〜更なる高みへ/014〜




 『この僕とだって』


 ・・・・・・


 「・・・し、死ぬぅ・・・」

 「こ、こんなの毎日続ける気・・・!!?」

 一日の修行が終わり皆が居間でぐったりと息荒く倒れており、一歩も動けないといった感じだ
 体力があるあのレッドでさえ、疲労で顔色が悪い
 いったい、どれほどの濃い修行とやらをやらされたのだろうか
 今日は筋トレはお休みらしい、もしくはこの様子を見て免除してくれたのだろうか

 「風呂の時間だが・・・」

 ガイクの言葉に皆の反応は薄い、しかしずるずると女性陣が身体を引きずり着替えを取りに部屋に戻った
 男性陣は無言で、しかし心の中で羨ましいと思っていた

 「・・・先が思いやられるな」

 「ていうか、やりすぎなんスよ。人間の限界越えさせる気ですか、この修行」

 「そのつもりだが」

 ピタッと言葉が止まった、というより喉が詰まった

 「・・・・・・どーいう意味ッスか」

 「少なくとも、俺を越えるだけの力を得ろ。そう言っているのさ」

 遠回しに「俺は神だ」とでも言いたいのだろうか、物凄い言葉だ

 「お前らの目指すべきものは遥か上だ。俺なんか通過点ぐらいに考えとけ」

 「・・・・・・」

 女性陣がようやく部屋から戻り、居間を通って風呂場へ向かう姿が見えた
 この分だと、風呂が空くのは30分以上過ぎた頃かもしれない
 ガイクは「完成を急ぐか」とぼそりと言ったのが気にかかった


 ・・・・・・


 「い〜〜〜〜〜きぃ〜〜〜かえるぅ〜〜〜〜〜!!!」

 ブルーが湯船につかり、疲れ切った身体を揉みほぐしながらそう言った
 かなりその言葉には実感がこもっており、湯の温もりと疲労に誘われるまま・・・このまま寝てしまいたいくらいだった

 「男共には悪いけど、このまま1時間は入っていたいわね」

 「駄目ですよぅ、ブルーさん。御飯に間に合わなくなっちゃいます」

 イエローは頭からお湯を被り、ぷるぷると頭を振った
 
 「・・・うーん、確かにそれもそうなんだけど・・・」

 「そうですよ。あんな美味しい御飯を食べ損なうなんて、勿体無さ過ぎます」

 イエローの力説に、ブルーはそれでも迷っているようだ
 湯船のヘリに組んだ両腕とあごを乗せ、しばしくつろぐ

 「・・・そういえば、ブルーさんはどんな把握をやらされたんです?」

 「思い出したくもないわね、それ。
 ・・・・・・兎に角、レッドも含めてバトルバトルバトルバトルバトルバトルバトルバトルね。
 色んな技を繰り出して、ポケモンの反応見たり、三つ巴戦からトレーナーへの直接攻撃とか・・・もう何でもアリ。
 PP切れても戦わせるなんて、鬼ね。愛護団体から確実に訴えられるわ」 

 イエローは「うわぁ」と想像もしたくないようだ、というか・・・そんなのを明後日にやらされるのか
 しかも、それで進んだ把握といえば、ある程度最初にガイクに指摘されたことぐらいで、めざましい進歩などは無かったらしい
 
 「全く、不毛よね。能力者の修行が、まさかこんなにも厳しいなんて・・・」

 「でも、覚悟はしていたんでしょう?」

 ブルーは「まぁね」と苦笑した、それでも愚痴はこぼしたくもなる

 「そーいうアンタはどういうのをやらされたのよ?」

 「ボクはクリスさんとタッグ組んで、シショーと戦わされました」

 「・・・へー、あのシショーとねぇ。結果は?」

 イエローが苦笑し、ずんと落ち込んだ
 どうやら相当こてんぱんにされたらしく、バトル終了後には2人の手持ちのチュチュ達は全員ポケモンセンター送りにされたらしい

 「ていうか、なんでシショーはあんなに強いのかしら?」

 「ガイクさん曰く、『トレーナーの指示』というタイムラグが無いから、その分だけ早く動けるからだろう・・・って」

 確かに、それも一理ある
 シショーにはすぐ傍にトレーナーがいない、自分自身の力で行動することが出来る人間くさいポケモンだ
 それに元々レベルも高いようだし、知識も豊富だ
 
 「(・・・・・・まぁ、それだけじゃないんだけど・・・)」

 「クリスさんの能力も凄かったですよ。ポケモン図鑑と合わせると、物凄く便利な能力で」

 「でしょうね。でも、バトルの最中には出来たの?」

 「・・・・・・色々やってみたんですけどね。出来そうで、まだ出来ないみたいです」

 とりあえず、明日の把握待ちといったところか

 「・・・ところで、またクリスは?」

 「そういえば、またお手洗い・・・とか言っていたような・・・」

 「え」

 幾ら何でもおかしい気がする、何かお風呂に入りたくない理由でもあるのだろうか

 「(・・・まぁ、心当たりとしては・・・アレの日関係とかかしらねぇ・・・)」

 「?」

 年齢的には早い気もするが、別にそれは個人差の問題だろう
 もし本当にそうなら、本当はきちんと入った方が良いのだろうが・・・男性陣に悟られるのが嫌なのかもしれない
 この問題は別にクリス1人の問題ではないし、今度育て屋ばあさんに相談してみることとしよう

 「う〜、明日、なんか筋肉痛になりそう・・・」

 イエローが二の腕を触りつつそう言ってしまい、途端ブルーの悪い虫が疼きだしたようだ

 「じゃあ、マッサージしてあげましょうか?」

 「け、結構です!」

 「遠慮しないの、もう」

 「し、しししてません!」
 
 「問答無用!」

 ドタドタバタンバタンばっしゃーんと風呂場に、水音と悲鳴に近い笑い声が響いた


 ・・・・・・


 「・・・遅いなー」

 「下手すりゃ、お前らの風呂は飯の後だな」

 「げ」

 ゴールドは「マジ勘弁」とぼやいた、体力の方は回復してきたが汗と土で身体がべとべとするのだ
 レッドはデルビルともっと打ち解けようと遊んでいるし、グリーンは椅子に腰かけ足を組みつつ目を閉じている

 「・・・寝てるんスかね?」

 「さぁな。此奴の場合、よくわからん」

 「起きている」

 わぁっといきなり声を出され、心臓がバクバクといった
 ガイクが「ほらな」と言うが、実際グリーンは眠たげだった

 「・・・で、何か用か」

 「いや、用っていうか・・・その、修行の所為かはどうかなーって」

 「まさか、お前に心配されるとはな・・・」

 ぼそっとグリーンが言うと、ゴールドは流石にムッとした
 が、その後すぐにさらりと教えてくれた

 「『ブラストバーン』はPPが少ない。かえんほうしゃのようにバンバン使うわけにもいかん。
 要は下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、というわけにもいかないということだ。
 いかに確実に命中させられるか、それが今度の課題だったわけだが・・・」

 「クリアする方法が見つかったんですか?」

 「ああ。そもそも問題の『何故当たらないのか』だが、これは幾つか要因があった。
 1つはあの殆ど出すことのない大火力に、俺のリザードンが驚いてしまっていることだ。
 その所為で、コントロールがうまくいかないのだろうと考えた」

 つまり、数多く放ち、場数を踏んで慣らせるしかないということだろうか

 「2つ目は相手が動くことだ。止まっている的ならまだしも、常に動いている敵に当てるのは容易ではない。
 しかし、それが出来んと話にならないのでな。他の技を牽制や誘導に使い、当てるという方法を実践してみている所だ」

 「はぁーっ、よくもまぁ・・・やっぱ凄いッスね」

 「しかし、やはりPPが少ないのが難点でな。おかげでポケモンセンターを十数回往復するはめになった」

 しかも、どういう命令をされているのかはわからないが、その往復路でさえ此処のポケモン達が攻撃してくるのだ
 これにはほとほと呆れたのだが、そのおかげで経験値稼ぎにはなったらしい・・・ 

 「時間は有効に活用しないとな」

 ガイクは悪びれもなく、むしろさも当たり前のように言った
 むしろ、その無駄な闘いの時間を無くせば、もっと『ブラストバーン修行』に費やせたのではないだろうか・・・
それとも、リザードンばかりを集中してレベルを上げるわけにもいかないので、その辺のことを考えているのだろうか

 「・・・にしても、ゴールドの修行は滅茶苦茶だったな」

 「そうか? 面白かったろうが」

 「いや全然!」

 完璧に統率されたポケモン達の集中攻撃なぞ、トレーナーいじめの何物でも無い気がするのだが・・・ 

 「あれは拷問ッスよ! 見て下さい、この擦り傷に切り傷!」

 「男の勲章だな」

 「だーッ!」

 肘や膝を中心に、風呂に入ったら染みそうな傷が幾つもあった
 兎に角、頭を使えという今回の修行はゴールドは合わなかったらしい
 
 「ま、楽して強くなれるわけねーんだから」

 「そりゃそうッスけど・・・バトルであんなごちゃごちゃと頭使いたくないんスよ」

 「だから、その為の修行だろうが。それとも何か、あれが拷問っていうなら・・・」

 ガイクの眼がぎらりと光った

 「今此処で、あの修行が拷問じゃないとその身で教えてやろうか?」

 「結構です! 文句言ったりして、すいませんしたーっ!!」

本能的に、感覚的に察知したのか・・・・・・慌ててそう言った
 ガイクはつまらなそうに「なんだ、つまらん」と、本当に言ったのが逆に恐かったという・・・

 「(・・・どこまで本気なのか、さっぱりわかんねぇって!)」

 加えて、グリーンは眠っているのか起きているのか・・・また目を閉じていた


 グリーンとガイク、何だか改めて似ていると思ったゴールドだった
  

 ・・・・・・


 ・・・結局、女性陣は夕食時間ぎりぎりに風呂から出てきた為、男性陣は風呂に入る間も無く食堂へ向かったそうな
 断るまでもないが、レッドやブルーが汗や泥であんなに汚れていたのに対し、家事をしているガイクはほのかに石鹸の香りがする程に清潔そのものだった
 いつの間に着替えシャワーでも浴びたのか、それとも神秘的に汚れなかったのかは・・・・・・謎だ


 ・・・・・・


 〜本日の夕食〜

 ・焼きたてのフランスパン
 ・焼きたてのバケット
 ・イサキのクリーム焼き(バターでムニエルした後、ホワイトソースをかけてあぶり焼きしたもの)
 ・ミックスハーブサラダ
 ・マンゴープリン
 ・紅茶
 ・牛乳
 ・冷水  



 

 To be continued…
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