〜能力者への道73・儚詩〜
『幹部候補・マストラル』の再登場、そんな彼の任務は『伝説のポケモンを1体確保すること』
子猫ちゃん達に会いに行けない為、というか会いに行こうとしたら上の者がこの任務を彼に押しつけたのだった
勿論、やる気が出るはずもなく・・・部下2人がため息を吐く
ぶつぶつと文句ついでに離される、組織内での昇格方法
それで思い出されるは、組織強制脱退した最強の『幹部候補・ジン』
それと、彼に次ぐ実力を持った幻の『幹部候補・ガイク』
栄光の幹部への道を突き進んだ彼は、何故辞めてしまったのか・・・そう部下2人は悔やんでいた
一方、クレアとシショーの新コンビVS日本人形みたいな女の子とダグトリオ!
完璧にバトル初心者なクレアに対し、その女の子は攻撃を止めない
しかし、クレアの反撃は衝撃的なものであって・・・シショーも実は強くて
だが、この戦いは地面に埋まった皆を人質にしている女の子の方が有利で
そして明かされる、クレアの正体は・・・・・・手持ちポケモンを持たない能力者!?
・・・クレアのピンチに、漢・ゴールドが復活した!
「・・・どうしてなの」
首から下までが完全に埋まっていたはずのゴールドが、何故か其処から這い上がってきたのだ
クレアは足を負傷し、シショーも一時ダウン・・・頼れるのはもう彼だけか
「愛というより、ポケモンの力だな」
グリーンがぼそっと呟くと、当のゴールドは「そこ、ツッコミ禁止」と勢いよく言った
そう、これはゴールドの愛の力ではない
彼の全身が完全に地上に出ると、その全貌が明らかとなった
なんと、ゴールドは何かに担がれていた・・・いや、ウーたろうに肩車されていたのだった
・・・恐らく、穴に落ちた時にそのボールが腰から外れ・・・何かの拍子で開閉スイッチが押されたのだろう
「大丈夫か、クレア?」
「はい。 えっと・・・足はまだ動きませんけど」
それは、大丈夫とは言わない
・・・・・・それにしても、クレアが能力者だったなんて・・・未だに信じられない
記憶を無くしてしまったから、力の鱗片さえも出せなかっただけだったのか
それで・・・だから、使役されたシショーも強くなって・・・っと、忘れてた
「・・・そういや、シショーは?」
『目が痛い』
「飛行ポケモンだろ、なんで『じめん』タイプの技が当たんだよ」
シショーが『知らないよ、そんなの』と言った、知っとけよ・・・そのぐらい
しかしまぁ、何と言いますか・・・それが、女の子の能力なのかもしれないが
なら早い内に、皆を穴から救い出してあげないと・・・皮膚呼吸が出来なくなって、窒息してしまう・・・らしい
それなら、手っ取り早く・・・・・・能力や特能技の扱う本人を倒せば良いのだ
「・・・さぁて、選手交代といこうかァ!?」
穴から完全に抜け出し、ウーたろうから降り立ち指をぼきぼきと鳴らしながらゴールドはそう言った
女の子はぎろりと睨んで、やる気満々な彼に言った
「そんなの、反則なの。 なんで、あなたと戦うの」
「知るか。 つーかよぉ、不意打ちばっかりしてくる能力者に『反則』なんて言われたかねぇよ!」
女の子がうっとたじろぎ、それから大声で叫んだ
「いいもの! だったら、もう一度『じしん』で・・・」
その瞬間だった
風が、吹いた
風が、女の子に向かって吹き抜けた
「遅ぇよ」
技の指示も間に合わず、ダグトリオにウーたろうの強烈な『ばくれつパンチ』がまともに入った
・・・それこそ気絶はしなかったものの、もう戦える状態ではないのは明白だった
「(・・・なんて早いの)」
だから、こんな風に戦いたくなかったのに
だから、『あなをほる』で不意打ちをしたのに・・・・・・
「終わりか?」
「・・・・・・う」
「んじゃ、お仕置きタイムだな」
女の子が一歩、じりっじりっと下がると・・・同じくゴールドとウーたろうもその間合いを詰める
じりっじりっじりっじりっじりっと・・・女の子が段々と追いつめられていく
「・・・・・・うー」
女の子の表情が変わり、何だか泣き顔になってきた・・・しかし、ゴールドは凄むのを止めない
そんな時だった
「ちょっとタンマ、ゴールド」
レッドがふいにそう言い、ゴールドの動きがぴたっと止まり・・・振り返って訊いた
「何ッスか? 今、イイトコなんですけど」
次の瞬間、ゴールドはぎょっとした
何故なら、レッドがゴールドと同じ様に埋まっていたはずの地面から這いだしてきたからだ
しかも、ポケモンも何も使わないで・・・・・・莫迦力にも程がある
「・・・ふー、疲れた」
「嘘でしょ、ねぇ・・・」
「・・・・・・」
穴から無事に這い出したレッドが腕や肩をぐるぐると回し、その身体をほぐすと・・・女の子と向き直った
それから、ゴールドと同様にスタスタとその方へ歩いてきた
女の子はぐっと身構え、怯えた表情でそんな2人を見た・・・
すると、レッドはしゃがみこみ・・・女の子と同じ目線でこう言った
「キミ、能力者じゃないだろ」
皆の目が点になった
次の瞬間、「え〜〜〜〜〜っ!?」と叫び声を上げた
「どうなんだい?」
「・・・・・・」
女の子が泣きそうな表情で、こくりと頷いた
だが、周りは納得がいかない
「先輩、それ納得いかないッス!」
「なら、訊くけどさ・・・この子が、能力者に見えるか?」
ゴールドはその女の子を凝視し、泣き顔な彼女に罪悪感を憶えた
「・・・・・・見た目じゃわかんないでしょーが!」
「そうだな。 じゃあ、雰囲気とかは? 一度でも、能力を使ったか?」
「俺達、穴ン中に落ちました」
「そりゃ、『あなをほる』で作ったトラップだろ。 俺達が、勝手にハマっただけだ」
確かに
「シショーが『すなかけ』に負けました」
「理屈じゃそうだけど、実際・・・鳥ポケモンの目に砂やゴミが入らないと思うのか?」
・・・・・・確かに
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!?? んじゃ、この子はいったい何なんッスか!?」
「それを、今から訊くんじゃないか」
レッドがもう一度女の子の方に向き、優しい声で訊いた
「どうして、俺達を狙ったんだ?」
「・・・あなた達を捕まえれば、お給料が上がるからなの」
「きゅ、給料!!?」
「うん。 あれ? お給金の方がわかりやすかったの??」
「・・・いや、変わらないから、大丈夫。 んじゃ、それは誰に言われたんだ?」
核心をついた質問だった、女の子は迷いながら言った
「禿げたピエロさんに言われて・・・その時、白い飴細工ももらったの。」
「なんだ、結局ガキだな」
ゴールドがそう毒づくと、女の子が「ガキじゃないもの!」と反論した
そんな2人をレッドはなだめながら、彼はそっと『ニョロ』を出して・・・皆を穴から引っ張り出すように言った
「・・・・・・キミも、組織の一員なのか? 能力者じゃないのに?」
「だって、候補生だもの。 能力者になれるか、今はわかんないんだもの」
「候補生? 成る程・・・能力者じゃなくても、組織に入れるんだな?」
「うん。 素質や見込みがあれば、大抵は入れてくれるけど・・・でも・・・」
「ふーん、そっか。 だから、あんな不意打ちをしたのか。 真っ正面からじゃ、俺達には敵わないから」
女の子は素直に頷いた、無謀とも言えなくもないが・・・頭は良いようだった
やがて、穴に埋まっていた皆を無事に引っ張り上げると、女の子は漸く気づいたようだった
「・・・あ」
「ごめんな。 でも、俺達も何もしないから・・・な?」
女の子は今度は自分が不利になったことを理解した、確かに卑怯かもしれないが・・・それは此方が先にやったことだ
ブルーやイエローは足が完全にハマっているクレアを助けるべく、一所懸命にどうするか画策した
下手すれば、白く細い足が折れてしまうだろうから・・・
ちなみにシショーは、乱暴ながらグリーンのゴルダックが『ハイドロポンプ』で目の砂を落とした
今度は別の理由で、シショーは『目が痛い』と絶叫したのだった・・・
「・・・んまー、つまりガキのお使いってことだな?」
「ガキじゃないもの」
「いーや、ガキだね」
「違うもの!」
ゴールドと女の子が同レベルの口喧嘩を始めてしまった、レッド達はそれを呆れて見ていた
かなり大人げないことだが、ゴールドはその女の子を口攻撃するのを止めない
命令されてやったとはいえ・・・クレアを攻撃し、あんな目に遭わせたのが許せないのだろう
女の子の表情が泣き顔から、段々と怒りのものとなってきた
ふいに、ダグトリオが動いた
「あなたは嫌いなの。 『きりさく』!!」
その標的はゴールドだった
その目の前に立っていたのはクレアだった
彼女の腹に、『きりさく』がめり込んだ
「なっ・・・・・・!?」
「クレア!?」
「こンのクソガキが!!!」
クレアが、そのまま崩れ落ち・・・倒れた
ゴールドの剣幕に女の子がびくっと怯え、だがやがて・・・彼女が光に包まれていく
間違いなく、『テレポート』の光だ・・・ゴールドがつかみかかった瞬間だった
「べーっだ!」
「待て、このクソガ・・・」
あかんべーをしながら、女の子とダグトリオの姿が消えた
最後の最後に、大変なことをやってくれたものだ・・・すぐに倒れているクレアにゴールドは傍に寄った
「大丈夫か? 傷は? 痛まないのか??」
「・・・・・・はい、全然」
その声には張りがあり、命に別状は無さそうだった・・・皆がほっと安堵した
それにしても驚いた、足が完全に地面にハマっていたのに・・・こうしてゴールドをかばうのに、ぎりぎりでも間に合うだなんて
そう、その点から考えれば・・・足の怪我も大したことはなかったらしい
それにあのダグトリオは体力の気力もゼロに等しかった、だから『きりさく』の威力も『ひっかく』以下に落ちていたのだろう
不幸中の幸いだが、それでも早くポケモンセンター・・・いや、病院に行って足の怪我と共に治療をしてやらないと・・・
「・・・クレアさん、その足は何なんですか・・・?」
イエローの声が震えている、それにしても・・・何だろう、そのセリフは
ゴールドはそうして、その足の方にふと目を向けた
背筋が凍り付いた
「・・・・・・クレア・・・?」
その足は、その足首から先は無く・・・いや、陶器やガラスのように欠け割れていた
そして、血も何も全く流れ出してこなかったのを見て、ゴールドが彼女を抱きかかえた
「ゴールドさん、ごめんなさい。 ・・・・・・全部、思い出しました」
「は、何を何言ってんだよ。 足、どうしたんだよ。 は、早く病院に・・・」
クレアは静かに、首を振った
「治療なんていらないんです。 だって、私は・・・」
愛だって 夢だって
私は あなたが傍に居るだけで 充分なの
「・・・あの人に作られた、人形だから」
皆の居る空間に亀裂が奔ったようだった
「・・・・・・だから、何言ってんだよ。 クレア」
わからないでしょ そんな気持ち
伝わるかな 伝わっているよね きっと あなたになら
「私は、『みがわり』っていうポケモンの技で生み出される人形3つ分から、あの人に作られた存在なの」
あの人の能力は『みがわり人形の形や大きさを自在に変えることが出来る』というもの
その人形は本来の効果、相手のポケモンの攻撃を変わりに受けたり引き寄せたりするだけではない
・・・『ピッピにんぎょう』ように野生ポケモンをひきつけたりもする
また、ある程度の微弱な意思を人形に持たせることも出来る・・・あの人の『パートナーポケモン・スリーパー』によって
「この名前も、この姿も・・・本当は、あの人が見た別の人のものなの。 私は、その人のコピーだから」
ふっと彼女が微笑むと、ゴールドは叫んだ
「関係無ぇだろ! クレアはクレアだ!!」
だから 離れないで 離さないで
私は あなたの心を 受けとめていたいから
「でも、私は此処から先はついていけないもの・・・」
ゴールドははっと顔を上げると、そこにはレッドが居た
そして、その手には・・・・・・
「キミのチケットだ」
クレアの目が見開かれ、そして・・・涙が流れた
「・・・嬉しい」
ああ、でも・・・・・・
「・・・もう、受け取る為の手が無いみたい・・・」
淡く、彼女の身体が光り・・・輪郭が朧気になっていく
皆はがんっと頭を思い切り叩かれたような衝撃を受け、イエローはもうすでに涙ぐんでいた
人は夢を見るって 追いかけるって
だけど それを “儚い”なんて 嘲笑わないで
私は あなたの傍に 在り続けていたいから
「それに、私は足手纏いになるもの。 だって、ポケモンが・・・」
『ここにいるよ』
クレアの視線が、その声の方に向いた
『僕が、キミのパートナーになろう。 それとも、僕じゃ役不足かな?』
彼女は首を横に・・・・・・振った
「・・・・・・ありがとう」
花は散るからこそ 美しいって 言うけれど
ねぇ 花が散る瞬間は 美しくなんかなかったよ
そう 私も そんな風に見えているの
「でも、私は・・・・・・」
「クレアっ!!」
「クレアさんっ!」
「クレア・・・」
「しっかりしなさい、クレア!」
「クレアさん!!」
『頑張って!』
欠け砕けた足の方から、徐々にその姿が消えていく
霧のように、後には何も残らないで・・・
「・・・もう、駄目・・・・・・みたいです・・・」
私は、みがわり人形3つ分の特製品だから…3回までその身にポケモンの攻撃を受けても平気だった
1回目は、昨夜森で、『ねんりき』で頭を打った時・・・その自身の正体も忘れてしまった
2回目は、さっきの『じしん』で。 足の震えがその後も止まらなかったのは、きっと次で終わりだっていう警告
3回目は、ゴールドをかばって受けた『きりさく』、威力なんて関係無い・・・ポケモンの技という時点でアウトだった
「私を・・・作った、あの人の能力名は、『アート・アート・ピエロティック』・・・。
通称『パペットマスター』が『幹部候補・サックス』・・・様の、と・・・・・・」
「莫迦野郎! 誰も遺言大会なんて開催した憶えはねぇよ!!」
彼女は、ちょっと驚いた顔になった
「いいか? こんな、こんな所で消えたらなァ・・・俺は、俺はお前のこと・・・」
花が地面に落ちて 無惨に踏みにじられた瞬間は
ねぇ なんだか哀しいぐらいに美しかったよ
そう 私は あなたが居るだけで・・・・・・
「また、いつか・・・・・・」
あまりに呆気なく、総てが消えた
徐々に消えていった身体が、一瞬にして残りの身体が消え去った
後には服も残らず、彼女の表情も何も・・・別れというには似合わず、唐突すぎて・・・・・・
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
『・・・・・・ぁ』
「・・・・・・あ」
「クレアぁあァアぁぁぁあぁァァあぁアぁぁァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」
愛だって 夢だって
私は あなたが居るだけで 充分なの
だから 離れないで 離さないで
私は あなたの心を 受けとめていたいから
人は夢を見るって 追いかけるって
だけど それを“儚い”なんて嘲笑わないで
私は あなたの傍に 在り続けていたいから
花は散るからこそ 美しいって 言うけれど
ねぇ 花が散る瞬間は 美しくなんかなかったよ
そう 私も そんな風に見えているの
花が地面に落ちて 無惨に踏みにじられた瞬間は
ねぇ なんだか哀しいぐらいに美しかったよ
そう 私は あなたが居るだけで・・・・・・
ゴールドの掌の上には、最早・・・何の重みも感じなくなっていた
それから、かしゃんとものが落ちるような軽い音がした
彼の横から、その音の元をグリーンが地面から拾って見せた
「・・・盗聴器に隠しカメラ、集音器・・・か」
「じゃあ、何ですか・・・・・・彼女は、私達の偵察のた・・・」
「言うな・・・それ以上は」
『そうだよ。 クレアは・・・』
「クレアは、クレアでしょう・・・・・・?」
ぼろぼろと今更ながらに、涙が溢れ・・・彼らの心に大きな傷を、喪失感を生み出した
あんなに短い間しかいなかったのに、あんなに楽しそうに笑っていたのに
ゴールドは、何も言わなかった
ふと、彼は自身の膝元を見た
達筆な筆文字で書かれた文字と、下手くそなピエロのイラストが描かれた・・・メモ用紙が落ちていた
その不要な機械と共に、彼女の身体の中に埋め込まれていたものか・・・・・・拾い上げ、その文字を読み上げた
そこには、こう書かれていた
『面白かったぁ?』
ゴールドはぐしゃりと紙を握り潰した
・・・『パペットマスター・サックス』、テメェだけは・・・絶対に許さねぇ・・・!!!
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