〜更なる高みへ/023〜




「・・・・・・このままいけば精神の消耗による崩壊、つまり死に等しい状態に陥る可能性が高いということだ」


 ・・・・・・


 「『治癒』・・・・・・」

 「なんかまんまッスね」

 「おれに言うな」

 『災厄』の対が『治癒』、確かに漢字2字という辺りではそれらしいが・・・

 「てか、『器』の早成ってどうすれば出来るんだ?
 そんな名前より、先にそっちが知りたい」

 レッドの言うことも尤もだ、ガイクは一言で答えた

 「要するに、完成するまで『器』に氣を満タンに溜め続けていれば良いんだ」

 「は?」

 「・・・文献によるとだな」

 ガイクは手元の空きコップにこぽこぽと、ふちギリギリのところまで水を入れた

 「コップが器で、水が氣。コップが空になったら、精神の崩壊だ。
 容量は満タンで10、Lv5のポケモン回復に1の消費、自己回復は2だと思ってくれ。あくまでおおよそ、大体だ。8〜9割の氣の消費で、強制的な眠りに就く。
 最初の内はこんなもん。能力が目覚めた内は大したことも出来ず、Lvの低いポケモンを1〜2体回復させる分には問題ない。その日の内に、消費分は自己回復する。
 しかし、3体以上になると、自己回復が間に合わない。そこで『トキワの森』が自己回復に間に合わない分を、氣を変わりに注ぎ込んでくれる。
 これが通常、能力者の氣は常に満タンだ。こっからが重要」

 ガイクは満タンのコップに、更に水を注ぎ込んだ
 当然、水は溢れ出す

 「器以上の氣は入らない。しかし、器に氣が満たされ続けると、器が作り替えられ、少しだけ大きくなる。成長みたいなもんだな。
 最初から器は存在し、能力が目覚めるにつれ、氣の消費も大きく、激しくなる。手持ちのLvが高くなれば、自ずとそうなるわな。
 それを感じ取り、器は能力や氣の消費に見合ったものに自身で作り変わる。それは『満タン』の時のみ起こる。
 引き出される能力・器の容量が共々で最大100だとすると、歴代・・・個人差はあれど、およそ70〜80てとこ。言い換えれば、限界だな。
 これが『器の完成』に当たる。器の成長が止まる、それが己の限界への到達ってことだ」

 そして、引き出された能力よりも器の方が大きいと言うことはままある
 逆に引き出された能力よりも器の方が小さいと言うことは有り得ない
 必ず、そこまでは大きく成長・・・作り替えられてくれる

 さて、ここからが厄介なのだ

 「器の作り替えは氣が満タンな状態が保たれてこそ、されるもの。
 しかし、イエローは自己回復はおろかトキワの森から離れている為、不足分が常に補えない状態にある。
 能力の方はガンガン引き出しているのに、器は未熟なまま。作り替えが追いつかない。それ以前に、氣が満タンである状態が殆ど無い。
 氣の消費は多いが、器が小さいので、すぐに空になりかけ、ストッパーが働き・・・眠りに就く。大方回復しても、すぐに消費してしまう。
 今のイエローはギリギリの綱渡り、自転車操業みてぇなもんだな。勿論、それは本人が気づかないだろうが、相当の負担になっているはずだ」

 当然、肉体・精神共に分不相応なまでに引き出してしまった能力をしまうことは出来ない
 器の作り替えが追いつかない限り・・・イエローはこの状態から脱せられない
 
 「何度も言うが、器の作り替えをすんなら、氣が満タン状態じゃねぇと駄目なんだ。
 ところが、お前らと旅をしてれば、そんな余裕は無いだろう。断言しても良い。
 パーティ唯一の回復能力者、長旅なら頼りたくなる存在だ。それに本人の性格上、傷ついたポケモンは放っとけねぇからな。
 トキワの森にいれば、多少の無茶も出来たろう。森の氣が尽きることは殆ど無いからな。
 しかし、これから・・・手持ちのLvや戦いのレヴェルが更に上がれば上がる程、今のイエローには過大としか言い様がない負担がかかる」

 「・・・・・・。その話が本当なら、『器の早成』とやらは、このまま何もせず氣が満タンである状態を保ち続け、引き出しすぎた能力に見合うだけの器を形成させるということか」

 ガイクは「そうだ」と返す
 
 「イエローはその素質か想いかで、能力を誰よりも引き出すのが早かった。その分、状態さえ保てれば、器の作り替えの周期も早いと思う。
 今の能力に見合った器を形成、完成させるまで・・・およそ半年ですむだろう」

 「半年!!?」

 「いや、イエローの歳は13。通常より2年も早まる分だけ良いとは思うが・・・やはりそれなりにかかるか」

 皆の表情は複雑だった
 しかし、ガイクの説明はまだ終わっていない

 「・・・イエローは第1候補者だと言ったよな。
 『トキワの癒し』の最大能力は100だが、『治癒』になれば200は越えると思え。
 そして、その分だけ消費も大きい。完成もしていない、未熟な器じゃ到底まかなえん。
 このまま旅を続ければ、いずれ・・・・・・」 

 勿論、『治癒』に昇華すれば、完成とされていた器の作り替え・・・形成もまた始まる
 それに見合うだけのものに、器になるまで
 しかし、今のイエローにはそれは不可能
 それどころか、その喜ばしいはずの昇華は逆に命を縮めるにしか過ぎない
 何しろ、普通は器も能力も完成してから昇華されるものなのだから・・・・・・

 「え、つか、あんな小さな身体のどこにそんな器が・・・」

 「阿呆。器や氣は、あくまで概念。見た目だとかは関係無ぇよ」

 それはそうだろう
 大体、今でも氣だとか何とかは眉唾ものな話なのだから

 「・・・話はわかったよ。でもさ、何でああまでしてイエローを突き放すんだ?
 これは本人の意思の問題じゃないのか?」

 至極まともな意見を、レッドが言う
 事情はわかったが、まだそこは納得出来ていないようだ
 ガイクは息を吐き、言葉を返した

 「イエローは何故、この旅をしているんだと思う?」 

 『?』

 「そりゃ、カントー地方とか救う為じゃ・・・」

 「それもあるが、何よりもお前らと一緒にいたいからだろ。
 一緒にいたいと思う人達の傍で、共に歩き続けられたら・・・。
 だからこそ、本人の意思を問えば、迷わずお前らとついていく方を選ぶだろう。
 なら、おれはそれを全力で止めてやる。このまま、むざむざ殺すような真似はさせねぇよ。
 お前らもな、いつまでも本人の意思に任せておくもんじゃねぇ。
 本人の意思とは無関係に、非情だろうが何だろうがお前らで道を決めてやらなきゃならん時だってあるんだ」

 「・・・・・・」

 あなたならどうしますか
 現状を保てれば生きていけるのに、
 死なないかもしれないという憶測で、
 皆と共に歩いて行こうと考える仲間を、
 あ な た な ら ど う し ま す か

 「お前らは、それでもイエローを旅に連れて行くべきだと考えるか。そうと本人に言えるか?
 本人も本人で、お前らと比較して、非力を痛感してるはずだ。
 今の話を聞いてりゃ、すがって、焦り、『治癒』の能力に昇華しようと考える可能性が高い。
 1人で考えさせる。そして、お前らも個々でよく考えろ。
 何度も言うが、身の振り方は任せとけ。半年程度だし、悪いようにはせん。
 ・・・ま、それまでにお前らが戦いを終わらせてくれるんが、一番だがな」  

 本当にどうしたらいいのだろう
 器の早成には半年かかり、それにはレッド達との旅をやめ、此処に滞在し続けなければならない
 かといって、このまま旅を続けることとなれば、『能力・治癒』への昇華などでイエローの精神は崩壊する
 
 「いや、イエローの氣を消費させなければ良いのだろう?
 なら、俺達が使わせなければ良い。少なくとも、自己回復量を超えないまでに抑えれば・・・」

 「理屈で言えば、お前らと旅を続けさせんなら、それしかないといっていい。
 しかし、本当にそれが出来るかどうか・・・。それに今までのような戦いっぷりじゃ、俺は勧めない。
 それとイエローの性格上、能力を使わない、戦闘に不参加=非力じゃねぇってことを伝えんとな。すぐ無理をしそうだ」
 
 「・・・いまいち旅させたいのかさせたくないのかわからないわねぇ」

 それは言える
 ガイクの真意がわからないというより、皆と同じように迷っているようだ
 しかし、このまま旅を続けるというなら、全力を以てとめるというのは本気だろうが・・・

 「あー、とりあえずイエローさん探しに行きません? 俺、腹減りました」

 気づけば、もうすぐ風呂・・・夕食の時間だ
 筋トレ時間が潰れてしまったのは仕方ないが、残りは時間厳守だ
 ガイクが率先し、がたんと席から立ち、イエローを探しに行った
 勿論、ガイク本人が見つけても、イエローは意地を張り、頑として動かないかもしれない
 皆も不安げに、心配そうな表情を見せつつ、わらわらと散っていった

 
 ・・・・・・


 「・・・で、何で見つかんねぇんスか」

 風呂の時間はとうに過ぎ、もうすぐ夕食の時間
 もしかしたら、お腹を空かせて出てくるかもしれない・・・とも思ったがその気配は無い
 広い家だが、7人前後で30分近く探しても見つからないというのは少々おかしい

 一度皆が居間に集まり、それぞれ報告をすることにした

 「おっかしいわねぇ・・・」

 ブルーは腕組みをし、眉をひそめた
 彼女を中心に、皆が口々に言う

 「部屋にもトイレにもいませんでした」

 「グリーンさんと確認しましたけど、食堂や台所、食料庫にもいなかったッス」

 「何で食べ物関連なのよ・・・」

 『てことは、あとは裏庭か表かな?』

 「『いてだきのどうくつ』の方には行ってないそうじゃ」  

 突然現れた育て屋婆さんの報告で、あと考えられるところは裏庭しかなくなったわけだ
 こんなややこしいことになったのは、元凶はと言えば・・・

 「まったく、ガイクのヤツ〜ッ!」

 「いや、でも仕方ないッスよ。それに、仮にイエローさん見つけて、俺ら何て言うんです?
 『ガイクの言うことなんか気にすんな』? それとも『ガイクの言う通りにしろ』?」

 うっとブルーがたじろぎ、言葉に詰まった
 本当のことを言えば、まだまだ一緒に旅をしたい
 でも、その決断一つでイエローの命運が懸かってしまう

 「と、とにかくそれも本人を見つけてから・・・よね」 

 「なんか会うのがすごく怖いんですけど・・・」

 「レッドはどうした?」

 グリーンが居間に集う者達を見回して、言った
 そういえばレッドの姿がない、ガイクは外の方を見て回っているらしいから・・・裏庭だろうか
 この家以上に広い裏庭を1人で捜せるとは思えない、手伝いに行こうとした時だった
ガイクが戻り、「表にはいないみてぇだ」と開口一番に言った
 ポケモンセンターや島民の皆に聞いた話だから、間違いは無いとのことだ

 「・・・じゃあ、裏庭だな」

 「あ」

 ブルーは思い出したように、ポケギアをいじり始めた
 そうだ、すっかり忘れていた
 確か、イエローに新品のポケギア持たせているはずだった
 最も、今持っていてくれるかはわからなかったが・・・

 がちゃ

 繋がった

 「もしもし!? イエローいまどこ!」

 『・・・おはようです』

 拍子抜けの声にブルーは脱力した
 その声の調子からどうやら寝てい・・・・・・寝ていたらしい
 そう察すると、皆の顔が真っ青になった

 「どこにいるの!?」

 「え・・・っと、どこなんでしょう? 薄暗いし、なんか臭うんですけど」
 
 本人でさえ、わからないところにいるというのか
 
 「ちょ、イエロー、本当に・・・」

 ブルーがしっかりしなさいと言おうとした時、ガイクがポケギアを奪い取り、言った

 「ああ、わかった。すぐ迎えに行く」

 そう言って、ポケギアの通話を切った
 皆はまたぽかんとしている、この男は・・・・・・

 「待ってろ」


 ・・・・・・


 話は20分程前に戻る、ちょうど皆が居間に集まり始めた頃だ
 レッドは1人で裏庭へ、『ルガー』の鼻を頼りにイエローを捜していた

 「おーい、イエロー!」

 修行には最適な土地だが、広すぎて人捜しには向いていない
 ルガーも元々そういう訓練をされているわけでもないので、ハッキリ言って野生の勘に近いだろう
 
 「・・・一度戻るか」

 レッドが踵を返そうとした、その時だった
 ルガーが何かを感じ取ったらしく、小さく唸りだした
   
 「・・・! 何かいるのか?」

 そう一度気にしてみると、何となくルガーの唸る方からイエローの声が聞こえてきた感じがした
 空耳だろうか、それともまたあの<声>だろうか

 「・・・・・・」

 迷うぐらいなら向かうべきだろう、違ったなら引き返せばいい話だ


 そこから歩いてすぐの所に、大型の水ポケモンが生息する摩訶不思議な小さな池があった
 レッドはついでに、ひょいっとその水面を覗き込んだ
 同時にこぽこぽと小さな気泡がはじけ、池に波紋が広がった
 ザバァッと大きな音をたて、姿を現したのは凶悪な『ギャラドス』だった
 
 「よっ、ギャラ。元気にしてるか?」

 レッドの差しだした腕にすっぽり収まるように、ギャラはすり寄ってきた
 そう、狭いボールの中から抜け出たギャラはここで治療を受けているのだ
 此処の環境もあってか、今では後遺症なんか見る影もないまでに回復している
 ポケモンセンターでも頑張ってくれたが、やはりポケモンはどこまでいっても野生動物なのかもしれない

 レッドはギャラに語りかけてみた

 「なぁ、イエロー見なかったか?」

 「あの子がどうしたって?」

 レッドとギャラの間に割り込んできた声、その方を振り向いても誰もいない
 しかし、ルガーは警戒を緩めず・・・一点を見て、唸り続けている

 「(・・・この声・・・どっかで・・・?)」

 レッドはその方へ足を向けると、ギャラがその後をついてきた
 一応池に戻るよう言うが、聞いてくれない・・・

 そして、ルガーが感じ取ったその何かは、すぐにわかった
 丁寧な口調で、会釈して見せた  

 「お久し振りです」

 「・・・あんたは・・・」

 レッドとギャラ、ルガーの目の前に現れた人物
 その人物は、シーギャロップ号で出会った名も知らぬ・・・『チョコお兄さん』だった
 突然の再会に驚くより、何故、ガイクの裏庭へ不法に侵入しているのだろうか

 「なんでこんな所に・・・」

 「さあ?」

 そもそも育て屋の裏庭に侵入するなんて、一般人はしない
 それにここのポケモンは他の野生ポケモンより遥かに強くて、並のトレーナーでは侵入したと同時にたたき出されるのがオチだ

 まさかとは思うが、この男が・・・・・・

 男はにこっと笑った

 「4つだけ言えることがあります」

 「4つ?」 

 右手の親指を除いた4本の指を立て、男がレッドに示して見せた

 「オレは君達のこと、イエローちゃんやレッドくんの名前を知っている」

 一本ずつ、指を折り曲げていく

 「私はある組織に所属している」

 男は灰色の服を着ていた 

 「そして、オレは君達を始末しに来たってこと」

 男がボンッとボールを地面に叩きつけ、中から『コータス』が出てきた

 「最後に、オレの名前は『ハーナ』。「ー」にアクセントを置いて下さい」

 ふざけているのか、それとも大真面目なのかつかめない
 レッドはルガーをボールに戻し『ニョロ』を出そうとしたが、その前にギャラ自ら前面に出てきた

 「準備はイイようで。さぁ、始めましょうか」

 「(・・・コイツ、イエローに何をした!!?)」




 
 To be continued……
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