〜更なる高みへ/026〜
「話がある」
･･････
イエローがシルバーのボールからポケモンを出した
そこには、何とも奇妙な･･･四つ足のポケモンがいた
「なんだぁ、コイツ･･･？」
素っ頓狂な声をあげたのはゴールドだった
見た目は首を引っ込めた亀に近いだろうか、しかしそれは違う
「･･･珍しい。『コモルー』か」
「あ、確かホウエン地方にいるとか何とか･･･？」
この目で見ることは初めてだが、お勉強会でホウエン地方に生息するポケモンは教わっている
確かコモルーは見た目に似合わず、「ドラゴン」タイプのはずだ
ガイクはまじまじとコモルーのことを見ると、さっとイエローの影に隠れてしまった
「性格は『てれや』っぽいな。･･･面白い、こいつ、『ハイドロポンプ』をおぼえてる」
「へぇ、珍しいんだ？」
「ああ。普通にレベルアップさせてもおぼえないからな」
初見でここまで知れるという、ガイクの「トレーナー・アイ」は本当に便利だ
イエローは隠れているコモルーの頭をなで、「大丈夫、怖くないよ」と言った
「シルバー･･･親元から離れたんだ、最初の内は不安なのは仕方ないな」
『でも、イエローならすぐに懐くでしょ』
「だよな」
それにコモルーの参戦はイエローの戦力面においてもありがたい
育てるのは難しいかもしれないが、ドラゴンタイプはそもそも貴重だし圧倒的な強さを秘めている
「･･･そうだ。名前つけてあげよっか」
イエローがそうコモルーに話しかけると、レッドが言った
「いや、それは無理じゃないか？ だって、『交換』なんだろ」
「あ･･････」
他人様から譲り受けたポケモンのニックネームは変えることが出来ない
それは離れても失われない絆を意味しているのだろうか
それは離れても逃れられない鎖を意味しているのだろうか
時として大きな弊害ともなりうるやもしれぬそれは、トレーナーとしての常識でもあった
「･･･うーん。じゃあ、コモルーのままなんですか」
「仕方なくね？ アイツ、ポケモンにニックネームなんか付けねーもんよ」
確かにそうだ、シルバーはニックネームを付けない派だ
幼少時に叩き込まれた仮面の男の考え、教育によるものなのか
いや、たぶんそれは違う
ただ単に、付ける気がないから付けないだけ
付ける気があるなら、ブルーのようにしているだろうから
「ずーっと同じ名前を呼び続けてれば、その内定着するんじゃないか？」
「･･････いや、それよりもイエロー自身がポケモンに聞けばいい話だろ」
失念していた、そういえばそうだった
名前を変えるにしても何にしてもポケモン本人を無視しては意味が無い
しかし、それは能力を使うということで氣を消費してしまうのではないか
「･･･問題なのはトレーナー自身の氣を送りこむという回復方法。
短時間の思考を読み取る程度なら、まぁ、平気だろ」
ガイクのお墨付きを貰えたが、せいぜい１日６〜７分に留めるように釘を刺された
イエローがそっとコモル−に手をかざし、その思考を読み取った
『･･････好きに呼んでくれていいよ。気にしない･･･から』
「･･･」
逆に困ってしまった
「･･･えっと、好きに呼んでくれていい･･･そうです」
「･･････じゃあいいだろ」
「なんかイライラっすなぁ！ コラ、引き籠もってないでちゃんと顔見せろ！」
ゴールドがコモルーに手を伸ばすと、イエローが差し止めた
「そんな無理させちゃ駄目です」
「無理とかじゃなくてなぁ･･･。こう、なんつーか･･･引き籠もってないで根性見せろつーか」
『根性でどうにか出来たらいいさ』
コモルーが何か言ったようなので、イエローが通訳した
『ボクだって好きでこんな姿になったんじゃない。仕方ないんだ。
これが決められた姿、動きも鈍くて手足も短い身体。仕方ないんだ』
「仕方ねぇ？」
『そう。この姿がボクの「分相応」なんだ。根性なんかで解決しやしないよ』
コモルーの言葉に、ぷちっとゴールドがきれた
「だーっ、あったまきたぞ！ なんだその言い草！
なに諦めてんだよ！ ちったぁ努力したのかよっ！」
『したよ。でも、駄目なものは駄目だったんだ。それこそ最初からさ』
「何度も何十度でも努力しろよ！ 諦めたらそこで終わりなんだよ、わかってんのか!?」
『責めたきゃ責めるといいさ！ キミみたいなやつにボクの気持ちなんかわっかんないだろ！』
「テメ･･･ッ！ お望み通り、根性入れてやる！」
「ゴールドさん！」
なんともネガティブな思考のポケモンだろうか
ガイクがとりあえずゴールドに言った
「ゴールド、こいつは亀じゃない。こいつに限らず、全てのコモルーは首と顔は引っ込みぱなしなんだよ。教えただろうが」
「･･････。悪かった」
ゴールドは自分の非と勘違いを認め、謝った
が、それでもコモルーに言った
「だけど、『分相応』とか言うお前のその根性は気に食わねぇ･･･」
『･･････』
また厄介な問題が出来てしまった気がしてならない
コモルーの通訳として間に入ってしまったイエローがおろおろしている
「喧嘩はいけない」、そういう話でもないらしいから困る
こんなことでイエローに能力を使わせず、護り抜くことなど出来るのだろうか
「･･･あー、ところでお前ら、あの日から何日経ったか憶えてるか？」
ガイクの言葉に皆の動きが止まり、その周りの空気･･･空間に亀裂がはしった
格好良くキメていたゴールドの頬がピクピクと痙攣し、同時にその拳をギュッと握り締めた
「あの日から･･･６日経った？」
「そう、６日経った」
「･･･か、数え間違いじゃない？ 明日よ、明日」
「いや、６日だ」
レッドたちは違うと言うが、ガイクは頑固として聞かない
『･･････皆、諦めよ。６日経ってるから』
シショーの言葉に皆ががくりと項垂れた
･･････
ズシャンと地に響き、砂ぼこりが舞う
「おらおらぁ、どうした！ 次こいッ！ 手を休めんなッ!!」
ガイクの怒声、それと同時にゴロすけが砂に埋まった
「今日こそ、その鼻っ柱へし折ってやりますよ」
「せいぜい怪我しないようにな。明日が無駄になるぞ」
ゴールドはエイたろうを出し、ガイク目がけて走り出す
そして、その後ろからチャーレムが飛び出してきた
この修行では、ポケモンバトルだけでなく･･･なんとトレーナー自身も戦う
その相手はあのガイク、要するに人間同士のガチンコバトルとポケモンバトルの指示を同時にやれというのだ
勿論、ガイクも彼の手持ちも手加減などしてくれない
修行が終わったら皆、全身あざだらけ、ポケモン共々満身創痍に疲労困憊
その為、この日の翌日は身体を使った修行は全面的に休み
午前中はいつも通りお勉強会だが、午後は軽い筋トレ・ストレッチで終わらせるので実質の休みと言うことだ
５日間は通常修行、６日目にこの特別修行、７日目にまったり修行･･･ここ最近はこれらの繰り返しだ
しかし、あんまりにもしごかれるので、空き時間に休日らしいお出かけやショッピングなんてのは不可能に近いのだが
エイたろうがその自慢の足で攪乱しようとするが、足場の所為でうまく踏んじばれない
それはゴールドも同じで、ガイクにつかみかかったものの、思うように攻撃が決まらない
「もっと足腰を鍛えさせっか･･･」
ガイクはゴールドの足を軽く払い、体勢が崩れたところで頭を鷲掴み･･･砂地に押しつけた
ごしゃっと音がし、ゴールドが動かなくなる
この修行ではバトルフィールドは毎回変わるのが常とされ、それは当然だった
戦いの状況や進行において、２つとして同じものはない
何故ならガイクはなるべく多くの、様々な状況下での戦闘経験を積ませようとしているのだから
今回のフィールドは『砂地』、足場は最悪だが相手の目潰しには事欠かず･･･また足場が悪いことも転じれば有利にもなれる
先程のガイクのように足払い、じめんタイプのポケモンなら土より柔らかいので『あなをほる』のが容易く、『じしん』ならば衝撃はより伝わりやすいらしい
最も足腰ががっちりとしているガイクには足払いは無理、地面対策もしっかりと練ってあるようだ
動かないゴールドを後目に、ガイクは叫んだ
「･･･次は誰だ!? 時間が惜しい！ 今度は３人、いや全員でこい！」
「選手交代にゃ早いッスよ」
ゴールドはガイクが目を離したその隙を狙い、押さえつけていた手から逃れた
ザッと足でガイクの顔面目がけて砂を蹴り上げ、そのままの勢いで･･･ガイクに思い切り蹴りを入れた
皆がおぉっと歓声を上げた、これはバッチリ決まった
不意打ち、油断、目潰しなんて関係無い･･･ともかく一撃は一撃だ
ゴールドは勝利を確信したが･･･
「･･･そうだな。きっちりとどめはさしておくか」
砂が目に入って明かない、目潰しは効いていた
しかし肝心の蹴りはしっかりとガードされ、ガイクの身体には届いてなかった
「うげっ」
ゴールドが足を離す前にガイクがそれを掴み、無造作に投げ上げた
軸足がそれにつられてしまい、またも頭から落ち、ゴールドはうぐっと声が漏れた
その上、無情にもガイクはゴールドの腹に足をドッと音を立てて乗せた
「･･･さーて、次、来い」
「こ、こら、まだ終わって･･･」
ゴールドがジタバタとあがくが、そうすると砂ぼこりが舞って思わぬダメージを受ける
ガイクの方の視力は回復したようで、ゴールドを見下ろしている
「その不屈の闘志、筋金入りの根性だけは確かだな。ま、それは認めてやるが･･･まだまだ、もう少しだな」
「どっちだよ！」
「それは今からわかることだ」
「？」とゴールドが不満げな顔をすると、ガイクはその足をどけた
勿論、それをチャンスだと言わんばかりにゴールドは立ち上がる
･･･と、何故か足下がずぶずぶと沈んでいく
慌てて抜け出そうとするが、思うようにいかない
これが、いわゆる『流砂』というものだろうか
以前、偽シルバー戦でも同じ様な体験をしたので、これが如何にヤバイものか身に染みている
「･･･ポケモンバトルはポケモン同士が、常に１対１と決まったわけじゃない。
中にはやけになったトレーナー自らが相手のポケモンに襲いかかることだってあるし、野生のポケモンが介入してくる事だってあり得る。
特に能力者の戦いじゃ、刹那の気の抜き様が命取りになる。文字通りのな」
「いやいやいやいや！ その前に助けろよ！」
ゴールドの身体は既に半分が砂の中に埋もれてしまっている
レッド達が助けに行こうとしたが、足場が想像以上に悪くなって巻き込まれそうなのと･･･ガイクのポケモンに阻まれている
シャレにならない
「･･･だから言ったろ。今からわかるってな」
ガイクは本気で、ゴールドを流砂に埋もれさせる気でいる
そう、この流砂の原因である野生ポケモンを砂の中で倒してこいというのだ
「･･･本気でいかれてんじゃねぇのか？ 上等だ！」
ゴールドはそれだけ言うと、なんと自ら流砂の中へ顔を突っ込み、ダイブしていった
自殺行為でしかない、しかし･･････行ってしまった
ゴールドとエイたろうを呑み込むと、砂地は大人しくなった
「･･･さて、次来い。全員でな」
･･････
「そりゃ、いざとなった助けるつもりだったさ」
『でも危険過ぎでしょ、あれは･･･』
顔をしかめたシショーと余裕の表情のガイクが２人だけ話をしている、少し珍しい風景だ
ここはガイクの家の居間、時刻はとうに夕方過ぎで･･･あの修行が終わって皆はぐったりとしている
今日も散々にしごかれ、へとへとなのだ
「･･･まぁ、アイツなら自力で戻ってこれると思ってたがな。それだけのことはしてきたはずだ」
『･･････』
シショーはちらりと砂まみれなゴールドの方を見た、豪快に大の字で寝転んでダウンしている
しかし、その左手には『ダグトリオ』の入ったボールが握り締められていた
「まさかあの状況下で捕まえてくるとはな･･･。そんな余裕があったとは、なかなかだ」
『感心するところじゃないと思うけどね』
ガイクはすっと立ち上がり、台所へと、夕食の仕上げに向かう
「いや、それでもこんなザマじゃ･･･力の使い方やその受け流し方はまだまだだ。
ゴールドだけじゃなく、レッド達の皆もな」
立ち上がった時、ガイクは少しだけ顔を歪めた
「･･･だがまぁ、『力』だけはついてきたみたいだな」
今日はガイクの手持ちも５体中４体気絶し、最後の１体は半分ほど体力を削った
最初の修行の時は全員がかりで１体気絶、残りの４体の内１体だけ半分と少し体力を削れたといったところだった
･･･以前は、それ程差があったのに･･･
『･･････そっか。進歩あり、ってのは嬉しいね。シショーとして』
「お前は何もやってないだろ」
ガイクはひらひらと手を振り、シショーや皆に背を向け、そのまま台所へと行ってしまった
そういえば彼の歩き方が少しぎこちない、どこかにあざぐらいは出来たのかもしれない
「･･･これでようやく進歩？」
「割に合わんな」
「やっぱりムカつくわね」
「今日のご飯は何なんでしょう･･･匂いからして炒め物かなぁ？」
ぐったりしててもお腹は正直らしい、というかお腹を空かせているのはイエローだけかもしれない･･･
「･･･とりあえず、次こそ勝てるように分析しよーぜ」
皆が身体をズルズルと引きずって、寝転がりながら１箇所に集まった
この討論は何度もやっているし、結論は毎回ほぼ一緒なのだが･･･とりあえず意味はある
「この前より多く倒せたな」
「こっちの手持ちのレベルは上がってるのね」
「トレーナー自身の戦闘技術もな」
「筋力もつきましたッス」
「だけど、ガイクさんの能力は厄介すぎます。こちらの動向を、全て見通してしまうんですから」
「『トレーナー・アイ』な。こっちにはポケモン図鑑あるけど、あれは反則だって」
「ガイクさんは四天王より強いんでしょうか･･･？」
「不等号で強さなんか言い表せるわけないでしょ。でもま、同じレベルはいってるんじゃない？」
「ガイクの戦闘スタイルっつか、あっちのポケモンの素早さは半端じゃねぇって」
「その辺は育て方の違いでしょ」
「図鑑で確認したんだが、レベルは同じぐらいだが向こうの方がステータスは上だ。
能力者としては向こうが上、戦闘技術や経験は･･･今までの戦いから考えてもこっちも劣ってないはず。
しかし、それにを活かすのに必要なのはトレーナーやポケモン自身の対応・応用力･･･まだまだ活かし切れてないのが現状だな」
「いやいや、格闘ポケモンなのにあの素早さは有り得ないって。なんか道具でも使ってるのかも･･･」
『トレーナーの指示、反応速度の違いじゃない？』
「あー、ありえるわね。それ」
「戦闘スタイルっていうのは結構重要かもしれません。
ガイクさんは私達より能力者歴が長いから、それだけ自分に合った戦い方を知っているんです。
１つ１つの技のタメ、放つタイミング、射程距離、そのポケモン固有の間合い、指示を受けてから実行するまでの反応速度とか」
「それを突き詰めているから強いってか？ まさか」
『そこまではないにしても、まぁ戦闘スタイル云々に関しては同感。
能力者の戦い方にもある程度のパターンは存在するからね。勿論、全てに当て嵌まる訳じゃないよ。
トレーナー能力と従来のポケモンの能力や技を合わせて戦ったり、自分の有利な状況を無理矢理創りだしたり。
後者はゴールドみたいな非戦闘能力者に多いかなー。ほら、「氷箱」みたいな特能技とかさ』
「まぁバトルじゃ如何に自分のペースに持っていくか、相手を巻き込んでいくかはやるもんだろ」
ぐだぐだと話題がループするのも構わず、皆はだらだらと議論し続けた
こうして皆と話しているのが楽しいから、心地よいから
それでも、本当はまだ居て欲しかった
また一緒に、こうして他愛のない話をずっとしていたかった
誰もそのことに触れない、誰もがそのことに気づいているのに
ぽかんと空いたその居場所に、彼が帰ってくるのは何時になるだろうか
そうして議論し、出る結論はいつも「ガイクは強い。けど、自分達はまだいける」ようなものだった
「･･････にしてもさ、この修行っていつまで続けるわけ？」
ブルーがむくりと起き上がり、そう皆に訊いた
もう１ヶ月以上はお世話になりっぱなしだし、何時までも此処にいるわけにもいかないだろう
「そりゃ、ガイクに勝つまでッスよ」
「全員がかりでも駄目だったのに･･･か？」
うぐとゴールドが詰まった
何だかんだ言っているものの、未だに勝てる気配が無い
『誰もが一度は憧れ、目指す理想の･･･最強のトレーナー』
悔しいが、ホウエン地方で培われたガイクの実力は本物なのだ
「･･･ホウエン地方にいってなけりゃ、もしかしたら俺達と一緒に色んな事件解決してたかもな」
「博士に図鑑貰って？ まぁ、能力者にはなってないわよね」
「出身はカントー地方ですけど･･･マサラタウンにはいなかったんでしょう？」
「育て屋夫婦と博士の仲なら、貰えてもおかしくないって」
「なーんか想像つかねぇなぁ･･･」
「確かに」
『顔の所為じゃない？ 同世代に見えない辺り』
シショーの言葉にプッと吹きだした、そうかもしれない
「･･･にしてもさ、今の俺達ってどのぐらいの強さにいるんだろ？」
「うーん、６人合わせてもガイクに勝てないわけだから･･･ガイクよりは弱いってことでしょ」
「でも、強さは６等分なんか出来ないし」
「そもそもガイクさんってどのぐらい強いんでしょう？」
「四大幹部に勝てる･･･？」
「てか、四天王より四大幹部の方が強いのは間違いない？」
「そーそー、四天王には先輩達が勝ってるんスから」
「で、その俺達が四大幹部とガイクに負けた」
「んじゃ、同列？」
「どちらも強いですけどね」
この話題もキリがなさそうだが、これは気になるところだ
今、自分達がどのレベルにいるのか
戦いに身を置く者として、知っておきたいことでもある
ここで議論はお開きとなった
食堂から、ガイクが食事の時間を告げたからだ
痛みはあるがようやく身を起こせるまでに回復し、それでも皆はふらつきながらそこへ向かった
･･････
その日の夜
レッド達は早めに眠りに就き、老夫婦も珍しく眠ってしまった
ガイクはノルマの家事を終わらせるべく、１人で集中し取りかかっている
「（今夜はやけに静かだな･･･）」
夜行性のポケモンどころか、島全体が静まりかえっている
物音１つ立てただけで、この島がガラス細工のように粉々に砕けてしまうとも思えた
何となく、ガイクの手と足が止まり、その静寂に耳を澄ませた
「･･･随分と久しいな」
こんな夜、いったい何時振りぐらいだろう
もうすぐ11時を回る頃
後少しで、今日の家事は終わるはずだった
･･･はずだった
ガイクはエプロンをそっとはずし、椅子の背にのせた
それから静かにドアを開け、この島の海岸線へと足を向ける
誰も起こさぬよう、いや･･･今夜は島中の誰もが朝まで起きてこないだろう
何故かそう思った、そうとしか思えない程に静かだったのだ
良い月夜だった
海岸の砂を踏みしめ、誰かがこの島に上陸してきていた
ガイクの目の前に立つ黒い影
「･･････やれやれ」
いつもならうるさく聞こえ打ち寄せるさざ波でさえ、今夜に限ってこんなに大人しいというのに
どうして、今に限って･･･こんなにも心臓の音がうるさいのだろう
「･･･顔を合わせるのはこれが初めて、か？」
先程まで家事で動き、汗をかいたのかもしれない
その所為で夜風で冷えてしまったのか
「お前はどうかはしらんが、おれはお前のことはよく知ってる」
寒気がする
「一度、手合わせ願いたいと、そう思ってた」
やけに寒い
いつかは来ると知っていた
そう聞いていたはずなのに
覚悟はとうに決めていた
そう思っていたはずなのに
･･･手持ちのポケモンはフルメンバー、体力回復も完了している･･･
「シルバーはどこだ」
黒い影がようやく言葉を発した
ガイクのことなど、眼中に無いのかもしれない
「知らないな」
ガイクは影のことをにらみ返した
･･･その尋ね人自身から頼まれ、承諾したことだ
･･････
「もしかしたら、俺のことを追って、誰かが来るかもしれない」
「海底ドームでの刺客はもう撒いたはずだし、その後も尾行はされていない」
「万全は期したはずだ」
「それでも、奴らは侮れない」
「だから」
「もし、俺のことを追って来た奴らがこの島に来たら･･･俺の行く先を教えてやってほしい」
「俺の所為で、姉さんや他の皆が襲われるのは御免だ」
「尻拭いは、後始末は自分でやる」
「･･･それについては、承諾してやれねぇな」
「お前の行き先を教えたところで、その追っ手があっさりとおれを見逃し･･･この島ごと見逃すとは思えない」
「そう微塵にも思うなら、お前は此処に来るべきじゃなかった」
「そういうもんだ」
「･･････ああ」
「俺は莫迦だ」
「だからこそ、自分の尻拭いは･･･後始末はきちんとする」
「いや」
「お前は何の心配もするな」
「この島で起きたことは、おれが解決する」
「それじゃ話にならん」
「なるさ」
「お前の言う通り、そんな追っ手が来たら」
「お前の所へ行かないよう」
「この島を荒らされないよう」
「ぼこぼこにぶちのめして」
「二度と来させないように、そんな気が起きないようにすりゃいいだけだろ」
「･･････」
「･･････」
「約束する」
「おれの素性は、もう知ってんだろ」
「･･････ああ」
「しかし」
「･･･随分、物騒な約束だ」
･･････
違えるわけにはいかない
ならば、全力を以て止めてみせよう
正直に言えば、ここまでの大物と出会すとは思わなんだ
今、この島を･･･ここにあるものを守れるのは他にいない
祖父母に当たる育て屋老夫婦
裏庭やこの島に住むポケモン達
この島を愛する４の島の人達
本土から逃げ延びてきた人達
そして･･････
そして、『最後の希望』となるレッド達
今の彼らに、この者を会わせてはならない
そう、絶対に
だから、全力を以て止めてみせる
これ以上の上陸を･･････許しはしない
「とりあえず警告だ。それ以上の上陸は許すわけにはいかない」
影は無視して、一歩、一歩と足を前へと踏み出した
ガイクは目にも止まらぬ速度で、モンスターボールを投げつけ、同時に蹴りかかった
が、その蹴りとＭＢから出てきたニョロボンの攻撃は容易く避けられた
と同時にガイクは素速く後ろに退がり、暗い闇夜の脅威から逃れる
影へ蹴りかかった足にプシュッと鮮血が奔る、あと１秒遅かったら斬り落とされていたかもしれない
影が影でなくなり、その姿を見せる
沖の方に見えるは大型の二輪車か
男の隣には黒の身体に赤い紋様を持つストライクがいた
「･･･名は？」
「ガイクだ。よろしくな、『最強の幹部候補』がアゴコロ＝ジン」
To be continued…
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