〜更なる高みへ/064〜




 「ホネづき!!!」


 ・・・・・・


 最後のジムリーダーは既にポケモンを出し、部屋のなかで待ち構えていた

 「お待ちしていました」

 部屋の半分を埋め尽くすような巨体を持つハガネール
 アサギシティのジムリーダー・ミカン、彼女が最後の鉄壁・・・番人だ
 
 「よろしくお願いします」

 丁寧にぺこりとお辞儀され、クリスもそれにつられて頭を下げる
 やりにくいわけではないが、ペースを乱されてもいけない
 
 「いきます!」

 「どうぞ」

 クリスが出すのはエビぴょん
 体力はもう殆ど残されていないが、その目は未だにするどい

 「スカイアッパー!」

 きゅきゅっとステップを踏んで、懐へ入り込む
 めがけるはあごの下、ピンポイントで狙う
 タイプ一致の一撃を身体を、腰をひねり力を溜めて放つ
 鋼タイプにも効果は抜群

 しかし、ハガネールの防御力は弱点を凌駕する
 あごの下という急所を狙ってみたはいいが、ハガネールの頭はその身体の中で一番大きく重い部分だ
 加えて体重差もあり、エビぴょんの一撃は殆ど効いていない

 「ハガネちゃん、アイアンテール」

 その大きな尾を振り上げ、一気に振り落とす
 叩きつけられた床が揺れ、まるでじしんだった

 だが、エビぴょんに当たっていない
 大雑把な攻撃ゆえか命中が低いのだ

 「それでも、ダメージが無いわけじゃない」

 エビぴょんが再びスカイアッパーを食らわせる
 効いていないようだが、ダメージは蓄積されていくはずだ
 連続で当てようとすると、そこにアイアンテールがまた振り下ろされた
 くらうわけにも当然いかず、エビぴょんがフットワークで避けていく

 そこでハガネールの口がもごもごと動いているのがわかった
 おそらく、たべのこしを持っているのだろう
 効かない攻撃が、更にジリ貧になる
 
 今のエビぴょんの持つ技はスカイアッパー、みきり、かみなりパンチ、おいうち
 選ぶ余地が他に無い

 「スカイアッパー!」

 エビぴょんが振りかぶって、空へ一撃
 文字通り、空へ

 空を切った
 わざがはずれたのだ

 「えっ」

 「アイアンテール」

 そのスキを見逃さないハガネールの一撃がついにエビぴょんをとらえ

 「みきり!」
 
 空中で身体をぐんとひねり、直撃を避ける
 しかし着地には失敗し、どしゃっと崩れた
 ・・・立ち上がりが遅い
 その様子から立ち上がる気力も切れてきたように見える

 スカイアッパーは少しだけ命中に不安がある技だ
 それでも、あんな大きな的・狙いを大きくはずすものではない

 
 何かが起きたのだ


 「玉鋼」

 ミカン自身が告げるそのトレーナー能力名

 「日本刀を鍛えるがごとく、わたしの鋼ポケモンは攻撃を受けるたびに強くなる。
 そう、攻撃を1度受けるたびに必ず攻撃、防御、特攻、特防、素早さ、命中率、回避率のいずれか1つが上がります。
 確率は低いですがぐーんと上がることもありますよ」

 何が上がるかはランダムだが、どれでも損は無い

 攻撃を受けなければならないのが難点だが、そこは耐久の高い鋼タイプ
 エビぴょんのタイプ一致の拳を受けてもびくともしない頑丈さがそれを示す
 長期戦は不利、それどころか相手の攻撃を制限・ためらわせるような能力だ
 

 「おそらく、先程のは回避率が上がったのだと思います」

 ミカンが話す間にも攻防は続く
 ただたべのこしと防御力の前に有効打突もないエビぴょんの劣勢は否めない
 一撃当てるごとに何かの能力が上がり、より倒しにくくなっていく

 そしてついに硬質化した尾が、日本刀のような一撃がエビぴょんの真上に落ちた
 最後に、とっさに振り上げたエビぴょんの拳もその体重差に押しつぶされる
 ・・・・・・その抵抗も攻撃とみなされ、ハガネちゃんの能力がまた何かひとつ上がったようだ

 「残るポケモンはあと1体ですね」

 今までエビぴょんを倒さなかったのは、命中率の悪いアイアンテールが当たらなかったのではない
 耐え切れるタイプ相性のポケモンだったからこそ、はずれやすいわざで相手の攻撃を誘発・多く受け、ハガネちゃんの能力を上げるのが目的だったのだ
 
 クリスに残されたポケモンはあと1体
 ウインぴょん、メガぴょん、ネイぴょん、カラぴょん、エビぴょんが倒れた今
 トレーナータワー最上階、屋上へ続く階段が最後の番人を倒す最後の1体
 

 「いって!」

 ビッと勢い良く腕を伸ばし、投げたボールから飛び出したポケモン

 「サニぴょん!」

 
 飛び出したのはパラセクトのパラぴょんではなかった
 水/岩タイプのサニーゴ

 クリス自身、初めて扱う水ポケモンだった

 「みずのはどう!」

 サニぴょんから放たれる水タイプの攻撃は鋼/地面のハガネールには効果は抜群

 回避率は上がっていても避けられるとも限らない
 弱点を突かれたハガネールは苦しそうにうめいた

 「かみくだく!」

 ハガネールが大きな口をあけ、突っ込んでくる
 特防の能力が上昇していたらしく、ダメージは思ったほど見込めなかった

 遅いサニぴょんがつかまり、あっという間に口ですくわれ・くわえられ、かみくだかれた
 とはいっても、くるみ割りのようにはいかない
 ハガネちゃんがぎりぎりぎりぎりと食い縛り、サニぴょんを苦しめる
 しかし、タイプに岩があるだけ耐久は高めだ

 「それでも、時間の問題です」

 間をいれず、更にかみくだくの指示をミカンが出す
 サニぴょんの枝にひびが入り、どんどん体力が減っているのが見てわかる
 
 ・・・かみくだいている方はいつまでも食い縛っているわけにもいかない
 硬いものをかんだり、かみつづけていればあごは疲れるものだ
 そこに出来る、わずかな緩み

 「サニぴょん、じこさいせい」

 ハガネちゃんのあごがわずかに緩んだその隙を見逃さない
 その指示を受け、サニぴょんは軽く息を吸い込む
 同時に身体が光り輝き、体力を回復していく

 能力が上がっているハガネールの攻撃を耐えきった


 「脱出して! みずのはどう!」

 口のなかめがけてサニぴょんが技を繰り出す
 はずしようがない至近距離の攻撃を受け、ハガネちゃんがぐらつく
 ぱかっと開いた口の上からぽーいと投げ出され、サニぴょんは見事に脱出した
 落ちていく間にもう一度じこさいせいしてみれば、あっという間に体力は全回復だ

 「ふふっ、やりますね」

 ミカンが微笑む
 ポケモンバトルを心底楽しんでいるという顔だ

 そういえばこれまで戦ってきたジムリーダーもそうだった
 能力者にありがちな自己を見失う、人の性悪を見せるようなことはなかった
 あくまで自然体で、普段と変わらない口調ややり取り

 「さぁ、いきますよ」

 「望むところです」

 
 ・・・・・・


 「ようやく見つけたぜ」

 大きな翼を手に持つ黄土色の髪と瞳を持つ男が、海の上を歩く白髪の男に声をかけた

 「災厄」

 雲かげることなく陽は照り、翼を持つ男の後光のようだ
 海の上を歩く男の足元はそれにより、いっそう海面がぎらついている
 いや、そうではない

 「・・・なみのりするハガネールなんてありかよ」

 「・・・・・・」

 立ち泳ぎではない、人が海を歩く秘密はこれだったのだ
 海面下を泳ぎ、進むハガネール
 その鋼の身体がまたぎらつきを増させていた

 「災厄ってのは何でもありなのか?」

 「・・・そうではない」

 「だよな」

 白髪の男が喋ったと思ったら、また押し黙る
 黄土色の髪の男がそれを引きとめようとした

 「話があんだが、構わねぇよな」

 「・・・・・・」

 白髪の男がそのまま無視するかと思いきや、立ち止まる
 それから何の波音もなく、海面が盛り上がっていく

 ハガネールが海面上に現れ、頭を中心にして身体を渦状に丸める
 浮島が出来た

 黄土色の髪の男はさも当然、という顔でその鋼の浮島に降り立つ
 白髪の男は無言を保ったままだ

 「災厄、お前は何のために戦う? 何を守りたい?」

 白髪の男が少しだけ顔を上げ、それから黄土色の髪の男を見た
 無言を保ったまま

 「この世に生まれついて戦う理由も、守るものも無いやつはいない。0という数字の矛盾と同じだ」

 ふっと黄土色の髪の男がひとつ、息を吐いた
 白髪の男の言葉を、促そうとしている

 彼にも何かしら思い浮かべるものはあるだろう
 ただそれを言葉にするには足りないのだろう
 完全数である10が、いつまでも終わらない9の羅列であることと同様に
 
 黄土色の髪の男がにかっと笑った

 「俺が守りてぇのは人でも、土地でも、誇りでもねぇんだ」

 何を守りたいのかを明言しない
 断言のようで断言ではない
 
 守る理由が違っても構わないのだ
 ただ、
 
 「戦う理由が一致するなら、しばらく付き合えよ」

 黄土色の瞳が、白髪の男を見る
 それから白髪の男が口を開く
 追いかけるように、それでも黄土色の髪を持つ男はその言葉に追いつく
 

 「「この『Gray War』に参戦する為に」」

 
 互いがその言葉を読んでいたのか、動じない
 黄土色の髪を持つ男は自らのあごをなで、腕を組んだ

 「よろしく頼むぜ。災厄の・・・」

 名前を聞こうとしたようにもとれるが、やめたようだ
 知ってて、わざと言わないようにも見えた
 黄土色の瞳が作るその表情が少しばかり意地悪そうだったからかもしれない

 「・・・・・・」

 白髪の男はそれを流した
 興味なさげに、別のもの・海の先を見ている

 「もうすぐ役者が揃う」

 黄土色の髪の男の言葉は続ける

 遮るもののない陽は容赦なく降り注ぐ
 下にいるものの意向など気にもしない
 同じだった


 「そうだ。同じ戦う理由を持った奴らが、ここに」

 黄土色の瞳をつむり、男がその場に座り込んだ
 それから懐から干し肉を取り出し、噛み千切る

 「食うか? 先は長いぞ」

 「長いのか」

 揃うまで待つ気らしい黄土色の髪の男に、白髪の男が初めてノリツッコミをした
 
 白髪の男は天を仰いだ
 それはまるで「来るならさっさと集まってこい」、と言っているように見えるのだった・・・


 


 ・・・・・・


 ・・・終わった


 「屋上でオーナーがお待ちです」

 ただ一言、ミカンがそう告げた
 クリスは一瞥し、走り出す


 探すのはこの階にある階段
 隠されているわけでもなし、見つけるまでに10秒もかからない

トレーナータワー最後の階段を見つけ、屋上まで一気に駆け上がる

 足取りが軽い
 これまでの疲れはある
 それ以上に得たものがあった

 このタワー内で戦ってきたものがすべてクリスのなかに溶け込み、ものとなっていた
 だからか、1階から2階へ駆け上がる時以上に心身共に充実しているようだった
 

 あっという間に階段を上り終える
 一段一段が惜しく感じられる程、速かった

 目の前の扉を開き、屋上に出る
 オーナーはすぐ目の前、ドアを開ければわかる位置にいた

 そして、感じていたものをようやく目で見て取れた

 「やっぱり・・・」

 クリスはそれだけ、たった一言口に出した

 タイムアタック制と告げられ、
 レッドに言われ、
 皆に後押しされて、
 それぞれの階で待ち受けていた7人のジョウトジムリーダーを倒し、
 ようやく屋上にたどり着いた


 その屋上で待っていたオーナーは、その名は・・・・・・





 To be continued・・・


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