〜更なる高みへ/032〜


 「彼に行ってもらうとするかな。きっと仲良くなるだろう」


 ・・・・・・


 「・・・ったく、今思い出してもあれだな・・・」

 俺は顔をしかめ、両の足を交互に前へと出し、歩を進める
 将来、凄腕の育て屋になる為に赴いた地
 そこは大自然の神秘、山奥でも洞窟内でも海の底でもない

 「ありがとうございました〜」

 「あ、トレーナーIDのプレゼント照合もお願いします」

 「少々お待ちください」

 ・・・そう、ミナモデパートだった
 半日かけて総ての階を回り、買わないにしても隅々まで商品の検討をした
 その徹底振りに、売り場職員にどこぞの企業の市場視察・査察・抜き打ちチェックかと思われた程だ

 「残念ながら、総てはずれのようです」

 「そうですか。どうも」

 少しだけがっかりした、プレゼントの中に『がくしゅうそうち』があったからだ
 まぁ・・・はずれたのは残念だが、買いたかったものは買った
 TV局のアナウンサーとカメラマンのコンビから、ここら辺の地理やポケモンについての話も聞けた
 ツリーハウスで有名なヒワマキタウンにジムリーダーとの対談
 ミナモシティの途中で見かけた入り口の見当たらない不思議な遺跡
 旅の始めとしては収穫は上々だし、満足している

 「さて、ここまで来たんだ」

 ホウエン地方の海釣りといこうか、それともサファリゾーン開園予定地の前まで行ってみるか
 ここまで正規のルートを通って来たのだから、少し脇道に逸れたくなるのだ

 「・・・ここでマスターランクのコンテストが見られないのは残念だけど」

 なんでも1ヶ月くらい前から改装工事をしているとかで、あと1週間はコンテスト開催は無いそうだ
 代わりに誰でも参加可能の青空コンテストというのをやっているそうだが、4日おきとかで次は明後日らしい
 微妙にタイミングが悪かったようで、それまで暇を持て余していると言うことだ

 「・・・・・・そういや、この近くに珍しいポケモンがいるところがあるって聞いたような・・・」

 ああ、思い出した
 何か不審者が言っていたっけか・・・『おくりびやま』とか何とかだ

 「・・・確かに名前としては気になるが・・・」

 『送り火』という名から、恐らくゴーストポケモンが多く生息しているところなのだろう
 ミナモシティの人達から話を聞けば、確かにそうだと言う・・・が、滅多に行く所でもないので情報はさほど得られなかった
 しかし、珍しいポケモンがいることは確かなようだ
 というか、街の人達の見解からして「いてもおかしくはないだろう」という意味らしいが

 「・・・ゴーストタイプか」

 今の手持ち、かくとうタイプ中心のパーティでは少し厳しいかもしれない
 が、ここで迷うよりさっさと行ってしまった方がいいに決まっている
 別にかくとうタイプしかいないわけでもないし、ゴーストタイプに対抗出来るポケモンはいる
 それにいざとなったら、『あなぬけのひも』か『そらをとぶ』で逃げてしまえばいいのだから

 「ま、この際いってみるか」


 ・・・・・・


 その山は、自らの予想を上回ったポケモンがいた

 「・・・信じられん。かくとう・エスパータイプ!?」


 そして、新たな出会いがあった


 「そうそう。『アサナン』って言うのよ、その子」

 赤髪の少女、名はリサといった


 ・・・・・・


 俺は人やポケモンを見る目は割とある方だと思う
 いや、少しばかり直感が優れているといった方がしっくりくるかもしれない
 それが何らかの形で、視覚化されたとしたら・・・それが人を見る目、本質を見る目、識別する目に繋がるものだとしたら・・・
 ある意味、それがトレーナー能力化したのかもしれない・・・そもそも眼に関連した能力者は洞察力などのそういった力に長けているらしい
 ポケモン図鑑の構想もあれこれ聞いたことがあり、そんな夢のような機械が出来るのなら欲しいとも思った
 その辺もまた能力誕生及び素養の内だった・・・のかもしれない
 総ては推測から、己の独断のした把握事項なのだが


 ・・・馬鹿げた話かもしれんが、ポケモンのデータを見て知ることの出来るポケモン図鑑の発想は俺のような能力者が基になったんじゃないかと能力者の古史を見て思ったことがあった
 勿論、根拠も無ければオーキド博士氏に尋ねたことも無い
 くだらん妄想だったな、忘れてくれ・・・


 ・・・・・・おくりびやまで、リサと出会った
 その少女の第一印象は平凡な少女、ただそれだけだった
 はっきり言えば、それ以上でもそれ以下でも無かった

 「連れとはぐれちゃったんだけど、しばらく同行していい?」

 ・・・人のことは言えんが、少し大人へと背伸びしたいような口調だった
 あの得体の知れない不審者よりはずっと安全そうだったし、何よりこういう風に一時的に組むことは良くある話だ

 「私はリサ、よろしくね」

 「ガイクだ。宜しく頼む。ここについて詳しいのか?」

 「まぁ、私は結構来てるかな。じゃ、案内してあげる」

 パシンと互いの手を打ち合わせ、音を鳴らす
 それからリサが尋ねた

 「あなた、ホウエンの人じゃないの?」

 「・・・手を合わせただけでわかるのか?」

 「まさか。違う違う。何となく、イントネーションが」

 「そうか。いや、実はホウエンに来たのも割と最近だ」

 「やっぱり。そうだと思った。・・・ま、この山を登ろうとするホウエンの人もあんまりいないけどね」

 他愛もない会話をしながら、草むらを通り、上を目指して歩き登っていく

 「変わり者だけが登るってことか・・・」

 「そういうわけでもないんだけど」

 「?」

 「ここ、山頂へは行けないのよ。せいぜい、その一歩手前まで」

 「何かあるのか?」

 「何か祠のようなものがあるとかないとか。不思議な力で守っているのかも」

 「・・・ふーん」

 「山頂まで行けないんじゃ、気がそがれるでしょ。特に山男みたいな、そういう人達は。
 ・・・ま、私達トレーナーはその一歩手前の草むらまで行ければ良いんだけど。
 それにここ、なみのりかそらをとぶしないと来れないから。たまに渡し舟みたいなの出るけど」

 ひでんマシンを個人で使えるトレーナーは割と少ない
 ある程度のバッジを得る必要があったりするからもあるが、マシン自体の入手が難しいこともある
 だから、企業や団体もしくはそういうトレーナーがひでんマシンを使っての商売をすることがある
 最もなみのりは船、そらをとぶは飛行機のようなものがあれば事足りるので需要の程は微妙かもしれないが

 「ここまで来る途中で何人かトレーナーは見たんだが、あれの大半は・・・ゴースト使いか?」

 「多分そうね。まぁ、そういういわれのある山だしね〜。あ、こっちこっち」

 リサの先導で、おれはその後についていった
 同じようなところをぐるぐる回って次へ行くのはのは迷ったからでなく、連れを探していることもあってだろう

 「・・・・・・どこ行ったのかしら?」

 「どんな人なんだ?」

 「んー、なんて言うか・・・やる気のない感じ。脱力系? 怠惰系?」

 リサはきびきび動くしっかり者な性格のようだから、大抵の同年代の子はそう言われてしまうのではないか
 しかし、そうまで言われてしまうリサの仲間とはどんな者なのだろう・・・

 「うーん、この辺にいると思うんだけどなぁ・・・」

 「根拠はあるのか?」

 「ううん、幼馴染の勘」

 「勘か」

 仲間はリサの幼馴染らしい
 しかし、山頂付近を目指していることには間違いないようだ
 登れば登るほど、野生ポケモンの強さが少しずつ上がっている
 アサナンを捕まえたのもその辺りのことで、他にもロコンなどの カントーでも馴染み深いポケモンを見た
 そして何より、ゴーストタイプだというヨワマルやらの多さにも閉口したものだ

 しかし・・・連れとはぐれて1人だというのにここまで来られるというのだから、リサの仲間もとい幼馴染はなかなかの実力者なのかもしれない

 「・・・ったく、もう・・・今日ここに来ようって言い出したのは向こうなのに、何なのよ」

 連れとはぐれてしから、かなりの時間が経ったからかリサはイライラしてきたようだ
 果たして、その幼馴染は夜になるまでに見つかるのだろうか
 まさか夜中もずっと探し続けるわけにもいかないし、夜間こそゴーストタイプの進化が発揮されるので危険でもある

 「・・・しまった!」

 リサが急に、大声を出した
 少しずつ陽が傾き、夕暮れの半歩手前といった空の色だ

 「もう、ここまでだわ」

 「は?」

 「つまり、ここが今の私達が行けるおくりびやまのゴール。山頂付近」

 「!」

 いつの間にそんな所まで来てしまったのか、気づかなかった
 そういえば先程からやけに濃い白い霧が辺りに充満し、互いの姿も確認し辛くなっている
 これは霧ではなく、山にかかる雲か何かなのかもしれない

 「・・・追い越しちゃったわけね、私達。もしかしたらこの霧で見過ごしちゃったのかも」

 「いや、そもそもその幼馴染が山頂を目指しているという根拠も無かったと思うんだが」

 「・・・・・・。いえ、山頂は目指してるはずだわ。多分、そこらの草むらで昼寝してるんだわ」

 「・・・こんな野生ポケモン高確率出現地区で?」

 「そういうヤツなの」

 どういうヤツだ、というか自分から誘っておいて連れを放って昼寝とは・・・奔放過ぎないだろうか
 全く、どうしようもないバカかどうしようもない大物かの2択だと思うのだがどうだろう

 その時、背後に何か気配があったのでヘラクロスで応戦し、素早くボールに納めた
 中を覗きこんで見ると、風鈴のような形をしたポケモンが入っていた

 「あ、チリーン! この子、この辺りでしか見つからない上にすっごく珍しいのよ」

 「タイプは・・・」

 すると、急にまた俺の視界がぐにゃりと曲がった
 リサは俺のその変化には気づいていないようだ
 倒れるのをこらえると、今度は頭の中に何かが流れこんできた・・・
 
 「タイプ? チリーンは・・・」

 「え、エスパー。特性は『ふゆう』・・・」

 「・・・なんだ、知ってるんだ」

 そのことに不満を持つでもなく、リサは一向に気にしていないようだ

 ・・・違う、俺はコイツのことなんか何も知らないんだ
 ホウエン地方のポケモンは、アサナンを始めとして何も知らないに等しい
 だけど、急に・・・それらのデータが『視えた』気がしたんだ・・・


 あの時の、ジョーイさんがポケモンを持っていることを視抜いた時と同じように
 
 俺はチリーンをボールから出すと、そいつは嬉しそうに俺の周りを回り始めた
 リサは「好かれてるみたいね。いいなぁ」と少し羨ましそうに言った


 ・・・・・・そして・・・・・・


 「あ〜、いたいたぁ」


 後方から声が聞こえた
 その声の主は、ゆっくりと此方へ向かってきていた

 チリーンのわずかな気配に気づけた俺が、この声がするまでその気配に全く気づけなかった
 俺の周りを飛んでいたチリーンの動きが止まり、リンと小さく鳴いた

 「は〜〜〜、疲れたぁ」

 声の主は、膝に手を付け、肩で大きく息をしている
 
 「アンタはもう! どこで寝てたのよ!」

 「ひどいなぁ。寝てないよ。ただ山を登るのが面倒臭くなってきて、ちょっとその辺で寝転んでたんだよ」

 更に「そしたら、気づいたらこんな時間だった」と声の主は笑った
 リサの片頬はぴくぴくと痙攣し、今にも爆発しそうだった
 というか、その数秒後には塔に爆発し・・・地面に頭からめり込んでいる声の主の姿があった

 「・・・ったく、もう。ごめんなさい、ガイク。こんなヤツ探すのにつき合わせちゃって」

 「いや、それは・・・」

 声の主が何とか起き上がり、俺の方を見た
 あんなことをされても笑っており、常に笑顔を絶やさないような顔つきだった


 ・・・・・・しかし・・・・・・


 「紹介するわ。アンタを探すのに付き合ってくれた人。ガイクくん」

 「・・・そーなの?」

 「そうなの! ほら、アンタも面倒臭がらずに自己紹介!」

 「・・・・・・。うん、はじめまして。ディックです」

 リサは「はい、よく言えました!」と煽っている


 俺は人やポケモンを見る目は割とある方だと思う
 いや、少しばかり直感が優れているといった方がしっくりくるかもしれない
 それが何らかの形で、視覚化されたとしたら・・・それが人を見る目、本質を見る目、識別する目に繋がるものだとしたら・・・
 ある意味、それがトレーナー能力化したのかもしれない・・・そもそも眼に関連した能力者は洞察力などのそういった力に長けているらしい


 そんな俺が、このディックという少年を初めて見た時に何を感じ取ったか


 『何かが違う』

 今までに出会った他のトレーナーや人間とは、何かが違っていた
 リサと並んで、交互に見比べれば・・・なおよくそれはわかった
 いや、俺を含めた3人の中でその少年だけが異質だった


 当時以上に多くの人と接し経験を重ねてきた今の俺ならば、その違和感の正体を言葉に表すことが出来る

 『才能の、格が違う』


 その少年は俺が今まで視てきた中の者でも極めて数少ない『生まれながらの、本当の天才』の1人
 俺の総てにかけて、そう断言しよう


 ・・・・・・俺は初対面の時から、既にその少年に呑まれていたのかもしれない・・・・・・




 
 To be continued・・・
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