〜更なる高みへ/051〜
「誰も、文句無いはずよ」
・・・・・・
気持ちのいい朝だ
清々しく、それが皮肉に思えるくらい
レッド達はザザァッと波の上を滑るように移動していく
サンダー騒動の後、レッド達はその場から離れたところに見つけた別の小さな島で1泊した
あの戦場跡地で、1晩を過ごす気になれなかったのだ
それは無理もないことだった
また戦いを力ずくで止められなかったとはいえ総力戦ということもあって、ポケモン共々へとへとだった
特にイエローはまた無茶して、眠る寸前まで回復させようとしていたから大変だ
以前は3体ほどで疲れを見せていたが、今では深刻なまでに体力が減っているポケモンを15体近く回復させられる
器が大きく成長したのと、トキワの恩恵の余波がまだ残っているのだろうか
それでもレッド達のパーティ(フルで7人×6体だが、1〜2割しか体力が減ってないのもいる)全員とはいかないので、あとは自然回復に期待する・と頑張りたいイエローを納得させた
そんなこともあって、心身をゆっくり休めたい
だから、そこから離れるという選択肢しかなかった
翌日はいい天気だった
いやになるほど、憂鬱と後悔などでなかなか寝つけなかったレッド達を励ましているとも・小莫迦にしてるとも取れた
波乗り日和だが、降り注ぐ太陽光やそれで銀色に輝く反射熱・光での日射病などには注意したいところだ
「伝説のポケモンがトレーナーに求めるもの、か」
サンダーを捕獲し損ね、意気消沈するレッド達
いや、それ以上の落ち込みといってもいいだろう
「ライコウもいつの間にか、誰かに捕まえられていた。
捕まえたトレーナーはライコウのめがねにかなった、ってことか」
『多分、そういうことなんだろうね』
エンテイもまたベストパートナーを見つけ出したのだろうか
残るはスイクンだけだが、未だその後姿でさえ出会えていない
「・・・・・・仮面の男が、どうしてホウオウに子供をさらわせたのかわかったわ」
ブルーは身体を震わせ、淡々と言った
「ホウオウは『才能』を求める伝説のポケモンだったから」
野望と才能
ホウオウを使役するトレーナーに求められるもの
それらを見抜くホウオウが、それなりにめがねにかなった子供を見つけさせ・さらわせた
仮面の男にはうってつけのポケモンだったろう
そして、伝説のポケモンは勇気や知恵などの綺麗事だけを欲しているわけでもない・ということも・・・
野望という字面からそれを悪ととらえることも難しく、結局は物事の善悪などその人の考え方次第
どんなトレーナーであれ、伝説のポケモンが自ら選んだ人材を覆すことはサンダー捕獲の様子や話から不可能だろう
「もしかして、スッゲーやばいんじゃないッスか?」
「もしかしなくても、スッゲーやばいだろうなぁ」
高い種族値を持つ伝説のポケモンはこの先、これからの組織との決戦では非常に重要な存在になるはずだ
なのに、まだ1体も手にしていない
『種族値なんて飾りです。偉い人にはそれがわからんのです』
「ごめん。元ネタがわからない」
『・・・・・・ま、まぁそういうことだよっ。種族値は急所や弱点技でひっくり返せるよ』
「そりゃそうだ」
戦略を練り、確実にそれを成功させれば勝てる
一撃さえ当ててしまえば、どんな種族値も努力値も関係が無くなることが殆どだ
例えば3対3では先頭2体犠牲にし、残りの1体に有利な状況・強化させて勝つという手段もある
肉を切らせて骨を絶つ、という最初っから犠牲を前提にする戦いはレッド達にはそう好ましく思えなかった
卑怯とは言わないし、それも立派な戦略・戦術とはわかるし、いずれ使わざるを得ない状況がくるとは思うのだが・・・・・・
それでも心が痛む
ポケモンバトルは勝てればいいというものではない
だが、勝てなければ止められないものもある
そうして皆悩む
いずれ、自身を納得させられる答えを出す為にも必要なことだった
「とりあえず次の島へ急ぎましょう」
「うぃーッス」
『6のしまの、「いせきのたに」にある「てんのあな」に行くなら直接行っちゃおうよ』
「島の外周を回り込むのか」
『そう。まぁ、ショートカット出来るところはした方が楽だよ』
それが一般トレーナーでは近づけないような岩や潮流があっても、レッド達なら可能だ
ただ目指すべきてんのあなは螺旋状の道のり、いせきのたにの中心にあるのでそんなショートカットというほどでもない
「いや、ポケモンセンターに寄ろう」
「えー?」
グリーンの提案に眉をひそめるのが2人
「各島の避難状況が気になる。それとサファイアについて、もう一度ニシキから話を聞くなり・報告をするのもいいだろう」
「そうですね」
「ポケモン転送システムの具合も・・・・・・聞いておきたいしな」
その意見に賛同するのが2人、3人と増えていく
最終的には誰も反対せず、そうすることに決まった
どうでもいい我を通すのが全体の和を乱し、影響を与えることを知っているのだ
それだけ、初めての旅を始めた時より大人びたということだろう
皆、まだ10歳かそこらの歳だった
今は大きな事件と出遭い、沢山の人や仲間と出会い、心身が成長したのだ
その昔を知っている子供が童心を忘れ、大人になっていく姿は少し寂しいものを感じる
「・・・・・・見えたぞ。6のしまだ」
レッドが指を示した方を見ると、わずかに島影が見える
薄ぼんやりとしていた輪郭が徐々にはっきりしだし、その全貌がわかってくる
ここにサファイアはあるのだろうか
・・・・・・
「・・・今かな」
動く
「本当にシナリオに必要とされているのか」
動く
「・・・あの人のためになるのかどうか」
きまぐれか
「確かめよう」
否か
「面倒臭いから、成り行き任せで」
動いた者は再び寝転んだ・・・
・・・・・・
『久しぶり、かな』
「そんなに時間経ってないだろ」
パソコン通信の先、ニシキの言葉にレッドが苦笑した
6のしまポケモンセンターはカントー本土からの避難民でそこそこにぎわっていた
船は出ない、波には乗れない、食料は分配ということもあって一般の人はなかなか動けない
その代わり、動けない故に居座り続け・基本的に全員が顔見知りとなる
だから、今・外から来たばかりで紛れ込もうかというレッド達はすぐにばれたし、珍しがられ質問責めにあった
なかでも驚いたのが「ガイクくん(さん)の仲間か」というものだ
聞けば各島に時々新鮮な食料をよく鍛えられたポケモンを通して送ってくれるというので、ちょっとしたヒーロー扱いだ
そういえば4のしまの、育て屋内部で色々と育てて・各島に送っていると言っていたような気がする
仲間であったのは事実だが、次に食料を運んでくるのがいつになるかはわからない・優先は頼めないと断り続けた
既にリーグチャンピオンや大事件解決の功労者などの記憶は薄れてきているらしく、ありがたいような寂しいような気持ちだった
『今6のしまに』
「そう。で、てんのあなに向かおうとしてるとこ」
「何か知ってることとかない?」
『6のしま、6のしま・・・・・・ちょっと待って』
慌しく、どたどたと本棚などの資料をあさること5分
ニシキが薄い小冊子を持って再びパソコンの前に座った
『レッド君達は点字っていうものを知ってるかな?』
「えーっと、見たことはあります。読めませんけど」
「同じく」
「ボクもそうです」
『うん。そういうものだよね』
ニシキがそう言うのをいち早く、ブルーが察した
「もしかして、てんのあなって『天の穴』じゃなくて『点の穴』ってこと?」
『そう・・・・・・言われているらしい。行ったことがないから、詳しくはわからない』
「うーん。微妙な情報だ」
『役に立てそうにないね』
「いや、無いよりマシだ。その手に持っている小冊子は?」
『点字の解読表だけど、通信がつながっても転送は出来ないからね・・・』
「書き写す。画面いっぱいに、押しつけてくれ」
グリーンがペンを手のなかでくるくる回してみせると、ニシキがわかったとその通りにした
ペンで点々と書きつらね、おぼえこんでいく
『古い遺跡だから、もしかしたら点字自体が読めなくなってる可能性もある。トラップに使われているかもしれない』
画面に押し付けたまま、ニシキがそう言った
「切り抜けるほかあるまい」
「そりゃそうッスね」
至極最もな意見だ
『とにかく気をつけて。無理はしないようにね』
「仲間と再会するためだ。多少は見逃してくれよ」
そう、レッド達がサファイアを追い求める理由
カントー本土が襲われ、大本の転送システムが敵組織の手の内に入ってしまう
そうなれば預けているポケモンが危うく、特に反乱分子であるレッド達のボックスは危険だ
マサキはそんな手出しが出来ないように、レッド達のボックスを独立したホウエン地方の転送システムに丸ごと一方的に送った
しかし、このままではレッド達も手持ちの入れ替えが出来ない
それをするように、出来るようにするためにホウエン地方とカントー地方を繋ぐための媒介としてルビーとサファイアが必要となる
赤いルビーは謎の男によってニシキの手に渡り、残るはナナシマ諸島のどこかにあるとされ青いサファイアだけだ
『無茶無謀無理は僕がさせないから』
「信用出来ないッスよ。シショー」
「うん。言えてる」
『う・・・』
くすくすと笑われ、シショーがバツの悪そうな顔を見せる
グリーンが点字を写し終え、ニシキに確認を取っておく
それも終わり元気そうな皆を見てニシキは安心したようで、やや一方的に通信の電源を切った
「点の穴、か」
「あんまり格好いい名前じゃなくなったわね」
「点穴といえばどっかの小説か何かに出てくる技名だとかで何かあったような」
「ナナシマ交本館で読んだやつじゃない?」
「かもなぁ」
ここで議論していても仕方ない
今日明日にはてんのあなには着き、サファイア捜索したい
レッド達はポケモンセンターで水を補給し、ポケモンを全回復させ、そこを出た
・・・・・・
てんのあなへ行く道中、いせきのたに
特に険しいものでもなく、天気もいいのでピクニック気分だ
「出てくるポケモンはあんまり変わり栄えしないわね」
「レベルも低いしな」
先陣・先頭をすたすた歩くグリーンを追いかけるように、ブルーが後についていく
強敵はみちづれを使ってくるソーナンスぐらいだが、レベル差があるので一撃で倒しやすい
ゴールドは特能技の練習相手だ、とかで飛び出しては積極的に戦っている
確かに実戦ではなかなか使う機会のない返し技の返し技、ソーナンスを倒した時に生まれた技であったし格好の相手だろう
「弱い敵ばっかりで退屈?」
「力を温存しておくぶんに、こしたことはない」
「それもそうね。あ、オニスズメ」
ブルーのプリンが軽くこづいただけで気絶してしまう程度、今のレッド達の相手にはならない
野生ポケモンの戦闘では、シロガネやまレベルの屈強なものでなければ・もはや太刀打ちは無理だろう
「楽勝楽勝♪」
鼻歌交じりでいるブルーを、彼女の服のえりをグリーンがつかむと、ぐいっと自らの方へ引き寄せて・その手を離す
「きゃっ」と驚いた・かわいらしい声を上げ、ブルーの顔が勢いあまってグリーンの胸にぶつかった
大胆な行動に出たようにも見えるが、そこは堅物らしいグリーンだ
ブルーがいたところを、何かが突き抜けた
後方にいたレッドとクリスがそれに攻撃を当てると、何かが見えてくる
怒りの表情を見せるオニドリル
こうそくいどうか何かで限界まで速度を上げ、『ドリルくちばし』をぶつけてきたのだ
「・・・・・・さっきのオニスズメと関係してるのかもしれん」
再び、こうそくいどうを維持し続けて突撃してくるオニドリル
1度すれば速度は2倍、2度すれば3倍、最高3回することで従来の4倍速にもなる脅威
最もそこまで積むことは野生でもバトルでも稀で、出来たとしてもポケモンにかかる負荷が大きすぎる
レベルが高ければ使う必要も無い、低いと身体が耐え切れないということから・せいぜい2回こうそくいどう出来れば上々だろう
この野生のオニドリルは1回分しか使えなかったようで、グリーンのような肉体を鍛え上げるトレーナーなら見極められるレベルだ
グリーンがハッサムに『みねうち』を指示し、退けさせる
それから見れば気絶したオニスズメの姿が見えない
先程の陽動攻撃の間に、他の仲間が救っていったのだろう
「気をつけろ」
「あ、ありがと」
ぶつけた鼻先を押さえ、ブルーがたどたどしく礼を言う
短くどすが利いた声を出したグリーンはまたさっさと歩いていき、気にも留めない
その光景を見ていた後ろの面々は・・・
「・・・・・・うわー、グリーン先輩。素っ気が無さ過ぎ。あれじゃブルーさんがかわいそーだろ」
「別にあの2人はそういう関係じゃないでしょ」
「確かに。ちょっと合わないだろ・・・」
「いやー、わかんないッスよ。ねー、シショー」
ゴールドが上を見あげると、シショーが目を細めて『さぁねー』と言っている
ちなみに、グリーンとブルーには・・・少なくともブルーにはしっかりとその会話が聞こえていた
腹立たしいような、どうでもいいような、妙に複雑な気持ちをその表情に見せている
そんな時のこと
「意外とか細くて、柔らかで、いい匂いふわんと香った女の子の身体に戸惑っていつも以上にぶっきらぼう」
グリーンの足が止まった
それから後ろをにらみつけるが、向こうからではないのか驚いている
「引き寄せられてちょっぴり期待。鼻先が赤いのはぶつかったせいかな、それともこっちもたくましい彼の匂いでもしたのかな」
ぴくりとブルーが反応を見せ、聞こえてきた何かに耳を傾けた
今、なんて言ったのか
「素直になれないツンデレハート。お似合いというか、似たもの同士・似たもの夫婦」
わずかにリズムに乗ってるとわかる、そんな口調と声の高さ
その声の主を探して、グリーンとブルーはきょろきょろと周りを見回す
後から様子を伺うようについてくるレッド達はその妙な行動に首をひねる
「さっさと行くのは危険を承知、後ろについてくる彼女を守るため」
『? どうしたの』
不審に思ったシショーが追いつき、レッド達も追いついた
それでも声は止まらず、特定の2人に語りかける
「彼の後を追いかけるのはどうしてだい。話し相手は1人じゃないでしょう」
「どこだ?」
「どこにいるの」
「何の話だ、これ?」
後から来たレッド達にはいまいちつかめない状況だ
この声の主が、グリーンとブルーを何か必死にさせている感じなのがわかるぐらいだ
耳元に直接話しかけるような声に翻弄され、ブルーの顔が心なしか赤い
グリーンも少し苛立っているように見えるが、よくわからない
「意識しないようにしてた。バランスが崩れるのがいやだった」
レッド達を置いてグリーンが前方へ駆け出し、ブルーが慌てたように何故かその後を追う
「こんなことが出来るのは限られている」
グリ−ンがリザードンを繰り出し、その呼吸を整えさせた
すぐ後ろにいたブルーを、再び・ぎくしゃくとした腕で引き寄せ、ばさりとリザードンの翼を伸ばして2人ごと包み込む
「ほころびをつくろうように。すべてはざれごとであった、と」
「『ブラストバーン』」
いきなりだった
激しい火炎がいせきのたにを包み、周囲をあっという間に焦土へ変えた
火を吐いたリザードンは2人を翼で包み込んだままぎりぎりのタイミングを見計らい、空へと跳ぶ
グリーンの腕につかまれたままのブルーも、それに巻き込まれてしまう
「むぐぅ」
強く、強くグリーンの腕がしまってくるのをブルーが押さえ込む
呼吸が苦しいのはそのせいだ
あんまりにもいきなりだったから、心臓が止まらない
いきなりの大技ではあったが、レッド達もうまく避けるか『まもる』でしのいでいるようだ
しかし、その技を繰り出した意図がわからない
とりあえず降ろしてくれるよう、ブルーは無言でグリーンの腕をたたいて訴えた
「・・・。すまん」
リザードンが降り立ち、翼から2人を開放する
ぱっと手を放し、グリーンは再び周囲を見回す
それでようやくブルーにも意図がつかめたが、どうもその態度が気になる
「ねぇ」
「いたぞ」
グリーンが指を示した方向で、ずずずずずずずと少しずつ姿を見せてきた
そのポケモンはカクレオン
周囲の景色と姿を同化させ、敵の目からくらませる身体能力を生まれながらに持つ
グリーンはこのポケモンをあぶりだすために、周囲を巻き込んだ火炎を必要とした
だが、その出てきたカクレオンはやけどどころか焦げ跡すら残っていない
「思い思いに焦がれる炎。頑固でうぶな2人を現すようだ」
何故、焦げ跡もつかない
それは火炎で包まれる前にポケモンを、いったんボールのなかに戻したから
野生なら走って逃げる隙も与えなかったカクレオンが無傷でいられるわけがない
声も幻聴や心の声ではない
本物のトレーナーが、離れたところから何らかの形でポケモンに声を届かせていたのだ
「べただけど、2人は本質的に近しいんだね。惹かれあってるくせに、それに反発するツンデレハート」
姿を現したトレーナーは灰色の服を着ていた
組織から来た刺客、と取って間違いない
「「誰が似たもの夫婦だッ!!!」」
同時に、声を荒げたブルーとグリーンがそのトレーナーに向かって叫んだ
どうやら、とりあえずまずこれだけ言いたくて仕方なかったようだ
「・・・照れないでよ」
組織からのトレーナーに対して、無表情であるグリーンが怖い
隣にいるブルーもそれにつられるかのように、真剣な表情そのものだ
「何を怒っているのか、さっぱりな僕はダブルバトル専門なんだ。2人まとめて相手するよ」
「だ、そうだ」
「オッケー」
グリーンとブルーがタッグを組んだ
組織の男はもう1体、カクレオンをボールから出した
「チンチロリン♪ 2人の恋路のような、ダブルバトルであるといいのだけれど」
・・・・・・
「何なんだ・・・この展開・・・」
「区切られてるぐらい、置いてかれてますね」
「よくわかんねーッス。解説プリーズ」
「状況が把握出来るまで、もう静観してましょう」
『女心とか男のプライドとか、なんか難しいよね・・・』
あきらめの境地に似た心で、レッド達はこれからバトルすると言うらしい3人を見守ることとなった
To be continued・・・
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