〜更なる高みへ/056〜




  「・・・今はレッドさん達の回復に集中しましょう」


 ・・・・・・


 戦士、仲間の休息の為に立ち上がらん
 そこに訪問者来たり


 「・・・・・・」

 イエローの身体がびくんと跳ねるように反応した
 ゴールドがその訪問者を真正面から見る 

 ばさりとマントを翻し、2人を見つめる訪問者が口を開いた

 「・・・お前らか」

 一目見てわかるのは『仮面の男』
 しかし、マスク・オブ・アイスではない
 その仮面の奥から吹き出る圧力や感じはそれとはまったくの別人だ 

 「おれの傷をうずかせるな」

 「は? なんの」

 ゴールドが言いかけた時、何かの衝撃をモロに腹に受けていた
 うめき声を上げ、軽く・・・遥か後方へ吹っ飛ばされる
 そのままガレキや檻型のMBに突っ込み、派手な音を立てて崩れ落ちた

 「ゴールドさんっ!」

 イエローが走り、駆け寄ろうとする
 仮面の男が素早い動きでその行動の前に立ちふさがる

 「・・・お前らではなく、お前か」

 「ぅ」

 仮面の男との身長差は災厄ほどではないが、イエローより充分高い
 接近され、上から仮面で見下されるのは相当クるものがあった  

 「・・・おーっと、それ以上近づくのは色んな人が許しませんよ〜?」

 がらがらっとガレキを押しどけ、ゴールドがおちゃらけながら立ち上がった
 仮面の男は顔を上げ、そちらの方をゆっくりと見る

 「ほぅ」

 確かにゴールドは何らかの攻撃を腹に受けた
 しかし、とっさにビリヤードのキューを攻撃と腹の間に差し込んで威力をそいだのだ
 その反射、判断力は確実に修行や実戦のなかで培われてきた現われだった

 「気にくわねーんだよ」

 根元からボッキリと折れたキューを仮面の男に向けて突き出し、にらみつけた

 「まずはその仮面、引っぺがしてやるよ」

 「それは挑戦か?」

 「ああ」

 ゴールドと仮面の男の間に緊迫とした空気がはしる
 イエローはそれに少し気おされ、一歩後ろに下がった

 それが合図となった


 仮面の男がまるでガンマンのような早撃ちのごとくスタイルでMBを放り投げる
 そのモーションは近くにいても、まったく見えなかった

 出てきたのはカイリュー

 ほぼ同時にゴールドは軽量のエイたろうを繰り出した
 その素早さでかく乱してやろうという作戦だったのだろうが、相手が悪すぎた

 カイリューがその尾っぽをぶぉんと振り回し、辺りの岩や地面をなぎ倒し・えぐった
 その破壊力を目の当たりにしながら、ゴールドはひるまない
 エイたろうは『まもる』でしのぎ、カイリューの尾っぽの上で遊んでいた

 「こざかしい」

 大きく尾を振り、カイリューが暴れる
 それにエイたろうは必死にしがみつき、みだれひっかきとまもるでカイリューを挑発している

 戦力差は明らかだ

 イエローは不安そうに見ていると、ふとゴールドが小さく指で指示しているのがわかった
 ちょいちょいと指差す方にレッド達がいた
 
 『時間稼いでいる内に、レッド先輩達をひとまず安全なところへ』

 その意図をつかみ、イエローが駆け出す
 ラッちゃんやルーすけ、ゴロすけなどの力のあるメンバーでそぉっと運ぶ

 イエローのその行動に仮面の男が気づいていないはずがないが、手出ししてこないならそれでいい
 ちらりとイエローは振り向き、ゴールドと仮面の男を・・・・・・いやそのポケモンであるカイリューを見た

 「(・・・・・・あのカイリュー、まさか・・・)」

 イエローの記憶によみがえってくるあの大戦
 散々苦しめられ、最後まで勝つことが出来なかったポケモン

 「まさか、そんな」

 仮面の男が動いた
 カイリューがエイたろうを地面にたたきつけると、仮面の男がその背に乗った
 ぶわっと大きく翼を羽ばたかせ、空を舞う

 「空中戦かっ」

 ゴールドは予備のキューを出して勇み、マンたろうを出す
 その大量のテッポウオで水流を発し、空を飛んだ

 
 イエローは確証がつかめないでいた

 今、空中でゴールドと戦っている仮面の男
 そして、その持ちポケモンであるカイリュー・・・・・・
 
 まさかとは思う
 しかし、頭からその考えが離れない

 
 ・・・


 「・・・・・・」

 「てめーが何者だかしんねーけどよ。とにかくぶっ飛ばしときゃ間違いないやつだってのはわかる」
 
 「短絡だな」

 ゴールドとの空中戦・攻撃をまるでお遊戯のようにひらりひらりと避けては、適当にカイリュー自身を突っ込ませる
 その巨体からの突進はそれだけで脅威で、突っ込んでくる時に乱れた風をつれてくるので触ってもいないのにバランスを崩しそうになる

 「だが、あながちその勘も捨てたものではないぞ」

 「なに?」

 「俺はお前らと敵対する組織、その幹部だからだ」

 マントを巻き込み、その腕をゴールドに突き出すように見せる
 そうやって見せつける手首に腕輪、それも輪は黒色、珠には辰と彫られていた

 「『The army of an ashes cross』が四大幹部、青のディック様直属部隊・青龍組まとめ役、『鉄仮面』ことシ・ショウ」

 「!」

 長ったらしい役職だな、とゴールドがははっと笑っているように言う
 要するに四大幹部をラスボスにするなら、大ボスランクの存在がやってきたということだ
 ゴールドはぎりと下唇を噛み、キッとにらみつける

 「ディック・・・お前らだけは許せねぇっ!」

 ドンと水流を増し、急加速してゴールドが直線的に突っ込む
 
 「うぉおおぉおぉおぉ・・・っ!」

 仮面の男はそれをただ見ていた
 マンたろうのその勢いは本物であり、ぶつかっても生半可に避けようとしてもカイリューの空中バランスが崩れる
 そこをゴールドは突いて攻撃し、カイリューの巨体ごと地面にたたきつけるつもりでいるのだ

 「お前を倒せば、俺は真実に近づけるのか?」

 「!?」

 のんきに構えている間に
 マンたろうとカイリューとの間が20cmとなり、もう避けることなど不可能だった


 ・・・


 下から見上げていたイエローは見た

 ぶつかっていくゴールドが、ぶつかる間際にカイリューが光を放った
 それははかいこうせんではなく、もっと輝かしい何かだ

 それをもろに受けて、ゴールドが空高いところから落下していく
 
 「ゴォルドさぁあんっ!!」

 ゴールドを襲った輝かしい何かの余波が、イエローのところへ降り注ぐ
 避けようとしたが、何故か動けなかった

 「(これは)」
 
 イエローは目をつむり、その余波を受け止めた
 

 ・・・


 「・・・・・・俺はどうしたというのだ」

 呆然と立つ男がいた
 全身に虚脱感も無く、気力も体力も充実している

 それなのに、何故かそう思う
 表情の作り方に異変を感じ、顔に触れてみるとざらりと妙な感触がした
 
 血だ
 乾ききって間もない血

 「俺が、怪我したのか」

 そして男は気づいた


 記憶が無い

 何故、この傷を負ったのか
 何故、ここにいるのか
 
 俺は 誰 なんだ


 「知りたければ戦うといい」

 男の頭のなかに響く声
 
 「あなたを知る存在と戦えば、きっと真実にたどり着く」

 よく通る声を出す人物がすぐ目の前にいた

 「その為の、戦う場所と役職を与えよう」

 差し出された腕

 「戦いに準じてこそ取り戻す道がある」

 その手のひらにあった仮面

 「仮初めの名も与えよう」 

 自然と伸びた俺の腕

 「『鉄仮面、シ・ショウ』」

 俺はその仮面を被り、傷と表情と意志を隠した


 「よろしくね」

 俺はこいつと共に戦う

 「あなたを知る者をあなたは知らないし、わからないなら、すべて倒せばいい」

 いつか真実にたどり着くまで

 「それだけの実力があるんだから」

 戦争だろうがなんだろうが構うものか


 「従え」

 それまではその身を捧げる絶対の忠誠を

 「仰せのままに」

 俺は従う

 「行くぞ」

 その俺に従うドラゴンがいた

 「俺はシ・ショウ」

 さぁ、記憶を失う前の絆を取り戻そう


 ・・・

 
 理解は一瞬だったが、長かった

 イエローは気づけた
 間違いない・・・


 ・・・


 「『トレーナー能力・竜の咆哮』」

 カイリューに乗る仮面の男がつぶやく

 「俺が従えるドラゴンはHPそのものを放出することで攻撃、ドラゴンの技の威力を高めることが出来る」

 生命エネルギーそのものの放射
 すなわち、生粋のドラゴンタイプの攻撃
 無効タイプがなく、その性質はりゅうのいかりに非常によく似ている
 つまり、相手のHPを放射したHP以上に減らすことが出来るのだ
 タイプ相性上による無効も、鋼タイプによる半減の影響も受けない・・・・・・

 だから、生命の意思を読み取ることの出来るイエローはその余波で、カイリューを通して彼の経緯を知ることが出来た

 「そしてもうひとつ」

 ポゥと明るく温かな光にカイリューが包まれる
 生命エネルギーの放射で消耗したカイリューが活力を取り戻していく

 「己の気力をポケモンに与え、HPを回復する癒しの力がある」

 相反する2つのトレーナー能力
 本来ならばありえない

 だが、イエローは知っている
 彼本来の記憶失うことで、結果的にもうひとつの・・・道を歩めることとなった
 1つの生命で価値観と魂の置き方の違う2つの人生を得た

 故に2つ持つことが出来た
 記憶を取り戻すまでの、それまでに必要な能力を彼は得た

 その代わり、彼はポケモンの意思を読み取ることは出来なくなったのだ・・・
 逆に記憶復元の手がかりとなる手持ちポケモンの意思を読み取れなくなったからこそ、代替として発現したのかもしれない


 「っくそ・・・!」

 ゴールドはまだ負けていなかった
 マンたろうを奮い立たせ、果敢に、再びドラゴン相手に空中戦を挑む

 しかし、テッポウオ達の水流の勢いがどんどんと弱まっている
 エンテイの炎の壁消火で水を使いすぎたのだ
 補給もままならない現在、ゴールドの不利は間違いようの無い事実だった

 本来、マンタインに人を乗せて飛ぶ力はない
 大量のテッポウオの放つ水流がそれを可能にしてきた
 しかし、蓄えておける水・必要な放出量などからその時間は短いものであった
 
 子供とはいえ人間を抱えて飛べなくなるのも時間の問題だ
 またゴールドの手持ちには、他に飛行ポケモンがいない
 マンたろうが限界を迎えれば、空高く飛ぶポケモンに攻撃を当てる手段が失くなる


 それでも、ゴールドは立ち向かう
 目の前にいる敵を倒すために、己のすべての力を出し切るのだ


 ・・・


 「届かない・・・」

 ピーすけの羽根ではあの空中戦、あのレベルの攻防に混じることが出来ない
 本来人を抱えて飛ぶような構造でもなく、カイリューが巻き起こす風や技に対して軽量すぎるのだ

 「くやしい・・・っ」
 
 カイリューが知らずか知ってか教えてくれた真実
 それに応えることが出来ない自分が悔しく、歯がゆかった

 涙が出そうだ
 こらえても、こらえきれない

 こんなところで泣いてなんになる
 泣いたところで状況は変わらないのに、またなのか

 回復能力だけじゃ届かない
 意思を読み取るだけじゃ伝わらない


 どうすれば、役に立てる?


 どうしたら、皆に心配をかけずにすむ?

 どうやったら、足手まといにならないのかな?

 
 あの時願ったように、もう一度叫ぼう
 誰に届くわけでもなくて、何に伝えたいわけでもない



 「ボクは・・・・・・力が欲しいーっ!!!」


 出来ることがある時、それを思うままにやりぬくためのもの
 伝えたいことがある時、それを確実に届けるためのもの
 
 頼るだけじゃなくて、悔しがるだけじゃなくて
 自分の意志を、自分で・・・最後まで貫き通したいだけなのに

 どうして、こんなに無力なんだろう


 ・・・ 


 マタ 泣イテル

 ドウシタライイ

 イマ持ッテルひめりんごアゲテモだめカナ

 泣キヤンデ

 ―――


 前ノゴ主人ガ言ッテタ・・・


 「これからお前は別のトレーナーにつくことになる」

 ソウナノ?

 イラナイコナノ?

 「・・・次のトレーナーはいい人だ。その想いに応えてやってくれ」

 応エル?

 ワカラナイヨ

 「自分の力を、もっと信じろ」

    ・・・託すポケモンの可能性に隠されたメッセージ・・・
 
 「縮こまるな。見上げるんだ」

    可能性は現実のものに

 「それだけの力がある、と」

 前ノゴ主人ハソウ言ッテ少シダケ微笑ンダ


 ―――


 ドウシタラ応エラレル?

 泣イテバカリイルンダ

 ひめりんごアゲルカラ、オ願イ、泣キヤンデ

 ・・・ゴ主人ハイマノとれーなーとしての強サヲ自覚シテルンダ

 ダカラ、ヨケイニツライ


 上ヲ見ル

 空高イトコロデ戦ッテル

 届カナインダネ


 ・・・・・・悔シイ

 同ジどらごんナノニ、ドウシテ翼ガナイノ
 同ジどらごんナノニ、ドウシテコンナニ不格好ナノ

 地ヲ這バカリデ飛ベヤシナイ
 亀ノヨウナ引キコモッタ体型デ早クモナイ

 飛ベレバ
 飛ビタイ

 
 悔シイナ、悔シイヨ

 アノ高ミヘ


 ・・・ア、ゴ主人、ヒトツ気ヅケタヨ

 涙ガ出テモ上ヲ見テヨウ

 ネ

 コボレナイヨ、涙


 ・・・


 空を渇望した
 翼を求めた

 ルーすけことコモルーは何よりも自らのトレーナーの為を思った
 間違うことなき絆

 その想いに応える為の答えは既に導かれていた

 たとえどれだけつらくても、たとえどれだけ苦しくても、たとえ涙が出ても
 上を見続け、そこを目指す
 願い、望み、努める

 可能性は現実に、力となって後からついてくる


 「・・・ルーすけ?」

 コモルーの身体が光り輝く
 その時もその前も見ているのは空の上
 
 そして、その身体は応えるべきトレーナーの身に寄せる

 その鈍重な殻を脱ぎ捨てて
 今、ドラゴンは翼を手に入れた

 「進化・・・」

 おめでとう
 コモルーはボーマンダに進化した

 ボーマンダが優しく、イエローに向かって吼える
 その意思を読み取らなくても伝わる

 ―――サァ、想イヲ届ケニ・届ケヨウ
 信頼ト合ワセテ、コノ大キナ翼ニ乗セテ―――!

 「うん、うん・・・っ」

 イエローからまた涙が溢れた
 ボーマンダがうろたえるが、イエローがぎゅっとその首を抱きしめる

 「・・・ありがとう。行こう。ルーすけ」

 照れながらボーマンダは手に入れたばかりの大きな力、翼を広げる
 ぐぉっと風を巻き起こし、鈍重だった身体が宙に浮かぶ


 「ワタルー!! うおおおおぉー!!!」


 ・・・


 「限界だな」

 仮面の男がゴールドを見下す
 もはや水流による推進力を失い、落ちていく寸前だ

 「翼を持たぬものがよくここまで戦い抜いた」

 「まだ終わってねー!」

 ゴールドが叫ぶ
 しかし、現実は無情だった

 「竜の咆哮」

 カイリューの身体から光が見え、そしてそれがゴールドめがけて
 ・・・

 「チュチュ、『シグナルス』!」

 パシュと小っぽけな電のようなものがカイリューとの間にはしる
 カイリューにダメージは無いが、技は不発に終わった
 特能技とはいえ技には変わりなく、指示を受け放つ為に必要な電気信号を奪われればそれも当然だといえる

 「!」

 「イエローさん!?」

 初めて見るそのポケモンにゴールドが目を真ん丸くする
 と、同時にマンたろうの空を飛ぶ力が無くなっての自由落下が始まった
 図鑑が認識を始めイエローの新しいポケモンがあのひきこもりと馬鹿にしたコモルーの進化・ボーマンダと知るのも、ゴールドが「げ」と声に出すのも遅すぎた

 「竜の咆哮」

 冷静かつ冷徹な追撃、いやイエローをも巻き込むその生命エネルギーの放射
 あれを受け止めるすべはなく、『まもる』か『みきる』しかない

 「ルーすけ、ドラゴンクロー!」

 イエローが突っ込んで、その技を相殺した
 ドラゴンタイプとドラゴンタイプの相性は、効果は抜群
 故に最高のダメージが期待され、上昇した威力同士のぶつかり合いは危険な衝突だったはずだ
 驚くべきはそれをこなしたボーマンダの一撃の威力、その破壊力だった
 
 「すげー・・・」

 自由落下しているゴールドは素直に感心し、驚いた
 イエローがそれをキッとにらみつけ、ルーすけに指示をする

 「ハイドロポンプ!」

 ひきこもりと馬鹿にした恨みか、その水流は馬鹿に出来ない威力を見せた
 味方への攻撃、容赦の無さにゴールドは自らの素行を悔やんだ
 自由落下するゴールド達に、あの竜の咆哮と同様に逃げ場は無い

 そして、直撃するハイドロポンプ

 
 「・・・・・・ん?」

 ハイドロポンプは直撃したが、水流に飲み込まれる様子はない
 それもそのはずだ
 イエローの目的は仕返しなどではなく、マンたろうの『特性・ちょすい』による回復と推進力となるテッポウオの水補給にあった

 「助かったぁ・・・」
 
 ゴールドは心底安堵した
 そしてハイドロポンプの威力が上がっていたのは、進化したことで種族値が上昇していたことに由来する
 破壊力が上がればダメージも上がるが、本来ダメージを受けるだけの回復効果がある時も恩恵を受けられる
 決して恨みではない・・・・・・はずだった(撃ち終わった後、フンとボーマンダの鼻息が荒かったのをゴールドは見たと後に証言する)

 「大丈夫ですか?」

 「うッス」

 マンたろうの復活でゴールドが再び浮上する
 イエローの乗るボーマンダの横に並んで飛ぶ

 「にしても、スゲーッスね。そのボーマンダとかいうの。マジで元ひきこもり?」

 「それはやめてくれます?」

 「あ、すいません。いや、でもマジすげーや。あの仮面の技を相殺しやがった」

 ゴールドがしきりに感心するが、イエローの表情は芳しくない
 首をかしげると、イエローが逆に訊いてきた

 「ルーすけの特性って知ってます?」

 「いや、図鑑見てみます」

 ゴールドが見ると「いかく」という特性を持つ
 相手の物理攻撃の力を下げるものらしい

 「ワタルのトレーナー能力、その特能技とはいえ技には変わりません。
 だから『タイプ』があって、それによって物理か特殊かの分類されます。
 ドラゴンタイプは物理攻撃の部類に入りますから、いかくの影響を受けたんですね」

 つまり、いかくの影響があっても相殺が限界
 進化したてのルーすけではまともな力押しを望むのは少し厳しいのかもしれない

 「・・・って、イエローさん。ワタルって言いました?」

 「はい」

 ・ ・ ・ と、あんぐりと口を開いたゴールドの目は信じられないという見開き方をした
 あの鉄仮面、もとい組織の幹部に何故四天王の将がいるのか

 「詳しい説明は後です。
 それとハイドロポンプのPPはさっきのでゼロになりました」

 「あー、承知しましたッス」

 マンたろう同様にエンテイの炎の壁消火でも使っていたのだ
 結果としては仕方ない
 
 四天王が組織の幹部なった経緯、それを知ったのはいつかも今は放っておこう
 どうせ敵なのだ

 「久々じゃないスか? こうして、カイリューと戦うの」

 「そうですね」

 名前はもう忘れてしまったけれど、『なんだかチャレンジャー』と戦って以来だ
 同じ種族・カイリューでもその実力はケタが違う
 
 「勝ちましょう。皆の為に、そして・・・ワタルの為にも」

 この戦いは間違っている
 少なくとも、誰の為にもならない
 ワタルにも、共に戦うカイリューにも

 「・・・真実にたどり着くまで、負けるわけにはいかない」

 不敗こそ忠誠の証
 そうしてこそ青龍組の長を務められる

 最強と自負する『竜』が行うべき『奉公』―――!

 
 「竜の、咆哮っ!」

 「ドラゴンクロー!」

 再び相殺
 いや、わずかにイエローの方が圧されている
 ゴールドのマンたろうの物理耐久では受けきれない
 だから、後ろに流せないのだ

 「負けないっ」

 ルーすけが根性で押し切り、竜の咆哮を突破する
 『裏』があった
 同じ竜の咆哮を2連撃、完全に陰になって見えなかった

 「・・・っ!」

 イエローは目をそらさない
 もはや避けることも守ることもかなわなくても

    ・・・まだ届かない・・・

 ズドドダァアォンとの衝撃音
 イエローを背に乗せたボーマンダが直撃を食らう
 見様見真似の空を飛ぶだったが、思うより体勢をとるのが難しい
 しがみついているのがやっと・・・・・・

 「うっ」

 衝撃で背にしがみつく手が緩んだ
 技の衝撃でボーマンダの姿勢が崩れていたこともあり、イエローの身体が落ちる

 
 「イエローさんっ」

 ぶつかった際に出来た余波で、その周囲が見えない
 仮面の男は動かない

 接近戦を強いられるドラゴンクローと放射される竜の咆哮ではトレーナーへの危険度が違うのだ
 勿論、ワタルならばどんな接触攻撃であろうとも体勢を崩したりすることはない
 イエローは今までピーすけに背中にくっついてもらうことで空を飛んでいたが、ルーすけの場合はその背に座っている
 ワタルのように立っているより安定感はあるかもしれないが、年季が違う
 ましてや非力なイエローがいつまでもMAXの力で背にしがみつき・ぶらさがっていていられるわけもなく、見た目より遥かに重労働なのだ


 余波が晴れ、ボーマンダが突撃してきた
 トレーナーが両腕で必死になってつかみ、ぶらさがり、落ちないように耐えている
 ただもう届かない、伝わらないのはイヤなのだ

 「くらいつけぇ!」

 その勢いにカイリューの動きが止まったように見えた
 ボーマンダが大きく口を開き、文字通りその鋼鉄のような肌を『かみつい』た
 初めてまともに届いた攻撃に、ギュアァアとカイリューが苦しそうにうめく
 直接『かみつく』という原始的で野蛮で簡素なこの攻撃にひるむ効果もあるのもうなずける
 
 「ふん」

 仮面の男がすぐにその傷を癒しにかかる
 トレーナー能力者としての年季の差でみるみる回復していくのがわかる

 
 「覚悟しろ」

 ゴールドが照準を合わせた
 
 狙っていた
 ぶつかっていく時も、がむしゃらに攻撃していた時も
 隙が出来るのを、狙っていた

 「回復しながらはその技は撃てねぇんだろ」

 例えるなら輸血しながら献血するようなものだ
 連続で放てたことには脅威だが、HP内に収めれば問題ないのだろう

 「まわれ右っ! 全砲一斉発射!」

 テッポウオがカイリューに照準を定め、とっておきの技を指示する

 「れいとうビーム!」

 キィィイィィインと氷タイプの攻撃がカイリューめがけて放たれる
 ドラゴン・飛行タイプには4倍ダメージの技であり、今イエロー達が打てる唯一の手立てである
 効果は抜群だが、ふぶきのような広範囲攻撃ではない直線的な攻撃であり、その軌道を見切られやすい
 一度放てば警戒されるので、隙が出来て避けられない状況になるまで温存していたのだ

 
 「小賢しいっ!!!」

 回復を終えたカイリューは渾身の力で、かみついていたボーマンダを振り払った
 ただ振り払うだけでなく、ゴールド達のいる方へ向け、ワタルは振り飛ばした
 れいとうビームの盾にするわけでなく、これから放つ迎撃に巻き込ませる為だ

 「だいもんじ!」


 あれだけ放ったれいとうビームが一瞬で飲み込まれる
 飲み込んで、大きくなっていくだいもんじ
 タイプ相性の壁、能力者の特典

 マンたろうにボーマンダ
 ポケモンには効果が薄くとも、生身のトレーナーにはひとたまりもない

 水タイプの技で迎撃する?
 マンたろうはハイドロポンプで体力・空を飛ぶ水を補給したとはいえ、PPには影響を及ぼさない
 イエローのルーすけも同様にPPが切れ、トレーナー能力ではPPを回復することは出来ない
 新たにポケモンを出そうにも足場の無い空中、それに迎撃体制が整うまでの数秒かかるので間に合わない

 絶体絶命の危機
 

 ルーすけが吼えた
 翼を、力を得たというのに・・・

    結局、役ニ立テナイ

    進化シテモ応エラレナカッタ?

 悔しそうに、ぎりと己の口をかんだ
 諦めたくない一心で、だいもんじを見据えた





 To be continued・・・ 
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