〜更なる高みへ/033〜




 『才能の、格が違う』


 ・・・・・・


 「・・・え? マジであの辺にいたの?
 ああ・・・・・・そういえば何か柔らかいものを蹴飛ばした記憶が薄っすらと・・・」

 「ひどいなぁ。どーりで脇腹が痛いと思ったよ」

 「・・・てことは、寝てたんだ」

 俺がそう言うと、ディックが否定した
 しかし、普通に考えてそれで2人に気づかないのだから意図的に無視したか寝ていたとしか考えられないのだが
 まぁ、人を誘っておきながら1人で先に登りその上寝てるとは・・・どういうもんだかよくわからないが

 「で、これからどうするの?」

 「どうって・・・もう帰るわよ。陽も暮れてきたし、時間も時間でしょ」

 リサの言葉にディックは「えぇ〜、もう帰るの〜?」と語尾を伸ばした
 そんなことを言うくらいなら、寝てなきゃいいのに

 「今日はここに泊まろうよ。帰るの面倒臭い」

 「ちょっと待てぇッ!!? なんだそりゃ・・・」

 言ってることが無茶苦茶だ、矛盾している
 いや、そこで目を逸らすな

 「ワカシャモ、『にどげり』!」

 渋るディックにリサのキツいツッコミが炸裂した
 下手すれば、内臓がイッてしまっているのではないか・・・
 
 「にどげり・・・? そいつもかくとうタイプなんだな」

 「そ。ほのお・かくとうのワカシャモ。その技も、専らディックが受けてるけど」

 それはまた随分強力かつ強烈なツッコミ担当だ
 しかし、先程の技といい引き締まった身体といい・・・いい育てをしている

「・・・そうね。私程度の年齢や腕で、ここまでよく鍛えられたもんだわ」

 その物言いはおかしくないだろうか
 まるで、自分以外の手を借りて・・・そこまで育てられたというような・・・

 「まぁ、そんなとこ。私達を、そうして指導してくれる人がいたからね」

 合点がいった
 育て屋に預ける以外に、年配の人から育てのコツを訊くのは珍しくないだろう
 まぁ、それを快くどこまで教えてくれるかどうかは人柄次第だろうが・・・

 「・・・もしかして、ガイク、その人に興味ある?」

 「え・・・?」

 「顔に出てる」

 ・・・・・・そんな顔してたのか、というかどんな顔なんだか鏡で見てみたい

 「まぁ、会えなくもないけど・・・なんでまた?」

 「ホウエン地方の『育て屋』にはまだ会ったことがないから、かな」

 「うーん、確かに。きのみめいじんなら知ってるけど、育て屋はなぁ」

 ディックの言うきのみめいじんにも非常に興味がわいてきてしまうのだが、とりあえずそれは置いておこう
 
 「・・・まぁ、都合が合えば会わせてあげられるわ。あくまで合えばだけどね
 ホウエン中を飛び回ってる人だから」
 
 ふむ、それはそうだろうなぁ
 しかし、ここら辺にはそう長くいない……せいぜいあと2日くらいだと告げた
 リサは「ああ、青空コンテストに出るんだっけ」と小さく呟いた

 「連絡はすぐしてあげられるけど・・・やっぱり少し厳しいかしら?」

 「まぁ、予定が合えばで良いよ。これ、おれの泊まっている宿の電話番号」

 さっさとメモして、リサに手渡す
 もう夕闇が濃く、ゴーストポケモン達の活動が始まっている
 急いで街へ帰らないと、ここの野生ポケモンと戦ってしのぎつつ野宿という最悪のコースだ
 
 「『きよめのおこう』があるけど?」

 ディックが懐からそんな良いものを取り出して、ガイク達に見せた
 それかっ、野生ポケモンに教われずのんきに寝転んでられたわけは・・・・・・
 今もこうして悠長に話していられるのも、それのおかげかもしれんな


    ・・・と、当時のおれはそう思っていた
    だが、今から思えば・・・・・・野生のポケモンは野生ポケモン出現率低下アイテムであるきよめのおこうの効果というよりも、恐れていたのではないか

    その、ディックという少年の存在を
    その、ディックという少年の才能を


 「『のんきのおこう』もあるよ、使う?」

 ああ、そうですか
 何というか・・・読めない奴というべきかおかしな奴というべきか
 まぁ、今更それを出されても仕方ないのだが

 「エアームド!」

 「ビブラーバ!」

 ボールから飛行ポケモンを出し、街の方へ向かう準備をする
 リサの出したポケモンはかげろうに似たポケモンで、話によるとナックラーの進化系らしい

 「ほら、行くわよ。ディック・・・って」

 リサの言葉言い終わらぬ内に、ちゃっかりとその後ろに座っていた
 「だって、面倒臭いんだもん」とふざけているんだかよくわからないことを言っている
彼女は2人乗せられるほどの力はまだ無いといい、それからおれの方へ移ろうとしたがこっちも似たようなもの
 ディックは散々迷い、考え・・・2体の飛行ポケモンの足にそれぞれ同時につかまるということにしたようだ

 「これなら、人半分ずつの重量しかかかんないよね?」

 「左右逆側に揺れたら、あんたの身体は真っ二つね」

 「いや、せいぜい腕が引きちぎれる程度だろ」

 なんて怠惰なディックを戒めるように脅しながら、リサ達を乗せた飛行ポケモンは同時に飛び立った
 

 これが第二の出会いだった

 
 ・・・・・・


 「待ちに待った青空コンテストぉ! 出・場・者・入・場!!!!」

 うぉおおぉおぉおおっと辺りに大歓声が響き渡る
 おれはその中心にいた

 といっても、観客席側の中心・・・要するにコンテスト参加者じゃないってことだ
 建物改装中だがマスターランクに出場出来るだけの猛者や、マスターランクには出られないけれど今ならとかお祭り好きな奴が一斉にここに集まった
皆、我こそはという気迫でいるが為に抽選となった
おれは運が無い、はっきり言っておみくじでは凶か吉以外引いたことが無い
その例に漏れず、今回も抽選落ちになった
 失礼な話だが、当たった人の殆どがスーパーランクで2、3位を争うようなレベル
 要するに当たったハイパー・マスターランク級の引き立て役、それ以下にしかなれていないという惨めさ
 これなら俺が出た方が・・・・・・そう思っているのはおれだけじゃないな、これは
 観客も最初は熱中して見ていたが、ちらほらと帰り始める人が現れた

 「・・・あーあ、こんなんじゃ駄目ね」

 ひょいと顔を上に向けると、リサが「ハァイ」と手を振って見下ろしていた
 その横にディックがいないということは、今日は一緒じゃないのかどこかで寝転んでいるのかもしれない
 
 「うーん、青空コンテスト・・・もっとレベルが高いの期待してたんだけどなー」

 「同感」

 マスターランクの聖地でこんなレベルのものを見せられたのでは、観客も呆れて帰って当然かもしれない
 そういえば、さっきナナミさんらしき人を見かけたが多分・・・・・・本人だろうな
 おれと同じようにコンテストに興味があるらしいが、やっぱりこれを見て嘆いていたりするんだろうか

 「ガイクが出たら、この状況変えられる?」

 「どうかな。やってみなくちゃわかんない、かな」

 リサは意味深に「ふーん、やる気はあるんだ」と呟いた
 まぁ、やる気はあるが・・・・・・くじ運は無いんだ

 「ちょっと待ってね」

 リサが誰かにポケギアをかけ始めた
 相手はディックだろうか

 「・・・・・・うん。・・・わかった。そう伝える」

 ピッとポケギアを切ると、リサは唐突に言った

 「ガイク、コンテストの準備して」

 「・・・ん?」

 「いーから、早く」

 おれにはさっぱりわけのわからん話だが、リサの目は真剣だ
 ・・・・・・ん? さっきから司会者の様子がおかしいような・・・

 ・・・まさか・・・


 「・・・ウォッホン! これから、青空コンテストの更なる参加者を求めます!」

 ・・・・・・おいおい、ちょっと待て
 ちょっと待て、待て、まさか・・・まさか・・・・・・ってぇッ!!?

 「さぁ、我こそはというスターよ! その場に立ち上がれ!」

 司会者がそう言い終わらない内に、おれはリサにすねを蹴られ強制的に中腰になってしまった
 それとまるで総て偶然ですと言わんばかりに、司会者はわざとらしく言った

 「そこの熱意溢れる君! さぁ、降りてきたまえ!」

 会場が一気に沸きあがった
 そりゃそうだ、こんな年端もいかない少年が飛び入り許可を貰ったんだから
 ていうか、羨まれ・・・恨まれてないか・・・視線が痛い・・・

 更に今までコンテストに出ていたが、成績の芳しくない者は強制的に退場させられている
 それからおれを既に数に含めて、また参加者を求め始めた

 そんな光景を見て、おれはぼそりと愚痴った

 「・・・誰か、コンテスト関係者に強いコネを持った人でもいるのか?」

 「えへへ。少し反則的だけど・・・・・・その質問の答えは『まぁね』かな」

 頭が痛い
 どうやら、とんでもない思考回路の人間と知り合ってしまったらしい

 そうこうしている内に、おれは係員に会場へ連れてかれ、コンテストの大舞台に立たされていた
 正直、場違いな圧倒に足が震えて仕方ない
 やる気はあっても、さて実力が伴ってくれるか・・・・・・

 「よぉ、足ガクブルの少年。手持ちのポケモンの調子はどうだい?
 今なら、盛大に笑って見逃してくれるぜ。コンテストの歴史に残るほどにな」

 隣にいる男の安っぽい挑発、いや本当に忠告のつもりだったのかもしれない
 しかし、今はそれが有り難かった

 何故なら、その言葉でおれの闘争心が震え上がったからさ

 やっぱり、おれはそういう側の人間なんだろう

 
 何かの扉を開けたような、そんな感覚・・・





 観客の大歓声が、再びあがった
 それも今までの中でも最大、今までの中の最大を倍以上にしたような歓声だ

 おれはその歓声を浴びるように立っていた
 
 その右手にはボール
 その左手にはリボン





 To be continued・・・
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