〜更なる高みへ/050〜



 「この場を制するのは我らだ」


 ・・・・・・


 はじめは信じられなかった
 でも、次にはそう信じるほかなかった

 現実に逆らうことなかれ
 事実は唐突だ
 真実は残酷だ
 
 虚ではない実


 ・・・・・・


 「そろそろわても行きまひょか」

 浮遊する石の上に立つのは筆のような、空気のような男だった 


 ・・・・・・


 上空を旋回し、荒れ狂う雷の翼

 
 「あれが・・・サンダー・・・」

 「一度は手にしたという力か」

 黒い団服、大きく赤いRの字
 悪名高きロケット団
 
 「戦闘してるんはあれかね。能力者?」

 「けったくそわりぃ」

 忌々しそうに男がペッとたんを吐いた 
 能力者に対し、いい思い出がないのだろうか

 数はおよそ10人
 レッド達が会ったエリートトレーナーの姿はなかった
 ここにいるのは見たことのない顔ぶれのR団員だ
 しかし、伝説のポケモン捕獲を命じられるならばそれなりの腕を持つ部隊だろう
 以前のR団のサンダーはクチバジムジムリーダー・マチスが直接捕獲した程だ
 
 「先客は追い払わないとな」

 「ま、とりあえずいけるだろ」

 ガシャンと重い金属の音を出しつつ、R団の男がランチャーを構えた
 中身は『じばく』か『だいばくはつ』しかおぼえていないビリリダマだ
 無意識にされている放電をランチャー本体に吸収し、発射のエネルギーに換えるという・R団のマチスが持っていたものの改良版だった

 「能力者はポケモンとの絆とやらを大事にする」

 それが能力に大きく影響を及ぼすからだ
 一般トレーナーにもそれが言える
 深く深く、心と繋がっているパートナーほど強いのはその為だ
 常にないがしろにしていても、どこかで通じ合っている
 『やつあたり』を好んで使うものがいないのは、人間とポケモンのその関係性にある

 だから、『使い捨てる』というR団のこの戦法は能力者達には出来ない
 絆を捨て、
 情を捨て、
 ポケモンを個の道具・景品としてみる
 それは『研究者』に近いものがあった

 ついていけなくなった者は組織から去っていく
 残るのは非情の戦闘・意識集団

 だから、R団は恐れられた
 我々と相容れない思想を持つ悪の集団と・・・・・・

 「撃て」

 サンダーごと巻き込むように、ビリリダマを連続して撃ちだした


 ・・・・・・


 ずずんとくぐもった爆発音が響いた
 レッド達がなみのりで、その場所へと急ぐ
 いろは48諸島とは関係の無い島

 そこは戦場と化していた

 「・・・・・・敵集団が2つ?」

 「R団と能力者か」

 酷い光景だった
 サンダーを中心とし、至る所で戦闘が始められていた
 R団は正攻法(ポケモンバトル)では攻めず、何か武器のようなものを使って能力者ごと襲っている
 ポケモンバトルでの地力は能力者の方が上だが、かく乱されて混乱を招いている
 
 これが・・・・・・能力者の弾圧・追放時に見られるものなのかもしれない
 まさかR団と一般トレーナーが手を組むことは無いだろうが、少なくともR団は『対能力者』としてのスキルや対処を一番知っているのかもしれない
 それは首領であるサカキが関係しているのか、まではわからない
 
 「っ、ひどい」

 じばくし気絶していくポケモン、負傷し倒れていく人間
 両陣営共に、甚大な被害が出ている

 「とめなきゃ」

 サンダーをはじめとするポケモンだって、こんな争いは望んでいない
 むしろ、完全に巻き込まれている
 
 まず止めるべきなのはR団の方か
 出来れば、同時に止めたい

 「早く、何とかしないと」

 レッド達は手持ちのポケモンをすべて出した
 総力戦だ

 
 ・・・・・・

 
 「・・・・・・」


 ・・・・・・


 三つ巴の争い
 
 強い勢力はどれだ

 ・・・ ・・・

 一番最後に来た勢力か
 
 そのなかで一番の者は誰だ

 あれか

 あちらか

 ・・・ ・・・

 ・・・ ・・・
 
 申し分ない

 しかし

 ・・・ ・・・
 
 これで決まったか


 ・・・・・・


 「伝説の鳥ポケモン。サンダー」

 戦場をその放電に似た羽音で飛び回る
 三つ巴とはいえ、その目的は全員サンダーの捕獲
 攻防の隙を見てはサンダーを攻撃し、ボールを投げつける
 しかし、まだまだ体力が残っているのがまるでレーザーのようなかみなりで迎撃される
 その余波が戦場を手当たり次第に破壊していくので、たまったものではない

 「にゃあ、せっかく女の子がいるってーのに格好いいとこ見せられないじゃん!」

 マストラルの足元にいるのはカポエラーだった
 そういえば初登場時、頭だけで回転するダンスはこのポケモンそのものだ
 しかもこの状況で、肩でリズムを取って・調子に乗っているようだ
 
 「この戦いを早く決着つけないと」

 ここを任された幹部候補としての判断

 それはサンダーの捕獲
 捕獲後、即戦線離脱
 これがどの陣営においても最良だった
 捕獲後もいれば、誰かがそのボールを破壊し・横取りに来るだろう

 
 それにしても、これだけの攻防
 サンダーは何故逃げないのだろう
 自身に危機が迫っているのに、だ
 フリーザーに比べれば好戦的なポケモンであるのには違いないが、少々おかしい


 何かを、待っているのかもしれない
 それか、見極めているのかもしれない

 何を、誰を
 まさか
 己が主になる存在を?

 そして、サンダーが逃げないのは
 ここにいるその誰かがボールを投げるのを待っているか
 もしくは、これからその誰かが現れることを知っているのではないか

 前者ならまだボールを投げていないマストラルにも捕獲の余地と可能性はある
 しかし、後者なら時間が無い
 サンダーがその誰かを見つけたら、無抵抗でボールに入っていく恐れがある

 そうなる前に早急に、無理やりにでも捕まえておく必要がある
 サンダーの望むことなど、捕獲する時は・捕獲する側は考えないでいいのだから


 ・・・・・・


 「伝説のポケモンは人を選ぶ」

 独特なイントネーションで話す筆のような男は空に立った

 「今までのよーに、捕獲されれば誰でもいいわけやない」 


 この戦いの渦中で見出すのは真の主

 「前座ご苦労さんやて」
 

 ・・・・・・


 突然、空から何かが降ってきた
 壊すことも出来ず、避けるだけで精一杯だった

 「なんだっ」

 レッドが声をあげ、鼻先の・目の前に突き刺さる何かを見た
 太い、硬い、でかい

 それは波間に漂っていた石柱だった
 もし、こんなのが身体にかすりでもしたら押し潰されていたに違いない

 三つ巴での相手ある能力者やR団も驚いている
 これは・・・・・・この場にいる誰もが知らないものなのだ

 空を見上げよう、レッドはすぐにそう思った
 同時に上空から、再びこの石柱が落ちてくるのではないかと言う警戒もあった

 ・・・誰かいる
 今まで存在を感じなかった、存在感皆無の人間


 「お久し振りですなぁ」

 空飛ぶ石、いや・・・・・・あれは


 「『ノズパス』!!?」

 純粋な岩タイプで磁力を持つホウエン地方のポケモン
 そうか、あのポケモンがこの石柱を落としたのか
 しかし、こんな技は普通おぼえない
 ノズパスにも人を乗せて浮遊するほどの磁力や技も無い
 
 茶色の筆のような細い男・・・・・・あれは、能力者なのだ
 

 「何者!!!」

 組織の人間は知らないようだ
 能力者の1人が自分のポケモンをかばい、石柱に巻き込まれてうめいている
 イエローが思わず駆け寄ってしまうほどの大怪我をしている
 左足が石柱で半壊しているのだが、味方ではないイエローは彼のポケモンが威嚇して近づけないでいる

 「能力者が何用だ」

 R団も知らないのか
 レッドは唖然とするほかない

 隙も気配も何も無い、空気のように流れる存在
 『流離士・キョウユ』

 面識があるのはレッド達だけ、ちー島でほんの少し会話しただけ
 だが、状況的にまるでレッド達の救援だ

 それなら、石柱による無差別の攻撃はありえない
 ならば、文字通り『流れ者』の目的は何か

 「サンダー」

 茶筆な男が、この場の栄光を示す存在に声をかけた
 それは軽く「ねーちゃん、茶ぁしばきに行かへんか」というノリそのままだ

 「わてとこい」

 その発言に、場の空気が一変した
 理解出来る者は即座に理解した

 唐突に現れたこいつが、サンダーの・・・

 「させんっ」

 R団のビビリダマランチャーを放つ
 それのタイミングに合わせるかのように、サンダーが特大のかみなりを茶筆の男にぶつける

 爆音と放電音が響き渡り、鼓膜が割れそうだった
 レッド・グリーンはとっさに耳をふさいだが、ブルー達のひるみ・地に伏せったりはしなかった


 「気はすんだかいな。サンダー」

 茶筆の男は無傷だ
 レッドにもおぼえがある
 でんじはをうまく使い、攻撃を防ぐバリアーのように使ったのだ

 茶筆の男はモンスターボールを取り出した
 特殊ボールやハイパーボールではない
 

 「入りぃ。サンダー」 


 モンスターボールが口を開く
 サンダーは無抵抗のまま、赤い光に包まれていく

 捕獲を妨害しようと、能力者のユンゲラーが念波を送る
 しかし、それはサンダー自身の雷に阻まれた

 
 カシュンとボールが閉まり、捕獲完了を示すマーカーに赤い光がともった
 捕獲率が最も低いモンスターボールで、
 いわゆるボールの当てどころも関係なく、
 受け入れるように、いとも容易く捕獲した

 呆然とするほか無かった
 あっという間に、横取られた

 「ま、当然の結果やと思いますけどな」

 茶筆の男はにまりと笑った

 「伝説のポケモンは自らの主を選ぶ。そんで、それと認める為のトレーナーへの条件ゆうものが存在するんや」

 高笑いするように、茶筆の男は言った

 「ファイヤーは『勇気』と『闘志』 フリーザーは『寛厚』と『冷静』 サンダーは『力』と『精神力』」

 『サンダー』という時にボールのなかのサンダーを見せ付け、「サービスや」と続けた

 「スイクンは『愛』と『道徳:』 ライコウは『意志』と『正義』 エンテイは『知性』と『自己』
 ホウオウは『野望』と『才能』 ルギアは『信念』と『理性』
 セレビィは『心身』と『能力』
 ミュウツーは『人間性』と『戦略』 ミュウは『純粋』と『自由』
 今のところ判明・推測されとるのはこれだけや」

 伝説のポケモンが扱うトレーナーに求める資質
 今までに彼らを使役してきたトレーナーには確かにどちらかは持っていた
 単一な存在であるが故に己の性質を完全に見極め、それに合ったトレーナーの下で戦う
 120%以上の力を引き出してもらうには、それが最適に決まっている

 「サンダーはわてが貰います」

 茶筆の男の首の上に、一本足で立つウソッキーが姿を見せた
 いつの間にボールから出したのか

 「サンダーを逃がせ」

 長い御託に聞く耳を持たないR団がランチャーを構えた
 再び、石柱が地面に深々とを突き刺さった

 「あんさんら、弱すぎや。力も、精神力も」

 だから、サンダーはこの場にいる誰も選ばなかった
 いや、選ぶ価値アリと見たのはレッドやグリーン、マストラルぐらいだった
 それでも、一見へらへらした茶筆の男にはかなわなかったのか

 「今のサンダーを鍛え上げたのはわてや」

 波間に浮かんでいた石柱
 あれはサンダーを今よりも鍛え上げる為に、茶筆の男が何度も海上にて戦闘を挑んだ跡だという
 野性の本能と純粋な戦闘力を研ぎ澄ませる為、安易な回復による心の隙をサンダーに作らせない為に
 今まで、あえて捕獲してこなかったのだという

 「今日は仕上げや。色んなタイプのトレーナーに出会わせて、改めてわてを選ばせる」

 ここまで己を強くさせた力と精神力を持つ者に対しての、レッド達は当て馬にされた・・・・・・
 R団と共に放った特大のかみなりはサンダーなりの最終試練だったのだろう

 「もー退散させてもらうわ。わて、こないなとこにおる余裕ないねん」

 勝手に現れて、勝手にその場を去っていく茶筆の男
 場の空気を制していた空気のような男に、誰も手出しできなかった


 ・・・・・・


 サンダーがこの場からいなくなった
 虚ではない実

 組織の能力者は負傷者・・・・・・死んでるかもわからない者を抱え、撤収していく
 R団もレッド達をひとにらみしてから、その場からアリアドスの子を散らすように行ってしまった


 『・・・・・・伝説の、ポケモンが求める、トレーナーの資質・・・・・・か』


 辺りは焦土と血と肉片が散乱している
 そこにまるで芸術作品のように石柱が突き刺さっている

 ここまで酷い光景は、あの・・・・・・送り火山のファイヤーの時以上だ
 あそこでも、こんな争いがあったのだろうか


 「また・・・・・・だ」


 経済用語でのインフレと言う言葉さえ憎いほどだった
 どこまで強くなれば、こんな光景を見ずにすむのか
 戦いで傷つき、満身創痍の皆のポケモンをイエローが自らにも気を配りながら・順に回復させていく
 回復を受けているコモルーは、その時のイエローの顔をはっきりと見た・・・

 涙も出ず、ただ無力と悲壮感にレッド達は襲われた


 残る伝説のポケモンは・・・・・・あの茶筆の男が言ったポケモン
 それもカントー地方にいると推測されるポケモンは

 スイクンだけだ


 ・・・・・・


 気が重い
 マストラルはいつもならする、歩きながら・肩でステップやリズムをとる仕草をしなかった
 完全な、弁明の余地も無いほどの任務失敗
 それによる更に戦線から離脱、二度と戦えなくなった人間の報告をしに・いったん組織本部へ戻ることを許された

 報告の相手は朱雀のリサ
 ジークでなくて良かった、と少しだけ心弾んだ


 「幹部候補・マストラル入ります」

 呼び出された場所は本部のなかでも広い部類に入る空き部屋だった
 そこにリサともう1人、誰かいた

 「お、おみゃーは!!?」

 「どんも〜」

 マストラルはその目を、自身の神経を疑った
 今、目の前にいる男
 何人もの同胞を、能力者を・・・・・・手にかけた男だ

 「何故、ここにいるぅっ!!!」

 『流離士・キョウユ』だ
 激昂したマストラルは飛びかかるが、リサのバシャーモによって蹴り止められた
 軽く壁まで吹っ飛ばされ、うめくはめになる

 「やっぱあんさん弱いやないか」

 「にゃ、んでここに」

 マストラルが立ち上がり、ボールに手をかけた
 そこにリサの無言の圧力がかかり、負傷した彼の身体が震えた


 「彼は敵じゃない」

 「っ!!?」

 「流離士・キョウユは敵じゃない。
 あの人から唯一の『茶』色の腕輪を貰った、立派な組織の一員」

 衝撃の事実だ
 そもそも、色の腕輪に『茶』があること自体知らなかった
 マストラルは思わず自らの3色の腕輪を見てしまう

 「普段は組織から離れているから、彼の存在を知るのはごく一部の上の者だけ」

 組織上層部しか知らない存在
 空気どころか雲の上の人間だったわけだ
 それでもマストラルはキョウユがしでかしたことをすべて伝えた

 リサは顔をしかめ、パンとキョウユの頬をはたいた

 「やりすぎね」

 「怒られてもうた」

 へらへらっと笑うキョウユは懐からモンスターボールを取り出した

 「侘び代わり、じゃないですが」

 それはサンダーの入ったボール
 マストラルの任務、捕獲対象だった存在

 キョウユがマーカーを操作し、サンダーをボールから開放した


 「サンダーは私が貰う」

 リサはそれだけ言い、バシャーモのブレイズキックを部屋のなかを飛ぶ・解放されたサンダーにぶち当てた
 炎と技の余波が部屋を揺るがす

 「伝説のポケモンは人を選ぶ」

 ぽつりぽつりとキョウユは語った

 「一度わてに捕獲されたサンダーやけど、わて以上の存在がいれば話は別や」

 リサのバシャーモががんがんサンダーを圧倒し、見事な空中戦をしてみせている
 その迫力にマストラルは抗議も忘れて、呆然と見ていた

 「伝説のポケモンは素っ気無いなぁ。もう心変わりされてもうた」

 バシャーモの、リサの持つ特能技のひとつが炸裂した
 そこへリサがモンスターボールを投げつける
 
 抵抗無く、一発で捕まった


 「サンダーは私が貰う」

 リサの瞳に炎が宿っていた
 何を糧に、燃料にしているのかはわからない
 ただ、キョウユが人間らしく冷や汗を流し、「こわいこわい」と笑っている

 「誰も、文句無いはずよ」

 そう言って、リサはバシャーモをボールに戻し・キョウユを引き連れてこの部屋を出て行った
 ・・・・・・出て行く間際に、マストラルにリサ自身の決定で『伝説のポケモン捕獲任務からの解任』と『今回の件の責任は不問』にすると告げた




  
 To be continued・・・
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