〜更なる高みへ/004〜




 「もっとポケモンバトルを楽しめよ! それが能力者同士の闘いであっても、いつもと変わらないだろう?」





 ・・・・・・


 裏庭でのバトルを終え、皆は争うようにリビングのソファーに座り合った
 それだけもうへとへとなのだが、ガイクは平然と言った

 「おい、2階行くぞ」

 「へ?」

 「風呂の前にトレーナー自身も鍛えて貰う。それといつまでものびてる莫迦も叩き起こしといてくれ」

 ガイクが階段を登っていく、皆はちょっと嫌な予感がした
 いつまでものびている莫迦・・・ゴールドを、ブルーは面倒臭そうにピッくんのおうふくびんたで起こした

 というか、「トレーナー自身」を「鍛える」ときて、確か2階にあるものは・・・・・・

 「「「筋トレ〜〜〜〜〜っ!!?」」」

 「まぁ、妥当だよな」

 「ああ」

 レッドとグリーンが階段を登ると、皆も渋々そのあとについていく
 特に女性陣はそれについていけるのか、と正直不安でしょうがない
 しかし、周りが頑張っているのだから負けてもいられないと心の中で意気込んだ

 「2階に上がるのは初めてですよね」

 「ま、ねぇ・・・」

 イエローはちょっとワクワクしているようだ、その気持ちはわからなくもないのだが・・・
 ガイクは案の定、食堂の上に当たるであろう場所の扉の前で待っていた

 「察しの通り、風呂の前に筋トレをしてもらう。
 常に変化するバトルにおいて、重要なのはトレーナー自身の体力もあるからな」

 「うぇ〜い」

 「ま、最初の内はキツいことはやらないつもりだ。やり始めからくじけてもらっちゃ困るんでな」

 もう皆、最初からくじけそうな顔をしているのですが・・・
 そんなことを気にせず、ガイクがある意味恐怖の扉をがちゃりと開けた


 扉の先、部屋の中にあったのはかなり充実した設備のトレーニングルームだった
 素人でもこの器具の名称は知らなくても、使い方は知っているという有名なものまである
 参考までにそれらの器具の名称を挙げておこう
 ルームランナー、エアロバイク、ステッパー、トレーニングマシン、エキスパンダー、ストレッチベンチ、ダンベル・バーベル類などだ
 何故か鉄下駄やサンドバック、腰を細くするベルトマッサージャーなんかもあった

 「・・・個人の持ち物としては多すぎるし、豪華すぎるんじゃない?」

 「あ、アレってこの前の通販で見ましたよね。腹筋とか鍛えるア○トロニック」

 「・・・・・・総額いくらぐらいだ?」

 「少なくとも、3桁はいくだろうな・・・」

 「100円ッスか?」

 「さて、先ずは各器具の使い方から教えるぞ」

 ガイクが1つ1つ丁寧に使い方を示し、1人だけそれをお試しにやらされる
 ・・・・・・ア○トロニックやシェイプアップ器具であるベルトマッサージャーにおいては、女性陣が争うようにしてやりたがったのは言うまでもない
 

 そんな風に一通り試し、あとは各自トレーニングルーム内での自由行動とした
 初日は特に指示をしないということなので、各自が興味を持ったものや自身に足りない筋肉を鍛えられそうなものを実践した
 レッドはストレッチベンチ、グリーンはバーベル、ブルーはエアロバイク
 イエローは軽めのダンベル、ゴールドはガイクの指導を受けつつサンドバックを叩き、クリスはステッパーというのをやった


 皆が汗だくだくにやっていると、ガイクが時計を見て、言った

 「そろそろ風呂の時間だな」

 この言葉に皆がぴくっと素速く反応し、ガイクの方を見た

 「言ったと思うが、風呂はまだ男女完全時間交代制だ。おおよそ30分交代でな。
 そこで今日だけ、じゃんけんか何かをしてもらって、先か後かの順序を決めてくれ。
 先に入った方は、風呂から出たら・・・後に入っている方が出てからの夕食まで自由行動。
 後に入る方は先に風呂に入られている間、ここで筋トレを継続し汗を流し続けてもらう。
 ただし、今日先に入った方は、明日は後に入って貰い、公平を期する」

 ・・・と、ガイクが説明を終える前に、既に男女分かれてのじゃんけん大会が始まっていた

 「勝つわよ!」

 「おー!」

 「負けるな男子!」

 「おー!」

 「・・・・・・お前ら、そのやる気を普段の修行に活かしてくれよな」

 ガイクの呟きも聞こえず、皆が「せーのっ、ジャン・ケン・ポンッ」とトレーニングルームの中心で風呂と叫んでいた





 ・・・・・・


 「・・・ああ〜、生き返るわぁ」

 「気持ちいい〜」

 勝ち組、女性陣のブルーとイエローが風呂に入っていた
 勿論、一旦部屋に戻って着替えを取り、ガイクが用意してくれた山程の清潔なタオルを持った上でだ
 午後から夕方にかけて、汗だくになっていたのだ・・・風呂に入ることが物凄く気持ちいい
 風呂は普通の家の2,3倍は広く大きく、ゆったりと浸かることが出来る

 「ここんちのおばあちゃん達は先入ったのかしら?」

 「みたいですよ。ボク達に合わせてくれてるらしくて」

 ブルーが「ふ〜ん」と答え、湯船から上がった
 シャンプーや石鹸、ボディソープ類もなかなか揃っていて(おそらく皆のために買って用意してくれたのだろう。まさにいたせりつくせりだ)、どれがいいのか迷ってしまいそうだ
 それでもブルーは、いつも使っている製品がなかったので、自分の髪質に合いそうなものを選んで使った
 イエローはその辺がよくわからないので、適当に目についたのを使ってみる

 「・・・そういえば、クリスは?」

 「脱衣所までは一緒でしたけど、『お手洗いに行くから、先に入っててくれてもいい』って言ってました」

 「・・・・・・30分交代よね?」

 「ええ。お風呂に時計がないのでわかりませんけど」

 ブルーは首を傾げつつ、「変ね」と呟いた
 そして、今こうして入っている間、男連中はまだ筋トレをやっているのかと思うと、少々早めに出てやっても良いかと考えた
 髪についたシャンプーを丹念に洗い流し、ブルーとイエローはもう一度だけ湯船に浸かり、さっと出た


 一方、負け組の方は・・・ガイクがいなくなった後も、筋トレを続けさせられていた

 「先輩、サンドバック叩くのも面白いッスよ!?」

 「そうか。じゃあ、今度叩き方を教えて貰ってからやるよ」

 結構、性に合っているのか・・・見張りがいなくとも真面目に続けられた
 特にゴールドは興味が沸いたものに関しては物凄い集中力を見せる、これに関しても例外ではない
 シロガネやまの修行の時も、今と同様にお腹が空いたのも忘れて続けたほどだった
 バシバシッと先程とはうってかわった力強い音が部屋の中にこだまし、レッドは感心した

 「・・・うわ、男くさぁ〜」

 ブルーとイエローがトレーニングルームの中に入ってきた、しかしその汗臭さに顔をしかめ鼻をつまんだ
 男連中もその声に気づき、部屋の入口に顔を向けた

 「・・・・・・」

 「? 何よ」

 普通に風呂上がりの女の子を見る機会がないので、少しだけ見とれてしまった
 汗で濡れた髪とは違い、普段見ている時より・・・何だか色っぽい
 とりあえず、筋トレを軽いストレッチをしてしめ、タオルで出来る限りの汗を拭った

 「シャワーでも浴びたら?」

 「いや、もう風呂に入れるんだろ? なら、いいよ。着替え取ってこなきゃ」

 「あ、それなんですけどクリスさんが遅れて入ってるので、規定通りあと5分は待って下さい」

 ブルーとイエローが身体を拭き、着替えたところでクリスが顔を見せたのだ
 それから「時間通りには出ますので、皆さんにそう言っておいて下さい」と言った

 「・・・そっか」

 「てなわけで、アタシ達はリビングでくつろいでるから。ていうか、風呂入った後、下着姿とかでうろつかないでよ。セクハラで訴えるからね」

 ブルーがズビシと言うと、男連中が「誰がッ!」と反論した
 と、レッドが1人・・・くんくんと鼻を鳴らしている

 「?」

 そして、無意識なのだろうが、ブルーとイエロー首筋に近寄り言った

 「・・・・・・いいにおいがする」

 「はひっ!?」

 「セ・ク・ハ・ラァッ!!」

 バキッとブルーに問答無用に殴られ、イエローはおびえてその後ろに隠れている
 おそらく、シャンプーのにおいが普段と違い、敏感に察したのだろうが・・・タイミングが悪すぎた
 そのパンチを見て、ゴールドがきらきらと「サンドバック、ブルーさんならイケるッスよ!」と言った
 勿論、2人共その誘いを遠慮して、リビングにてくつろぎモードに入るため、一度書斎の方へ寄ってみることにした

 残された汗臭い人達は、それを見送ってから言った
 
 「・・・まぁ、部屋に着替えを取りに行くぐらい問題はなかろう」

 「・・・・・・テテテ、あーそうだな。そうするか」

 レッド達は階段を下りて、自分の部屋に着替えを取りに戻った
 ちなみにグリーンの荷物はまだリビングの片隅に置かれているので、内心では早く部屋の片付けが終わって欲しいと願うのだった・・・





 ・・・・・・


 「おい、お前ら、昼と同じ席に座れよ。名前札が置いてあるだろ?」

 待ちに待った夕食の前、ガイクはそんなことを言った
 長方形型の机に置かれたそれぞれの名前札と共に、夕食が置かれていた

 「そうなの? あ、ホントだ」

 「なんだよ、好きに座らせてくれたって良いじゃん」

 「まぁまぁ」

 レッド達も風呂から上がり、汗臭くもなく爽やかになっている
 育て屋老夫婦やガイクはとっくに着席しており、皆も少し慌ただしいがなんとか席に着いた

 「では」

 ガイクがそう言うと、皆が同時に言った

 「「「「「「「「「『いただきます』」」」」」」」」」

 挨拶の後は、早速自分の皿を取り、勢い良く食べ始めた 

 「おいおい、よく噛んで食えよ。それと味付けに関してなら、どんどん文句言ってくれ。好き嫌いは許さんぞ」

 「ねぇッスよ、嫌いなものなんて! それよかお代わりはあるんッスか!? メチャうめーッスよ!」

 「ゴールド、もっと行儀良く食べなさいよ!」

 『本当に美味しいね。皆とは食べてるもの違うけどさ』

 「ちょっと吸い物が濃いかなぁ・・・って、あれ? シショーも同席してるんですか?」

 「特例だそうだ。・・・・・・味噌が甘い」

 「お代わり良い? もうちょっとだしが濃くてもアタシは好き」

 「うわ、ブルー早っ! え、あー吸い物はちょうど良いと思うけど・・・」

 皆がわいわいと食べるのを見て、老夫婦は「久し振りじゃのぅ、こんなに騒がしい夕食は」と楽しげにしみじみ言った
 あんまりにも行儀が悪く、クリスの注意も聞かないとガイクに「明日の飯抜きにするぞ!」と怒鳴られる
 すると、もう何も言い返せない・・・現時点、最強の台詞だ

 本当に楽しい夕食だった





 ・・・・・・


 「・・・レディー」

 ごくりと皆がつばを飲み込んだ

 「ゴッ!!

 レッドとガイクがぎりっと右腕に力を込め、周りも緊迫した雰囲気に包まれる
 そう、2人は腕相撲をやっているのだ


 勿論、事の発端はゴールドで、久し振りに腕相撲大会をやらないかと皆に提案したのだ
 リビングでめいめいくつろぎ、疲れていた皆だが、やはり面白そうだと言うことで始めた
 その時、忙しそうに家中を往復しているガイクも誘ったのだった

 「負けるなーっ! 先輩!」

 ゴールドの応援にも熱が入ったが、勝ったのは結局がいくだった
 が、かなりの接戦であり、腕力だけならひけをとらないらしい
 折角、風呂に入ったのに、また少し汗をかいてしまったレッドだった・・・

 『結果はガイク≧レッド>グリーン>ブルー>ゴールド>クリス>イエロー。
 また力の差がよく出るねぇ、順位変動も殆ど無いし・・・』

 「ですねぇ。ボクももうちょっと腕力つけたいなぁ」

 参加出来ないシショーと早々と負けたイエローはガイクが用意したお茶なんかを飲み、一番くつろいでいた
 その唐突な大会が終わると、ガイクは「明日も早いぞ」と言い、皆もそれもそうだと各自部屋に戻っていった





 ・・・・・・


 「・・・成る程、随分と数は倒したのか」

 「まぁな」

 自分の部屋のないグリーンが、ようやく暇になったガイクとリビングで話をしていた
 その手には琥珀色の液体と氷の入った飲み物があり、机の上には軽めの夜食があった
 2人はソファーに向かい合いながら座って、何やら話し込んでいる
 時刻は11時50分といったところだ

 「なぁに話してんの?」

 ブルーがひょっこりと2人の顔の間から、その顔を覗かせた
 流石に驚いたらしく、少し身体を仰け反らす

 「今まで闘ってきた能力者とその能力だ。詳しく話して、向こうの戦力分析でもしようと思ってな」

 「それでこんな遅くまで? 明日、起きられなくなるわよ」

 「心配ご無用。俺は起きる」

 ガイクが平然と言ってのけると、手に持っていた液体を飲んだ

 「・・・なぁにそれ」

 「烏龍茶だ」

 にやりとグリーンがブルーに差し出すと、ブルーはくんと鼻を鳴らし嗅いでみた
 少々思案した後、「アタシにも一杯頂戴」とのり、机の上の夜食をつまんだ

 「・・・疲れてない?」

 ブルーがグリーンにそう訊き、ガイクはブルーに氷の入ったコップを渡した

 「別に。先生の修行に比べたら、な?」

 「・・・そうだな。あれはキツかった」

 「ふーん。なら、いいんだけどさ」

 流石に1人だけソファーで寝かせるのも気が引けるらしい、勿論皆も内心はそう思っているだろう
 ガイクはまた「黙っててやるから、今夜だけでも部屋で寝かせて貰ったらどうだ?」と言う
 ブルーがしかめっ面になると、ガイクもそれ以上何も言わない

 「そういえば、ブルーはどうして起きてきたんだ?」

 グリーンの今更なツッコミに対し、ブルーがうっと詰まった
 目を逸らし、「お手洗いに決まってるでしょ」と言うが、もはやその言葉に説得力が無い   
 それ以上の追求はせず、グリーンはコップの中の氷を動かし、からんと音を立てた


 「・・・むにゃむにゃ・・・」

 今度はイエローが目をこすりながら、手に毛布を持って引きずり現れた
 3人があきれて、「どうした?」と訊くと、向こうは何も言わずにお手洗いの方へ向かった

 「まだ半分寝ているんだろ」

 「ていうか、夢遊病とかじゃないわよねぇ?」

 ガイクが「何だそれは」と訊くので、簡単に『ちー島』での出来事を説明した
 それを聞き、何故かガイクは頭を抱えてしまった
 と、同時にイエローがお手洗いから戻ってきた

 「・・・・・・あれぇ、なんでみんにゃ起きてゆんでしゅか?」

 「もうすぐ皆も寝るわよ。それより、飲む? 烏龍茶」

 ブルーがイエローにそう勧めてみたが、「怪しいんでやめときゅましゅ」と断られた
 が、何を思ったか・・・いや無意識か、机の上の夜食を一口だけつまんだ
 そして、また半分寝た状態で自分の部屋に戻っていった


 柱時計から、0時の鐘が鳴った

 「・・・んじゃ、今日はお開きにするか」

 ガイクはそう言って立ち上がると、ブルーもコップの中のものを一気に飲み干し、さっさと部屋に戻ってしまう
 グリーンはやれやれとその置いていかれたコップをガイクと共に片付けに、台所へ向かった・・・




 
 ・・・・・・


 〜本日の夕食〜

 ・精米したての炊きたて御飯
 ・メロウとえびのほうば焼き(メロウとは「いかなご」という魚の別称、ほうばとは「朴葉味噌」のこと)
 ・季節の野菜と鶏肉のかきあげ
 ・かぼちゃの煮付け
 ・お吸い物
 ・こかぶとゆずの酢の物
 ・チーズケーキ
 ・ほうじ茶
 ・麦茶
 ・冷水


 〜本日の夜食〜

 ・自家製ソーセージ盛り合わせ
 ・烏龍茶(?)
 ・冷水

 



 To be continued…



続きを読む

戻る