〜更なる高みへ/010〜




 「(まだ迷っているようだからな・・・)」





 ・・・・・・


 「・・・さて、と。とりあえず成果を視せて貰うか」

 午後5時35分、皆が無事に戻り、トレーニングルームに集合したところでガイクが言った
 ガイクの能力は発動型、瞬時に皆のデータを視て、順位を挙げていく

 「レッドはデルビル捕獲。ある程度、パーティの経験値も上昇してるが・・・捕獲に集中しすぎたな。妥当で4位だ。
 グリーン。捕獲ポケモン無し。経験値の伸びで言えば、この中で惜しくも2位ってとこか。
 ブルー。ケーシイがユンゲラーに進化。経験値の伸び具合はそれでも3位、元々この3人のパーティレベルは高いからな。
 イエロー、捕獲ポケモン無し。その上、経験値の伸びは5位。やはり自主練では成果は上がりにくいか。
 ゴールド、捕獲ポケモン無し。・・・驚いたな、経験値の伸びだけで言えば、トップだ(が、まぁ・・・元が弱いからな)。
 クリス。・・・・・・どうした? ボールも不要な捕獲で使い切り、あまつさえ経験値の伸びも悪すぎるぞ」

 挙げられた順位よりも、むしろクリスの不調に驚いた
 ゴールドはトップという言葉に浮かれ上がり、「まぁざっとこんなもんですよ」と鼻高々に言っている
 シショーもクリスに大丈夫かと訊くが、一般的な答え・・・「大丈夫です。ちょっと調子が悪くて」と返ってくる

 『(・・・あれ? クリス・・・)』

 シショーは首を傾げたが、深く追求はしなかった
 ガイクは皆の今日の伸び具合を頭に入れ、考慮することにした

 「・・・あ、それとブルー。掃除が終わったから、今日から向かいの裏庭側の5号室へ移動してくれ」

 「へ? アタシが?」

 突然そう言われ、かなり戸惑った

「なんで?」

 「ちょいと事情が出来てな」

 「・・・・・・ふーん?」

 ということは、ブルーの今までいた部屋にグリーンとゴールドが入るというわけだ
 この後は筋トレだが、ブルーは許可を貰って部屋の方に下り、急いで荷物をまとめに行くこととなった
 それに年頃の乙女の部屋が表、人の通る町側にあるのもどことなく嫌だったから丁度良いかもしれない

 「・・・さ、残ったお前らは筋トレ開始。各自、今はとりあえずここにある器具の使い方ぐらいはマスターするように」

 「あ、先輩、サンドバック叩きましょうよ!」

 「え、ああ・・・ま、いっか」

 ゴールドに誘われ、レッドが叩こうとするが、その前にガイクが止めた
 
 「下手な叩き方をしたら拳が壊れちまうからな。しっかり握って、そう・・・直角に当たるように・・・」

 ボスボスッと何度か叩いてみると、確かにこれは面白い
 ある意味ストレス発散にもなるし、おそらくダイエット効果もあるだろう

 「サンドバックは1つしかないからな。ほら、お前は別のことやってろ。時間が惜しい」

 「えー? いいじゃないッスか」

 ぐわしっとガイクに頭を鷲掴みにされ、更に指先に力を込められた
 その締め付けられる痛みはたまったもんじゃない、イエローに続く孫悟空2号だ

 「言ったろ? 結果に結びつくような努力しかさせないってな」

 「は、はい・・・タタタ」

 と、そう言われやらされたのが・・・

 「う、腕立て伏せ〜〜〜!!?」

 「そうだ。先ずはかる〜く100回いってみよう」

 ガイクに言われ、渋々だがやり始めた
 何もこれだけ器具が揃っているんだから、こんなことやらせるなよ・・・と
 そして、100回くらいなら楽勝だと思っていた


 が、ガイクは甘くなかった
10回やったところで、ガイクはちょうどゴールドのあごの下の床にタオルを敷いた

 「残り90回、それに毎回あごがくっつくようにやれ」

 これがかなりキツい、あごがタオルにつく為には相当に肘を曲げなければならないのだ
 更に20回やったところで、また指示される

 「残り70回、腕の幅を縮めろ」

 肩幅まで拡げていた両手を、軽く蹴られてその半分ほどにされた
 しかもタオルは敷いたままなので、回数を重ねるごとにどんどんキツくなっていく
 
 「残り40回、もっと腕の幅を縮めろ」

 そう言うと、ガイクはゴールドの両手がぴったりつき・・・むしろ重なるぐらいまで腕の幅を縮めさせてきた
 もう腕の力は限界近い、この指示はそれに拍車をかけた


 ・・・・・・100回を終えた時、ゴールドはばたんと床に転がった
 腕や肘がじんじんを痺れるように痛み、もう曲げることさえ出来そうにない

 「なんだ、もうダウンか?」
 
 「無茶苦茶ッスよ、こんな腕立て・・・」

 「何を言う。これは歴とした腕立て伏せのバリエーションだ。
 腕を拡げた状態でやる腕立て伏せは背筋など、背中の筋肉を鍛えるのに効果がある。
 逆に腕を狭めた場合は純粋に二の腕などの、腕の力を鍛えるもの。
 タオルにあごを毎回くっつけるように言ったのは、それだけ曲げないとしっかりとした効果が出ないからだ。
 それに、本来なら各100回のところを、最初の慣らしとして半分にしたんだぞ」

 うげぇとゴールドは舌を出し、苦々しい表情を作った
 しかも、これからは今のその倍はやらなくてはいけないというのか

 「マジ勘弁・・・」 

 「最終的には重りを背中に乗せた上で、各150回だがな。それ以上やると、成長期に影響する」

 重りとはどれほどのものなのだろうか、というか・・・スパルタだ
 流石、シジマ仕込みのトレーニング方式といったところか・・・

 「・・・お前らも他人事じゃないぞ。わかってるだろうな」

 ドキィッとトレーニングルームにいた皆の心臓が跳び上がった、やはりそうだったのか
 そして案の定、ガイクが来い来いと呼び始め、またブルーが戻ってきたところで一斉にやらされ始めた

 「女性陣はとりあえず腕拡げで40回、ぎりぎりまで狭めて30回の計70回。
 ゴールド以外の男性陣は、腕拡げで60回、狭めて40回の計100回やれ」

 ガイクはそう指示した後に皆の横に並び、およそ20回程遅れたが同じ条件で腕立てを始めた
 しかし、そのスピードは段違いで、特に回数を重ねるごとにその差は詰められていく
 その結果は、皆の中では力でトップのレッドと同着で100回を終えた程だった

 「・・・嘘ぉ」

 「なかなかやるな」

 ガイクが腕を回し、レッドにそう言った・・・当の本人は苦笑するばかりだ
 その様子だと、まだまだ余裕がありそうで・・・実際、他のまだ終わってない人達の指導や注意を実演しながらし始めた 

 『(ガイク・・・。本当に何者なんだろう?)』

 まぁ、そう他人のことは言えた義理ではないが、とシショーは内心で呟いた
 
 やはり女性陣は回数が少ないものの、腕力で劣る為か・・・ブルー以外ノルマを達成出来なかった
 クリスは惜しいところまでいったものの、特にイエローはノルマの半分程でリタイアしてしまった

 「おいおい、しっかりしてくれよ? 続いて腹筋背筋50回、手はしっかり頭の後ろで組むように。反動はなるべくつけるな」

 それ用の器具もこのトレーニングルーム内にあるのだが、全員一斉にやるなら床しかない
 レッドとイエロー、ゴールドとグリーン、ブルーとクリスでペアを組み、それぞれ始めた

 「それが終わったら男性陣は風呂、女性陣は居残りで筋トレだ」

 風呂のことをすっかり忘れていた、もしかして腹筋背筋の回数がガイクにしては少なめなのもそれのおかげだろうか
 グリーンは日頃鍛えているおかげか早々と終え、ゴールドも腕立ての後遺症でひぃひぃ言いながらも何とか終わらせた

 「んじゃ、お先に失礼ッス」

 レッドは終えたのだが、イエローはのんびりと・・・いやとろく、なかなか終わらない
 そもそも体力の面では一番劣るようだから、この回数はまだキツいかもしれない
 
 「しっかり、イエロー」

 とここでブルーが先にノルマを終え、レッドに「押さえるのを交代して、アンタはさっさと風呂に行ってきなさい」と言った
 ペアだったクリスはここにある器具でブルーの代わりが出来るので、問題は無かった
 最も、ブルーの親切は、自分も早く風呂に入りたいという意思もあったのだが・・・
 レッドはイエローに励ましの言葉とブルーに礼を言い、どたばたと自分の部屋と風呂場へ向かった

 「・・・んじゃ、俺も夕食作りに行くから、きちんとやってろよ」

 「はいはい。・・・ていうか、アンタ、汗一つかいてないじゃない。なんかムカつく」

 そう言われてもと、ガイクは苦笑し、シショーの足をむんずとつかみ共に階下へと向かった
 シショーを連れて行ったのは、ついでに男性陣に混じって風呂に入れて貰えということらしい
 ポケモンとはいえ一応性別は♂なので、女性陣と入れるのは気が引けるのだろう
 
 『いいよ、別に。水浴びと砂浴びでも事足りてるから』

 「ウチはきれい好きなんでね」

 と、シショーの足をつかんで無理矢理に脱衣所へ押し込めると、中から驚きの声が聞こえてくる
 流石にこの状況は想定していなかったのだろう、珍しくグリーンも声をあげている

 「・・・さて、仕込みはどうなってるかな」

 そんな声をさらりと流し、ガイクは食堂へ、台所へと向かった





 ・・・・・・


 「あ〜、驚いた」

 「いきなり入ってきちゃ駄目ッスよ」

 『ごめんごめん。不可抗力でさ』

 レッドとゴールドがリビングでソファーに座り、何やら将棋を打ち始めた
 それを持ってきたのはグリーンで、何処で見つけてきたのかと訊けば、書斎に置いてあったんだという
 やっている本人達はまだ初心者レベルなので、同じくグリーンが書斎から持ってきてくれた手ほどき本を片手にヘボ将棋をやっている

 「・・・つーか、これからグリーン先輩と同室かぁ」

 「まぁ、そんなに落ち込むなって。悪い奴じゃないんだからさ」

 『そうそう』

 ぱちぃっと角行をうち、レッドがゴールドに王手をかけた
 それを金将で受けると、また手ほどき本を見て駒の動きを確認する 

 「え〜と、これは・・・ナナメにしかいけないから、こう逃げると・・・」

 「あ、これ銀じゃん。シルバーじゃん。じゃ、いらねぇ」

 レッドはぶつぶつと次の手を考え、ゴールドは勝手に持ち駒の銀将を投げ捨てた

 『・・・ヘボ将棋だねぇ』

 「全くだ」

 グリーンはなるべく盤面を見ないようにしているが、それなりの実力がある人なら、見ていて苛立ってくる程のものなのだ
 レッドは実は次の手で王手をかけられる状況だ、それの鍵となるのが先程投げ捨てた銀将であることにゴールドは全く気づかない
 レッドはこの手を使えばゴールドの飛車を取れるし、ゴールドは角行を活かし切れていない
 桂馬をそこに動かせ、反則の二歩になるぞ、香車で刺せ、飛車を成らせろ、王を逃がせ、王を囲め・・・

 見ていて実に苛々する将棋だった

 「・・・・・・」

 『ストレス溜まるね、これ』

 しかも、もう夕食時間にさしかかってしまうのだが、女性陣はなかなか風呂から上がってこない
 その為、このヘボ将棋も未だに続いているのだ 

 「・・・いっそのこと、見つけてこなければ良かったな」

 グリーンがぼそっと呟くと、レッドは「なんか言ったかー?」と悪びれなしに訊いてくる
 五感が優れているのか、まさに天性の地獄耳、というか本人はそれに気づいてすらいない・・・

 「あ、これをこう動かすとどうだろ?」

 「え、それそんな風に動きましたっけ?」

 『・・・色んな意味で勿体ないねぇ』
 
 「全くだ」

 グリーンが先程よりも小さな声でそう言った頃、ようやくブルーがリビングに顔を覗かせた
 その後に続いて、クリスとイエローも・・・グリーンは安堵の息を漏らした


 そう、ようやくヘボ将棋の呪縛から抜け出せたのだった





 ・・・・・・


 夕食後、また各々の自由時間を取った

 レッドはまた本を片手に将棋盤に向かう、どうやら詰め将棋をやるらしく・・・将棋にはまってしまったようだ
 グリーンはそれから逃げるように部屋へ本を持ち込み、出てこない
 ブルーとイエローは裏庭へ夜の散歩、クリスは書斎へ本を探しに行った


 そして、ゴールドはガイクの元へ行った

 忙しそうに家事に勤しみ、働くガイクを呼び止めた

 「・・・わかってるッス。どんだけあんたが忙しいか、承知の上で頼みます」

 バッとゴールドは頭を下げた

 「皆とは別に、俺に特訓して下さいッス! これから毎晩・・・いや、早朝でも構わないッスから!」

 「・・・・・・」

 「俺は、強くなりたいんッス・・・!!」





 ・・・・・・


 〜本日の夕食〜

 ・茹でたてアルデンテのスパゲティ
 ・ボリュームたっぷりの特製ミートソース
 ・グリーンサラダ
 ・自家製ヨーグルト(フルーツソース付き)
 ・レモネード
 ・冷水





 To be continued…



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