〜更なる高みへ/029〜




 「まー、逃げるとしたら、あそこだわな」


 ・・・・・・


 えっと ここはどこだろう?

 うすぐらいから よくわからないけど

なにか なつかしいきがする

 ・・・うん えっと・・・

 ここがどこなのか どうでもよくなってきたなぁ

 こーして ずっといられるのなら

 ほんとうに どうでもいいや

 なんだか とってもねむい


 ・・・・・・


 「誰だ、この人?」

 島民にいてだきのどうくつの正確な位置を聞き、駆け足でそこへ向かう
 その途中で退かなかったR団員が現れもしたが、難なく倒して先へ進む
 そうしてどうくつの前まで来てみると、誰かが入り口で倒れていた
 太目の男性で、どう見てもカンナやR団員には見えなかった

 『・・・勝手にここに入らないようにする、見張り番の人でしょ』

 シショーの言葉に納得し、同時にその人が倒れているということは・・・侵入者がいるということだ
 カンナはこの人の上を通り越し、、もう先に入っているのだろうか
 
 「皆、気をつけろよ」

 「入った途端にブービートラップってか?」

 用心には越したことは無く、試しに石を投げ入れてみる
 が、何の反応も示さないので、今度は全員が一丸となって洞窟内に入った
 
 洞窟内の冷気が、何の準備をしていなかったレッド達を縮こまらせる
 天井にはつらら、足元には薄氷
 まだ出入り口付近だというのにまるで冬のよう、これが『いてだきのどうくつ』と呼ばれるが由縁か

 『寒ッ!』

 「こりゃすげえや」

 皆が口々に感心したように声を出すたび、息が白く吐き出される
 が、いつまでも観光気分でもいられまい

 この奥の方で、何か戦闘のような音が反響音で響き、聞こえてきたからだ
 やはりR団員はこの奥に、そしてカンナが奥にいるのだろう

 「つか、あの程度の下っ端なら、カンナが全滅させてそうだけど」

 尤もだ
 しかし、R団員を全滅させると同時にレッド達はカンナを追ってきたのだ
 ここで回れ右をするわけにもいかず、洞窟の奥の方へ向かう


 洞窟の奥、そこには予測を反する光景が広がっていた

 確かに洞窟内部へ逃げ込んだのであろう下っ端R団員は、明らかな氷タイプの技によって死屍累々と横たわっていた
 が、当のカンナは息を切らし、立っているのがやっと・・・と言ってもおかしくないコンディションにあった
 たかがR団に、ここまでてこずるとは何があったのだろうか

 「・・・また増えたし」

 カンナの正面、流氷の滝と呼ぶに相応しい美しい滝の上に誰かがいる
 傍らにはそこらの雑魚や下っ端とは格の違いそうな、真摯な表情の団員が数名いる
 恐らく、R団のエリートクラスかマチス達に代わる幹部だろう

 「『カントー四天王・氷姫』のカンナに続いて、今度はチャンピオンクラスのガキのトレーナー一行とはね。
話がだいぶ違う気がしてならん。割に合わんよ、こいつぁ」

褐色の防寒マントに同色のベレー帽、腰までありそうなクリーム色の長髪
 少し色黒の、声から察するに男性が嘆いている
 そして、その男性の周囲には大小様々な鉄檻・・・中にはポケモンが詰め込まれていた

 「ひでぇ・・・」

 「ポケモン達を解放して、今すぐ、島から出て行け、R団!!」

 そう意気込んでレッドが言うと、向こうからとんでもない返答が来た

 「じゃあ、出て行かないよ。おれはR団じゃないもん」

 「!?」

 「おれの名前は『フェパー・W・ゼンジ』。職業は『認定・エリートトレーナー』」

 「に、認定だって!?」

 レッド達が驚愕する

 トレーナーには幾つかの認定クラスというものがある
 様々な大会で良い戦績を残し、ポケモン協会が定めた基準を上回った時に申請することでクラスアップするというわかりやすいシステムだ
 認定されれば、色々な企業がスポンサーになってくれたり、ギャラの発生するポケモンバトルでも賞金や謝礼金の額が跳ね上がる
 一般的な認定クラスとして知られているのは『チャンピオン』『ジムリーダー』『エリート』『ゴールド』『シルバー』『カッパー』で、大抵のトレーナーは『シルバー』までいければいい方だ
 ポケモン協会が認めていないクラスというのも地方には存在しているらしいが、そちらの方では旅資金援助などを受けることは出来ない
 特にゴールドクラスより上がるのは並大抵のものではなく、最低でも全国ポケモンリーグでベスト8に数回は勝ち残るだけの戦績が必要だ
 ジムリーダークラスになるには、そういったポケモン協会が認める輝かしい戦績や他のジムリーダーから推薦などからそのクラスへの挑戦者が選出される狭き門
 チャンピオンクラスなんて、4年に1度・・・たった1人だけ誕生するという厳しいもの
 だから、一度チャンピオンに昇り詰めた者はその称号を奪おうという輩、挑戦者が後を絶たないのだ
 ちなみに仮に挑戦者がチャンピオンに勝っても、チャンピオンクラスにはなれない
 あくまで全国ポケモンリーグで優勝しなければ、協会も誰もそのことを認めてくれない
 ある意味、栄誉というより自慢の為に挑んでくるといってもいい

 それだけの実力を誇るエリートクラスのトレーナーが何故、R団の悪事に加担しているのだろうか

 「・・・思い出した。お前は確か、前トキワシティジム・ジムリーダーについていたジムトレーナーだったな。前任の記録に顔写真があったが・・・」

 「!」

 あの、カントー最強とうたわれた前トキワジムの・・・ジムトレーナー
 そのジムリーダーはR団の首領であるサカキ、つまりはそういうことだったのだ
 
 「なんか軽く勘違いされてるみたいだな。何度も言うよーに、おれはR団のメンバーじゃないぞ」

 「嘘吐け! じゃあ、なんでR団の悪事に加担するんだ!」

 その言葉に、ゼンジが右手の人差し指と親指でワッカを作って見せた

 「ああ、マネーよ。マネー。お・か・ね」

 「・・・!」

 「そーもそも雇用者と労働者は対等な関係。
 お金さえ払ってくれりゃおれ達ゃ雇用者に従うし、払ってくれなきゃ裁判起こすまでよ」

 それが本来あるべき両者の関係
 アルバイトだろうがパートだろうが正社員だろうが関係無い
 雇ってやっている方が偉いだなんて、勝手な思い上がりに過ぎない・・・

 「昔のよしみで頼まれ、んで雇われてやったわけさ。前金付きでな。
 この仕事、かなりの大金が転がり込むからオイシーのよ。まぁ、その7割は成功報酬だから気は抜けねーけどよ」

 口振りから、過去に何度かこのようなことをしていたらしい
 ただお金の為だけに、人々やポケモンを傷つける

 「そーそう、おれの周りにいるのも同じ穴のムジナ。正式なR団員じゃない、雇われの身。
 ホウエンに出稼ぎ行ってる内にカントー・ジョウトが壊滅しちまったから、おれが誘ったんだわ。
 はっきり言って、正式なR団員より使えるぜ?」

 ゼンジがカンナやレッド達にのされたR団員を嘲笑う
 
 ただお金の為だけに、人々やポケモンを傷つける
 ある意味、自らの所業に誇りを持っているのかもしれない

 それでも、許せるわけが無い
 元より、見逃す気も無いのだから
 
 
 「なんか、お前らは許しちゃおけねぇ! ・・・って、気がする」

 「そうか? 至極まともな意見言ってるつもりなんだけど」

 大人の余裕でも見せているのか、向こうは動じない
 いや、まだ一戦も交えていないのだ
 おそらく、何か隠している
 エリートクラス以外の、カンナを退けるだけの何かを・・・


 ・・・・・・


 森に埋もれるイエローの顔色が少しずつだが、確実に悪くなってきている
 冬眠といえばそれらしいが、状態・状況としては最悪だ
 何も出来ないガイクは、焦らずに信じて待つしかない
 イエローの周りに集まるポケモン達も不安そうで、懸命に鳴いて励まそうとしているものもいる

 「・・・しかし、まぁ・・・イエローにこんなカリスマ性があったとはな」

 いや、それともイエローではなく・・・トレーナー能力の方が何か関係しているのか
 島の異変を感じ取るのはわかるが、更にイエローの元に集まるのは少々おかしいことといえよう
 
 「つーか、早く島の方を何とかしやがれ。騒がしくてかなわん」

 ガイクはぶつぶつ言いながら、傷口が開かぬようにまたごろりと寝転んだ
 イエローのことは、本当にどうしようもない
 信じて、信じて、信じきる
信じ続けて待つしかない、信じて待ち続けるしかないのだから


 ガイクは気づかなかった
 その能力の眼を以ってしても、いや怪我がたたって思うように身体を扱えないからだろうか

 イエローの身体が、何かモヤのようなものに包まれ始めていることに
 ポケモン達だけが、それを見て取れることが出来ていた


 ・・・・・・


 カンナを退ける何かを、まだ隠し持っているはず・・・・・・

 「あ、やっぱりわかるもんか」

 ゼンジがカンナを見下ろした
 その余裕の笑みは、明らかに優位に立っていることを誇示するものだ

 「・・・お前ら、能力者なんだってな。協会から見放され、追放された異端のトレーナー。知ってるぜ」

 「それがどうした」

 レッドが言うと、ゼンジがククッと笑った

 「チャンピオンになるにはリーグで優勝する必要がある。しかし、能力者はリーグに参加出来ない。
 ああ、つまりはチャンピオンになった後で、能力者になったんだよな。
 なんでなった。更なる強さを求めてか?」

 「・・・護る為だ」

 「ご立派な意見で」

 ゼンジがわざとらしい拍手をした
 その目は完全にレッド達を見下していた

 「別に能力者になんかならなくても、強さは求めていける。
 一般トレーナーにしか見えない、辿り着けない極みの境地ってのもあるそうだ。
お前らほどの実力者だ、そこまでいってからでも良かったんじゃないか。いつになるかはわかんないけど。
 ・・・・・・能力者に立ち向かう為、能力者になる。そりゃ間違っちゃいねぇよ。
 でも別に、一般トレーナーだって勝てるさ。幾らでも。・・・そこのカンナ相手みたいにな」

 「!」

 レッド達の視線は、当然カンナに向かう
 そもそも彼女が能力者だと、知るはずも無かったのだから
 もしかしたら、以前戦ったことのあるブルーやレッドなんかは薄々察していたのかもしれないが

 「現代を勝ち残り、生き残るのに重要なのはまず情報だ。
 それはバトルだって同じこと。相手の情報があればある程、此方が優位に立てる。
 もーちろん、雇用者の弱みも握れれば、思うままも出来るけどな」

 情報戦・・・・・・

 「R団の情報網は良い。ポケモン協会の裏ネットワークよりも凄いと思うぜ。
 そしてつかんだ。カンナの弱点」

 「弱点・・・!」

 それは痛恨だ
 いくら実力者といえども、弱い部分は幾らかある
 そこを突けば、確かに勝てるかもしれない

 「ひとつ。カンナの能力『氷姫』の弱点。
 『相手の名と姿を映した氷像でその相手を縛る能力』。
 情報の溢れる現代なら、入手出来ないトレーナーやポケモンの名前は無い。
全く持って厄介だが、それには事前に調べておく必要がある。
チャンピオンクラスやジムリーダークラスなんかの一般的な有名人なら調べなくてもわかるだろうが、おれクラスやそれ以下だと・・・」

それは困難だろう
バトルの前で自分から名乗るようなことでもしない限り、相手の名前などいちいち調べない
何しろ、トレーナー登録は大体10代前半で行うことが多い
そして、そのまま年月を重ねて成人しても登録更新する義務ははっきり言って無い
 本人の手でしなくても、認定ランクアップや協会主催の大会などに出れば、自ずとデータが上書きされるからというのもある
 流石に20年30年と公式戦にも出ず、登録更新もしないと催促状が来て・・・それでも来なければ抹消されるのだが
 ・・・それはさておき、つまりトレーナー登録をする際に必要な顔写真が10代で止まっていてもおかしくないということだ
 通常はトレーナー経歴のみが更新され、顔写真は公式大会などで提出し申請などしなければ更新されない・・・
 そんなある意味トレーナーになる為の形式上のシステムだ、100%のアテにするのは良くない
仮にデータを見つけても同姓同名の可能性もある、そういうところだけを見ると都合良くセキュリティになっているとも言えよう

要するに特定の個人を捜すのは困難、何かで有名になったとか別の手がかり、決め手となる特定要素が無ければ捜しきれないということだ


 「・・・あれ? でも、さっき、名乗っていたような・・・」

 「それは・・・」

 「『偽名』だ。顔写真でそれらしい奴がいたのは覚えているが、確か名前が違っていた・・・。
 今となっては、思い出すことも出来んが・・・」

 それに資料自体も古く、ボロボロで読み取れなかったこともあるらしい
 グリーンの言うことが正しければ、カンナの能力は情報不十分で使えないということになる
 
 「トレーナー能力ってのは強力なもんが多いけど、下請けみたいに融通利かないと不便だよなぁ。
 でも、能力は封じても、その特典とやらのポケモンの身体数値の底上げでまだ優位に立てるんだって?
 卑怯だよなぁ。親族経営みたいな、コネだけで入った奴みたい。うわべだけで、芯が無ぇ気しないか?」

 いや、もうたとえがたとえだけに・・・ツッコミのしようが・・・

 ゼンジがイラついたように、足元の鉄檻を蹴飛ばした
 そのはずみで檻の扉が開き、中にいたポケモンが出てきた

 「で、カンナの弱点その2。いけ」

 今まで檻の中にいて、ようやく解放されたはずのポケモン達がレッド達に向かって突進してきた
 
 「な・・・・・・」

 「なんで襲ってくるのよ!?」

 レッド達は反射的にポケモンを出し、その襲撃に備えた

 普通、こういう時は恨みを持つゼンジ達に向かって突っ込むのではないか
 しかし、現実はレッド達やカンナめがけて襲ってくる
 やって来るのはこの洞窟内に生息するズバットやゴルバット、パウワウなどだ
 が、はっきり言えば大した敵ではない

 「だけど、傷つけられない!」

 「くっそ、何でだよ!」

 そう、レッド達は反撃出来なかった
 防戦し、攻撃を凌ぐしかなかった

 R団に無理矢理檻の中に入れられたポケモン達
 何故だかは知らないけれど、そんな彼らは悪事の張本人であるゼンジに従っている
 恐怖による捕縛か・・・この状態のポケモンに手を出すのは躊躇われた

 「なら、捕獲します!」

 クリスがボールを1体のズバットめがけて、蹴り上げる
 それは正確無比に、狙うべき『当て所』にぶつかった

 「よっしゃ!」

 「さっすが捕獲のスペシャリスト!」

 ボールは地面に落ち、そして割れた

 中には先程狙ったズバットは入っておらず、今もなお空を飛び回っている
 
 「そんな・・・」

 「まだ弱ってなかったのか!?」

 しかし、この程度のレベルのズバットなら普通にいけるはずなのだが・・・
 それを見てカンナはくっと歯を食いしばり、ゼンジは笑った

 「おいおい、人のもんを盗るのは泥棒だぜ? 着服はいかんよ」

 「!」

 「まさか・・・」

 クリス、レッド達の目はゼンジの足元の鉄檻に向けられる、
 
 「・・・そう! こいつぁR団の科学技術班が開発した、鉄檻の形をした モンスターボールだ
 キャプチャネットを複数枚仕込むことで、表面上は幾数体のポケモンを無理矢理閉じ込めているように見えるのさ。
 実際は、閉じ込めてるんじゃなくて捕獲したのを見せびらかせているわけなんだがな。
 つまるところ、これは違法無法じゃねぇ『合法』ってわけさ」

 「マジかよ・・・」 
 
 まさか、そんなものがあったとは・・・最近のR団の科学技術は侮れない

 が、しかし、それなら話は単純だ

 「じゃあ、遠慮はいらない・・・か」

 その言葉が引き金になったかのように、レッド達のポケモンの動きが格段に上がった
 トレーナー達の指示に迷いが無くなったからだろう

 「不正に無理強いさせてる野性ポケモンはやりにくいけど」

 「捕獲されてるなら、それはもう『ポケモンバトル』」

 「気兼ね無く、いつも通り倒せるってもんよ。
 少なくとも、お前ら諸悪の根源をぶっ叩かなきゃ逃がせないしな!」

 成る程、気の持ちようか
 確かに違法の手段で無理強いさせられ戦わされている野生ポケモンだと、なるべく傷つけないように解放してやりたいと思う
 もしくは逆に捕獲して、此方から逃がすというわけだが・・・それでも思うようにやれない、やりにくさがある
 だけど、悪人に捕獲されてしまったポケモンを救うにはそのポケモンバトルに勝たなければ何も始まらないことを知っている

 レッド達が快調に倒していくのを見て、ゼンジは拍手を送った

 「・・・そうそう、まぁそれが普通だ」

 「?」

 レッド達は失念していた
 カンナが何故、ここまでてこずっていたのかを
 そう、彼女の弱点が何なのかを・・・・・・


 「やめて・・・ッ!!!!」

 突然、絹を切り裂くような悲鳴のような声が上がった
 その声に、レッド達の動きが止まった

 ・・・その声の主は、カンナだった

 「・・・お願い、やめて」

 そう力無く言う彼女は、レッド達の知る彼女とはかけ離れていた
 呆然と、ゼンジとカンナを交互に見た

 「カンナの弱点その2。『同郷意識』。
 お前らにはどうってことないここらの野生ポケモンも、カンナにゃ倒せないのさ。
 それがお前らが悪とやらR団と定義する人間のポケモンでも!
 何よりもここを大切とする、カンナにはな・・・! 可愛らしい弱点だろう?」

 まさか、そんな弱点があろうとは・・・・・・

 だから、先に来たはずだったカンナは・・・ゼンジ達を倒せなかったのだ
 同郷のポケモン達を盾とされ、矛とされては・・・能力も使えずに彼女は耐えしのいでいた

 「なんて卑怯な・・・!」

 「卑怯? 何が卑怯だ。使える手を使って何が悪い。
 現代に求められている力、それは『実行力』!
 口先だけの奴は要らない! いくら素晴らしい才能や情報を持っていようとも、扱いこなせなければ全くの無意味!
 かかげるものを実現し、それを証明出来てこそ初めて世間に評価されるものさ」

 ゼンジの声に反応し、ポケモン達がまた容赦無くレッド達に襲いかかってくる
 しかし事情を知った今、先程のようには戦えなくなってしまった
 ここのポケモンが傷つけば、カンナも傷ついてしまうからだ

 『やりづら・・・』

 「でも、倒さないと先に進めないじゃない!」

 「そりゃそうなんだけどさ! ・・・ぅおッ」
 
 ゼンジに捕らわれたポケモン達がまさに猪突猛進、何の躊躇いも無くゴールド達に向かって突っ込んでくる
 その勢いは止まることがない
 四方八方から突っ込んでくるので、下手すれば同士討ちにもなりかねない
 特に能力者になった分、技の威力が上昇しているのでそれが最も危ういのだ


 「・・・」

 前を見据えていた
 一瞬を見極めるために
 それが訪れてくれるまで

 わずかに見えた

 頼りない目配せで
 勝機を掴む


 レッドは後ろにやった手で、ボールを上空へ投げた
 突っ込んできたポケモン達が、それにひるんだ

 「プテ!」

 宙から現れたのは、大きな翼を持った岩の力を兼ね備えたポケモン
 バトルフィールドからすれば不利だが、この状況を打破するには最適の選択のはず
 ゼンジに捕らわれた氷ポケモン達がプテに集中攻撃する前に、レッドの指示が洞窟内に響いた

 「『大恩の報』!」

 広げた翼を以って、猛進するプテ
 狙うのは周囲を飛び交うポケモン達ではない

 ポケモン達に指示を出すトレーナー自身の方だ

 「成る程。そうくるよな」

 ゼンジはボールを手に取ると、すぐに中から出した
 出てきたのはホウエン地方に生息する『シザリガー』
 よく鍛えられているのが、遠目でもわかる

 「『まもる』で受け止めろ!」

 間に合うわけが無いと思っていたのに、的確な指示でプテの『大恩の報』が止められた
 特能技とはいえポケモンの技には変わりなく、こういった回避・防御技で破られることもある
 この辺りの判断は、成る程・・・流石は認定エリートトレーナーということか

 「更に『せんせいのつめ』を持たせている」

 次のプテの行動の前に、シザリガーが先に動けた
 
 「『クラブハンマー』で叩き落せ!」

 プテがシザリガーから離れる前に、至近距離技が見事に決まった
 脳天に響き、プテの翼から力が抜けていく

 「! プテ!」

 「よーしよしよし! 情報を制する者、全てを制す!
体感する全てが勉強、おれの糧となれ!」

 ゼンジが能力者のポケモンを仕留めた、その歓喜の油断


 ひやりと冷たい鋼の感触が頬に伝わった
 振り返らずともわかる
 データにあった、グリーンの『ハッサム』だ

 「・・・プテラは囮か」

 いや、ハッサムの入ったボールをプテラに持たせたのか
 滝の上という空間的優位、それを覆しにきた
 
 レッドとグリーンは狙っていた
 わずかなアイコンタクトで、意思の疎通を以って・・・

 「だが、トレーナーの指示も届かないここで勝てるか・・・!?」

 ゼンジの周囲にいた取り巻きトレーナーとそのポケモン達、ゼンジのシザリガーがハッサムに牙をむく
 囲まれたハッサムには逃げ場は無い


 シュパ・ズドッと軽快でいて重々しい攻撃が、全て決まった
 周囲にいたトレーナー、ポケモン達がハッサムの攻撃で一斉に吹き飛んだ

 グリーンの『トレーナー能力・理力』で、彼の持つポケモンには知力が宿っている
 たとえトレーナーの指示無くとも、自らの意思で行動することが出来るのだ

 「・・・これで片がついたか・・・」

 統率の、指示を失った元洞窟のポケモン達の動きが止まった
 そこをすかさずに、ブルー達が仕留める
 きぜつまではいかない、すぐに野生に帰せる程度の手加減済みだ

 ようやく終わった


 ・・・・・・


 ・・・ねむいなぁ ねちゃってもいいんだよね

 マテ

 ・・・・・あれ からすさんだ

 くろいからだに くろいはね

だけどひかりのかげんで あかやはいいろにもみえる

おもしろいからすさんだね どこからきたの?

ハテ

はてってどこですか もう・・・

ねむいんですから つっこませないでください

・・・

いきなり だまんないでください

それよりねむいんです ねかせてください

マテ

なんですか だから

そういえば どうしてここにいるんですか?

 ヨバレタ

 よんでませんけど ぼくは

 ジキニワカル

 それまでねてていいですか ぼく

 マテ

 じゃあ はやめにおねがいしますね

 キタ

 はやすぎです ねようとおもってたのに

 マテ

 じょうだんなんかじゃないです ねむいんです

 コンニチは ネちゃダメよ

 ・・・あなたは だれですか?

 じゅんぱくの どれす

 おとなびた じょせい

 おんなのこなら だれでもあこがれ

 めをうばわれる そんなきれいなひと

 オボえてない? このコエ

 ・・・・・・? すみませんけど

 ・・・そう ザンネンね

 ジカンガナイ

 ? なんのじかんですか

 オマエハココデタチドマルベキデハナイ

 そういわれても ねむいんですよ・・・

 ダカラミチビイテキタ

 どこからですか なにをですか

はてからですか よくわからないんですけど

せつめいしてください からすさん

モリノカゴ

 へ? えぇっとぉ・・・

 ダイジョウブ もうすぐクるから


 ・・・・・・
 

 「じゃあ、あの檻回収するか」

 滝の下に落ちたプテが再び舞い上がり、ハッサムのいるところまできた
 レッドのプテがあの程度できぜつするわけがない、万一ハッサムがやられた時の為の伏兵としてやられたフリをして待機させていたのだ

 ゼンジ達の鉄檻・・・あれらが形を変えたモンスターボールだとしたら、マーカーを外す機能も備わっているだろう
 ポケモンを野生に帰すなら、ちゃんと解放するための手順を踏まないと・・・・・・

 「良かった・・・」

 「良かったじゃねーだろ。アンタがもっとしっかりしてくれりゃ、あんな雑魚にてこずらなくてもすんだんスよ?」

 安堵したカンナは、また複雑そうな表情をした
 それは当然かもしれないが、ゴールドの言うことも尤もだ

 「まぁまぁ、とりあえずポケモン達を解放する方が先」

 もう一度、滝の上を見る
 プテが鉄檻を大きな足で鷲掴み、此方に向かってくるだろう


 「ヤダ、何よこれ」

 ブースターを抱え上げた紫色の髪の女性が、そこにいた
 
 「ったく、こんな仕事もまともに出来ないなんて・・・だらしの無いオトコ」

 明らかな新手に、レッド達は目を見張った
 指示を出す間も無く、女性のブースターが火を噴いた
 弱点4倍ダメージのハッサムは不意を突かれ、体勢が崩れたそこを狙って飛び込んだブースターの『すてみタックル』が決まった
自重に抗えず、そのまま滝の下へと落ちていく
それを鉄檻を一旦置いたプテが追いかけ、ハッサムをその背に拾い上げた

 「あなた達ね。話は聞いてるわ」

 女性は言った

 「でも、話に聞いただけ。あなた達には興味がわかない。
 オトコもオンナも、30を過ぎてから輝いてくるものだから」

 ブースターを再び抱え上げ、ゼンジが使った鉄檻にそっと手をやった

 「戻りな」

 レッド達の足元にいたポケモン達が赤い光に包まれ、鉄檻の中に収納されていく
 あっと言う間も、本当に無かった
 しかも、ゼンジ達が捕まえたはずのポケモンを赤の他人が収納出来るなんて・・・
 いや、確か四天王のキクコがそんな研究をし、成功させていたと聞く
 そんな成功例があるのだ、略奪・破壊活動の限りを尽くそうとするR団がその技術に挑戦しないわけがない
 となれば女性はゼンジと同じ任務についているのか、もしくは任務失敗を知ってサカキ辺りが手をうってきたのか

女性はふふんと笑った

 「仕事の出来るオンナはカッコいいでしょ」

 「犯罪やってる奴はみんなカッコわりーよ!! 降りて来い!!!」

 ゴールドの怒声に、女性は「あらこわい」とてんで相手にしない
 下にいる者の言うことなど聞かず、彼女は優位に立っている

 「わたしの偽名は『アワール・K・ナオミ』。職業は不本意だけど、一緒にして欲しくない足元の雑魚と同じ『認定エリートトレーナー』なのぉ。
じゃーねぇ、ばいばい」

 女性がネイティオを2体出し、鉄檻を宙に浮かせた
 何をする気なのか、すぐにわかった

 「待って! 連れて行かないで!」

 カンナのジュゴンがれいとうビームを放つと、ナオミは鉄檻を盾にした
 凍りつく手前で・・・ガシュウと音を立て、その技が阻まれた

 「何を言ってるのかわかんない。なんで仕事で、合法で捕まえたポケモンを他人に言われて逃がさなきゃいけないんだか」

 

 彼女は『けむりだま』を炸裂させたのか、視界を阻む
 同じようにレッドのプテが『はかいこうせん』を撃とうとしたのだが、これでは無駄だ
 グリーンのハッサムがプテの背中から飛び降り、ブルー達のポケモンが滝の上に行った時には遅かった

 そこには、何も残されていなかった
 ・・・ネイティオのテレポートだろう
 
 「・・・くそォッ!」

 「逃げられた・・・!」


 ・・・・・・
 

 その異変に、ガイクは漸く気づいた
 痛む傷口を気にせず、がばっと勢い良く起き上がった

 「何だ・・・・・・ッ!?」

 急に森の中の空気が、雰囲気が変わった
 息が詰まりそうな程の圧迫感が、重々しくのしかかってくる
 ポケモン達は遠吠えし、何かに備え構えているかのようだ

 「あいつら・・・何か下手踏んだのか・・・!」

 R団が何か仕掛け、それをレッド達が防ぐことが出来なかった
 その所為で、島に何か異変が起きようとしている

 「・・・! おい、イエロー!」

 ガイクは振り返り、彼女の方を・・・・・・見た

 「イエ・・・ロー・・・・・・」


 彼女の息は止まっていた
 髪も肌も・・・全身が真っ白になっていて・・・・・・生命の息吹が感じられなかった


 ・・・・・・


 ウケトメロ

 アナタは ウけトるべきなの

 ・・・はい わかりました

 カタレ

 オモうままに

 ・・・

 ナガレコム

 モリのカゴ

 あたたかい

 ウケトメル

 ヤサしいココロ

 いきるよろこび

 アフレダス

 ナツかしさよ

 おもうことば

 ノセテイク

 ヤワらいで

 ふれていこう

 トモニ

 タシかなるミチを

 ・・・

 ああ ぼく・・・ようやくわかりました

 からすさんと あなたがだれなのか

 ごめんなさい いままできづけなくて

 そして ありがとうございます

 ・・・

 ・・・





 ・・・・・・


 「・・・戻ろう。イエローが気がかりだ」

 ナオミが姿を消し、洞窟のポケモン達も連れさらわれた
 ついでに、ゼンジ達も回収されたようだ・・・手がかりはゼロ・・・
 そんな中で、レッドがそう言ったのだ

 「島で暴れていたR団は粛清したんだ。捕まえたR団の奴らもどうにかしないと」

 「待って、洞窟のポケモン達は?」

 「無理やり閉じ込めるとかならまだしも、一応MBで捕獲したってことだろ。
 イエローに悪影響が出るようなこと・・・島の氣だとか何とかに影響するとは思えない。
 だって、あいつらの言う通り普通にトレーナーがしてることだろ。
そりゃ乱獲のしすぎではあるけど、洞窟内のポケモン全てを捕まえたわけでもなさそうだし。
生態系への異常は、まだわかんないな。地元の人に話を聞かないと。
 ・・・勿論、奴らをあのままにしておくわけにはいかないから・・・」

 「追いかけるのね」

 レッドとブルーの会話をさえぎるように、カンナが言葉を発した

 「・・・ガイクに話してみる。修行はまだ途中だけど、こればっかりはケジメだ」

 「そう」

 それだけだった
 レッド達はあとは無言で、洞窟の出口に向かった
 

 そして、目の当たりにした現実


 レッド達が洞窟の外から見た、ガイクの家・・・
 そこが異様な状態になっていた

 「なんだ、あれ・・・・・・」

 ガイクの家が、何か白く濃いモヤのようなもので包まれているように見える
 それが次第に渦になり、それから天にも届きそうな柱へとその姿形を変えていく

 「・・・うぅっ」

 呆然としているレッド達の足元からうめき声がし、むくりと男が起き上がった
 R団にやられた洞窟の見張り番だ

 「ろ、ロケット団めぇ〜! 洞窟をどうする気だ〜!」

 そう見張り番の男がいきり立つが、周りにいる男女達に気づいた
 そして、何故かある一点を見て動かないらしい
 これは変だなと思い、びくびくしながら聞いてみた

 「あ、あの〜・・・何を見ているんです?」

 「な・に・を? 何をだって・・・!?」

 「え? へ? 何か見えてないとおかしいんですか!? ねぇっ!」

 「おかしいのはアタシ達の方ってことなのね」

 冷静に、ブルーがこの状況を分析しようとした
 MBの中の様子を見れば、ポケモン達も反応を示している
 見えているのだ、この異様な光景が・・・きっと・・・


 ・・・・・・


 そのモヤの柱はナナシマ諸島にいるある者達ならば、全員が見ることが出来た

 それ程までに、この現象は大規模だった・・・といえよう


 ・・・・・・

 
 『6のしま』付近の海域にて
 茶髪の、長細い筆のような男が立っていた

 「えらいことになってまんな」


 ・・・・・・


 「こちらA−1ポイント、本部応答願います!」

 「うげ、何だよアレ」

 「知らん? ・・・伝説のポケモンぐらいレアなもんだに」

 『幹部候補・マストラル』が、慌てる部下の2人を上司らしくなだめた
 方角からして4の島か、詳しい報告は向こうのポイントにいる者がやってくれるだろう

 「あれは・・・・・・」


 ・・・・・・


 「ディック様、リサ様、ジーク様、ご報告を申し上げます!」

 急ぎの伝令、そんなのを伝えに来ましたと顔に出ている男を3人は適当にあしらった

 「もう知ってるからいいわ」

 「さがっていろ。問題は無い」

 「・・・ZZZZZ・・・」

 「え・・・・・・」

 ならば、何もしないのか
 伝令に来た男はぽかんとしている

 「そうね。私達がどうこう出来る話じゃないもの」


 ・・・・・・

 
 1のしま、ともしびやま中腹付近


 「あの柱・・・素晴らしい・・・」

 「なぁに、あれ。へんなの〜。カブトプスにもみえるの?」

 そこから見るからに怪しげな男と、カブトプスを連れた幼児がモヤの柱を見ていた
 幼児のその問いに、カブトプスはこくりと肯いた

 「・・・あれは能力者とポケモンにしか見えない『生吹』というものでね。
 いわゆる氣だとか何とか言ってるやつの一種で、気脈に変動が起きた時に見られたりするけど・・・ここまで大規模なのは滅多に無い。
 そして・・・・・・あのモヤのようなものの中心に、それを引き寄せ、引き起こしたモノがいる。実に興味深いなぁ」

 「いぶき・・・。ね、あれがどこからきたのかわかる? ほっといてもいいの?」

 「勿論。僕に知らないことがあるとでも?
 あれはね、方角や気脈からして・・・『トキワのもり』から来てる。
 放っときたくはないなぁ。でも、今から手出しするのは遅すぎるからね。じきに終わって、あれは消える」

 残念そうに呟いた男が、今度はにやりと笑った

 「つまり『覚醒』したんだよ、彼女が」

 「? かのじょって・・・」

 「全てを癒し、平等を与える『楽園の鍵』さ。まだそんな存在には程遠いけど、何とか足元の小指先まできたってとこかな。
 に、しても、これは凄い。
 森の気脈をここまで繋げるだけでなく、まさか彼女自身に直結させるつもりじゃないだろうね?
 うーん、それにしても悔しい。気づくのが遅かった。なんてことだ。
他にやることが無ければ、もっと傍にいれば、生吹を呼び寄せ始める前に気づけてたかもしれない。
そしたら彼女をさらって閉じ込めて、あんなことやこんなことした上でそんなことまでするのになぁ・・・」

 「ふーん、よくわかんないや」

 幼児がにぱっと笑ってカブトプスに「ねー?」と同意を求めると、向こうは何だか困った顔をしている
 同意を得られなかったからかぶぅっとむくれたが、幼児はまた表情を変えて「あれっ?」と声をあげた

 「ねーえ、ボクはアイツのもらったし、もともとそーいうそんざいとかだから、あのいぶきってやつがみえてもおかしくないよ。
 でも、なんでのーりょくしゃでもなんでもないおまえに見えるのさ」

 幼児の問いに、「おまえはよしてくれる?」と口を尖らせ、今度は男がむくれた
 「次からは名前で呼ぶように」と釘を刺してから、その問いに答えた

 「・・・決まってるでしょ。僕だからさv
この世界の頂点に立つ最高権威の・・・『学者』だもん。
 他の奴らに見えて、その僕に見えないものなんてあるわけないんだよ。逆の例なら沢山あるけど・・・ねvv」

男は自分以外の全てを見下すような目で、笑って言った
 

 ・・・・・・


 7のしま海域、アスカナ遺跡最深部

 「・・・」

フリーザーとアブソル、その横にいる男もまた黙って生吹を肌で感じ取っていた
視認出来る位置に、場所にいなくともわかる

無為の風が、男の傍を吹き抜けていく
 ここには風が吹き抜け、通り抜ける隙間など無いというのに・・・





To be continued・・・
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