〜更なる高みへ/008〜




 「・・・・・・」





 ・・・・・・


 「・・・お、帰ってきた帰ってきた」

 ガイクが嬉しそうに、へろへろになってこの家に戻ってくる者を視認した
 正確に言えば、へろへろなのはトレーナーであり、手持ちポケモンに乗せて貰っているのだ

 「何だ何だ、だらしねぇなぁ」

 「すみません・・・」

 どどすけに心配されながら、イエローが目一杯笑って見せた
 が、ガイクの眼は誤魔化せなかった

 「能力を使ったな」

 「え」

 「使ったんだな」

 ガイクにずずいっと迫られるが、どどすけの上にいるイエローは逃げることさえかなわない
 しかも、その眼で睨まれ見られると、正直・・・誤魔化しきれないのは明白だった

 「・・・・・・はい。なんか野生ポケモンに急に襲われて、その・・・」

 「言い訳無用」

 ガイクに小さな頭を鷲掴みにされ、ぎゅうっと指先に力を込められる
 それだけでも充分なペナルティーに匹敵する程で、まるで孫悟空の輪だ

 「ごごごごごめんなさい〜〜〜〜〜っ!」

 「能力の使用禁止は、お前の為を思って言ってるんだからな。
 ほら、リビングに麦茶とタオルを用意してあるから。汗かいたんなら、2階行ってシャワーでも浴びてこいな」

 ガイクのその言葉にイエローはこくこくと肯き、どどすけをボールに戻して家の中に入っていった
 ちらりと腕時計を見てみれば、時刻は12時ちょっと過ぎ・・・皆もそろそろ戻ってくるだろう

 「・・・・・・お、2人目だ」

 ぶんぶんと手を振りつつ此方に向かっているのはレッドだ、足下にはエーフィがいた
 一眼見た限り、何も変化がないようだが・・・・・・今日の所は仕方ないだろう

 「どうだった」

 「やっぱ時間が足りないかなー、初日に2時間だけってのは・・・」

 レッドが悪びれなくそう言うと、ガイクはふむと一考した

 「他に誰か帰ってきた? ていうか、中に戻ってても良いか?」

 「ああ、リビングに麦茶とタオルが用意してある。
 先にイエローが戻ってる。1階にいなきゃ2階でシャワー浴びてるんだろ、のぞくなよ」

 「だ、誰が!」

 レッドは名の如く顔を真っ赤にし、心外だと言わんばかりに大股で戻っていった
 ガイクはくわえタバコを上下に揺らしながら、何もしないで待つ時間が無駄だなと、先程の大工仕事をすることにした
 その準備を始め、釘と金槌を手に取ったところで、雲とは違う形の影が出来た
 上を見るまでもなく、羽音でわかった

 「リザードン。グリーンか」

 「ああ」

 「イエローとレッドが先に戻ってる」

 「そうか・・・」

 「・・・さてはお前か、イエローをいぢめたのは」

 「いや、修行だ」

 しれっとグリーンが言ってのけると、ガイクは苦笑した
 そして、またガイクは何事もなかったかのように大工仕事に取りかかった

 「・・・何を造っているんだ?」

 「イイモノさ」

 「・・・・・・」

 グリーンもそれ以上の追求はせず、リザードンをボールに戻しすたすたと中に入っていった
 またその入れ替わりで、ゴールドが現れた・・・が、いちいち作業を中断するのはシャクなので、顔を上げず言った

 「早かったな。てっきり、一番遅く帰ってくると思ってたんだが」

 「へっ、腹が減っては戦は出来ぬってね」

 ひょいっと顔を上げ、ゴールドのポケモンを視ると、少々驚いた

 「・・・大分経験値が上がっているな。ソーナンスを倒せたのか?」

 「いんや、まだッス。倒してぇのは山々なんスが、先にレベルを上げとこうかと」

 「の割には、経験値の伸びが良いのはバクフーンなんだが?」

 ガイクの眼の前では嘘も何もつけない、ゴールドはぎくりと反応を示した
 勿論、「たまたまッスよ。タイプ相性的に出さざるを得なかったんッス」と反論した
 おそらく、その言葉に嘘はあるまい・・・あの深いヤブがある付近はくさタイプが多いからだ

 「まぁ、中に入って皆を待ってろ。全員が揃うか時間になったら昼食だ」

 「うぃーッス」

 と、ゴールドが中に入ろうとした時、ブルーとクリスが同時に戻ってきた

 「たっだいま〜・・・って、何よ。キングラーみたいなポケモンが、何であんな小さな池に棲んでいるのよ!」

 何やらよくわからない逆ギレに、ガイクはさらりと無視した

 「・・・ブルーのケーシイがユンゲラーに進化してるな。クリスは・・・ボールを使い切っちまったのか?」

 しょぼんとしているところを見ると、本人からしてもそれは不本意なことだったらしい
 どうやら、また新たな課題が出来てしまったようだ・・・

 「ん、時間も頃合。昼食にしよう、そんで午前の報告を聞きましょう」





 ・・・・・・


 「どうだ? 午前の修行」

 「あのソーナンス、反則級ッスね。絶対に負かせてやる!」

 「同時攻撃も効かないのか? ・・・PP切れを狙うっつー手もあるけどな」

 「先輩、それは男として負けッス。逃げッスよ」

 「そうか? まぁ、確かに強くはなれねぇな。だったら、自力で頑張れよ」

 「うッス! ていうか、誰もあいつに手出ししないでくださいよ?」

 『誰もしないよ、そんなこと』

 「・・・あれ? シショー、今まで何処にいたんです?」

 『酷っ! ここに来てから、なんか扱い酷くない!? 確かに言われても仕方ないんだけどさぁ、もっとオブラートに包むように・・・』

 ゴールド、レッド、シショー、イエローが別の話で盛り上がってしまい、ガイクは改めて他の人に訊き直すことにした

 「・・・で、実際修行はどうなんだ?」

 「悪くはないと思う。ただ、これはほぼ100%自分任せ、個人差がな・・・」

 「ちょっと時間もねぇ・・・」

 昼食を取りながら、午前中に起きたことをガイクに報告する
 それは勿論、老夫婦達の参考意見にもなる
 第三者から見た養育場の印象やポケモンの生息状況を知ることで、また新たな改善をガイクに押しつけら・・・伝えられるからだ

 「・・・そうか。なら、提案なんだが、このまま午後もこの修行を続けないか? いっそ、1日中に」

 「あ、それいいかも」

 「でも、良いんですか? 本来の午後の修行とかは?」

 その疑問は尤もだが、ガイクは言った

 「いや、数種類の修行を1日に詰め込むより、1つに絞った修行を1日中やった方が集中や成果が出やすそうだな、と思ったんだ。
 そもそも俺はポケモンを育てるのは得意だが、人を育てるのはあまり経験が無くてな」

 「うん、俺もガイクの意見・・・午後、夜と引き延ばすのに賛成。
 ここ広いし、たった2時間じゃ修行の消化不良起こしちゃうよ」

 レッドの同意を機に、皆も迷いながらもそれに賛成・賛同した

 「じゃあ、変更しよう。午後のこのまま午前の修行を続行、ルールは変わらない。
 3時〜4時に一旦ここに戻ってくれば、何か軽くつまめるものでも作って待ってる。休憩も重要だからな。
 夕食は7時〜8時だが、その1時間半前には戻ってくるように。風呂の時間と筋トレがあるのを忘れるなよ」

 そういえば、筋トレというのもあったんだった・・・・・・皆の顔がやや引きつった
 こういうものは毎日規則正しくやらないと効果が上がらないから、仕方ないと言えば仕方ないのだが
 ただゴールドだけが、またあのサンドバッグを殴れることに目を輝かせていた
 
 「夕食後は各人の自由時間だが、裏庭に出るのも構わない。ただし、照明設備はないから、間違えて海に落ちたりするなよ。
 ・・・脅しじゃない、故に夜間での行動は2人1組か3人1組ですることが絶対条件だ。
 その際、きちんと何時何分に誰と組みここを出て、何時何分にここに戻ってきたかを、ノートを見える位置に置いておくからそこに面倒臭くても記入すること。
 それと用心とお前らの健康の為だが、0時以降の外出は禁止。(0時に帰り、シャワーを浴びることを考慮に入れ)シャワーも午前1時は止めさせて貰う。
 以上だが、質問は?」

 ゴールドがスッと手を挙げ、言った

 「夜出る前に、夜食とか弁当みたいなの作って貰えます?」 

 「欲しいなら作ってやる。ただし、朝食に差し支えない程度のものだぞ」

 「充分ッス」とゴールドが質問を終えても、他の皆は黙っている
 これ以上の質問は無いようなので、昼食の片付けと共に話を打ち切った
 



 
 ・・・・・・


 「とりあえず、ゴールドはポケモンセンターに行っておけよ?」

 ガイクが眼で視て、そう言った
 そういえばソーナンスで殆どの技を何度も何度も試し、そろそろ体力も限界に近かった・・・
 1人が外へ行くというと、何故か数人がぞろぞろとその後についていってしまう
 最も、本当は誰もがPPを消費しているので、一度は行っておいた方が良いだろうとは思うのだが

 「やれやれ・・・」

 殆どの者がポケモンセンターに行くのを見送った後、ガイクはソファーに座り込んだ
 まだ皿洗いも残っているし、そう長くは休んでいられないのだが・・・くわえタバコが上下に揺れた
 
 「5号室の片付けはまだ終わらないのか?」

 そんな時、隣に座っていたグリーンが珍しくそう急かすと、ガイクは「悪いが、まだだな」と告げた
 流石にソファーで寝るのはキツかったか、首筋をかきながら別案を考えてみる

 「・・・俺の部屋で寝るか?」

 「お前と同じベッドで寝るのはごめんだな」

 どうやら、ダブルベッドであることを見抜かれたらしい
 最も、シングルベッドでは身体が大きい分、少し窮屈に感じるのでそうしたまでで、別に他意はないらしいのだが

 「じゃ、ソファーで我慢してくれ。明日には終わらせてやるから」

 「頼む」

 「それとも何か、ソファーのほうが夜這いされるには都合が良いか?」

 ピキッとグリーンの額に青筋が出るのを確認すると、つくづく堅物な奴だとため息を吐いた
 そもそも、レッド達はこういう冗談を真に受けやすく、また反発しやすい・・・からかいがいのない人達だ

 「(少しぐらい、意識してもおかしくはねぇんだがなぁ?
 いくら堅物や鈍感でも、男は男、女は女だし。ちっとは男女として、気になるやつぐらいいねぇのか?
 男女七歳にして席を同じゅうせずっていうくらいだ、年頃の男女が集まって同じ旅してて・・・何も感じないってわけでもあるまいし)」

 皆の生活を見ている限り、まぁそのような微妙な雰囲気を持っている面はあるが・・・どうも何か違うようにも思える
 もしくは、本当に純情というか・・・そういうことには全く興味を持たない朴念仁の集まりだとでも言いたいのか

 「(・・・ま、それ関係の揉め事を起こされるよりは幾分マシか。それにアレの都合上、そっちの方が良いかもな)」

 「何か変なことを考えてないか?」

 「いや、別に」

 妙なところで鋭いグリーンだが、ガイクはこういう奴程女心はわからねぇんだよな、と勝手に思っていた
 グリーンは何を思ったかすくっと立ち上がり、すたすたと2階の書斎へと上がっていってしまった
 ガイクも立ち上がり、皆がポケモンセンターから帰ってくるまでの残り数分間で、残っている皿洗いをすませてしまおうと立ち上がった・・・ 





 ・・・・・・


 皆がまた裏庭に集合し、ガイクは腕時計を見ている

 「・・・んじゃ、現在午後1時15分。くれぐれも無理はするなよ」

 正確に時間を計り、秒読みをし、言った

 「午後の部スタート!」





 ・・・・・・


 〜本日の昼食〜

 ・精米したての炊きたて御飯
 ・春野菜と赤魚のうすくず煮
 ・飾り冷奴(豆腐を4つ切りにし、真ん中をくり抜き具材を入れた変わり冷奴/具は梅干し・明太子&大葉・紫玉ねぎ&かつおぶし・ごまペースト・海苔の佃煮)
 ・わかめとねぎとふの味噌汁
 ・お漬物
 ・緑茶
 ・ほうじ茶
 ・冷水




 
 To be continued…



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