〜能力者への道76・警鐘〜




 次々と倒れていく勇士達


 恐るべき能力とその能力者本人、対抗も抵抗も出来ずに終わるのか


 ディック登場、ポケモン協会会長と語り合うは『四天王尖兵計画』


 その恩赦や免罪と引き替えに、この『Gray War』に此方側として参戦させるというものだった


 よって、ジョウト四天王はこれに乗り、動いていたと判明


 同じ頃、地下室の厄介者こと『シャクシ・バンジク』と、『少女、メイル・アカダミアン』


 最後の希望とも言える彼らの決断は、『ポケモン協会本部自体を捨てる』という、思い切った決断と判断だった


 メイルは納得いかぬが、バンジクの正義『小を殺して、大を生かす』に圧倒される


 そして、此処を見捨てる代わりに、必ず大を生かすべく動き始めた


 ・・・・・・そんな彼らは正確に、本当に何者なのか


 果たして、あの能力者に勝てる人材だというのか


 また、向こうの組織に恐るべき人材が寝返り・・・奪われていた


 その者の名は『鉄仮面、シ・ショウ』こと、カントー四天王が『竜王・ワタル』・・・・・・










 目覚めは最悪だった


 いつの間にか朝になっており、射し込む朝日が目にまぶしすぎた
 レッドはベッドから身体を起こし、ふと手で触り見ると・・・ほんの少し、枕が湿っている


 「・・・・・・朝、か」


 頭がガンガンと割れるように鳴り響き、その目を開けているのもつらい
 2日酔いなんてのはこんな感じのものなのかもしれない、そう思った


 いや、この頭痛は・・・まるで火事場の警鐘音のようだ


 しかし、そんな変なことは言っていられない
 レッドは自身の頬をバシバシッと叩き、その気合いを脳に送りつけた
 その手と頬がじんじんと痛み、眠気や頭痛が何処かへ吹っ飛んでしまったかのようだった


 「・・・うしっ! さて、今日からまた頑張りますか」


 わざと声に出し、大きく背伸びをしながら食堂へ向かった
 多分、もう皆も起きているだろうから


 ・・・・・・時刻は8時半過ぎだった・・・・・・





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 朝食を取りながら、今後のことについて話し合った
 やはりと言うべきか、皆の表情や顔色はあまり冴えなかった
 無理もないことだろう、まだ昨日のことが尾を引いているのだろうから・・・


 「やっぱ、2のしまに一度戻った方が良いと思う。
  向こうも色々心配しているっぽいし、ギャラも引き取りに行きたいし」

 「なら、レッド1人で行ってくればいいじゃない」

 『いや、ここは全員で行動しようよ。 やっぱりさ』


 ・・・議論の結果、などと格好つけて言うことでもないのだが、一応決まった
 やはり、2のしまへ戻り、また色々と準備を進める
 この3のしまはショップの品揃えが悪いが、2のしまならイエローの携帯等を買えた店があるからだ


 「まぁ、レッドさんはシショーと『そらをとぶ』で先に行くことになるんですよね?」

 「そうだな。 シショーなら、方向もわかるだろうし」

 『うん。 その辺は任せてよ』


 グリーンがちらりと時計を見た


 「・・・じゃあ、9時45分の最初の便に乗っていくから、それに合わせてくれ」

 「わかった。 先にゲームセンターの前行って、待ってるよ」

 「あっ! 先輩、お供します!」

 「何言ってんのよ! ゴールドも私たちと一緒に船の旅でしょうが!!」


 ゴールドの耳をぎゅーっと引っ張るクリスに、わけのわからない反論するゴールド
 その光景を見て笑う皆、しかし・・・どこかよそよそしい雰囲気があった


 足りないのだ、1人・・・埋まったと思ったら、また欠けて・・・




 
 そんな雰囲気の所為か、皆はポケギアの着信音に気づかなかった
 いや、殆どの人間はその電源を切ってしまっていた
 

 それが、大きな境目・・・分かれ道になるとは知らず・・・・・・





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「・・・遅いぞ、皆?」

 「あのね、あんたらが早過ぎるのよ。 大体、こっちは定刻通り。
 一足先に、お空飛んでる奴にかなうわけないでしょーが」


 話は飛び、此処は既に2のしまがゲームセンター前
 予定通りにレッドとシショーは『そらをとび』、他の皆はシーギャロップ号で行った 
 また、その間に主人とも連絡を取っていたので、急な訪問に驚かせるなんてこともない
 自動ドアのようで、実はそうじゃない手押しの扉を開けた


 「いらっしゃ・・・おお、キミ達か!」

 「こんにちは」

 「色々いらぬ心配をかけさせました」

 
 ・・・挨拶もそこそこに、主人はすぐにお礼の話をしようとしたが・・・・・・それをクリスが遮った


 「あの、すみません。 一昨日は忘れていたんですけど、これ・・・」


 クリスはゲームセンターの主人に小包を渡した
 そう、これは『1のしまのニシキ』から全員分のふねのチケットと引き替えに、2のしまに届けるよう言われた頼まれたお使いの品物
 それを見た主人は嬉しそうにばりばりと中身を開け、皆に見せた
 

 「・・・何スか、その小汚い石っころは?」

 「これは『隕石』さ!」


 主人はにこにこと笑顔でそう言った
 なんでも、随分前から頼んでいたものらしく、つい最近ニシキからその連絡も受けていたのだが、マヨちゃんの騒動もあってすっかり忘れていたのだという
 その大きさは主人の両手の平に少し余るほどで、見た目も確かに悪い
 しかし、『隕石』なんて聞かされると、どことなく神秘的なものに思え見えてくるから不思議だ


 「いやぁ、私は石を収集するのが大好きでね。 キミ達へのお礼も、それにしようかなって」

 「石、ですか?」


 ・・・・・・まさか、直径50cmの漬け物石でもくれるのだろうか


 「いや、後ろの棚にある『進化の石』をあげようと思ってね。 待ってなさい、今踏み台で取ってあげるから」


 レッド達は後ろを振り返ってみると、成る程・・・この建物の天井に届く高さで壁一杯の棚に様々な石が並んでいた
 その棚の下の辺りは何故かスポンジ状の柔らかいものが敷かれており、踏めばふわふわとした
 ・・・主人は踏み台を見つけようと、うろうろしている


 「あ、いいですよ。 なんなら、俺が取りましょうか?」

 「すまんね。 上から2段目の中から、好きなのを持っていくと良いよ」


 レッドが「はい」と返事をし、その背と手をぐんっと伸ばしてみた
 ・・・が、わずかにそれでも手が届かず、結局踏み台をまた探さなければいけないようだ
 ポケモンを出したり、シショーに取って貰うという方も考えたが、その対象が『進化の石』となれば、迂闊に近づけない方が良いだろう


 ・・・・・・と、思っていた矢先だった


 突然、ボンッと音がしたかと思うと、勝手に『ニドオ』が飛び出していた
 レッドの制止の声も聞かず、その棚に『とっしん』をかます姿は『性格:やんちゃ』を通り越して『暴れん坊』だ
 主人も血相を変え、レッドがボールに素速く戻そうとした
 すると、棚のガラス戸の一部が割れ、中から石がころんと落下してきた
 勿論、ニドオは敵か何かと勘違いをし、それに『つのでつく』を当てた


 ・・・次の瞬間、ニドオの姿が光に包まれた


 


 眩い光の中から現れたのは、天井を突き抜けるかと思うほどの『ニドキング』が立っていた


 「・・・・・・進化しちゃったよ」

 『何なの、この展開・・・あり得ないよ』

 「さっきの石は『つきのいし』だったわけだな」

 「っていうか、良かったんですか? つきのいしって、結構珍しいんじゃ・・・」


 イエローの指摘通り、確かに『つきのいし』は他のデパートで売っているものと比べれば珍しい
 しかし、主人は別に気にすることも非難することもなく、むしろ進化の瞬間を見られたことに驚くと同時に嬉しかったようだ


 「こうやって進化するものなんだね」

 「本当にすみません。 大切な石と棚、壊しちゃって・・・」

「いや、うん・・・いいよ。 つきのいしもあげる予定だったし、もう棚の修繕も慣れたものだから」

 「? そんなによく壊れるんですか?」

 「ああ。 ものがものだけに、地震があると棚を転がって・・・ああいう風にガラスを割っちゃうんだよ」


 石を棚に接着・固定すればいいのだが、それも何だか味気なくも嫌だという
 故に、下には落下の際による石の欠損を防ぐ為のものが敷かれている、というわけらしい


 「さて、あとは何が欲しい?」

 「いや、いいですよ。 もう充分です」

 「大丈夫。 今度は踏み台があるからね」


 主人は見つかったそれを見せた
 皆は顔を合わせ、思案した
 その際、レッドはある意見を言うと・・・皆は頷き、言った


 「では、お言葉に甘えて、『たいようのいし』を下さい」

 「ん? それは構わないが、もっと需要の高い石を選んだらどうだね?
 クサイハナかヒマナッツがいるのなら、話は別なんだが」

 「いえ、1体もいません」

 「じゃあ、何故・・・?」


 レッドはにこっと微笑みながら言った


 「貰う必要無いからなんです」





  ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 レッドはゲームセンターを一足先に出て、ギャラの待つポケモンセンターへと向かった
 他の皆はそこのゲームを少しだけ遊んでから合流し、次の『4のしま』へ向かうことにした
 勿論、ゲームセンターで遊ぶことになったのは、主人の勧めではなく・・・ゴールドの意見が押し通ったからなのだが


 「・・・折角進化したのに、もうお別れだな。 ニドオ」


 レッドはボールに、中にいるニドオにそう語りかけた
 そんな別れがわかるのか、ガタガタと先程から中から暴れている
 また飛び出してこないよう、しっかりとロックしたので安全なのだが・・・やはり気分は良くなかった


 ・・・ポケモンセンターに着けば、ジョーイさんが出迎えてくれた
 そして、とりあえず状態も何もが戻ったと言われ、レッドはそれを素直に喜んだ
 そんなギャラのボールを取りにジョーイさんが再び奥に引っ込んでいる内に、彼はニドオを転送することにした


 「ええっと、俺のパスワードとトレーナー証明書Noは・・・」


 更にレッドは自分の親指をスキャナに押しつけ、指紋判定を行った


 転送装置の悪用があってから、警戒は大分厳しくなった
 自分のPCを起動させる際、個人のIDとパスワードや指紋が一致しなければならなくなった
 だが、おかげで勝手に赤の他人のポケモンを引き出すことは出来ない
 この手の犯罪は激減し、手続きが面倒だとの苦情もあったが、それらのデータを見せればすぐに収まった
 これらの警備システムも、マサキとナナミさんの手によって完成されたものだった  


 『エラー』

 「はい?」

 『コノ ID オヨビ ボックス ハ ゲンザイ シヨウフカ デス』

 「はいぃぃい!!?」


 もう一度、同じ手順を踏んでやってみたが・・・結果は同じだった


 パスワードもわかりやすく、マサラとレッドで『makka』・・・間違えようがない
 トレーナー証明書Noは・・・良いトレーナー、『111007』番だ
 指紋だって、今くっついている指が他人のものだったら恐すぎるだろう・・・


 「?? 故障かな。 参ったなぁ・・・」

 「レッド様、お待ちどおさまでした」


 ・・・ジョーイさんがギャラの入ったボールを持ってきてくれた
 レッドは今のPC画面上を見せると、やはり不審に思ったのか・・・今度はジョーイさんの名義で試してみることにした


 するとどうだろう、この画面は・・・・・・


 『コノ ID オヨビ ボックス ハ ソンザイ シテオリマセン』

 「え?」

 『シンキトウロク ハ ゲンザイ カイセンジョウキョウ ノ ツゴウ ニ ヨリ デキマセン ゴリョウショウクダサイ』


 益々おかしい、これは単なる故障ではないのか?


 そんな中、グリーンやシショー達がポケモンセンターに着いた
 そして、今のこの不可解な状況を説明した


 「・・・ふむ」


 グリーンを始めとし、皆がやはり同じ手順を踏んでやってみた
 その結果は、レッドと同じ画面・・・ジョーイさんと同じ画面になった者は誰もいなかった


 「聞きたいんだけど、この『ナナシマ海域』における『ポケモンネットワークシステム』はどんな形で運営されているの?」

 「えっとですね・・・。 その『PNS』の創始者は『若き天才研究者・マサキ』さんです。
 彼の造ったシステムはカントー地方とジョウト地方を結び、自在に転送出来るようになりました。
 ナナシマでは、『1のしま・ニシキ』さんがそのシステムに繋げているんです」


 そういえば・・・1のしまのポケモンセンターは広く大きく、また転送システムのような大型の機械が設置されていた
 恐らく、あれがそうなのだろう・・・


 「ホウエン地方は『アズサ』さんだったかしら?
 カントー地方の方じゃ、馴染みが薄いんだけれど、姉妹で独自のシステムを立ち上げたって話を聞いたことがあります」

 「独自のシステム?」

 「つまり、ホウエン地方はホウエン地方だけの、カントーのオリジナルとは別に独立した転送システムを造ったそうなんです。
 確か、オーレ地方もそうだった気がしますけど・・・・・・詳しいことは私じゃ専門外ですね」

 「本人に聞いた方が早い、か・・・」


 これはどうも、予定を変更した方が良いのかもしれない
 4のしまへ行くよりも、先ずこの事態の究明をしないと・・・後々厄介なことになりそうだ


 ・・・・・・と、ここでイエローを除いた皆のポケギアがまた一斉に鳴り始めた


 発信者は、噂をすれば・・・『ニシキ』本人だ
皆の代表として、レッドが電話に出た


 「もしもし?」

 『単刀直入に言う! カントー地方が襲撃された


 危うく、ポケギアを落っことしそうになった


 「・・・・・・本当なんですか!?」

 『それについての話がしたい! 至急、1のしまのポケモンセンターに来てくれ!!』


切羽詰まった声、レッド達は走り出していた


 シーギャロップ号なんかじゃ遅すぎるし、出船にもまだ時間がある
 それよりも『なみのり』で、最短距離・・・最高速度で1のしまを目指す





 警鐘は鳴り響き、それは粉々に砕け散った





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