〜更なる高みへ/037〜



 
 「元気でね」

 
 ・・・・・・


 「・・・と、いうわけだ」

 ガイクがふーっと大きく息を吐いたと同時に、周囲からツッコミが入る

 「なんじゃ、そりゃ!」

 「色々とキャラ違くない!?」
 
 「あの人って結局不明なんですか!!?」

 「ガイクが辞める前に見たものって何だ?」

 ・・・・・・皆、不満が溜まっていたようだ
 ガイクはこの質疑の数々を予測していたらしい
 中腰になり、ズボンの後ろポケットから写真を取り出す
 
 「ほら」

 ガイクが差し出した写真
 それは薄れていたが、確かに皆のよく知る『ディック』や『リサ』が写っていた
 正確に言えばこの前会った時よりも顔つきが幼いけれど、それは当たり前だ

 「・・・つまり、さっきの話は総て本当だと?」

 「当たり前だろ」

 「・・・・・・えー、なんか納得いかない。一部、美化してない?」

 ブルーがそう訊くと、ガイクが「するか!」と返した
 彼女がどの辺りを美化してると思ったのかはひとまず置いといて、ガイクは無視して続ける

 「キャラが違うといわれてもな、おれはおれの知ってるディック達を話しただけだぞ」
 
 「・・・そう言われてもなー」

 「今とギャップが激しすぎるし・・・」

 「ていうか、あんた、やけにリサと親しげだったわよね?」

 にっこりと微笑むブルーにガイクはのけぞり、思わず視線をそらしかける

 「別に。ただ気が合ったんだよ。兄妹感覚つーかな」

 「ほー、そーですかー」

 言葉に起伏が無い辺り、完全に信じていないらしい
 というか、わかっててやってる気がしてならない
 ならば無視、とガイクは悟る

 「あの人の正体は結局わからずじまいだったな。あれからずっと、ポケモン業界のあらゆる有名人の顔写真をチェックしてみたんだが・・・。
 しかも、本を出してるんだからな。不明のまま、ってのがどうもおかしすぎる」
 
 「何か見落としているんじゃないか?」

 「かもな」

 冷静なグリーンの言葉にガイクはそう淡々と返す
 情報操作、ならば話は簡単なのだが・・・・・・

 「・・・いや、そういやまだ見てないものが幾つかあるかもな?」

 「? 何ですか、その言い方は」

 「ああ、おれはナナシマに来たばかりでな。ナナシマの情報誌はまだ全部目を通してない。
 それと、まぁ・・・ナナシマの図書館つーか古本屋には行ってないから・・・もしかしたらって話だ」

 「図書館? 古本屋?」

 その2つはちょっと隣り合わない存在同士だと思うけれど・・・・・・

 『ああ、そういえばいろは48諸島の「たー島」にあるね。島自体はここから割と近かったと思うけど』

 シショーが珍しくガイドらしい台詞を言うと、ガイクは軽くうなずいた
 そんな傍にあっても行かなかった理由とは育て屋業務に本格的に手伝うようになり、行けなくなったというのが正しいらしい
 
 「そこなら、色んな情報を収集出来るんじゃないか」

 「まぁ、一応寄ってみるよ」

 「そうしてくれ」

 「・・・・・・とりあえず、この会話の流れに突っ込みを入れたい」

 クリスがぽつりと呟くと、ガイクはぽんと手を打った

 「さて、じゃあおれが知る組織のことを総て話そう」

 『遅いって』

 「少々長くなるぞ」

 ガイクはそう前置いて、頭をかきながら話し始める
 皆は静聴し、わずかながらその身を乗り出す


 「組織は階級があり、大体強さもそれでわかる。階級は腕輪の数で表され、それぞれに色と意味がある。
 階級において例外は向上心が無いヤツ、出世欲が無いから上に行く気が無いヤツ、任務評価をまともにされない運が無いヤツだが・・・例外は例外、その人数は少ない」

 今までに出てきた相手としてはジンやアウェイルだろうか

 「青の腕輪の取得条件は『任務を確実にこなした上での組織への忠誠心』、赤の腕輪は『トレーナー能力を使いこなせているかどうか』。
 青か赤の腕輪ひとつで同じ階級以下の能力者や能力者候補生(一般トレーナー)合わせて数名から10名前後を率いる班長的存在、小隊長クラスなどと呼ばれる。
 青と赤の腕輪を両方得た者は小隊長の上、小隊長やそいつら率いる班を複数従えることの出来る部隊長となれる。
 ただし、常に率いているわけじゃない。必要な時だけ、上から指示がある時だけが多い。
 お前らが今まで相手にしてきたのは大体、このクラスまでだろう。能力者にさえなれれば、まぁ大抵のヤツはここまではいける」

 ガイクはにやりと笑う

 「要するに雑魚だな」

 ぐっと身を乗り出していた皆が、のけぞる

 「問題はその上、その上が厄介なんだ」

 「白の腕輪?」

 「ああ、赤・青・白の三色の腕輪を持つ者は幹部候補と呼ばれ、一般的なエリート候補生だ。
 このクラスで求められるのは『実力』のみ! 条件も厳しい。
 先ずは部隊長クラスになってから、半年以上の実戦経験を積んだ者でなければ挑戦資格は与えられない。
 また挑戦資格を得る際には、その自らの青と赤の腕輪2つを懸けなくちゃならねぇ。
 失格や敗北すれば一から出直し。相当の覚悟が必要だな」

 「その試練内容とは、『現・幹部候補5人以上、もしくは現・幹部2人以上の観戦下で選出者100人を倒すこと』!。
 挑戦者は手持ちから1体のみを選ぶ・・・持たせるアイテムは能力効果を除けば1つだけ。
 向かう相手100人は上の指示で選ばれた『腕輪1つ以下を持つ能力者とパートナー1体』と『能力候補生と手持ち6体』。
 その割合は7:3から8:2と、圧倒的に能力者の方が多く・・・ポケモンは最低でも200体か。 それらが始まりと同時に挑戦者に襲い掛かる!
 選出者も必死だ。挑戦者を倒し最期まで止めを刺した者には能力者なら赤か青の腕輪が無条件で貰え、候補生ならボーナスが出るそうだ。
 戦闘フィールドは観戦する幹部候補や上の指示などで選出され、決して挑戦者側に有利な場所なるとは限らない。むしろ不利な時が多い。
 またたとえ100人勝ち抜いたとしても、観戦している幹部候補達などの半数以上が不服を申し渡せばアウト、失格だ。
 この試練において制限時間は無い。時間をかけなければ能力が発動出来ない者もいるからな 。
 棄権や逃走は許されない。そんなことしたら、観戦しているやつらに制裁が下される」

 最後の台詞でガイクは手刀で自らの首を切る動作を見せた
 つまり、下手すれば・・・・・・その命を・・・ということなのか

 「かなり大掛かりな組織だな。総勢でどのくらいいる?」

 「さてな。何も知らないで、組織に入っているやつもいるかもしれん。そういうやつらをいれたら、1万人はいくかもな。・・・もっとかもしれねぇな。
 そもそも組織の任務につけるのは能力者だけが基本で、候補生はサポートくらいしかやらせない。やらせてくれない。
 だから、組織の実態を知らない候補生も沢山いるんじゃないかと思うぞ。もしかしたら、お前らが今まで会ってきたトレーナーの何人かはそういうヤツかもしれん。
 いわゆる一般トレーナーには青年団のようなトレーナーの集まりと思わせ人を集め、その中からトレーナー能力の素質や見込みのあるヤツをそれとなく組織に勧誘する。
 おれが入ったのもこの手口に近かった。最も、相当露骨だったがな」

 ふむとグリーンがまた黙ると、ガイクは続けた
 
 「さて、こうして苦労を重ねて白の腕輪をゲットしたら、いくらか自由が得られる。
 一番大きいのは任務を選べるようになること。わがままがきけるんだ。
 だが、選べる任務も以前より高度なものとなるから、簡単なものばかり選べるわけじゃない。
 また、その任務の難易度に合わせて2つ以下の腕輪を持つ者が居る部隊を好きな時に率いることが出来る。
 更に任務さえこなせるものならば単独行動も認められ、個人の自由時間なども多くとれるようになるって話だ。
 腕輪2つだと任務も選べないし、1つ以下の能力者が弟子入りさせてくれだの自らの能力を磨き上げなきゃいけない修行時間で散々だからな。
 しかし、四大幹部からの直々の指令は絶対に断れない! 
 それをこなせなかった場合は、やっぱり制裁があるんだと思う。実力不相応なら尚更な。
 もしもそれが『腕輪剥奪』ならば・・・どういう任務だろうが、先ず最初に奪われるのは『白の腕輪』だろう。
 それとお前らの話によると腕輪2つ以下のヤツらは妙な団服を着てたらしいが、おれの時はそんなもん無かった。
 下っ端の時、服装が自由じゃなかったとしたら幹部候補以上からはそれが自由になると考えてもいいかもな。
 厄介なのは、それだと一般トレーナーと見分けがつかないってことか」

 ここまではレッド達の推測が当たっていた、ということと補足としてわかったこともある
 しかし、皆が知りたいのはその先の情報だ

 「・・・と、まぁここまではお前らも何となく知って、わかってたことだろう? おれがいけたのはここまでだし、すぐにやめた。
 だから、この上の情報は全部聞きかじったもので、おれ自身が確認したわけじゃないことを念頭に入れておいてくれ」  
 
 初めての情報に、ごくりとつばを飲み込む
 勿体をつけずに、早く語って欲しい
 これから先、どんな敵が待ち受けているのか早く知りたいと皆は思う
 

 まるで、これは・・・・・・獲物を前にした獣のようだ


 「幹部候補の上、『幹部・十二使徒』。人数は12人。腕輪の色は黒、それぞれが『十二支』兼分割された各『方位』を司っている・・・らしい。
 しかし、当時はまだ12人も幹部が揃っていないとかでリサが変に愚痴ってたのを覚えてる。おかしい話、名称だけ先に決まってたらしい。
 おれが選ばれたと知っているのは設立当初からいて戦いのいろはを教えてもらった『武の巨人・ドダイ』さん。度重なる逆セクハラから逃げ続けた『酒豪・シャララ』さん。
 茶の淹れ方を教わった『紳士・ロイヤル・イーティ』さんに同い年らしい『翔王・クラト』だけ。入れ替えがあったかもしれないから、今はどうだかわからんしおそらく12人は揃ってるはずだ。
 あの頃は上下関係が滅茶苦茶だったから、リサと親しくしていたらよく顔を合わせていたよ。中でもドダイさんは色々と凄い人だ、きっと今も変わらず幹部かそれ以上の存在になってるはずだ」

 「どう凄いんですか?」

 「人間として、トレーナーとして、能力者として、心・技・体総てだ。十二使徒の長でもあるそうだが、納得のいく人選だと思う」

 「へー、相手してみてーなー」とゴールドが言うと、ガイクが「やめとけ。瞬殺されるぞ」と突っ込み、またこの2人のにらみ合いが始まる
 それを抑えさせて、更に話を聞く


 「・・・えーと、黒の腕輪の取得条件は単純明快、『現・幹部と一騎討ち』だったかな。やる場所とか条件とかは知らない。
 挑戦者が懸けるものは3色の腕輪で、負ければゼロ。
 もし幹部が負けた場合のペナルティは聞いたことがないな。まぁ、制裁・・・ゼロからのやり直しで済めばいいんだが・・・」

 「いや、そこで遠い目しないでください。恐いじゃないですか」

 「ん、ああ・・・その上が確か『四高将』でな。『十二使徒』と違って、もう設立当初から全員揃ってたって話だ。
 『四大幹部』の側近で、雑務から任務までそつなくこなすスーパーエリートだ。はっきり言って全員に面識は無い。
 腕輪の色は四大幹部の色の中間ってことで紺・紫・桃・灰色だったかな? 司る方位も四方の間の、北東・東南・南西・西北でメジャーだな。
 四大幹部が四方の幻獣、『北の玄武』・『東の青龍』・『南の朱雀』・『西の白虎』って呼び名があるのは知ってたか?
 『仙人』ことタケトリは『玄武』に仕える老人らしくて、『青龍』のディックに仕えるのはタツミだったか。
 『盲目の軽業師』ことキョウジは『朱雀』のリサで、こいつとは何度か面識がある。・・・がっちりとした筋肉を持つ格闘家って感じだったかな。おれとは全然似てない。
 ・・・そういや『白虎』のジークと同様に白虎付きの四高将にも会ったことないな。リサとディックと仲が良くないのか・・・同じように後から入ってきたのか・・・」

 考え込むように、思い出しながらガイクは話す
 組織の階級なんて、ただ技術を学びたかったガイクには無縁なものだったのだろう
 赤の腕輪は納得だが、青の腕輪もは言われたから任務をそつなくこなして無難に貰ってしまったのかもしれない
 
 「あ、そういやガイクってどんな任務をしたの?」

 「ん? ・・・あの頃は指定されたポケモンの捕獲・調査とかが多かったな。あとは一般トレーナー十数人と戦え、みたいな強制修行とかか?
 おかげで、散々ホウエン地方を歩き回らされた・・・おまけに報告書を上に提出しなきゃならん。あれは面倒だったな。
 最もそのおかげで色々と、向こうのポケモンも詳しくなれたんだがな・・・」 

 それなら、ガイクの実力ならば青の腕輪は楽に貰えただろう
 報告書が面倒とはらしくなさそうだが、本人曰く「内容が良くてもフォント数や行数などの体裁の方が完璧じゃないと、受け付けてもらえなかった」のだとか
 これは以前の、ガイクの「上司だったヤツの性格だったのかもしれない」と彼が語る・・・・・・その上司については何も聞けなかったのが残念だ
 ガイクの背中に何かのしかかるように、高笑いする人物イメージが見えたのも気の所為だろう・・・
 

 「最後に、『四大幹部』だ」

 一番聞きたかった情報が、今明かされる・・・

 「『四大幹部』は組織を統轄している存在であり、ディックとリサ、この2人は間違いなく四大幹部だ。
 白虎のジークついては何も知らない。会ったこともないし、そもそもそんな上の階級のヤツがおれに会いに来るのもおかしい。
 だが、玄武については・・・・・・」

 「もしかして、『あの人』・・・ですか?」

 「確証は無いが、一番可能性が高い。そもそも四大幹部は組織の頂点に立つ存在、その中でも別格とされるのが玄武だと聞いているからな」

 「誰から?」

 「強面のリサと笑顔のディック」

 「後者は微妙に信用出来ない気が・・・」

 「・・・そこまで言われると、素直に組織のリーダーとは思えない気も・・・」

 「まぁ、あくまで可能性だからな。おれの情報も今じゃどこまでアテになるかわからんしな・・・。
 だが、基本的なことは何も変わっていないはずだ」


 簡易組織図

 四大幹部(本家、赤・青・白・黒の腕輪)
   |
 四高将(紺・紫・桃・灰の腕輪)
   |
 十二使徒(十二支の刻印入りの黒の腕輪)
   |
 幹部候補(赤・青・白の腕輪)
   |
 部隊長(赤・青の腕輪)
   |
 小隊長(赤or青の腕輪)
   |
 平隊員(腕輪無し、能力者・団服支給)
   |
 候補生(能力素質有り?)
   |
 一般トレーナー(雑魚、数だけは多い)


 「・・・ひとつ疑問なんスけど、いいッスか?」

 はいはい、と勢い良く手を上げてゴールドがアピールする
 ガイクはぶっきらぼうに、渋々そうに応える

 「なんだ」

 「こいつら、軍団なのになんで『隊』なんスかね?」

 ・・・・・・ ・・・そういえば

 「・・・あれだろ。『新選組』が一番隊とか作るノリだろ」

 「いや、カラクリやらメカやらドクターが出てくる『新撰組』は読みましたけど。・・・もしかして、知らないんスか?」

 「どうでもいいだろ・・・」

 「気になりまッス。知ってるなら、教えて下さい」

 「いや、本当に知らん。考えてみればそうなんだが・・・」

 「えー、期待はずれ」

 「そんな所で期待するなッ!」

 「小ネタはどうでもいいから、他に無いの?」

 中腰になったガイクとゴールドのどうでもいい漫才に、ブルーは終止符を打つ
 平手による両者共々後頭部投打という、終止符を・・・・・・
 再びペースを取り戻し、ガイクは座り直した
 ゴールドは打ち所が悪かったのか、頭を抱えて転がっている

 「・・・ガイク、お前が見たものは何だ」

 ガイクは一息ついてから、それに応えた

 「お前らに説明したところで理解出来ないだろうし、おれに共感出来なくてもいいか?」
 
 「構わん。とにかく、こっちは組織の情報が少しでも多く欲しいんだ」

 「成る程、なら話そう。
 おれが見たのはポケモンを持たないトレーナーの、無数の腕だ」

 ガイクはそれだけ言うと、皆の顔を見た
 その反応は予想通り、何の話か・・・といったようなものだ

 「・・・おれの眼はポケモンのレベル・身体能力値・経験値量などを見ることが出来る。
 またトレーナーと一般人の識別をすることも可能だ。ポケモンを持っているかいないかで、な。
 ポケモンを持っていればトレーナーとしての認識、その人物の横に外にポケモンが出ていなくても何を持っているのかとその数ぐらいはわかる。
 一般人ならポケモンを持っていない、つまりポケモンがいる表示・・・みたいなもんがされない。
 だが、あの時見た無数の腕はポケモンを持っていないにも関わらず、あれはトレーナーなんだと響き続けていた。
 自分の頭が壊れてしまうんじゃないかと、そう思うぐらいに・・・やかましいくらい響いてた・・・」

 「それが・・・ガイクが、結果的に組織を辞めた理由?」

 「訳がわからない、といった顔だな。だから言ったろう。理解も共感も出来ないぞ、と」

 うぐ、とその言葉に皆が言葉を詰まらせる
 そうだ、ガイクと自らの感覚は全然違うもの
 それもトレーナー能力によって影響されているものなら、なおさらわかるはずもない・・・


 ガイクがそれほどまでに追い詰められた感覚
 本当に、理解も共感も出来ないのだ


 「最後にもうひとつだけいい? そこの四天王が『氷姫のカンナ』とはどういった関係で?」

 ここでようやく、氷像のように身動きひとつしていなかったカンナに反応があった
 しかし、ガイクとカンナは顔色一つ変えない

 「繋がりは『同郷』。そして、お前らと四天王の戦いを一部始終聞かせてもらうくらいの仲だ。
 わかりやすく言えば、おれとカンナさんはこの4の島が今の守護者だ」

 「守護者?」

 「ガードマンや本土で言う街のジムリーダーみたいなもんか。1と2の島はキワメ婆さんが担当、とかな。
 そう人数がいるわけでもないし実力も伴ってないといけないから、島をかけもちしてる人が多い」

 ジンを迎撃するのも、その役目からすれば当然のことと言える

 「今までカンナが出てこなかったのには理由があるの?」

 「そもそも四天王事件でお尋ね者とかじゃないの?」

 「・・・・・・いや、おれがお前らの修行をつけている間中、おれの代わりに他の島を回ってくれてたこともある。
 勿論、お尋ね者ではあるがこの島の人達はカンナさんを売るような真似はしない。閉鎖的な環境だから、同郷意識が強くてな。
 でも、まぁ流石にお前らと直接会うのは気が引けるだろ。ここでカンナさんと会わなかったのは意図的に避けてたからだ。
 それと、ま・・・・・・ぬいぐるみだらけの家を知られたくなかったとか

 「へ?」

 「何か言った?」

 「最後だけうまく聞こえなかったが」

 「ガイク君、あなた凍らされたいの?」

 ヒュオっとカンナの手にガイクの氷人形があり、既に口紅も持っている
 ガイクは「すいませんでした」と深々と頭を下げた

 『(・・・・・・間違いなく、今のガイクの身体の状態でそれを食らったら死ぬよねぇ)』

 「(何言ったのかしら)」

 「あなた達も、これ以上この話に突っ込んでくるなら容赦しないわよ」

 カンナが人数分の氷人形を作り、牽制する
 皆は勿論、うなずく以外に無かった


 それから、ガイクはふーっと再び息を吐いた

 「・・・・・・まぁ、こんなとこだろ。
 全員、表出ろ」

 「は?」

 ガイクは立ち上がりながらそう言うと、皆はきょとんとする   
 それも構わず、スタスタと先に歩いていく
 ・・・ドアノブに手をかけたところで、くりっと首だけ皆の方に向けた

 「表出ろっつたろ」

 「やる気ッスか?」

 「・・・いや、外のヤツらが島のこと散々荒らしまくってくれたろ。
 カントー本土襲撃からまだ間もねぇっていうのに、えぐるようにな」

 ドアノブには手をかけたまま、ガイクは上半身を皆の方に向けてにっと笑った


 「だからよ、景気づけに島の連中巻き込んでパーッとバーベキューでもしようと思ってよ」

 「!」

 「おお、肉っ!」

 そういえばガイクの身体が少し生臭いと思っていたが、その為の下拵えなどでついたものだったのか
 ふんと鼻息を大きく出し、堂々と胸を張って言う


 「つーわけだから、さっさと外に出ろ」

 と、ガイクが言ったかと思うとピクッと何かに反応した

 「・・・ああ、もう焼き始めてるな」

 「!」

 「ほんとだ、何か焼いてる匂いだ」

 「出遅れたぁッ!!?」とゴールドが言うや否や、なんと窓から外へと飛び出していく
 皆が止める頃には既に姿無く、バーベーキューの中心で肉と叫んでいた

 「あの莫迦・・・」

 『流石お祭り好き』

 「恥だな、あれは」

 「・・・さっさとおれ達も行くぞ。全部、食われちまう」

 皆がそれぞれのペースで、どたばたスタスタと外の方へ向かう
 玄関を開ける前から、物凄い歓声が聞こえる


 「ガイクっ! 身体は無事かぁ!」

 「おぉ、R団ぶっ飛ばしたガキ共か」

 「色々あんがとなー! やっぱおめぇんとこのメシはうめーわ」
 
 「バーベキュー最高っ!」

 「肉食え、肉っ! 先来たあんちゃんはもうとっくに始めてんぞ」

 
 異常なハイテンションだ、既にアルコールの匂いも充満しつつある
 そして、その雰囲気や酔っ払いに負けないくらいゴールドもヒートアップしている

 『止めた方が良くない?』

 「まぁ、今ぐらいはな・・・無礼講ってことで目を瞑る」

 「ふーん、じゃあアレは?」

 ブルーの指先につられ、ガイクがひょいっと上の方に目をやる

 「ゴールドとバクたろう、キャンプファイヤー点火いきまッス!」

 「やれーっ! ガハハハ」

 いつの間にか組まれていた薪の上で、ゴールドが串を持って宣言した
 周囲10mには何もなく、一応延焼などしないように気をつけてはいるようだが・・・・・・

 「・・・いや、待て、待て待てぇッ!!!! そこまで誰が許可するかぁ!」

 ガイクが人ごみを押しのけ、ゴールドに迫る

 「無礼講ッ! 無礼講ッ!」

 そんなことを叫びながら島の人達は今はガイクではなく、ノリでゴールドを支持している
 「まぁまぁ、酒飲んで落ち着け」「今だけ今だけ」とガイクを制している

 「点火!」

 島のど真ん中で、巨大なかがり火が燃え上がる
 ゴールドは華麗にジャンプして逃げる、その宙でガイクに飛び膝蹴りを食らう
 そのままどしゃっと落ちるかと思いきや、島の住人がゴールドをキャッチする
 そして、あろうことかガイクとゴールドの周りを囲んで、闘技場を作り上げてしまった

 「余興だ余興だ! やれやれぇ!」

 「うーッス。積年の恨み、今ここで晴らーすッ!」

 ゴールドが構えると、急に悪寒がした
 こんなにかがり火から近いのに、どうしてだろうか・・・・・・

 「お〜ま〜え〜らぁ〜〜〜ッ!」

 目の前にはかがり火すら霞む、怒号の阿修羅が光臨していた
 ゴールドや闘技場を作っていた人達は戦うことを恐れ、一目散に逃げ出した
 それを追いかけ、ひとりひとり投げ飛ばしていくガイクに周囲を巻き込んだパニックが起こる

 「・・・ガイク、はしゃぎすぎだろ」

 「それでいいんですかッ!!!?」

 「ていうか、傷口開かないのかしら?」

 最早、このカオスっぷりは誰にも止められない
 誰が何をしているのか、まったくわからない

 取り残されているレッド達は呆然とし、やがてぽつりぽつりと言った

 「しゃーない。俺達もあの中に行くか」

 「・・・あきらめた方が良さそうね」

 「巻き込まれますか」

 「どうせなら、楽しみましょう!」

 『一緒に莫迦になろ』


 レッド、ブルー、クリス、イエロー、シショーが一斉に彼の方を見た

 「「「「『ね。グリーン?』」」」」

 「・・・・・・」

 やはり難色を示している
 普通にバーベキューパーティなら参加するのだろうが、悪ノリしすぎているのがひっかかっているのだろう
 こうなれば、強制連行しかない

 「さ、行くわよ!」

 「おい、離せ! 離さんかっ!」

 ブルーがグリーンの腕を取り、ずるずると輪の中心に引きずっていく
 あっという間に島の住人に囲まれ、声をかけられる

 「お、来た来た」

 「酒飲まないか、ていうか飲め飲め」

 「ねーちゃん、ワシと付き合わんか?」

 「ムリムリ、でオレとはどーお?」

 「わー、これがかっぷる? かっぷる?」

 「さっそく尻に引かれてんな、兄ちゃん」

 「ずいぶんと無愛想だな。酒飲ませたら人格変わるか?」

 「そしたら面白だな」

 「だめだめ、この手の男は酒が入るとまず恋人に迫るもんだ」
 
 「余計見てぇじゃんか」

 もう誰もが何を言っているのか、カオスここに極めりだ・・・・・・
 ブルーは笑って流しているが、グリーンは限界近い
 むしろ、よく耐えられるようになったな・・・と拍手を送りたいほどに・・・

 異様な酔っ払いに巻き込まれていくグリーンとブルーを生温かい目で見送った後、レッドが臆さず言った

 「・・・さ、混ざるか」

 「ていうか、私も入りたくなくなってきました」

 クリスが一歩後ずさるのを見て、シショーが頷いた

 『分散したらアウトだね。一緒に行動しよう』

 「それがいいな。これから先、何が起こるかわからないからな・・・」

 『とりあえず比較的安全な場所を確保してから、本格的な行動(食事)に移そう』

 「・・・・・・もうバーベキューパーティへ参加する前の台詞じゃありませんよね


 こうして、レッド達はある意味冒険への一歩を踏み出した
 どんな困難が待ち受けようとも、決して負けないことを誓って・・・





 ・・・・・・
 


 「・・・・・・ようやく収まったか」

 「お疲れ、ガイク君」

 座り込んだガイクに声をかけたのは、飲み物を両手に持つカンナだった
 温かな湯気を立てるそのひとつを、ガイクに手渡した

 ゴールドが点火したかがり火は消え、勢いはもうとうに潰えている


 このバーベキューパーティは信じられないことに、一昼夜を丸々消費してしまった
 今、まさに夜が明けようとしている

 騒ぎ疲れ、島の人達は寝転んだり、まだ元気な人は正気を保ったままで小さく輪になって酒盛りしている
 レッド達は散々いじくられ、酒を勧められ、断り、なんとか耐え抜いた
 流石に島の人達のように徹夜はせず、しかしガイクの家に帰るのも躊躇われたので交代で野宿した
 途中、グリーンとブルーの姿が見えなくなっていたが、後から聞いた話だと・・・グリーンがきれる寸前にブルーがどこかに退避させたらしい
 しかしそんな事情も知らずそうやって若い男女が輪から消えたことで、レッド達の周りの酔っ払いが散々に冷やかすのには閉口した
 勿論『同郷』ということで止められそうなガイクに助けを求めようとしたが、彼は彼で酔っ払いを収める作業で忙しそうで無理だったのだ・・・ 


 「・・・まさか、ここまで抑圧されてたとは・・・」

 「そうね」
 
 「・・・・・・それだけ一時でも、忘れたかったんだな・・・」

 バーベキュー中は見えなかった、目に入らなかったR団との戦火の跡
 逃避でもいい、目を背けたかった・・・・・・カントー本土襲撃という事実から・・・この島もいずれ狙われるという現実を
 その事実と現実を、R団は見せつけた


 「だからこそ」

 「一時も早く、組織を止めなくてはいけない」

 「またこんな莫迦騒ぎが出来るくらい、いつだって出来るくらいに」
 
 「・・・不安の無い平和な日に戻したい」

 「その為に、ボク達は修行してきたんです」

 「そうッスよね?」

 ガイクの背後で、朝日を背にするようにレッド達6人は立っていた
 いつの間にいたのか、ガイクはちょっとわからなかった
 

 希望の光、真っ直ぐに・・・・・・
  
 
 ガイクは、ふっと笑った

 「全員、裏庭に来い」

 ザッザッザッザと地面を踏みしめ、ガイクは未だ痛む身体を鞭打って裏庭へゆっくりと歩いていく
 カンナから貰った飲み物を飲み干し、紙コップを握り潰した


 「これから、修行の仕上げ・・・・・・卒業試練を始めるッ!」




 To be continued・・・
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