〜更なる高みへ/039〜
「おれは休めないがな」
・・・・・・
ガイクの次の相手は・・・・・・
「レッド、グリーン、クリス、おめでと−vv さっ、次はアタシの番なんだからね。
とっとと勝ち越し決めちゃいましょ」
選んだパートナーはピクシー
トレーナー能力は『フェロモン』
トレーナークラスは『ゴールド』
ブルーだった
「順当だな」
「ていうか、ガイク! あんたの撒き餌効き過ぎっ!」
かわいらしく登場したと思いきや、よく見ると服や膝に色々と汚れが目立つ
撒き餌にひきつけられたポケモンに散々追い回され、相手にしてきたのだと推測出来る
「当たり前だ。でないと、意味が無い」
「・・・・・・まぁ、そうだけどさぁ」
「ぐだぐだぬかすぐれぇなら、その鬱憤をこのバトル総てにぶつけに来い!」
ガイクがサワムラーを出すと、ブルーはフィールドに舞い降りる
「卒業試練バトル」
「スタート!」
それは同時だった
「サワムラー、ゆびをふれっ」
「ピッくん、ゆびをふるの攻撃!」
・・・ ・・・
「え―――っ!!!?」
まさか、いきなりこういう対決になるとは思っていなかった
思わず観戦しているクリスの口からそんな言葉が漏れた
「蹴りの技は命中が低い上、はずしたら自分がダメージ受けるようなものが多いんだよな〜」
「エビワラーと比べ、サワムラーはそういう理由もあって使うトレーナーが少ないんだが・・・」
しかし、ガイクが使うのだから何かある
それに四天王のシバも両手足が伸びるサワムラーを持っていたのだから・・・・・・
だが、ブルーがピクシーを選んだわけは何だろうか?
ガイクが使うのはかくとうタイプだと知っているのに、わざわざ弱点を持つポケモンにするなんて・・・ガイク以上の意図がある気がしてならない
先に効果が出たらしいのはサワムラーだが、わざらしい発動は何も無く不発のようだ
一方でピクシーの指先から何か火花のようなものが走り、サワムラーに命中する
でんきタイプのわざのようだが、サワムラーは平然としている
「・・・あ、あれ? もしかして『でんじは』かな・・・?」
「残念だったな。ブルー。サワムラーの特性は『じゅうなん』、まひ状態にはならん!」
ガイク側は波に乗ったように、次の技を指示する
「まわしげり!」
ギュオンとサワムラーの足が伸び、ピクシーの周りを取り囲む
まわしげりというよりまきつくのイメージがあるが、どのみち逃げられない
こうかばつぐんを食らい、ピクシーの身体が宙を舞う
「ピッくん、つきのひかり!」
今は早朝、大したHPの回復は望めないのはわかっている
しかし、まだ薄っすらと月が見えたおかげが予想より少し多めに回復したのをポケモン図鑑で確認する
が、宙に浮くピッくんにいきなりバシンッと音と共に攻撃が当たる
そのおかげで、せっかく回復したHPがまた削られてしまう
だが、サワムラーは何もしていない
・・・遠当てかと思ったのに・・・それは無い・・・かな?
そう何とも言い切れず・また思えない辺りが、ガイクの恐ろしさだ
「げ、何なのよ」
「・・・さっきのゆびをふるで出た『みらいよち』が遅れてきたんだろ」
不覚、先程のはわざが出ない・失敗だったんじゃなくてくるのが遅かっただけか
ブルーはピッくんに体勢を立て直すように言って、更に『ちいさくなる』を命じる
「時間稼ぎか?」
「・・・・・・」
これでブルーのピッくんのわざはゆびをふる・つきのひかり・ちいさくなるで3つ出た
残るはあとひとつ、それもガイクのポケモンに決定打を与えるようなものでなければ勝機は低い
それとも、まさかゆびをふるの運だけで勝つ気なのか
「(注意しなきゃならねぇのは、ブルーのトレーナー能力か・・・)」
ブルーのポケモンに技や何かで触れた異性を高確率で、更に同性を低確率ながら『メロメロ』状態にする
これまでピクシーとサワムラーの身体接触はまわしげりの1回のみで、戦いも始まったばかりと言っていい
卒業試練とはいえ、こちらは勝つ気で臨んでいる
ならば、これ以上の身体接触技は避けていくか・・・もしくは・・・
「サワムラー、『こころのめ』!」
「!」
「まずい、これでピクシーの『ちいさくなる』は無意味だ!」とレッドが思わず叫ぶ
ガイクは身体接触を避け続ける気はない、むしろ次の一撃で決める気なのだ
「まわしげり!」
「ピッくん、ゆびをふる!」
ズドッと地面をピンポイントでサワムラーは突くが、手応えは無かったようだ
「・・・こころのめから逃げられるとしたら、『みきり』などの防御技か『あなをほる』・・・いや『そらをとぶ』か。
おいおい、運だけでこの先勝っていけると思うなよ?」
「お生憎様、運も実力の内だもの」
「そりゃそうだが・・・」
ガイクが上を見上げるが、ピクシーの姿は無い
小さくなっているのだから、容易には視認することが出来ないのかもしれない
「・・・・・・風でどっかに飛ばされたってオチはねぇだろうな」
「まさか・・・」
実はトレーナー・アイでほぼ位置は確認出来ているから、それは無いと知っている
しかし、こうも見えないと不安になってくる・・・敵方の心配をするのはどうかと思うが
「そろそろ急降下してくるかな。サワムラー、食らった後に迎撃しろ」
ガイクは一撃を食らう覚悟を指示し、待機させる
そらをとぶの攻撃はかくとうタイプには効果抜群、しかしサワムラーは相手の攻撃をまだ一撃も受けていない
一度ならば耐えうることは可能、いや二撃目を食らう前に仕留めるから問題無い
ピクシーがサワムラーの腹部目掛けて、急降下してきた
その間にこころのめを試みるが、出来たところで次の技を連続して放つことは難しい
小さいながら重量たっぷりのそらをとぶの攻撃に、サワムラーは身体をくの字に曲げた
「仕留めろ」
ガイクの指示に、このフィールド全体が震撼する
しかし、サワムラーの行動は停止したままだ
次の動きが、全く見られない
その原因は、すぐにわかった
「・・・『メロメロ』状態になってやがる」
先程のそらをとぶによる身体接触か
確かにガイクはブルーに『相手の接触を待つんじゃなく、自ら身体をぶつけにいけ』という助言をしたことがある
「だけどよ、全部運任せじゃねぇか」
「あら、違うわよ? 計算の上でのことだもの」
「?」
「ピッくんの特性は『メロメロボディ』。そして、アタシの能力は『フェロモン』。
この2つが組み合わさると、異性なら60%強・同性でも40%強で『メロメロ』になることがわかったの。
つまり、相性が良いと・この2つは効力が増すのよ。そして、自ら当たりに行くという積極的なものはより、ね?」
待つんじゃなくて攻めていく愛
それがブルーのフェロモン・・・・・・
「・・・なんつー愛だ。まぁ・・・らしいといえば、らしいけどな」
「うっさいわね」
観戦席の皆も苦笑いしている
ブルーの体当たり愛なんて、受け止める方が毎回大変そうだと
というか、心なしかブルーの顔が少し赤い気がする
やはり、まだ言い慣れていない所為だろう・・・真顔で言われても困るけれど・・・
「だけどよ、メロメロは完璧じゃねぇ。こんらん状態と同じなだけだ」
ガイクがすぅっと息を吸い、怒鳴った
「いつまで惚けてんだ、サワムラァアアァッ!!!」
野太い男の声で、ハッと甘い夢から覚めたようにサワムラーがまわしげりを再び試みる
こころのめの効果は、メロメロで1ターン分費やしてしまったので無効
元々命中率が低いので、小さくなっているピクシーには当たらなかった
「ピッくん、サイコキネシス!」
ウォンッと念波がサワムラーを襲う
食らった直後、いつも以上にダメージを受けているように見える
「ピッくんには『ピントレンズ』を持たせてるわ! きゅうしょに当たりなさいっ」
「サワムラー、『きしかいせい』!」
ブルーの攻撃でHPが殆ど無くなりつつあるサワムラーの最後の反撃
「ピッくん、ひるまずにサイコキネシスを続けて!」
「・・・当たらない、と踏んでか? 甘いぞ」
今度は確かに手応えがあり、ピクシーに当たった
「きしかいせいもかくとうタイプの技、終わったな」
「いーえ、残念でしたvv」
サワムラーが倒れ、ピクシーが再び元の大きさに戻った
明らかに勝ちはブルーのものだった
「・・・・・・まさか」
「ピンポーン。ピッくんの『みがわり』でーす」
「わざは4つまで・・・・・・って、まさか」
「ピンポーン。ピッくんの『ゆびをふる』でーす」
「・・・いつだ?」
「アンタのサワムラーがメロメロになったすぐ後、まわしげりをはずしたターン」
そういえば、サイコキネシスを撃つにも少し間があった
「しかも、お前のピクシーが持ってんのは『せんせいのつめ』じゃねか・・・」
「そ。ピントレンズははったりでーす。たまたま急所に当たったから、そう言ってみただけ」
そう、今までサワムラー→ピクシー→サワムラーと攻めている順番は一定だった
それを覆したのは、ポケモンの持ち物以外に無い
サワムラーの攻撃よりも早く、連続で攻撃出来たのもせんせいのつめのおかげ
きしかいせいを結果的に避けられたのも、メロメロで1ターンの余裕が出来たから
しかも、それがゆびをふるでのみがわりだったとは・・・・・・
「結局・・・全部、運任せじゃねぇか」
「言ったでしょ。運も実力の内、だって」
ガイクはふぅとため息を吐いた
「もし、みがわりが出なかったらどうしてた」
「んー、そうね。出たものにもよるけど、きしかいせいはちいさくなるで避けるつもりだったでしょうね」
「こころのめとまわしげりの時、そらをとぶが出なかったら?」
「出たものによるけど、サイコキネシスで相打ちを狙ってたかな? 競り合いで負ける気は無かったけど」
「最初からサイコキネシス使えば良かったろうに」
「ここに来るまでにPP消費してたから、そっちに『まもる』みたいな防御技が無いことを確かめたかったの」
ガイクとブルーが押し黙る
「運か」
「運ね」
なんと悪運の強いこと、それにフェロモンに攻め気の愛・・・・・・
「小悪魔だな。ったく」
「どういう評価よ。失礼しちゃうわね」
ブルーもガイクもそれだけ言うと、さっさとフィールドから離れていく
ガイクは、幸いブルーとの戦いの間に次の挑戦者が来なかったので多少休める
何しろ、これでも重傷人なのだから
ブルーは勝ち越しを決め、とっとと観戦側に回る
「よくもまぁ運だけで勝てたな」などと周りに言われて、彼女は肯定し笑っていた・・・
「・・・残るはあと2人か」
「どっちが先来るかな?」
「賭ける?」
「遠慮しておきます。というか、ブルーさん、賭博は犯罪ですよ」
「冗談よ」と笑って返すブルーの目は少し本気っぽく、また何を賭ける気だったのかは不明だ
「・・・そういえば、シショーどこいった?」
レッドがふと、ぽつりとそう皆に訊いた
皆が思い出したように呟く
「あれ・・・・・・」
「本当にそういえば、よね・・・」
「大方、2人のどっちかについていったんだろ。共闘もアドバイスも無しでな」
「単に邪魔なだけじゃない」
『それは酷いよ』
「事実だもんねー・・・・・・って!」
ブルーがノリで突っ込んだ先に、話に上がっていたシショーがいた
「うぉッ、いつの間に!?」
『来たのはついさっきで、グリーンの言う通り。やっぱり、1人でもいいから成長を見たくてさ』
「・・・・・・フン、ケーシィのテレポートに巻き込まれただけだろうが」
グリーンが一発で図星を突いたのか、シショーがいじけてしまった
皆は苦笑して気遣うが、落ち込む大型の鳥ポケモンは鬱陶しくもある
「あ、ところで一緒に来たのって・・・」
『あぁ、もうフィールドに行ってるよ』
シショーのどんよりした声で教えられ、皆は「ああ、そうか」と納得しフィールドの方を見た
そこにいたのはゴールドで、ガイク相手に何やら息巻いている
ゴールドはさっきのブルーよりも服が汚れて、切り傷も出来ている
『いやー、この僕でさえあの撒き餌には参ったよ。何度襲おうと思ったか』
「へぇ・・・ゴールドのだけ、そうとうキツいやつだったのか?」
「いや、シショーがダメなだけだろう」
グリーンの物言いにまた沈むシショー、どうやら彼はまだバーベキューパーティの鬱憤を晴らしきれてないらしい
その攻撃対象になることを避ける為、皆は観戦に集中することにした
トレーナークラスは『シルバー』・・・・・・なのが色々気に食わない
トレーナー能力は『インポッシビリティ』
選んだパートナーはダグトリオ!?
ゴールドとガイク
似た者同士の戦いが、決着を今つける!
「「誰が似た者同士だ!!」」
・・・ ・・・そうですか
ガイクが出したポケモンは重量級の『ハリテヤマ』
彼が白の試練の時に使用した、ガイクの最強の手持ちだった
あのハリテヤマだけは、修行中、未だ誰も『きぜつ』させたことがないのだ
「へっ、面白れーじゃねーか」
「お前の為に取っておいてやったんだ。有り難く思え」
ビシビシと気迫、いや鬼迫を放つガイクにゴールドはぐっと腹に力を込めた
離れて観ているレッド達にも緊張が走るほど、これまでとは何かが違った
「(ビビんじゃねーぞ、俺っ! 呑まれたら負けなんだ!!)」
先手を仕掛けたのはゴールドだった
「『トライアタック』!!!」
3つの交差するエネルギーが、ハリテヤマに直撃した
しかし、何事も無かったかのような不動を見せている
「ダグトリオはHPが低い傾向にある。気をつけるんだな」
ハリテヤマがゆっくりと、四股を踏んだ
「『じしん』」
まるで隕石の落下のごとく、凄まじい衝撃音がした
大地の揺れはフィールドを越え、レッド達の足元まで揺らし続ける
「ダグたろう、『じしん』で押し返せ!」
ゴールドも負けじとダグトリオお得意のじしんで返し、その衝撃を押さえ込む
2つの震源が、真っ向からぶつかり合う
その結果、フィールドはひび割れ、岩盤がめくれ上がり、あっという間に瓦礫で埋まった
「・・・ふぇ〜、我ながらおっそろしい威力だぜ」
「ほぅ、それはどの眼で見れば言えるんだ?」
ガイクの非常な言葉に、ゴールドは言葉を失った
確かに、どうフィールドを見ても、ガイクのじしんで破壊したものの方が多く酷い有様だった
地震同士の衝撃で生まれた石柱の殆どは明らかにゴールド側に倒れていて、ガイク側にはまともな足場が残っていない
一方でダグたろうのじしんはその周囲を破壊し、何とかガイクのを押し留めただけで精一杯といった感じで・・・まだ足場が残っている
ガイクはふぅとため息を吐いた
「じめんタイプのわざでこれだけの差が出たんだ。さて、このバトルをお前に覆せるのか?」
「・・・やってやるよ。その為に俺は修行してきたんだ」
途端、ダグトリオの姿が消えた
恐らくは習性としての穴を掘るか、わざとしての『あなをほる』だろう
「もう一度地震でいぶりだせ!」
穴を掘っている間、じしんのダメージは2倍になる
HPの低いダグトリオは出てくるしかない
突然、ハリテヤマが地中に沈んだ
「!」
四股を踏もうと片足になったところで、急に地盤が潰れたのだ
原因は先程のじしん相殺だけじゃない、ゴールドのダグトリオがその下を通過してそこを薄くしたのだ
これに似た戦法をレッドは食らったことがある、バウとの戦い・砂浜でのあなをほるの攻撃だったか
足がはまったハリテヤマに、ダグトリオが迫る
「『どくどく』」の攻撃!」
ダグトリオが接触した後、ハリテヤマの顔色が一変した
「・・・ハリテヤマのHPの上昇傾向は比較的高い。持久戦になれば不利と思い、毒を盛ったか」
「正攻法だけが攻め手じゃねぇ、ってな」
「確かにな」
じしん同士のぶつかり合いで砕け切った地盤も、重量級のハリテヤマには不利になってきた
それでもハリテヤマが足を抜け出すと、猛烈に石柱に攻撃を始めた
「『つっぱり』!」
岩盤・石柱を連続的に破壊し、それらを同じようにつっぱりで一気に飛ばす
飛んでくるスピードならいわなだれやいわおとしよりも早く、さしずめ岩マシンガンとも言うべき攻撃だ
それら総ての標的が、ダグトリオとゴールドへ向けられている
「おれのハリテヤマの特性は『こんじょう』、状態異常の時に攻撃が上がる。
あついしぼうとやらも、よく鍛えられているハリテヤマなら普通に体現出来るものとも思っている」
「こんにゃろ!」
ゴールドのダグトリオはトライアタックでその岩をはじき、何とかしのぐ
が、つっぱりとは違いトライアタックは連続攻撃が出来るわけじゃない
あくまで大きな岩や破片だけを破壊し、小さなものは避けるか食らうしかない
どくどくは長引けば長引くほどにダメージ量が増えていく
相手がきぜつするまで、こちらが耐え切れればいい話なのだ
「その戦法は悪くない。が、次からは体力の多いやつでやれ」
「・・・・・・」
レッド達は2人の激突の所為で、でこぼこになってしまった観戦場所を離れていた
横倒しになった石柱をポケモンの技で削り、ちゃっかりベンチのようにして座っている
「さーて、どうゴールドは攻めるかな?」
「え? もう守るだけでいいじゃないですか」
『ハハハ、ゴールドの性格からしてもそれは無理かな〜』
「普段ならあなをほるで毒が完全に回りきる時間稼ぎをするのだろうが、ガイクのハリテヤマのじしんでそれが出来ないんだ」
「まぁ、あのバカは戦わせて毒の回りを早くするって方法を取るんでしょうね」
「はぁ・・・ほんとにバカですね」
観戦している皆の言う通り、ゴールドは攻めの一手でいくようだ
しかし、決め手が無い
じしんもトライアタックも、あの頑強で重量級な身体の前には力不足だった
「トライアタックの追加効果はもう食わんぞ」
「それくらいわかってますって」
「なら、次から『まもる』でも入れておくんだな!」
じしんVSじしん、つっぱりによる岩マシンガンVSトライアタックの応酬
いや、攻撃力は向こうの方が上だから押されている
そこにハリテヤマの『だましうち』が決まり、ダグトリオのHPがまた削られていく
「うげ」
「動きが鈍くなってきたぞ」
ガイクがにやりと笑った
「・・・厳しいな」
「ここまで来るのに野生ポケモンと戦ってきたからな。どう相手にしてきたのかは知らないけど、PPも体力も限界近いだろ」
「如何にPPとHPを温存出来るかも、この卒業試練の鍵なのよね」
ブルーはピッくんのちいさくなるとつきのひかりで、クリスはパラぴょんのギガドレインでHPの維持
レッドやグリーンは強い技を以って一度で十数以上の敵を押し切るという荒技でここまで来たのだが・・・
「あのバカは真正面から戦ったってオチですか」
『うん。まぁ・・・おかげでレベルは上がったみたいだけどね。ダグトリオのHPとPPは・・・』
「あとひとつの技は?」
『えーと』
「かげぶんしんっ!」
『そうそう、かげぶんしんだよ』
「・・・て、あれ?」
シショーとクリスはぽかんとしている
・・・さっき、大声で叫び割って入ったのはゴールドか
勿体もつけずに、がんがん出来る技を試しているようだ
分身したダグトリオが一斉に地面に出たり入ったりして、ハリテヤマを撹乱しようと試みる
「おお、モグラたたきみたいだな」
レッドとグリーンは面白い戦法と、意外と評価しているようだ
「だが」
ガイクとハリテヤマはその、小賢しい戦法を総て一蹴する
「じしん」
攻撃対象は総ての分身と本体
同じようにゴールドもじしんで対抗するが、もうダグトリオは耐え切れるものでもない
ポケモン図鑑でHPやPPを確認するが、ここまで来るのに何もかも費やしすぎた
もう、手立てが無・・・・・・
「・・・・・・またお前が足を引っ張るのか」
ガイクのため息混じりの台詞に、ゴールドの何かが途切れた
無力
また
無力
誰も
助け・・・・・・
・・・ワカ・・・バタウン・・・ジョウト・・・カント・・・ー・・・
・・・・・・クレ・・・ア・・・ク・・・リ・・・ス・・・・・・
平和な街、砕かれた建造物
消えた少女、傷ついた少女
ゴールドの、何かが弾けた
「ダグたろぉぉおぉおお!!!!!」
どこか壊れてしまったような、悲痛な叫び
「お前の力はそんなもんなのかぁッ!!!」
ゴールドの眼に、活力が燃える
「見せてみろ!! 底力ぁぁあっ!!!」
ゴールドの怒声が、ダグトリオに何か影響を与えているのか・・・
トレーナーの想いに応えようと、その身体を震わせている
次の動作で、ダグトリオが持ち前の素早さを活かして十数の穴から出たり入ったりを繰り返す
ハリテヤマはガイクの指示でかろうじて辺りを見回すなどの愚行はしないものの、どう対処したら良いかわからないでいる
「慌てるな。じしんだ!」
・・・ハリテヤマが四股を踏む、そこを狙う!
ゴールドが片足立ちになったところを、ピンポイントでトライアタックをぶつける
体勢を崩し、ハリテヤマが倒れる
毒が身体を回っている所為か、モーションが段々大きくなっている気がした
「(相手はもうどく状態! いくらこっちの体力値が低いからって、もう互角だろーが!
言葉に惑わされるな! 相手の動き、全部見て自分で判断するんだ!)」
残りわずかのHP・PP、それに総てを懸けるんだ
「ハリテヤマッ!」
ガイクの声に、ハリテヤマは応える
もうどくに侵された身体を、不屈の根性によって・・・幾度でも立ち上がる
「・・・根性なら負けねぇッスよ」
ハリテヤマが立ち上がる瞬間
片足に全体重を乗せるその瞬間
「ダグたろう、じしん!」
既にひび割れ、限界近い足場
そこにハリテヤマの全体重が一点に乗る
更にじしんでそこを攻めれば・・・・・・
ゴガンッと音と共に、足場の総てが崩れた
ハリテヤマは自重に耐え切れずに、再び倒れ、ダグトリオが幾度も通った空洞に全身ごと落ちる
「・・・!」
「他人様の育ててばかりで、なまってんじゃないスか?
到底、白の試練をクリアしたポケモンやトレーナーには思えないッスねぇ・・・」
ゴールドはにかっと笑った
「なんたって、俺は『この中で最弱、論外』なんスから」
ガイクが何のことかと思ったら、成る程・・・・・・最初にゴールドにそう言ったのだ
他の誰よりも成長を望んだ
でなければ、この先で勝ち残れないから
そして、
誰もが目指す理想の最強トレーナーになれ、と
「・・・ハリテヤマに毒が回りきった」
もう、根性論では立ち上がれない・・・
ガイクはハリテヤマをボールに戻した
「おれの負け、お前の勝ちだ」
ゴールドはくるっと後ろを向き、憔悴しきったダグトリオをボールに戻した
「とーぜんッス」
へっと笑うその顔には、少しばかり目から汗が流れていた
そう、格好良く決めようと思ったのに
崩れた足場に引っかかり、どてんと派手に転んでしまった
一部始終を観戦していたレッド達も、この失態には盛大なため息が漏れる
『まだまだだねぇ・・・』
「・・・くっそぉッ!」
立ち上がったゴールドは今度は足場に気をつけ、大股でぴょんぴょんと跳んで安全そうなところまで行く
そこでまたこけかけたが、何とか堪える
「お〜、すごいすごい」
「勝った勝った」
「上出来ね」
皆から賞賛の言葉を貰うが、嬉しくもいまいち素直に喜べないのは何故だろう・・・
だが、ゴールドは鼻高々にレッドの横に座った
「まぁ、当然でッス」
「そーか」
「残るはイエローだけね」
『ちょっと遅いねぇ・・・誰を選んだんだろ?』
シショーの危惧も尤もで、イエローは重量級パワー系が手持ちにいない
その辺りがどうも不安で仕方ない、いや彼女も一人前以上のトレーナーなのだから本当は心配しなくてもいいのだがしかし・・・
「ま、その内来るさ。それよりガイク、フィールドはそのまんまか?」
レッドが大声でそう訊くと、ガイクは「基本的にここだ」と返した
もはや足場が悪いと言うレベルじゃない、陥没・隆起・瓦礫・石柱の殺伐とした危険地帯だ
「…今の状態のままなら、ひこうタイプかじめんタイプが有利よね」
「どうかな。身体が比較的小さくて動きの素早いやつなら、身を隠したりの撹乱もいけそうだぞ」
皆が自分ならどう攻めるかで和気藹々と話していると、ふと小さく地鳴りがしている気がする
半分嫌な予感がして、ゆっくりと後ろを振り向いてみる
「・・・わぁあぁぁぁあぁああ〜!!!」
地鳴りはどんどん近づいていきて、同時に悲鳴のようなものも聞こえる
いや、間違いなくこの声は・・・・・・
ドードリオに乗ったイエローが、物凄い数のポケモンを引き連れて、こちら側に駆けてきていた
「何で!?」
「ちょ、待て! こっちは・・・」
レッド達の制止も聞かず、ドードリオが皆の観戦場に突っ込んだ
同時に、恐らく撒き餌につられてきたポケモンも目の色変えて襲ってくる
「この場合は・・・」
「共闘じゃない」
「自己防衛だ!!」
各々がパートナーポケモンを出し、襲い掛かるポケモンをなぎ払う
先頭の十数体を倒したところで、何とか我に返ってくれたようで残りは元居たところに帰っていった
それを見て、レッド達は安堵の息を漏らした
「ふ〜、怖かった」
「じゃ、な〜〜〜〜〜いっ!!!」
ドードリオの上で、同じように安堵の息を漏らすイエローにぱかんとブルーが一発殴った
「う〜、何するんですか!」
「それはこっちの台詞! アンタ、何してんの!?」
ブルーの剣幕に圧され、イエローはしどろもどろに答える
「えっとですね。・・・やっぱり、修行とはいえポケモンを傷つけるのはちょっとためらいがあって・・・」
『足の速いドードリオをパートナーに選んで、ずっと逃げてきた』
「はい。ガイクさんがどこにいるかわかんなくて、辺りをぐるっと駆け回っていたら」
「撒き餌につられて、そこら中のポケモンを引き連れてしまったわけか」
えへへへ、失敗しましたとはにかむイエローに、ブルーはもう一発ぱかんと叩いた
「修行になんないでしょーが!!!」
「え〜、でもガイクさん倒せれば卒業なんですよね?」
少し涙目になったイエローが、きょとんと首を傾げて聞き返す
それは、確かにその通りなのだが・・・・・・
「・・・ほぅ、それはそれは自信がたっぷりあるようで何よりだ」
イエローが物凄いオーラにびくっと反応を示し、おそるおそる後ろを振り返って見る・・・
そこには笑顔の鬼が、殺伐とした大地に直立不動で手招きしていた
「・・・あ、あの〜・・・いつからそこにいました?」
「最初からだ。ほ〜ら、早く来ぉ〜い。お前で最後だぞ〜」
ガイクの笑顔が怖すぎる
イエローが心なしかぷるぷる震えているが、皆も笑顔で背中を押して送り出す
じたばたと暴れる背中を押して、ドードリオと一緒にフィールドに無理やり押し込んだ
選んだパートナーはドードリオ
トレーナークラスは『シルバー』
トレーナー能力は『トキワの癒し』
もしかしたら一番の問題児、イエロー
「さ〜始めようかぁ」
爽やかな笑顔で、ガイクは最後の卒業試練を開始しようとしていた
イエローはおびえながらも、壮絶な足場にようやく気づいた・・・
「・・・え、え〜、なんでこんな状態に・・・」
「すんませーん、俺とのバトルで崩壊しましたぁ〜!」
イエローの呟きにゴールドが大声でそうフォローを入れる、その音量に横のクリスは思わず耳をふさいでいる
更にその横で、冷静に状況を見てブルーが口に出す
「・・・あ〜あ、めちゃくちゃイエローに不利ね」
「ひこうタイプとはいえ、ドードリオは陸上を走るポケモンだからな」
「あの足場じゃまともに走れないだろーなぁ・・・」
皆がイエローについて嘆いていると、シショーが『ねぇねぇ』と訊いた
『そういえば、ガイクの「6体目」のポケモンって皆知ってる?』
その問いに皆は一瞬固まり、そして同時に首を振った
「そういや知らねぇ」
「修業や稽古の時は、いっつもあのかくとうポケモン5体しか使ってないし」
「俺達5人でそいつらきぜつさせてるしな・・・」
では、ガイクの最後の手持ちは何なのか
そもそも、そんなポケモンなどいるのか
ガイクがポケットからボールを取り出すと、ぽいっと投げた
「行くぞ」
宙に投げ出されたボールから、出てきたのは『チリーン』だった
あの禅や何やらでよく一緒にいたあのポケモン、そういえばガイクの過去語りでも登場したか
その意外とも取れる選択に、イエローや観戦場の皆は驚いた
「お?」
「あ、あれが・・・」
「似合わないくらい、かわいいポケモンね」
「相手がイエローだから、か・・・?」
『ああ、イエローは器の問題とか色々あるからね〜』
「でも、それってひいきじゃね?」
皆が口々に文句や何やらを言い、イエローはどこかほっとしているようだ
ガイクがいつも使うかくとうポケモンに比べれ・・・比べなくとも、それはもう可愛いとしか言いようがない
「よしっ、行くよ、ドドすけ。『ドリルくちばし』!」
相手の容姿からおびえから立ち直ったイエローが、ビシィっと技の指示をする
ドードリオは3つのくちばしを同時に回転させ、足元の障害物を上手く避けて猛烈に突っ込んでいく
「チリーン。『ハイパーボイス』」
ガイクは指示の後に素早く耳をふさぎ、ほんの少しそっぽを向く
チリーンは愛らしい動きで小さく息を吸ってから、それはもう周囲の瓦礫を吹っ飛ばすほどの全方位に向けて音波を発する
ドードリオは思いもよらない反撃にひるみ急ブレーキをかけ、音波と共に吹き飛んできた瓦礫を避けるのに徹した
イエローも耳をふさいで、あたふたと右往左往する
「チリーン。『サイコキネシス』」
続けざまにガゴンと石柱が宙に浮き、それがドードリオとイエロー目掛けて飛んでくる
不安定な足場に転びそうになりながら避けると、石柱はズドドドと地面に突き刺さった
突き刺さったそれらはその勢いに耐えられなかったのとハイパーボイスの影響かで、自らガラガラララ・・・と音を立てて崩壊していく
あまりの破壊力に、イエローとドードリオは呆然としている
そして、その技の威力と迫力・余波は離れた観戦場にも届いていた
「やっぱり」
「流石・・・」
「ガイクのポケモンだ」
ガイクを除いたほぼ全員は一斉に声をそろえて、叫んだ
「「「「「『「ちっともかわいくね(な)―――――(い)ッッッ!!!!!」』」」」」
To be continued・・・
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