〜更なる高みへ/025〜



 「「「「『あー、スッキリした』」」」」


 ・・・・・・


 「成る程ねー、そんなわけか」

 「はい」

 ベッドから上体を起こし話すレッドの横に、顔が少し腫れているシルバーがいた

 レッドはシルバーが連れ帰ってきてくれたものの、まだ意識を失っていたので、部屋で休ませていたのだ
 回復は割と早く、およそ1時間しない内に目が覚めてくれたようだ

 「成る程なー。そうかそうか」

 レッドは腕組みをし、納得したような顔で頷いた
 シルバーが無言でいる、隙を狙ってゴンとその頭をこづいた 

 「これでチャラな」

 「・・・はい」

 シルバーはこづかれた頭を押さえ、少しだけ顔をしかめた
 軽くとはいえ、レッドの力では普通に痛い・・・

 「ったく、それだけですんだんだから、ありがたく思えよ。
 皆、ほんっとぉに心配してたんだからな」

 「わかってる」

 殊勝なシルバーに、レッドはいきなりふと笑った

 「・・・変わったな、シルバー」

 「は?」

 「何つーか、無愛想なのは変わらないけど雰囲気が柔らかくなった気がする」

 「・・・・・・」

 「ま、ともあれ、パーティ復活かな。傷の方は良いのか?」

 「一応」 

 あれだけの重傷がすぐに治るとは思えないが、本人がそう言うならある程度は平気なのだろう
 よっこいしょと言いながら、レッドはベッドから降りた

 「・・・レッドさん達も変わったと思います」

 「ん?」

 「以前よりずっと強くなっている。離れていたから、わかる」

 それは修行の成果が出ているということだろうか、なら嬉しい限りだ
 しかし、と・・・レッドは苦笑した

 「お世辞はよせよ。
 どっちかっていうと、俺はお前の方が遥かに強くなったと思うけどな」

 「・・・・・・」

 レッドは「こんなこと言ったら、ゴールドが憤るよなー」と笑った
 上着を羽織り、部屋を出ようとするレッドにシルバーは言った

 「そう言えば、ガイクがレッドさんが起きたら、イエローさんがいた所に案内すると言っていました」

 「あ、そうなの?」

 イエローは結局この家の中で見つかったと聞き、安心した
 奴らの手に落ちていなくて本当に良かった、逃がしてしまったことには変わりないけれど
 それと裏庭で倒れていたギャラもシルバーが介抱し、元居た池に帰っていったという

 「じゃ、いくか」

 
 ・・・・・・


 「あら、もう起きたの?」

 「何とかなー」

 「夕飯、もう終わっちゃいましたよ」

 レッドとシルバーが揃って顔を見せると、ブルーがそう言ってきた
 ゴールドの言葉に、「あー、まだ微妙に頭痛いから、今日はいらないな」と返した
 こうして起き上がって話せるものの、敵の攻撃はまだ尾を引いているらしい
  
 「なんでやられたんだ?」

 「わかんね。でも、多分・・・精神操作とかじゃないかな?」

 「うーん、でもアレよね。最近トレーナー能力ってさ、よくわかんないのよ。
 最初、シショーから聞いた時は『ポケモンに関しては何でもありな能力』だったわ。
 でも、最近じゃ『トレーナー自身の肉体に影響を及ぼす』ものもあるのよね、ほら『氷タイプのトレーナー攻撃無効』のヤツとか。 
 これは能力にはあんまり関係無いけど、能力者が残酷な性格になったりとか。
 この前、グリーンが言ってた時はピンと来なかったけど、言われてみると精神的な影響を及ぼしてるって言えなくもないわよね」

 「ただ、それは薬の副作用みたいなもんだろ? 能力自体が人格を変えるってわけじゃないし・・・」

 「そりゃそうだけど」と、ブルーが話を一旦切った
 それもそのはず、この話題は『イエローがクリスの精神的外傷を癒せるかどうか』に繋がっている
 やはり、思い出させるようなことは今はしない方が良いだろう・・・

 そんなところで、ガイクが言った

 「ほら、じゃあ案内するぞ」

 皆は頷き、その後をついていった


 ・・・・・・


 「で、ここがイエローを連れ帰ってきた謎の扉と」

 「ただの物置じゃないんスか?」

 「ここも捜したわよ」

 「ていうか、こんな部屋ありましたっけ?」

 大勢でその扉の前でたむろっていると邪魔になるので、さっさとガイクが開けて中に入った
 皆もその後に続くが、なんてことはない・・・物置だ
 ただし、何も入っていないので、少し広く感じる
 扉の内側にはやはり頑丈な鍵が付いており、中からなら密室状態にすることが可能だ

 「ほれ、床に注目」  

 「?」

 ガイクが示す床の一部の色が違う、というかそれだけ別物だった
 他は木目調の床板なのに、そこだけきらきらと光るタイルのようで・・・何かのミスだろうか
 
 「・・・?」

 「これは・・・」

 どこかで見たような、そうグリーンが言いかけた
 が、その前にガイクが説明した

 「これは『ワープパネル』だ」

 「へー、ワー・・・」

 「は?」と、皆が口を揃えて聞き返した
 ガイクは何やら電源を入れ、それを起動させた

 「定員は1名ずつだから、順番に来い」

 ガイクはパコンとパネルを踏み、どこかへ跳んでいってしまった
 勿論、誰もそれを踏む勇気は無かった

 「・・・えー」

 「誰が次行きます?」

 「・・・・・・ま、こーしてても始まらないし」

 レッドが踏んで跳ぶと、ようやくその後を皆が順番に跳んでいく 
 

 ・・・ワープ自体に害はなく、それも一瞬ですんだ

 転送先はまた薄暗い室内で、先にガイクが待っていた
 何とも不気味な感じがするが、さてここはどこだろうか

 「そーです! ボク、ここにいたんです」

 当のイエローがそう言うのだから、ここが行方不明先で間違いはないようだ

 「・・・つまり、うっかりワープパネルの電源を入れて、それを踏んだのか」

 「本当に気づかなかったんですか・・・」

 「・・・あれ? この臭い・・・」

 「明かりを点けるぞ」 

 ガイクがパチッと電気を点けると、その部屋は見覚えがあった
 しかも、かなり親近感がわきそうな内装だった

 「・・・風呂場?」

 「ていうか、銭湯の脱衣所?」

 「あ」

 この臭い、憶えがある

 ガイクがガラス戸を、ガラガラッと引いて見せた


 その先にあったのは・・・・・・


 「「「「「『「温泉ーーーーーッ!!!?」』」」」」」

 「しかも、海の見える展望風呂・・・」

 夜も更けてきたので、今はあまり見晴らしが良いとは言えない
 しかし、さざ波の音が聞こえ、夜空の星が見え、露天風呂としては一級だ


 ・・・もうわけがわからない・・・

 いつの間にか増設されていた物置
 扉の向こうのワープパネル
 ワープパネルの先には温泉があるなんて

 「ここはどこなの!?」

 「ウチの裏庭」

 ガイクがしれっと言うと、皆が思いきり反論した
 第一、こんな建物は見たことがない・・・

 「温泉は掘ったら湧いたんだ。で、ついでなら風呂場にしちまおうと考えたわけだ。
 お前らの修行の合間を縫って、大工仕事やって、つい最近完成させた。
 まー、半分はお前らの為に作ったんだがな。風呂の順番待ちをせんですむぞ」

 いや、そういう問題じゃなくて・・・・・・もうどこからツッコんだらいいのか・・・

 「海に面した温泉なんて、最高だろ。
 ただウチから離れた海の傍、崖の上にあるもんだから、そこまで行くのが面倒。
 そこでワープパネルでこことあの物置を繋げたんだよ」

 「・・・・・・」

 もう何を言うのも疲れた、皆はそう思った
 何でもありか、このガイクという男は・・・・・・・

 ただ掘っ建て小屋に近い風呂場を作るのは別に人間なら不可能ではないし、ワープパネルもシルフカンパニーに置いてあるそうだ
 ただ組み合わせが突拍子も無さ過ぎて、明らかに現実感が足りないのがいけないのだろう・・・

 「んじゃ、今後、風呂はウチのとここので男女分けての同時に入れるな。
 ・・・さて、お前ら今日の風呂まだだろ? どーだ、男女のどっちかがついでに入ったら。
 別に無理は言わないが・・・・・・」

 ガイクが言い終える前に、既に男子代表ゴールドと女子代表ブルーがじゃんけんを始めていた
 その勝負の気迫は凄まじく、ガイクは「だから、お前らその熱意を修行に・・・」と呆れて見ていた

 「「あいこでショッ!!!」」

 おおっと歓声が上がった、勝負がついたのか・・・

 「いよっしゃぁーっ!」

 なんと勝ったのはゴールドらしく、ブルーは少し悔しげだ
 あのブルーからの久々の勝ち星に、ゴールドは周りに褒め称えるよう促す
 
 「・・・フッ、まぁいいわ。今日のところは譲ってあげる」

 「そりゃどうも」

 「でも、明日の朝風呂権は貰ったわ!」

 「な、何ーーーーーッ!!?」

 「どうせ夜も遅いし、今から入ってもあんまり楽しめそうにないしね。
 その代わり、朝の清々しい空気と共に楽しむことにするわ」 

 じゃんけんの勝者であるはずのゴールドががくっと崩れ落ちた
 「まさか、その手でくるとは・・・!」と、先程のブルー以上に悔しがっていた

 「・・・だから、お前ら、そのやる気を修行の方に回せよ・・・」

 ガイクの呟きは虚しく風呂場に響いた


 そんな2人を、シルバーはじっと見ていた

 「・・・・・・」

 「成長してないな、ってか?」

 レッドにそう聞かれ、シルバーは苦笑した
 

 ・・・・・・


 その後、沢山シルバーと話した
 まるで今までいなかった分を埋め合わせるかのように
 
 男子組は露天風呂で、女子組は居間で
 色々積もる話もあった


 それでも、夜が更ければ就寝しなければならない
 明日も修行がある、体調だけはしっかりと整えておく必要がある

 「・・・じゃあ、おれがシルバーの寝床を作るから、お前らはもう寝ろ」

 ガイクにそう言われ、皆は各々の部屋へと戻っていった
 名残惜しそうに、シルバーの方を見ながら・・・・・・

 「愛されてるな、お前」

 「・・・・・・」

 「じゃ、今夜の寝床は・・・」

 ガイクが話そうとするのを、シルバーは遮った

 「話がある」
 

 ・・・・・・


 その翌朝のことだった


 また、シルバーの姿が無くなっていた
 ガイクを問いつめれば、「1人で旅立った」と答えるだけだった
 どうして引き留めてくれなかったのか、まだ話したいことは山程あったのに・・・と

 ・・・ガイクはレッド達に一通の手紙を手渡した
 それは紛れもなくシルバーの筆跡
 その内容は、これまでのこと全てだった


 ・・・・・・


 『俺は「幹部候補」と戦い、負け、ジョウト四天王に救われた。
 そして、自分の弱さと未熟さを痛感した俺は皆と離れることを決意した。
 負けたからだけではない、俺はこれから先、R団にも狙われていくだろう。
 それは俺がその首領の息子である可能性があるから。わかってほしい。
 水臭いだの何だのと言われることは承知の上、今度は平手や殴られるだけじゃ済まないことも覚悟の上だ。
 俺は1人でも戦える力が欲しい。皆の仲間として誇れるだけの力が欲しい。
 皆と今度会う時は、きっと組織との最終決戦になると思う。
 その為の師匠も見つけた。他の誰でもない、『仮面の男・ヤナギ』だ。
 捜すのに苦労したが、ヤツとはクチバの海底ドームで出会えた。
 厳密に言えば「時渡りのほこら」と同じものがあり、そこで一種の通信が出来たというだけのこと。
 ヤナギも能力者の端くれ、俺は師事を仰ぎ、そして何とか了承を得た。
 皆と別れてから、そこでずっと、つきっきりで修行をさせてもらった。
 少しばかり遅れたかもしれないが、そこで自分自身のトレーナー能力に目覚めた。
 ご苦労なことに海底ドームにまで組織の追っ手は来た。想像以上の強さに、また逃げるほか無かった。
 もう二度とあの場所へは近づけないだろう。
 だから、今度はオーレ地方にある「ほこら」を目指して、旅に出る。
 過酷な旅となる。何故なら、その地方は既に組織の手に落ちているという話からだ。
 「それでもそこまで辿り着け」、それがヤナギの出した課題だ。
 俺はそれを成し遂げ、向こうで更に鍛えて貰う気でいる。ついでに向こうに滞在する組織の方も壊滅させておくことにする。
 もしかしたら、最終決戦に向けてオーレの能力者と手を組めるかもしれない。何やら特殊な眼力を持っているとの話だ。
 旅立つ前に皆と一度会っておきたかった。ここの場所は育て屋夫婦と馴染みがあるヤナギから聞いた。
 それとガイクから話は聞いた。色々と揉めているらしいことを。
 微力ながら、力になりたいと思う。転送装置が使えず、困っているとも思う。
 だから、俺は旅先で捕まえたポケモンを託す。受け取って貰いたい』


 「・・・あの馬鹿野郎! また・・・」

 ゴールドがぐしゃっと手紙を押し潰し、捨てかけた
 が、それをレッドに止められた

 「・・・でも、ポケモンを託すって・・・」

 居間の机の上を改めて見ると、そこにはモンスターボールが置かれていた
 これがシルバーの置き土産、というわけか・・・

 しかし、能力者同士の交換は出来ないはず・・・・・・一方的なやりとりでも同様だ


 机の上に、個人名が書かれた紙がある
 『イエロー』と
 その紙の上に、モンスターボールが置かれていた

 その名を書かれた本人が、そっとボールに手を伸ばす
 思い出される、クリスが『オニ』の入ったボールに手をはじかれたこと


 しかし、イエローはそのボールを手に取ることが出来た
 痛みをこらえるわけでもなく、本当に、ごく自然に・・・・・・

 『イエロー』と書かれた紙の裏に、また何か書かれていた


 『書き忘れたわけではないが、俺の能力をここに記す。
 それは文字通り、「交換」。
 つまり、「能力者同士、能力者と一般トレーナーとの交換を可能にする」トレーナー能力だ。
 以前、トゲピーのタマゴを孵化させ、能力者となったばかりのゴールドと「通信交換」したことがあった。
 よく考えてみれば、俺自身がそういう能力者なのだから、出来て当然だったというわけだ。
 だから、安心して受け取って欲しい。
 ガイクから聞けば、彼女が旅に出られるか出られないかで揉めたとか。
 なら、話は簡単。他の皆が頑張って、ポケモンが傷つかないようにすればいい。
 その為の、そこでの修行ではなかったのか。迷ったのが不思議でならない。
 それと当の本人のパーティにも若干問題があるように思えるので、こうして託す次第だ。
 性格などの相性の程はわからないが、多少傷ついてもびくともしないタフなポケモンだから、きっと戦闘でも役立つだろう。
 皆の健闘を祈る。またいつの日か、共に。          
                                    シルバー   』


 イエローがボールからポケモンを出した
 そこには、何とも奇妙な・・・四つ足のポケモンがいた





 To be continued…


 
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