルのグリーンに任せてみた
 それに此方も利用価値は高い
 迂闊に自分より遥かに強い敵と戦わせ殺してしまったり、その理自体を砕いてしまったら大変だ
 何しろ、『楽園の鍵』が1つの力を持っている存在だ、手厚く保護してやらなくてはいけない


 「(これで手駒が1つ増えた、後は心理操作で徐々に導いてやればいい・・・)」


 そう、時間は無いが・・・この僕には永遠が約束されているのだから


 「(・・・『最強の理力使い』か。 くだらない理だ。 一生を懸けるものとは思えない、随分とちっぽけなものだね。
 こんな『理』程度で、『海の理力』に目覚めるとは、よっぽど血筋がいいのか・・・刻が経ちすぎたのか。
 ・・・・・・まァ、それ故に、それだけ扱いやすくもあるんだけどね)」

 「何か言ったか?」


 意外と地獄耳らしい、パークルは不振そうに影を見ている
 それから、パークルは夜の海を見ながら、再び言った


 「海ってやつは、絶対に無くならねぇんだよ。 幾ら叩いても、斬っても無駄だろうが。
 何でも呑み込み、そして受け入れる。 総ての生命の始まりが場所でもある。
 テメェの言葉を借りるなら、確かにでけぇ存在だよ。 なぁ・・・。
 だが、俺はそいつを象徴する力を得た。 ちっぽけな人間である俺が、だ。
 だからこそ、俺は強い。 無くならないのさ、俺は・・・何よりも高く、誰よりも強いからな」

 「ふぅん。 ワケがわからないね」

 「そうだ。 俺はテメェと語り合う為の言葉なんざ、持ち合わせていねぇからな」


 あ、なんか殺したくなってきた・・・・・・長居は無用だな、本当に殺っちゃいそうだ


 「・・・またね。 『パークル・カシイ』」


 影は暗闇の中に紛れるようにその姿を消した、パークルはまた海を眺めた





 ふと、波の音が変わった・・・誰かが真後ろに立ったみたいだ
 この小島を知っている人間と言えば、あの影ぐらい・・・パークルが振り返った


 「・・・んだよ、まだ何かよ・・・・・・」


 言葉が途切れ、口から赤い液体がこぼれ落ちた


 「こんばんは。 “なんちゃって理力狩り”の者ですvv」


 胸から飛び出した赤い青龍刀、いや・・・・・・この赤は己の血の色だ
 それは荒々しく引き抜かれ、パークルががくりと前に倒れた


 「・・・テ・・・メェ・・・・・・」

 「ゴメンゴメン、まだ死なないでね。 ほら、君の理を、力を早く見せてよ」


 パークルの後ろに立っていたのは、ふざけたことを言う背の高い男とまだ小さく・・・虚ろな目をした幼児の姿だった
 不気味な雰囲気をどちらも漂わせていた


 「・・・・・・ヵフっ・・・」


 パークルは再度血を吐きつつ、2人の方を向いて・・・漸く立ち上がった・・・
 “なんちゃって”と言うところは気にくわないが、目の前に・・・・・・一族の敵がいる
 パークルは息絶え絶えにカブトプスを出し、総てを振り絞って言った


 「『イクス・シー・クロウ』!!!」


 カブトプスの刃が超至近距離で動いた、絶対に避けられない・・・・・・!!





 「・・・・・・くすっ」


 虚ろな目をした幼児が笑った、同時にその渾身の力を込めた技は男の持っていた青龍刀で止められてしまった
 こんなことが信じられるはずがない、あんな男の・・・あんな青龍刀が・・・『まもる』に匹敵する程の防御力を持っているとでも言うのか


 「・・・莫迦な・・・」

 「君の理、君の力・・・特能技は確かに見せて貰ったよv」

 「ありがとう、あわれなおにいちゃん」


 2人はパークルの総てを突き放した・・・・・・意識が遠退いていく・・・
 それと同時に、カブトプスやパークルの腰についていたボールにも変化が起きた


 なんと、総ての手持ちポケモンがパークルの指示無しに飛び出したのだ


 「・・・持ち主が死んだ場合、事故などで手持ちポケモンの譲渡が出来なかった場合。
 そのトレーナーの手持ちの総てのポケモンがボールマーカーは破壊され、基本的にはただの野生ポケモンに戻る。
 つまり、最期の置き土産ってわけだ。 待ってたよ・・・」


 2人が解放されたパークルの手持ちポケモンに近づいていく、だが彼らはその2人から逃れる術を知らなかった
 次々にモンスターボールに捕獲されていき、残るはカブトプス1体となった
 カブトプスがザッと踏み込み、2人を恐れ・・・海の方へと逃げ込もうとした・・・が・・・


 「逃さないよ」


 海中からロボットアームのようなものが飛び出し、元パークルのカブトプスが捕獲された
 すると男は黒いモンスターボールをその懐から取り出し、放り投げた・・・・・・
 ボシュッと音がして、カブトプスはそのボールの中に吸い込まれていった


 ころころと転がるボールを幼児が手に取り、もう一度空に放ると・・・カブトプスが当然のように出てきた


 「おいで、ボクのカブトプス」


 男と幼児が海の上を歩き始めると、カブトプスは迷わずその後に付いていった





 つぶやくように、男が言った


 「本当だ。 海は、何でも呑み込んでくれる」


 小島は満潮になったのか、その姿を殆ど隠してしまい・・・・・・





 彼、パークルの姿は海へと消えていった


 「さようなら。 『パークル・カシイ』」


 男は嘲笑った







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