〜更なる高みへ/028〜




『先ずは僕からお仕置きだ』


・・・・・・


シショーの技でR団のヘリが一機、海の方へと墜落していく
それを見ていたブルーとクリスが「やったぁ」と声をあげた

『そりゃあね、仮にも君達のシショーだもの』

「・・・・・・いや、それはすっかり忘れてたわ」

『ひどっ!』

そう話していたが、喜ぶのはまだ早いと、ブルーはすぐに頭を切り替えた
海の方に墜ちていくヘリから、飛行ポケモンに乗って脱出しているのが見えたからだ
それもめげずに、島の市街地へと向かっている

「やば、すぐに追いかけなきゃ」

『うん』

ブルーとクリス、シショーがガイクの家へ向かう
裏口を開け、閉めて、ばたばたと居間にいるレッド達に今の状況を伝えないと・・・・・・

「ブルーさん達、帰ってきたッス!」

「おし、行くぞ!」

レッドの号令から、外の様子を伝える必要は無いとわかる
老夫婦に「こっちは任せて、とっとと島を守ってくるんじゃ!」と激励を受けた
それに応えるべく、レッド達は家を出た


街の様子は激変していた
そこら中で暴れまわるR団員とそのポケモン達
既に破壊された家々もあり、その手際の良さは凄まじかった

「・・・なんかレベルアップしてない?」

「それは言えるかもしれんが、あまり有り難い話じゃないな」

まったく、同感だ
しかし、とにかくこいつらを片っ端から倒していかねば・・・カンナの元には行けない
彼女の所に行けば、今までの経緯のことを教えてくれるかもしれないからだ

「ガイクの怪我は?」

「出血は酷かったけど、浅い傷が多かったから・・・意識さえ戻れば平気だろうって」

「じゃあ、1時間もしたら起きますね」

クリスが至って真剣そうな顔でそう言うと、何故だか納得してしまった
確かにガイクなら、その通りに起きてくるかもしれない

「・・・まぁ、それでも絶対安静で・・・今のこの戦いは参加出来んだろうがな」

勿論、出てきたその時は・・・たとえ怪我人だろうとも、全力で止めてやるのだが

 「さて、戦闘開始だ」

レッドがそう言うと同時に、R団員がこちらの存在に気づいたようだ 
多分、色々と苦い思い出を語られているのだろう・・・目が相当殺気立っている

「人気者だな」

 「どんだけ強くなってんのか、試すにゃいー機会だぜ」

 それだけ言うと、ゴールドは先陣を切ってR団員の群れに飛び込んでいった


 ・・・・・・


 身体が、思うように動かねぇ・・・

目を開ければ、そこは見覚えのあるところだった
目を閉じれば、そこにはあの戦いが焼きついている

野獣のような眼、奇妙なストライク
 斬り倒しにかかれば、此方も殴り倒しに出る
 力押しで一方的な攻撃の応酬、斬撃VS打撃
 小手先など必要の無い、純粋な力でのみの戦い

 出来ることならば、もう二度と・・・・・・

 「・・・・・・ん」

 ガイクはむくりと身体を起こすと、全身がばらばらになるような痛みがはしった
 傍らにいた老夫婦が、嬉しそうに「おお、起きたか!」と声をあげた

 「・・・生きてるみてぇだな、どうやら」

 「うむ。よく生きておった」

 育て屋婆さんにそう言われ、ふっとガイクが微笑んだ
 が、その笑みもすぐに消えた
 外の方が騒がしい、騒がしすぎる

 「・・・何が起きてる」

 「お前は寝ておれ。いいな」

 ガイクが立ち上がろうとした時、更に身体の中から何かがきしむ音がした
 ・・・血も気力もまるで足りていない
 こんな身体や状態では、逆にあいつらの足手纏いになる
 
 「くそ・・・」

 ガイクは悔しそうに、そう呟いた
 出来ることなら、今この島で起きているであろうことに身を投げ出したい

 「お前にはお前の役割がある。イエローがの・・・・・・」

 ガイクにイエローの状態を伝えると、彼はむくりと起き上がる
 「無茶はする気は無い」と言い、身体を引きずって裏口に出ようとする
 見かねた老夫婦が手を貸そうとしたが、あまりの体格差にうまくいかない

 「いい。本当に大丈夫だから」

 裏口を開けると、そこにはポケモンの道が出来ていた
 ガイクの健闘と帰還を称えるように、彼を出迎えるように

 「・・・イエローは森にいるんだったな」

 ポケモンの道から、チリーンがぴょこんと顔を見せた
 と同時に、チリーンとガイクの身体が淡い光に包まれる

 「『テレポート』」

 シュンと音を立て、ガイクはその場から姿を消した


 ガイクが次に現れたのは、裏庭の森の内部だった
 ・・・イエローは探すまでも無く、どこにいるのかすぐにわかった
 そう、森に集まるポケモン達の中心に彼女はいた
 彼はポケモン達をかきわけ、その傍に腰を下ろした

 「バカヤロウ。何考えてんだ」

 土に埋もれ、静かに眠るイエローにそう語りかけた

 「人の忠告を聞かないから、こうなるんだ」

 島がざわついている
 このままでは、イエローは一生起きることはないだろう

 「礼は言う。だが、目が覚めた時、げんこつはまぬがれんからな。
 覚悟しとけ、コラ」

 ガイクは息絶え絶えに、痛みをこらえて語り続ける

 「・・・そろそろ頃合だとは思ってた」

 チリーンが2人を心配そうに見つめ、ふわふわと浮遊している

 「何度も同じことを繰り返し聞くぐらい、不安だったろ。
 自分がどれだけ強くなれたのか、修行の成果はあったのか・・・」

 ガイクはふっと息を吐き、にやりと笑った

 「思う存分、暴れて来い」

 ガイクは座っていることさえ限界になったのか、ごろりと空を仰ぐように横になった

 「お前らは、もう・・・」


 ・・・・・・


 「化け物め・・・ッ!」

 次々に倒され、潰れていくR団員とそのポケモン達
 あまりに圧倒的な強さに、そう叫んだ

 「なんだ、この程度か」

 「大したことないわね」

 「この分なら、いてだきのどうくつにもすぐ行けそうだ」

 レッド達は、改めて能力者と一般トレーナーとの差を知った
 どれだけ悪事を重ね、その手際が良くなろうが・・・総てにおいて優位に立てるだけの差

 「くっそ、おかしな技使いやがって」

 それはグリーンのブラストバーンのことだろうか
 確かに一般には知られていない、未知の技か反則技に見えることだろう
 
 「一斉にかかれ!」

 四方八方からの多重攻撃、本腰を入れてかかってきたか
 しかし、それも甘かった

 「ぬりぃ攻撃してくんじゃねー!」

 ゴールドのエイパムが相手の足元でかく乱、体勢を突き崩す
 技のタイミングが合わず、殆どの技が互いの技を相殺したり不発に終わる
 その隙を突いて、クリスのエビワラーのメガトンパンチが炸裂し、10人ばかり吹き飛んだ

 『うーん、腕が格段に上がってるみたいだね』

 「上がってなきゃ詐欺よ、詐欺。あれだけ修行をやったんだから、むしろこれくらいパワーアップしてなきゃ割に合わないわ」

 ブルーがそう悪態をついたが、自身の力が上がっているのは認めているらしい
 クリスも今までに無い威力とその攻撃に、自分自身が戸惑っているようだ

 「このまま一気に押し切るか」

 「ぐ・・・・・・」

残ったR団員やポケモンがたじろいだ
既にきぜつ、もしくは倒れている団員やポケモンは勇気を振り絞った島民やカントーからの移民の手でお縄についている
 明らかな戦況不利に、リーダーっぽい男が叫んだ

 「総員、退避!」

 各自が持っていたらしきけむりだまをありったけこちらに向け、投げ始めた
 途方も無い量の煙幕に、息をすることも難しい
 いや、これはけむりだまの煙幕にまぎれて毒ポケモンがスモッグや毒ガスを放っているからだろう

 煙幕と毒霧が晴れた時には、20人はいたR団員の姿が忽然と消えていた
 奴らが乗ってきたヘリコプターはぼこぼこに壊してあるから、多分、テレポートか飛行ポケモンによる逃走
 もしくは、この島のどこかに身を潜めたかだが・・・・・・

 「まー、逃げるとしたら、あそこだわな」

 レッド達は捕縛したR団員とポケモン達を島の人達に任せ、先を急ぐことにした
 時間にして1時間半か2時間前後、だいぶ時間を食ってしまった

 目指す場所は、この島の『いてだきのどうくつ』だ
 恐らくそこに残りのR団員、そして先に向かったカンナがいるはずだ


 ・・・・・・


 「感じる」

 白髪の男はそう呟いた
 そう、感じるのだ

 新たな息吹を

 新たなる鼓動を


 どれほど世界が震えようとも

 運命の胎動

 
 近しき存在





 To be continued・・・
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