〜能力者への道74・警色〜




 漢・ゴールド復活!


 ついに追いつめた能力者、皆を穴から解放しろ・・・と思ったのだが


 レッドの、「キミ、能力者じゃないだろ」発言に絶叫


 話に依れば、はげたピエロに言われて来たらしい


 そして、レッド達を捕まえれば給料が上がるからだという


 無駄に現実的な話なのだが、話している相手が・・・・・・やや問題ありか


 ゴールドはクレアを傷つけたのが許せず、女の子を糾弾


 彼女は怒り、ゴールドを攻撃・・・間にクレアが割って入る


 悲劇


 クレアの正体を知った時、もう既に時は遅かった


 誰を恨めばいいのだろう、結果的に最後の攻撃をしてしまった女の子か


 いや、違う


 総ての元凶が『パペットマスター・サックス』・・・絶対に許さない!!







 


 「・・・すみません、また連絡が遅くなってしまって」

 『いや、いいよ。 マヨから話は聞いているからね。 襲われたんだって?』


 レッドは「ええ、まぁ」と曖昧に答えた、・・・そうとしか言えなかった


 『何があったのか知らないけれど、キミ達も無事で良かった』


 心が、痛んだ


 『・・・そういえば、マヨと一緒に居たっていう女の子なんだがね・・・』


 会いたいんですか?


 「彼女は、やむを得ない事情で一旦実家に帰ったんですよ」

 『え? マヨの話じゃ、記憶喪失だったんだろう??』


 会えませんよ


 「はい。 でも、あの後身内の人が捜しに来ていたんですよ。 それで、泣く泣く別れました」


 ・・・・・・身内、か


 『・・・そうか。 それは残念だな。 是非、お礼の言葉を彼女にも、と・・・』

 「本当にすみません。 向こうによると落ち着くまで、此方から連絡も出来ないんです。
 ・・・昨晩の電話、代わってあげていた方が良かったですね」

 『いや、うん・・・そうかな。 ああ、でもキミ達にもきちんとしたお礼がしたい。
 これから、2のしまに戻ってくるんだろう?』

 「いえ、なんだかマヨちゃんや彼女の身元がわかって・・・皆、安心したんですね。
 ちょっと、旅の疲れが出てしまって・・・全員が微熱出して、ダウンしてます」


 本当は、ベッドで布団を被っているだけだけど


 『大丈夫なのかい!??』

 「はい。 大したことは無さそうですけど、でもやっぱり大事をとって・・・今日はもう休むことにしたんです」


 そうすることで、逃げたかったのかもしれない


 『そうだね、その方がいいかもしれない。 じゃあ、回復したら是非、また2のしまに寄ってくれないか。
 あの後、キミ達がどれだけ凄い一行だったのか知ったんだよ。 
 ねぇ、リーグチャンピオンのレッド君?』


 その称号で、目の前にある失われていくものを救えるのだろうか


 「どうも。 でも、お気遣いは無用です」

 『いやいや、それは此方が困るな。 っと、長電話すまないね・・・お大事に』


 レッドはもう一度謝罪の言葉を述べ、ポケギアの電源を切った
その画面に現在時刻が表示されるのを見た、午後3時46分だ





 ・・・・・・あの後、レッド達はもう一度『きのみのもり』へと足を踏み入れた
 目指す場所は森の最深部、クレアと出会った場所
 其処に彼女が遺した何の温かみもないものと、クレア名義に書き換えられたふねのチケットを埋める為に
 片道2時間前後、それだけかけての用件はそれだけだった、そう・・・それだけだった
 誰も、労力や時間の無駄とは言わなかった
それは当然だったのだろうか、いや・・・何か違う気もするのだ・・・


 レッドは顔を上げると、ぐらりと頭が揺れた
 額に手を当て、ふらふらと割り当てられた部屋の中に入った
 

 「(・・・マジで熱があるっぽいな)」


 本当はきのみのもりに入る前に、電話をすれば良かった
 しかし、頭はそこまで回ってはくれず・・・おまけに、したらしたで支離滅裂な会話
 ・・・・・・そして、マヨちゃんに、主人は何て言ってくれるのだろう
 多分、嘘はバレているだろうから・・・・・・あんな下手くそな嘘、見抜けない大人がいるはずがない 


 マヨちゃんの大好きな「おねえちゃん」は、もうこの世にいないんだって、ことを・・・さ


 ぼすっと清潔なベッドの上に倒れ込むと、レッドはそのまま身体ごと預け沈んでいくままにした
 虚脱感と喪失感、身体が重く・・・柔らかい布団が口にかかる所為か、息が詰まる
 そして、詰まりかけた息で温まった布団が、またその自身の口を押さえ続けた


 多分、皆も同じ感じで・・・こんな風に眠りに就こうとしているのではないか


 「(・・・・・・疲れた)」


 ただ、疲れたのだ・・・何かに、何かに


 ・・・彼女と過ごした時間は、正確にはたった1日にも満たなかった
 そう思うには短すぎる友情、薄すぎる愛情・・・・・・そんな風に言わないでほしい


 ただ、重かったのだから


 「(俺達は、結局子供なんだ)」


 クレアが消えるということを、きちんと受けとめていれば
 それが現実なのだと、きちんと受けとめていれば
 心中で、何処か嘘や幻影だと否定し続けていた
 

 もし、総てを受けとめることが出来ていたら
 彼女の、望むべき別れというものを叶えてあげられたかもしれない
 なのに、なんて間抜けな・・・・・・子供だったのだろうか


 それに・・・


 「(・・・動きすぎてる)」


 ここ数日間で、レッド達の身辺は大きく動き始めた


 その始めはそう、一行分断の上に孤島での1対1のポケモンバトル
 そして、それの結末は・・・3日後、シルバーの行方不明

 それから、組織と全くの無関係とは思えない『海の理力使い・パークル』の襲来
 そこで知ったのは、ポケモン協会と能力者との関わりの一部

 ・・・・・・更に、マヨちゃんを捜しに3のしまへ・・・そうして、クレアとの接触
 間違い無く、組織の手による工作や作戦だった・・・


 「(・・・動きすぎてる、よな?)」


 これだけのことが、わずか6日間で起きるとは・・・・・・いや、むしろこんなものかもしれない
 だが、これは組織が意図的にやっていることなのだろうか
 もしそうならば、明日で7日目・・・あの日からちょうど一週間になる
 キリのいい数字だ、大きな何かが本当に・・・明日、起きるかもしれない


 「(・・・ははっ、考えすぎだよな。 あれか、この熱は知恵熱か)」


 苦笑どころか知らずに嗚咽が漏れた、何故だろう
 ・・・つらいのだろうか、何かが・・・それとも、悲しいのだろうか
 まるで鉛の呑み込んだかのような、いや自身の総てが鉛となって・・・暗い海に沈んでいくイメージが生まれた
 

 ・・・・・・レッドは眠りに就いた


 今日だけは、と・・・布団と何かに甘えながら




 
 ・・・・・・皆は眠りに就いた









    
 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「こんばんは。 ポケモン協会会長さん」


 誰もいなかったはずの部屋の中に、字の通り・・・青年が現れた
 そして、ようやく警報機が鳴り響く
 ・・・ただし、この部屋に対してのものではなかった


 「・・・・・・」





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・


 


 3分だけ、話を・・・時を戻そう





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・




 
 「うげっ、もう12時前かよ! スゲ眠っ! マジキツっ!」

 「もうすぐ日付が変わる。 そしたら、巡回の時間だ」

 「今の内に、残業・宿直者チェックしておきます」  


 眼鏡をかけたお約束的な顔をした警備員が、かちゃかちゃとパソコンをいじり始めた
 その後ろには年輩の男性と、髪を染めたばかりの若輩の男性がいる


 「しっかしよぉ、此処に警備員なんて居るんかね? セキリュティ完備だし、そー考えるとスゲ楽だよな」

 「慢心するな。 痴れ者めが」

 「ンだよ、オッサン。 しれものって何だよ」

 「愚か者という意味です。 それと先輩、さっきと今言ってることが矛盾しています」


 パソコンをかちゃかちゃといじる青年にそう言われ、先輩と呼ばれた男が「うっせーよ」と言い返した


 彼らの居るこの建物は、かの有名な・・・セキエイ高原付近の『ポケモン協会本部』だった
 彼ら、警備員達はその建物の正面入り口付近の部屋にいた
 

 この建物は定刻になると、自動的に分厚い塀やシャッターが現れ降ろされ・・・外部や内部からも出ることが出来なくなる
 防火・防水素材や避雷針がそれらに組み込まれ、建物を360度囲み・・・更に上空や地中に至るまで同じものがある
 加えて、複数のバリヤードによる『ひかりのかべ』や『リフレクター』でそれらをまた包み込んでいる
つまり、協会本部を中心とし、物理的なものも含めて数十もの球体型のバリアーが張られるのだ
 勿論、建物自体も災害対策は万全で・・・如何なるポケモンなどの襲撃にも耐えられるようになっている
 窓にも塀の同じものがブラインドのように降ろされ、頑丈な鉄格子まではまるのだ
 まさに莫迦らしく、恐ろしいまでに難攻不落の要塞と化し、定刻以降は電話以外での連絡が一切取れなくなる


 此処の通常業務は定刻、つまり夕方の5時まで 
 それ以降、1分でもその退出に遅れ・・・かつ残業もしない人の場合は、厳しくも次の始業時まで泊まり込むこととなる
 定刻に間に合わず、その規律の所為で・・・1ヶ月以上、外に出られなかった人もいるという話だ
 それだとかなり厳しすぎるが、その為の設備は充実している
 シャワールームから軽食を売る自販機、娯楽室に仮眠室に医務室・・・分娩室まであったりする
 また、たとえ籠城騒ぎになっても、1年は生活できる程の蓄えもあるという
 そして更に、まだ隠された機能やら設備がありそうで何となく怖かったりもする


 本当に、何も此処まで徹底することもないだろうと言いたくなる程だ
 そして確かに、先輩の言う通り・・・警備員なんて要らないとしか思えなかった
 こんな風にした今の協会会長は・・・・・・少々病気なのでは、と彼らでなくとも疑いたくもなる



 
 
 「まぁ、そのセキュリティのおかげで、これまで侵入者も何も無かったんですから。
 不用心よりはマシですよ、っと・・・・・・出ました。 現在、この建物内に残っている人達の居場所と人数」

 「おお、そうか。 うん、では読み上げてくれんか」


 年輩の男性の言葉に頷き、表示されたデータを読み上げていく


 「残業しているのは・・・珍しい、ゼロ人です。 それと、あの厄介者はいつも通り地下室にいますね」

 「あー、仕事もしないで給料もらってる奴か。 羨ましいねぇ」

 「それと、明日以降にジョウト・オーレ地方に向かう為に待機している人が・・・・・・430人?」

 「何? 多いな、先発隊はもう行ってるんだろう?」

 「そのはずですよ。 おかしいな・・・僕の聞いた話じゃ、もっと少なくて、この6分の1以下だったはずなのに・・・」

 「なに、多いに越したことはないだろう。 会長の、何か、考えがあってのことだろうよ」


 パソコンの画面をスクロールして、その人達が待機している部屋を確認してみる
 恐らく何らかのエキスパート達であるし、場所によっては巡回しなくてもいい時があるからだ
 この建物は広く、少しでもそういった無駄を省かなければ・・・・・・


 「んん? 益々おかしいですよ、これ」


 その言葉に2人がつられて画面を覗き込んだ


 「見て下さい。 この建物は7階建てですが・・・その人達は各階、均等に待機しています」

 「いや、別におかしくはねーだろ。
 そんだけの人数だ、1つの部屋に詰め込んでるわけでもあるめぇ」

 「・・・む? 確かにおかしいな。 ・・・何故、こんな・・・警戒態勢のような配置に?」

 「ああ? ンだよ、別にいーだろ。 会長の、何か、考えがあってのことなんだろ」


 先輩が口調を真似つつ、キシシッと笑った
 2人が呆れつつ、画面をまた覗き込んだ


 「・・・・・・珍しい。 会長室の電源がまだ付いているみたいです」

 「あの人も病気だよな。 こんな風に建物改造して、何になるんかね?
 しかも、最近は滅多に外出もしねぇし・・・狂ってンじゃね」

 「・・・・・・」


 そうこうしている内に・・・ぼーんぼーんと部屋の中に時計の鐘が響いた
 そう、日付が変わったのだ


 「巡回の時間です。 とりあえず、7階の会長室から下りるように回りましょう」

 「っと、その前にトイレ行ってくるわ。 ついでに、飲み物でも・・・俺の奢りだ、何飲む?」

 「あ、先輩有り難う御座います。 じゃ、いつもの抹茶イチゴ&ドリアン風味」

 「・・・・・・お前の味覚を疑うよ。 オッサンは? 遠慮すンなよ、気色悪ぃから」

 「・・・熱いほうじ茶を頼む。 急いで行ってこい、時間も惜しい」


 先輩がへいへいと言いながら、警備室から出た・・・ひんやりと静かな廊下はいつもより暗く思えた





 そして、ふと正面入口を見ると・・・既に固く閉じられたはずのシャッターの前に、ある1人の男が立っていた


 「おお! 臆病で姑息な小心者の砦よ! 故にがらくたは詰め込まれ、踊ることだろう。
 それも永遠には続かない、それが不落の所以だから。 笑うことも許されぬ、失墜の園。
 さあ! 蒼き稲妻よ、その髪を靡かせん。 我は従おう、猛き者に。
 おお、その前に無駄に掘り起こさんとす者に祝福の霧を・・・」


 先輩は呆然としていた、その言動にも・・・・・・何故、そんな奴がこんな所にいるのかも


 「・・・・・・お前、何処から入ってきた」

 「扉は、不変として入るものなりき。 故に、我も据えて来る」


 あり得ない、何処から入ってきた
総てが封鎖され、一切の外的の侵入を許さぬはずの・・・この建物に


 ・・・まさか真っ正面から・・・


 「ゴローニャ、クサイハナ、ビリリダマ!!」


 先輩は腰のボールに手をかけ、パートナーポケモンを出した


 何者かは知らないが、侵入者には変わりない
 ならば、警備員として・・・この場から排除するまでの話だ


 彼はすぐさまポケモン達に指示をし、華麗にぶっ倒す・・・・・・はずだった





 ごふっ


 先輩の口から、生温い鉄の味がした


 「・・・嘘、だろ・・・」


 何も感じなかった
 身体中の皮膚が紫色になっていく、侵されていく


 「先輩!」

 
 異変に気づいたのか、部屋の中から2人が飛び出してきた
 「来るな」と叫びたかった、遅かった
 その飛び出してきた2人も、同時に倒れた


 同時に、最後の力を振り絞って・・・先輩は警報スイッチを押し、同じ様に崩れ落ちた
 また彼らのポケモン達も、外傷も無いのに・・・何故か同じ様に起き上がれなくなっていた


 警報機が鳴り響き、建物が一瞬にして警戒色に染まり上がった


 「哀しき時は動き出す、ああ! 行くよ、『ロデオ』と『ジュリエツ』」


 背後に現れた巨体のポケモン、そして・・・・・・自身に酔いしれる男の腕には、黒い腕輪がはまっていた





 短くも長い導火線に、火が着いた





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