〜更なる高みへ/011〜
「俺は、強くなりたいんッス・・・!!」
・・・・・・
ゴールドの言葉にガイクは応えた
「・・・わかってんのか? むやみに闘えば強くなれるってわけじゃねぇ。
ポケモンバトルにおいてでも何でも、求められるのは戦闘力・精神力・判断力・考察力等々を合わせた『総合力』というやつだ。
だが、今のお前らで一番重要で足りないのは『基礎力』の修行。今はそれを皆やお前にやらせている。
ま、これが出来てない内はその応用にあたる他の修行をさせる気はねぇと思っててもいい」
「・・・・・・」
「今のお前には、俺からは皆と同じ修行しかさせることは出来ねぇな」
ぎりっとゴールドは歯を食いしばった、この答えが返ってくることはわかっていた
しかし、それでも・・・・・・強くなりたかった
「焦るな。といっても、まぁ無駄だろう。色々、こてんぱんにされたって話だしな」
くるっと向きを変え、ガイクはまた家事へと戻り始めた
「俺からは何も出来ねぇが、先ずは『自分が出来ることから始めるべき』だ。
一から十まで教えてもらってちゃ、その先の二十や三十の成長は望めないからな」
洗濯物の入った籠を持ち、ガイクは振り向き様に言った
「あとはお前次第だ。無茶だけはするなよ」
ぱたぱたとガイクはその姿を消したが、ゴールドは動かなかった
「(・・・俺に出来ること・・・か)」
いや、そうではない
ガイクの言葉はこう言い換えることが出来る
『他の皆とやっている基礎力の修行ならば、お前だけでも出来る。
強くなりたいのならば、他の皆よりもそれをしっかりと多くやればいい』
結局、基礎力を抜かして出来も理解もしきれない応用を始めることなど、時間の無駄
ならば、皆よりも多くの修行と努力を積み重ねていく以外の道は・・・今はない
「(よし、わかったぜ・・・!)」
先ずは朝練だ、ガイクは少なくとも4時には起きている・・・朝食は7時・・・
いきなりそれと同じ時間は厳しいから、出来れば5時頃に起きられるようにしよう
ガイクが考えてくれている修行をおろそかにしない為にも、そのくらいが今の限度だろう
「(トレーニングルームは多分、一日中開いてるはずだから・・・いや、裏庭で虫ポケモンと闘いまくるって手もあるな)」
こうして考えるだけでわくわくする、次に何をしたらいいか・・・ただそれだけなのに
「んじゃ、今日は明日の為に。とりあえず、早く寝るかぁ」
裏庭へは2人か3人1組でなければ、夜間は出られない
ブルーとイエローはとっくに出発しているし、他の皆を今から練習に付き合わせるのは気が引ける
だが、早朝ならば1人で出ても問題無いはずだ
「(問題は起きられっかだけど・・・グリーンさんに頼むのもなぁ)」
自分で決めたことなのだから、なるべく他人の手は借りたくない
ここはひとつ、エイたろうに起こしてくれるように言っておくしかない
「ぃっきし!」
リビングに戻るとレッドのクシャミがまた聞こえた、まだ治らないらしい
下に下りてきたクリスが大丈夫ですかと聞いているが、レッドはへーきへーきと流してしまう
「あんま薬に頼りたくねぇんだわ。これぐらい、自力でも大丈夫だって」
「・・・・・・。そうですか・・・」
クリスは何だか小難しい題の本ばかり持って抱え、1冊1冊丁寧に読んで見ている
「あ、先輩、クリス、俺はもう寝ますから」
「おお? 早いな、んじゃ、おやすみな」
「明日、寝坊しないでよ」
他人の計画も知らないで、と言いたくも思ったが、ここはひとつこらえた
「おやすみ〜」っと言い残し、ゴールドは部屋に戻っていった
・・・・・・
ちょいちょいっと何かが触れるような、くすぐったい感じが額にした
正確に言えば、自慢の前髪が風もないのに揺れているようだ
「・・・・・・ぅん?」
眠そうにまぶたをこすりつつ、むくっと起き上がってみる
すると、そこにいたのは同じく眠そうにしているエイたろうだった
「・・・ぉ、悪ぃな。サンキュ」
エイたろうの頭を撫でつつ、隣のベッドにいるグリーンの寝顔を見てやろうと思ったのだが、何故かいない
こんな時間に起きるものかと思いたいのだが、もしかしたらありえるかもしれない
「んだ、つまんねーの」
まぁ隣に誰もいないのならば、何の気兼ねもなく着替えをすることが出来る
それでも隣室のレッドとシショーは寝ているだろうと思い、そっと音を立てずそれを行動に移した
「(うし、行くか)」
そっと部屋を抜け出し、ゴールドは2回のトレーニングルームへと向かった
・・・・・・
「・・・んー、やっぱ誰もいねぇや」
もしかしたら早起きしたグリーンがここにいると思ったのだが、どうも裏庭の方らしい
「じゃ、先ずは今から30分間・・・サンドバックと向き合いましょう!」
ゴールドはギュギュッとバンテージを教えられた通りにしっかりと指や手全体に巻き、固定した
素手でやり続けると拳が血まみれになるそうなので、手を潰さない為にも必要なことだ
しかし、所詮はまだ素人・・・完全にその巻き方を憶えているわけではないので、少しだらしなくなってしまった
「・・・ま、こんなとこか」
どうせまともには巻けないのだ、何度直してもそれは同じことだろう
その作業に見切りをつけ、早速ゴールドはビシバシッとサンドバックを叩き始めた
・・・・・・
7時15分前頃になると、何となくリビングの方から声が聞こえる気がする
「・・・へきしっ!」
「ちょっと〜、つばとばさないでよ。もっと手で抑えて」
「ごめんごめん」
『意地張らないで、薬貰ったら?』
「へーきへーき、な、クリス?」
「え? あ、は・・・・・・はい」
ぐすっと鼻をすすりながら、いきなり同意を求められたクリスは戸惑っている
皆も何故クリスなのかと思ったが、もしかして「薬」とか何とかとしゃれたつもりなのか
「ほら、平気だって」
「何言ってんのよ、もう」
「レッドさん、ホントに大丈夫ですか?」
「へーきだってば」
と、ここで2階にいたゴールドが階段をゆったりと手を振りながら下りてくる
グリーンに訊いても、「部屋にはいなかった」とか言われ、どこへ行ったのかと思ったら・・・
「みょ〜にさわやかな顔しちゃって、何してたのよ?」
「いや、ははは・・・ちょっとサンドバック叩いて、汗をシャワーで流したんス」
その言葉に皆がぽかんとし、えぇっと驚いた
「あ、黙ってるつもりはなかったんスよ? ただ、自主練だし・・・・・・」
「そっちじゃなくて! そうよ、トレーニングルームのシャワーがあるじゃない!
居候の身だし、朝シャンとか出来なくて、ちょっとヤだったのよね〜。今も使えるんでしょ? ね?」
ブルーに気圧され、ゴールドは「はい」と答えた
早速、ブルーは風呂場からシャンプーを持ってきて、ゴールドの真横を擦り抜け、駆け足で2階へと上がっていった
「・・・・・・」
「・・・ま、あれだ。自主練する気になったのは偉いと思うよ、うん」
レッドにそう慰められ、ゴールドは「別に自主練ッスから、そう褒めなくても」と気落ちしがちに言った
それから5分後、「あんまり今日はのんびり出来なかったわ」と言いつつも、ブルーがさっぱりした顔で下りてきた
多分、これからも続けていく気なのだろう・・・止めることは出来まい
「そろそろ朝食にするぞ」
ガイクが食堂から顔を出し、そう言うとゴールドがダッシュで其方へ向かった
やはりお腹は朝練のおかげでかなり空いているらしい、皆もその後についていく
「(・・・あ、またキンモクセイっぽい香り)」
ブルーが食堂へ向かう時、またあの香りがした
そう、自身が使わせて貰っているシャンプーとは違う香りが、昨日よりやや強く香った
いや、こんな香りのあるものはこの家のどこにもないはずなのだが・・・
「(ここの家のシャンプーの香りはどれも違うけど、こんなやつは無かったのよね)」
それは昨夜、風呂場で1つ1つ確かめたから間違いないだろうと思う
裏庭に自生している植物の香りでもない・・・となれば、やはり香水のものなのか
「(誰かしら? アタシの持ってるものとは違うし・・・)」
しかし、まだ追うには香りが弱い
香水だとしたらイエローかクリスだが、この2人がつけているところなんて今までに見たことがない
日に日に香りが強くなるという確証は全くないが、まだ放っておくしかないだろう
「(まっさか、敵の侵入ってわけじゃないしねぇ)」
もしそんな敵が居たとしたら、つけてた香水の香りでばれましたなんてお笑い種だ
そう楽観して、ブルーは軽くスキップを踏みながら食堂へと向かった
・・・・・・
朝食を終えた後、ガイクは皆に客室の廊下に集まるように言った
ブルーは短いスカートを、ズボンに履き替えてこいとの指示があり、益々困惑した
皆は首を傾げつつも、それに従った
「何するんだ?」
「本当はトレーニングルームでやりたかったんだが、こっちの方が床が木なんでな」
ますますわからない
と、ブルーがズボンに履き替え、皆が集まったところで、ある程度の幅を取らせ、座布団を下に敷かせた上で横一列に座らせた
「・・・・・・成る程」
「ん? 何やるのか、グリーンわかるのか?」
レッドがそう聞くと、代わりにガイクが言った
「禅だ」
「ZEN?」
「ぜん・・・あ、座禅か」
ようやくわかった
この今で言うフローリングな廊下をわざわざ選び、こうして一列に座らせた理由も
ブルーのスカートを履き替えてこいと言った理由も、だ
「足の組み方わかるか? 出来なきゃあぐらでもいい」
この時、この座り方は短いスカートでは流石にまずい
ガイクは「これから毎朝やるから、なるべく朝はスカートを履かないように」と注意を促した
「まず目の位置と呼吸の作法の説明を・・・」
ガイクがゆっくりわかりやすく長々と話し始める
イエローなど、なんだか半分寝ているような・・・・・・
ピシィンッと軽く音がする、どうやら専門用語で言う「警策」を入れられたらしい
ガイクの手には薄い板のようなものがあり、動いたり寝てしまう人は必ずそれで右肩を叩かれるらしい
「精神統一の修行の一環だと思ってくれればいい。細かい作法まで言う気はないがな」
と、一通りの説明を終えたガイクが音も無く皆の後ろを歩き、往復し始めた
いったい、どれほどの時間、これをやるのかも聞かされていない
ただひたすら、足を組んでいる間にやる呼吸の作法と姿勢、目の位置を護り続けなければいけない
「(・・・これはキツいぞ)」
だが、音を上げるわけにもいかない
「(心静かに・・・精神統一かぁ)」
「(眠くなりそ・・・ZZZ・・・)」
またピシィンッと音がした、誰が警策を受けたのかは知らないが、目線を動かしてもいけないのだ
しかし、誰かがそれをやってしまったのか姿勢を崩したのか、理由はわからないがまた音がした
「(・・・・・・)」
「(まぁ狭い廊下でよくやるわ・・・ッタ!)」
また音がした、雑念を払えと言うことだろうか
・・・時折、その静寂を破る警策が廊下に響く
時間が刻々と過ぎていくのを、レッド達は感じ・・・静かに待っていた
・・・・・・
〜本日の朝食〜
・鶏雑炊
・切り干し大根とひき肉の煮物
・ほうれん草のごまあえ
・緑茶
・ほうじ茶
・冷水
To be continued…
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