〜更なる高みへ/059〜




 「この実力を持ってすべて受け止めよう」


 ・・・・・・


 「久しぶり・・・ね?」

 『あんまりそうでもないような』

 連絡がついて、5のしまにカンナが到着した

 ガイクのポケギアにいきなり彼女が出てきた時は驚いたが、何か特別手がかかる用事があるらしくカンナが一時預かっているらしい。
 電話に出るひまもないという用事とはどんなものか聞いてみたが、答えられないとすっぱり言われてしまった
 何か隠しているようだが、ここまで堂々と・はっきりされると追求しづらいものがある
 ゴールドが色々と突っ込んで聞いたが、まるで駄目だった
 
 4のしまの人間なら誰が行ってもいい、ガイクにはあとで伝えればいい、ガイクが何をしているか知ることが本当に今するべきことなのか
 そうして並びたてられると折れざるを得ない
 カンナがやってきたのはそういうことだった

 「ひどい」

 檻型MBに入れられたポケモンを見て、そうつぶやいた
 氷の女王と言われているカンナだが、こうして同郷や同じ境遇のものを見るととたんに印象が変わる
 ポケモン好きに悪いトレーナーはいない
 それも根本的なところからならば、そう言える
 

 「ありがとう。救ってくれて」

 「いや、そんな」

 見つけられたのは偶然だ
 それもまだ4のしまと目と鼻の先にいるなんて、思わなかった

 「すぐに搬送するわ」

 「手段は?」

 「私のジュゴンで作る氷のレーンがある」

 それは陸上で使えば脅威だが、海上でも効果があるらしい
 潮流が激しいこの辺りの海域でも有効に使えるようだ

 「ところで、貴方達に聞きたいことがあるんだけれど」

 「なに?」

 ワタルと会ったこと、そのすべての事情を説明した
 フリーザーと災厄の仮説について氷の専門家に聞いてみるべき、とも思ったからだ
 回答は「充分考えられる手立てであり、ありえること」
 同じ氷系のトレーナー能力ならもしかしたら再現出来るかもしれないが、伝説のポケモンがあっての芸当のような気もする
 そもそも伝説のポケモン同士の激突だったわけだから、トレーナー能力ではカバーしきれない面もあるらしい

 「ワタルの顔の傷だけど、何か映像媒体の記録に残してある?」
 
 「いえ、そういう余裕はありませんでした」

 イエローのその回答にカンナの表情が曇った

 「傷には色々な情報が詰め込まれているわ。
怪我をした時期、治療手段、攻撃手段など、何かしらの手がかりになると思ったのだけれど」

確かにそこから知れる情報は大きい
ワタルがやられたとあれば、相当なチカラの持ち主になる

「ん、いや、あの傷はどっかで見たことありますよ」

そう言ったのはゴールドだった
何か心当たりがある、そんな口ぶりだ

「・・・・・・リングマの引っかき傷に似てた気がするッス」

「リングマ?」

そのポケモンを使うトレーナーとして一番最初に思い浮かぶのはシルバーだ
ゴールドはそのリングマと戦ったことがあり、残した爪痕もはっきりと覚えていた
そしてシルバーはワタルの傍で修行をつけてもらったこともある
あのワタルに傷を負わせるとすれば不意打ちが妥当かもしれない
そうすると一番しやすいのは・・・・・・シルバーだ

もちろん、本人に聞いたことがないからわからない
旅していた間でもそんな素振りや言動はもらさなかった
ワタルに真っ向勝負を挑み、勝てるトレーナーが思い浮かばないからシルバーが浮かんだだけだ
本気で疑っているわけではない

「そう。わかったわ」

どちらにしろ、野生のリングマに不覚を取るなどありえない
何かをかばうような行動の代償にしても、顔面にモロに傷を負うというのは相当悪い状況だったといえる
それにあの傷には躊躇いも戸惑いもない、本気の一撃によるものだ

他人を傷つけることを厭わない―――

そういう敵が一番やりやすく、やりにくい
 何も考えていないか・信念を曲げないのかなど極端なものが多いからだ
 心と考え方、そのあり方の相性によってはどんな実力者でも負ける

 
 「・・・・・・カンナ、ガイクに聞いてみてくれないか?」

 「何をかしら」

 「四大幹部のトレーナー能力について」

 そう言われ、カンナが沈黙した
 何か知っているのだろうか
 固唾を呑んで、その挙動の行方を追う

 「・・・・・・ガイクはコンテストを中心に活動していたトレーナーだから、バトル向きではない技を覚えさていた頃のことよね」

 コンテストのコンボとバトルのコンボは若干異なることがある
 バトルでは強い技がコンテストには不向きということはよくあることだし、かっこよさなど出たいものに合わないことは非常に多い

 「詳しい話は聞いたことないけど、あの頃のガイクはバトルに関して言えば一般トレーナーとさほど変わらなかったはずよ。
 どれだけ凄い修行をしていても、バトルに不向きな技を覚えさせていたのなら意味がないわ」

 「そりゃそうだ」

 「でも、一般のバトルは力押しで勝てるぐらいの実力はあった。
 ポケモンのレベルもあの年齢のトレーナーのなかでは高かった方のはず」

 カンナはレッド達を見た
 何かとダブらせているように、ほんの少し後ろの方を見ている気もする

 「・・・・・・ガイクは一度もディックやリサには勝てなかった。
 技が万全であっても勝てなかったという相手、それがあの2人。
 実力に差がありすぎたのか、何も出来ずに終わったそうよ。
 1ターンで勝負を決められたり、相手のHPが全然減らなかったとかでね」

 1ターンで勝負を決める技で考えられるのは一撃必殺、運任せのハサミギロチンなどだ
 HPが減らないというのは防御主体の能力値か防御・回復技を組み合わせれば、どれも一般トレーナーでも可能なことだ

 「どんな風にやられたとか、詳細を知りたいなら折を見てポケギアにかけるのがいいわ。私にことづてるのではなくて。
 でも、やられた本人が一番そういうことを分析して、とうに解明しているものだけれど」

 レッド達に教えない理由は主に3つ
 ひとつは本当に解明出来ていない、解明するには過去のバトルだけでは情報が少ない
 ふたつめはレッド達に教える気がない、組織とまだ繋がっている場合は不利益になる
 みっつめは・・・・・・レッド達に教える気がわかない、能力を知ってあらがえない現実と絶望を同時に教えないため
 
 出来れば、ひとつめであってほしい
 ふたつめは考えたくないし、みっつめはレッド達のことをまだ信用していないと取れる
 もちろん、ポケギアにかけるしかない

 
 「じゃあ、これで失礼するわ。また会いましょう」

 「気をつけて」

 話している間にジュゴンが海上に氷のレーンを作り上げていた
 レーンというよりむしろ2車線道路だ

 「よくもこれだけ大規模なものを作れるな」

 「この辺りは比較的海流が穏やかなのと、浮かせているのよ」

 橋のように海底まで補強などをつくることは出来ない
 だから、長い氷の板を海に浮かべる
 海面下でジュゴンが次々に道・足場を作り補強し、渡ったところは用済みで沈ませていく
 最初から最後まで、島と島を結ぶ必要はないのだ
 
 「これでもだいぶ無理して作っているのよ」

 海の下からジュゴン、氷の上からはルージュラ慎重に補強していく
 檻型のMBは十数個もある
 それらを一気に運ぶのだから大変だ
 レッド達もそらをとぶやなみのりで手伝おうかと言ったのだが、断られてしまった
 なんでも、これもこれからの戦いのための修行というらしい

 「氷で船つくればいいじゃない」

 「出来ればやっているわ。浮かべばいい笹船とはわけが違う。
 船の構造、造形などを知らなければ完全に再現することは出来ない。
 形だけつくっても、氷の重みや重心バランス、(穏やかとはいえ波乗りもままならない)潮流のせいですぐ沈んでしまうでしょう」

 ブルーの問いをカンナはあっさりとはねのけた

 檻型のMBは意外と重い
 構造的なものか、試作品とやらで軽量化されてないのか
 これを載せていくというならば、それなりのものでなければならない・・・

 無理すれば出来ることを、無理しなくても出来るくらいにならないといけない
 確実なレベルアップをはかっていくのだ


 「そうだ。カンナ、これを届けてくれないか」

 そう言ってレッドが投げ渡したのは青く輝くサファイア
 初めて見るものにカンナが少し戸惑っている

 「それを1のしまにいるニシキって人に渡してほしいんだ」

 「パソコンで転送はしないの?」

 『転送中に横取られたら大変だもの。手渡しが確実だよ』

 「私を信用するってことね」

 敵だったカンナはにやりと笑う

 「四天王に・・・おつかいさせるなんて」

 見ているとぐんと引き込まれそうな青色の鉱物
 そして何か底知れぬ力を感じるのは・・・・・・気のせいだろうか

 「それで俺達は仲間を取り戻して、強くなれる」

 「一刻も早く、新たな戦いの為に備えたいの」

 「利害一致だ」

 互いの目的の為だ
 心の底から信用していなくても、これからの不利益を招くことをするわけがない
 カンナが「間違いなく届けるわ」と了承の意思を示した

 「・・・貴方達の言う通り、新たな戦いは近づいている」

 カンナがくいと眼鏡をずり上げた


 「今度会う時は、決戦の地で」

 「ああ」


 ・・・・・・


 「さて、どうしたもんかね」

 バサリと大きな大きな翼を携えて、黄土色の瞳が海を見下ろした

 「アイツはどこだ?」

 このナナシマ海域にいるのは間違いない
 問題は広大な海に対してあまりにも人間というものが小さすぎることだ
 ぎらっとまぶしい海面の照り返し、波が立てばわずかな手がかりもその位置をくらませる

 「ま、俺だし、見つけられるだろ」

 根拠のない自信だが、その男には確信があった
 自分に成し遂げられないことはない、それだけの実力がある

 「いざとなったら、帝王の翼、牙、拳もいる」

 それ以外はすべて自らでまかなえる
 すべてこれまでの経験と旅路に裏付けられている事実だ

 その男はニカッと笑った


 「さァーて、アイツめ。どんなツラしてんのか、早く拝ませろ」

 ・・・初対面らしい


 ・・・・・・


 「経過はどぉ?」

 「どうなんだか」

 書類が無造作に散らばっている床に、ディックは寝そべってあくびをしている
 その後ろに控えているタツミはもはや諦めたのか、無表情のままだ

 「何の上で寝てんのさ」

 「書類」

 「見りゃわかるわよ、んなこと」

 リサが蹴飛ばし、ディックをごろごろと転がして移動させる
 それから自分も結果的に踏みつけることになった書類を拾い上げる

 「・・・岬の小屋に住んでいた研究員、マサキが持っていた『使ってもなくならない進化の石』について」

 「そうそう」

 こちらの手にあるのはほのおのいしとリーフのいし
 みずのいしとかみなりのいしはレッド達が持っているという

 「クチバの海底ドームで発見されたというお宝か。で、これがどうしたの。タツミ」

 床に転がっている主を無視して、従者に問いかける
 タツミは静かに、言葉を選んでつむぐ

 「進化の石はエネルギーの塊であり、その表皮を特定のポケモンが破ることで放出し・進化させ・消滅すると言われています。風船と針のようなものです。
 しかし、この石はいくら針で突いても割れない、即ちエネルギーを失わないのです。故に消滅もしません。
 その特殊すぎるものですが、見た目は通常のしんかのいしと変わりません」

 「うん。それはわかってる。問題はこの報告書がどこからのもので、どんな報告がなされているのかなのね」

 「・・・・・・絶対的監視・管理下のもと、蛇の道に預けてあります」

 「あんなわけのわからない研究者を信用して大丈夫?」

 「JAの未知、とはよく言ったものだね」

 ディックが笑うが笑えない
 研究者としても、人格としても、何もかも未知すぎるのだ
 
 「ま、でも今は、その報告書だけは信用していいと思うよ」

 「なか、読んだの?」

 「とりあえず」

 ああやって面倒臭そうにごろごろしながら、目を細めながら見ていたらしい
 休日のお父さんの新聞の読み方と同じだ
 
 「簡潔に言うと、その石は受信器なんだって」
 
 「・・・どこからかエネルギーを送信してるってことか」

 進化の石は長い時間をかけ、各種エネルギーが固まっていったもの・・・という俗説がある
 エネルギーの化石、とごく一部では言われている
 つきのいしは隕鉄を含んだ鉱石が関係していることから、他のも同じ宇宙からの贈り物とも言われている
 他にも何かの含有成分によってエネルギーが自然と蓄積、宿っていくものと・・・・・・諸説は様々だ
 
 だが、使ってもなくならない進化の石はそこからはずれている
 ・・・・・・人工物である可能性が高いというのだ


 「誰が、何の目的で作り、あそこに放置したのか。エネルギーの発信先はどこか。
 問題は山積みだそうけど、見当はついたって」

 「ふーん」

 リサが拾い集めた資料を読み通し、最後の結論に行き着いた


 「すべては彼方、ホウエン地方に・・・・・・」

 能力者の発祥の地ともされている、カントー・ジョウト地方には馴染みの薄い土地
 ディックは目をますます細めて、タツミやリサに言ってみた

 「久々に里帰りしたくなっちゃった。面倒臭いから行かないけど」
 

 ・・・・・・


 「それは本当かい?」

 「ええ、さっき2人が話していました。彼らはすぐそこ、6のしままで来ているそうです」

 ここはとある修行場
 正確に言えば、ここにいる皆がそれに仕立て上げてしまった
 
 元は巨大な灯台か、何かの研究所めいた施設だったのだろう
 しかし、皆が来た時には長い年月放置され廃墟も同然だった
 大人数で2日がかりで掃除してもまだ寝泊りするのも苦労するほどのもので、屋根があるだけ野宿よりマシなレベル・・・耐え切れず出て行こうとするものもいた
 最初から今も・本当に何も無い・そのままだけれど、ここでの修行の充実とともに次第に皆との共同生活もまた楽しいものになっていった

 今では本当の実家と同じくらい大切な場所になった
 そんな所だ

 「じゃあ、もうすぐ会えますね」
 
 「フン。どれだけ成長しているか、楽しみだ」

 「丁重にもてなさなければならんな」

 嬉しそうに、彼らのことで話している
 ここにいる皆は、彼らについてよく知っているのだ

 その輪の中心にいる青年が首をかしげ、「でも・・・」と腕を組んでうなった

 「問題は、こっちに来てくれるかなんだけど」

 「確かに立地条件が・・・」

 「わざわざ出向く気にはならん」

 「同じく」

 一見気難しそうな2人の意見が一致した
 縁があれば向こうからやってくるものだと、運命論のようなものも語る

 それでも、久々の再会だ
 出来れば、運命無しでも会っておきたかった


 「じゃ、看板立てときましょうよ」

 「いいですね。どんなのにしましょう」

 「あいつらがそれを見て、ピンとくるもの、入りたくなるものがいい」

 「こちらから正体を明かすものはつまらんが、それとなくにおわせるようなものにしろ」

 「なんだ、結局会いたいんじゃないですか」

 「簡潔にまとめろ。ようこそ、などもってのほかだ」

 「やっぱりバトルはするんですか」

 「当たり前だ。我々より弱かったら話にならん」

 色々とまた盛り上がってきたようだ
 ああだこうだと意見が交差し、いくつかの案が出来た
 そこから更に2人もこの場に増え、まだ議論が続く


 たかが案内看板に2時間も考え抜いてしまった

 「ふむ・・・悪くない」

 「謎めいていて、かつ避けて通りたくないと思わせるな」

 「じゃ、これにしましょう」

 最終的に決まった案、看板に書かれた言葉
 

 『このさき トレーナータワー』

 ・・・・・・正直、時間をかけた甲斐のない内容だった


 「じゃ、置いてきます」

 それでも、そう言って青年は看板を持って外へ出た
 目の前に広がる海、そこを渡った向こう側の海岸が置くにはいいだろう

 そうだ
本島とこの建物の間は海で隔たれている
看板か何かがないと遠目で灯台だろう、とこちらには来ないで素通りされてしまうのだ
これのおかげでカントー本土の難民がやって来ないので、悪くは思っているが修行に専念出来た


 「これでよし」

 青年は看板を砂浜に深く突き刺し、微笑んだ
 あとは彼らの到着を待つだけだ


 各々迎撃準備をして





 To be continued・・・
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