〜更なる高みへ/024〜




 「最後に、オレの名前は『ハーナ』。「ー」にアクセントを置いて下さい」


 ・・・・・・


 「始末・・・ってことは、奴らの刺客ってことか」

 「イキますよ。コータス、『かえんほうしゃ』」

 ホウエン地方に生息する『せきたんポケモン』、タイプは炎
 知っている、これもガイクから教わったことだ
 
 「(なら、ギャラは正解だったかもしれない)」

 言うまでもなく、ギャラドスは水・飛行の2タイプ
 炎ポケモンのコータスとの相性は抜群なはず・・・
 
 「復帰戦だ。ギャラ、『ハイドロポンプ』!」

 そう指示したとほぼ同時に、レッドの頭にガイクの言葉が蘇る


 水と炎がぶつかり合った 

 
 そして、水流は爆音と共にはじけた

 「ぐ・・・っ」

 予想外の衝撃にレッドは顔を覆い、ギャラは体勢を崩した
 何が起きたのか、わからなくもなかったが・・・

 「(ガイクの言った通りか・・・)」

 この3週間で学んだガイクの言葉
 『能力者同士の戦いに置いて、タイプ相性上の弱点は弱点にはなるとは限らん。
 もし向こうが不利なことをわかっていて出してくるなら、それは自らの能力で補えるものと判断してのことだろう。
 タイプ相性は基本だが、それだけにとらわれた考えを持つなよ。命取りになる』


 「・・・水に反応して爆発する炎。それがお前の能力か?」

 レッドの言葉に、ハーナは穏やかな表情で言った

 「いえ、それは深読みしすぎです。オレの能力は『爆炎』。
 文字通り、『炎に何かが触れると拡散する』能力。
 よって、オレのコータスには水は届かない・・・」 

 「・・・・・・」

 「最近は変に凝った能力名が多くてね。このくらいシンプルな方がイイとは思いませんか?」

 厄介な能力だ
 能力者の特典で、相手の技を呑み込む前にはじけてしまうというわけか・・・
 弱点が弱点にならない

 「コータス、『えんまく』」

 技の展開が早く、あっと言う間にレッドとギャラの視界が黒く染まった   
 しかし、この程度の目眩ましなどすぐにでも吹き飛ばせる・・・

 そう思った瞬間に、視界を覆っていた煙幕が爆発した
 否
 煙幕にコータスの『かえんほうしゃ』をぶつけ、炎を爆発させたのだ

 「・・・うわッ」

 幸い、煙幕の範囲が広かった為、レッドの所までは届かず直撃を免れた
 更に爆発のおかげで、煙幕も晴れてくれたようだ 
 それでも、能力の応用性を見せつけられたようで、何とも言えない・・・・・・

 「何かに触れると爆発する炎か・・・ホント厄介だな」

 「まだまだイキますよ」

 ハーナはかえんほうしゃを連続で放ち、レッドを牽制した
 ほんの少しでもこの炎にかすれば爆発する、そう思えば大振りに避けるほか無い
 そして、それだけ相手の方は狙いやすくなる


 何かやばいものが来る、そうレッドは感じた
 そして、それは確かなものとなった

 「コータス、『ねっぷう』」
 
 何かが来たと感じた瞬間、レッドとギャラは大爆発に巻き込まれた
 辺りに熱を帯びた旋風が巻き起こり、その中心で何かが燃え上がっている
 

 直撃だ、ハーナはそう確信した

 「『ねっぷう』も炎タイプの技、つまり形を変えた炎ってわけだ。
 この見えない攻撃は避けられないでしょう」

 更に地を這う残り火もまた「コータスの炎」には違いなく、踏めばそれも爆発する
 連続して放ったもののはずれたかえんほうしゃも、こういった使い道があるのだ

 ハーナの赤の腕輪が炎に照らされ、きらりと光る
 この男もまた組織に認められた者の1人だったわけだ

 「・・・!」

 爆煙の中、何かが揺らいでいるのを見た
 直撃はしたものの、仕留めきれなかったのか
 余裕を見せている場合では無かったようだ

 「・・・・・・サンキュな、ギャラ。助かった」

 ギャラがその身体をとぐろ状に、レッドを覆うようにしている
 とっさにレッドの身を護るべく、このような防御に出たわけだ
 レッドの言葉に、ギャラは嬉しそうに小さく吼えた

 「さぁ、反撃だ。決めるぞ」

 自信に満ちたレッドの声から察し、ハーナがねっぷうの指示を出すより早かった
 レッドはギャラに、天に向かって叫んだ

 「『あまごい』!」

 その指示と同時に一帯に降り注ぎ始めた雨が、地に這う残り火をかき消した
 ハーナは「しまった」と舌打ちした

 「どうだ。雨に遮られて、流石の『ねっぷう』も届かないだろ」

 その通りだ、先程の『えんまく』のデモンストレーションで思いつかれたのだろうか
 しかし、この事態の対策はハーナの中には既にあった
 
 「コータス、『にほんば・・・」

 「ギャラ、『大恩の報』!!」

 水のエネルギーの最大限にその身に纏い、巨体のギャラが突進してきた
 これを防ぐには何かの技で迎撃を、しかし・・・この雨で目眩ましの煙幕も炎攻撃も届かない
 それどころか、下手に炎攻撃をすれば放った瞬間に雨に触って拡散し、自滅するだろう
 しかし、このまま『にほんばれ』を実行しようとすれば・・・・・・


 コータスに『大恩の報』が直撃し、ハーナごと思い切り吹き飛んだ
 コンマ数秒の思考が、コータスの指示を遅らせ・・・どちらにおいても中途半端になってしまったのだ

 『にほんばれ』をしなければ、何の技も使えない
 技を使おうにも、『にほんばれ』しなければ自滅する
 
 どちらにおいても、中途半端になってしまった
 何とも単純な、レッドの作戦勝ちだった

 「・・・よしっ」

 レッドは小さくガッツポーズを取り、勝利宣言をした
 ハーナは動かないが、そう大きなダメージを受けたとも思えない
 何より、今まで戦った刺客とは違い、『テレポート』で姿が消えなかった
 今の内に、イエローの所在を聞き出さなくてはならない

 レッドが倒れているハーナに手を伸ばしかけ、ふと止まった
 
 身体が動かない

 この感覚には憶えがあった

 「(『能力者の威圧感』・・・!?)」

 ハーナからは何も感じなかった、ということは・・・・・・

 レッドが顔を上げ、前を見た
 灰色の雲、降り注ぐ雨、濡れる大地
 
 ・・・・灰色の虚無僧が立っていた・・・

 「2人目・・・」

 レッドは身構える、どうやらハーナとはレベルが違うようだ
 それは腕を見ればわかる、俗世からかけ離れた職業には似合わぬ青・赤・白の腕輪 
 
 「・・・ハーナを倒す、か」

 「イエローをどこにやった」

 灰色の虚無僧の被る編み笠で表情も何も読めないし、雨の所為か声もうまく聞き取れない
 しかし、はっきりとわかるのは紛れもなく『強い』ということ

 「・・・何故、『上』はお主らを放っておくのか。理解に苦しむ」

 「何・・・ッ!?」

 虚無僧が左手でボールを持ち、レッドに突き出した
 右手は中指と人差し指をたて、何やら印のようなものを切っている

 「危険だ」

 「・・・・・・ッ」

 レッドの上体がぐわんぐわんと揺れる、何かで思い切り頭を叩かれているような感じだ
 何とか耐え抜こうとするものの、虚無僧の印を切る速度が上がるにつれ、それもかなわなくなっていった

 意識が・・・・・・保たない


 膝が折れ、どさりとレッドは倒れた

 「・・・ここまで耐えるとは、やはり危険だ」

 虚無僧はガイクの家の方を見て、それからレッドの傍へと近づいていく
 ギャラがそれをかばい、攻撃を仕掛けようとするが・・・レッドと同じ状態に陥っているようだ
 苦しそうに、それでももがいている

 「案ずるな。すぐにお前も後を追わせてやろう」

 ヒュンと音をたて、虚無僧がレッドに腕を振り下ろす


 その瞬間だった


 虚無僧の動きが止まった
 その足下が、完全に凍り付いている
 しかも少しずつだが、凍結部分が迫り上がってきている

 「・・・これは・・・」

 レッド一行の誰かが来たのか、それにしても誰だ
 『水』タイプは多けれど、『氷』タイプを持つ者などいなかったのではないか・・・

 「何奴か・・・!」

 虚無僧がその者の気配を察知し、上体だけ振り返った
 
 「退け」

 雨が

 「互いに退いて、それで終わりだ」

 やまない

 「『先走った部下を回収する為に此処に来た』、それでお前の行動も免責になるだろう」

 このままでは

 「俺はお前には興味が無い。そこでへばっている部下にもな」

 全身が

 「俺はレッドさんを、お前は部下を」
 
 凍る

 「退け」

 虚無僧は再び腕を振り上げ、上体を大きく揺らした
 すると、足下の氷がパキィンと割れた

 「・・・承知した」

 虚無僧はハーナを小脇に抱え、その姿は光に包まれ消えた
 今度こそ、『テレポート』で立ち去ったのだろう

 意識を失っているレッドを持ち上げその肩で支え、歩き出した
 行くべき場所はわかっている  


 雨がやんだ


 ・・・・・・


 「待ってろ、ってアンタねぇ!」

 「心当たりがあるんだ、さっさと行ってくる」

 ガイクがそのまま行ってしまおうとするのを、ブルーが服のすそをつかんで止めた
 が、それをグリーンが引きはがした

 「場所がわかってるなら、さっさと行ってきてくれ」

 「ああ。そのつもりだって」

 「だぁ〜かぁ〜らぁ〜、アタシ達にもそこを言ってから!」

 「後でで良いだろ」

 「良くないっ!」

 そんなことを言うブルーをグリーンが抑え、ガイクはとっとと行ってしまった
 しかし、ゴールドとクリスがその後を追うので、いまいち意味がない
 
 ガイクは風呂場へ向かい、何やら物置の扉のようなものを開け、その中へ入っていった
 「さっきここは見たって言ってたよなぁ?」とクリスと首を傾げながら、ゴールドもその後を追った
 しかし、中から扉の鍵が閉められたのか、開かない 

 「ぬぉっ」

 「・・・・・・ご、ゴールド、あれ!」

 風呂場の窓から覗いて見える光景
 クリスの顔が心なしか青くなっている、この反応は・・・・・・

 「雨か」

 裏庭の方で、遠目でようやく見える辺りで・・・局部的に大雨が降っている
 だが、ゴールドやガイクは全く気づかなかった
 クリスだけがそれに気づいた

 「裏庭のポケモンが『あまごい』したんだろ、どうせ。
 ・・・やっぱまだ苦手か?」

 「・・・・・・」

 少し暗くなったクリスに気まずくなり、無言でガンガンとゴールドは扉をぶっ叩く
カチャンと中から音がし、「おっ?」とドアノブから手を離した
 
 「やかましいわっ!!」

 バッガンッと扉が勢い良く開き、その直撃をゴールドはもろに鼻に喰らった
 中から出てきたのはガイク、そして行方不明だった・・・眠そうなイエローだった

 「「いたぁ!?」」

 「え? え?」

 「どこどこっ!」

 『わぁっ! 落ち着こうよ!』

 皆の反応に戸惑うイエロー、ゴールドの大声を聞きつけ、グリーンを半ば引きずってのブルー達も居間から見参した
 狭い風呂場の付近に集まられたらかなわない、ガイクがさっさと居間に戻れと言った
 確かにそれはそうなので、皆は一旦廊下から居間へ向かう

 それからイエローが口を開いた 

 「ガイクさん、さっきの話なんですけど・・・」

 皆の動きが、表情が固まった
 嫌な汗が全身からにじみ出るかのようで、何とも心地よくなかった

 
 突然、ガチャガチャッと裏庭に通じる扉から大きな音がした
 現在、居間にいないのはレッドだけ
 やはり、裏庭まで捜しに行っていたのだ

 誰もがそう思った


 「遅かったわねぇ」

 「どこまで行ってたんスか?」

 扉が開いた時、皆は口々に言った


 やがて、完全にその扉は開いた


 外から帰ってきたのは、レッドだけではなかった
 予想外、想定外・・・・・・
 皆の言葉が止まった、時さえも止まったかのようだ


 「こんばんは。そして、ただいま、皆」


 足下には、『あく・こおり』タイプのニューラ
 レッドをその肩に支えて立つ、赤髪の人物
 
 「シ、シルバー・・・・・・ッ!」

 誰もが言葉を失い、その再会の挨拶さえ交わせなかった
 ガイクや育て屋夫婦だけが、「?」と誰のことかわからないようだ

 「・・・・・・」

 シルバーが何か言いかけ、ずぶ濡れになったレッドを肩から降ろした時だった
 ゴールドの右拳が、思い切りシルバーの頬にぶつけられた

 「・・・ッ!」

 不意打ちに、シルバーが思わず反撃しようと拳を固めた
 すると、その目の前にイエローとクリスがにこっと笑って立っている
 思わず拳が緩み、行き場を失くすと・・・目の前の2人がそれぞれシルバーに平手打ちを連発した

 「駄目よ、2人共っ!」

 ここで鍛え上げられた2人の腕の力に、シルバーの上体がややふらついた
 それを支えるかのように、ブルーが飛び出し、シルバーを抱き締めた

 「イケメンは顔が命なのよ。だから・・・・・・」

 「姉さん・・・」 

 何かずれている、そう思った
 しかし、久し振りに会えたのだから、この際そんなことは・・・

 ドスッと鈍い音がした

 「だから、腹ならオッケイ♪」

 傷口が開いたと思う程の一撃に、シルバーの顔が歪んだ
 ハッとブルーの肩越しに、グリーンとシショーがいた
 
 ブルーがシルバーからすっと離れた瞬間に、間を入れずシショーの『はがねのつばさ』がクリーンヒットした
 舞い上がるその身体、落ちてくる身体にグリーンは見向きもしなかった
 ただ受け身が取れないよう、少しだけ手で押した

 ぐしゃっとレッドの横に崩れ落ち、シルバーは「うぐッ」とうめいた
 そして、そのまま動かない・・・・・・


 「「「「『あー、スッキリした』」」」」

 ブルー達は揃って、さっさと居間へと戻っていった
 




 To be continued……
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