〜更なる高みへ/018〜



 「・・・・・・何かきっかけがあればな・・・」


 ・・・・・・


 修行5日目

 朝食後、座禅・・・筋肉痛による脱落者2名
 座禅後、お勉強会・・・今日は素因数分解や古文の授業

 昼食後
 ガイクは裏庭へ、全員を引き連れて海岸に向かった
 昨日までグリーンが『ブラストバーン』の特訓をしていたところで、荒々しく切り立った崖が背後にある

 「よーし、お前ら、これ登れ」

 「・・・は?」

 ガイクは微笑みながら、もう一度ゆっくり噛みしめるように言ってあげた

 「だ、か、ら、お前ら、この崖を素手で登れっつってんの」

 「な・・・」

 皆が「ふざけんな!」「出来るわけないじゃないですか!」と抗議すると、ガイクは一喝した
 その崖は確かに、登れなくはなさそうだが、下手に落ちたら大怪我をするに違いない高さは充分にあった

 「じゃあかわしいッ! 能力者の基礎体力を付けるためだ!」

 「それにしたって無茶苦茶過ぎンだろ!」
 
 「この程度で無茶苦茶なんて言ってんじゃねぇ!!」

 ガイクの言葉に皆がゾッとした、これが・・・無茶苦茶じゃない・・・って
 それに、これ以上の反論ははっきり言って無意味だろう
 何故なら、異様な気がガイクの身体から迸っていたからだ

 「のーぼーれ、のーぼーれ、のーぼーれ、のーぼーれー・・・」

 愉快そうにぼきこきっとガイクが両拳を鳴らす様に恐怖を感じたレッド達は、慌てて崖のとっかかりに手をつけたのだった


 ・・・・・・


 修行6日目

 朝食後、座禅・・・筋肉痛による脱落者4名
 座禅後、お勉強会・・・今日は古今東西の詩の朗読

 昼食後
 ガイクはまた皆を裏庭に引きずり出すと、手持ちポケモンを1体だけ残して他は総て預かると言いだした
 更にレッドはデルビル、グリーンはゴルダック、ブルーはニドちゃん、イエローはどどすけ、ゴールドはウーたろう、クリスはカラぴょんと指定される
 勿論、拒否権は与えられていない
 レッド達がボールを渡したと同時に、ガイクはピィィィと口笛を鳴らした

 「・・・? ちょ、まさか・・・」

 青ざめる一同の予想通り、遠方から何か地響きと共に接近してくるのが嫌でもわかった

 「猛牛・ケンタロスの群れ、300体狩りだ。1体残らず仕留めろ。
 ま、1人アタマ50体ってとこか。楽勝だろ?
 更に、レッドとイエローの両名は能力を使うことを禁じる。他の者はガンガン使ってもいいぞ」

 「「「「「!!!!?」」」」」

 冗談ではない、ここの半野生ポケモンのレベルの高さは全員が知っている
 しかも、あんな集団で、物凄い勢いで迫る群れで固まって襲ってくるのに・・・か
加えて、手持ちポケモンは1体だけ・・・・・・少なくともタイプが重なるようなポケモンがいないのがせめてもの救いかもしれない・・・

 「オラ、ぐだぐだ言ってる内に、もう来てるぞ」

 にやりと笑うガイクはさっと身を翻し、空を飛べるヘラクロスを出すと同時にそれにつかまって宙を浮いた
 そういえば、レッド達に残されたポケモンは皆そういう風に回避出来ないポケモンばかりなのに気づいた
 ブモォォォオォォと押し寄せてくる驚異に、レッド達は呑み込まれるように巻き込まれていった・・・


 ・・・・・・
 

 修行7日目

 朝食前、レッドはくんとあることに気づいた

 「・・・あれ? なんかいい匂いしねぇか?」

 「あ、レッドさん、鼻づまり治ったんですか」

 イエローの言葉に、レッドが肯いた
 ガイクは後ろで「食事療法とここでの生活の賜物だ」と言うが、実際それのおかげも否めないのだがかなり怪しい
 ブルーもその匂いには気づいていたので、早速、レッドに辺りを嗅ぎ回って貰った

 「・・・ん〜〜〜?」

 「ど? なんか花の香りっぽいわよね?」

 レッドは「確かに」と言うが、どうも鼻は良いがそういうことにはうといらしい
ブルーにぶうぶうと文句を言われるが、その当の本人は嗅ぎ慣れてしまった所為でもう匂いが追えないんだという
 それは周りの皆も同じ様で、いつの間にか嗅ぎ慣れてしまい、最後の最後まで気づかずじまいだった
 「こんなことなら、さっさと匂いの元をたどっておけば良かった」なんてブルーは言っている
 
 「別に気にする必要は無いんじゃないのか?」
 
 「いーえ、これはアタシの勘だけど、なんかにおうのよ」

 「しゃれッスか?」と小声でしっかりと言うゴールドは無視し、ブルーは1人で首を傾げている
 と同時に、ブルーがカレンダーをふと見て、「あ」と声を挙げた

 「・・・ガイク、ちょっと・・・」

 ブルーが手招きするので、ガイクは素直にその耳を貸した
 
 「そろそろあの日がくる頃だし、ね・・・今日明日、修行休ませて?

 「ん・・・そうか。わかった」

 「んで、もう1つ。・・・・・・うん、グリーンも今日明日の両日中貸して?

 「・・・・・・。・・・いいだろう」

 ブルーが同じ小声で「サンキュ」と言った
 ゴールドやレッドが「何の話だ?」と訊くが、ブルーはべーっと舌を出してはぐらかし答えない
 ガイクも無言で、さっさと朝食の準備をしに行ってしまう

 「?」

 ブルーは続いてクリスの元に行き、肩を組みつつまた小声で言った

 「そーいや、クリスもじゃないの? 頼めば休ませてくれるみたいよ?」

 「え?」

 「とぼけなくてもいいのよ。女の子同士なんだから。アタシ達と一緒にお風呂に入らないのもそれが理由だったんでしょ?」

 ビクッとクリスが強烈な反応を見せるが、それも一瞬で・・・その後は「え、えぇ」と軽く肯き、曖昧な返事と表情しか見せなかった
 それから、ガイクが朝食の準備が出来たぞと言うので、クリスはするっとブルーの肩から逃れて行ってしまう
   
 「・・・?」

 肩を組み合ったブルーは気づいた、あの匂いが・・・・・・クリスから漂っていることに
 幾ら嗅ぎ慣れてしまったからとはいえ、あれだけ近く強く匂えば誰だって気づくだろう
 いや、それよりもさっきの発言は失言だったかもしれない
 幾ら何でも、此処に来て、クリスが一緒にお風呂に入らなくなってからもう1週間は経つし、普通ならとっくに終わっているはずだ
 「悪いこと訊いちゃったかしら」と、ブルーは少し反省した
 やはり、こういう人との接し方に、愛や配慮か何かが関係してくるのに・・・自分にはそれが欠けているのかもしれない
 そう思うと、ずきんと胸が痛んだ

 なら、本当に早く、ガイクの言う通り、自分を・・・もっと知らないと・・・

 と同時に、「では、何故クリスは今も風呂に入らないんだろう?」という同じ疑問がまた沸き上がってくる
 が、それもある種の罪悪感から、ブルーはすぐに忘れてしまおう、必要になれば話してくれると思考から追い出してしまうのだった・・・


 座禅中、レッドもそれに気づいた
 目を閉じたことで、他のものに惑わされることなく、その匂いをはっきり感じ取ることが出来た
 そして、座禅後に目を開け、その匂いが漂う方を見れば、やはりクリスから漂っているように思える
 ここまでくれば、レッドも「ああ、女の子のたしなみってやつかな?」と考える
 ブルーに一応教えたが、今まで気にしまくっていた本人は浮かない顔で、レッドは鼻白んだ
 ちなみに、本日の筋肉痛による脱落者は3名だった


 昼食後
 ガイクが午後の修行をするぞ、と意気込む中で、ブルーは「はぁーい」と嬉しそうに手を挙げた

 「アタシ、今日の午後の修行はお休みでぇーす!」

 「なッ・・・ずるいッスよ! なんでッスか!?」

 ブルーが「日頃の行いかしらねぇ」と笑って言うのに、ゴールドが憤る
 更に、ブルーはさっとグリーンの腕を取って、勢いよく裏庭の方ではない玄関・・・外へと出ていってしまう

 「えぇっ、グリーンさんまで!?」

 「異議あり! 異議あり!」

 ゴールドが文句を言うが、ガイクは「却下だ」と即座に切り捨てた
 
 「・・・さて、楽しい楽しい修行の開始だ」

 べきばきごきっと楽しそうに、ガイクが両拳を鳴らすのを見た他の皆は反射的に震え上がったという・・・


 ・・・・・・


 ブルーはぐいぐいとグリーンの腕を引っ張り、時間を目一杯使って、この4のしまを練り歩いた
 その際に、カントー本土からやってきたのだろう人達がポケモンセンター前に特に多くいた
 あまり人々に活気は見られないし、島間の流通が無くなったこともかなり影響しているようだ
 しかし、ブルーは全く気にせず、グリーンと並んで数時間歩き続けた
 
 「・・・ホントに何もない島ねぇ」

 「・・・・・・」

 確かに、この島は『いてだきのどうくつ』ぐらいしか観光名所と呼べる場所がないし、行楽スポットもない
 だがグリーンは文句を言わず、ただ腕を組むのはやめろと真顔で返すが、素直に聞く相手ではない
   
 「じゃ、お姫様抱っこして」

 「・・・ふざけているのか?」

 ブルーは「冗談よ」と笑って言うが、グリーンから見ればさっきの目は本気だった
 勿論、グリーンは取り合わないのを見越しての言葉だろうが、どうも様子が変だ

 「・・・お前、何か隠し・・・」

 「日が暮れるわね。海岸でも行かない?」

 何もかもが唐突だ、グリーンはため息と同時に空を仰いだのだった・・・


 ・・・・・・


 ザ・ザァーンとさざ波が砂浜に打ち寄せては引いていく
 4のしま船着き場の傍、もっと言えばガイクの家にほど近い海岸線に2人はいた

 「・・・夕日がきれいね」

 「こっちは東だ」

 グリーンの冷静なツッコミの通り、こちらの海に夕日は沈まない
 ブルーは「少しはムードってもんを考えてよね」と言うが、そもそも今日のムード自体が怪しい

 「なぁ、そろそろ話してみろ」

 「・・・・・・何を?」

 「とぼけるのも・・・」

 「いい加減にしろ」、そう言おうとした時だった
 ブルーはグリーンの首にかかっていたペンダントをさっと奪い、だだっと駆け出していった
 この脈絡のない行動には流石にグリーンも唖然としたらしい

 「ほら〜」

 ブルーはその手を高く挙げ、ぐるんぐるんとペンダントを回してみせつつ後ろ向きで走っていく
 グリーンにも限界はある、ギュッと砂を踏みしめ、猛ダッシュでそれを追いかける

 「待たんか!」

 「オホホホホホ〜〜〜♪」

 1人は必死に、もう1人は余裕どころか頭のネジが1、2本はずれたのではと思うぐらい能天気に逃げ惑う
 手を伸ばそうともひらりひらりとかわされるので、いい加減頭にくる
 それでもグリーンがブルーの腕をガシッとつかんだ瞬間、バランスを崩したのかブルーが頭からこけた
 それに引っ張られるようにグリーンも倒れ、2人は横並びに砂浜に共倒れた

 「・・・・・・」

 「・・・あの〜・・・大丈夫?」

 グリーンがムスッとしながら立ち上がろうとするのを、寝転んだまま服のすそをぎゅっと掴むブルーに止められる
 その顔がいかにも泣きそうな顔だったので、グリーンは無言でその横に、砂の上にあぐらをかいて座った

 「・・・いい加減、何があったのか話せ」

 「別に・・・ちょっとグリーンと遊びたかっただけ」

 「そうじゃないだろう」

 驚く程グリーンが優しい声を出すので、ブルーはきょとんとその横顔を見た
 ざんとさざ波が目の前の砂浜に及んだ
 ブルーはごろんごろんと転がりながら移動し、少しだけ頭を持ち上げ、グリーンの膝の上にそれを載せた
 「おい」とグリーンが注意するが、ブルーはとりあわない

 「ねぇグリーン」

 「・・・何だ」

 「・・・アタシさ、愛を知らないのかな?」

 グリーンは無言で、それでも眉だけひそめてみせた
 ブルーは右手でグリーンの頬を触り、左手で砂を握りしめた

 「アタシの能力、フェロモンは、どうして、アタシなんかが身に付けたんだと思う?」

 「・・・・・・」

 「両親の顔さえ覚えていないアタシがさ、どうしてだろうね?」
 
 それは酷く自虐的な・・・胸の内の告白だった

 「アタシさ、色んな本、教科書を読んだんだけど、どうしたら皆の言う愛がわかるのかがわかんなかった。
 だから、今日、グリーンに色々とそれの実践に付き合ってもらったんだけど・・・」

 形はどうあれ街を2人で歩いたり、他愛もないお喋りを2人でしたり、2人で夕日を観たり、波打ち際を走り回ったり

 「・・・どんな教科書だ」

 「うん」

 ブルーが答えにならない返事だけすると、えいとグリーンの頬をつついた
 イエローみたいにぷにぷにしない、締まった男の子の頬だった

 「・・・お前らしくもない」

 「じゃ、訊くけど、アタシらしいって何?」

 ぶうとむくれてみせると同時に、ひどく思い詰めたような顔だった
 グリーンは何を思ったか、ぺしっとブルーの額を思い切り叩いた
 いったぁいと跳ね起きるのを、グリーンはブルーの両頬を両手で押さえつけてそれを止める
 ぎろりと睨むグリーンの顔が、物凄く近くなった

 「ちょ・・・」

 「お前らしくもない、そう言った。そして、お前はこう返した。『アタシらしい』って何?
 それがお前らしくない、そう言っているんだ」

 「・・・・・・」

 「お前、何か勘違いしてるんじゃないのか?」

 グリーンの顔が、かかる息が近すぎて、ブルーは顔をそらそうとしたが、抑えつけている両手がそれを許さない
 だから、じたばたと足だけ動かし、抗ってみる
 だけど、グリーンは全く動じないし、解放してくれない

 「じゃあ、訊くが、お前はレッドから愛を受け取らなかったか? お前はイエローから愛を受け取らなかったか? お前はゴールドから愛を受け取らなかったか? お前はシルバーから愛を受け取らなかったか? お前はクリスから愛を受け取らなかったか? お前は俺のじいちゃんから愛を受け取らなかったか? お前はナナミ姉さんから愛を受け取らなかったか? お前はマサキから愛を受け取らなかったか? お前はニシキから愛を受け取らなかったか? お前はキワメ婆さんから愛を受け取らなかったか? お前はマヨから愛を受け取らなかったか? お前はクレアから愛を受け取らなかったか? お前はナツメから愛を受け取らなかったか? お前は育て屋婆さんから愛を受け取らなかったか? お前は育て屋爺さんから愛を受け取らなかったか? お前はガイクから愛を受け取らなかったか? お前は、今まで出会ってきた皆から愛を受け取らなかったか?」

 「・・・な、何よ、急に・・・」

 「大方、ガイクから何か言われたんだろう? 能力がどうので、お前の生まれ育った環境がどうだのと。
 それで? 両親の愛を知らないからどうなんだ? お前は他の皆から沢山の愛を受け取って、そしてここまで育ってきたんだろう? 今更何を考える必要がある」

 「で、でも・・・」

 「でももへったくれもない。ガイクは何でも出来るが、それでも完璧じゃない。アイツも俺も、まだ子供だ。ガキの言うことなんてたかがしれているだろう」

 「でも・・・アタシは・・・」

 アタシは、アタシは、アタシは、アタシは、アタシは・・・・・・両親のことを・・・何も・・・

 グリーンは再度ブルーの額をぺしっと叩いた

 「いい加減目を覚ませ、莫迦者。ガイクの言うことなんか、話半分に聞いてれば充分なんだ。MBの話も、俺はこれっぽちも信じちゃいない。きっと、どこぞの莫迦に刷り込まれたんだろ。妙なところで頑固だからな、訂正出来んのだ。
 それに、ガイクはお前に意地悪をするために、両親の愛のことを言いだしたんじゃない。突き放すのも愛だ、随分と不器用だがな。きっと、いつかお前がその壁にぶつかるのを薄々感じて、あえて切り出したんだ。どうせなら、周りに皆や沢山の本があって、少しでもお前の負担が軽く出来る内に・・・とな」

 ブルーは何も言えず、ただぽかんとしていた
 グリーンは更にブルーの顔に、自分の顔を近づけ、ずかずかと言った

 「それと、お前のフェロモンの能力だが、俺はこう思う。
 お前は両親の愛を知らずに育った。それは事実だ。
 しかし、お前はそれにもまさる沢山の愛を受けて育ってきた。だから、お前は少しでも他の皆に、今まで愛をくれた皆に、そのおかえしをしたいんだ。今度は自分から、皆に今ある少しでも自分の幸せを、愛を振りまきたい。周りに知らせたい。
 だから、お前はフェロモンなんて能力を得たんだと俺は思うが、お前はどう思う?」

 「・・・・・・」

 「お前はお前だ」

 グリーンはブルーから顔を離し、またぺしっと額を叩いた
 ブルーはそのまま固まったまま動かない
 が、すぐにそれは「う、ふふふふふ・・・」と不気味な笑みに変わった

 「・・・さっきの何とかから愛を受け取らなかったかシリーズ、アンタの名前だけ出なかったわね?
 こっ恥ずかしかったの? 本人の目の前で、自分の名前を挙げるの?」

 「・・・・・・」

 「あんだけ乙女の顔に接近して、説教垂れてたヤツが今更恥ずかしがってんじゃないわよ、もう・・・」

 ブルーの笑みが、段々崩れていった
 
 それから、呆気なく泣き顔に変わった
 嘘の表情や作り物の泣き顔ではない、本気の泣き顔だった
 ブルーは、両腕で顔を覆って泣き続けた

 異性に思い切り、目の前で泣かれるのはイエロー以来だ
 しかも、その相手は自分の膝枕の上で、ときたもんだから、グリーンは困り果てた
 つくづく、一応自覚はしているが・・・『不器用』に生まれて良かったと思った
 こうして散々付き回され、愚痴られて、諭したら泣き出されて・・・こんな役回り、もう二度と御免だったからだ
 だが、一度引き受けたら、途中で降りたりはしない

 「(全く、本当にうるさい女だ・・・)」

 それが、不器用を自称するグリーンなりの愛情表現
 声に出したりしたら、誤解されるかもしれないので黙ってはいたが

 「・・・・・・」

 しかし、胡座の状態で膝枕は少しキツイ
 しかも、目の遣り場が・・・置き所もない
 だが、どうしようもない
 グリーンは静かに、ブルーが落ち着くのを待った


 ・・・泣き声が少しずつ小さくなっていくのに気づき、グリーンは安堵した
 すんすんと息遣いが聞こえる、グリーンは赤子をあやすようにブルーの額の髪を梳いた
 と、ここでグリーンは更に唖然とした

 「・・・・・・」

 グリーンはなるべく身体を動かさないようにと苦労したが、ポケギアを取り出すことが出来た
 電話をかける先は・・・・・・
 

 かけた相手はガイクの家から出てきて、すぐ傍の海岸をさくさくと歩きながらやってきた
 此方からはその姿をとっくに確認出来る距離なのに、向こうは何故かキョロキョロしている
 ・・・・・・いらぬ気遣いはいいからさっさと来いと、グリーンは手招きをした

 「・・・何やってんの、お前」

 レッドだった、グリーンの胡座に膝枕をして貰っているブルーという微笑ましいような奇妙な光景
 普段の2人を知る者なら、誰だって同じことを聞くはずだ

 「何? 俺に見せつけたかったのか?」

 「違う。これをどうにかしてほしくてな」

 やっぱりのろけか、そう思ったのだが・・・・・・グリーンは一層渋い顔で言った

 「どうやら寝てしまったらしい。起こすのも忍びないのだが、そろそろ足に限界がキている。何とかならんか?」

 「・・・その為に俺を呼んだのか?」

 「それ以外に何がある。少なくとも、俺よりはこういうものの扱いに慣れているだろう?」

 すやすやと安らかに眠るブルーの顔に、うっすらとくまがあった
 うまく薄化粧で隠していたのだろうが、こうまで・・・余程思い詰めて考えていたのだろう
 だからこそ起こせないのだが、グリーンの足も限界がキていて・・・・・・

 「・・・っぷ」

 あはははははとレッドが笑い転げた、グリーンは「何だ急に!」と小声で怒鳴るのには全く迫力がない

 「あっはっはっははっはははは・・・! い、いや、グリーンがそういう風に困るとこ初めて見た気がする!!」

 レッドが笑い転げ回るのを、グリーンは憮然として見ていた
 ただブルーだけが、憑き物が落ちたような顔で幸せそうに寝ていたという


 ・・・・・・


 ブルーが目を覚ました時、そこは自分にあてがわれた部屋でもなく、今のソファーにいた
 むくりと起き上がり、時計を見ると、もう夜の10時近い
 
 「他の皆なら上の階の書斎にいるぞ」

 ぎしぎしっと階段を下りてきて、声をかけたのはガイクだった
 上で何をしているのかはわからないが、無性に皆に会いたかったのは事実だ

 「そ。わかった」

 あえて「(教えてくれて)ありがとう」は言わなかった
 誰よりも先ず、今日1日散々付き合って貰った無愛想で不器用な男に言ってやりたかったからだ
 たっとソファーから降りて階段を駆け上り、反対に階段を下りるガイクとすれ違った

 「ガイク」

 振り返って見れば、ブルーはあかんべをしていた
 それから笑って、皆がいる上の階に行った

 「・・・・・・」

 ガイクは何も言わず、ただふっと微笑んだのだった 




 
 To be continued…

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