〜更なる高みへ/013〜



 「・・・その気持ち、忘れるんじゃないぞ」





 ・・・・・・


 いきなりのバイキング形式の昼食には驚いたが、皆は山程用意されたものを総て平らげてしまった
 おかげで「お腹が一杯すぎて、動けねぇ」なんて言う者も居たが、ガイクはきっちり45分後に午後の修行指導を始めると言った
 
 「・・・ま、それまで食休みでもしといてくれ」

 「おいしかったなぁ、あの焼売・・・」

 「うーん、カロリーが気になるわねぇ」

 「ていうか、あんなに沢山、よく用意出来たよなぁ」

 「・・・・・・聞いてるか、人の話」

 こんな調子では、45分後に始めると言ったことも聞こえていないかもしれない
 が、これ以上繰り返し言うのも面倒なので、ガイクはスタスタと家事に戻った

 「おいしかったなぁ、あの焼売・・・」





 ・・・・・・


 45分後、ガイクはまだ「お腹が重い」とか言う者も含めて、レッド達全員を裏庭へと放り出した
 それから天候や風向きを確認してから、ノーマルフィールドへと連れて行った

 「これより、『把握』を念頭においてのバトルを始める」

 「!」

 「能力者として、自身の能力を掌握し、自在に使いこなせなきゃ、これから先、カントー地方はおろか仲間や自分の身さえ護れやしない。
 ただでさえ、お前達は能力者との実戦経験が少ねぇんだから、かなり密度の濃いものを展開させてもらうぞ」

 ガイクがポケットから筒状に丸めた紙片を取りだしつつ、言った

 「今日の把握はレッドとブルーのみ、他の奴らは此方が指導することをやってもらう」

 シショーへ向け紙片を放ると、それを慌てて受け取った
 器用にかぎ爪で開いて見ると、確かにレッドとブルー以外の全員に対して細かい指示が書かれていた

 「質問ッス」

 ゴールドが手を挙げそう言うと、ガイクは「なんだ」と聞いた

 「ケチつけるわけじゃないんスけど、なんで先輩とブルーさん何スか?」

 「この2人は能力的にも、比較的『把握』がしやすいから、との判断だ。
 イエローとグリーン、クリスの能力はある程度名の知れた有名なもので、ウチの蔵書にそれについてのものが少しあったから、それがあれば把握は容易。
 また、ゴールドは全く未知の能力の為、かなり厳しい。
 よって、今日はレッドとブルー、明日はグリーンとクリス、明後日にゴールドとイエローという順でやる」

 「結局、把握って、具体的にはどういう風にするんですか?」

 「例えば、能力や資質から生まれたオリジナル技・・・特能技。
 しかし、その特能技にも通常技と同じようにタイプやPP、おおよその威力が決まっている。
 今日はレッドに、『大恩の報』を実戦形式で把握してもらう。 
 もうひとつは限界を知ること。トレーナー能力といえど、万能じゃない・・・どうしても出来ないこともある。
 ブルーの場合だと、メロメロになる確率の上下限や平均値、手持ちポケモンに覚えさせた技との複合についてなんかな。
 そういった細かいところまで細かく理詰めしていく、それが把握だ」

 つまり、とにかく根気が要るものらしい
 その為、一気に全員ではなく1日に2人ずつと人数を少なくすることで、集中的に把握を行うというわけだ
 が、実はそれでも多いくらいであり、本来ならば1対1で徹夜で極限まで追い込んでやるものらしい・・・

「他に質問がなきゃ、さっさとシショーに内容聞いて動き出せ。
 レッドとブルーは軽く準備体操でもしてろ、急にの運動は良くないからな」

 と言いつつ、ガイクは早速『伸脚』をし、身体をほぐし始めていた
 2人もまた、何故か自然とラジオ体操の音楽が頭の中に流れ、それに合わせて体操を始めていた





 ・・・・・・


 『ゴールドの修行指導は・・・』

 シショーはパタパタと飛びながら、ガイクに渡された紙に書いてある修行場に1人1人連れて行く
 その為、先ずとりあえず一番近かったゴールドの修行場へと向かった
 当のゴールドはどんな修行なのかわくわくしている、『指導』というぐらいだから修行内容についても何かあるのだろう

 「どこなんスか?」

 『えーと、ここの裏庭は広いから・・・・・・・・・あ、ここだ』

 「え?」ばかり、周りを見るが、そこはまだノーマルフィールドが朧気に見える程に近い・・・ただの広い草原だった
 シショーは更に、紙片に書かれていることを読み上げた

 『「ゴールドは頭で考えるより身体が先に動くタイプだ。頭脳ではなく、感覚タイプだろう。
 だから、少し頭脳を使ったバトルをやってもらう。感覚だけに頼っては、非効率だからな。
 その修行の為に、昨日、その草原に仕込みをした」・・・だってさ』

 「ん、まぁ・・・確かに頭を使うのはちょっと苦手ッスけど・・・」

 いったい、この草原に何を仕込んでいるというのだろう

 『・・・あ、続きがあった。「ゴールドをそこに連れていったら、他の奴らはさっさと逃げろ」だって』

 「?」

 と、次の瞬間、上から何かが降ってきた
 慌てて避ける皆、ゴールドは素速く上を見た

 「うげ、オニドリル!」

 しかも、先程落としてきたのは『イシツブテ』のようだ
 頭上からの落石攻撃、しかも落石自体も攻撃してくる

 「こ、これが頭脳戦!!?」

 途端、今度は前後からアーボックとユンゲラーが襲いかかってきた
 それをとっさに避けると、今度は地面からサンドとダグトリオが姿を現した

 「げげぇっ!」

 ゴールドは悲鳴を上げつつ、必死で応戦をする
 皆は離れたところで、それを見ていた

 『・・・仕込みってこれか。野生ポケモン(?)による、揺さぶりにも決して崩れない完璧に統制された攻撃』

 「相手がそういう動きでくるのなら、こちらもそれに対応出来るもので挑まないとな。
 本来なら、指令塔を叩くのが一番なんだろうが・・・それは恐らくガイクだろうからな、無理だろう」

 グリーンの言葉に皆がゴールドの方を見た
 確かに、ゴールドの方も反撃しているのだが、全く効いているようには見えない

 「成る程、確かにこれは感覚だけじゃ乗り切れないバトルですね」

 ゴールドの健闘を祈りつつ、皆は次の修行場に向かうことにした





 ・・・・・・


 ガイクのフィールドに出ているはカイリキー、レッドのフィールドに出ているはニョロだった

 「もういっちょこい!」

 「『大恩の報』!」

 ニョロが右腕に力を込めつつ跳び上がり、それを肘を曲げたフック状に相手へと上から振り落とした
 カイリキーはそれを二本の腕で受けとめ、残りの腕でニョロを攻撃した
 思い切りニョロの腹にそれはめりこみ、地面に叩きつけられるようにあえなく落下していく・・・・・・


 かに見えた


 その時、カイリキーの身体がぐらりと揺れた
 よく見れば、カイリキーの右下の脇腹にニョロの左拳がめり込んでいたのだ

 「よしっ! 両者離れろ」
  
 ニョロがたたんと後ろへ軽やかに跳ぶが、カイリキーは脇腹を押さえ脂汗を浮かべている
 ガイクは『トレーナー・アイ』にて、そのHPの下降具合を視てみる

 「・・・成る程」

 「・・・・・・これが『大恩の報』・・・」

 フィールドの外から眺めていたブルーが呟いた
 この特能技は此処に来てから一度だけ見たことがあり、技の威力に驚いたものだった
 が、この特能技はまだ上があったのだ

 「一番懐いている、レッドの幼馴染みポケモン・ニョロの『大恩の報』・・・」

 なんと、ニョロは両腕それぞれから『大恩の報』を放つことが出来た
 これまで確認されてきた1ターン2回攻撃の中でも、それも超とびきりのものだった
 やはり、幼馴染みポケモンと特能技などは何か深い関わりがあるのだろうか

 「・・・・・・おおよその検証は出来たか。ニョロの『連撃・大恩の報』(仮)には驚いたがな」

 結論だけ、述べていこう
『大恩の報』の威力はおよそ110前後、これは『おんがえし』の最高威力と変わらない またこの特能技を使えるのはおんがえしを覚えているポケモンだけ、その点から特能技としては『昇格系』の部類に入るものと思われる
 昇格系というのは、普段ポケモンが覚えたり使える通常技をトレーナー能力などで特能技、もしくは特能技級にまで技の威力・効果を引き上げたもののことをいう
 特能技にも一応そういった分類があり、他にも通常技などでも類を見ない特殊なものを特能技を『異性系』と呼んだりする
 大恩の報のタイプはそれを放つポケモンのタイプと同じになり、2タイプある場合は1回目はタイプ1・2回目はタイプ2と繰り返すらしい

 例:ピカ(タイプ・電気)→『大恩の報』のタイプも電気、二撃三撃目もタイプは変わらず
 ニョロ(タイプ・水、格闘)→一撃目は水、二撃目は格闘、三撃目は水、四撃目は格闘・・・と繰り返していく

 どんなポケモンでも、必ずタイプ一致になるのは強みでもあるし弱みでもある
 PPはおんがえしの半分、加えて放てる回数も連動している
 つまり、おんがえしのPP/2分だけ大恩の報も放てるが、おんがえしのPPが残り1か使い切ってしまった場合、大恩の報は放てなくなる
 たとえ、そのバトル中に一度も使っていなくてもだ


 「(・・・とりあえず、こんなもんなのか・・・?)」

 しかし、それだけではどうも納得がいかない
 何がそう思わせるかと言えば、単純に威力が低い気がするのだ
 例えば、体力満タンのバウのフーディンを『大恩の報』一撃で倒したこと
 単純な計算方式ならば、110×1,5(タイプ一致)で165
 この威力ははたして、本当に・・・同タイプ同レベル前後の相手を一撃で倒せるだけの威力だろうか
 
 「(・・・特能技にはその本人でも測り知れない何かがあったりし、もしそうなら後は本人の感覚と頭脳次第。
 まだ何か隠されている可能性はあるが・・・とりあえず、今はこれで貫けるだろう)」

 ガイクはレッドに下がるように言い、今度はブルーをフィールドに引っ張り出した





 ・・・・・・


 『グリーンの修行場はここらしいね』

 「海だな」

 その言葉の通り、切り立った崖の目の前は青い海だった
 紙片によれば、ここにも仕込みがあるらしいのだが・・・・・・

 「・・・・・・まさか、あれのことか?」

 すっとグリーンが腕を上げ指を差した方を・・・沖の方を見ると、そこにはホエルオーがいた
 しかも、何やら的の絵のようなものが描かれている

 『・・・うん、多分そうでしょ。だって、グリーンの課題は「とりあえず、<ブラストバーン>を扱いこなせるようになること」だもの』

 つまり、あれは本当に的なのだ
 あまりの大火炎の為、周囲の被害を出さない為に場所は海で相手は『特性・みずのベール』を持つホエルオーにしたようだ

 『じゃ、頑張ってね』

 シショーはそれだけ言うと、さっさと残りの皆と次の場所へ向かってしまう
 それと同時に、沖の方にいるホエルオーが『れいとうビーム』を放ってきた
 足下の崖が凍り付き、ガラガラと砕けて落ちていく・・・・・・やはりただ的になってくれるわけではないようだ
 グリーンはふぅと息をついてから、リザードンを出した
 ホエルオーは沖にいるが、飛行タイプを持つリザードンならばそこへ行くのは容易い
 それに、背に乗り指示を出した方が、何となくうまくいきそうな気がしたのだ

 「・・・お前を信じるぞ」

 『ヴォ゛ォオン』

 ばさりとその翼を拡げ、臨戦態勢のホエルオーの所へ向かう





 ・・・・・・


 『クリスは・・・イエローとペアで、乗り切れってさ』

 「「・・・?」」

 2人がペアになると言うことに驚きつつ、互いが「宜しくお願いします」と言った後だった
 ただ「乗り切れ」と言われても、何を乗り切るのかさっぱりわからないし見えてこない
 フィールドは昨日イエローが置いていかれた森の傍で、何となく嫌な予感がした
 とりあえず、辺りを警戒しながら、説明の続きを聞いた

 『クリスは能力の全面的使用可、イエローはほぼ禁止だって』

 「えー、またですか。てことは、ボクが攻撃担当・・・なのかな」

 「でも、どちらもサポート系の能力ですよ?」

 クリスの言うことも尤もだが、これにはきちんとした意図があった
 イエローにはパワーが足りず、また回復能力に頼りすぎているフシがあり、クリスはまだ能力に目覚めたばかりの初心者
 ・・・ということで、イエローに戦闘訓練をさせ、クリスはもっと能力者と一般トレーナーとのバトル面の違いを教え込むというものだ
 それとクリスの能力の把握も少々兼ねており、明日の参考にするんだとか・・・・・・

 「そうなんですか」

 「うーん、そんなに・・・・・・ボクの戦闘技術って未熟なんでしょうか?」

 『いや、なんていうか・・・性根や志の問題だと僕は思うけどね。作戦とか立てるのは上手だけどさ(ワタルの3色バブルこうせん攻撃の対応など)。
 それでも、未だに人やポケモンを傷つけるバトルは苦手でしょ?』

 「それはそうですけど・・・肝心の修行相手は?」

 「あそこに見える森のポケモンとですか?」

 クリスが指を差し言うと、シショーは首を振った





 『この僕とだって』





 To be continued…
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