〜裏四/最終決戦〜



 暗い室内
 正座し、両掌で包み込むようにぽんぽんと手毬を小刻みに跳ねさせ遊ぶ女性がいた
 室内以上に暗い表情でいる女性は美しく、可憐な人だった


 ・・・・・・

 
 ハナダシティ

 ここに孤軍奮闘するきざな男がいた

 「ワタッコ、わたほうし! マルマイン、でんじは!」

 レディアンとアメモースにそれぞれ、技を浴びせる
 素早さを下げる技、まひを起こさせる技
 男が戦う相手は苦虫を噛み潰したような顔をする

 「相手がどんな能力を持っていようとも、行動させなければいい」

 フッと男は薔薇を持ち、格好つける
 団服を着た組織員、それが彼の相手だった
 相手は既に2回目のわたほうし、その前のターンではレディアンはマルマインのいばるで混乱させられている
 まひが加われば為す術はない、きざな男のポケモンに一方的になぶられるばかりだろう

 「勝負ありだ。おとなしくひきたまえ」

 「・・・想定外だ。アメモース! レディアン!」

 組織の男が声をかけると、その2体に変化が起こった
 身体から光が満ち溢れ、見る見る内に体色が戻っていく

 「!」

 「俺の能力さ。バトル前にポケモンに俺自身の氣を仕込んでおくことで、さなかに1度限り状態異常とステータスを元に戻せる」

 続けてレディアンはしんぴのまもりを発動させる
 これで状態異常にはかからない、きざな男はたじろいだ

 「これが能力、能力者。バトルで絶対的なアドバンテージを取る」
 
 ぐっと拳を握ってポーズを取り、相手はきざな男に力を誇示する
 きざな男は頬をヒクつかせ、ふふんと強がるように薔薇を鼻に当てる

 「それなら私もそうさ」

 「ほぅ。なら発動させてみろ、それとも条件に満たないのか?」

 その通りだった
 きざな男は一瞬目を逸らし、フフッと微笑んだ

 「きみ程度なら使うまでもないだけのことさ」

 「よく言うぜ。陣まがいの戦法取って、ま、様子見はお互い様ってことだ」

 レディアンの拳が淡く光り、アメモースのツノも同様に光る
 
 マルマインのいばる→みがわりorいやなおと→まひは、そこそこ知られている戦法だ
 はまれば確かに能力者でも封殺出来なくもない、わたほうしで念を入れていた
 回復系統の能力でなければ勝てたかもしれない、しかし勝負にかも・たら・れば・もしはない


 そして、結果が訪れる相手の指示が飛ぶ瞬間のことだった

 相手に逆風、冷たい風が吹いた
 きざな男にとっては追い風、その風を全身で受けてマントをはためかせる
 その風によって相手のポケモン達が何かによって、ダメージを受けているようだ

 ピシュピシュッと相手のポケモンに当たって跳ね返った何かをぱしっとつかむのと同時に、きざな男は後ろを振り返った
 本当にその2つの行動は同時で、つかんだものを確認するまでもなく後ろにあるものを確信していた

 「おお・・・!」

 それは夢にまで見た光景
 凛々しく、美しい水晶のような身体
 北風の化身とも言われる、今まで追い求めてきた伝説のポケモン

 きざな男はたっぷりの感嘆と歓喜を込めて、その名を呼んだ

 「スイクン!」

 「なっ、スイクンだと!?」

 相手が驚くのも無理はない
 ジョウト制圧以降、これまで確認されてこなかったポケモンがどうして今、ここに現れたのか
 しかし、きざな男は全てを察したようだ

 「私と共に戦ってくれるのだな。ありがとう、私のすべてをきみに捧げよう!」

 薔薇を相手にさし向け、傍らのスイクンと共に堂々とした勝利宣言を高らかに言う

 「私の名前はミナキ、スイクンハンター。
いや今からこう名乗ろう!
 スイクンマスター、ミナキ!と」

 きざな男の名はミナキ、長年スイクンを追い求めてきたロマンの快男子
 スイクンにすべてを懸けてきた
 そして、発現した能力でさえ・・・・・・!

 「私の能力は『愛しき北風』。
 スイクンのステータス補正をかけ、彼を更に強くする」

 彼の傍らにいるスイクンの身体に力がみなぎり、その輝きを増した
 オーラではなく本当にキラッキラッと周囲を舞うそれは、凍結した水だ
 スイクンは自身の周囲にある水分を結晶化させ、かぜおこしで飛ばすなどして攻撃に転化することも出来る

 「きみの名前を教えてくれないか? いつまでも名無しでは戦いをスイクン一代記の1ページへ残すにしまらないからね」

 「いい気になりやがって。俺の名前はアーナイ、そいつにまず刻まれるのは画期的な大敗にしてやるよ」

 アーナイのポケモン達が技を放つ構えを取り、指示を待つ
 ミナキはその身体を歓喜に震わせながら、スイクンに技の指示を出す

 
 ・・・・・・


 セキチクシティ

 「風切!」

 「っと、危ないな〜」

 高速突進してくるエアームドを真正面から受け止めたのはランターンだ
 この特能技は先程一回受けたが、タイプ相性によって半減した
 ふっと勝ち誇ったような笑みを見せ、余裕そうにしていたが読みは外れてランターンが吹き飛んだ
 
 「!」

 「あまりみくびらないで貰いたいな。この技は素早さが上がると、威力が上がる」

 「なるほど」

 ランターンが体勢を立て直し、ほうでんを放つ
 するとその電撃は途中で何かにぶち当たり、はじけた

 電撃によって焦げた何か、薄いブーメランのようなぼろっと落ちてくる
 あれはエアームドの抜け落ちた羽か、あれを武器に加工するのはそういえばテレビ中継で見た
 こうそくいどうで羽根を落としつつ、その移動する風などで辺りを旋回させていたようだ
 ダメージなどはとても見込めないが、なるほどこんな形で役立つこともあるのか
 これならほうでんより、突進する形のスパークのままが良かったかもしれない・・・レベルが上がって忘れさせちゃったのが痛い
 
 あちこちはねた金髪、青紫の瞳を持った小隊長リツの相手はジョウト地方ジムリーダーのハヤトだ
 ポケモンリーグでエキシビジョンマッチに出ていたこともある、名前や戦法はよく知っていた

 「(しかも、ジムリーダーのくせに私よりポケモンのレベルが低いから能力発動できないし)」

 僅差、それも1か2の差
 だが、相手のポケモンのLvの方が低い

 「(ここまで侵入してくるんだったら、もう少し鍛えておきなさいよね)」

 しかも相手はこうそくいどうといったステータスを、威力そのものを上げられる特能技を使ってくる
 レベル差なんて、無いに等しい

 「(レベルによってアドバンテージを取る、それが私のトレーナー能力『下剋上』だってのに・・・)」

 自分のポケモン>相手のポケモンというLv差なら、それをそのまま活かして押し切る
 相手のレベルの方が高かった時、リツの下剋上という能力が発動
 技の威力が通常の約1,5倍となり、そのレベル差を補って・・・アドバンテージを得る
 
 だから弱点は1,5倍では埋まらないほどのレベル差があることか、もしくは同等くらいの実力者
 後者は特に勝敗を分けるものが、運や根性といった不確定な要素も絡んでくるから嫌だった
 運や根性そのものを毛嫌いしているわけではない、任務といったものは確実にこなすべきものだから不確定要素は好ましくない

 ハヤトは飛行タイプの使い手、タイプ相性はまだリツにアドバンテージがある
 あとは先程の羽根ブーメランのような戦術や陣の組み合わせ方、そこで勝負がつきそうだ

 「苦戦しているようだな」

 リツの背後に現れたのは、彼女と同じ団服を着た女の子
 部隊は違えど、腕輪の数が同じなのでちょっと見知った顔だ
 
 「セッカ。受け持ちはどうしたの」

 「上からの指示で侵入者に合わせて各町の人員を交換しているのよ」

 「なるほど・・・」

 ハヤトはそのやりとりを聞いて、目を剥いた
 ただでさえ組織の方が人数が多いのに、そんなことされていたらますます侵入者側が不利になる
 ただ倒すだけじゃ駄目、なのか・・・・・・

 いくらポケモンを気絶させようが能力者自身に立ちあがり逃げる余力を残したら、他の街に派遣された皆が危なくなるのだ
 となると、能力者も気絶かそれと変わらないくらいの怪我・・・バカな、出来るはずがない
 トレーナーへの攻撃は技の規模が大きなものなら、普通のポケモンバトルでも余波ではありえることだが・・・まさか故意にすることなんて

 『迷っちゃいけねぇやハヤト! 今はとにかくこいつらを倒すのが先決! その後の沙汰は追って決めりゃいい』

 エアームドが叫ぶと、ハヤトはぱしんと自身の頬を挟み込むように叩き気を取り直す
 能力に呑まれちゃいけない、使い方を誤ってはいけない

 理性こそ善、人間は見境も分別もない獣ではないのだから

 とにかく今は相手のポケモンを一刻も早く倒すこと
 しかし、相手となる2人が両方とも女の子とは・・・・・・ハヤトとしてはちょっとやりづらい
 もしかしたら、そういう意味での交換なのか

 「ムウマ」

 「ランターン」

 セッカもポケモンを出し、ランターンと何か画策したようだ
 相手が2人になったのなら、とハヤトもエアームドに続いてドードリオを出す
 3つの頭を持ち、普段は3つの口で喋ることやかましいのこの上ない
 
 『『『・・・・・・』』』

 しかし、戦闘中はそのお喋りを3つの頭すべてがやめて寡黙になる
 その3対の眼で敵の一挙一動を見逃さない、抜群の集中力と観察力を持っているのだ

 「シャドーボール」

 「れいとうビームね!」

 「エアームド、風切! ドードリオはトライアタック!」

 ドードリオの3つの頭から3種類のエネルギーが、絡み合ってひとつのタイプにまとめあげられる
 タイプはノーマルに、しかし3種類の追加効果は残して

 エアームドはシャドーボールに頭から突っ込んでいき、トライアタックはれいとうビームとしのぎ合う
 逆だったら危うかったが、その判断は流石だ、ハヤトは誤らなかった
 更に言えばハヤトのポケモン達、ちょっと特殊な意思疎通も出来ることもあるかもしれない

 タイプ一致のトライアタックが不一致のれいとうビームを呑み込み、威力を増したそれが女の子2人をめがける
 れいとうビームを吸収したからか、トライアタックから強烈な冷気が吹き荒れる
 
 それだけではない、誘発されたのかもしれない
 追加効果だ、運がいい

 「う・・・っ」

 「ムウマ!」

 リツは、だから嫌なのだ
 こういう運ってやつが、あんまりにも自分に向かないものだからぁ!!

 バシュウウウゥウと白い突風がハヤトを襲い、すぐに顔を覆う
 威力も上がっている、その余波でトレーナーの足元だけでもこおり状態になってくれればしめたものだ

 「無事でいてくれよ、皆・・・!」
 


 
 
 To be continued・・・
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