〜更なる高みへ/015〜




 「今此処で、あの修行が拷問じゃないとその身で教えてやろうか?」


 ・・・・・・


 翌日
 肩のこる禅を終え、昨日と同じようにお勉強会を始めた
 ただ最初の前半は自主勉強だが、後半はガイクを中心とした授業となった
 やはりある程度の効率を考え、少しずつではあるが確実に修行内容の補正をする
 ポケモンはあっても人を育てたことはないとは言うが、それなりに筋は通っている
 むしろ、完璧すぎず補正や修行内容の変更があった方が、同年齢としてはどこかほっとしたり・・・
 

 「・・・さて、今日はトレーナーなら誰でも持っているというコイツが教材だ」

 そう言ってガイクが取りだしたのは、お馴染みのMB・・・モンスターボールだった
 何か特殊なボールなのかと思いきや、何処にでも売っている赤白のものだ

 「?」

 「見ての通り、MBだ。ポケモン史上、最高の発明品の1つとされる、『若き天才研究者・マサキ』の特許商品だ」

 現在、マサキはポケモン協会にその特許を寄付している。
 代わりに、安定した研究費用や実験器具、門外不出の資料等の供給を、またPNS(ポケモンネットワークシステム)の個人管理を認めて貰っている

 「これがどうしたっていうんだ?」

 「お前ら、不思議に思わないか? どうして、こんな小さなものにポケモンが入るのか。
 こんな小さな密閉空間であるのに、呼吸はどうしているのか。通気性はあるのか、どの程度なのか。
 更に捕獲すれば出し入れが可能になり、どんなに体重が重いポケモンでも持ち運べるようになるのは何故か。
 そう、非力なイエローが自分より重いドードリオ(85,2kg)の入ったボールを持ち、更に体重が300,0kgのゴローニャのボールまで・・・。
 質量保存の法則を完全に無視してるとは思わないのか?」

 いや、それは触れてはならない話題のでは?

 「まぁ、言われてみれば確かにそうなんですけど・・・考えたことなかったですね」

 「当たり前すぎて、原理がどうのとか気にしなかったな。
 電子レンジや冷蔵庫はどういう仕組みなのか・・・みたいに」 

 ガイクが「だろう?」と言った、皆もその点は同意するが・・・果たして説明可能なのかどうか

 「そこで、お前ら、ちょっと考えてみろ」

 「「「「えぇっ!」」」」

 「不自然さに気づいたんなら、少しは考えようと努力しろ。
 勿論、俺は端的な答えを知っている。なに、ちょっとしたクイズみたいなもんだと気楽に答えろ」

 「そう言われても・・・」と、皆が首を傾げた
 むしろ、不自然すぎて考えがまとまるにまとまらない
 その次に取った行動が、ごく自然な動作で皆は自分のMBを手に取った
 眉をひそめ首を傾げているトレーナー達を見上げ、中から彼らも首を傾げた

 「・・・あれかな、ポケモン自体が小さくなったり大きくなったり出来るとか。
 ほら、『ちいさくなる』みたいな技があるじゃん」

 「ふーん? まぁ、あれも小さくなる理由がわからないし、技としては不思議なんだけど・・・」

 「つか、わかるわけないじゃないスか」

 ゴールドがそう言うと、皆も曖昧に肯いた
 ガイクは「もう少しひねって考えろ」と言いつつ、自分のMBを手に取りコツンと指で叩いた

 「うん、先ず訊こう。お前らの中で、MBの中に入った状態のポケモンに触ったことがあるかどうか」

 「・・・・・・はぁッ!?」

 「あるわけないでしょ、そんなの」

 「ピカが中からボールを動かして、俺の所まで来た時はあるけど・・・流石にそれは・・・」

 ちなみにレッドが言っているのは、トキワジム・サカキ戦の時のことだ
 ガイクは「ほぅ、そんなことが出来たのか」と感心した
しかし、結論としてはやはり『誰もない』ということだった

 「ま、そうだろうな。何故なら、今、このMBに入っているポケモンはここにはいないからだ」

 「?」

 「・・・は?」

 「つまり、質量のともわない映像のようなもの・・・とでも言っておくか」

 「!!?」

 何か、こう、またとんでもない理論が飛び出してきそうな気がする・・・

 「ところで、お前らは次元と空間の違いはわかるか?」

 「いきなり、何ですか・・・それ」

 「はい! ド○えもん!」

 簡単に、この世界では線は1次元、面を2次元、今いるのが立体の3次元、4次元はよくわからないものとする
 
 「空間は多重でな。同じ次元に幾つもの空間が重なり合っている。
 次元が違うもの同士は見ることは出来ない。また次元が違うと、間接的な干渉も不可能。
 だが、同じ次元にあるのに、空間だけが違うと姿形や声が見え聞こえていても触れることが出来ない。そんな不思議な現象と言うべきものが起こる。
 簡単に言えば、相手と自分の間にガラスの壁があるものと思えばいい。これを位相空間と呼ぶ。
 MBは、ポケモンをその位相空間へと送りこむ・・・つーか飛ばす小型装置なのさ。だから、質量保存の法則も無視して持ち運べるんだ。
 触れることが出来ない=質量が無いのと同じことだからな」

 ・・・・・・。・・・は?

 ガイクが「順を追って、説明しよう」とマーカーとホワイトボードを何処からか引っ張り出し、きゅっきゅと何やら書き始めた

 「MBの仕組みなんだが、先ずボールをポケモンに向けて投げ、それを当てるところからだ。
 ポケモンに当てると、ボールマーカーが反応し、MB内部からキャプチャーネットと呼ばれる網を放出する」

 ジムリーダー・ツクシはキャプチャーネットを虫取り網風に仕立てた道具を駆使していた 

 「このキャプチャーネットに捕まったポケモンに対し、MBは一種のワームホールを生み出し、位相空間へ飛ばす。
 飛ばすのに失敗すれば当然、どのMBは使いものにならなくなる。わざマシン同様に消耗品にすることで、安価な供給を可能にした。
 また、この機能はどのタイプのMBでも変わらないし、割と安価に大量生産可能で品質も安定している。
 が、その位相装置を発動させる為のMB内部の強度や特定の性質に反応する等の違いがSB(スーパーボール)やHB(ハイパーボール)、特殊MBと分類されるわけだ」

 今までの説明を総てイラストに表し、マーカーのキャップを閉めた

 「なお、この位相装置の発動には、姿形、タマゴグループ等と色々あるが、ポケモンという生き物に存在するという共通の遺伝子が最後の最後にワームホールの鍵となるらしい。
 だから、トレーナーにMBを当てたところで、そんな遺伝子を持たない人間は位相空間へは飛ばされないわけだな」

 ガイクが「何か質問は?」と言うと、皆が一斉に手を挙げた

 「ほれ、ゴールド」

 「そのキャプチャーネットとかいうヤツとか、ワームホールなんか発生させる装置はどうやって作るんスか!?」

 「ワームホールに至っては、キャプチャーネットとポケモンの遺伝子が作用して出来たとされる偶然の産物だ。
 まぁ、今の科学技術で多少の補助装置は出来ているそうだがな。さっき言ったSBやHBなんかが良い例だな。
 そして、キャプチャーネットの材質だが、これは色々あるが、一番有名なのはぼんぐりだろうな。
 あれを叩いて繊維状にしたものを網状に編み込んだのがガンテツ特製ボールの数々、MB等の機械の補助は無いに等しいが、天然の素材が良いのか、市販されているMBと比べてもその機能等に何の遜色もないのは周知の事実だ。
 むしろ、マサキが作り上げたネットはぼんぐりの成分を人工的に真似たものらしいから、向こうがオリジナルというべきか。
 ちなみに、ぼんぐりの実をポケモンがかじったり食べたりしても身体には全く影響が無い。
 何かネットへの加工技術の際に一部の成分が変質し、それでないとワームホールが開かないとか何とかな」

 ガイクが「次、レッド」と言った

 「さっき言った、ピカがMBを動かしたのは? 別空間にいるんなら、不可能だろ?」

 「ふむ。推測するに、何らかの電磁波や何かが影響したものと思われるが・・・他に何か干渉する要素があったのかもしれんが、データ不足だな」

 「っと、次はイエロー」

 「あの、位相空間ってポケモンの身体に悪影響とかはないんでしょうか?
 それと、入るのはわかったんですけど、中から出すのは・・・・・・」

 「悪影響はないとされる。が、トレーナー能力による位相空間への干渉は幾つか確認されている。
 例えば、イエローのMBの中にいるポケモンの回復とかな。
 出す際は、ボールマーカーを押すなどの動作をすることでワームホールが再び開く。
 誤解無いように言っておくが、ネット内に発生したワームホールの行き先は、位相空間にある通気性の高いネットの中だからな。勿論、向こうにはボールという入れ物もない。
 こちらにあるネットは小さく収納されMBに収まるが、向こう側のネットは閉じることなくポケモンを次にワームホールが開くまで拘束している感じだ。
 内部の様子が小さく見えるのは、まぁ光の屈折の影響や映像に近いものだからだ」

 「ん、クリス」

 「ポケモン転送装置ていうのは? あれはMBごと転送していますけど・・・」

 「あれも位相空間へ飛ばす装置だ。勿論、個々のトレーナーごとのな。
 位相空間にポケモンが入ったMBを、特定の位相空間へ更に飛ばすこと・・・それがポケモン転送装置だ。
 転送されたMBの位相空間の座標等はデータ化され、大元の装置で管理されているはずだ。
 お前らのデータがホウエンに行ったってのも、恐らく位相空間の座標だろう。
 なに、なら見えるけど手に取れないMBがそこらに落ちてそう?
 何言ってんだ、さっきから言っているだろ? 空間は多重だから、同じ場所が幾つもあるってことだ。
 同じ位相空間内なら、手に取れるから、何らかの形でどこかこちらの人間の目に付かない複数の場所へ移動させたりしてんだろうよ。
 ま、かなり膨大な量だから、下手すると宇宙かもな・・・・・・冗談だ。
 ていうか、見えたところで手に取れないんだったら、盗られる心配も無ぇだろ」

 「はい次、ブルー」

 「どこまで本当なの? ていうか、何で知ってるの?」

 「全部、本当だ。と言っても、あれだ。俺も本当にそうなるのかどうか、この眼で視られたことはないからな。
 ただ、そういう資料があったのに目を通しただけの、又聞きのような知識だ。
 というか、もっと単純にだな、『ポケモン入りのMBを持ち運んでも重くないのは、ポケモンが位相空間にいるから』ぐらいに解釈しとけば混乱しないで済むぞ」
 
 そう言って、ガイクは部屋の時計を見た

 しかし、何とも胡散臭い情報だろうか
 だが、もし本当ならば・・・・・・多分、これで総てのつじつま合うはずだろう
 質量保存の法則を無視したMBの原理だが、何か別の原理を無視していそうなことは・・・深く追求すると、更にドツボにはまりそうだった 
 

 「・・・ああ、良し、昼飯の時間だ。
 食べ終わったら、今日も把握と鍛錬を行うから、しっかりな」

 ホワイトボードに書き込んだものを消し、さっさとドアを開けエプロンを着用して階下へと降りていった





 ・・・・・・


 「・・・というわけで、さっそく午後の修行に入る」

 今日の把握はグリーンとクリスだ、他の皆はそれぞれの修行場へと移った


 レッドはデルビルを今日中にヘルガーに進化させろ、との命だった
 幾ら何でも、それは無茶だろ・・・と反論したが、どうやらそれぐらいの成果は出して貰わないと困るらしい
 デルビルはここのポケモンとはいえ、パーティの中では一番レベルや戦闘技術は劣る
 全員の把握のバトルが終わったら何をしでかすのかは不明だが、それまでにそこら辺を強化しておけ・・・ということなのだろう

 イエローは、今度はゴールドとコンビを組んで・・・・・・またシショーと戦うハメとなった
 ゴールドは何故か嬉しそうだが、イエローは昨日の恐怖が脳裏をよぎり、背筋が凍った
 そんな相手であるシショーに「3分で倒しちゃいますよ?」なんて、ゴールドは軽口を叩いている
 そっとイエローは、「もう、ボク知りませんよ」と脅したという・・・


 


 ・・・・・・


 一方、ブルーは何故か2階の書斎に案内された
 ガイクもまた、何故か同じ部屋にいて、くわえタバコを口で揺らしていた

 「・・・・・・」

 「ブルー」

 突然名を呼ばれ、「な、何よ」と反論してみる
 ガイクは真剣な表情だったが、どこか悲しげな眼をしていた

 「お前、誰か好きな人でもいるか?」

 「・・・は?」

 何それ、まさか・・・・・・

 「誤解招く前に言っておくが、これは『把握』だからな?」

 なんか、下手な言い訳にしか聞こえないのだが・・・・・・先があるようなので、追求は止めた


 「・・・話は聞いた。仮面の男によって、まだ幼い頃、ホウオウによってさらわれたってこと」

 「・・・・・・・・・・・・」

 鳥恐怖症を克服したとはいえ、ブルーにはまだ苦い思い出だ

 「両親から引き離され、見知らぬ土地で生活を強制された。当時のお前がどれ程つらい想いをしたのか、正直わからねぇ」

 「・・・話はそれだけ?」

 ガイクはすっと、その悲しげな眼で睨んだ

 「なぁ、お前はどうして『フェロモン』なんてトレーナー能力を身に付けたんだと思う?」

 「・・・・・・どういうことよ」

 「お前は両親の愛を知らない。親愛の情ぐらいは、まぁシルバーと共にいたことでわかるだろうが・・・」


 冷たくも、悲しい言葉


 「お前は・・・・・・まだ愛を知らない」

 「・・・だから? 同情でもしようっての」

 「違う。トレーナー能力はその本人に直結している。だから、お前は『フェロモン』の本当の意味を知れ。
 どんな些細なことからでも目を逸らさず、顔をうつむけず・・・素直な気持ちになって、・・・」

 「・・・・・・で」

 ブルーはうつむいていた

 「何なの、アンタは」

 「・・・ここには色んな本がある。そして、自分を見つめ直せ。時間はある」

 「何なの、アンタは」

 ・・・ガイクはそれ以上は何も言わず、ぱたんとドアを閉めた
 

 ・・・。
 ・・・・・・幼年から能力者修行をした方が、早くにトレーナー能力を得る可能性が高い
 それも、成長期を過ぎかけた今から修行をするより、ずっと強い能力を・・・・・・
 たとえ、同じ能力であったとしても・・・その限界値設定や成長値の伸びは格段に違うだろう

 恐らく、仮面の男はそれを狙って・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 「・・・ったく、だから3日目以降の修行はやりにくいんだ・・・」

 ブルーは書斎から出てこない


 トレーナー能力を知ると言うことは、何よりも己を知ると言うこと・・・・・・


 「(ブルー、早く気づくんだ)」

 何故、結果的に両親の愛を得られなかった彼女が『フェロモン』というトレーナー能力を得たのか
 
 「(それを知っているのは、俺じゃない。お前だけなんだ・・・)」

 心の奥底から願う
 ・・・。





 「・・・・・・さて、と。やりにくい把握のバトルをしに行きますか」

 ガイクはわざと声に出し、待ちくたびれているだろう2人のいる裏庭の方へ向かった





 ・・・・・・


 〜本日の朝食〜

 ・精米したての炊きたて御飯
 ・小はまぐりの味噌汁
 ・塩鮭(レモン添え)
 ・そら豆と高野豆腐の卵とじ
 ・焼き海苔
 ・つけもの盛り合わせ
 ・日本茶
 ・麦茶
 ・冷水


 〜本日の昼食〜

 ・鴨せいろ(そばは自家製そば粉で打ち立て、十割そば。鴨は普通の鴨であり、決してあのポケモンの肉ではない)
 ・精米したての炊きたての御飯(欲しい人だけ。味の染みた鴨せいろの鴨やねぎを乗せて食べる)
 ・日本茶
 ・麦茶
 ・冷水





 To be continued…

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