〜更なる高みへ/057〜
「だいもんじ!」
・・・・・・
もはや打つ手無し
悔しげに口をかみしめるゴールド達がいる
突然だった
・・・サァッとルーすけの身体がわずかに輝いた
イエローやゴールドの能力とは一切関係なかった
同時にイエローはルーすけの身体に触れることでその意思を読み取った
即ち、その身体に何が起こったのかを知ることが出来た
「ハイドロポンプ!」
ルーすけの口から強力な水流が放たれた
だいもんじと激突し、せめぎあいを起こす
能力者の特典同士がぶつかっているのか、水蒸気になって拡散することもなかった
圧し負けた方が、すべてのエネルギーを受けることになる
「いったい、どうして・・・」
確かにハイドロポンプのPPは切れていた
それでも、バトル中に回復する手段が無いわけでもない
ひめりんごアゲルカラ、オ願イ、泣キヤンデ
ひめりんごとはきのみのこと
そうルーすけが持っていたのはひめりんごではなく、それによく似たきのみ
ヒメリのみ
バトル中に切れたPPを回復するきのみだった
己の無力さに嘆き、噛み締めたことでそれが発動した
ハイドロポンプのPPをゼロから回復させた・・・!
最後の最後、最後の一手
これ以外に打つ手は無い
イエローはぎゅっとルーすけの背を押し、励まし、応援する
「届けぇえぇぇ!」
勝敗は見えた
・・・
イエローの負けだ
大量のれいとうビームを飲み込むことで威力を増しただいもんじ
タイプ相性差があるとはいえ、それを踏まえての技の威力対決になっては勝ち目がない
「(そうだ。タイプ相性じゃ負けてない・・・!)」
最後まで諦めない
それがどれだけ相手の技の威力を加算させるか、わからなくても諦めてはいけない
届け
伝われ
この戦いに決着を・・・・・・
異変に気づいたのはワタルだった
だいもんじ側のエネルギーに弱みが出来たように見える
覆らない能力者の特典
それなのに威力で劣っているハイドロポンプに押し負け始めた?
「ありえん」
ボーマンダもカイリューもタイプ不一致の攻撃をしている
その時点では互角
能力者特典でだいもんじが有利となり、タイプ相性を覆した
なのに、何故押し返される?
ゴールドは見た
イエロー、ルーすけのハイドロポンプ側のエネルギーが押している
何故か
一目見ればわかる
ハイドロポンプの水流の勢いが増した
明らかに増大している
これによく似た現象が起きたのをゴールドはおぼえている
「久々じゃないスか? こうして、カイリューと戦うの」
「そうですね」
名前はもう忘れてしまったけれど、『なんだかチャレンジャー』と戦って以来だ
そうだ
同じようにカイリューと戦った時だ
10まんボルトのPPを残り1までにした、イエローの攻撃
『災厄の片鱗・技を束ねる力』
それは対となる治癒の能力者だから通じ合う何か
通じ合うからこそ、少しだけ災厄の力を引き出せるのかもしれない・と
「(この土壇場で、また・・・!?)」
決して狙って出たものではないだろう
今日、災厄と出会ったことと何か関係があるのかもしれない
それでも、この時に出た
イエローの想いが
今この戦いに懸ける想いが
伝え
届けたい想いが
呼び起こした奇跡
・・・可能性は現実に、
力となって後からついてくる・・・
ゴールドは更に見た
わからない
わからないが、何故か、イエローの身体がうっすらと光っているのだ
それが何を意味するのか、何もわからなかった
わかるのは、圧倒的不利だった形勢が逆転したという事実だけだ
張り上げた声で、ゴールドが声援を送った
することがない、それだけが男としてトレーナーとして悔しい
だから、宙に浮く推進力である水流をイエローのハイドロポンプに更に支援した
もはやみずてっぽうレベルかもしれないが、ここでやれねば男が廃る
「やっちまえぇ、イエローさんっ!」
ズズズズッズァアァ・・・
「・・・・・・馬鹿な・・・」
束ねたハイドロポンプと特典恩恵を受けただいもんじの威力が並んだ
タイプ相性で勝る方が押し通す自明の理
れいとうビームからはじまった攻防のエネルギーすべてをのみこみ、ハイドロポンプはワタルとカイリューに直撃した
・・・
あれだけの攻撃を受けたカイリューは当然のごとく自由落下していく
この空の戦いに決着がついた
「やりましたね」
ワタルの後を追うようにイエロー、ゴールドが地面に降り立つ
ゴールドは半ば滑空のように、水流の力無く降りるように努めた
ふわふわと浮いていた足に、ようやく踏めた地面がたまらない
今にもへたって座ってしまいそうで、そうしたらもう動けなくなりそうだ
「いえ、まだです」
イエローはじっとワタルが落ちた付近を見ている
わからない、という顔をゴールドはしている
「だって、あのカイリューが潰れたんスよ?」
あれだけの攻撃を受け、自由落下した衝撃でHPがゼロにならないポケモンはいない
まもるをすることも不可能だったはずだ
「癒しの力じゃゼロになったHPを回復させることは確かに出来ません」
「でしょ」
落下した付近、砂煙があがっているところに人影が映る
まさかとは思うが、ワタルだろうか
「ワタルです」
あの忠誠に厚いカイリューなら、自分の身を捨ててでも主であるワタルを落下からまもる
培われてきた絆は並大抵ではなく、決してレッド達に劣るものではない
「それに、ワタルの手持ちはカイリューも含めて5体以上います」
「!」
あんな強力な手持ちが他にまだいるというのか
スオウ島の戦いでも、イエロー1人がその手持ちすべて倒したわけではない
何人もの協力、共闘があってはじめてワタルをあそこまで追い詰めることが出来た・・・
「ワタルの強さはドラゴンを使役することではなく、その強固な信頼で結ばれた強力な手持ちの層の厚さにあるんです」
「マジかよ・・・」
カイリュークラスの手持ちがあと4体以上いる事実は恐ろしい
だが、地上戦ならばまだ手持ちの数だけでは有利だ
・・・ただ数だけで有利不利が決まる程度なら、ワタルは四天王の将にはなれなかった
砂煙が晴れ、仮面の男が姿を見せた
いや、落下の衝撃で仮面が剥がれ落ちていた
そこにいたのは紛れも無いワタル本人
しかし、今までにない傷を顔に負っていた
そして、鉄仮面に合わせてか少し長かった髪をばっさりと切り落としている
短髪以外はイエローがカイリューから読み取った通りだった・・・
「なんスか、あの傷」
「ワタルは多分あの傷が原因で記憶を失ってます。
その記憶を取り戻す為に、組織に属しているみたいです」
ただワタルほどの男が記憶喪失で簡単になびくとは思えない
性格が変わっているわけでもなく、プライドもそのままに見える
何か他にされたのかもしれない
「・・・・・・認めよう。お前らが強敵である事実を」
ただ淡々とそう言うワタルには、背筋がぞくりとする何かを感じ取った
巨大な蛇、いや竜ににらまれた蛙のようだ
「すべてを出し尽くす」
ワタルが手持ちのボールに手をかける
ドラゴンタイプを持つポケモンの数は意外にも少なく、四天王事件の時はプテラ(翼竜)やギャラドス(凶竜)のようなポケモンを使っていた
しかし、今はホウエン地方という新しい世界が広がっている
格段にドラゴンタイプのポケモンも増えた
プテラなどでは不可能な『トレーナー能力・竜の咆哮』の影響を勿論受けるだろう
「勝てると思うな」
ワタルの言葉に虚飾も何も無い
ただ実力に裏付けられた真実を語っているだけ
それ故に恐ろしいのだ
「負けません」
「同じく」
イエローとゴールドも決して引かない
まだ目覚めぬレッド達を守り抜く為にも、ここで退がるわけにはいかないのだ
「・・・もしかしたら、お前らを倒せば本当に記憶が戻るかもしれんなっ」
冷静なワタルが高揚している
記憶と本来の絆を取り戻す為に、何かの衝動を解放し・それに駆られているのかもしれない
「行くぞっ!!!」
ワタルの気迫なのか、ビリビリビリビリと空と大地が震えるように、叫び声をあげているようだった
本物の竜が牙を剥いた
「見つけましたよ」
ビリッと気迫がいきなり途切れた
高揚も徐々に収まっていき、無表情になり、ワタルは声がした方を振り返る
鉄仮面をはずしてもなお仮面のような表情、これが今のワタルの表情・・・・・・名前の由来はここから来ていたのか
「何の用だ」
「上司を追ってきた部下に言う言葉でしょうか。
悪いとは思いつつ観戦してましたが、空中戦であのカイリューがやられるところも初めて見ました」
男の口ぶりから、組織のメンバーであり、今のワタルの部下であることがわかる
「・・・ん? あぁ、久しい顔がいる」
上司に対しての言葉遣いががらりと変わり、いきなり口悪くなったようだ
ゴールドはその男を見て、2つの意味で声をあげそうになった
初めて顔を合わせたイエローは声を失ってしまった・・・
「醜いだろ。俺の顔」
その男は笑って、自らの頬をなでた
間違いなくシルバーになりすましていた偽者だ
腕輪を見るとあの短期間で幹部候補にまでのぼりつめているようだ
その男・アンドはワタルのそばに歩み寄った
「手を貸しましょうか。2対2だ」
まずい
ワタル1人でさえ手に負えないかもしれないのに、ここで相手の人数が増えるのは勝率を確実に削る
しかし、その申し出をワタルがあっさり蹴飛ばした
「この戦場から消えろ。これは俺自身の戦いだ」
「じゃあ、伝言をおt」
アンドの胸ぐらをいきなりつかみ、えりくびを絞め、ワタルが無表情のまま迫った
「上からの指示か」
「ぐェ」
「この戦いを止めろと言うのか」
苦しそうにアンドがもがくと、服のなかからメタモンが出てきた
その身体の一部が変化し、ワタルの腕をしめつける
「・・・聞いてやろう」
思うままに、ワタルはアンドとメタモンを振り捨てる
どしゃっと地面にたたきつけられ、アンドはげほげほとむせている
幹部候補と幹部の、肉体でも階級でもここまで明白な力関係があるとは知らなかった
最もワタルが相手では格差を見せつけられても仕方ないのかもしれない
イエローとゴールドは痛ましそうにその成り行きを見ている
「丑こと使徒長・ドダイ様より、『鋭気を養え』とのことです」
ワタルの上がいる
・・・・・・遠巻きに聞いて、その事実に愕然とする
「そうか」
その伝言をワタルは一切無視し、再びイエローとゴールドと向き合った
アンドは醜い顔をゆがめながら、更に申し立てた
「これは部下からの進言です。
この戦いが上司であるあなたの鋭気を養うものか、もう一度検討願いたい」
ワタルが振り向き、アンドを無表情のままにらみつけた
「使徒長の真意を汲み取りください。それは四大幹部様の為でもあるのです」
アンドをにらみつけ、ワタルの動きが止まった
それからマントをひるがえし、落ちていた鉄化面を拾い上げた
かちゃんと金具をはめ、それを再びかぶる
「・・・行くぞ」
「仰せのままに」
ワタルがプテラを出し、アンドはメタモンをへんしんさせて同じようにそらをとぶ支度をする
「・・・っ、ワタル!」
イエローが呼びかけても、ワタルは振り返らなかった
結局、何も届かず伝わらなかったのか・・・
「近い内に、また会うだろう」
ワタルがプテラにその肩をつかませ、空を飛び上がる
「全力でこい」
そう短く言って、あっという間にワタルは空の彼方へと飛んでいった
追いかけることも出来ず、ただその軌跡をしばらく見続けていた
・・・
再び現れた訪問者も行ってしまった
これで残されたのは本当にイエローとゴールド、レッド達だけだ
「・・・結果的にアンドという人に助けられたのかもしれませんね」
「くっそ、何なんだ」
ゴールドがクサッているが、イエローは少しだけ気分が晴れたような顔をしている
「少しだけ、ワタルに届いたみたいですから」
これから、またぶつかる時がくる
その時までに、やれることをやろう
ルーすけやラッちゃん、他の皆と出来る限り
もう自分も誰も泣かないで済むように
「さ、レッドさん達の介抱しないと! お湯どうしましたっけ?」
「あ、あれから放置したまんま。・・・バトル終わった後もわかしてない」
「ゴ〜ルドさんっ!」
ようやく解けた緊迫した空気、緩んだ緊張感のなか2人は少しだけ微笑みあえた
To be continued・・・
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