〜更なる高みへ/027〜




 「ガイクだ。よろしくな、『最強の幹部候補』がアゴコロ=ジン」


 ・・・・・・


 その朝、イエローは何も感じず起きた
 
 「・・・・・・?」

 いつもなら感じる温かで柔らかな、焼きたてのパンの香り
 生命に満ち溢れた、けたたましくもある裏庭のポケモン達の朝の鳴き声
 いつもなら感じるこの島の何かが欠けてしまっているようだ

 いや、何が欠けてしまっているのかはすぐにわかった

 イエローはまだ眠い目をこすり、それでも出来る限り素早く起きだした
 時刻は6時20分前、イエローにとってはかなり朝早い
 それでも急いで居間へ、台所へ向かった

 そこで見たのは、椅子の背にかけっぱなしのエプロン
 いつもの朝なら、このエプロンをつけて忙しくもあり余裕を持って駆け回っている人がいた
 そうだ、その人がいないから、この島でのいつもの朝が始まらないのだ

 「・・・ガイクさん・・・?」
 
 イエローはエプロンを手にとって見る
 寝坊だろうか
 いや、それならこれは昨夜の内に片付けられているはずだ
 整理整頓を心がける彼だから、こんなところに放置などしていかない
 では何故、これがこんなところにかけられているのだろうか

 まるで、昨夜に何か急用が出来て・・・そのままどこかへ行ってしまったかのようだ

 「(・・・でも、どこへ・・・)」

 イエローの言葉が届いたかのように、それは示された
 ひゅおっと風が吹いたかと思えば、玄関のドアが細く開いていた

 「(・・・・・・外?)」

 導かれるようにイエローはその方へ進む
 そう、いつもなら鍵は閉まっているのに・・・今日は開いている
 それだけで十分だった

 ドアを完全に開くと、そこは明るい世界
 晴れ渡り、雲もまばらな快晴と言っても良いくらい
 そんな澄み切った空気が、イエローは怖く思った

 外に出たは良いけれど、どこを探せばいいのだろう
 とりあえず足の赴くままに、見つかるまで探そうとした時だ
 ふいに声が聞こえた、ような気がした

 「・・・こっちかな」

 島の海岸線の方を向き、足を進めてみる
 さくさくと砂を踏みしめる音は、いつもと変わらないように思えた

 そして、イエローはガイクを見つけた

 ボロボロで、血まみれとなった無残な姿で

 その周りを囲むように、彼のポケモンも同じように横たわっていた

 「! ・・・ッ、ガイクさん!!」

 イエローは叫ぶと同時に駆け出した
 その様子はシルバーを、残酷なまでに思い出させた

 「しっかりしてください、ガイクさんッ」

 イエローが呼びかけるが、ぴくりとも彼は身動かない
 いや、呼吸音もまともに聞こえない

 このままでは、死んでしまう

 ポウッとイエローの身体が、薄っすらと光る
 全神経を手の平に集中させて、更に自らの呼吸を整える
 自分のすべての力を、余すところなく彼に行き渡る様に・・・届く様に・・・

 「(ガイクさん、皆、ごめんなさい・・・)」

 脳裏に浮かぶのは、皆が口を揃えて能力を使うなという気遣い
 
 それでも、やらなくちゃいけない

 イエローは手の平をガイクに押し付け、自らの氣を注ぎ込む
 ガイクと触れている部分が、まるで炎のように熱く感じられた

「(・・・・・・・・・・・・あれ?)」

 なんだかいつもと勝手が違う
 これだけ力をこめているのに、まるで氣が送れていないようだ

 それに、あれだけ夜寝たのに・・・・・・また、もう眠い・・・

 「(寝ちゃダメだ・・・まだガイクさんは・・・)」

 それが、イエローの最後の思考だった
 ぷつんと糸が切れたかのように、彼女もまた倒れた
 ガイクの上に覆いかぶさるように、ぱたんと・・・・・・倒れた


 「・・・・・・なんてことなの」

 そう呟いたのを、彼女は聞くこともなく
 その後ろに、誰がいたのかも知ることもなく


 ・・・・・・


 「・・・あれ?」

 レッドが起きてきた時、居間には誰もいなかった
 そこで時計を見たら、6時過ぎだった
 ちょっと朝早かったかな、そう思うくらいの時刻

 「あ、先輩、おはようッス」

 ゴールドも同じく起きて、居間を見渡した
 ガイクがいない、誰もいない

 「・・・・・・変ッスね」

 「な。どうしたんだろ?」

 もしかしたら、裏庭の方かもしれない
 ポケモン達の朝の健康チェックか、食事をやりに行っているだけかもしれない

 「・・・それにしちゃ、朝食の準備してる気配もないし」

 「珍しく、寝坊ッスかね。叩き起こしに行きません?」

 レッドはまさかと肩をすくめた
 ガイクが寝坊だなんて、レベルの低いサイホーンのつのドリルが伝説のポケモンに狙って当たるくらい有り得ないことだ
 ・・・しかし、本当にどうしたというのだろうか

 「おはよう・・・って、どうしたの?」

 ブルー、クリス、グリーン、シショーと次々に起きてきた
 あとはイエローだけだが、一向に起きてくる気配はない

 「ていうか、イエローさんは先に起きてたんじゃないんですか?」

 クリスの言葉通り、イエローは既に起きていた・・・はず
 ベッドが空なのだから、そうとしか思えない
 なのに、どうしてこんなに人の気配が無いのだろう

 「どうしたんじゃ?」

 老夫婦も起きてきた、今日は割と遅いようだ
 眠るのにも体力が要って、だから老人は朝早く起きてしまうというが・・・この夫婦はまだまだお元気なようだ

 「いや、ガイクが起きてきてないんです。朝食の支度もやってないし」

 「それはおかしいのぅ。あの子の部屋はとっくにもぬけの殻じゃぞ」

 「へ?」

 と、いうことは・・・

 「イエローとガイクが行方不明?」

 「なんかあったのかしら」

 『なんかって何さ?』

 「それがわかれば苦労しないわよ」

 そりゃそうだ、と皆が納得したところで、玄関のドアが開け放しになっているのに気づいた
 レッドが近づき、それを閉めようとした

 その前にバタンッと大きな音を立て、それは勢い良く開け放たれた

 「・・・!」

 開け放たれたドアの先にいた人物
 
 「・・・カンナ!?」

 ブルーが声をあげた
 このメンバーの中で、カンナと直接の面識を持っている者は少ない
 しかし、彼女と彼女のポケモンが担いでいる人物は皆が良く知っている人物だった

 「ガイク!」

 「イエローさん!?」

 この2人が何故、カントー四天王だったカンナに担がれているのか
特にガイクは血まみれで、意識不明の重態に見えた

 「ど、どうして・・・」

 「テメェの仕業か!」

 「どきなさいっ」

 カンナの怒声に、ゴールドがたじろいだ
 それから皆の間をすり抜け、彼女はイエローを抱えて裏口に向かって走り出した

 「お、おい、どこへ・・・」

 「詳しい話は後にして! それより、ガイク君のことをお願いするわ!」

 「え、あ、ああ! わかった」

 カンナの剣幕に押されたが、レッドと老夫婦がカンナのジュゴンからガイクを受け取った
 またブルーやクリス、シショーはカンナの後を追い、イエローにつくことにした
 ガイクの方は相当の怪我を負っているのは明らかで、ここまで彼を痛めつけるとは・・・・・・
 傷口がもっとよく見えるようにと、丁寧に血まみれの服を剥ぎ取った

 「・・・おい、この傷・・・」

 レッドに促されるまま、ガイクの傷を見てみれば、それには見覚えがあった
 
 「・・・・・・シルバーの時と同じ傷だ」

 「まさか・・・」

 いやな予感がした
 そういえば、どうしてイエローまでカンナに連れられてきたのだ
 外傷も無かったし、ガイクに加勢して倒れたとは思いにくい
 となれば、精神的なショックを受けて・・・・・・或いは・・・

 「能力を使って、ガイクを助けようとしたんじゃ・・・」

 「・・・・・・まさか、あれ、寝てるんじゃないッスよね・・・?」

 ガイクの身体を、傷口を清める手は止めなかったものの、レッド達の顔は蒼白だった
 もしそうだとしたら、イエローは・・・・・・


 ・・・・・・


 「カンナ! あなたがどうして此処にいるのよっ!」

 その彼女を追いかけながら、ブルーが言った

 「・・・こっちね」

 裏庭に出て、カンナは真っ先に森の方へ向かっていた
 その理由が、ブルー達にはまだよくわからなかったのだ
 ただの気絶ではないのか、だとしたら・・・

 『・・・イエロー、もしかして寝ちゃって・・・るの?』

 「!」

 「ど、どういうことですか・・・・・・って、もしかして・・・」

 段々と話の筋が読めてきたブルー達の顔も蒼白となっていった

 ガイクは昨夜、寝静まった後に何者かと戦った
朝方まで戦っていたのか、負けたのか勝ったのかはわからないけれど、ガイクは重傷を負い、倒れた
それを、少しばかり早起きしたイエローが見つけてしまった
イエローは・・・・・・能力を使って、ガイクを助けようと試みた・・・

それが何を引き起こすのか、もしかしたら知ってのことで

「・・・事情は何となく読めたわ。でも、どうしてあなたがこの島にいるのかだけは理解出来ない」

ブルーの言葉を流し、カンナは裏庭の森へと足を踏み入れた
それからキョロキョロと辺りを見回し、何かを探っているようだ

「・・・この辺りが良さそうね」

そう言うと、カンナはそっとイエローを地面に安置した
それからなんと、イエローをまるで森にうずめるかのように土を身体にかけ始めた
下手に見れば、それは土葬の光景だ
ブルーとクリスはそれを固唾を呑んで、じっと見守っていた
 
 イエローは穏やかな表情をしていた
 少なくとも、苦痛に苛まれているということはなさそうだった
 こんな奇行など止めさせるべきなのだろうか

 「こんなんで・・・イエローが何とかなるの?」

 「ガイク君から話は聞いているんでしょ」

 こくりと、弱々しく頷いてみせた
 器に溜まる氣の話
 トキワの森から離され、満足な供給がされていないという

 「器の崩壊は精神の崩壊よ。つまり、氣がゼロかもしくは能力の引き出し過ぎによるオーバーロードなどになった時に起こるもの。
 幸い、彼女は小指の爪先ほどの氣が残っているよう。限りなくゼロに近いけれどね。
精神力で身体に反して限界まで送るつもりだったんでしょうけど、何とかぎりぎりでストッパーがかかった。
それかもしくは・・・既に限界がきていたか、今までのツケがここで一気にきたのかもしれない」

「じゃあ、イエローさんは助かるんですか!?」

「・・・0,01%の確率でね」

カンナは氷のような、冷静な判断でそう言った

「氣の供給・・・氣を呼び込むには、ある程度の氣が身体に必要なのよ。呼び水みたいなね。
でも、今のこの子にそれはない。しかも、器も崩壊しかかってる。限界中の限界ってとこね。
だけど、こういう氣に満ち溢れた自然の中、森の中にいれば或いは・・・」

「土をかけたのは・・・?」

「苦肉の策よ。こうすれば、森との一体感が高まるんじゃないかってね」

カンナはふぅっとため息を吐いた
もう救済措置はおしまい、あとは見守るだけということか

「・・・さっき、私がなんでこの島にいるのか聞いてたわよね」

「え、ええ」

唐突に話を振られたものの、ブルーはこくりと頷いた

「もし聞けるのなら、ガイクとの関係もね。
 知り合いなの?」

「・・・・・・」

カンナはしばし考え込んでいたようだが、ふっと微笑んだように見えた
いったい、この笑みは何を意味しているのだろうか

 「それは・・・・・・」

 彼女が口を開こうとした時、上空から爆音のような激しい音が響き渡った
 何事かと顔を上げてみれば、そこには十数台の・・・大型のヘリコプターが旋回していた

 「何あれ・・・」

 「ブルーさん! あ、あの文字!」

 黒塗りの大型ヘリ、その胴体に赤く抜き出されていた「R」の文字

 「ロケット団・・・!」

 「まさか・・・・・・」

 大型ヘリから何か小さなものが表通りの町へ投下され、そのたびにそれに見合わない大きな地響きが聞こえた
 悲鳴が、逃げ惑うポケモンや人の声が聞こえる

 『MBの状態で、マルマインかゴローニャを落としているのか!?』

 「戦闘要員兼一般人威嚇用ってとこかしらね!」

 「許せ・・・」

 「許せないッ!」

 クリスの台詞が、カンナに取られた
 いや、それより・・・なぜ彼女が憤っているのだろうか
 
 「・・・それにまずいわ。島が荒らされるってことは、自然の氣の流れに乱れが生じる。
 このまま放っておけば、この子の助かる確率もゼロになる・・・」

 「!」

 それが本当なら、早く奴らの蛮行を止めなくては
 いや、そうでなくとも止めなければいけない

 シショーがヘリのある上空を見上げていると、ポツリと呟いた

 『ヘリが移動してる・・・?』

 「あの方角は、確かどうくつがある・・・」

 「『いてだきのどうくつ』・・・させないわっ!」

 氷のようなカンナが、何かに燃え上がっている
 デリバードを出すと、あっという間に森を抜け、裏庭の柵を飛び越えていってしまった
 ヘリを牽制し、先回りするつもりなのだ

 「あ、ちょっと・・・」

 『僕らも追おう!』

 「でも、イエローさんは・・・」

 と、クリスが言いかけた途端、周囲の変化に気づいた

 裏庭のポケモン達が、イエローを囲むようにして集結し始めているのだ
 まるで、彼女を心配し、少しでも役に立てれば・・・そんな思いで来たかのようで

 「・・・大丈夫そうよ。少なくとも、自然の氣とかよくわかんないアタシ達よりずっと頼りになりそう」

 『そうだね。これもイエローの徳なのかな』

 ブルー達は思い切って、森を駆け抜けた
 イエローのことを見守るポケモン達の合間を縫って、後ろを何度も振り返りながら

 この島を踏み荒らす、不届き者の愚行を止めるべく
 前を、上空を見据えた

 『先ずは僕からお仕置きだ』

 シショーは一足先にと上空へ羽ばたき、ヘリの一機を射程距離内に捉えた
 向こうも刃向かってくるポケモンに気づいたのか、搭載されていた機関銃か何かで撃ち抜こうと試みた
 が、その総ての弾が避けられてしまう

 『銃弾の軌道はとっくに「みやぶっ」たよ』

 R団員が何か声を発する前に、シショーは終わらせていた

 『「はがねのつばさ」』

 鋼鉄の翼がヘリのプロペラ軸を叩き折り、それによって動力を失い傾いた大型ヘリは・・・海の方へと墜落していった





 To be continued…
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