〜更なる高みへ/044〜
「「『「「「「ちょっと待てぇええぇぇえええぇぇえぇえぇえッ!!!?」」」」』」」
・・・・・・
ナナシマ交本館にて様々な資料や文献を読み漁っていたレッド達はとある本を見つけた
その本の名は『携帯獣経験値及び性格傾向から見る育成論』とあの『携帯獣氣体成生論』
そのどちらもが各所でその名前を聞くキリュウ・トウド博士の著であり、しかも手書きのオリジナル版のようだった
額を寄せ合い、気になる中身を読んでいる最中のことだった
なんとその本人らしき男が、レッド達の前に現れ……その姿を消そうとしてたりして!
「え、え、え?」
「本人なのか!」
「追いかけるぞ!」
うろたえ、慌てるなかでレッドが叫んだ
ここで最重要といえるかもしれない人物との遭遇を無為にするわけにもいかない
何かの情報を得るためにも、イエローのことについても願ってもみないチャンスなのだ
「今から追いつけるか?」
『カイリューは移動ポケモンじゃオニドリル以上に凄いんだよね』
オニドリルは何日飛び続けても一度も休まなくてもいい翼を持ち、その身体のサイズもあってそらをとぶポケモンとしては人気が高い
その上をいくのがカイリューで、世界を飛んで回れるというのがポケモン図鑑でもあるほどの売りだ
珍しさもオニドリルの数段上をいくが、その価値は充分にある
もちろん、バトルポケモンとしても持てたら最高だ
あの四天王のワタルも愛用し、イエローを苦戦させたことは記憶に新しい
「でも、何もしないよりかはマシだろ。敵じゃないんだから、こっちの呼びかけに応じてくれるかもしれない」
「それもそうだな」
レッドとグリーンがプテラとリザードンに乗り、ブルーはカメックスになみのるようだ
しかし、イエローは空も海も移動手段を持たない
「イエロー、ゴールド、クリスはここで待っててくれ」
「えぇっ、何でですか」
ゴールドが不満げにつぶやくが、まとめきれない荷物をそのまま放って置くわけにもいかない
何より、ゴールドやクリスの飛行ポケモンは長時間の飛行や戦闘になると厳しいのだ
「すぐ戻るから」
そう言って、レッド達は飛ぶように去っていった
まだゴールドは不満げで、何やらぶつぶつとつぶやいている
それをクリスがたしなめている時、ふとイエローの寂しげな横顔が目に入った
「・・・・・・やっぱり悔しいなぁ」
ぎゅっとこぶしをかため、つぶやくイエローはいつもより小さく見えた
・・・・・・
「やっぱ速いな」
レッド達とキリュウ・トウド博士との追いかけっこが始まった
何とか視界にとらえたものの、それ以上差が縮まることもなさそうだった
「攻撃してでも止めるか?」
「いや、攻撃したら敵に思われちまう」
博士、とついているだけで組織が狙ってきそうな感じがする
世に有名にならなかったとはいえ、一部では定評のある論文を書いているのだ
「さて、君達はなぜ自分を追って来ているのかな」
高速で飛び続けるカイリューがわずかに減速し、キリュウ・トウド博士が問いかけてきた
レッドは大声で叫ぶように、それを返した
「俺達は敵じゃありません。話を聞きたいんです」
「君達が敵ではない証明はどうする?」
「!」
「そう偽って、自分を捕らえに来た者はそう言うだろうしね」
やはり、キリュウ・トウド博士は組織から狙われたのだ
そして、レッド達をその刺客と見て警戒している
「組織から、狙われてるんですね。俺達はその組織を倒すために戦ってるんです」
「その証明は」
レッド達は再び言葉に詰まった
キリュウ・トウド博士は証明、証明と連発するが出来るはずもない
組織と戦っています証明書があれば話は違ったのだろうが、そんなものはあるわけがない
「レッドはポケモンリーグチャンピオン! グリーンはトキワシティジムリーダでオーキド博士の孫!
アタシはリーグ3位入賞! これでも駄目かしら」
ブルーが知名度に訴えかける作戦に出たようだ
そのどれもが適度以上に広まっている
キリュウ・トウド博士が知らないわけがない
博士が、後方をちらりと見た
「・・・・・・それが何だろう。自分は君達に会ったことがない。
声も雰囲気も知らない相手ならば、メタモンによる変装で騙すのはたやすいな」
「いや、それは・・・・・・」
顔パスもきかないらしい
それが効かないとなると、もはや止める手段が残されていない
「・・・ひとつ聞きたい」
「は、はい」
キリュウ・トウド博士が人差し指を立たせ、レッド達に聞いてきた
「アレを・・・生吹を起こしたのは君達か」
「・・・・・・そうです。俺達の仲間が起こしました」
「よくわかった」
「お互い、最後の手段と行こうじゃないか」
「最後?」
ゴウッと嵐のような風を巻き起こし、カイリューがレッド達と向き合った
それと同時に『はかいこうせん』のが海面をえぐった、海を割った
とっさにレッド達は避けられたものの、その破壊力と迫力は凶悪だった
「力ずく」
「な・・・・・・」
「やってくれるじゃない」
話が通じない相手に、ブルーは乗り気でいる
3対1という不利な状況でそれを提案してきたキリュウ・トウド博士は相当の自信家かバカだろう
しかし、勝てれば負けた者を自由に出来るというのはこの上なくわかりやすい
「チャンピオン・ジムリーダークラスだってことを実力で証明しろ、ってことか?」
「仮にも偽者を名乗るにしても相応の実力は持ち合わせていないとね」
「確かにな」
グリーンがリザードンに指示を出した
・・・・・・
「うおぉおっ!?」
突然、目の前から迫ってきたばかでかい光線
それをゴールドはとっさにウーたろうで受け止め、イエローのポケモン総出のまもるで交本館を守った
以前ならば反応も何も出来なかったが、ガイクの修行のおかげか危機回避能力・・・「とっさ」の判断力がついたようだ
「なんだぁ、今の!」
瞬間的な緊張感から開放され、ぷはっとゴールドが一息ついた
光線を受け止めた後でもなお、その余波で海がざわめいている
自然現象ではありえないからポケモンによるものだとは思われるが、ただの攻撃でもない
「レッドさん達が向かった方角からじゃないですか?」
クリスがそうつぶやくと、ゴールドはあぁと納得した
確かに方角的には合っている
「チッキショー、面白そうなことになってんじゃねーのか?」
ゴールドはうずうずするように、こぶしをたたき合わせた
空を素で飛べるのにおいていかれたシショーは心配そうにその方向を見ている
『無事に帰って来られたらいいんだけど』
「縁起でもないことを言わないでください! あの3人なら大丈夫ですよ、きっと」
「(・・・・・・感じは違うけど)」
イエローは思い出していた
技から感じられるものこそ違うが、その威力にはおぼえがあった
それは『災厄』の破壊光線
・・・・・・
「3対1」
「カイリューか」
「楽勝よ」
ブルーは前向きに明るくそう言うが、あのデモンストレーション的な破壊光線はあなどれない
流石は育成論まで手がけた研究者のポケモン、よく鍛え上げられている
・・・・・・ていうか、育成より研究しろという感じもするほどだ
「何しろ、向こうは反動で動けないんだから」
「こちらからいかせてもらう」
トウド博士が動いた
いや、そのカイリューが動いた
「なみのり」
ぱちんとトウド博士が指を鳴らす
それに合わせるかのように唸りを上げて、カイリューが遠吠える
それだけで海がざわめき、その背後から大津波が生まれた
「へ」
「ブルー!」
レッドのプテが素早く動き、ブルーをカメックスから拾い上げる
ブルーもカメックスをボールに戻したところで、大津波が辺りの海を砕くように飲み込んだ
あのままでいたら、ブルーとカメックスは海の藻屑となって消えていただろう
今までの、どのトレーナーが扱うなみのりよりも強大で規模が大きい
そして、
「・・・なんで、なんで動けるの?」
「わかんねぇ。はかいこうせん使ったら、普通は動けないよな?」
「能力者か」
今となってはありきたりだが、グリーンの予測は正しいだろう
しかし、『反動技を無かったことにする』ような能力でははかいこうせん自体やなみのりの威力増強には繋がらない
「残念。自分はその上を行く」
くせなのか、トウド博士が中指と親指でパチパキと音を出している
カイリューが逃げるレッド達を視界に捕らえた
その攻撃の溜め、構えや態勢、その眼に込められた気迫・・・・・・すべてが物語っている
『 は か い こ う せ ん 』
これをどうにかしなければならない
威力はもう既に肌で体感している
「あの技でいくか」
あの技、と聞いてブルーはすぐに察したようだ
同時にレッドのプテから飛び降り、再びカメックスを出して上に乗った
「一か八かじゃない?」
「成功させるさ」
レッドはプテを急上昇させ、巻き添えを食らわない位置まで上がった
傍にいられるわけがない、あの2人が試みようとしているのはそういうことだった
トウド博士が、指をパキンと鳴らした
カイリューのはかいこうせんが、ブルーとグリーンめがけて向かってくる
しかし、2人は避けることもなく立ち向かっていく
2人同時に、叫んだ
「『ブラストバーン』!」
「『ハイドロカノン』!」
その言葉と同時に、レッドとプテはさらに上空へと飛んだ
予測よりも遥かに上回る威力、激突になると読み取ったからだ
2人がしようとしていたのは、究極技の合成
タイプ一致の炎版の破壊光線『ブラストバーン』を糧に、同じくタイプ一致の水版の破壊光線『ハイドロカノン』を強くさせようというのだ
カイリューのはかいこうせんはタイプ不一致だが、何らかの能力で強化しているので通常のぶつかり合いではかなわないかもしれないと踏んだ
レッドのフシギバナは海上も空中戦にも対応出来なかった
しかし、これは危険だった
能力者の特典は常に起こるものとは限らず、確率的にはブラストバーンとハイドロカノンが相殺しあって終わり、はかいこうせんが直撃するかもしれない
そういう机上の空論を、ぶっつけ本番で2人はやってみせた
「(2人して思い切り良すぎ。なんかあったのか?)」
レッドはそう感心するものの、両者の激突は海を一瞬消し飛ばした
その時にあがった水柱は、それというにはでかく勢いも激しい・・・・・・まるで滝のようだ
「うわー・・・・・・」
レッドは海面をのぞき見た
その凄まじさはどちらが生きていても不思議なほどだった
やりすぎだろ、と言わんばかりに海が轟々と荒れ狂っていた
心なしか海面が沸騰し蒸気が立ち上っているようなので、もしかしたらブラストバーンとハイドロカノンの技合成が起きる前にはかいこうせんとぶつかり合ったのかもしれない
しかし、それだとグリーンとブルーが勝てる要素はまたぐっと低くなる・・・・・・
「・・・・・・究極の伝承技、か。なるほど、腕は本物のようだ」
海面の蒸気から身をひるがえし、トウド博士が無傷で生還した姿を見た
あれだけ大規模な攻撃に遭ったのだから、もう少し手傷を負わせられてもいいはずだが・・・・・・現実は違った
「(つーか、強すぎないか?)」
研究者というより本職のトレーナだ
そういえばオーキド博士もリーグチャンピオンになった経験があり、ポケモンに精通しているのがその強さにつながるのかもしれない
「自分の負けだ」
「え?」
いきなり、トウド博士が手を上げて降参した
「そうか」
「ったくもぅ、手間かけさせんじゃないわよ」
ブルーとグリーンも無事なようで、海面すれすれのところで2人並んでトウド博士をにらみつけていた
カメックスもリザードンも元気そうだ
「何とか押し切れたよーね」
「成功したようで何よりだ」
レッドがグリーンとブルーの元へ駆けつけ、無事かどうかを聞いた
2人のその受け答えもしっかりしていて、うまい具合に確率の低い方へ転んでくれたようだった
「修行のおかげで、多少マシになったようだ」
「いや、そのレベルじゃないだろ・・・」
派手で凄まじいばかりの激突に、海や空のポケモン達がここら一帯から逃げ出してしまったようだ
これから更に訓練や鍛錬を積んでいけば、まだ上にいけるだろうとグリーンは確信した
「にしても、どうして負けを?」
レッドの疑問にトウド博士がよどみなく答えた
「究極技同士の合成にかなう手段も力も自分にはもう残っていない。たとえうまくそちらのPP切れまで『まもり』きれても、究極技を使いこなせるまでになったポケモンにはかなわない。
つまり、いずれ地力で押し負ける。なら、少しでも扱いがいい内に負けを認めてしまった方がいいだろう」
あの激突を防いだのが『まもる』だったらしい
それにしては効果範囲が広すぎるだろう
「さて、自分はこれからどうすればいい?」
「あ、えーと、とりあえずナナシマ交本館まで戻りましょう。話はそれからってことで・・・で、いいですよね?」
本当にとりあえずレッドがそう言うと、トウド博士はふぅと息をついた
「逆らうわけないだろ」
「・・・・・・そうですか」
確かに話をしているとどこかムカついてくる
性格は悪くなさそうだが、これがキリュウ・トウド博士の人柄なのだろうか
実際、直に接してみるとわかるがえらく独特の雰囲気をまとっている
何か、他の者とは一線を引いているような感じだった
「(大丈夫かな?)」
何か波乱が起きなければいいけど、とレッドは危惧した
そして、それは当たらずとも遠からずなものとなる
・・・・・・
はかいこうせんとブラストバーン・ハイドロカノンの正面激突
凄まじいエネルギー量の爆発
弱い生物は逃げ出した
自らの命の危険を本能で察知し、賢明な判断と選択をする
しかし、強い生物は違った
自らの命の危険を本能で察知しても、闘争心がそれを凌駕する
より強者と戦い、自らを鍛え上げ、高めようとする心
それは己を偽ることのない
気高き行動
止めることは出来ない
この両者の激突は何を呼ぶのだろうか
To be continued・・・
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