〜能力者への道69・晶覚〜



 記憶がさかのぼる


 「終わったんだね」と告げる謎の影


 闘いに敗したのはパークルの方だった


 グリーンは最後の激突の瞬間に、「空の理力」を手に入れた


 誰も死なせない為の、己の道を行く為に


 パークルとの再戦を未来に見て、小島を後にした


 そして、キワメ婆さんのボロ屋に戻り、1人先へ寝ることを言う


 1人じゃないことを、噛みしめながら・・・・・・今はただ寝る


 一方、パークル・・・この闘いは謎の影の手によるものだった


 パークルは一族の復讐の為に海の理力を得て、その理が故に利用されたのだ


 そうして、影の姿が消え・・・パークルは1人また海を眺め始めた


 その時だった


 パークルの胸に青龍刀が突き刺さる・・・相手の男は“なんちゃって理力狩り”という


 其奴に最後の一撃を・・・・・・しかし、失敗に終わり・・・彼は・・・・・・










 「・・・今度は何を作っとんじぇすかのん?」


 薄暗いアジトが部屋の一室、一種のレクリエーション部屋にて『幹部候補・ゼラ』がそうある男に尋ねた
 その男は、何やら白い粘土のようなものをこねくり回しているのだ


 「ヒ・ミ・チュ」


 そうふざけて言ったのは、同じ『幹部候補』がサックスだった
 それから、見られるのが嫌なのか・・・パパッと素速く片付けをし始めてしまった
 ゼラは「いや、いいんぢぐ」と自分が出ていくことを言うと、サックスは素速くその片付けを止めた 


 ・・・・・・どうも、本当に出て行かなくてはいけなくなってしまったようだ


 ゼラは少々名残惜しそうに、その部屋を出た・・・


 「(・・・『パペットマスター・サックス』・・・いったい、何を始める気じゃさも?)」





 ・・・・・・ ・・・・・・





 「おはよう」

 「・・・あっ、おはようッス」


 清々しい朝を迎え、レッドがゴールドに挨拶をした
 がしがしと歯を磨くゴールドに、レッドは何気ない日常会話を始めた


 「よく眠れたか?」

 「・・・・・・ええ、まぁ」


 何やらゴールドの機嫌が悪いようだ、何かあったんだろうか・・・?


 「どうしたんだ?」

 「どうしたじゃ無いッスよ、先輩!」


 ゴールドが歯磨き粉チューブをぎゅっと握り潰し、文句を言った


 「ええ、あのババァは、確かに字の通りに『軒先を貸し』てくれましたとも!」

 「・・・なら、いいじゃないか」

「良くないッス! これじゃ、野宿と一緒ですって!」


 そうなのだ


 確かに、キワメ婆さんは「軒先ぐらいなら貸してやる」と言った
 だが、空き部屋はグリーンが寝ている所しか無く、他の皆は軒の下・・・外で寝ることとなったのだ
 これでは確かに、ゴールドでなくとも文句を言いたくなるだろう


 「朝っぱらから五月蠅いよ、糞餓鬼共ッ!!!」


 急にボロ屋の扉が開き、ばっしゃーんと思い切りバケツの水をゴールドがかぶった
 勿論、傍にいたレッドはスッと・・・鮮やかにそれを避けたのだが


 「・・・・・・良かったな、ゴールド。 朝シャンの手間が省けて・・・」

「何すんだ、こンのクソババァ!!」

 「フン。 近所迷惑を考えん、アンタらが悪いンじゃよ」


 昨日も同じように水をかけられたゴールドが憤る、この2人は相性が悪いのだろうか・・・


 「おいおい、ボケてんじゃねーのか? このボロ屋の周りを見て、何処に『近所』があるってぇ!?」

 「あ、そうそう・・・お前さん達、これから何処へ行くんだい?」


 キワメ婆さんはゴールドをナチュラルに無視し、隣にいたレッドに訊いた
 その態度に怒りを爆発させ、食い付こうとするのを・・・いつの間にか出てきたグリーンに止められた


 「・・・あっ、ゲームセンター!!」


 急に思い出したのか、半ば怒鳴るようにそう言ったが・・・レッドやグリーンもナチュラルにそれを無視した


 「考えてないです。 次の島に行くのも良いかな、って・・・」

 「そうか。 なら、その前に此処へ寄ってみると良い」
 

 キワメ婆さんがレッドに1枚の紙を渡した、そこにはこの島の住所と簡易地図があった
 それについて訊こうとするのだが、ゴ−ルドがまだじたばたとうるさい
 目障りだったのか、キワメ婆さんが一喝した


 「じゃあかわしい! ただでさえ、静かなこの島が騒がしくなっておるのに!!」
 
 
 そう言ってから持っていた杖でゴールドを叩いた・・・・・・
 そんなことがあっても、レッドもまたナチュラルにキワメ婆さんに訊いた


 「? どういうことなんですか、それ」

 「・・・ああ。 ジョウト地方とオーレ地方が襲われたことは知ってンじゃろ?」

 
 キワメのその言葉に流石にゴールドも大人しくなり、それについての返事を「ああ」と言った


 「でも、オーレ地方ってあんまし聞かねぇッスよね?」

 「ホウエン地方と同じぐらい遠く離れているからな。 馴染みが薄いんだろ」

 「そう、じゃからこそ・・・次に襲われるのはカントー地方だと、本土の連中が騒いでおる。
 ポケモン協会もとりあえず何らかの対策は練っているんじゃろうが、それで混乱が収まるとは思えない。
 そこで一部の連中は、本土から逃れて・・・この『ナナシマ』に逃げ込んで来るんじゃよ」


 成る程、それで騒がしくなった・・・か
 しかし、そうやって全員が逃げ出せるものとは思えない
 『船のチケット』や『レインボーパス』なんかはまだ貴重で、一部の人間しか手にしていないのだ
 そういった船以外の移動手段も少ないし、レッド達のように『なみのり』で来られる人も少ない
 

 「大体、本土(クチバシティの港)から『1のしま』までって、どのくらいで来られるんだっけか?」

 「そうだな、およそ5〜6時間・・・だろうな」

 「案外、速いんッスね?」

 「そうでもないさ。 一日数回も往復しないし、まだまだ不便なのさ」


 それに此方に来たところで、ナナシマ諸島は小さい
 故に人口数が少ないのであり、カントー本土の人間全員が避難出来るものとは思えない
 宿屋も少ないし、ポケモンセンターで泊まり続けるのにも限度がある
 

 「・・・ああ、ギャラは大丈夫かな・・・?」


 ポケモンセンター、なみのりという繋がりでレッドは考えていた
 この3、4日の間で、果たしてギャラは元の状態に戻ってくれただろうか・・・
 心身に出来た傷・・・・・・早々に治るものとは思えないのだが、今日・・・島を離れる前に訪ねなければなるまい


 「(もし、治っていなかったら・・・・・・)」


 レッドはぶんぶんと頭を振って、そんな考えを追い払った
 マイナス思考は厳禁、先を見据えて進んで行かなくてはならない
 きっと、ギャラは大丈夫だ・・・元・カスミのポケモンがあんなにヤワなはずがない


 「(・・・そーいや、カスミはどうしてんだろ・・・?)」


 ジョウト地方のジムリーダーの行方も知れない今、カントーのジムリーダーとして忙しく働いているのだろうか
 そういえば、最近・・・・・・何となく彼女とは疎遠になっている


 ・・・と、1人でトリップしている間に周りの話題はどんどんと進んでいるようだった
 頭の方は追いつかないが、一応・・・カントー襲撃に備えての話らしい


 「・・・・・・ああ、そういえば・・・キワメの婆さん、結局此処には誰がいるんだ?」


 レッドが先程手渡されたメモを指して言った、キワメ婆さんが漸くそれを思い出したようだ


 「あたしの目に狂いが無ければ、アンタらの中に能力者じゃないのが混じっているじゃろ?」

 「・・・あ、ああ。 クリスのことか?」

 「その住所にいるのは、あたし以外で・・・この『2のしま』にいる能力者の店だよ」

 「! まだいたのかっ!」

 
 ゴールドがそう驚いて見せたが、皆はそれをナチュラルに無視した


 「店、ってのは?」

 「つまり、其奴は自分の能力を売り物にしてんのさ。 あたしと其奴はそんなに関わりは持ってないけどね。
 これから先、色んな敵に会い戦うんだろう? なら、少しでも多くの能力者や人に会っておいた方が良い。
 何が幸いになるかわからんし、今後の自身の能力発展・昇華にも役立つことじゃろうて。
 勿論、能力者じゃ無い奴も・・・己を見つめ、能力を目覚めさせる良いきっかけになるやもしれんしの」

 「確かに・・・。 それで、いったい其奴は何をしてくれるんだ?」
 

 グリーンの問いも尤もだ、もしかしてキワメ婆さんの様に特別技を教えてくれるのだろうか・・・?


 「ああ、それは会ってからのお楽しみじゃ。 きぇっきぇっきぇっきぇ・・・」


 キワメ婆さんはそう笑って、ボロ屋の中に戻って・・・内から鍵をがちゃんと閉めてしまった
 ・・・どうやら、グリーンが外へ出たのを機に・・・完全に閉め出したのだ


 「・・・・・・どうする?」

 「どうするも何も、行くしかないだろう・・・」


 グリーンはゴールドを締め付けていた手を離し、皆を昨日と同じように起こし始めた


 ・・・何だか、色んな意味でいつも通り過ぎて・・・





 不安になった


 グリーンのことではない、それ以外の何かが・・・動き始めているような・・・そんな気がした





 ・・・・・・ ・・・・・・

 

 

 キワメ婆さんのボロ屋を本当に後にして、レッド達はその住所の訪ねてみることにした
 レッドはポケモンセンターに寄りたかったのだが、あいにく逆方向らしく・・・先にその店の方を優先させることとなった
 勿論、ギャラが心配なレッドは少々文句を言いたかったが・・・・・・何故か、言えなかった


 そう、何故だろう・・・その能力者に早い内に会っておかなくてはならない
 ・・・・・・そんな気がしたからだった


 「どの辺なんですか?」

 「この辺りのハズ・・・・・・ああ、あれだな」


 イエローに訊かれ、メモを見て・・・レッドがその方向をを指した


 「こっ、これは・・・!!?」


 その先には、その先にあった店は・・・・・・っ!!
 ゴールドはダッと走り出し、皆もその後を追った


 『ゲームセンター』


 ・・・の看板が出ていた、皆はゴールドを止めるべく走り出したのだった
 そして、レッドの『ニドオ』が『あなをほる』によって足止めされた・・・もがもがと穴の中で暴れるゴールド
 最近、遊ぶ機会が少ないわけだし、その気持ちはよくわかるのだけれど・・・ねぇ


 「違う違う。 あっちだって」


 レッドが差す方向をもう一度示すと、その指先はゲームセンターの隣の建物だった
 いや、建物というより個人が一軒家で、とてもじゃないがお店には見えなかった


 「・・・儲かってないんですかね?」

 「どうだろ。 でも、能力者って全体的にビンボーなのかな、あんなことあったし」

 『と、いうより・・・能力者ってもっと隠れ住むんじゃないのかな?
 それなのに、自分の能力を売り物にしてお店なんて・・・・・・』


 シショーがバサバサと羽ばたき、表札の上に止まり、そこから名前を覗き込み・・・・・・それを声に出して読んだ


 『「わざおしえおじさん」』

 「「「「「うさんくさっ!!!!!!!!!!」」」」」

 「類は友を呼ぶんだな・・・」
 

 さらに実際はおじさんの所に赤くバッテンマークが書かれており、その上に「おにいさん」と修正されていた
 ・・・・・・何となく会いたくなくなってきたが、キワメ婆さんの紹介もあって・・・仕方なく、そのインターホンを押そうとした
 ・・・が、インターホンの下に「ご自由にお入り下さい」との紙が貼ってあった


 「誰にでもオープンなんスかね?」

 「さぁ? どうなのかしら」

 「・・・・・・こんにちはー」


 時刻的にはまだ「おはようございます」の方が近いのだが、とりあえずそう言って中へ入った
 家の中は案外綺麗で、その部屋の中心には「おじさん」が座っていた


 「くんくんくんくん・・・いいにおいがするぞ・・・」

 「「「「「「『失礼しました』」」」」」」
 

 皆がそう言って、そのドアをばたんと閉めた
 すると、間一髪も入れずに・・・そのドアが勢いよくがちゃんと開いた


 「酷いぞ、キミ達! どうして、そう言う態度を取るんだね?」

 「いえ、別に・・・帰っても良いですか」


 その生真面目な対応に、中にいたおじさんはショックを受け・・・ずずんと落ち込んでしまった
 ・・・・・・悪い人では無さそうだが、この態度も含めて皆引いた


 どうして能力者(?)にはこういう変人さんしかいないんだろう・・・


 そんなことを思いつつ、そのおじさんの落ち込み振りを見て・・・何だか罪悪感を憶え、とりあえず中へ入ることにした
 流石、キワメ婆さんの紹介だ・・・・・・やっぱりまともじゃなかった・・・





 「・・・とりあえず、挨拶かな。 はじめまして、ワタシは『オシオ』と言います」


 そのおじさんがそう自己紹介すると、案外まともな人に見えた
 レッド達も一応、各々自己紹介しようとしたが、おじさんが制止した

 
 「左からレッド君、ゴールド君、イエローちゃん、シショー、クリスちゃん、グリーン君、ブルーさんだろう?」

 「! えぇっ!?」

 「ど、どうしてそれを・・・・・・まさか、それが能力!!?」


 ゴールドがそう驚いて見せたが、皆はあまり驚いていなかった
 イエローと2人でそれを不思議がっていたが、おじさんの方こそ不思議がっていた


 「・・・キミ達は電話というものを知らんのかね? 今時珍しい・・・それともツッコんだ方が良かったのかい」

 「・・・・・・あ、いえ・・・」

 「あンのクソババァ・・・っ!」


 キワメ婆さんの高笑いが聞こえてくるようだった、最も・・・こんなのに引っかかる方がおかしいのだが
 そんな2人を後目に見つつ、グリーンが訊いた


 「で、此処はいったい、どういう商売をしているんですか?」

 「ああ。 うん、それかい?
 ワタシのだぁ〜〜〜い好きな『キノコ』を持ってきてくれたら、それと引き替えに手持ちポケモンの技を思い出させてあげるんだよ」

 「「「キノコ???」」」

 『キノコって・・・あれかぁ。 「ちいさなキノコ」に「おおきなキノコ」』

 「商売なのか、それって?」


 しかし、よくよく考えてみればこれは便利な商売・・・・・・能力だと思う


 話に依れば、この能力は案外有名らしく・・・世界に5人前後居るという
 それと対をなすのが『わざを忘れさせる』能力者とらしい、この能力も同じ人数だけ居るそうだ
 また能力の効果的に説明すれば、『何かと引き替えに、相手の手持ちポケモンの技を思い出させてあげる』のが基本だそうだ
 これは発動型に近いが、基本的に見れば『条件型』に属するようだった


 「・・・で、キミ達は何か思い出させたい技はあるのかい?」

 「う〜ん、そうしたいのは山々なんだけど、キノコが無いからなぁ」


 そう言うと、「じゃ、技を思い出させたかったらキノコを集めてきてね」と、あっさり見限った
 レッド達も、これ以上此処にいても時間の浪費だと・・・そう思い、挨拶をして出ていこうとした時だった


 「くんくんくんくん・・・やっぱり、いいにおいがするな」


 と、おじさんがまた変な行動を取り始めた
 皆は無視しようとしたが、いつの間にか目の前に回り込まれ、1人1人素速くにおいを嗅ぎ回った
 明らかに変態行為だが、それもある人物の前で止まった


 「・・・・・・うん、においの元はキミだね。 ワタシは鼻が良いんだ」

 「わ、私ですかっ!?」


 クリスは驚き、そして傷ついた・・・・・・
 皆もそれを非難したが、おじさんは一向に気にしない


 『・・・あ、クリス。 もしかして、パラセクトじゃない?』


 シショーの言葉に皆が「あっ!」と気がついた、確かに背中にキノコが生えている
 しかし、モンスターボールの中からでもにおいがするのだろうか・・・
 そう思いつつもクリスは腰のボールを取り、おじさんに差し出してみた


 「・・・んーん、違う違う。 この子じゃなくて、キミ自身」

 「・・・・・・」

 「変態」

「最低」
 
 「酷いです」

 
 皆が口々にそう言うと、流石におじさんも反論した


 「違う、断じて違うっ! ワタシはただね、この子からワタシと同じにおいがするって言いたいんだよ!」

 「やっぱり変態じゃないの」

 「何か、シャンプーかリンスが同じ銘柄なのか?」


 がくぅっとおじさんが項垂れた、あまりにも扱い方が酷い・・・そう訴えた
 まぁ最も、あんな初対面じゃ無理もないのでは・・・と思うのだが


 「・・・・・・ええと、ちょっと待てよ? もし、仮にそうじゃないとしたら・・・」

 「そうだよ、彼女はワタシと同じ能力者になれる素質があるって言いたいんだよぉ!!」


 沈黙


 沈黙


 沈黙


 沈黙


 沈黙


 沈黙


 そして、絶叫


 「「「「「『え、ええぇええぇえぇぇええええーーーーーーッッッ!!!!!!??????』」」」」」

 「全く、話を聞いてくれないから・・・」

 「そういう問題じゃ無いと思うのだがな」


 ・・・・・・皆が一通りの絶叫を終えると、今度はその真義を問う為のおじさん詰問責めとなった
 だが、それらをシショーとレッドが抑えると、クリスに言った


 「・・・オシオおじさんはそう言っているみたいだけど、クリス自身に心当たりは無いのか?」

 「えっと・・・無いです。 初耳です」

 「そりゃそうだよ。 この手の能力は同じ様な能力者に導かれて、目覚めるものだからね」


 おじさんもまた、同じように・・・こうして、この能力を得たのだと話した
 またそうやって導かれる人は数少なく、実際はもっとこの能力に目覚める人がいるはずだと語った


 「でも・・・同じ能力者同士は惹かれ合うからなぁ。 もしかしたら、ワタシとクリスちゃんの出会いは必然だったのかも」

 「え、てことは・・・・・・私も能力者になれるんですか!?」


 クリスは興奮気味に訊いた、それは周りを少し驚かせるぐらいに
 それもそのはず、クリスは誰よりも劣等感を抱いていたのだから・・・・・・


 仲間の内でたった1人だけ、能力に目覚めていないことを
 周りの闘いはどんどんレベルが高くなっていくのに対して、やがておいていかれるのでは・・・という恐怖
 足手纏いになり、皆に命の危険を・・・・・・そうなる前に見捨てられてしまうかもしれない


 何よりも、誰よりも恐かったのだろう・・・


 クリスの剣幕にやや引いたが、おじさんはにやりと笑ってみせた


 「勿論だとも! それにキミはワタシを越える能力者になるに違いない!
 なにせ、いいにおいがするからね!!」

 
 自信たっぷりにそう言うおじさんに、ゴールドがぼそりと「やっぱただの変態だろ」と呟いた
 それからクリスは「どうやったら、その能力者になれるんですか!!?」と興奮気味にまた訊いた


 「自覚、想像、覚醒は同じ能力者に導かれながらやれば、ものの15分で終わるよ」

 『凄いじゃないか。 それって・・・』

 「じゃ、じゃあお願いして良いですか!!?」

 「いいとも。 じゃ、余計な邪魔が入らないように2人っきりでやろう」


 おじさんがクリスを奥の部屋に誘導するか、周りの皆を一旦追い出すかと話すと・・・皆が普通の声で言った


 「あ、変態にクリスがさらわれていくわよ」

 「クリス、気をつけろよ」

 「失敬だね、キミ達はッ!」





 ・・・・・・ ・・・・・・





 クリスが奥の部屋に入ってから、5分が経過した
 他の皆は奥の部屋のドアに耳をぴったりとくっつけ、中の話し声を聞き取ろうとする者
 出されたお茶とお菓子をぼりぼりと食べる者、うつらうつらと睡眠を取ろうとする者に分かれていた


 そして、10分になるかならないかの所で、おじさんとクリスががちゃりと奥の部屋から出てきた
 その際に、開けたドアに顔の側面を思い切りぶつけて・・・床に何人かが転がっていたりしたが


 「・・・いやー、彼女は素晴らしい。 最高にのみこみが早かった!
 うん、最高の『技思い出させ師』になれるよっ!!」

 「あ、そのネーミングはちょっと・・・」


 クリスが苦笑いすると、おじさんが「え〜っ?」と不満を漏らした


 「イイ名前だと思うんだけどな。 だって、ポケモン協会も認めているんだぞ?」

 「何だって!!!?」


 皆がいっせいに大声を上げた、おじさんはビクゥッとその恐ろしい剣幕に脅えた


 「何で?? 能力者の全面的禁止は・・・!?」

 「どういうことだよ、おっさん!」

 「あわわ・・・そう言われても・・・」


 ゴールドに胸ぐらをつかまれ、すっかりおじさんは縮こまってしまった
 その状態で、指である方向を示して見せた


 そこには『ポケモン協会認定職業・技思い出させ師』との認定書が黒縁の立派な額に納められていた
 ゴールドはがたんとおじさんを放り捨て、皆もそれをじっと眺めた
 日付は・・・・・・最後の更新が9年前となっている、資格取得日は15年前とある


 「・・・莫迦な、ポケモン協会が認めているのか?」

 「偽造の類じゃ無さそうだけど・・・・・・」

 「本当にワケわかんねーよ、ポケモン協会って何考えているんだ!?」


 おじさんはぽかんとしている、そして「資格があるって知らなかったんだ、だから15年前に申請も兼ねて貰ったんだよ」と言った
 能力に目覚めたのはそれ以前・・・20年前ぐらいだと語ると、余計にわからなくなってしまった
 ゴールドが再びおじさんに攻め・・・詰め寄ると、おじさんも後退った


 すると、おじさんの天の助けか・・・・・・誰かが慌ただしくこの家の中に入ってきた


 「た、たたたたったた・・・大変なんだ!」

 「おお、隣のゲームセンターの主人じゃないか!」


 おじさんはさっとその人の前に逃げるように立つと、いきなりぺらぺらと喋り出した
その内容はレッド達や主人には本当にどうでもいいもので、しかもかなりマイペースに話している
 その為、後ろでジタバタと大変な事情の説明もままならず、その本人はやきもきしていた


 ・・・およそ3分後、話が刹那の瞬間だけ途切れた時だった
 その瞬間を逃さず、おじさんの説明に割って入った


 「大変なんだっ! アンタ、ウチのマヨを知らないか!?」

 「マヨちゃんって・・・」

 「ん? あの子がどうしたって?」

 
イエローはその名に聞き覚えがあった、そうだ・・・4日ぐらい前に船乗りのおじさんから聞いた名前だ
 確か、毎日『3のしま』からお父さんに弁当を届けにくるって・・・


 「そ、それが・・・来ないんだよッ! いつもなら来てるんだ、なのに・・・来ないんだよッ!!」

 「・・・なんだって?」

 
 主人の顔は真っ青で、がくがくと震えている


 「最近、3のしまは暴走族がいて治安も悪いし、今まで不安だったんだ。
 それで、それで・・・・・・昨日の昼にきのみを採りに行くって、外出したきり・・・帰って来ないんだ!!」

 「!」


 おじさんとイエローの顔色が変わった、あのマヨちゃんが・・・行方知れず!!?


 「船乗りのあんちゃんも、不思議がってて・・・大方、シーギャロップ号の方に乗っているんじゃないか、って。
 もしくは、其方の家に泊まっているんじゃないんですか、と・・・。 とんでもない話だよ!
 もしかしたら、『きのみのもり』の野生ポケモンに襲われたのかもしれない!
 もしそうなら、私じゃ向こうに行っても・・・・・・いや、行かなくてはぁぁあぁあ・・・ッ!!」

 「落ち着くんだ。 それで、乗客名簿は?」


 おじさんの言葉に、主人はがくがくと震えたまま・・・・・・首を横に振った
 イエローが「大変じゃないですか!?」と叫んだ

 
 「イ、イエロー・・・知ってるのか? 知り合い??」

 「はい、この前話した船乗りのおじさんに話を聞きました」

 「おお、マヨォオォオオォオ・・・」


 主人はイエローの話を聞くと、がくりと項垂れ・・・泣き崩れてしまった
 そして、皆もまた・・・イエローの話を聞いていると、とても他人事とは思えなくなっていた


 「行きましょうッス! そのマヨちゃんを捜しに!」

 「そうだな。 ちょうど、俺達も3のしまへ行く予定だったんだ」

 「本当ですか!?」


 主人ががしぃっとレッドの両肩を思い切りつかんだ、泣き顔で迫られる・・・


 「本当のことだ。 しかし、シショー・・・『3のしま』まで『なみのり』でどれ程かかる?」

 『うーん、この辺りの海流は今までの比じゃない。 早くても3時間・・・』

 「それじゃ遅すぎるわよ!」

 「シーギャロップ号なら、30分で行けるはずだ!」

 主人が「だから、私の船のチケットをやる!! だから、だから!!」とレッド達に嘆願した
 すると、クリスが言った


 「いえ、私持ってます。 船のチケット・・・この前ニシキさんに全員分貰ったのが・・・」


 皆はその言葉に飛びつき、主人は土下座をして頼み込んだ


 「お願いします、お願いしますっ! お礼は何でもします、何でもしますからぁあぁ・・・」

 「いりませんよ、そんなものは」

 「そうそう、正義の味方がゴールド様達にお任せあれ!」 


 皆が口々に慰め、レッドは素速くポケモンセンターに向かった
 勿論、ギャラの状態を訊きにいく為である・・・他の皆とは船着き場で合流すると言って


 「ワタシや主人も行きたいのだが、マヨちゃんが見つかったときのためにも、此処から離れられない」

 「ふ、船はもうすぐ出発するはずです! 急いで・・・ッ!!! お願いします!」

 「安心しろ、必ず捜し出すからな・・・」

 「見つかったら、連絡します。 だから、ポケギア番号の登録を・・・」


 主人とおじさんのポケギア番号を登録すると、シショー達は急いで3のしま行きのシーギャロップ号が停泊している船着き場に向かった





 いざ、3のしまに・・・!!







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