〜更なる高みへ/048〜




 「あなたはどれだけ私を萌えさせてくれるかしら?」
 

 ・・・・・・


 「とか何とか言ってなかったか? お前」

 アウェイルが憎々しげに口を開き、舌打ちした

 「ふざけたことをぬかしやがって。やっぱ女は口だけ。いや、いい。死ね」 

 ギリリリィと不快な歯ぎしりをし、アウェイルがうなる
 けたたましい咆哮をギャラドスがあげ、その身体いっぱいにくねらせ敵を威嚇する

 押されている
 幹部候補になりたての者に、百戦錬磨一騎当千の幹部・十二使徒が

 強い

 強すぎる
 そう、強すぎる

 アウェイルが強すぎるのだ


 『幹部・十二使徒』
 それは予め定められた称号
 どんなトレーナー能力が、どんな性格の者が、どんなポケモンを持って、何人集まるのか
 そのすべてがシナリオにはあり、すべて最初からわかっていた
 だから、その12人の能力者に相応しく当てはまるものを取って付けた
 個々の能力・性格・ポケモンに合わせた、方角も意味する干支の称号
 
 それが『幹部・十二使徒』であり、シナリオ遂行の手駒の1つ
 今までにあったメンバーの入れ替えもシナリオ通りであり、『Gray War』が始まるまでに完成される
 事実、集った12人は思う通りの人材ばかりだった 

 つまり、強さにおいて『幹部・十二使徒』を脅かすような能力者は現れないということ
 幹部の証・黒の腕輪を得る為の試験など、『Gray War』が始まった時点で形式上のものになってしまった

 アウェイルはまだ幹部候補になれない
 レッド達を足止めしたことで得た青の腕輪を貰ってから、半年以上の期間が経っていないからだ
 それなのに白の試練を受けた、受けられた
 そして圧倒的な実力で合格した

 「(誰の差し金なのかしら・・・?)

 リサにはわからなかった
 ジークに聞いても、ディックに聞いても教えてはくれなかった
 これもシナリオにあったことなのか、それとも誰かの指示なのか・・・
 シナリオを曲げることは許さないはずなのだが、仮にシナリオをつくったものの指示ならばいいのだろうか

 「(どちらにしろ、メグミが押されているのは事実)」

 この状況、どう動くべきか
 動かないのが定石ではあるものの、リサは少し迷っていた

 「(アウェイルも何か様子がおかしいし・・・)」
 
 いや、元からかもしれないが
 それでも、攻撃的過ぎる以上に禍々し過ぎるというべきか

 リサがこの戦いに横槍を入れてとめるのは至極簡単なことだ
 逆に言えばいつでもそれは可能であることから、メグミの底力を信じるべきか

 「黙ってみてよーよ。面倒臭いから」

 リサの心を読むかのような、間延びしたディックの声
 手を出すな、というのは当然だろうとリサは思う
 メグミ自らが申し出てやっていることだから、生死も自己責任だ
 
 関与することではない

 しかし、アウェイルの力押しには気迫以上の凄まじさがあった
 
 メグミの炎VSアウェイルの熱湯

 タイプ相性からみれば、メグミは圧倒的に不利
 しかし、それを補い埋め合ってなお余りある戦闘経験が彼女にはある
 白の試練においての半年以上の期間は、スピ−ド出世した者の場合を考えての措置
 幹部候補の下についての経験は殆どマイナスになることもない
 
 そして、幹部候補になり、今まで接触もなく遠かった存在である幹部・十二使徒を間近で見られるようになる
 幹部以上の、思い知らされる実力差
 誰もが思う

 『この組織は幹部以上の者しか必要としていない』

 白の試練を越えた自らの能力に誇りや自信を持っていたとしても、わずかに不信感を抱いてしまう者も少なくない
 事実、シナリオに必要とされている存在の力は比べようがない
 実際はそうでもないのだが、幹部の実力はそんな有無を言わせないほどのものだ
 幹部の座を懸けて戦う気をじわじわとでなく、一気に削ぎ落とす
 挑戦しないのは臆病だからではない、その不安などを払拭し・再び戦える状態までにしたいからと言う

 気持ちはわかる
 しかし、心のどこかで負けているのでは言い訳にしか過ぎない
 難儀なことだ、幹部達は笑いそんな幹部候補達の成長を見守る 
 ここで器の差が出てしまっているのも否めない

 だが、アウェイルは違った
 幹部であるメグミに臆することなく、がむしゃらに攻めにいった
 火を熱湯で消しにかかり、熱湯は火を食らって更にその温度を増した
 あまりの濃度に呼吸が止まる程の蒸気は、兵器に等しい

 しかし、これまでの戦いは、
 はっきりと言えば、
 能力者VS一般トレーナーを見てるものとなんら変わりなかった
 
 メグミは何もしていない
 

 「萌え、という言葉がどんなものかご存知かしら?」

 熱気にフゥフゥと息を吐きながら、メグミはアウェイルに訊いた
 しかし、その問いにアウェイルは答えない
 メグミは嘆き、首を横に振りながら落胆した

 「まぁ、萌えを言葉で説明するのは難しいかもしれないわ」

 「口をつぐめ。死人に口なし」

 ギャラドスが灼熱の蒸気を吐き出し、熱湯を勢いよく飛ばした
 遠巻きに見ているだけでも暑いというのに、目の前でバトルしている2人は暑くないのだろうか

 「―――萌え渡る草木もあらぬ春辺には」

 突然、メグミとギャラドスの攻撃の間に炎の壁が噴き出した
 唐突なそれに、その攻撃がすべて相殺された
 消し飛んだ炎は辺りに霧散し、ますます室温を上げていく

 「・・・それが能力か」

 「理解が早いのね」

 「女程度が使うものを、すぐに把握出来ないわけない」

 相変わらずなやり取り
 アウェイルはまた押し黙った

 「『萌魂(もえこん)』。それは腐女子の心」

 一度心についた萌えの火が治まらぬように
 メグミのポケモンが放った火は、水などで消えてからも再度・より勢いを増して燃え上がる
 たとえば地面なら・・・その焦げた跡を粉々に砕くまで、何でも何度でも再燃する
 
 「ふざけてる。死ね」

 アウェイルが更なる力で押し返さんと、ギャラドスに怨念めいた声を投げかける
 それに反応し、ギャラドスの身体が膨れ上がり、その眼も血走っている
 並大抵の精神力では、その異様な圧倒に耐え切れないだろう

 メグミはゆったりと構えている

 「死ね」

 「私さー」

 ゆっくりと、メグミは微笑みながら言った


 「新鮮で冷たいフジ山山頂の空気と浄化装置を一度は通った工業排水との絡みでも萌えられるんだよ☆」


 ・・・・・・は?

 と、その意味を理解する前に知ることが出来た
 

 アウェイルの周囲、空間が炎上した
 火種も何も無い
 
 一瞬でアウェイルの身体を炎が包み込んだ


 これが、メグミが幹部・十二使徒という実力
 目に見える火種がなくとも、炎は燃え上がる
 一度通った炎の道筋すべてが、彼女の支配下になるといってもいい

 アウェイルが、消えない炎に焼け落ちていく
 ギャラドスに指示し、熱湯を浴びても無駄だった
 くすぶり、また燃え上がるだけなのだ

 「ヵッ、ァガあアぁあアァぁ・・・ッ!!!!!!」
 
 全身をかきむしり、アウェイルがうめく
 瞳孔まで開いているようで、何かぶつぶつとつぶやいている
 
 「メグミ」

 リサが見かねて、そう一言声をかけた
 炎は酸素を、呼吸を奪う
 このままでは火傷より先に呼吸困難で死んでしまう

 上階級への挑発、罵倒、宣戦布告、交戦
 厳罰は受けるべきだが、ここで殺すことはない・・・・・・
 そこまでするような人間にはなりたくない、と考えたのだろう

 メグミのギャロップへの指示か「萎え〜」とぼそりと言ったのがそうなのか
 何をしても無駄だった、アウェイルについていた火が消えた
 彼の精神状態を作り出した虐待の痕を隠す衣服をすべて焼きつくし、自身は立ち尽くしている
 人間には相当ショックが強すぎたのか
 
 「・・・やりすぎたかな」

 さすがに何か思うところがあるらしく、メグミが首を少しだけ傾げた
 実力差がありすぎると困ったものだ、と周囲にいた幹部の誰かが陰口をたたいた
 誰1人として、メグミが負けるとは思っていなかったようだ

 「医療班でも呼ぶか?」

 「そのまま投獄しちまえよっ!!」
 
 「いえ、どちらもいりませんね」
 
 チトゥーラが微笑みながら言うのを、ある男が付け加えるように賛同した

 「まだ戦えるからな」

 その言葉に促されるように、アウェイルが立ち上がった
 それを察せなかった幹部達は、少しばかりの動揺を交えた驚愕の表情を見せた

 ・・・・・・沈黙の牙、タスカーが喋った!
 
 あの繭のような鎖のなかから、よく声が聞こえるものだとおかしな感心をしていた
 アウェイルへの関心はないわけではないが、身近な者からの驚きという感心の方が0.2ほど上回ったようだ

 「ァっヵフッ」

 げほげぼっと吐瀉しながら、アウェイルがゾンビのように立ち上がる
 たっぷりと新鮮な空気を吸い、思い切り吐き出す
 肺にむせて、咳き込む

 ギャラドスが吼える
 吼えて、吼えて、吼える
 その赤黒い身体を震わせ、怒気に満ちて膨れ上がっていく
 血が巡るごとに身体は赤黒いものから黒く、黒くなる
 真っ黒な身体・眼に関節の継ぎ目だけが元の鮮やかな赤にとどまる
 
 「赤い・・・・・・紋様?」

 変貌を目の当たりにするメグミは知ることもないが、それに似た変化があった
 ジンの黒いストライクだ

 何かが、確実に起こっている

 「うげッ」と小さくメグミが引き、後ずさる
 正直、これは不気味を通り越して生理的に受けつけず・嫌過ぎた
 
 『人』というものを感じないからだ
 本当に、彼は人なのだろうか

 人という個体として、何かが欠落している

 「オんナハ死ねバイひッ」

 アウェイルが半ば白目を剥いて、そう叫んだ
 頭どころかのどのネジとやらも吹っ飛んだ、金切り声に近かった

 部屋の天井に立ち込めた暗雲の様子もおかしい
 降ってくるのは熱湯や蒸気だけで済むのかさえ、怪しくなってきた

 早急に手を打たなければならない
 ここまで増長させてしまった落ち度を、失態を償う

 「ッ! ギャロップ!」

 メグミが戦闘体勢を取らせる

 「『特能技・GPENクラッシャー』!!!」
 
 いきなりの大技
 消えていた火種がギャロップのたてがみに呼応するかのように燃え上がり、ギャラドスとアウェイルを再び包む
 それでも怯むことなく、アウェイルとギャラドスは同時に突っ込んでくる
 すべてのネジがぶっ飛んだアウェイルはメグミに、身体中の筋肉が膨れ上がったギャラドスはギャロップに
 正面からぶつかっていく
 恐怖も痛みも、何も感じていないのだろうか
 
 メグミはついに恐怖を感じていた
 異質・欠落によるものへというの全力的な排除
 すべてにおいて否定しようとするそれは更にギャロップに力を貸すことになった

 
 ギャロップと激突まであと2m

 そこで、膨れ上がった『力』を御しきれなかったか・限界を超えたのか
 ギャラドスの身体中から赤い体液が噴き出し、地に落ちた
 ピクリとも動かなくなったものの、命という存在感だけがそこに大きく在って
 死にかけとはとても思えず、不気味としか言いようがない
 
 そんな相方、ギャラドスが落ちてもアウェイルは無謀にもメグミのところへとこぶしを振りかざして突っ込んでくる
 引っ込みがつかなくなった、というわけではあるまい
 ギャラドスが倒れようが、どうでも良かったのに違いない
 
 ギャロップと激突まであと1m

 メグミは躊躇した
 『特能技』をまともに食らえば、人間ならば死んでしまう
 しかし、もはやその速度にはとめようがなかった
 排除という心力を与えてしまい、勢いがつきすぎていたからだ
 離れていたところで見ていてもわかる
 ギャロップのまとう炎、その激突速度
 間違いなく死ねる

 それでも、アウェイルは止まらなかった
 

 ・・・・・・


 場所が変わって、そこはレッド達のいるナナシマ交本館前
 キリュウ・トウド博士との突然の別れに、しばし呆然としている
 好き勝手言って連れてきたら、向こうも好き勝手言って行ってしまった・・・

 「・・・えーっとぉ」

 『あれれ〜』

 レッドは少し眉をひそめ、ふーっと息を吐いた

 「行っちまったな」
 
 「いいの?」

 トウド博士は明らかに敵の攻撃を受けて、自らを囮にしていった
 先程の技を放ったトレーナーやポケモンがこの島に来ないことから、それを察せられる
  
 「まぁ、でも、俺達が今から追いかけられるモンでもないしな」

 「・・・・・でも、やっぱりあの性格は好きになれそうにないわ」

 きっぱりとブルーがそう言い放った
 
 「博士としては優秀かもしれないけど、もうちょっと何とかならないかしら」

 「そうだな」

 グリーンもそう賛同するが、あの性格が昔からなのはオーキド博士との思い出のなかで立証されている
 もはや、直せないだろう

 「せめて、船長さんにひとこと謝っていってほしかったんだけどな」

 ぽつりと言うレッドの言葉に、ゴールドは「えぇ」と意外そうな声を出した
 イエローの診断や論文の話だけでなく、失礼なことを言ったのを詫びてほしいからという心もあったらしい
 
 「確かにそうですね」

 「いンや、気にセンでもええや。お前さんらのそン気持ちだけで充分だぎゃな」
 
 ハハハハと笑う船長さんに、レッドが頭を下げた
 博士としては凄いけれど、人としてなら船長さんの方が上だろう
 
 「ま、でもイエローがもう大丈夫ってわかったのはありがたいわね」

 「はい。これから頑張りますよ〜!」

 イエローが意気込んで言うと、皆も微笑ましそうな顔をした
 これからの旅路でも回復要員という増強も嬉しいところだ

 「にしても、これからどうするんスか?」

 『もう少し調べ物してから、「5のしま」に向かおうよ』

 「ま、それが妥当なところだな」

 「5のしまには何があるんです?」

 イエローの問いに、う〜んとシショーが首を270度ほど回しながら悩んだ

 『何があったかな。高級リゾートとか、おもいでのとうとか・・・観光要素がやや強いぐらい?』

 「それなら、先に6のしまに行かない?」

 ブルーの提案に、とりあえず皆が首をかしげた
 昔懐かしい地図を取り出し、ブルーがバンッと広げて見せた

 「もー忘れた? アタシ達、サファイアを探す目的もあるじゃない。
 ほら、6のしまには『てんのあな』とかっていういかにも怪しげな遺跡っぽいところがあるのよ」

 「ほんとだ」

 顔を突き出し、身を乗り出して皆が地図を見る
 それに比べたら5のしまは空き地なんかがある、平凡な島だ
 後回しにしても問題無い、かもしれない

 「決まりね。次の目的地は6のしま!」

 ブルーがはしゃぐように言うが、皆はふと疑問に思う

 確かに5のしまには何もないが、高級リゾートというものがある
 6のしまは散策には楽しそうなところはあるが、娯楽に関してはほぼ何もない
 果たして、ブルーは何故、ここまで関心を持っているのだろうか・・・

 「イヤな予感はしないがな」

 「?」

 グリーンの一言はクリスがわずかに聞き取っただけで、他の誰も聞いていなかったようだ
 思い思い、好きな本を取ってきては読みふけるという時間を過ごしていく

 それは本当に、割と幸せな時間だった


 ・・・・・・


 アウェイルとギャロップの激突!


 グドッと鈍い音がした

 メグミの顔は引きつり、その目を見張っていた

 ギ・ジジシシジジ・・・


 「この死合いとアウェイルの身柄、この俺が預かる」

 アウェイルとギャロップの間に、ジークが割って入っていた
 それもポケモンなしで、片腕ずつで止めてみせている

 凄まじく非現実的で、信じがたい光景だった


 『GPENクラッシャー』
 ギャロップの呼応で空や地に炎を萌えさせ
 ポニータの頃の名残の脚力で上空へ飛び跳ね
 萌えた炎を乱雑にまとい
 落下の加速とまとったりそこらで萌え続けている炎の気流で勢いをつけ
 鉄をも踏み抜くひづめと額のツノを前に押し出し
 体重をまるごと預けたような身体ごと突撃する変則的な攻撃技 

 トレーナー能力そのものとはあまり関係・関連性が無い特能技だろう

 しかし、その破壊力は反動無しの炎版すてみタックル以上のものがある
 反動が無いのは硬いひづめと柔らかでしなやかな脚力で衝撃を緩和しているからだ
 生身で食らえば、ツノとひづめだけでも重傷を負う
 高い確率でひるみと火傷も与える

 
 体重95kgもあるギャロップによる・そんな突進技を、片腕でジークは止めた
 ふざけるな、と言いたいぐらいだが事実そのものだった


 「・・・片腕ではやはりキツいか」

 ジークがアウェイルを押さえていた方の腕を、ギャロップと止めている方の腕に添えた
 せめぎあっていた力が、完全に止まった
 そう、ジークの腕力がギャロップの突進力を上回ったのだ
 もはや、ギャロップが渾身の力で押しても引いても動かない

 メグミは自信喪失もいいところだ
 デタラメ過ぎる
 いくらなんでも、鍛えてますからじゃすまされない

 「ぁ」

 リサが小さく声を漏らした
 アウェイルを押さえていた腕を放したということは、アウェイルが動けるようになったということなのだ

 つまり、止まっていたアウェイルのこぶしがジークに振り落ちんとしていた

 
 グガドッ
 静かで、重すぎる鈍い音

 「や〜、すごいねぇ」とディックがあくびをしながら感心してみせた
 両腕でギャロップを押さえるという不安定な体勢で、見事に蹴りがアウェイルの人体急所に入っていた
 口から泡を吹き、アウェイルが崩れ落ちた
 失神している

 幹部達を熱湯の雨で人質に取っているようでありながら、実は何でもなかった・振ることはなかったというという部屋の天井の暗雲が晴れた
 アウェイルの気絶に合わせて、ギャラドスの方も完全に意識を失ったようだ
 バカでかい命の塊、その気配が一気に消えたように元の大きさに戻っていくのが能力者でなくとも感じ取れただろう
 ギャラドスのあの体色も、黒が、関節部位の赤が広がっていくことで・・・・・・元の赤い色違いに戻っていった

 メグミは慌ててギャロップにジークから離れるように指示する
 が、その前にジークが半ば放り投げるように押し出してしまった
 その人外の行動には開いた口がふさがらない

 「こいつは俺が預かる。異存は無いな」

 両腕が開いたジークがのびたアウェイルを乱暴につかみ、幹部達に掲げて見せた
 誰も口をはさまないことを確認し、ジークはメグミをにらんだ

 「お前も反論するなら、今しか機会は与えられんぞ」
  
 ・・・・・・メグミは上官の話などいっさい聞いていなかった
 既に自分の世界へ突入している
 その一部をのぞき見ると・・・

 『キャー、イヤー、もー、なんなのぉ〜v
 いきなり現れちゃってまぁ、そんなに必死になって助けるなんてぇvv
 絶対ナニかあるわぁ、この2人v もー確実よね^^
 女性にトラウマを持つ男とバリバリ堅物の軍人。
 ハッ、そうよ。そーよ、そうなのよッ!
 女性にトラウマを持つが故に苦しみ、男性を乱雑に求め、すがり、ピ―――していく・されていく男。
 そこに現れたのは誰よりも強く、誰にも厳しい孤高の軍人。
 組織のなかの上官と下士官ではあったものの、それは運命の出会いに他ならなかったのv
 トラウマや葛藤から自らがわからなくなり自棄になる男を戒めようと軍人は悩み、苦しみ、救い出そうとするのv
 救い出そうとする経緯は色々あるわよねー、やっぱり男は喧嘩から始まるべきよ!
 一度はこぶしで語り合い、そこですべてを・お互いを必要とすることを知りながらも、反発しあう2人vv
 すれ違いから決別、トラウマからの男の暴走を止めることに自信を失ってきた軍人。
 疲れ果てる軍人だが、男のために己を鍛えなおし、受け入れる覚悟を固めていく。
 そんななかで、男のトラウマによる心の侵食はどんどん酷くなっていくわ!
 そして、軍人の愛を知ったとたん、男と女の関係を思い出し、ついには身も心も本当に壊れてしまうのねッ。
 悲劇、まさに悲劇よ! 男と男の愛を受け入れられず、男女関係に反映させてしまう以上、トラウマを増長させるに過ぎないのよ・・・。
 軍人はそれでもそこに愛があればと思ってきたが、ある日突然見も心も壊れた男は組織に喧嘩を売った。
 それは心身壊れた男がどうしても壊せなかった心の底で想う軍人の影さえ捨てようとしてのものだけど、行動じゃわからない。
 だけど男が死に行く瞬間に、ついに心通って軍人は命の危機にある男を救い出そうと組織に逆らってまでも男との障害の前に立ちふさが―――――――』

 
 ・・・・・・これで一部である

 「誰でもいい。その薔薇色の妄想をやめさせろ」

 ジークの不機嫌な怒気が周囲を脅かすが、妄想乙女は気づかない

 「あ、そういうのが薔薇ってわかるんだ」

 そんな様子を笑って、ディックがジークのそばに近寄ってきた
 ・・・そこで『実は三角関係!!? それとも3人共有の愛なのッ!!!!?』という妄想設定が物凄い勢いで追加され、妄想話が加速し・拡がったのは言うまでもない
 

 「そんなことはどうでもいい。気づいたか」

 「うん。まぁ・・・割と早い時から」

 こそこそと内緒話をするように、読唇で長く会話をする
 その男同士の怪しげな雰囲気にメグミは身もだえ、ビクンビクンと全身を震わせている


 「・・・で、ジークは何されてたと思うわけ?」
 「十中八九、精神操作だ。それに合わせた肉体改造も、だろう」
 「やっぱり・・・面倒臭そうな話だね」
 「誰が送ってきたと思うか」
 「精神操作とかされたのはたぶん、ここ最近だね。入団前からってのは考えにくいかも」
 「別に不可能ではないがな」
 「そこは面倒臭いからいいよ。問題は何の為か」
 「察しのつけているやつが何を言う」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・シナリオが目的かな。やっぱり」
 「十中八九、そうだろう」
 「本来、シナリオには無い力を故意に与えることでどこまでシナリオに影響を及ぼすかを見るテスト、ってとこ?」
 「シナリオが絡むと勤勉になるじゃないか」
 「・・・やめてよ。長文は疲れる」
 「フン。今、お前の思うことを言ってみろ」
 「やつが選んだ幹部候補がシナリオに決められた幹部を破ることで、シナリオを改竄・主導権を握れるような形での介入しようとした。
 だけど・・・この程度じゃシナリオは破綻しないし変えられないし思うようにすることも出来ない。
 結果的にそうなった。幹部候補は予め決められた幹部に敗れた事実。
 でも、きっと向こうもきっとそれがわかってて、それでも送り込んでみた。まァ多分」
 「無意味な捨て駒か」
 「そういう面倒臭いことを楽しんでやるやつなんじゃない?」
 「この後に続くと思うか?」
 「向こうの手駒次第だろうけど、たぶん、しばらくはない」
 「勘か」
 「勘かな」
 「・・・まぁ、いい。とりあえず、俺は俺のやり方でこいつに探りを入れてみる。
 どうせ、後ろで糸を引いていたやつらに関しては何もおぼえていないだろうがな」
 「ご苦労様。用が終わったと思っても、まぁ死なせないようにね」
 「さほど自信は無い」
 「・・・・・・黒いギャラドス。正規の色違いでもないって辺り、ジンを思い出したよ」
 「別物だがな」
 「あれも、人造的に出来るものなの?」
 「不可能ではない」
 「そういう研究もしてる、ってことか。精神操作・人やポケモンの肉体改造の分野からして、まぁ複数犯かな。
 ・・・ん、まぁさすがにジークはそういうの詳しいよね」
 「いらんことを喋るな」
 「はーい。もう面倒臭いから言わないよ」
 「フン」

 
 このシナリオに関する、これだけの内緒話にかかった時間は1分程度だ
 他の幹部、その殆どの者の耳には入っていない・見ても聞き取れなかった


 同じ四大幹部であるリサさえも、その耳に入ることはなかった

 その差は誰よりも、その当事者であるリサが一番良く知っていた

 だから、2人の間に割って入ったり・口を挟むようなことはせず、ただじっとその場に座っているだけだった





 いや、さすがにメグミの暴走妄想特急は止めるべきだったろう・・・が





 To be continued・・・
 
 
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