〜更なる高みへ/031〜
「俺は、『The army of an ashes cross』に在籍していたことがある」
・・・・・・
レッド達は声が出なかった、出せなかった
「・・・俺が能力を得たきっかけもそこにある。
在籍していたのは2年程、5年も前に辞めた話だがな」
ゴールドがガイクの胸ぐらを掴みかかった
イエローがそれをとめようとするが、ゴールドは構わず叫んだ
「俺達を騙してたって言うのかよっ!!!」
あの組織に、今まで何をされてきた
故郷の喪失、辛い別れ、度重なる屈辱・・・いつだって絶望を押し付けてきた
それらを皆で乗り越えようと必死に、総てバネにして今までやってきた
そして、新たな修行の日々
強くなる為に、もう何も失わなくていいように
なのに・・・・・・
「騙してなどいない。あの時は話す必要が無かった。
だが、今は話しておくべきだと思った。だから、話すんだ」
ガイクは胸ぐらを掴まれたまま、そう言った
その選択は決して間違っていないと、その堂々たる眼が物語っていた
ゴールドがスッとその手を離した
どさりとベッドの上に再び座るように落ちると、ガイクはふっと息を吐いた
「・・・さて、順序良く話していくか」
人が過去を話す時の、あの独特な遠い目をして・・・・・・語り始めた
そのガイクの声は、どこか郷愁を感じ取れるかのような・・・穏やかで落ち着いたものだった
・・・・・・
総てが懐かしいと言える程、歳を重ねたわけでもない
ただ幼かったから、その記憶を正確に思い出そうとするので精一杯なだけ
色褪せている方が思い出らしくていいけれど、それはひどく寂しい
・・・本当に、遠い日の記憶のよう・・・・・・
・・・・・・
「コンテストの大舞台、ホウエン地方か・・・。ついに来たぞ!」
俺の名前はガイク、年齢は10歳
コンテスト制覇を目指して、遥々ホウエン地方までやって来たんだ
・・・といっても、今の俺の手持ちの見た目的には『たくましさ』部門ぐらいしか自信無いけど
それでも、留学費用が無駄にならないぐらいには色々とこっちのポケモンとか勉強させてもらうんだ
そもそも俺がコンテストに興味を持ったのは、様々なポケモンの技や生態に詳しくなりたかったから
俺の友達の爺ちゃんがポケモン博士で、その手の権威だったから・・・密かに憧れていたこともあったんだ
本当はもっと早くこっちに来て勉強したかったのだけれど、両親がせめて年齢が2桁になるまで留学&その間の1人暮らしは駄目だと言われていた
だから、俺も10歳になるまでシジマ叔父さんの元で修行をしていた
それに1人暮らしに必要なスキルを、シジマ叔父さんの奥さんから色々と教わっていた
準備は万端、というわけだ
「・・・ええっと、ノーマルランクの会場は・・・ハジヅケタウンか。遠いな」
俺はホウエン地方のマップを見ながら、そう呟いた
ホウエン地方にある育てや夫婦の持ち家はキンセツシティ付近にあり、ハジヅケタウンとは大分離れていた
ハイパーランクの会場なら、割と近い位置にあるのだけれど
「・・・まぁいいか」
一度行った町なら飛ぶことの出来る『ひでんマシン・そらをとぶ』をシジマ叔父さんの奥さんから餞別で貰った
これがあれば、広いホウエン地方でなんとかやっていけるだろう
問題は『ひこう』ポケモンを持っていないことなんだけれど、後々に捕まえればいい話だ
「・・・さて、その前に洗濯と掃除でもするか」
ホウエン地方にある家は大分前から使われていないから、凄まじく汚れている
それをきちんと手入れして人が住めるようにすること、それがこの家を自由に使ってもいい条件のひとつだ
俺は雑巾を固く絞り、せっせとその作業に取り掛かることにした
・・・・・・
『スーパーランク・「たくましさ部門」! 優勝、ガイクくん!』
アナウンサー・解説者の声に、会場にいる客が沸き立つ
俺がホウエン・コンテストに出場を始めて、もう10日にもなる
最初の内は成果も思うようには上がらなかったけど、下準備や勉強の甲斐あってどうにか向上してきた
流石に全部門は制覇出来そうにないが、こうして多くのポケモンとその技やトレーナーと触れ合えるのは何よりの収穫だ
スーパーランクのリボンを受け取り、もう一度優勝を飾ったコンボを観客に披露する
その時はわからなかったけれど、俺や俺のポケモンをじっと見つめる影があった
「・・・彼、いいわね。光るものを感じるわ」
「調べるんか?」
「ええ、お願い」
「はいはい」
「はいは1回でいいの!」
「了解了解」
「了解も1回!」
「へぇ」
「へぇは2回!」
「・・・へぇへぇ」
・・・・・・
キンセツシティ、ポケモンセンター内
スーパーランクを通過したのはいいが、ハイパー・マスターランク優勝への道はかなり険しかった
ぽっと出の俺なんかがいきなり挑戦して、勝てるところではない
とりあえず当たってみたが、見事に砕け散った・・・
「・・・手持ちの補充だな」
シジマ叔父さんのところで貰ったのは『ニョロモ』と『バルキー』、ホウエンに旅立つ前日の朝に捕獲した『ヘラクロス』
『そらをとぶ』ポケモンとして、ハジヅケタウンの傍で『エアームド』を手に入れた
こんな手持ちで見た目はたくましさ部門向けなのに、何故か『かしこさ』の技が多かったりする・・・
やはりコンテストはコンテスト、バトルはバトルで専門ポケモンやパーティを組むべきなのか
いや、ここホウエン地方でしか手に入らないポケモンは沢山いる
先ずはそのポケモン達と会ってみてから、俺なりの結論を見つけよう
それに折角の留学なのだから、その先やそれらをじっくり見て回ってみるべきだ
将来、育て屋を継ぐものと決めているのだから各地方のポケモンを網羅しておくに越したことはない・・・・・・
室内机の上にマップを広げ、手始めにどこから行こうかと検討を始める
ツリーハウスで有名なヒワマキタウン、ホウエンのオダマキ博士がいるシダケタウンもいい
どれだけ遠くへ行っても、方位磁針と『そらをとぶ』があれば帰って来られるから旅費は通常の半分程度で済む
「『おくりびやま』なんてどう? 珍しいポケモンがいるよ?」
「・・・うーん、ミナモシティのはずれ、そこを南下したところかぁ。それなら先にヒワマキに寄っても・・・」
ん・・・?
俺がその声のする方を見ると、何やら怪しげな男が片手にコーヒーを持って突っ立っている
誰だろう、コンテスト関係者かもしれないが俺は知らない顔だ
「どこか旅行にでも行くんでしょ?」
「(なんだ、ただの不審者か)」
こんなガキに声をかける奴なんて、知り合いか不審者と相場が決まっている
選択肢は幾つかある
叫んで人を呼ぶとか、無視して放っておくとか、不意打ちで倒してしまうなどだ
「・・・で、何なんですか。あなたは」
選んだのはどれでもない、「不審者と決め付ける前に少し話を聞いてみる」だった
「いや、ね。君をスカウトしにきたというか」
「スカウト? 結構です」
「そう言わずに話だけでも」
男がそう言い、食い下がる
ここは人目につく、何かあってもすぐに助けを呼べるしその前に自身での対処も可能だ
何のスカウトだか知らないが、そちらにも興味がわいてくる
「・・・で、何のスカウトですか」
「うん、そうだな。今は青年団かな。才ある若者の、新しい集団ってとこかな」
「青年団? 今は? 新しい?」
正直、ここまで露骨に怪しい答えが返ってくるとは思わなかった
丁重にお断りし、さっさと帰ってもらおう
「まぁまぁ、こうしてスカウトにきたんだから。そうムゲにしないで」
これは無視に限るか
俺はそう決め込んで、むっつりと黙り込んだ
「・・・・・・ねぇ」
男が何か言いかけた瞬間のこと
俺の世界がぐにゃりと曲がった
そのまま、俺は意識を失った・・・・・・らしい
・・・・・・
眼が・・・
俺の眼が開いた時、最初に見たのは白い天井だった
清潔なベッド、ここは医務室か何かだろうか
「起きたようだね」
「・・・何を、したっ」
「ひどっ。君をここまで運んだのは誰だと思うの」
「・・・・・・。そう言うからには、あんたなのか」
「そう。感謝して」
なんてふてぶてしい、恩着せがましい者だろうか
このやり取りに気づき、ジョーイさんが顔を見せた
「起きたのね。もう大丈夫だと思うわ」
「あ、どう・・・・・・も・・・」
俺の言葉は後に続かなかった
ただ、その目を少し見張っていた
「・・・?」
「多分、軽い貧血だと思うけど、自分自身で変だなとか思うところはない?」
ジョーイさんの問いかけに、俺は答えた
「・・・ジョーイさん、今ポケモン持ってますよね?」
「え? ・・・どうしてそんなことを?」
「・・・・・・。いえ、なんでもありません」
俺はそう言葉を濁した
「もう大丈夫です」と付け加えて、ジョーイさんを安心させた
彼女はにっこりと微笑み、そのまま部屋から出ていった
・・・まさか、何かの見間違いだ
しかし、薄っすらとジョーイさんの周りに視えた数字は何だったのか
そして、俺はその数字が何故かポケモンのもののように思えたのはいったい・・・
「・・・何か視えたの?」
「・・・・・・まだいたのか」
「それはないだろ、って言っているじゃないか」
「それより、『何か見えた』って・・・どういう意味だ」
俺がそう言うと、男はふっと笑った
「男の子だものな。ジョーイさんの制服見てアレコレ想像するのは・・・」
「さっさと出てって下さい!」
何を言うかと思えば、俺はこの男にどんなことを求めていたのか
それにいつまでここで寝ている気だ、もう大丈夫なはずだ
俺が立ち上がろうとすると、その男は唐突に言った
「じゃあ、待っているからね」
「? ・・・しつこい。俺は何度も興味が無いと言っている」
「ああ、そうだっけ」
「そうだ」
「じゃあ、君の旅についていってもいいかな?」
俺ががくっと身体が傾き、つまずきかけた
「警察呼ぶぞ」
「呼ぶなら呼びたまえ! それで終わったと、引き離せたと思うなよ!」
「(・・・・・・ショタコンのストーカー・・・か?)」
俺自身がそういう類の容姿に入るのかはわからないが、どうやらかなり気に入られたらしい
いい歳した大人が、何をやっているのだか・・・あきれるを通り越して殺意がに近いものが芽生えてくる
俺はそれを何とかぎりぎりのラインで堪え、男を無視して部屋を出て行った
もう二度と会いたくない、会わないだろうことを願いつつ・・・
・・・・・・
「・・・思ったより早かったね」
男がどこから取り出したのか、手に持った書類でばさばさと音を立てた
「何がって、『覚醒』の一歩手前だよ。もう彼は」
男がそう言うと、部屋の影から男女2人が姿を現した
「そんようだわ」
「当然。この私が見つけたんだから」
「感謝してるよ。流石は『裏』ってね」
ガイクと共にいた男は、くすっと笑った
それの仕草や表情は、先程とは少し違っている
そう、それは『別人』といっても過言ではないほどに・・・
「では、裏方はそれらしいところへ戻るとしましょう」
男女2人はシュンと音を立て、その姿を再び消した
部屋に残されたのはあの男だけ
「さて、これからが鍵だな・・・」
男の眼の色が変わり、瞬く間にその結論を導いた
「彼に行ってもらうとするかな。きっと仲良くなるだろう」
To be continued・・・
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