〜更なる高みへ/060〜



 「これでよし」


 ・・・・・・


 「・・・ハッ」

 その男は勢いよく飛び跳ね、起き上がった

 「なんて夢見の悪い・・・・・・」

 男の名前はキリュウ・トウド
 そのパートナーというべきカイリューの背で眠り込んでいた
 
 ここは空の境目
 そらをとぶで到達する限界の高度
 組織からの追撃を逃れるべく、キリュウ・トウドは能力を最大限に生かせるここにとどまっている
 水と携帯食料があるので、そこそこ快適だ
 ただし、それらはかちこちに凍っているので身体は冷える
 極力熱を逃がさないよう、身体を丸めて過ごしている

 能力発動維持および生命維持に徹しても、いられるのは1週間だ
 それまでに組織の監視の目から逃げられるスキをうかがっていた
 向こうはここまで来られないが、持久戦では不利だ
 
 「こちらから仕掛けるのもありだな・・・」

 ごろりと寝転がり、キリュウ・トウドは考えた
 硬直状態を破り、その騒動で再びうまくまくことが出来れば・・・

 「その提案、少し遅かったようだぞ」

 ズン、と鉛をのどに流し込まれるような感覚
 寒さ以外に肌を突き刺す圧倒的な殺気

 「・・・どちら様ですか」

 気流に逆らわず、こちらに接近してくるトレーナー・・・いや軍人
 ここにスピアー1体で乗り込み、かつ恐ろしいプレッシャーを放っている

 「聞くまでもないだろう」

 「ですよねー」

 先にしびれをきらしたのは向こうだった
 こういう風に同じことを考えていた時、そういうのは先に仕掛けた方が有利だ

 「いけ」

 「どこへですか」とツッコみたかった
 逃がさん、ではないのだ
 殺意をビンビンに感じる辺り、冗談では済まされないようだ
 それとも殺しても死なないとか、そのくらいじゃないと逃げられるとか考えているのだろうか

 「(・・・こんなとこに来られるんだから、雑魚じゃない。
 もう幹部クラスが前線に出てきたか)」

 いち博士の捕縛など手下や部下に任せておけばいい
 殺されるのは勘弁だが、それなりに評価されているのか
 ・・・そんなことを考える余裕はない

 キリュウ・トウド博士は知らない
 幹部、というレベルの相手ではない

 それも、考えるまでもなくわかっていたことだった・・・


 「己(おの)が天運に祈れ」
 

 何かが
 閃光がはしった


 ・・・・・・


 「おー、ここが7のしまか」

 『特に移動中には何も無かったね』

 「毎回あったら困る」

 「先にポケセン行っておく?」

 出来る限りの回復とレッド達自身の休息を取りたい
 しかし、今のナナシマのポケモンセンターはカントー本土から逃げてきた人達でいっぱいだろう
 そのなかにそれなりに戦える人がいるかはわからない・・・

 ナナシマ最後の島、7のしま
 シーギャロップ号の立ち寄る港よりも少し上、その北側の海岸にレッド達は上陸した
 そこからポケモンセンターの後ろ姿が確認出来る

 「先行ってみるか」

 「あー、先輩、ちょっとタンマ」
 
 歩き出そうとしたレッド達をゴールドが止めた
 何か見つけたらしい

 「これ、気になりません?」

 『このさき トレーナータワー』

 それだけの看板だった
 しかし、何か惹かれるものがある

 『トレーナーって入ってるのがいいね』
 
 「でも、タワーって? ジムとは違うの?」

 「ねー。面白そうっしょ」

 得意になって言うゴールドに、確かに皆がその看板に興味を示した
 詳しく書かれていないところが、逆に気になる
 それも戦力が欲しい、と思っていた時にトレーナーの文字だ
 
 「イメージ的には強そうな人がいそうねぇ」

 「その通りとは限らんがな」

 「でも、そこで何してるんでしょうね」

 『まぁ、行くだけ行ってみる?』
 
 海岸から波乗りしていけばいいのだろう、対岸にある塔のような建物
 あれがおそらくトレーナータワーだ
 どんなところなのかわからないが、何かしら得るものはあるだろう

 「行きましょう」

 「そうしましょう」


 ・・・・・・

 
 「ようこそ、トレーナータワーへ」

 建物に入ると、意外にも綺麗なところだった
 受付らしいものもあり、体裁は整っている

 「こんちわー」

 受付嬢がいるとわかり、ゴールドが和やかに挨拶するが軽やかにかわされた
 動じないどころか、完全に無視されているようだ
 

 「初めての方ですね。歓迎します」

 「ここはどういう施設なんですか?」

 受付嬢がえらくかしこまったような、きびきびとした受け答えをして見せる
 つられて、こちらの背筋までピッと伸びてしまいそうだ

 「挑戦者が立ちふさがるトレーナーを倒していき、我らが『オーナー』の待つ屋上へ行き話しかけることでゴールです。
 バトルタワーとは違い、道具の使用も認められています。使用ポケモンも6体まで可能です」

 「へぇ」

 「ただし、タイムアタック形式となっております。
 挑戦者にエレベーターのようなものもありません。階段を上る移動時間も入れての、あくまで屋上にたどり着くまでの時間とさせていただきます。
 お帰りはエレベーターがございますので、思う存分駆け上ってください」

 タイムアタック形式
 道具の使用が可能と言うのは甘そうだが、ここでは相当厳しいルールだ
 使うタイムロスを前提に大胆な攻めでいくか、使わないことを厳守するかなど、どうとらえるかでも変わってきそうだ
 
 「挑戦出来るのはお1人ずつとなります。 挑戦なさいますか?」

 こんなことを催すオーナー
 誰なのか、非常に気になるところだ
一緒に戦ってくれるトレーナーを探すためにも会っておきたい

 「・・・・・・1人が上に行ければいいな」

 「まぁ、全員が行かなくてもいいのは確かだ。時間も惜しい」

 ゴールドが全員で競争しましょうよ、とせかす
 しかし、どれだけ時間がかかるものかもわからない

 「えー、じゃあ誰が行くんスか。俺。俺!」

 はいはいはーいっと手を上げ、立候補する
 積極的なのはいいことだが、レッドはもう誰が上に行くかを決めていた


 「クリス。頼む」

 「わ、私ですか」

 「ああ。必ずオーナーのところへたどり着いてくれ」

 グリーンもブルーも同意を示した
 挑戦するのはクリス
 ゴールドは反対するわけでもなく、ただ激励を飛ばした

 「行ってこいっ」

 「・・・わかりました。行きます」

 クリスは頷き、ぐっと握りこぶしを掲げた

 「挑戦中、手持ちポケモンの入れ替えも可能です。
 しかし、バトルの時は先頭のポケモンが出ます。
 ダブルの時は頭から2体です」

 「ご親切にどうも」

 クリスがポケモンを準備する
 それから隅にパソコンがあることに気づいた

 「ボックス・・・」

 「カンナ、もう渡してくれたかな」
 
 「見てみましょ」

 ブルーがピポッと起動させ、自らのボックスを起動させる
 

 「・・・戻ってる」

 「ニシキにもお礼言わなくちゃな」

 長かった
 ようやく戻ってきたボックスの仲間達
 よく見るとガイクに預けたポケモンも入っている

 「これで戦力が上がるぞ」

 「ああ」

 戻ってきてくれて素直に嬉しい
 マサキの労はようやく報われた・・・

 「じゃあ、行きます」

 ボックスで手持ちポケモンを調整し、クリスが動いた
 受付嬢が立ち上がり、その前に立つ

 「では、こちらです」

 白線が一本引かれた床、そこにクリスを立たせる

 「その一線を越えた瞬間から、時計は動きます」

 「はい」

 ためらうことなく、クリスは即座に足を踏み出した
 受付嬢がカチッと計測する音がした

 目の前の階段を駆け上る


 ・・・・・・


 クリスが階段を駆け上った先、そこは広い部屋だった
 その部屋にある障害物が次の階段を遠ざけているが、迷路のように入り組んでいるわけではない
 更に障害物の存在がその部屋にいるトレーナーを避けられないようにしている

 「あなたは・・・」

 「・・・おや、てっきりゴールド君が来ると思ってたんだけどな」

 そのトレーナーはクリスを見て微笑んだ
 クリスもそのトレーナーの顔を知っている


 「トレーナータワーのトレーナーが使うポケモンは1体だけ。おぼえとくといいよ」

 「確か・・・キキョウシティの」

 『あっしの主人はハヤトってぇんだ。よろしく頼むぜ、嬢ちゃん』

 ポケモンが、エアームドが喋った
 そして、そのトレーナーの名前にははっきりとおぼえがあった

 「ジョウト地方のジムリーダー!? じゃ、じゃあこのタワーのオーナーって」

 「タイムアタック形式なのを忘れたのかい? 余計なおしゃべりは屋上に行ってからだ」

 エアームドが『はがねのつばさ』で真っ直ぐ突っ込んでくる
 クリスが先頭のポケモンを繰り出した

 「ウインぴょんっ」

 「エアームドッ」

 突っ込んでくるエアームドに対し、ウインディもまたそれを迎え撃つ
 互いにぎりぎりのところで避ける
 体勢を立て直し、また対峙する

 「しんそく」
 
 「風切(かざきり)」

 両者の姿が消えた
 ガァンと激突音が響く

 聞き覚えの無ない技
 こういうものを持つポケモン、トレーナーと言えば・・・

 「しかも能力者!?」

 「察しの通りさ」

 互いをはじきあい、ウインディとエアームドが姿を現す
 それから両者がそれぞれのトレーナーのところへ戻っていく
 
 強さをポケモン協会に認められたジムリーダーがトレーナー能力を得る
 それがどれほどのものか、クリスは空恐ろしさを感じた

 ただ能力者は忌み嫌われていたから、ジムリーダー採用試験を受けた時はハヤトはまだ能力者ではなかったはずだ
 いつ能力者になったのか
 ・・・・・・ジョウト地方襲撃を逃れ、自らを鍛えなおし、そこでなったのか

 何もまだわからないけれど、今はバトルに集中する時だ


 「もう一度しんそくっ」
 
 「エアームド、風切」

 指示すら同時
 姿なき激突
 そしてウインディの身体だけが弾き飛ばされ、地を滑る

 「気づいているみたいだね」

 ハヤトが不敵に笑う

 「特能技『風切』は飛行タイプの先制技だ」

 しんそくと同じ効果を持つ、飛行タイプには今までになかったものだ
 
 「威力は60、タイプ一致補正がかかって90」
 
 ウインディのしんそくはノーマルタイプ、補正はかからないので同威力となる

 「更に君のウインディとオレのエアームドはほぼ同速らしい」

 同じ素早さ、同じ威力がぶつかり合う
 相殺されて終わりのはずだが、ウインディが押し負けた

 「同速、同威力の激突。勝負を分けるのは身体の硬さ」

 「ウインぴょんっ」

 クリスの言葉にウインディが吼え、炎を吐き出した
 部屋に広がり、室温が上昇する
 炎が暴れ、クリスの姿が隠れていく

 「・・・エアームドの弱点をつこうと・・・目くらましも兼ねているのか」

 エアームドの動きを制限し、炎タイプのウインディの有利を得る
 タイミングをずらし、先制技をうまく活用することも出来る

 「(ジムリーダーが相手なんて)」

 クリスは焦らず、タイミングをはかる
 時間も惜しい

 『かくれんぼかい? さっさとすませましょうや』

 エアームドがクリスの上空を飛び、話しかけてきた
 そうだ
 ハヤトの鳥ポケモンも何故かしゃべるのだ
 炎でトレーナーの目を欺こうと、空を飛ぶポケモンなら簡単に見つけられる
 それでも、この弱点の炎をひるまずに飛ぶエアームドに漢気を感じざるを得ない

 エアームドの『かげぶんしん』で姿がだぶり、分かれ、クリスとウインディを翻弄する

 「・・・はがねのつばさ」

 「っ、か」

 分身したエアームドが四方から襲いきて、指示が途切れたもののウインぴょんはそれを行う
 炎で撃退しようにも、回避率が上がった状態・熱気によるゆらぎで本体を特定することが出来ない
 自らの姿を隠す炎が裏目に出てしまった
 
 「ウインぴょん、かえんほうしゃ!」

 「エアームド、こうそくいどう」

 影分身の翻弄、高速移動による行動の先取り
またハヤトのエアームドのはがねのつばさは軌道も自在で、突っ込んでくると思ったら目の前で止まって・旋回して・突っ込みなおす
 あまりの奔放な攻撃に直線軌道のかえんほうしゃではとらえきれなくなっていた

 「風切」

 翻弄する曲線的はがねのつばさに対応しようとすると、今度は鋭い先制技がウインぴょんを突き刺しにきた
 虚をつかれると身体と思考の動きが止まり、先制技が更に避けにくくする
 2つの技の特性をうまく活かし、使いこなしている

 「・・・風切は特能技だ。ただの先制技にはとどまらないよ」

 ウインぴょんの攻撃を影分身で避け、その内に更に影分身と高速移動
はがねのつばさのヒットアンドアウェイで翻弄していく

 この状況を打破しようと、クリスがウインぴょんにしんそくを指示する
 素早さこそ向こうのほうが上だが、部屋に満ちた炎がタイミングをずらしてくれる
 
 ・・・うまくいった
 向こうの風切が少し遅れ、ウインぴょんが先制を取った
 その身体をぶつけ、上空を飛ぶエアームドのバランスを崩させ、炎のなかへともつれこませようとクリスは狙う
 はずだったのだが、後から攻撃を仕掛け、力も乗り切っていないはずのエアームドがウインぴょんを押し負かせた
 
 「そんな」

 「風切は使うポケモンの素早さが一段階上がった時、技の元の威力がほんの少しだけ上がる」

 ウインぴょんのしんそくは鋼タイプを持つエアームドには効果が薄い
 技本来のダメージは見込めないものの、部屋の炎をまとっての突撃はエアームドの体勢を崩すには充分だったろう
 しかし、風切の技の威力が上がっていた為に、後出しであってもしんそくを押し切ることが出来た・・・

 「終わりだね」

 こうそくいどうの指示3回目・・・・・・風切の最高威力だ
 かげぶんしんによる回避、四方八方からのヒットアンドアウェイ
 クリスとウインぴょんに逃げ場は無かった

 「風切」

 エアームドの姿が、分身ひとつ残らず消えた
 ただ風を切り裂く音が部屋の中に反響する

 「ウインぴょん!」

 このタイミングをずっと待っていた
 最後の最後、とどめを刺しにくる全力の速攻
 クリスに万一の反撃もさせないような、行動を先取られない先制技を

 『タイムアタック形式』
 これは挑戦者側だけでなく、その相手にもルールを強いる
 長く足止めをさせたいなら、相手は6体持った上で持久戦をすればいい
 しかし、ハヤト自身が1体しか使わないと言った
 自信の表れ、そして挑戦者への挑戦
 どんな挑戦者でも速攻で倒す、そんな意がこめられているのだろう

 そしてもうひとつ、隠されている本意・・・・・・
 
 クリスはそれを見抜けた
 だから、来るとわかっている先制攻撃を待ちに待った

 でんこうせっか、マッハパンチなどの高速で繰り出される先制技はどうしても単純な直線軌道になる
 それ故に本体が見極められば、迎撃はたやすい

 だから、指示しておいた

 「見つけたっ」

姿が消えても、姿がいくら分身しようとも
臭いは消えない

 だから、『かぎわける』を
 途切れた指示は「か」えんほうしゃではなかった
 かげぶんしんをした後から、もう既にそれは殆ど無効になっていた
 ・・・かげぶんしん後の風切としんそくがまともにぶつかり合っていたのがそれだ

 それでもはがねのつばさの動きには対抗出来なかったので、勝負を決めにくる風切を待っていたのだ
 とどめを狙いに来る時だけが好機だった


 加速していく攻撃を止めることは出来ない
 ウインぴょんとの激突寸前まで見極め、至近距離でのかえんほうしゃを放つ

 『こいつぁ参った・・・ぜぇ』

 へっと笑い、どしゃっとエアームドが炎のなかに落ちていく
 ハヤトはふっと息をつき、ボールのなかにエアームドを戻した

 「・・・屋上にたどり着けるといいね」

 「たどり着いてみせます」

 ただそれだけの言葉を交わし、クリスがハヤトを追い抜き、次の階段を上っていく
 それを見送った後で、ハヤトはマンタインを出して部屋の消火作業に入った
 これ以上燃えていると、建物どころか命に関わる

 「さて、次はダブルバトルか」

 ジョウト地方ジムリーダーを2人同時に相手する
 クリスはそれを乗り切り、更に上の階へと足を踏み入れることが出来るのだろうか

 そして屋上にて本意の、更なる意味を知る





 To be continued・・・


続きを読む

戻る