〜更なる高みへ/022〜




 <言え


 ・・・・・・


 裏庭に、ズドォォンと轟音が響いた
 その元はゴールドとウーたろう、目の前にはガイクとカイリキー
 2人の周りを囲むように、レッド達がいた

 「・・・すげ」

 レッドがぼそりと漏らした言葉が、その場の雰囲気を言い表していた
 ガイクのカイリキーがよろけ、それを彼ががしっと片腕で支えた

 「『特能技・ディブパクト』・・・か」

 カシュンと音をたて、ガイクがカイリキーをボールに戻した
 ゴールドはへへっと不敵に笑い、ウーたろうを同じくボールにしまった

 「簡単に言えば、『カウンターのカウンター』、『ミラーコートのミラーコート』か。
 ・・・成る程、使い勝手はいまいちかもしれんが、これならソーナンスが一撃でやられた理由もつくな」

 通常、カウンターやミラーコートは技の性質上、使うポケモンの素早さに関係無く後攻となる
 相手に攻撃させ、それを返す技なのだから当然であり、返された相手はターン制で有る以上、それを避けることは出来ない
 しかし、ゴールドの『ディブパクト』は返されたエネルギーと同質のもの・・・元の同じ技を更にぶつけることで、それをまた返す
 最初の攻撃を「5」とすれば、相手の反射攻撃は2倍の「10」となるが、ゴールドはそれを1,5倍の「15」にしてまた返す
 1ターン2回攻撃自体は珍しくないが、相手の攻撃を挟んでのものはやろうと思っても出来るものではない
 そして、相手が同じことをして返せるわけがない
 ソーナンスの場合、『かえんほうしゃ』の威力・95は倍の190にしたはいいが、更に285になって返ってくるとは思わなかっただろう
 反応は到底出来ず、ソーナンスは1ターンで倒れることとなった

 更に恐るべきことに、この『特能技』はゴールドのポケモンならば誰にでも使えることだ
 PP消費としては反射された技をもう一度使うことになる為、1ターンで2回分消費する以外は特に縛りもないようだ・・・

 「ああ、やっぱりそうだったんスか」

 ゴールドが間抜けた声でそう言うと、皆が「はぁ?」と返した

 「い、いや、突然使えるようにっつーか・・・土壇場で出来ちゃったみたいな・・・」

 「なに、どーいうわけ? こんな凄い技を、土壇場で??」

 ブルーが問いつめ、その答えに詰まっているようだが、そうとしか言い様がなかった
 まさか『白昼夢』か『幻覚』に教えられたのかも、なんて言えるわけもない
 が、ガイクが首を傾げつつ言った

 「・・・『感覚派』ってことか」

 「?」

 またわけのわからない言葉が出た
 今度は何だろうか

 「いや、これはおれが勝手に作った言葉なんだがな。
 トレーナー能力には型があり、それから更に派生して分けて考える。
 『理性派』は様々な理論や文献、戦いの中で出たデータから把握を進めていく者のこと。
 理詰めしていく分、能力を隅々まで知り、どんな者でも扱いこなせるようになる。ただデメリットとして時間がかかる・・・。
 特能技になると、自分の能力を把握した上で、それに基づいて作る。もしくは能力に関係無く、理論上可能である従来の技を組み合わせるものもそのタイプに入るかもな。
 『感覚派』は文字通り、身体で全てを知る者だ。ある日突然、唐突に全ての能力が把握出来たみたいな嘘のような本当の話なやつだ。
 あまりに唐突すぎて、本人でさえ何故なのか理解不能なことも多いらしい。この辺はメリットでもありデメリットでもある。
 特能技はそれに沿って、何の予備知識もないのに技を生み出すタイプ。いわゆる天性の才能とはちと違うが、まぁそんなもんだ。
 まぁ、厳密に分ける必要も無い。大抵の把握作業は理性派だし、その最中に唐突に閃く・・・なんてのは感覚派なのかは曖昧なところだしな」   

 「・・・確かにゴールドは把握は殆ど進められてないからな。
 このタイミングで特能技を得るのは不自然だが・・・」

 しかも、ポケモン孵化とは全く関係がない特能技
 グリーンとガイクの言葉に追いつめられ、ゴールドはたじろいだ
 そこにレッドが口を挟んだ

 「・・・ゴールド、もしかして<声>が聞こえたんじゃないか? 幻聴みたいな・・・」

 「! まさかレッドさん・・・も何スか?」

 「? 声? 幻聴とか、何の話よ」

 話が見えない、ブルーは問いかけた
 <声>、レッドとゴールドには思い当たることがあるらしい

 「・・・唐突に頭の中に響いてきた幻聴のような<声>、俺はそいつに『特能技』の名前を教わった。
 そう、『大恩の報』をな」

 皆が驚愕した
 まさか、そんな話があるんだろうか

 「実は俺もなんスよ。妙にむかつくヤローから、この技名を押しつけられたような・・・」 
 「で、それを口にしたら・・・技が発動したのか?」

 2人が頷いた、ガイクは信じられないという顔をしていた
 自らの能力を完璧に把握しているわけでもなく、何の予備知識も理論も知らずに『特能技』が生み出された
 これを例えの『感覚派』と言わずに何というのだろうか・・・

 「(まさか・・・ありえねぇだろ・・・)」

 そんなこと・・・
 まさか、レッドとゴールドは・・・・・・

 ガイクはごくりとつばを飲み込んだ、珍しく冷静さを保てなかった
 もはや、この2人は己では計り知れない器を秘めているのかもしれない

 「・・・・・・わかった。それについてはもう追求しない。
 <声>の正体が何なのか、おれも知らん。ましてやおれ自身、聞いたこともない。
 だが、1つだけ言える。その<声>が味方とはっきりしない以上、警戒だけはしとけ。
 ・・・まぁ、出来る相手とは思えんがな」

 「そうだな。実際、頭がおかしくなったんじゃないかって言われそうで、言うに言えなかったんだよな」

 「そりゃそうよ。今だって信じられないもの。眉唾ものだわ」

 「でも、実際にゴールドや俺は『特能技』を得たんだぜ?」

 ブルーが言葉に詰まる、それはそうなのだが・・・
 本人しか存在証明しか出来ない謎の<声>、しかも1人1人違うらしい
 まだ聞いたことのない他の者も、いつか聞くことになるのだろうか

 「不気味ねぇ。何なのかしら?」

 「一種の通信手段とも考えられるな。テレパシーか」

 「誰がそんなのするんだよ。しかも、本人だって知らない特能技名まで・・・」

 『やっぱり空耳じゃないの?』

 わいわいと終わりの見えない議論がまた始まろうとした時、ガイクがそれを遮った

 「とりあえず、今日はもう戻るぞ」

 「へ? 風呂にはまだ早いでしょ」

 「・・・・・・話があんだ」

 皆は首を傾げたが、とりあえずそれに従うことにした
 ガイクが改まっての話だ、何か重要で重大なものかもしれない


 そして、それはその通りだったのだ


 ・・・・・・


 「・・・で、話って何?」

 食堂に集まり、全員に好みの飲み物がそれぞれ配られた後、ブルーがそう口を開いた
 ガイクは無言で机の上に古本数冊を束にし、まとめたものを置いた

 「イエロー」

 「は、はい」

 名前を呼ばれ、思わずがたんと立ち上がってしまった
 今日の話の中心はイエローだったのか

 「単刀直入に言おう」

 「・・・何でしょうか?」

 「能力者を辞めろ」

 食堂の空気が一気に張り詰めたものとなった
 あまりの驚愕に、皆、誰も喋れなかった

 「・・・へ?」

 「お前の旅はここで終わりだ」

 「ちょ、ガイク・・・!!?」

 「何言ってるんだよ!」

 本人が言う前に、ブルーとレッドががたんと椅子から立ち上がり、叫ぶように言った
 しかし、ガイクはその言葉を続け、やめようとはしなかった 

 「身の振り方は任せろ。戦いが終わるまで、ここで生活しても良い。
 じいちゃんやばあちゃんの了承も得てる。何なら・・・」

 「いい加減にしろッ!」

 堪えきれず、レッドが怒鳴ると同時に、イエローは食堂から飛び出していた
 

 ボクは・・・・・・
 

 ゴールドがガイクの胸ぐらにつかみかかり、クリスがイエローの後を追おうとした
 ただグリーンだけが微動だにしない

 「・・・待て、クリス、追うな」

 「・・・・・・!!?」

 「何止めてるのよ!」

 グリーンがそう言うが、皆は止まらない
 ブルーの怒声、ガイクはふぅっとため息を吐いた

 「イエローの能力の把握が終わった」

 『・・・!』

 「すまんが、ここは抑えて、もう一度座ってくれ。
 それがイエローの為、お前達の為になる」

 「・・・・・・どういうことよ」

 「まずは座ってからだ。イエローのことなら大丈夫だ。
 船の運休、移動ポケモンの皆無・・・この島、この家、裏庭以外、行くところは無いからな」

 ガイクの言うことはわかる、この狭い島で行ける場所は限られている
 しかし、それにしたってガイクは冷たすぎやしないか
 能力の把握が終わったのならば、真っ先に本人に伝えるべきだ

 「・・・本人には隠しておきたいような内容なのか?」

 「端的に言えば、そうなるな」

 皆はそれでも納得していないようだったが、渋々席に座り直した
 ガイクは小さく、皆に「感謝する」と言った

 「把握が終わったって本当?」

 「ああ。正確に言えば、書物を読み解いたおかげだがな」

 ぽんとガイクは机の上に載った古本の束に手を置いた
 そう言えば、イエローの能力は割と有名なんだっけかと今更のように思い出した

 「先ず、聞きたいんだけど、イエローが旅を辞めなきゃいけない本当の理由って何だ?」

 「・・・・・・このままいけば精神の消耗による崩壊、つまり死に等しい状態に陥る可能性が高いということだ」

 ぽかんと口を間抜けに大きく開き、ガイクのことを凝視した
 
 「イエローの能力、『トキワの癒し』の仕組み・・・と呼ばれるものから説明してく。
 主な能力は『ポケモンの体力回復』、それはイエロー自身の氣を注ぎ込むことで行うのは周知の事実だ。
 イエローの問題『その1』はそれだ」

 「? 今までもやってきたじゃない。何で問題になるわけ?」

 「本来、『トキワの癒し』ってのは『トキワの森限定』の能力なんだ。
 いや、でなければ危険と言うべきか・・・」

 ガイクがぱらぱらと古本をめくり、挟んでおいた幾つかのメモを取りだした

 「この能力で氣を使い、消費した場合、トキワの森の中、もしくはその傍にいれば、自ずと消費した分だけ能力者に森の氣が注ぎ込まれるらしい。
 本当に森と直に接し、繋がっている地域の者のみが得られる広大な森の優しさそのものな能力ってことだな」

 『トキワの癒し』の能力者は、生まれながらにしてトキワの森に愛された者なのだ

 「氣の消耗は精神の消耗に繋がる。
 それが出来ず、あまり多く消費すると、能力者の身体は危険を感じ、氣を回復しようと眠りに就く」

 イエローがよく眠るのは、能力の多用が原因だとはされていた

 「だが、イエローは森から離れ過ぎ、あまりに多くの己の氣を使いすぎた。
 ・・・正直、消費に回復が追いついていないのが今の現状だ。
 だから、おれはここにいる間はイエローに極力能力の使用を控え、氣の消費を抑えるように言い続けてきた。
 まともな能力修行なんかしたら、あっと言う間に氣が消耗しちまうからな。
 それと氣を回復するには限りなくトキワの森に近いような大自然の傍にいること、必要充分な睡眠、栄養満点の食事、ストレスの発散などが効果的だ。
 ま、要するに健康的過ぎる生活をしてりゃ良いわけだ。長旅でこれらの条件を満たすのはまず厳しい」 

 「・・・・・・」

 ガイクの言葉通りなら、確かにここに滞在し続ければ条件は満たせる
 それでも、まだ納得がいかなかった  

 「・・・そうだ。ワタルとかは? あいつも能力者だけど、森から離れまくってるわよ」

 ブルーの言葉を待ってましたと言わんばかりに、ガイクが答えた

 「ワタル・・・の場合は『器が完成している』からな」

 「器?」

 「要するに氣を溜めておく器ってことだ。そして、イエローの問題『その2』がそれ。
 古本に依れば、通常『トキワの癒し』の能力が目覚め始めるのは森と接し続けて10歳前後。
 器の完成は一般的に15歳から20歳の成人までかかるそうだ。
 大抵は器の完成まで、大した能力も使えないそうなんだが・・・イエローは違う。
 その意志の強さ、優しさ、仲間の為に、己の能力を引き出していった。
 それが何を招くか。未熟な器に氣は殆ど溜まらない、能力は使えば使う程に氣を消費する。
 氣を消耗し、眠りに就いて回復しようとも、器が未熟な為にそれは完全ではない。繰り返していけば、やがて完全に器は枯渇する。
 同時に器の枯渇は・・・器の崩壊、すなわち精神が崩壊するに等しい。壊れた器は二度と再生しない」

 やがてその日が来るだろう
 何気なく「なんか無性に眠いんで、ちょっとだけ寝ます。おやすみなさい」と屈託のない笑顔でいう彼女の姿
 それが二度と目の覚めない眠りだということは、本人でさえ知り得ない・・・

 「・・・!」

 「そんな・・・!」

 「ある意味、イエローは天才だった。能力が目覚めて間もないのに、あそこまで把握し、引き出しつつある。
 今までだって、器の崩壊に至らなかったのは奇蹟かもしれん。それか、それだけ未熟ながらも大器の持ち主だったかだな」

 ぎゅっとレッドは拳を固く握った、どうすればいいのかわからないからもある
 それは皆も同じだろう、打開策は・・・・・・

 「器を完成させちゃえばいいんじゃね?」

 何気ないゴールドの言葉に、皆がハッとした

 「未熟な器とやらを完成させちゃえば、問題無しなんだろ?
 別に成人とか何とかも平均でしょ、例外だっていたっていいじゃねぇか」

 それはそうなのだが・・・果たして、そんなにうまくいくかどうか・・・

 「・・・出来なくもない。実際、そんな話は文献にも残っている。
 出来なくもないが、成人までとはいかんが・・・時間はそれなりにかかるがな」

 それがガイクの言葉、返答だった
 暗かった皆の表情が明るくなり、それに総てを懸け・・・希望をのせようとした

 『じゃあ・・・』 

 「だが、たとえ器を完成させても同じ。それでもイエローの旅はここで終わりにした方が良い」

 ガイクの二の言葉、それが皆の表情をまた一変させた

 「イエローの問題『その3』。イエローは第1候補者だろうと推測されるからだ」

 「第1・・・候補者?」

 「何の候補だ?」

 ガイクは低く、重く言った

 「『癒し』の対となる『トレーナー能力・災厄』のな」

 「!」

 「え、あれ?」

 『災厄』の能力
 確か、最初からイエローの対になる能力者ではなかったか

 ガイクはまた古本のページをめくり、読み返し、確認した
 それが、読み違えであればどれ程良かったかと・・・今でも思う

 「・・・そもそも『癒し』の能力はトキワの森だけじゃなく、他の地域や地方にも存在している。
 しかし、『災厄』の能力は唯一のものであり、対となる能力は1つしか有り得ない。つか、対の能力者は普通そうだからな」

 では、第1候補者という意味は・・・・・・

 「お前らの話を聞いて、総合して考えると、そうなるんだ。
 文献に依れば、『災厄』の能力の一端は、『特定の技を束ねる』ことらしい」

 確かイエローは、ちー島で・・・災厄の能力者が極大の『はかいこうせん』を放ったなどと言っていたっけか

 「そして、対となる能力者同士に限り、その互いの能力の一部を引き出し、共有し合うことがある。
 陰陽のマークでもあるだろ。黒と白の半円の中に、それぞれ小さく白と黒の円が入ってる。
 あれと同じだ。そして、それがイエローが第1候補者である決定的な証明となった。
 憶えはないか? イエローが、今までにない技を放ったことは? それはどんなものだったか?」

 ワタル戦の『100まんボルト』
 そして、バウとの戦いで・・・イエローは『10まんボルト』のPPを一気に消耗し、電気のバリアーを作った

 それは『特定の技を束ねた』のではないか
 『災厄』の能力の一端を引き出し、共有したからこそ・・・・・・

 「まさか・・・そんな・・・イエローさんが・・・?」

 憶えがあった、思い当たってしまった

 「たとえ、時間をかけ、器を完成させたとしても、イエローは新たな枷がはめられる。
 現時点で、最凶の能力である『災厄』との対の能力者というな・・・。
 いや、決して悪いことではないのかもしれん。今まで以上に強大な力を得られるという意味ではな。
 しかし、本人の身体や精神への負担の程はわからん。一時的に夢遊病のような状態にまで陥る程、イエローは『災厄』に近づいている。
 ある意味、対の者候補者としては自然なものなのかもしれんが・・・だからこそ、おれは旅を終わらせるべきだと思う。
 今のイエローが能力を使えば使う程、精神は消耗し、それだけ完全なる対の者にも近づいていくんだ。
 何故、イエローなのかはわからん。能力のキャリアや実力で言えば、ワタルや他のヤツだっていいわけだからな。その辺は不明だ。
 が・・・別にイエローが対の者にならなければ、他の『癒し』の者が代わりになってくれるはずだ。候補者だからな。
 器の早成だって、時間を大幅に短縮する分、精神への負担は大きい。本来の、成人までじっくり作り上げた方が後々良い。『大器晩成』と言うだろ?
 器、候補者、この2つの大問題が除けてくれるまで、それまで待ってみるべきだ。
 それが、何よりイエローの為だ」

 皆は黙り込んでしまうが、ここでようやくグリーンが口を開いた

 「『癒し』の能力者が大勢いる中で、『トキワの癒し』が特別ってわけじゃないんだな?
 だったら、唯一の『災厄』に見合うようなトレーナー能力名があるだろう。一応、知ってるなら教えてくれ」

 「・・・ああ。『癒し』の能力を経て、昇華し、総ての『癒し』系能力の頂点に立つトレーナー能力。
 『災厄』の対となりし、その名は『治癒』。
 イエローはその第1候補者であり、もう既にその域まで達する寸前までいっている」





 To be continued…
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