〜更なる高みへ/009〜
「午後の部スタート!」
・・・・・・
「だァーーーっ、くそぉ!」
ばたんとゴールドが倒れ、ふてぶてしく寝転んだ
「(どうやっても、勝てねぇ・・・!)」
目の前にはあのソーナンスがいて、深いヤブがあった一帯はもう既に荒野と化していた
バクたろうの炎、ニョたろうとマンたろうの水と氷、ウーたろうの岩、キマたろうの草、エイたろうの爪
これだけの技や属性を総て試し、そして跳ね返されたのだ・・・この惨状は当然のことだろう
ゴールドは最初、レベル上げに専念しようとした
しかし、そうやって倒せる相手だけ倒せていると、必ず脳裏にあのソーナンスの生意気な顔が浮かぶのだ
一度そうなれば、もうレベル上げに集中なんか出来っこない
・・・こうなったら、とことんやってやろうという気になってしまったわけだ
「・・・・・・手前ぇが決めたんだ、最後までやり通さねぇとスジが通らねぇ!」
がばっと起き上がり、それからぐるぐるとソーナンスの周りを回り始めた
いわゆる観察、彼を知り己を知れば百戦殆からず・・・というやつだ
「(このソーナンス、おそろしいことに死角もスキもねぇ)」
たとえ頭上からや背後からでも、どんなタイミングでも瞬時に物理か特殊かを見極めて跳ね返してくる
それを可能にしているのが、圧倒的な経験値とそして・・・肌だ
「(多分、コイツは技を眼で見るんじゃなくて・・・感じてるんだ、肌で)」
的確に素速く指示をするトレーナーがいない以上、それ以外考えられない
おそらく、総てとは言わないが・・・ここにいる様々なポケモンを相手にすることで、それだけ多くの技を体感してきた
故に、何という技ならどのぐらいで返せばいいかを瞬時に判断することが出来る・・・
「(とんでもねぇ化けモンだぜ、コイツ・・・!)」
だが、倒せないポケモンはいない・・・それだけは確かだ
「(無ぇアタマ絞って考えついたのが・・・)」
1つは同時に放った物理・特殊技の当たるタイミングを誤差カンマ0秒で同じにすること
技によっては同時に放っても、同じ瞬間に当たるとは限らないし、レベルや経験値でも差が出てしまう
それらを総て計算に入れることが出来れば、先ず成功するだろう
「ただ、そんな経験や計算の苦手な俺には無理ってことだな・・・」
2つめは相手の判断を狂わせること、すなわち状態異常だ
これはゴールドはあまり好まない、が・・・おそらくレッドやグリーンなどの上級トレーナーが相手にした場合は、この戦法を取るだろう
何しろ、総てにおいて完璧な同時攻撃よりも簡単で確実だからだ
「(んじゃ、3つめってことで・・・)」
ゴールドの言う3つ目とは、すなわち相手の『知らない技』を放つと言うこと
受けたことのない技はタイミングの測りようもなく、また受けるまでタイプも想像出来まい
たとえば伝説のポケモンしか憶えない技、いくらこのソーナンスが経験豊富でも受けたことがないだろう
そういう技なら、ゴールドにもまた心当たりがあった
「レッドさんやグリーンさんみたいな、俺達だけの特能技・・・!」
それならば、もしかしたらこのソーナンスを撃破出来るかもしれない
しかし、はっきり言ってこれは考えたゴールドでも不安でいっぱいだ
何故なら、ゴールドはまだ本来のタマゴ孵化能力の把握すら、というか能力自体まともに使った試しがない
そんな人間が果たしてこんな都合良く、特能技を編み出すことが出来るのだろうか
「やるしかねぇ・・・」
遅かれ早かれ身に付けなければいけない、能力者とその相棒の奥義ともいうべきもの
ガイクを打ち負かし、あの組織の幹部達を倒すのにも必須であるものと言える
しかし、目指すべき道が決まったものの、決定的に足りないものがゴールドにはあった
そして、それを自ら理解していた
ビッとソーナンスを指差し、堂々と宣言し言った
「首を洗って待っていやがれ。今度会う時は、絶対にお前を倒してやっからな!」
ゴールドはくるりと向きを変え、ソーナンスのいるこの辺りを後にした
足りないもの、言うまでもなく経験・・・
ゴールドからすれば、それはあのソーナンスには満ち溢れている
「(・・・悔しいが、ここは一旦退くんだ)」
そういった目標を掲げた以上、先ずは当初の予定通り・・・手持ちのレベルを上げに専念する
そうして最低限の条件をクリアし、いや・・・充分な力をつけてから、またもう一度あのソーナンスに挑む
「(経験の差で負けてんなら、相手以上の経験を積めばいい話なんだからな!)」
これは逃げじゃない
「先ずは・・・」
深いヤブがあった一帯を抜け、ノーマルフィールドの、初日にガイクと闘った闘技場に足を運んだ
そこをキョロキョロとしていると、聞き覚えのあるうなり声が聞こえた
「ニョたろう、ウーたろう、エイたろう、マンたろう、キマたろう・・・そしてバクたろう!」
あのソーナンスを自らの手で倒すという、スジを通す為の・・・
ブモォォオオォオォオォンと地響きと共に聞こえてくる
ガイクの話によれば、この箱庭の広さには限界があるので、一定周期で巡り駆け抜けているらしい
そのスピードとパワー、集団で襲ってくる様はソーナンスとは別の意味で強い
通過点なのだから
「先ずは・・・俺達の特能技GET計画其の1! ケンタロスの群れ100体斬りだ!!!」
ゴールドとその相棒達が、難題である目標を掲げ、無謀な課題に挑戦していく
・・・・・・
「ピカ、『でんじは』!」
バチィッとギザギザの尻尾から放たれた電撃が外れ、目標は素速くレッドの後方に回った
「かかったな!」
ピカが目標の目の前・・・レッドの背後にもう1体いた
そう、先程のは『みがわり』で出来た囮、此方が本体だ
「『10まんボルト』!」
目標にクリーンヒットし、レッドは振り向き様にボールを投げつけた
が、そのボールを相手は噛み砕いてしまった
「・・・げ、まだそんな体力が残ってたのか」
目標の個体名は、『デルビル』
進化していないのだから、そうレベルは高くないと踏んだのだが・・・この箱庭のレベルを甘く見ていたか
ようやく見つけたのだ、逃がす気はない
レッドの手持ちで欠けていたあくタイプとほのおタイプ、この打たれ強さからも素質は充分
「次で決めるぞ」
レッドの言葉に反応し、ピカが身体に力を込め、相手を睨みつけた
デルビルも未だ衰えぬ野性的な判断から、その小さな身体から渾身の力を振り絞り、前へ踏み切り飛び込んできた
「『おんがえし』!」
ピカとデルビルが激突し、またその瞬間にレッドはボールを投げつけた
うまく鼻先付近の当て所に命中し、ようやく素直にボールに収まってくれたようだ
「・・・ふぅっ、手強かった」
レッドは地べたに座り、改めて手にしたボールを投げた
そうして出てきたデルビルは、なんだか最初に出会った頃のピカとそっくりの反応を示していた
「・・・ははっ、これから仲良くやろうぜ。な?」
『ルルル・・・』
じっとレッドの目を見、それから少しずつ近づいてくる
臆病とは違う、冷静に相手を見極めようとしているのだ
『果たして、この相手は群れのリーダーとしてなりえるのか』と・・・
「・・・・・・」
『・・・・・・』
デルビルがレッドの横に座り、ピカと目を合わせ挨拶を交わした
どうやら、認めてくれたようだ
「(うん、別に能力があってもなくても・・・皆、きっと友達になれるんだ)」
レッドはデルビルの頭を撫で、時間を見た
今から戻れば、おやつの時間に間に合うかもしれない
「・・・よし、行くか」
レッドはデルビルとピカをボールには戻さず横に歩かせ、ガイクの家を目指した
勿論、その間に出てきた野生ポケモンを倒しつつ、2体のレベル上げをしながら・・・
・・・・・・
「おいしい〜」
イエローがもぐもぐと小さなパンケーキを食べていると、レッドが此方に戻ってくるのが見えた
手を振ってみると、向こうも手を振り返して応えてくれる
よく見ると、裏庭の出入り口付近に小さな机と椅子が置いてある
どうやらわざわざリビングに戻らなくても良いよう、何処からか出してきてくれたらしい
「・・・なんだ、イエローも休憩か?」
「そりゃあもう」
「修行から逃げてきたんだそーだ」
ガイクがこんこんと手に持っていた木材で叩くと、イエローが「違いますよぅ!」と反論した
が、そう言われてしまうぐらいなのだから、きっと長居しているのだろう
「はは、おやつは何?」
「おいしいパンケーキです」
「小さいからって食べ過ぎるなよ。あくまで夕食までの繋ぎだからな」
と、ガイクが皿に3枚程それを載せ、ことんと机の上に置いてくれた
レッドは椅子を引き、フォークを手に取り食べ始めた
飲み物は紅茶とミルク、レッドはポットに入った温かい紅茶をカップに注いだ
「ガイク、ポケモン用とかない?」
「あるぞ」
ここで出るポケモンの食事も総てガイクの特製、自家製で美味しく安全なものばかりだ
ガイクは見た目も何も、レッド達に出しているものと同じものを同じ皿に乗せ、地面の上に置いた
「ん、これってポケモンも食べられるんだ?」
「ああ。そもそもポケモンにも食べさせられないものを、人間に出すわけがなかろう」
添加物、農薬・・・・・・食べ物にも危険がいっぱい潜んでいる
ポケモンも人間も同じ生き物だから、だから・・・・・・
「うまいか?」
デルビルとピカに訊くと、2体は肯いた
レッドは他のポケモン達も出し、皆でおかわりのおねだりをした
ガイクは何も言わず、きちんと人数分だけ出してくれる
「・・・イエロー、他にも誰か来たのか?」
「ボクよりも早くブルーさんが、3時ぴったりに来たそうですよ。ボクは数分程遅れましたけど。
クリスさん、グリーンさんは来てないみたいで、ゴールドさんはポケモンを含めた全員分を素速く貰って、高速で立ち食いして消えました」
レッドはゴールドとポケモン達のその様と、ガイクの怒鳴り声が響く様を想像して苦笑した
現にゴールドと聞き、大工仕事をしているガイクの耳がぴくりと動いたからだ
「もう3時40分過ぎ・・・。グリーンは甘いもの苦手そうだけど、クリスはどうなんだろ?」
「さぁ? 嫌いでなくとも、食べに帰ってくる必要も無いんですし」
イエローの言葉にレッドが肯く、それもそうだ
「・・・ガイクさん、おかわり良いですか?」
「駄目だ。十何枚目だ、それで」
「10枚も食べてないですよぅ」
「ほぅ、俺がそんな嘘をつくとでも?」
イエローがうっとたじろいだ、レッドも「夕飯入らなくなるぞ」とたしなめた
確かに甘さひかえめでおいしいが、後々お腹にたまってくるはずだ
それにお好みで蜜をかけたり、出来たてのバターをつけて食べるのだから・・・尚更だろう
「(・・・んー、どうしようかな)」
レッドはこれからの予定を考えていた、今は4時10分前といったところか
筋トレと風呂の時間は夕食の1時間半前、というとおよそ5時半・・・・・・それまで何をしていようか
1時間半ぐらいあるなら、また少しだけだがレベル上げに専念出来る
「じゃ、俺は行くか」
「えっ!? も、もうですか!?」
「そりゃそうだろー、修行の途中だもん。時間も惜しいし、残り1時間半だし」
「うー・・・」
イエローが時計とおやつの乗っていた皿を交互に見つめた、まだ未練があるらしい
しかし、また明日も作ってくれるだろうと言うと、イエローも渋々立ち上がった
「あ、じゃあ、イエローの修行にちょっとだけ付き合おうか?」
「え、良いんですか?」
「うん。だって、何も変わってないように見えるし・・・」
ドスッとその言葉がイエローに突き刺さった、やはり図星のようだ
イエローは心優しいから、こういう自主練に近い修行だと、野生ポケモンに情けをかけいまいち成果が出ない
ガイクもその眼で視て、「有無を言わずついてけ」とイエローに忠告した
おそらく、レッドの判断は正しく、同時にその方が良いと判断したのだろう・・・
「・・・はい。お願いします」
「ん。イエローはどんなメンバーが必要なんだっけ?」
「大型ポケモンかパワー系の・・・」
少なくとも、レッドが回ってきた辺りではそんなポケモンを見かけなかった
仕方ない、今日はレベル上げとその指導(ただし、イエローの為にも助言は最小限)に専念しよう
「じゃ、張り切っていましょうか」
「はい」
レッドとイエローはガイクに手を振り、おやつを後にした・・・・・・
・・・・・・
「(・・・そろそろ見えてきたな)」
ガイクは4時になり、グリーンとクリスが来ないのを確認した上で、机と椅子を片付け始めた
「(この修行では試されるものと、確かめるものがあった)」
一応、修行とは銘打ってあるが・・・・・・これは少々間違いだ
野生ポケモンと闘い、そして捕獲し仲間に加えるということだけを見れば・・・そう、普通のトレーナー生活と何ら変わりない
この修行で、ガイクはまだ付き合いの浅い皆のことにより近づき、『普段とその鍛え方』を知ることが出来るのだ
「(クリスは話通り、捕獲癖みたいなのがついてる。仕事にもしているそうだから、簡単にはいかないだろう・・・ある意味、厄介だな。
イエローも心優しすぎるが為、いまいち攻撃が苦手で、その方面に強くなれない・・・)」
本当は午前中で終わらせても良かったのだが、流石に2時間では皆のことを当然の如く把握しきれなかった
あまり格好良い話ではないが、皆も続けたがっていたので、ガイクは都合良くそれに合わせた
そして、今と夜を合わせることで・・・皆の修行と同時に、ガイクもまた今日1日で得た情報から本格的な修行の日程を組み始められる
1人1人の性格、グリーンから聞いただけの情報ではなく、自分で見て思い感じたものも統合した・・・出来うる限りの最高の修行を
「(ま、明日はとっくに決まってるけどな・・・。問題は3日目以降の修行)」
ただ闇雲に野生ポケモンや自分や仲間内などと闘わせれば良いというわけでもない、精神面の方も鍛えていかねばなるまい
「(・・・全員の傾向と対策か。ちょいと七面倒臭いな)」
だが、引き受けた以上、絶対にやり遂げてみせよう
そして、自分に何も教えられることが無くなるまで、あの人の元には行かせはしない
・・・そう、これは精一杯の時間稼ぎでもあるのだから
「(まだ迷っているようだからな・・・)」
ガイクはふぅと息をつき、腰を伸ばし・・・この大工仕事を止めて、夕食の準備に入るべく、中へ戻っていった
・・・・・・
〜本日の間食〜
・パンケーキ(出来たてバター&シロップは自由)
・紅茶(ホット&アイス)
・ミルク(ホット&アイス)
To be continued…
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