〜更なる高みへ/058〜
「ゴ〜ルドさんっ!」
・・・・・・
「そうか。そんなことがあったのか」
「はい」
大変な騒ぎがあったというのに目覚められなかった事実はどうしようもない
それにしても災厄、記憶を失ったワタルなど驚かされることばかりだ
「にしても、気になるなぁ」
「何がですか?」
「色々と。でも、一番気になるのは災厄がやったことだよな」
そう、レッド達をどうやってエンテイの炎から助けたのか
どうすればあんな芸当が可能なのだろうか
すべてトレーナー能力で片付けてもいいのだろうか
「その答えに至るだけのヒントはいくらでもある」
グリーンがむくりと起き上がった
どうやら寝ながら長い話を聞いていたらしい
「災厄の持つポケモン。フリーザーだ」
それをどう扱えばいいのかが問題となる
イエロー達はレッドの介抱のなか、それなりに考えてみたがわからなかった
「一度、俺とレッドは戦ったことがあるだろう?」
「ああ」
レッドには割と縁のあるポケモンだ
それからR団幹部だったキョウの手持ちとして、随分と苦しめられた
ホウオウとルギアとのぶつかり合いではレッドをパートナーに選んだ
伝説のポケモンが選ぶ資質に合っていたからだろうか
「フリーザーは以前にも部屋ごと人間を凍らせるという荒技を、キョウのもとでやってのけたことがある」
シルフカンパニーでの決戦
「それを破ったのがグリーンのリザードン。建物の外から炎であぶって、部屋の温度を上げたんだ」
なんとも思い切りのいい無茶苦茶な作戦だ
コンクリートなどの熱伝導率をはじめとし、失敗する確率の方が高かった
「逆に言えばフリーザーの間接的な氷攻撃は炎を使えば対処出来るんだ」
「でも、それは後からですよね?」
今回はエンテイの炎が先だ
「ちょっと心当たりがある」
レッドが言うに前にフリーザーを捕獲しようとした時、ギャラちゃんが暴れる騒動を起こした
R団のベトベトンに襲われ苦しめられているところを、フリーザーがベトベトンだけを凍らせてそれを救ってくれた
その時レッドのポケモンには霜ひとつ付かなかったというのだ
「今思えば『こころのめ』と『ぜったいれいど』みたいな技だったのかもしれない。
でも、それと組み合わせれば、そういうことが出来た・・・」
エンテイの炎ではなく内部のレッド達のみへ照準を合わせ、冷気を放つ
出来るわけがない
冷気が炎の壁をすり抜けるなどありえない
「なんでエンテイの炎を凍らせなかったんスかね? そっちの方が早いと思うんスけど」
当事者だったゴールドが話に入ってきた
「うーん、相殺するにはエンテイの炎が強烈すぎたとか?」
使い手が能力者ならばその影響を受けるに違いない
しかし、フリーザーだってトレーナーがジムリーダーから能力者になっている
四大幹部の実力と災厄を比べるのは難しいが、極端に格下ということはないだろう
「タイプ相性の不利もあったろうが、炎を凍らせてしまっては俺達を助けられなかった、というのはありえないか?」
グリーンの考えはこうだ
フリーザーがエンテイの炎を相殺しようとすると、加減がきかず・その後レッド達まで凍ってしまう恐れがある
ワタルとイエローの戦いとは違い、エンテイはもうこの場にいなかった・・・
この場にいないポケモンは更なるエネルギーを追加することは出来ない上、既に水タイプの攻撃も受けて弱っていたかもしれない
四大幹部・エンテイの炎が、災厄・フリーザーの氷より下回ることは充分に考えられた
だが、先にレッド達を凍らせればエンテイの炎で生命力を回復させ・確実に助けることが出来る
「・・・そうくるか」
「実際、倉庫型に氷漬けされた俺達でエンテイの炎はあらかた消火出来たんだろう?
そこまで想定したから、災厄は困難な道を選んだ」
「なるほどねぇ。そうまでして先輩達を助けてくれようとしたわけッスか」
それが災厄の意思かどうかは、またわからない
それこそ運命がそうさせた・・・はロマンが過ぎるかもしれない
「フリーザーの冷気をどうやってなかまで届けるか、か」
「それが問題なんス」
まるで推理小説のようだ
しかし、それなら解く鍵すべてが知らぬ内に提示されていることだろう
「災厄はフリーザー以外に何か使っていなかったか?」
「あ、ハガネールが地中に埋まってました」
「ハガネール? ああ、そういやそんなこと言ってたな」
「あれはあれで凄そうなやつでしたよ。レベルも高そうで」
地中に埋まっていたハガネール
その上に立っていたというフリーザー
無関係とは思えない
「・・・・・・仮説でいいかな?」
レッドが何か思い当たったようだ
「フリーザーの冷気を、ハガネールに伝導させてたってことはないか?」
「伝導・・・!?」
熱伝導はよく聞くが、冷気を伝導させるのは滅多に聞かない
「でもハガネールは鋼タイプ。特防も割と低いから、意外と伝わると思うんだ」
「タイプ相性的にはあんまり・・・」
「まぁそうなんだけど」
うぅんと腕を組み、レッドが真剣な表情で考えをまとめている
その間にブルーやクリスも半ば寝ぼけているような顔をしつつ、起き上がってきた
どうやら全員無事であれたようだ
「ふーん」
事のあらましを大体説明し、レッドが改めて仮説を打ち立てる
「まずはハガネールが地面のなかで待機、その頭を倉庫の床に押しつけ、尾っぽをフリーザーの足元に出す。
その上でフリーザーは冷気を溜め込んで、二方向にそれを放つ。
一方はエンテイの炎の壁、もう一方はハガネールの身体に伝導させる」
「炎の壁にもぶつけるんスか?」
「多分だけどな。一時的に勢いを弱めるためだ。
イエローとゴールドが見た光はそれだと思う。
ハガネールだけの伝導なら翼に溜め込む必要はないし、2人に当てることなく後ろの炎の壁にぶつけるのはふたご島の時みたいに出来るからな」
「冷気の伝導ってピンとこないわよね」
「まぁ、それもあるし、冷えたハガネールの身体で放熱するのもあるかもしれない」
「あ、氷ポケモン特有の『とけないこおり』を作り出す冷たいオーラを伝導とか!」
「オーラっていうか、まぁ・・・それに近いのかしら」
「どっちみち、並大抵の技じゃない」
レッド達が見た白い霧は外と内から急激に気温が下降したから見られた
足元から感覚がなくなったのもおそらく地面からの冷気だろう
「それによって俺達は凍りつき、結果、助かった・・・わけか」
「突拍子も無いって言うか、ありえないわ」
それを可能にするのが災厄なのか
自然災害にも匹敵する脅威の力
「にしても『「結果的にすべてを助けられたのは、お前がこの場にいたからだ」』ってどういう意味でしょう?」
「ボクは・・・何もしてませんよ」
イエローはそう言うが、ゴールドと一緒に助け出そうと苦心してくれた
感謝の他ない
災厄の残した言葉にすべて意味があるなら、一考する必要がある
レッド達を助けることが結果ではないのか
「・・・・・・そういや檻に入ったポケモン達は大丈夫か?」
「なんとか。イエローさんもいますし」
MB内にいればHPや身体は環境変化の影響を受けない
問題なのは物理的な圧力などによるボールそのものの破壊だ
「じゃ、あのままエンテイの炎があったら焼け死んでましたね」
「アタシ達もだけど」
「・・・・・・それだ」
グリーンが静かに、結論付けた
レッド達はそれに注目する
・・・
「災厄は俺達以外助ける気がなかった。しかし、結果的にすべての命を助けることとなった」
『つまり、あの状況になってしまった原因』
キョウと災厄がやった部屋ごと凍らせる指示
その結果の違い、2人の氷像と箱型の氷
「炎が先か後か?」
「・・・大量の水蒸気!」
ブルーがピンときたようだ
その答えにああっ、という顔を皆がする
エンテイの炎の壁を突破しようとして放った水流
それらの殆どがはじかれ、周囲にたちこめる熱い水蒸気と化した
「白い霧の発生はそれも要因になっていたんだろう」
『本当はレッドや僕達だけを凍らせる冷気が、充満した水蒸気によって範囲が広がった・・・!』
「結果、倉庫型の氷となり、檻型MBやR団員達の命も救った」
ただし、R団員の方はおそらくディックにやられていた為、レッド達のようにはいかず重傷のままだ
それでも生き残り、イエローとゴールド達がとめたと言うが無様なプライドを優先させ、その姿はもう無い
檻型のMBはこの場に残され、今も回収には来ないことからR団員はこの島から撤収したものと思われた
「イエローがこの場にいたからそうなったのかはわからんが、とにかく助かったわけだ」
「ていうか、ボーマンダとか凄いですね」
クリスが褒めるとイエローはえへへと照れてみせる
これでイエローにもようやく空を飛ぶ要員が出来た
ナナシマ以外でも移動範囲、戦略に幅が出るだろう
「それより、皆さん身体の方は大丈夫ですか?」
「あ、うん。しびれもないし、平気だよ」
レッドが手をぷらぷらさせてそれを示す
シルフ決戦時の氷漬けでは平気だったようだから、氷漬けで危険なのはカンナのあの技なのだろう
エンテイの炎もまた好影響しているのかもしれない
「にしても、災厄のヤローはスケールが違うというか何というか」
「それだけじゃない」
ゴールドの言葉をグリーンがさえぎる
「ディックの攻撃は伝説のポケモンによるものとはいえ、こちらのポケモンを総動員させての水タイプ攻撃が通じないわけがないだろう」
水タイプの攻撃を与えれば消える、そう言ったのはディック本人だ
また伝説ポケモンに最も近いカイリューのだいもんじはボーマンダのハイドロポンプで消せた
ポケモンが放った攻撃が通じないわけがない
「それでも消せなかった要因は俺達のレベル不足以外にも、何かあると見るべきだ」
何か
その何かがディックのトレーナー能力である可能性が高い
「それと『鋭気を養え』という伝言」
ワタルの上司の言葉、ディック達の意思
こちらから、向こう側になった気で汲み取ってみる
推測する
新たな戦いが始まる・・・のではないか
ジョウト・カントー本土を襲撃・制圧した今、次に狙われるのはナナシマかホウエン地方
「最終決戦が近い」
これまで能力者としての修行も積んできた
能力者としての戦いに慣れてきたつもりだ
それでも、まだかなうには足らない敵がいる
「そして、それまでに四大幹部の能力を明らかにしていかなければならない。
何の対策も無しに勝てる相手ではないんだ」
しかし、実力者ほど応用が利いて根本の能力をつかみにくい
それでも、これまで戦って・知ってきた敵のものは知っている
多種多様すぎではあるが、何かしら解くヒントにはなるだろう
「俺達も戦いに備えなければならねぇ、ってことか」
「出来ることなら、協力者を増やしたいけど・・・」
『といっても、ガイクぐらいしかいないよね』
カントー本土からの難民に強いトレーナーがいればいいが、期待出来そうにない
それでも当たってみるしかない
「サファイアもあります。これホウエン地方にいったボク達のボックスとつながって、手持ちも自由に動かせます」
世界が繋がる
「ニシキさんに連絡しましょう」
「ガイクの方へ先にとろう。ここにいるポケモン達を引き取ってもらわなくちゃ」
クリスととめて、レッドが提案した
R団の調教・暴行などを受けられた形跡は無い
ボールから解放してやれば、問題なくいてだきのどうくつに・野生に帰れるだろう
「・・・そうだな」
グリーンはピポとポケギアのスイッチを入れた
焼けそうになったり凍ったりしたのに正常に動くとは、随分と丈夫な機械だと感心する
それを言うならレッド達も同じなのだが・・・気にしなくなった辺り精神的に強くなっているのかもしれない
・・・・・・
薄ぼんやりと明るく、天井が見えないほど高い部屋
そのなかにはいくつもの80cm四方の直方体がそびえ立ち並び、その上から気配を感じる
「・・・面倒臭がりが帰ってきた」
比較的低い、2mくらいの高さの直方体の上に座っているリサがそうからかった
傍らにはすっかりリサに従順、馴染んだサンダーがいる
「・・・・・・」
直方体の林の間をすり抜け歩くディックの後ろを、雄大な姿のエンテイがついていく
「手応えはあったか」
一番高い直方体の上に立っているのはジーク、スピアーのジークだった
ここに登るのは自力かポケモンの空を飛ぶなのだが、ジークの場合前者だろう
下まで声が届くのはジークの声自体がよく通るのものなのと、腹筋のおかげだ
「災厄が手助けに入ったみたいだ」
「そうか」
「あー、厄介なのが向こう側に回りそうね」
リサがため息をついた
災厄だけに厄介、なんて1人でくすくす笑っている
「まぁ、こっちに『破壊』がいるから問題ない。引き分けるぐらいいくでしょ」
「フン。人の手に任せず、こちらから手合わせ願いたいものだな」
ジークが大胆不敵に言うと、ディックが肩をすくめて勘弁してと困った
「・・・でも、手助けに入らなくても今のレッド達ならあれくらい突破出来そうなものだけど」
「うん。レッドなら出来たよ」
リサの言葉にディックが即答する
勿論、エンテイの炎・その壁だ
「ニョロボンの『大恩の報』ならね」
そして、レッドも薄々気づいてはいた
「でも、やらなかったんでしょ」
「確信が持てなかったのだろう」
ジークが戦況を分析し、相手の立場を理解する
「大恩の報の場合は水流ではなく、水エネルギーそのものによる攻撃になる」
こぶしにまとわせた水エネルギーの圧縮体を直接的にぶつけるのがニョロのスタイルだ
その強力な一点突破ならば、そこから波紋のようにエネルギーが広がり、ハイドロカノンなどをぶつけたエンテイの炎は消えていっただろう
続いての格闘の大恩の報でコンクリの壁を破壊する
レッド達はそこから脱出出来たはずだ
災厄の手持ちに水タイプのポケモンがいない為、あのような強硬的な手段に出るしかなかった
今わかっているのはアブソル、ハガネール、フリーザーだが、未確認ながらオドシシを持っているとされているので4体だ
「レッドは水エネルギーで現存する炎を消せるか自信が持てなかった。皆の命がかかっていたから、あと半歩の思い切りが出来なかった。
戦場ではその甘さ、判断力の低さが命を奪う」
「それでも運命か何かが彼らを活かした」
「シナリオの通り、近いんだ。決戦がさ」
ディックは断言した
「面倒臭いから、彼らの方からここに来てもらおうか」
実はそれがシナリオにもあること
最終決戦はここで始まる
謎、多くは語られぬベールに包まれた組織の現アジトへ
それでも、ここの位置を示すヒントは出ているのだ
「気づけるかしら」
「見極める眼力は戦場で重要。
だが、あの生ぬるい連中に備わっているものか」
「シナリオは狂わない」
ふっと息を吐いて、ディックがつぶやいた
「ようやく中盤迎えたとこだし、もう少し付き合ってもらうよ」
「まだ先があるのね」
リサの言葉にディックが軽くあごを動かし、うなずく
ディックが直方体の柱に足をかけ、ダダダダンッと間隔の狭い複数本を駆使して跳んだ
そうやって手を使わず登った高さは5m前後あり、エンテイもそれに続いた
「時がきたら、シナリオの通りに相手になろう。
『トレーナー能力・鬼八』、青のディック」
「『色即是空』、赤のリサ」
「白の『ジーク』」
3人が立っている以外の立方体が音を立てて崩れていく
明らかに、何かの攻撃を加えられた証拠だ
傍らにいるのがそれぞれ手持ちにいるなかで、最も高い種族値を持つポケモンだ
ディックはエンテイ
リサはサンダー
ジークはスピアー
種族値で決まらないのがポケモンであり、能力の恩恵を一番受けたパートナーであればそれを軽く越えることもある
「・・・その上に立つ『重合』、黒の玄武も待ってるよ」
砕けたガレキを下に見て、ディックがにっこりと笑った
「この実力を持ってすべて受け止めよう」
この決戦だけは始まりと終わり
それだけしかシナリオには書かれていない
個人の勝敗は誰も知らない
To be continued・・・
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