〜更なる高みへ/020〜




 「本人が決めればいい」


 ・・・・・・


 薄暗い。此処は何処だろう。

 ふっと目を開けると、そこにはもう湯気は見えなかった
 ふっと耳を澄ませると、辺りではもう雨の音は聞こえなかった

 「・・・目、覚めたか?」
 
 「レッドさん・・・」

 クリスはゆっくりと身体を起こした、レッドはベッドの横の椅子に腰かけていた
 その傍らには何故かマルマインとビリリダマがいた
 
 「落ち着いたみたいだな」

 「・・・・・・はい。すみませんでした」

 ぎゅっとクリスは布団を握りしめ、唇をもきゅっと引き締めた
 レッドは何も言わず、ただクリスの言葉を待った

 「・・・・・・本当にすみませんでした。また、私の所為で・・・」

 「そうだな。確かに今回の件はクリスのミスだ。
 ・・・どうしてもっと早く、俺達に言わなかったんだ?」

 クリスは無言だった、しかしそれでは何も進まない
 
 「・・・・・・あの能力者に対して何を思っているのかはわからない。
 けど、このまま立ち止まっているわけにもいかないんだ。
 事態は一刻も争っている・・・」

 「・・・わかっています」

 クリスは覚悟していた
 このまま足手纏いにしかならないのなら、いっそのこと自分のことを置いていって欲しい、と
 いや、その方が皆の為になるとまで思っていた
 それだけ自分の精神的外傷は深いものだと自覚はしていたから

 「なら、決めてくれ。
 恐怖から逃げ続けるか、立ち向かうかを」
 
 「・・・え?」

 クリスはレッドの顔を見たが、向こうの顔は真剣だった 

 「決めてくれ。どちらにするか」

 「私を置いていくんじゃないんですか!?」

 クリスの言葉にレッドが顔をしかめた

 「置いていくわけないだろ。此処を出る時は全員で、強くなってから!」

 レッドはグリーンやガイクの見解をそのままを、クリスに伝えた
 ポケモンの技を複合すれば、精神的外傷の原因になった記憶を封じ込められるかもしれない
 ただし、もし技が何らかの形で解けてしまった場合、もしかしたら溜めてきたそれらが破裂するかのようにクリスを襲うかもしれないと言うこと
 
 「・・・私は、許されるのなら、恐怖に立ち向かいたいです」

 「よしっ、わかった。皆にそう伝えてくる」

 レッドはがたんと席を立つ際に、もう一言だけと言った

 「あとで皆に謝ること。俺達は仲間なんだから、遠慮し合うこともないだろ」

 「・・・・・・。はい。本当にすみませんでした」

 「ん。もう少し寝てた方が良いだろ」

 「ありがとうございます・・・ッ」

 クリスの頬から、涙が一筋だけつたった
 それから、レッドが行ってしまうと、クリスはぱたっとベッドに倒れ、再び眠りに就いた


 ・・・・・・


 レッドが部屋の扉から出たすぐに目の前に、全員が立っていた

 「どうだった?」

 「・・・恐怖と立ち向かうってさ」

 「長い闘いになりそうだな」

 「どうかな。クリスならきっと出来るさ」

 後ろ手で扉を注意深く、音をなるべく立てないように閉めながら言った
 レッドの言葉1つ1つに皆が頷く、とにかく今は落ち着かせ心休めさせよう  
 
 皆がぞろぞろと居間まで戻り、それぞれがようやくくつろぎモードに入った
 その中で、ホットミルクを飲みながら、イエローが訊いた
 
 「でも、あの・・・具体的にはどうやって精神的外傷を治すんですか?」

 「んー? そーね、アタシの場合は、とにかく『慣れ』るよう頑張ったわ。
 これは怖くないもの、って必死に自分自身に言い聞かせてね」

 「イエローさんの能力じゃ無理ッスか? 癒すんでしょ?」

 そう言ったのはゴールドだが、ガイクは首を横に振った

 「恐らく、無理だろうな・・・。いくらトレーナー能力とは言え、そこまで作用するとは思えない。
 だから、イエロー、無理してやるんじゃねぇぞ」

 「う・・・わかりました」

 実際にやる気だったのかもしれない、何となく反応から察せられた
 事実、シルバーの時も周囲の反対を押し切って、能力を使用したのだから

 「・・・・・・本当にそうなのか?」

 グリーンがそう言った

 「トレーナー能力は時にトレーナー自身に影響を及ぼすことがあるだろう?」

 「でも、今までは肉体的なもので、精神的な影響は無かったはずよ」

 「・・・・・・」

 確かに。それはブルーの言う通りだった
 しかし、グリーンには何か思うところがあるようだ
 眉間にしわを寄せ、深く考え込んでいる

 「・・・・・・。・・・さて、これからどうすっかな」
 
 「ん、クリスの治療もしつつ、修行を進めていく方法か?」

 「そうだ。色々と手は思いつくが、どうもな・・・」

 「クリスの反応がわからない?」

 ガイクは頷いた、どの程度のものなら効果があり、また影響を及ぼしてしまうのか
 それは少しずつやっていくしかないだろうが、はっきり言えば専門医に任せた方が得策だ
 ・・・・・・それが容易に出来れば、こう悩むこともなかったのだが

 「・・・とりあえず、『さいみんじゅつ』と『ふういん』を弱めにかけて、対象への恐怖心を和らげていくほかないか」  

 「だな」

 うまく調節しないと、記憶を封じ込めてしまうのと変わらない方法だが、今出来るものとしては最善の手だろう
 最も、これが出来るのは皆の中では『能力・トレーナーアイ』を持つガイクだけ
 人間の身体能力を数値化などするわけではないが、技をかけるポケモンへの指示や経験から言ってのことだ
 
 「また任せっぱなしになるな」

 「いや、別に構わん。責任を持って、全力で当たらせて貰う」

 「いいなぁ、ガイクは」

 唐突に、レッドがそう言った

 「なんでそんなに色々出来るんだ? 俺らと歳は変わらないのに、色々知ってるし何より強い。
 やっぱ、ホウエン地方へ留学していたことが大きいのか? 能力もそこで得たんだろ?」

 「・・・ああ、まぁな」

 レッドの問いに、少し戸惑いを感じているようだった
 ガイクの声のトーンがさがり、それはそれで気にはなった

 「ん、雨・・・まだやまないな」

 轟々と降り注ぐ雨、クリスの部屋に『特性・ぼうおん』ポケモンがいるから大丈夫だろうが
 思い出したように、ゴールドが訊いた

 「そーいや、この雨がサンダーの仕業って本当にあり得んのか?」

 「何だって?」

 あの時の話に加わらなかったガイクに、推測の域を出ない話を聞かせた
 ガイクは唸るように、考え込みながら、言った

 「伝説の鳥ポケモンがこっちに来てたっておかしくはない話だけどな。
 現に、ファイヤーなら伝承が残ってる程だ」

 「へぇ、どんな・・・?」

 ガイクはがしがしと頭をかきながら、少しずつ思い出すように言った

 「・・・人とポケモンがまだ共生していた頃、数百年に一度ファイヤーは奉られし山に降り立つ。
 蝋燭のように儚く、それでいて激しい最期の炎で自らを焼き、新たな命を燃焼させる為に。
 新たな命を宿した亡骸は奉られし山にてファイヤーを神と崇める鳥ポケモンの眷属と人間の手で輝ける祭壇へと運ばれる。
 選ばれし者よ、偽真を入り交えた祭壇より亡骸を選ぶと良い。
 真なる亡骸は選ばれし者に誇りを与え、更に神の再生に立ち会うことを許すだろう、だったかな・・・。
 悪いがよく憶えていないから、大まかな話だけだが・・・いわゆる不死鳥伝説ってやつだろうな」

 皆がカキンと固まっている、ガイクは訝しんだ
 ふと、更に思い出したように言った
 
 「ああ、そうそう。伝承の限りじゃ、偽なる亡骸・・・つまり偽物を選んだやつはいないって話だ。
 そのぐらい一度で見分けられないと『選ばれし者』の意味がないんだろうな」

 「おぉ〜〜〜ッ!!!?」

 ゴールドが猛ダッシュで自分の荷物を置いてある部屋に走り、ガイクに「廊下は走るなッ!」と怒鳴った
 それでも聞かず、ゴールドは自分の荷物をひっさげ、また戻ってきた

 「何やってんだ、お前は! もう少し静かに・・・」

 「こここ、これっ!」

 ゴールドが取り出したのはタマゴだった
 そう、ともしび山でのオニドリル騒動で手に入れた不可解なタマゴだ

 「・・・これがどうかしたのか? というか、なんだ、タマゴを持ってるんじゃないか。
 早く言え。これでお前の能力の把握がしやすく・・・」

 「そうじゃなくて! 違うんスよ!
 さっきの話、もし本当なら、きっとこれが『真なる亡骸』ッスよ!
 奉られし山は『ともしびやま』! ファイヤーを神と崇める鳥ポケモンの眷属は『オニドリル』!
 ともしびやまに行く前日の夜、噴火と思うばかりの激しい炎が見えた! それが木になって山を登った!
 俺はその最中にオニドリル達にさらわれて、変な洞窟に連れてかれて、光る部屋でこれを貰ったんス!
 ちなみに山頂には何もいなかったけれど、惨状に近い光景がありましたッス」

 「と、いうわけだ。状況的証拠は揃いすぎている。
 恐らく、新たな命を宿した亡骸とは『タマゴ』のことだろう。
 選ばれし者とは、ポケモンのタマゴを孵化させることの出来る能力を持った者だとしたら・・・?」

 「そっか。そんなやつが偽物のタマゴを選ぶわけがないってことか」

 「・・・・・・」

 ガイクは眉をひそめ、ゴールドが持っているタマゴを凝視した
 もし伝承とゴールドたちの言う話が本当なら、これはファイヤーのタマゴということになるのだが・・・  

 「・・・ちょっと待ってろ。ゴルバット連れてくるから」

 ガイクはまた雨の中、傘を差して裏庭の洞窟エリアとかいうところへ向かった
 それから10分しない内に、ガイクはゴルバットとズバットを連れ帰ってきた
 今回はそんなに濡れておらず、恐らく『ポワルン』の『にほんばれ』をうまく活用したのだと思われる

 「何するんスか?」

 「『ちょうおんぱ』で中を調べるんだよ」

 「タマゴなんだから、耳を澄ませば中から音が聞こえるんじゃないのか?」

 「ああ、普通はそうだ」

 皆がきょとんとしている

 「育て屋でタマゴは幾つか見てきたが、これにはその音が全く聞こえないんだよ」

 「・・・・・・へ?」

 ゴルバットとズバットに指示を出し、タマゴに『ちょうおんぱ』を当てた
 しばらくじっと黙って見ていたが、ガイクは諸手を上げた

 「やっぱな。これはただの石ころだ」

 「・・・冗談ッスよね?」

 「冗談ついてどうする。言っとくが、嘘も吐いていないぞ」

 ガイクは金槌でタマゴをコンコンと叩き、同じ様に反響音で中身を調べた
 そして、首を振った
 ついでにシショーに『みやぶる』をやって見ろ、と言った

 『・・・本当だ』

 「ただの石だったろ。そもそも、お前の能力が少しでも作用されていたら、このタマゴはとっくに孵っていてもおかしくはないだろう?」

 「・・・・・・」

 確かに、言われてみるとその通りなのだが・・・やはりダメタマゴだったのか

 「まぁ、もしこれが伝承の通りに起こったことなのだとしたら、そのタマゴはファイヤー以外の別の価値がある。
 学術的な価値、骨董的価値、美術的価値なんかだな。
 偽なる亡骸を選んだものはいないって話だから、儀式が始まって以降、ずっと同じものが使われていた可能性もあるからな。
 ・・・こんな時じゃなきゃ、新聞の一面に掲載されてもおかしくはないが・・・」 

 「ちぇっ、違うのかぁ」

 「あーあ、また振り出しか」

 ゴールドが「どうしましょう、このダメタマゴ」と周りに聞いた
 ガイクは煙草をくわえながら、言った

 「とりあえず持っとけ。つか、普通タマゴって手持ちの数に含まれるんだろ。
 『荷物』になってる時点で別物扱いされてるじゃねーか。最初から気づけよな。
 ったく、まぁ・・・割と重いそれを普段から持って歩けば多少は鍛えられるかもしれんが」
 
 「・・・・・・。そうッスね。んじゃ、そうすっか」

 ゴールドはダメタマゴを荷物に戻し、部屋に戻って行った
 皆も散々思わせぶりだったものが駄目だったので、どこか気落ちしている
 これでファイヤーの手がかりは再び絶望的に、ゼロになってしまったわけだ 

 
 ・・・・・・


 「ひどい雨ね・・・」

 轟々と降り注ぐ雨を眺め、言った
 この豪雨と雷鳴が何をもたらせてくれるというのだろう
 人々に恵みを与えるどころか、自然に対する恐怖を植え付けているようだ 

 「・・・でも、それが当然なのかもしれない」

 本来、自然とポケモンと人間は共生してきた
 しかし、その中の人間だけが先走り、他のものを蔑ろにし始めた
 この豪雨と雷鳴は自然とポケモンからの人間に対しての警報、もとい決別の意味合いがあるのかもしれない
 
 足下のジュゴンがすり寄ってきた

 「・・・・・・」

 豪雨と雷鳴は翌朝まで続いた





 To be continued…

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