〜能力者への道78・生様〜




 1のしま、ニシキの家に飛び込んだレッド達


 ナナシマの今後、予想されるパニック


 ポケモン転送システム


 カントー本土襲撃により、マサキの親システムの機能ダウン


 レッド達のボックス含む、ナナシマ海域の子システムに光明


 ある装置が完成すれば、ホウエンの独立した転送システムにリンクさせることが出来るという


 その為に必要な宝石、ルビーとサファイア


 しかし、ルビーの方はある男がR雑魚団員を蹴散らし、ニシキの家まで届けてくれたという


 残るサファイアをレッド達に見つけだして欲しいと、ニシキは依頼


 引き受け、新たなる旅出に・・・・・・敵組織の刺客が


 そして、マサキの元より届けられたのは情報だけでなく、彼女・・・ナナミさんの姿が


 事態は急変す!




 





 シオンタウン =ジムリーダー不在の地=


 まだ夜が明けてから間もなくのこと、空より巨人が音も無く降り立った
 ・・・その地は、かつて霊魂を鎮め讃える遺恨の塔がそびえていた
 が、今となっては文明に押し流され、変貌した地だった


 「やはり現れましたね」


 ザッと着物姿の女性が、細目の男を傍に現れた
 足下には彼女達のポケモンと思われる、『キレイハナ』と『ゴローニャ』がいた
 巨人はくるりと声に反応し、振り返った
 その巨人の肩には対比で小人に見える女性が乗っかっており、何故か水着姿だった


 「襲撃の際、最も重要な拠点として、総ての情報を操作する為、この『ラジオとう』のあるシオンタウンに首領格が来るものと踏んでいましたの」

 「それならば、此方もそれ相応の対応をすべきだと思ってな。 待ち伏せていたのさ」


 巨人は大して驚くこともなく、静かに言った


 「・・・お主は、タマムシシティ・ジムリーダーのエリカ嬢か」

 「にゃはははは〜! その後ろの細目はニビジムのタケシにゃあ」


 水着姿の女性はぐびびっと腰に付けた酒瓶をあおり、ぷはっと息をついた
 巨人の男の名は『ドダイ』、水着姿の女性は『シャララ』だった


 「何故、此処にいる? お主達の担当すべき街はどうした」

 「ご心配は無用ですわ。 此方も、何の考えもなく此処に来たわけではありませんことよ」





 ・・・・・・





 グレンタウン =炎のジムリーダー・カツラの担当区域=


 奇声を発し、踊り回る黒人が居た
 彼の名は『エース・フライジング・トップ』


 「ン〜〜〜、イーヤッハ〜ッ!」

 「It starts. You are made being killed by you on whom you have been seeking revenge.
 (かかってきな。 返り討ちにしてやるぜ)」


 英語を話す軍人風の男、その傍らには放電準備万端の『エレブー』
 彼の名は『マチス』、電気のエキスパートであるクチバシティ・ジムリーダー!


 「ン〜〜〜、イーヤッハ〜ッ!!」

 「・・・チッ、やる気あんのか!」
 





 ・・・・・・
 




 トキワシティ =ジムリーダー・グリーンの担当区域(しかし、今は不在)=


 ピジョンに乗り、地上を見下ろす鳥の兜を被った忍者
 そのポケモンは何か、鎖の塊のようなものを足でつかみ持っていた


 「情報とは違う人間が居るようだが・・・?」

 「面白い。 闇に生きし忍者同士の対決でござるか」


 くのいち装束に身を包んだ女性、その付近には目には見えない『くものす』と『かべ』が既に張り巡らされていた
 その傍にいるはそれを生み出す『アリアドス』、ホウエン地方にしか生息しない『ドクケイル』
 彼女の名は『アンズ』、毒のエキスパートであるセキチクシティ・ジムリーダー!


 「勘違いするな。 我ではない」


 ピジョンが足を離し、ドズシャッと鎖の塊を乱暴に落とした
 途端、その塊の中からどす黒い殺気が漂い始めた


 「我の主君、『沈黙の牙、タスカー』殿だ」


 その忍者とピジョンはそのまま遠離り、やがてあの鎖が次第にほどけていく・・・
 



 
 ・・・・・・





 ニビシティ =岩のジムリーダー・タケシの担当区域=





 何故か紅茶をすする英国紳士風の男、しかし・・・それよりも気になるのはアゴの異様な長さだ
 『ロイヤル・イーティ』、12人の中で一番穏やかな性格だと自称する
 それ故か、彼の相手をするはずだった男はいないが、別段と気にすることはない


 「紳士的に参りましょうか」

 「そうしてくれると助かるな。 街に被害は出したくない」


 白衣とサングラスをかけた研究者な風貌を持った初老の男性、そして『ギャロップ』と『ウインディ』
 彼の名は『カツラ』、炎のエキスパートであるグレンタウン・ジムリーダー!


 「タケシ君に代わり、不肖ながら私がこの街を護る」

 「果たして、それは出来ますかな?」




 
 ・・・・・・




 セキチクシティ =毒のジムリーダー・アンズの担当区域=




 
 ふらふらと妙な男が踊り、詩を口頭ながらも綴っている
 彼の名前は『ポー』、奇妙な詩人だ


 「おお、麗しき花よ! 騒ぐは大地か心か血肉よ!
 私は世に感謝しよう。 この出会いは赤き液で混ざり、溶かし合うだろうから。
 さて、求めるは水のうねりに管の共演。 頑なにこじ開けられる恍惚の鐘」

 「・・・くだらんことばかり考えている男だ」


 綺麗な長い黒髪をした女性が、フーディンを連れていた
 彼女の名は『ナツメ』、エスパーのエキスパートであるヤマブキシティ・ジムリーダー!


 「朽ちていく階段、足はつるに巻き取られるでしょう・・・」

 「・・・全く、どうにも嫌になるな」





 ・・・・・・





 クチバシティ =雷のジムリーダー・マチスの担当区域=





 「・・・定刻通り、任務に就こうぞ」

 「私の相手は飛行タイプね」


 ピジョンに乗った忍び装束の者、名は『クレト』
 つい先程、タスカーをトキワシティまで送ってきたところだ


 「しかし、またしても情報とは違う者か」

 「ええ。 残念だったわね」


 タンクトップに動きやすい短パン、その周りの港や海には『キングラー』や『スターミー』が待機していた
 彼女の名は『カスミ』、水のエキスパートであるハナダシティ・ジムリーダー!


 「いや、誰が相手だろうと問題皆無」

 「へぇ、言ってくれるじゃないの」



 

 ・・・・・・





 シオンタウン =ジムリーダー不在の地= 


 「・・・協会からの緊急コールが響き、すぐに実行に移しましたの」


 会長の青いボタンはカントー地方が全ジムリーダーへの緊急コール用のものだった
 深夜にそれは鳴り響き、彼らは当初の予定通りに動き始めた


 「住民はすみやかにある地へ避難させ、私達はそれぞれ配置についた」

 「各地方のジムリーダーの得意タイプは既に割れている。 敵組織はそれに合わせた相手をぶつけてくるに違いない、と」

 「ジョウト地方もその手でやられたと判断致しました」

 「・・・その対応策がそれなのにぇ〜?」


 ろれつがうまく回らないシャララの言葉に、エリカが言った


 「これが私達に出来る最善の策」

 「その名も・・・」


 各地に散ったジムリーダーが映し出された


 「「「「「「「リーダーズシャッフル!!!」」」」」」」


 ドダイはにやりと口の端を持ち上げ、笑って見せた


 「成る程。 だがしかし、それでは人数の程が足りないのではないのか?」


 ジムリーダーは8人、街は10カ所
 しかも、そのリーダーの内ではグリーンは不在
 マサラタウンは既に壊滅しているのだが、結局は人数が足りない
 それなのに、シオンタウンの重要性を考えてなのか・・・此処には2人もいるのだ
 

 しかし、エリカはふっと不敵に微笑みながら、言った


 「ですから、ご心配は無用ですわ」





 ・・・・・・




 
 ヤマブキシティ =エスパーのジムリーダー・ナツメの担当区域=





 むさ苦しく、暑苦しい半裸の筋肉ムキムキの男達が集い、互いに気合いを入れあっていた


 「俺達は麗しきナツメ様の留守を絶対に護り抜くぞぉぉおぉおぉお!」

 「「「褒めてもらいてぇえぇ!!!」」」

 「ウオォオォォォオオッ! どんな悪タイプでも正義の鉄拳でぶち倒すぞおぉ!!」

 「ナツメさんサイコーっすぅうう!!」

 「オンドリャアァアア!! 虫タイプのちまちました技なんかきかねぇぞおぉおおお!!!」

「「ヤマブキ格闘道場バンザァアァァァァイ!!!!!」」

 「ウォオオォオオォッスゥゥゥッ!」

 「どっからでもかかってこいやぁぁぁ!!」

 「怖じ気づいたか、悪党共ぉぉおおぉおお!!!」
 

 ・・・・・・そう、エスパータイプの弱点である『あく』『むし』タイプ対策として、同じく街中にある『格闘道場』の人々だ
 皆が各々気合いを入れ、それぞれのポケモンと互いを鍛え抜いてきた
 これだけの熱い実力者を正攻法で倒せる相手など、色んな意味でいなかった


 ・・・その街へザッと降り立ったのは、鉄仮面を付けた者
 仮初めの名は『青龍組リーダー、シ・ショウ』・・・・・・





 本名は四天王の将、竜王こと・・・『ワタル』といった





 ・・・・・・ 




 
 タマムシシティ =草のジムリーダー・エリカの担当区域=


 「我々はエリカ様の、そしてカントー地方の為に!」


 大勢の民衆が集まり、一丸となって立ち上がっていた
 そう、彼らは『タマムシ精鋭軍』と呼ばれる、昔は『対R団』の為にエリカが集めた人達だった
 そして今も、このタマムシを始めとしてカントー地方の平和を守るために組織は維持されてきた
 エリカは彼らにこのタマムシシティの留守を預けたのだ
 総数はいまや2万人近く、トレーナーはその内およそ1000人といったところか
 

 これだけいれば、いかなる敵といえど対処の仕様が無いはずだと踏んだ
 勿論、民間のトレーナーが多い為、実力には不安も残る
 故に各ジムリーダーに自身の敵を殲滅したら、速やかに加勢に加わってくれるように頼んであるのだ


 「・・・これはまた、随分と人が残っていますね」


 ゆったりと歩く純白の男性、その後ろをしずしずと歩く腕輪を2つ3つ付けた男女達
 タマムシ精鋭軍はぎょっと驚き、同時に拍子抜けした
 まさか、たったのこれだけなのか・・・と
 カントー地方でも1、2を争うほどに人口数の多いタマムシシティを制圧しに来るのに、たったの10人未満とは・・・
 勿論、彼らは他の街は幹部1人だけで、此処はそれに比べれば多い方とは夢にも思わなかった


 「よ、よし、絶対に勝て・・・」


 皆が意気込み、一斉に襲いかかろうとした瞬間・・・不意に身体が痺れ始めた
目の前にいる制圧者はポケモンを一切出して折らず、ロコンにきつねにつままれたような気分だ


 「裏切りの美学です」


 そう純白の男、チトゥーラが言うと、精鋭軍の中から灰色の服を着た者だけが立ち残っていた
 ・・・・・・これで相手の人数は100人近くになり、しかも圧倒的な形勢不利にとなった


 その時だった


 「あーあーあーあー、やっぱ世間知らずのお嬢様が作っただけのことはあるわなァ!」


 無神経にそう言うあの男、『バンジク』がスタスタと歩きながらやってきた
 その後ろにはメイルもいた


 「何者だ、コラ!」

 「ポケモン協会より、一番弱そうな区域に助っ人に来たモンだ」


 その言葉に精鋭軍は喜び、敵方は歯をぎりぃっと鳴らした


 「「チトゥーラ様には毛一本触れさせはしません!」」


 指示も待たずして腕輪2つ持った男女がポケモンを持って、バンジクへと襲いかかった
 1人はレディアンを、もう1人はオオタチを繰り出して
 バンジクはふぃーっと息を吐き、頭をボリボリとかきながら言った


 「人望あるねェ。 それとも、それが白いテメェの能力か?」


 バンジクが懐から拳銃を取り出し、その相手を字の如く撃った
 血を流し倒れる2人を見て、思わず目を見張った・・・・・・


 「っ、キッサマぁあぁぁぁ!!!」

 「何様のつもりだ!!」   


 怒りで我を失くし、次々にバンジク目がけて能力者が襲いかかってくる
 メイルはさっと、バンジクにものを手渡した


 「莫迦はテメェらだっつーんだ。
 『武器』に『兵器』。 それは人が人を傷つける為に生み出され、使われるもんだろーがよォ」


 バンジクはガシャンと手渡されたものに装弾させた


 「くたばれ、糞能力者共」

 「「「「「!!!!!!!!???」」」」


 ロケットランチャーだった


 それは一斉に放たれ、相手は一斉に・・・派手に吹き飛んだ
 その参上を見て、能力者と精鋭軍の顔色は段々と青ざめていった


 「これが、俺の戦り方だ」

 「素晴らしい。 なんて単純明快な、理に適った戦法でしょうか」


 チトゥーラはそう褒め、ぱちぱちと拍手をした
 そう・・・部下がやられても、彼には何の表情の変化は見せなかった


 「素晴らしい。 能力者ではない者が能力者に勝つ為には、成る程・・・それ以上の『火力』を以て立ち向かう。
 ポケモン協会もとんだ隠し球を持っていたものですね、素直に敬服しますよ」


 バンジクは弾切れになったランチャーを放り捨て、煙草に火を付けようともぞもぞと動いた
 チトゥーラはにこやかに言った


 「それでも、人は人でしょう?」


 メイルの死角を付き、背後からマグカルゴとブースターなどの炎ポケモンを引き連れ、一斉に『かえんほうしゃ』を放った
 とっさにバンジクは軽くメイルを突き飛ばし、その炎の舎弟範囲から逃れさせた
 一緒に持っていた火薬や弾頭に着火し、辺りに物凄い爆発音が響いた


 「・・・其方が銃火力で来るなら、此方は正統派の『火力』なんてのは如何でしょう?」


 彼らは炎ポケモンを対象に扱う能力者だった、轟々と激しく火が燃え盛った


 メイルは唖然としていた、まさか・・・・・・





 「・・・おいおい、煙草の火にはでかすぎるぜ? 付ける前に無くなっちまったじゃねーか」


 それはまたしても、目を見張ってしまうような光景だった
 燃え盛る炎の中、その男はしっかりと息をし生きていた
 眼光も、威圧感も、覇気も、力強い鼓動も、何も失われずに


 「ば、化け物・・・!」

 「・・・・・・さて、どういうことなのでしょうね」


 チトゥーラはふっと声に出した、周囲の人間は皆怯えている
 そんな当の本人は何事も無かったかのように、同時誘爆した武器の中から比較的使えそうな小型ランチャーをメイルに手渡した


 「お前は『ナナシマ』へ行け」

 「は、でも・・・」

 「行け」


 上官であるバンジクに、その有無を言わさぬ眼光の前に、メイルは言われた通りに動いた
 たたたたっと小型ランチャーを担ぎ駆けていく後ろ姿をほんの少しだけ見送り、また能力者集団の前に向き直した


 「お、おおお、お前は何者だ・・・!?」


 バンジクはそう訊かれると、耐火服の懐から燃え残った煙草に火を付け言った


 「俺は改造人間だ」





 ・・・・・





 メイルは海を目指し、走っていた
 海や川辺に行けば、事前にポケモン協会が隠し置いてある小型艇があるはずだからだ
 それに乗り、指示通りに『ナナシマ諸島』を目指す
 恐らく、その島にはジムリーダーのような人間はおらず、襲われる危険性が高いからだろうと考えられた


 「(一番近いのはクチバシティの港だけれど・・・)」


 現在、そこでは別の戦闘が行われているだろう
 となれば、ここは迂回するか別ルートで水道方面に向かった方が良いのかもしれない
 そう思い、メイルはタマムシ付近の地下通路を通った
 幸い、まだ此処は襲われていない・・・住民の避難にも充分に役立ったはずだ


 しかし、誤算があった


 メイルは水道に出ると、この地方では珍しい『コドラ』の姿を見た
 いや、最初はそれに思えた
 しかし、コドラではまだ『なみのり』が出来ない・・・そう、水道を走っているのはポケモンではなかった


 黒髪の、着物を着た男のバイクだった


 メイルは声には出ないが、はっきりと口に出した





 「   じ   ん   」


 その瞬間、彼女は・・・何かが吹き飛んだかのようにぶち切れた


 「あぁぁああぁああぁぁああぁぁあああぁぁぁああぁぁあああぁああああああ・・・!!!!!」


 バンジクに手渡された小型ランチャーの引き金を、無我夢中になって引いた
 狙いも定めず、ただがむしゃらに撃ち尽くした


 そして、気づけば弾切れになり・・・正気に返ってみれば


 目の前の水道には、何も無かった





 同時に


 ざしゅっと斬られた音がした
 如何なるポケモンの攻撃にも耐えられるようにと、丈夫に作られたはずの防護服が
 

 彼女の意識は其処で途切れた





 ・・・・・・





 シオンタウン =ジムリーダー不在=




 「・・・考えたものだな」

 「にゃるほどねん。 そーいふわけにゃあにょにょ〜〜〜!」


 ドダイがアゴをさすり、シャララのお酒は益々進んでいった
 エリカとタケシはそのまま動かず、対峙を続けた


 「だが、その作戦はやや的はずれだ」

 「!」

 「な・・・どういうことだ!」


 シャララはご機嫌調子で言った


 「べちゅに、考えてにゃーもん♪」

 「・・・!」

 「つまり、我々はジムリーダーとのタイプ相性など考えてはおらんということだ。
 中にはわざわざ弱点をつかれるような街へ行った者もいるほどでな、申し訳ないが・・・」


 ドダイは遙か上空より、投げ潰すかのように言った


 「それだけの自信があると言うことだ。 無論、小細工など無いな・・・!」


 びりびりと肌の感覚が無くなるかと思うほどの威圧感が、エリカとタケシを急に襲った
 今までとはうってかわった闘気だ、まさに『武の巨人』の名が相応しいほど圧倒的な・・・

 「しょれにぇ〜、にょんにゃににぇげよーとしてゃって〜、むらなもにょにょ〜」


 支離滅裂な文章だが、嫌でもその意味はわかった・・・わかってしまった
 つまり、目の前にいる此程の者達よりも強い者が、上にいるということだ・・・


 ・・・絶望的だ・・・


 エリカとタケシは愕然とした
 まさか、総てが裏目に出てしまったとでも言うのか・・・・・・


 「さて、此方も始めようか・・・!」

 「しょっちは草に岩にぇ〜♪ にぇ、きょっちゅや〜〜〜・・・」


 彼らもまたその手からポケモンを出した・・・





 ・・・・・・





 ハナダシティ =水タイプのジムリーダー・カスミの担当区域=


 「・・・なんちゅーこっちゃ、まさか・・・そんな・・・」


 此処は『みさきのこや』、現在マサキとナナミさんが様々な研究をしている
 マサキは発明家でもあり、中でもポケモン転送システムは世紀の大発明であり、彼は若き天才と呼ばれている
 またナナミさんは、ポケモン学会においてその人ありと言われる『オーキド博士』の孫娘だ
 勿論、その本人もその素質を受け継ぎ、ポケモン医療学を専門に就く才色兼備の美女で、あのグリーンの姉でもある


 そんなマサキがみさきのこやの中から、窓から見えるは・・・次々に火の手が上がり、建物が倒されていくハナダシティの様子だ
 この街はジムリーダーこそいないが、カントー本土に存在する警察組織の総員と各ジムのジムトレーナー40人が護っていた
 特にジムトレーナーズは各方面のジムから来ているので、あらゆるタイプ相性に対応できると、皆から太鼓判を押されていた実力者揃いだった
 勿論、それは間違いのないことだと、マサキも誰もが思っていたはず・・・・・・


 それなのに、目に見えるのは絶望の景色のみだった


 「もうハナダは駄目や・・・」


 となれば、次に狙われるのはナナシマとジョウトをも結ぶ『親・転送システム』がある、この『みさきのこや』に違いない
 マサキは急いで、コンピュータ操作を、画面と窓の外を交互に見た


 「マサキさん、ハナダが・・・」


 がちゃっと扉を開けて入ってきたのはナナミさんで、マサキははっと振り返った


 「ああ、わかっとる。 今、ホウエン地方に彼奴らのデータの転送準備をしてるとこさかい」  

 「でも、早く逃げないと・・・」


 ナナミさんがマサキの肩をつかみ、その画面を見た
 流石というべきか、並のトレーナーとはその1人1人のデータ容量が違う
 準備に入るだけでも、こんなに時間がかかるなんて・・・それこそ計算外だった

 
 「わ、私も手伝います・・・!」

 「・・・・・・いや、その必要は無いで・・・」

 「? どうい・・・」


 ふいにナナミさんの声が途切れ、身体がくの字に折れ曲がった
 マサキの当て身が、彼女の腹にきれいに入ったのだった・・・
 ナナミさんは涙目で、「どうして・・・」と呟いた


 「ナナミ・・・・・・はん、ほんまに、ほんまにすみまへん。
 でも、ここで何かあろう事なら、わて、グリーンと博士に殺されてしまうがな」


 冗談か本気か、それでも悲しげに声を出した


 それに、もうこれ以上・・・・・・巻き込みたくはないんや・・・・・・


 マサキはカモネギを呼び、プリントアウトしたこれまでの情報と、レッドから借り受けた使ってもなくならない進化の石を足にくくりつけた
 そして、気絶したナナミさんをそのカモネギの上にそっと乗せた


 「ええか、頼むで。 ナナシマの、ニシキの家や。 わかるやろ、何度も行ったことあるしな?」

 『カモッ』


 カモネギは小さいながらもパワフルに、ナナミさんを乗せて大空に舞い上がった
 本当は大型の鳥ポケモンならもっと安全なのだろうが、残念ながらニシキの家を憶えているのはカモネギしかいなかった


 「あとは・・・」


 パソコンの画面を見ると、ホウエンへのデータ転送準備は完了していた
 すぐに実行に移すと、『テンソウカンリョウ マデ アト 14:59:04 デス』との表示が出た
 そう、これだけ・・・時間を稼げれば、マサキに課せられ出来ることは総て終わるのだ


 ・・・心なしか、地響きが此方へ向かってきている気がした


 マサキはがたんと玄関の扉を開け、その方を見た


 「・・・・・・来た!」


 それは予想通りの大男だった・・・少なくとも、取っ組み合いならば勝算はゼロ、いや・・・マイナスだ


 「カッ! どけどけどけどけぇっ!! 相手にもなんねぇ愚図に屑共!!!
 道を空けろ、さぁ開けろ! 空けやがれ!!! バンナイ様のお通りだぁあぁぁ!!!!



 物凄い声量と共に、その大男は真っ直ぐに・・・此方、『みさきのこや』を目指して突き進んでいる
 ・・・・・・やはりというべきか、ジムトレーナーズと警察組織は、ハナダシティと共に全滅したらしい


 全身を震わせながら、マサキはみさきのこやから離れ、バンナイの前に立った
 そして、ボールから『ロコン』と『タマタマ』を出した


 「あ、あんさん、ちょっと止まれや!」

 「・・・あン? なんだ、モヤシくず!!! 邪魔決定、轢き殺す!


 マサキは必死に足の震えを抑え、堂々と叫んだ


 「こっから先は一歩も通しはせえへんで!」

 「・・・・・・もう一度言って見せろ! そんな貧弱なポケモン連れた頭でっかちのモヤシくずに何が出来るかをよ!!!!

 「モヤシにだって栄養はあるわ! 莫迦にすんなや!!」


 バンナイの表情が、どんどんと怒りの感情が膨れ上がってくるのがわかった
 マサキはズボンの両ポケットから、ちゃっと進化の石を2つ出して見せた


 「(ごめんな、レッド・・・)」





 ーーーーーー




 
 「ほんまにええんか?」

 「ああ。 マサキの研究とかに役立ててくれよ」


 レッドは使っても無くならない進化の石4種を、マサキに手渡した
 クチバの海底ドームから取ってきた、世界でもこれしかないといわれる・・・最高峰の進化の石・・・


 「リーフの石も後から取ってきたんだぜ? 結構、苦労したよ」

 「なら、なおさらや! ずっと持ってればええやんか」

 「んー、最初はブイの為だったけど、今は進化したからもういらないしさ。
 これから進化させようってやつもいないし、それこそ『宝の持ち腐れ』になっちゃうじゃん。
 でも、マサキなら・・・きっと、これから皆に役立てる何かを作るのに、それに役立てればなって」


 手渡された進化の石4種が、急に重く感じられた
 レッドは「あ、でも必要になったら返してくれな? 特に、長旅に出た時とか」と付け加えた
 勿論、それはこのような貸し借りでは当然のことだった


 「・・・わかったで。 絶対、これ使って、最高の発明品を作ったるわ!」

 「そう、その調子だぜ!
 ・・・・・・あ、ところでさ。 最近、ナナミさんとはどうなのよ?」
 
 「へ? あの、その・・・」

 「グリーンやブルーがなんか苛ついててさ〜、ついでに聞いてこいって。
 んで、本当にどうなの? 俺も気になるんだけど・・・」


 マサキはしどろもどろになり、レッドは裏表無くにこにことずっと聞いてきたのだった・・・





 ーーーーーー





 「内に秘めたる赤と緑の進化の力、わてに、わてのポケモン達に力を貸してーな!」


 燃え上がる炎よ 深紅に満ちた輝きよ 

 それは地に眠る紅き胎動 総ての根本たる原動力

 情熱よ 勇気よ 

 今 赤き六尾が

 今 白き九尾とならん



 繁栄す緑よ 新緑に注ぐ輝きよ

 それは地に生える翠な鼓動 総てを育み包む力

 知性よ 静寂よ

 今 地に添う実が

 今 地に根深き足を降ろす



 

 進化の石の力よ 今 解放せん





 傍らのロコンが炎に包まれ、やがて・・・キュウコンへと
 傍らのタマタマが割れるような音と共に、やがて・・・ナッシーへと
 

 今、進化を遂げた 


 「稼ぐ時間は最低で15分! いや・・・・・・」


 ・・・ナナミはん・・・


 「あんさんに勝つ! あんさんに勝って、わては・・・わては・・・・・・」


 ・・・すぐに、そっちへ向かうから・・・


 「負けられへんのや!!」


 ・・・待っててーな・・・


 マサキが完全に臨戦態勢に入ると、バンナイはにたりと笑った


 「カッ!! 面白ぇ!!! 来い、来い!! モヤシくず!!
  少なくとも、さっきのゴミクズ共よりは、ちったぁシャキシャキ歯ごたえがありそうだな!!!!






 ・・・・・・





 そして、カントー本土は壊滅した





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