〜更なる高みへ/030〜




 「この世界の頂点に立つ最高権威の・・・『学者』だもん」


 ・・・・・・


 「・・・で、どうなったわけ?」

 「この通り、というわけだ」

 ガイクがベッドの上で、ハァとため息をついた
 ブルーがその横で、りんごの皮むきをやろうとして・・・止められた
 多少身は付いていたものの普通にうまくいっていたと思うのだが、ガイクにはもどかしかったらしい
 しゅるしゅると綺麗に、身の一片も残さず皮だけが・・・向こう側が透けて見える程に剥かれていく

 「・・・そ、そんなに薄く剥けるからって何よ。残留農薬とかが怖いじゃない」

 「安心しろ。丸かじりも可能な完全無農薬だ」


 あの後、レッド達はあのモヤの原因を確かめるべく、ガイクの家へ急いで向かった
 何が起こっているのかはわからない、それだけはしっかりと警戒して・・・
 が、レッド達がそちらに着いた頃にはモヤはきれいさっぱりと晴れていた
 何が起きているのか見えず、この事態を理解出来ない育てや夫婦の横を通り抜け、裏庭へ走る
 裏庭へ、裏庭の森へ、裏庭の森の中心部付近へ

 そして・・・・・・


 「ほれ、剥き終わったぞ」

 「剥くの早っ! 皮薄っ!」

 というか、元はガイクの為のりんごではなかったか
 差し出されたりんごを素直に受け取ってしまうブルーもブルーだが・・・
 しゃりしゃりとりんごをかじっていると、がちゃりと扉が開いた


 「あ、ガイクさん、お身体の具合はどうですか?」

 「まぁまぁだ」

 「そうですか。良かった」

 「だが、次は無いぞ」

 「・・・わかりました」

 そう何気ない会話をやり取りした後、また扉が閉まった
 
 「で、どういうことなの?」

 「見た通りだな」

 ガイクとブルーの前に現れたのは、イエロー本人だった
 2人共淡々と話しているが、内心はあまり穏やかではない
 それはイエローを除いた全員がそうなのだが・・・
しかも、当の本人はガイクに掌をかざしたところから記憶が無いらしい
が、普通に眠ってしまったと半分嘘を吐いた事でそれに関する大した混乱は今のところ見られない
ただ、戦闘以外の救護や島民の誘導など・・・島の襲撃時に何も出来なかったのが悔しかったと言っていた

 それは兎も角として・・・・・・

 「・・・身長とか雰囲気とか、なんか色々成長してない?」

 「さぁ、そこまでは・・・気のせいじゃないか?」

 しかし、確かに昏睡前より大人びたような感じはする
 これもあのモヤの影響なのだろうか

 「イエローが昏睡状態から回復したのは嬉しい。けど、いまいちスッキリしない。
 あのモヤの中にいたんでしょ。何があったか詳細を教えてくれる?」

 「・・・詳細は不明だが、昏睡状態であったイエローが目覚めた事実。明らかにモヤの影響だろう。
 では何故、イエローは目覚めることが出来たのか。
 それは『器の崩壊をまぬがれた』ことが一番大きい。そして、精神的な喝を入れられたのだろう。
 だが、器の崩壊はまぬがれないもののはずだった。あの状態になれば、普通は助からん。
 例外があるとすれば、イエローの故郷であり力の根源・・・『トキワのもり』から氣を器に注がれた場合だ。
 他の土地の森の氣より、本拠の氣の方が良いに決まっている。それにより、奇跡的な回復を果たした」

 「ちょ・・・ちょっとそれは無いんじゃない?」

 ブルーの言葉に、ガイクはうなずいた

 「ああ、普通はあり得ない。ここナナシマ諸島とトキワのもりは離れすぎてる上、森の加護を受けられるとしたらせいぜいトキワシティまでだろう。
 つまり、ここまで気脈が届かないということだ」

 「・・・・・・気脈?」

「気脈っていうのはいわゆる水道や血管みてぇなもんで、各地に無数にある氣点ってやつを中心に縦横に網のように拡がるもの。・・・まぁ、観念的なもんだが。
だが、この氣点ってやつが枯れ果て気脈によってその氣が届かなくなると、その土地は一気にやせ細り駄目になるってぇ話だ。
他にもその土地の気質、そこに住む人間の性質なんかも関わってくることもある。マサラは汚れなき白、その住人はポケモンと心通わせるというだろう?
あとはそうだな・・・。ウバメのもりにある『ほこら』はそこの氣点の上に建てられたとかか。
俗に言う心霊スポットとか不思議な力があると信じられてる所は、その場の氣点か気脈が特別に太いところである可能性が高いそうだ」
 
 その土地の気質、そこに住む人間の性質への関渉・・・・・・それはわかる気がする
 地方色とも言うし、土地というのは相当の影響力があるのだろう

 「イエローの能力はトキワのもりの気脈が届く範囲でのみ、その氣の供給を受けられる。
 しかし、4のしままで気脈が届かない。
 なら、その気脈をここまで引っ張ってきてしまえば良い。もしくはイエロー自身に、一時的に気脈を直結させれば良い」

 「は、はぁ!?」

 「誰がやったのかは別として、今の状況で考えられるのはそれぐらいなんだよ。
ていうか、観念的なもんをそこまで操るような真似が出来る人間なんか聞いたことがねぇ。出来るヤツがまともじゃねぇことだけは確かだが。
 それとあのモヤは『生吹』とかいうもんで、気脈に何か影響があった時に出るって・・・いつか読んだ本にあった気がするしな。
 これなら、一応・・・状況含めての説明がつくだろ」

 なんとも曖昧で、スケールの大きな話だ、
ブルーは呆れて果ててものも言えない

 「えーっと・・・じゃあ、もうイエローは平気なの?」

 「それはわからん。多分、昏睡から醒めたんだから・・・ある程度の器は急成されてるとは思うんだが。
 あの身体的成長が気脈から急激に注ぎ込まれた氣の影響によるものなら、な。
 だが、まだこの戦いに参加出来る程とは思えん。今まで通り、様子見だ」
 
 「昏睡から起きられたこと以外、何も変わってないわけね・・・」

 はぁとため息をひとつ吐き、ブルーはしゃくっとりんごをかじる
 ガイクも黙々と自分で剥いたりんごを食べ、ふと口にした

 「きっちり器が形成されてるかどうかは・・・その筋の専門家に診てもらうのが一番良いんだがな」

 「? その筋って・・・どの筋?」

 「氣や気脈、そーいう観念的なもんに詳しくて研究してる学者だな。
 やっぱ餅は餅屋だ。生半可な知識を持った素人よか全然マシだろうし」

 「いるの? そんな人」

 ブルーの疑問も尤もだが、よく考えればガイクはアテがあるからこんな言い方をしているのだろう
 
 「『携帯獣氣体成生論』って知ってるか?」

 「・・・・・・随分前だけど、聞き覚えはあるわ」

 「そうか。そいつを書いた『キリュウ・トウド』博士。分野は一応ポケモン生態学だが、氣や気脈関連の研究も手がけてる相当のくせ者だ。
 その噂の論文を世に出した時の・・・本人の挑戦的な態度や論文の中身で、当時のポケモン学会に出席した学者のほぼ全員を敵に回したそうだ・・・」

 どんな人物なのか、これまでの体験から容易に想像がつきそうだ

 「・・・オーキド博士はそれを面白いとか何とか言ってたみたいだけど、肝心のその中身は?」

 「・・・・・・あれは直接読んだ方が良いだろ。口から説明なんて、論文書いた本人以外無理だな」
 
 やはり内容を知ることはかなわないのか
 以前から気になってはいるのだが、こればかりはどうしようもないのか・・・

 「で、そのキリュウ・トウド博士の研究所がナナシマ諸島だかいろは48諸島のどこかにあるって話だ。
 運が良ければ、この旅を続けていれば会えるんじゃないか。
ただ放浪癖があるとかないとか、カントー本土襲撃の影響を受けてなきゃ、どこぞの組織に誘拐されてなければだが」

 「い、いろは48諸島ってアンタ、該当数多すぎるわよ! アレ実際、もっと数があるんでしょ!?
ていうか、もう色々絶望的過ぎ!!」

「そう言うな」とガイクはたしなめるが、ブルーはどうにもイヤになっていた・・・
半ばやけで残ったりんごを次々と口の中に入れ、一気に片付ける

 「・・・・・・。皆を集めてくれ。カンナさんも呼んでくれ」

 「・・・!」

 がたんとブルーが急に立ち上がり、椅子が後ろに向かって倒れた
 ガイクの表情は、眼は真剣そのものだった

 「話がある。お前らの思うこと、知るべきこと、皆話してやる」


 ・・・・・・


 「集まったぜ」

 「って、いないし」

 ブルーがレッド達を引き連れ、部屋に戻った時、ガイクはベッドにいなかった
 逃げたかと思ったが、そんなわけないとすぐに思い直す

 「集まったか」

 一番後ろにいたカンナの背後から急にガイクが現れ、皆を少し驚かせる
 昨晩、家においてあったエプロンを付けている辺りから、何か作業でもしていたのかもしれない
 というか、ほんの少し生臭いような・・・

 「どこいってたんだ」

 「・・・まぁ、いいだろ」

 ガイクがどっこいしょと、ベッドに腰掛けた
 それから口の端に禁煙パイプをくわえると、唐突に話を切り出した

 「聞きてぇことは山ほどあるだろうが、順々に話していこう。
 ・・・・・・と、その前に『前提』を伝えとくか」

 何のことだろうか、そう思った
 これから話すことの中身で、重要であることには間違いないだろうが・・・


 そう、まさか・・・・・・そんなことがガイクの口から出るとは思いもしなかった


 深くため息を吐いて、それからガイクは一呼吸で言った


 「俺は、『The army of an ashes cross』に在籍していたことがある」





 To be continued・・・
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