〜更なる高みへ/062〜




 「二度と会いたくない。戦いたくない」


 ・・・・・・


 「ソウシンホウ」

 リフレクターを張ったメガぴょんが、シジマのニョロボンのれいとうビームで倒れた
 格闘タイプ専門とばかり思っていたが、草タイプ対策に入れていたのだろうか
 
 「字のごとくの意味だ」

 「わかりません」

 クリスはエビぴょんを出した
 ここの3人はもう1体も減らさずにいきたい
 これ以上のきぜつは元々タイプ相性の偏るクリスのパーティには致命的、戦略の幅も大きく縮める

 「かみなりパンチ!」

 エビぴょんの軽快なフットワークで間合いをつめる
 射程距離に入ったところでニョロボンが動いた

 「ソウシンホウ、ソク」

 エビぴょんの拳の間合いから、更に狭いニョロボンの間合いへと一瞬で詰め寄る

 「ソウシンホウ、コウ」
 
 至近距離からのばくれつパンチが決まる

 「エビぴょん!」

 「ほう」

 寸前でみきりを発動させ、何とか避ける事が出来たようだ
 もしあの一瞬で間合いを詰めた速さで決められていたら、間に合わなかったかもしれない

 「ソウシンホウ、ってもしかして・・・」

 「オレのニョロボンはHPと特攻に努力値とやら258を調整して振られている」

 水は特攻タイプ、れいとうビームやタイプ一致には欠かせない

 「残る252、これを攻撃もしくは素早さに特化させられる。
 これがオレの能力、ソウシンホウだ」

 字はソウ身法
 操、総、送などと入れられる

 素早さに努力値252移動させれば移動スピードが早くなり
 攻撃に努力値252移動させれば格闘の攻撃力が高くなる
 今出来るのはその2つだけ、もしくはそれのみの能力
 調整や半々ずつというのはまだ至れぬ境地らしい

 「本来なら、こんな能力に頼って戦うものではない」

 トレーナーが身をもって力と技をとぎすますことでポケモンと心を通わすことができる
 それがシジマの教えの基本だ

 ・・・トレーナーが、その渦中に身を投じてみせる・・・
 それはまさに能力者の心得にも近しいことだった
 
 「あの時に誓ったことを、こう破ってしまう日が来るとは思ってもみなかったぞ」

 「誓い? エビぴょん、かみなりパンチ!」

 クリスの思考はバトルへとなみなみ注がれている
それが通じているかのごとく猛攻を、ニョロボンが負けじと軽快なフットワークで避けていく
 いや、あの動きは素早さの上昇ではなくみきりだろう
 まもるよりもPPが少ないがおぼえるポケモンはそう多くなく、ダブルバトルでのふういんなどで封じられることがほぼない

 「能力者が迫害された時だ! ニョロボン、ハイドロポンプ!」

 水タイプの技のなかでも1,2を争う威力だが、命中率が少し気になる
 挙動が速く今回は避けきれなかったが、かみなりパンチによる電気分解で相殺する
 この時、特典が起きて呑み込まれていたらエビぴょんは間違いなくきぜつしていただろう
 運はまだクリスに傾いている
 

 「能力者が現れた時、オレ自身はその存在を認めていた。
 友人がいた。能力者という存在が明るみになってから、能力者になったそうだ。
 他のどんなトレーナーよりもポケモンと一体となって、バトルに身を投じる。
 トレーナーは指示するだけでいい、危険をすべてポケモンに押し付けるなどという気にはなれん。
 確かに能力というものは強すぎたかも知れぬが、その姿勢は感心した」

 その為に己の肉体や精神を鍛え上げるのはガイクの修行でもやっていたことだ

 だが、シジマは能力者にはならなかった
 友人も勧めなかった
 あまりにバトル、能力という力に引き込まれて闘争本能をむき出しにする他の能力者自身が好ましく見えなかったこともある
 能力者への成り方、指導というものが確立されていなかったこともある
 いや、それらよりも―――

 「それ以上の関心は持てなかった。道はあったろうが、進むことを選ばなかった。
 おのれを鍛え続けるだけで良し、と思えたからな」

 そして、能力者の迫害が始まった
 友人もその被害に遭った
 シジマはそれはトレーナーとして、人間としてやってはいけないことだと憤慨した

 だが、友人はバトルから離れ・・・・・・能力者と共にその姿を消していってしまった

 ポケモンと共に戦っていくという姿勢に間違いはなかったはずだ
 ある種、究極とも言えた
 だが『能力』というものがまだ今の人間には早すぎた
 そのものがおのれを狂わせ、周りを狂わせる

 「能力を得なくても、ポケモンと共に戦うことは出来る。
 おのれの心身を鍛え上げ、磨くことでポケモンと心通わせられるはずだ。
 能力を得れば他のトレーナーよりもポケモンとの絆が深まる、などということもないはずだ。
 互いに押し付けあう必要はない。能力者を迫害する必要もない。
 そのことに皆が気づけば、能力の有無など関係なくなる。
 わかりあえるまで、友人に再び会えるまで、おのれの姿勢を崩すことなく能力を得ずにおのれを鍛え続けよう・・・。
 そう誓った」

 ニョロボンが両手でばくれつパンチを仕掛けた
 みきれない
 エビぴょんがその技をまともにくらってしまい、混乱する
 ダメージの方はリフレクターの効果が残っているからか、比較的軽いようだ

 「だが、そうわかりあえぬまま、この『Gray War』が始まってしまった。
 今のオレではまた以前のように憤慨するだけで終わってしまう。
 意志なき力は争いを起こすが、力なき意志はそれを止められない。
 ・・・・・・ならば、今度は同じ土俵に立つ。
立って、見えてきたものもある。友人が見てきたものを知った。
 それをこの戦を始めた者にわからせてやらねばなるまい」

 常にポケモンと共にあろう姿勢は正しい
 だが、この戦いは違う
 能力者に成らず、ポケモンと共に戦って見えたもの
 能力者に成って、ポケモンと共に戦って見えたもの
 
 決して間違いようのないもの・・・


 グリーンの師
 混乱のエビぴょん、クリスは必死で勝つ方法を思考する

 遠・中距離のハイドロポンプ、れいとうビーム
 ソウシンホウ・ソクでフットワークや当てやすい位置への移動を速くする
 近距離のばくれつパンチ、みきり
 ソウシンホウ・コウで威力に加えて本来の100%混乱がある上、落ちた素早さをみきりでカバーする
 タイプ一致、タイプ補完、補助、教科書通りのようだが攻守バランスの取れた技構成で隙が無い
 
 「(だったら真っ向勝負!)」
 

 自分が鍛え、育てて、共に歩んできたポケモンのレベルを信じる
 タイプ相性有利を押していく

 「れいとうビーム!」

 「みきり!」

 直線軌道故に見切りやすい、見切られやすいわざだ
 エビぴょんなら軽く避けられるはずだったが、混乱が災いした
 反応が遅れてしまう

 肩口をかすったが、何とか避けられた
 混乱にめげず、間合いを詰めていく

 「かみなりパンチ!」

 混乱でエビぴょんのパンチが定まらない
 ソウシンホウ・ソクとみきりの併用で避けられてしまう
 だったら、数撃つしかない

 連続してのかみなりパンチ
 弱点を狙う一撃はニョロボンは受けられない
 
 そして、みきりのPPは少ない
 攻めに転じなければ、いずれ食らう

 「ニョロボン! ばくれつパンチ!」

 ソクで間合いを更に詰め、シジマのニョロボンがエビぴょんの懐に入り込む
 そしてコウで技の威力を上げにかかるはずだが、今度はソクのままだ
 この間合いでは互いの技が必中するため、威力より速さを優先したのだ
 混乱の隙、そこを狙う
 

 「エビぴょん、合わせて」

 クリスは狙う
 ニョロボンが放つ拳そのものを・・・
 混乱しているエビぴょんに再び触れてこようとする瞬間
 近すぎる間合い故にみきって攻撃を避けられないなら、せめて拳で拳を当てにいく

 「(―――わかる。エビぴょんの感覚が)」

 ポケモンと心身を通わす、シジマの師事する言葉
 擬似的な体感だが、図鑑を見なくてもエビぴょんのコンディションが手に取るようにわかる

 「エビぴょん!」

 クリスの言葉にエビぴょんが応える

 ショートのアッパーカット
 いくら拳が速くても、身体が触れた瞬間はわかる
 
 ぐいんとえぐるような一撃、ニョロボンの拳がエビぴょんの技巧で真上へと放り上げられた
 そのするどいめは混乱でも精細を失わなかった
 混乱状態でも、決して正常に動けないわけではないのもあっただろう

 ニョロボンの片腕が上がり、大きく身体が開いた
 そこをめがける一撃、放り上げられた腕の勢いで逃げられない

 「かみなりパンチ!」

 吸い込まれるように食らい、ニョロボンの腹部に稲妻がはしった
 エビぴょんが後ろに一歩、二歩と退がる

 見てすぐわかる
シジマのニョロボンがまひになった

 まひによる行動率低下、素早さの半減
 前者はソウシンホウ・コウの機会を減らし、
 後者はソウシンホウ・ソクの意味を成さなくなる

 「エビぴょん、決めて!」

 もうシジマのニョロボンはみきりが使えない
 れいとうビームで威嚇するが、混乱状態から回復してきた今なら軽いフットワークで避けられる

 自分の間合いによる、エビぴょんのかみなりパンチがあっさり決まった


 「・・・よくやった」

 シジマが感嘆し、クリスがエビぴょんを戻す
 しかし、戻してからすぐにまたボールから出した

 「わかっているじゃないか」

 高らかな声が頭上から聞こえる

 「頭も身体も、休むひまなど与えない連戦だ」
 
 ハクリューの乗ったフスベの女性ジムリーダー
 名はイブキ

 「いざ参る!」

 その長い身体を活かしたハクリューのまきつくの攻撃
 混乱から完全に脱したエビぴょんが小刻みなステップとジャンプで華麗に避ける
 そしていったん距離をとる
 今のエビぴょんはドラゴンに有効なれいとうパンチをおぼえていない
 その為、強気で勝負をすぐに仕掛けるわけにはいかないのだ
 
 「離れたな」

 イブキが笑った
 それが彼女の狙いだったのだ

 「りゅうのまい!」

 ハクリューの攻撃と素早さが上がる
 ただでさえ得意ではないタイプの上、この技を2回3回と繰り返されては手も足も出なくなってしまう
 
 「エビぴょん、かみなりパンチ!」

 まひを狙ってみるしかない
 タタッンと踏み込みも強く、エビぴょんが突撃する

 「りゅうのいぶき!」

 行動、指示は確かにクリスの方が早かった
 しかし、一度距離を置いてしまったこととりゅうのまいがいけなかった
 噴きつける圧倒的なエネルギーの方が先にエビぴょんへと届いてしまう

 エビぴょんの動きが止まった
 あの威力をこらえて・・・HPは尽きていないはずだが、動けない
 かみなりパンチの発動も途中で終わってしまったようだ

 「このイブキのトレーナー能力、それは先制した時に限りドラゴンが出す技すべてにひるみの追加効果を与える『SD(ステイタス・ディキング)』。
 ・・・最も絶対ではない。確率は20%といったところよ」

 低そうに思える数字だが、あなどれない
 元からポケモン自身の素の速さ、先制攻撃はバトルにおいて有利な要素だ
 そこにひるみ効果が加わると、ずっと相手のターン!になりかねない
 イブキの得意タイプであるドラゴンに限るが、そのタイプを持つポケモンが出す技なら一致でなくても恩恵を受けるもの恐ろしいところだろう

 「りゅうのいぶき!」

 「みきり!」

 みきりのPPも限界だが、エビぴょんが避ける
 懐へ一気に入り込み、痛烈なかみなりパンチを食らわせた

 ・・・・・・ハクリューがまひ状態になった

 「む」

 「このまま一気に!」

 エビぴょんが更にかみなりパンチでダメージを与える
 ハクリューは動けない
 もう一撃食らわせ、ダメージを蓄積させていく

 だが、それにしては手応えがない

 「何を攻撃している」

 ・・・イブキのハクリューが分かれた
 否
 エビぴょんが攻撃し続けていたのは空のハクリューだった

 「ハクリューの特性はだっぴ。古い身体を脱ぎ捨てて、状態異常を回復させる。
 種族値では下回ろうと、特性はカイリューよりも使い勝手がいいぞ」

 任意のターンに回復出来るわけではないので博打なところも否めない
 イブキはフフッと不敵に微笑み、指をはじいた

 「もうひとつ、見せてやろう。ハクリュー、ねむる」

 ハクリューはすやすやと健やかな眠りにつき、エビぴょんが与えたダメージがみるみる回復していく
 クリスはその危険性に気づき、エビぴょんに再びかみなりパンチをぶつけさせた
 その次、二撃目・・・・・・はずれた

 「何を攻撃している」

 まただ
 攻撃していたのはもぬけの殻
 ねむるによる眠り状態もだっぴで回復されてしまった
 状態・体力の完全回復のデメリットである2ターンは起きないというものを覆される
 
 種族値、特性、覚える技に格差を感じずにはいられない
 これがドラゴンタイプ!

 体力も素早さも元通りになり、後ろを取られたエビぴょんがまきつかれる
 まきつかれそうになる前に、ネイぴょんに入れ替える
 エビぴょんは複数タイプ、回避技を持つポケモンだ
 残りHPは少なくてもまだやられるわけにはいかない、と判断したのだろう

 「ネイぴょん、お願い!」

 「まきつく!」

 ハクリューが素早くネイぴょんの身体を締め上げる
 それからエスパーの力を出そうとしているようだが、ネイぴょんはまったく力が出せていない

 「先制である上、1回の攻撃では身体接触が多いまきつくの攻撃。ひるみの出る確率も上がる」

 攻撃力が上がったハクリューのひるませるまきつくに、ネイぴょんが早くも陥落した
 小さな身体、進化前では耐え切れなかったのだろう
 きゅうしょにも当たってしまったようだ

 「これで残っているポケモンはあと何体だ? もうそんなにいないだろう」

 イブキの言う通り、ここまで上がってくるのにあまりにも多くの仲間が倒れていってしまった
 体力が満タンなのはあと1体だけで、体力はあっても満身創痍の状態だ
 

 「ここで快進撃は終わりにしてやろう。それまでのものだった、ということだ」

 クリスはまだ諦めない
 共に、ずっと一緒に戦ってきた捕獲のエキスパート達
 捕獲対象より低いわけがないレベルであり、バトルでも決して遅れを取ったりはしない

 そして何より、階下で待つ皆の期待に応えたい


 「カラぴょん!」

 ハクリューのHPはエビぴょんの一撃で少し削れている
 もう先制を取るのはもう難しい
 となると・ねむってしまう前に倒すか、ねむっている間にダメージを与えて倒すしかない
 ただ後者はだっぴという特性が厄介になってくる

 「りゅうのいぶき」

 イブキがハクリューに命じると、クリスは少しだけ安堵した
 まきつくでなければ、距離を測って避けることは出来る
 ただし、その攻撃到達速度は高い

 物理に強いカラぴょんがなんとか受け止める
 そこから最後の反撃だ

 「ホネブーメラン!」

 カラぴょんの投げたホネが部屋を、室内を縦横無尽に駆け回る
 素早さが高められても、この攻撃を完全に見極めるには『まもる』しかない
 
 
 メキッと音がした
 ハクリューの体側面にクリーンヒットしたのだ
 ホネがひゅるるるとカラぴょんの手元に戻っていく

 「カラぴょん、もう一度!」

 「こしゃくな!」

 またしても同じ、カラぴょんのホネが室内を縦横無尽に駆け回る
 イブキのハクリューはまもるをおぼえていないから、その長い身体全てをフォローするのは難しい

 「なら、撃ち落としてやればいい」

 たたきつけるはおぼえていないが、りゅうのいぶきならそれが可能だろう
 りゅうのまいの効果もあり、それはジェットスプレーで鈍いハエを落とすのと同じだ

 「そこだ、ハクリュー!」

 イブキが見極めたホネブーメランの軌跡
 その指示通りにハクリューが技を放つと、見事それに命中した
 ホネはその勢いを失い、そのまま落下していく


 ・・・・・・パシンとカラぴょんが、空中でそれを受け止めた
 それはイブキ、ハクリューの目前そのものでの出来事だった

 「!!!」

 ホネブーメランの軌跡にとらわれ、ここまでの接近と跳躍を許してしまったのか
 いや、撃ち落とされるのが目的だったのだ
 一撃目の、二の轍を踏むまいと「やってくる」とクリスが読んでいた

 「ホネこんぼう!」
 
 クリスは自らを踏み台にし、カラぴょんはそれによって高く跳んだ
 進化前の小さな身体とはいえ決して軽くない、クリスの肩や腕がみしっとうなったのも聞いた
 そうやって・・・勢いを失ったホネをキャッチしたものの、体勢は安定しない
 カラぴょんは必死になって、クリスの作戦を成功させようとした
 しっかりとホネを握り締め、ハクリューへとめがける

 結果
 こんぼうのように打ち据えるよりも、ホネを縦にして突き込んだというべきだろう
 ただ落下の勢いのまま、頭頂部に当てられたということでダメージは大きい


 このカラぴょんをりゅうのいぶきやまきつくで落とさなかったにはわけがある
 いや、ごく当たり前のことだ
 ポケモンバトルは携帯獣氣体成生論でもあったように、基本はターン制だ
 次の行動を移すためのエネルギーが必要になってくる
 よってハクリューは先制を取り、りゅうのいぶきでホネを撃ち落としてしまったために行動が遅れてしまったのだ

 「これしきで倒れるものか」

 ぐらりとイブキのハクリューはよろけるものの、HPはまだ残っている
 ねむるの指示であっという間に回復し、舞って攻撃と素早さを更に上げての巻き返しを食らう




 
 ・・・・・・はずだったが、ハクリューはよろけたまま体勢を戻すことはなかった

 シュバッと空を切るような音
 何かのエネルギーがハクリューを襲い、残ったHPをゼロにした
 ねむる間も、指示も与えられなかった・・・

 「まさか、バカな・・・・・・」

 一仕事を終え、落ちてきたカラぴょんをクリスが受け止めてみせる
 倒れたハクリューを見て、クリスは抱きかかえているカラぴょんとパチンと手を叩き合わせた
 うまくいったことに安堵し、褒められたことでカラぴょんは少しばかり照れているようだった

 イブキはどうしてこうなったのかすぐにはわからなかった
 ターン制が守られているというなら、あのハクリューへの追撃は何だったのだろう


 ・・・その答えをいち早く察せられたのは、その戦いの傍観者だった
 時として当事者よりもそういった者達の方が気づくのも早い

 傍観者は2人いる
 クリスが既に破ったシジマ、そしてこの階の連戦最後の1人・ジムリーダーの・・・


 ・・・・・・


 ほぼ同時刻のことだった

 「ハァッ、ハァッ」

 息が荒い
 どれだけ戦い続けているのだろう

 「約49時間27分。よくやるもんだな」

 出ているポケモンはオコリザルとオーダイル
 互いに暗がりのなかに隠れるトレーナーの顔は見えない

 「なぁ、クラッカー・シルバー」

 未だに衰えない眼光を持って、シルバーがその声の主をにらみつける

 「オレは感心してんだぜ? 単身でオーレ地方支部アジトに乗り込んで、幹部候補を軒並み倒しやがって」

 それはもう3日も前の話だ
 シルバーは「まだ必要とされていない」ということで、オーレの能力者からは協力を得ることは出来なかった
 故に単身でオーレ地方の支部アジトに乗り込み、本部アジトの情報収集と壊滅をしに行った

 ・・・

 「まさか、こんなところにアジトがあるとはな」

 流石のシルバーも驚きを隠せなかった
 これほどの規模の施設をどうやったのだろう

 シルバーが幹部候補を倒すことで、それぞれ手に入れた分割キーを使って情報を探る
 6つのキーを組み合わせることで、この支部アジトの殆どの部屋に入れるようになった
 一番初めに探したのは資料室のような部屋で、それは運悪く一番最後に見つかった


 「・・・・・・これは違うか」

 団員構成リストというのはあったが、能力までは記載されていない
 どこかに能力リストと本部アジトの詳細があるはずだった

 「ウィーッス、何を探してんだ?」

 資料をあさるのに夢中になりすぎていたのか、それとも相手が化け物なのか
 シルバーは気づくことが出来なかった
 気づいたら即行動、資料の棚から素早く離れて臨戦態勢に入る

 しかし、向こうは不意打ちはしてこなかった

 「ったぁーく、オレが留守の間に何やってんだ。幹部候補の連中め」

 「お前は何者だっ?」

 シルバーは警戒し、すぐにニューラを出した
 ここにいる時点で既に一般人ではない

 というより、人間が天井にぶら下がっている時点でおかしい
 よく見れば素足の親指と人差し指で天井の凸部分につかまっているようだ
 まるで猿、それ以上の芸当の持ち主だ

 更に片足になってふくらはぎをぼりぼりとかく、逆さづりの薄汚れた空手家のような男
 黒髪に若白髪のようなものが目立ち、その両目のある辺りには横一線の古傷があった

 「クラッカー・シルバー。オレが管理するオーレ地方支部アジトにようこそ」

 「管理・・・・・・支部長か」

 幹部候補の上の存在がいるのは、候補の時点でもうわかっていた
 そして、目の前にいる男はクチバの海底ドームで出会った幹部と同じ程の力を感じ取れた

 「支部長。少し違うな。オレはマスター・リサに仕える『四高将・キョウジ』さん」

 天井から指を離し、くるっと身体を回して着地・・・・・・思いっきし滑る
 シルバーのニューラが予めこごえるかぜで床を凍らせていたからだ
 しかし、キョウジは頭から身体を丸め込んで宙返り・再び床に立ち上がる
 指の力で氷を踏み抜き踏ん張っているようで、指からは血も出ていない
 よほどひづめのように、硬く鍛え上げられているのだろう

 「四大幹部直属の四高将には、クラッカー・シルバーは一度会ってるだろ? ほれ、クチバの海底ドームでよ」

 やはりあの幹部もそうだったのだ
 あの時は逃げるしか出来なかった圧倒的な実力差があった

 「んで、これが二度目だ。どーするよ?」

 「決まっている」

 この部屋などの情報をあさり、このアジトがある場所でおよその見当がついた
 組織はどういうところにアジトを構えているものなのか
 それを踏まえるなら・・・・・・

 「お前を倒し、吐き出させて、確実にその情報を得てやる」

 「強気結構。かかってこいやぁ、クラッカー・シルバー」

 キョウジはオコリザルを繰り出した
 腰についているボールは4つ

 「オレの能力の影響を受けるのはこいつだけよ。あとは移動用な」

 あっさりとそう言うキョウジに、シルバーのニューラが先手を取った
 構えることなく、まるで攻撃を誘発するかのように挑発的な姿勢でオコリザルが動く

 それが始まりだった

 ・・・

 2日間戦い続けて、決着がつかないのだ
 実力が拮抗しているわけではない

 シルバーの負けは確定している
 ただキョウジが好きなだけ道具を使わせるスキを作らせるもので、回復を繰り返し・ここまで長引いてしまった
 一方で相手、キョウジはどんな道具も使わずにシルバーのパーティを押さえつけた

 屈辱的だった

 「クラッカー・シルバー。わかったろ。幹部候補は倒せても、まだ四高将には届かねぇよ」

 耳をほじるキョウジは余裕たっぷりでそう言う
 たった1体のオコリザルが倒せない
 シルバーの手持ちでは倒す手段さえ得られないのだ

 「あぁ、届かないな」

 ふっと息を吐き、シルバーがつぶやく
 それでもただ意味も無く戦い続けたわけじゃない

 この2日間、遊ばれているものの不眠不休で戦い続けることで実戦トレーニングとしては申し分ない
 そして、戦い続けたことで四高将がどういう存在でそういう者だということもわかった

 どういう存在が四高将で
 そういう四高将より上なのが四大幹部というわけだ


 けむりだまなどで目くらまし、部屋の鍵を次々とかけていって逃げようとしても無駄だ
 幹部候補に渡されている6つを組み合わせることで仕える『分割キー』ではない、『マスターキー』を持つキョウジからは逃げきれない

 それに意味が無い

 シルバーは考えた
 今出来る最善の策は何だ

 「遊びはするが、逃がす気はないからな〜。もうすぐ、また行かなきゃなんないでね」

 「・・・・・・そうか」

 シルバーは出ているポケモンをすべて手元に、ボールのなかに戻した

 「・・・何のつもりだ?」

 「何も無い」


 首をかしげるキョウジに対し、シルバーは自らの両手首を重ねて差し出した
 そして、しっかり口にした

 「投降する」





 To be continued・・・


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