〜裏・一/最終決戦〜


 これはレッド達が最終決戦、組織のカントー支部に乗り込んでいる時と平行して行われた戦い

 ジョウトジムリーダーズ+有志によるカントー地方奪還及び陽動作戦の物語の一部


 ・・・・・・


 「話には聞いていたが」

 ホエルオーに乗っていた他の皆と別れたシジマが、周りを見ながらヤマブキシティを闊歩する
 
 組織によって制圧、支配されてしまったカントー地方
 しかし、その町並みはその前から変わっていない
 侵略時に破壊されたビル群も見事に修復されて、人がいない以外は何も起きていなかったかのようだ
 ゴーストタウン、というのが相応しいか

 「・・・む」

 堂々と道のど真ん中を歩いていたおかげで、出てきてくれた

 「侵入者、いやこの町に引っ越してきたんですか?」

 「旅行者かもよん。でもワリーすが、あいにく何もないのでお帰りいただくしか」

 灰色の団服を着た青年と女の子
 ・・・ゴーストタウンではない
 いうなれば深夜で見えるところに誰も出てきていないだけ、のような感じがする
 都市機能は最低限稼動させることで、この町を保存している
 そういうことをしている人間がいるのだ

 「道を尋ねたい。この町に格闘道場があったと思うのだが」

 「あー、あそこは今師範代が1人いるだけすね」

 ぽりぽりとあごの下をかく青年が、もう片方の手でボールを手にする

 「恐らく私の知人だ。会いに行くので、どいてくれないか」

 「イヤす」

 青年がライボルトを出すと、女の子の方もムウマを出した

 間違いない
 こいつらがそうだ
 住人と入れ替わった組織の人間
 服と眼を見れば一発でわかる

 「ならば力ずくだ」

 「望むところす」

 「いくよムウマ」

 シジマはニョロボンを出した
 1体だけ片をつけるつもりだった
 ポケモンセンターも占拠されているはずだ、施設を使えるかわからない現状では残りの手持ちは温存しておく

 「2対1すかぁ。なめられたもんす」

 「ニョロボン! れいとうビーム」

 『ソウシンホウ』
 素早さに力の配分を置き、先手を取る
 思いもよらぬギアの切り替えに青年は驚いていたが、女の子のムウマがその間に割って入った
 
 「シャドーボールだムウマ」

 バシュッチと2つのエネルギーがぶつかり、はじけた
 タイプ一致的にはシャドーボールが上だったが、威力が充分に出る距離ではなかったことと女の子が力比べをする気がなかったようだ
 再び距離を置くムウマだが、ニョロボンは構わず突っ込んでいく

 「れいとうビームを拳にのせろ」

 そのエネルギーを放つ前に拳で握り締めてしまい、手の内でぱきぱきっと氷がほとばしる
 変則的なれいとうパンチ
 しかしガイクの破璃掌に近い攻撃方法に見える辺り、やはり師弟や血縁を思わせた

 「打ち抜け!」

 「ムウマ、みがわり」

 ぶぅーんとHPの塊がムウマから分離され、それが前に出てくる
 カキギゴッとヒットするが、みがわりが消えない
 分離したHP以上のダメージを受ければ自然と消えるはずのみがわり、ということは威力が低すぎたのか
 否、拳を当てる瞬時にソウシンホウで素早さに重点を置いた力を攻撃に注ぎ込んだから、それはないはずだが・・・
 
 女の子の方ががくり、とお腹を押さえ込みながら背を曲げた
 シジマはどういうことか、まさか、と思いつつも予感する

 「・・・トレーナー能力『サクリファイス・リンク』、ポケモンへの一定数値以上のダメージは私にくる」

 この能力は威力が高くなるほど能力者自身へのダメージ配分が多くなり、負担がかなり大きくなる
 だが、みがわりが最低でも2ターンは持つようになる

 「2ターン持てば」

 みがわりの後ろ、ライボルトと青年が構えていた

 「片がつくす」

 ライボルトの口から光線が、シジマとニョロボンに向かって放たれ呑み込んだ

 2ターンは必ず持つというみがわりがあれば、様々な役割を果たしてくれる
 ダブルバトルなら自分とパートナーの盾にもなれるし、時間も稼げる

 「俺の能力は充填万々。ターン経過ごとに技の威力が上がるす!
 2ターンなら1,5倍、3ターンなら2,2倍、4ターンなら3,6倍(これが今の限界す)! 」

 今回は3ターン溜められたので、倍以上の威力は見込めた
 普通に2回3回攻撃するよりPPも節約出来るし、通常よりも攻撃速度も高くなるおまけ付きだ
 だが、溜める間は他の技も移動も満足に出来ないから、やられてしまわないように守りのタッグを組む必要がある
 
 「セッカ、大丈夫すか」

 青年が女の子、その名前セッカを呼ぶ
 擬似的なれいとうパンチの威力はなかなか効いたようだ
 正式な技ではないのに冷気と氷をまとわせること物理的な拳をゴーストタイプに当てられるようにしたのは、なかなかの発想だ
 特能技というにはちょっと違う気がするが・・・

 「っ、ムウマシャドーボール!」

 一発撃ち終わって気が抜けかけ、その方向に背を向けている青年とライボルトに忍び寄る影
 セッカが気づき、ムウマの技でそれを追い払う

 「!」

 「気をつけろ、クトー。あの侵入者はここに来られた、それだけで要注意人物なんだぞ」

 まだ地面が融けた嫌な臭いが薄っすらと、焦げ跡はくっきり残っている
 それでもシジマとニョロボンは健在だった
 恐らくみきり、だろう
 みがわりの影に隠れて放った一撃、あの咄嗟でよくそんな指示が出せたものだ

 「ああ、わるいす。そうでした」

 クトーも顔を引き締めた
 思い出した、あの男・・・タンバシティのジムリーダーだ
 この前のポケモンリーグ、その中継で見た顔だった

 「そこを通してもらうぞ」

 「出来ません」

 セッカがクトーより一歩、前に出た
 ポケモンと人間では防御や耐性から、同じダメージでも感じ方や痛みの度合いが違う
 それでも立って、戦う意思を屈しさせないというのは相当の精神力の持ち主だ

 「これで僕達のコンビが終わりというわけではありません」

 「確かに単身で乗り込んできたのは凄いす。組織で言うと幹部以上がこなすSSランク任務に該当するすね」

 ぞわり、と何かが這って湧き出したような感覚
 シジマはそれを厭わず、周囲を軽く首を傾けて見る

 「でも、SSランク任務ってのは他の誰にも出来ないからそうなのであって、だから幹部でいられるってことす」

 ざざっざざざざと、何十本もの足で一歩踏み出す軍靴の音
 シジマの周囲を囲む灰色の団服

 最終決戦とは別に、カントー本土にてそこを警護する任務を与えられた組織の団員・能力者や一般トレーナー達
 その全てがジョウトジムリーダーズの敵となり、頭数だけならカントー支部にいる人数以上だ

 「侵入者を排除」

 「わりく思わないで、すよ〜」

 多対一であっても、任務が優先
 そういう指示を下せる現地の上司、またその意識下で動く彼らに迷いもぶれもない

 シジマを囲んだ団員達は射線が被らないよう、意図的にずらして攻撃をしてくる
 射線が被ったら、シジマが上に跳んで避けた時、向かい合っている組織側が自滅するからだ
 そういう初歩的なミスをおかさないよう、きっちりチーム的な訓練はされているらしい

 その全ての軌道を読みきり、みきりによる磨耗をどれだけ押さえた上で反撃が出来るか・・・


 「タンバジムジムリーダー、シジマ! いざ行かん!!」



 To be continued・・・
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