〜更なる高みへ/065〜
「やっぱり・・・」
・・・・・・
タイムアタック制
まず、そのことが頭に引っかかっていた
「各階の番人を倒しつつ早く上り、屋上のオーナーに会うまで」という条件
しかし、最初から比べるものがなかった
そう、屋上へとかかる時間の基準が何一つ無かったのだ
何よりも早く、
その「何」が、何も無かった
それに、
時間を思い切りかけさせ、
屋上へ上らせたくないなら、
番人それぞれがポケモン6体持ち、
身体を張った持久戦に持ち込めばいい
アイテム使用可でもクリスは相当厳しい
元より実力の高いジムリーダーが束になれば、
クリス1人を屋上へたどり着かせないことなど容易だ
それをせず、番人の持つポケモンはたった1体と決めていた
タイムアタック制
アイテムの使用可
番人のポケモンは1体
これらが示す意図、
答えへと繋がる糸の先にあるもの
それは「挑戦者を屋上へたどり着かせること」に他ならない
何よりも番人のポケモンが1体まで、というのがそれを一番示している
アイテムさえ使えれば、極端な話『だいばくはつ』『みちづれ』を繰り返すだけでも屋上へ行けるだろう
タイムアタック制というのは、挑戦者にタワーのオーナーの意志を気づかせる為のものだったのだ
トレーナータワー側が一から用意したはずのルールに、わかりやすい矛盾を投げ込む
どうしてそんなルールなのか、考えさせるため
同時に、ただオーナーに会わせたいだけではないことに気づく
オーナーに会わせたいなら、各階に番人を置かなければいい
気づくのだ
予め提示されていたことに
「オーナーに会えるのは、それなりの実力を持っていること」
番人を倒さなければ次の階段は上れない大前提
少なくとも、7人のジムリーダーがそれぞれ選んだ1体に勝てるぐらいに・・・
そこで、
タイムアタック制が意識され、
意図に気づいても早く上ろうという気概を失わせず、
気の緩みを持たせない
アイテムによるタイムロスを防ぐために自粛させ、
トレーナー自身に番人を最速で倒せるような状況判断・思考を仰がせる
どうしても無理でも、
タワー内ではアイテムを使うことが許されているのだ
屋上へたどり着けないことはない
すべては、オーナーが望むだけの実力をつけて挑戦者が屋上へたどり着くために
・・・・・・
「許可が下りました」
ゴールドのナンパを完全に無視し、メイルがそう告げた
すくっと立ち上がり、受付から彼女が出てくる
「これより、ここにいる皆さんを屋上へとご案内します」
待ちに待った一言
そして、それはつまり
「てことは、クリスが屋上に着いたのか」
「はい」
皆がほっと安堵し、笑った
間違いはなかったのだ
「なんか長く感じた気がするけど、クリスのタイムはどんなもんだったんだろ」
「部屋にいたトレーナーって誰だったの?」
「オーナーは誰?」
「屋上ですべてお答えします」
素っ気ないメイルに導かれ、レッド達がエレベーターに乗る
屋上へ直通だ
なかは沈黙を守り、少しだけ気まずい
「・・・・・・」
チーン、と箱が屋上についたことを告げた
タイムアタックに比べたらあっという間だ
ついに開く屋上への扉
光が差し込む
目の前にいるのは過酷な戦いだったことがわかる、少しボロボロになったクリス
そして、それに対して立っているのがオーナーなら・・・・・・
「オーナーって・・・」
「まさか」
意外すぎる存在がそこにいた
太陽光で輝く美しい水晶のようなボディ
北風の化身と呼ばれる彼の名は
「スイクン!?」
「オーナーって人じゃねーのか!?」
皆がびっくり、唖然としている
それもそうだろう
ただクリスだけがなんとなく察してはいた
『そう、こういう形で再会することになるとは思わなかった。
いや、これが運命というものなのかもしれない』
「オレ達のオーナーはそう言いたいようだ」
屋上へ続く階段からスイクンの言葉を代弁しながら、パートナーと現れた人物
スイクンの思念波をポケモンが読み取り、トレーナーが話す
「タイムは22分45秒、ジムリーダー7人相手に大したものだ」
「マツバさん」
クリスが後ろを振り向くと、レッド達もそちらを向く
マツバだけではない
いや、各階の番人が勢ぞろいしている
それにレッド達がまた驚く
「久しぶり、ゴールド君」
「は、ハヤオトォ!? それにえーっとクルミちゃんの横にいた、あ・・・アカネだっけ?」
「元気でやっているか、グリーン」
「シジマ師匠・・・」
特別な再会もあったようだ
それにしてもジョウト地方のジムリーダーが、何故こんなところに
クリスが倒し続けてきた番人が彼らだったというのか
「その通り」
「我々がトレーナータワーの番人であり、あるポケモンの下で能力者になった」
「能力者っ!?」
「ポケモンの下ってまさか・・・」
次々に語られる事実に驚きを隠せない
ひゅうっと風が吹き、皆の肌を撫でる
「とりあえず座ろうか。まず、こちらから、こちらの知るすべてを話そう」
ハヤトが微笑み、そう提案する
屋上の真ん中にスイクンを中心に、皆が車座になる
・・・・・・
「ジョウト地方襲撃に遭ったオレ達の目の前に現れた喋るイノムー」
「そいつに連れられ、私達はこのトレーナータワーにやってきました」
「能力者になったのはここで、そのポケモンに師事を受けたからだ」
ジョウト地方の襲撃から、良く無事にここまで来れたものだ
いや、それよりも
「喋るポケモン、って・・・ウチのシショーみたいな?」
『最近影薄くてさー。横にちゃんといるからね』
レッドの言葉にジョウトジムリーダーズは頷く
シショー以外にこんな変態ポケモンがいるとは考えもしなかった
「ただ、私達を能力者に育て上げたところでどこかへ行ってしまった」
「それ以降、連絡は取れません」
「うーん」
皆がシショーをがん見する
『そんなに見つめないで』と翼で顔を隠すという今までにない反応を見せるが、なんとなくどうでもいい
こういう喋るポケモンが何体もいることが問題なのだ
「シショー、あんた他にもそういうのがいるの?」
「連絡が取れるなら、今にでも取りたいのだが」
じーっとシショーの方を見つめる
「そもそもポケモンが喋るというのがな・・・」
「同感だ」
疑わしい目を向けるイブキとマツバに、シショーがさっとイエローの後ろに隠れる
「え、ポケモンが喋っちゃいけないんですか?」
『あっしも喋ってますぜ、旦那方』
ミカンがそちらに驚き、ハヤトのパートナーがカカッと笑った
そうやって誤魔化され、うやむやにされてきたのだと察し、皆がため息をついた
「って、ハヤトのポケモンも喋るのか?」
「ああ、これは正確に言えば喋ってるのはポケモンじゃなくて、オレの方なんだ」
「腹話術?」
「能力が起因している、ね」
ハヤトがエアームドを肩の上にとまらせる
「オレの能力は『伝羽』。
鳥ポケモンの羽根を持つことでその位置が伝わり、また意思を知ることが出来る」
『あっしらの意思が伝わるのと同時に、ハヤトの旦那がそれを口に出すって寸法でさぁ』
技の威力が上がるなどの能力ではないが、遠く高く行ける鳥ポケモンがハヤトの目になる
炎に紛れ、隠れていたクリスを見つけ出したのもうなずける
意思を読み取るという点ではイエローの能力に似ていた
しかし、それを口に出すというのはどういうことだろう
ハヤトに腹話術の心得などあったのか・・・
「それが突然出来るようになったんだ」
「突然?」
「ああ、ある場所に行ったら・・・な」
へぇ、とわかったような顔でゴールドがうなずく
どこかのお笑い芸人養成所を想像しているようだ
「まぁ、鳥ポケモン達の話したいことすべてを口に出すわけじゃないんだけどね。
向こうが口に出してほしくない意思はこちらでもわかるし、その辺は向こうも考えてるみたいだ」
ただし、ハヤトも能力に振り回されているフシがある
口に出す、というのは戦いにおいてデメリットにもなりうるからだ
「能力に振り回されているという点では、ボクも同じです」
そう言ったのはツクシ、パートナーはヘラクロスだ
彼の能力の破壊力はすさまじかった
「でも、あれ以上は出せません。
ヘラクロスの身体が保たないんです」
「いえ、あれで充分だと思いますけれど・・・」
クリスがそうつぶやいた
何らかの形で身体の強化、すなわちステータスを上げなければ耐えられない
それだけの破壊力があるというのも考え物だ
「まぁ、我々の能力はおいおい説明していくとしよう。
それよりもまず話しておかなければならないことがある」
イブキがふんぞるようにして、真摯な表情でレッド達を見る
話しておかなければならないこと、それでジョウトジムリーダーも内容を察した
「現在の、カントー本土及びジョウト地方の状態についてだ」
「!」
それは何より聞いてみたかった
ということは、ハヤト達は行って見てきたのだろうか
「ああ。そこで出会ったのがメイル・アカダミアンという子だ」
「彼女はポケモン協会に属する人間で、壊滅から逃げてきたらしい」
「正確には逃げ切れていません。ハヤト氏が通りかからねば、私は敵の手中に落ちていたはずです」
ハキハキと危なげな発言をするメイルを抑え、ハヤトが説明を続ける
「潜入したのは俺、侵入経路は海だ」
自身を親指で差すハヤト
得意の飛行タイプでの偵察は目立ちすぎるので、新たに加入したマンタインの潜水で上陸した次第だ
「そこで見たものは」
ハヤトは言葉を選ぶように一度区切り、それからゆっくりとかみ締めるように言葉に出した
「・・・どこも何も壊れていない町並みで、最低限の都市機能が働いていた」
「どういうことだ?」
「まるで侵略など無かったかのような、平凡な光景だった。ただ人影は殆ど無かった」
最低限の都市機能を保たせているのは組織の人間による、最小限の人数が在住していたからだ
つまり、あの組織は町の人を全員追い出した上でその町での生活ごっこをさせているわけだ
「何の意図があるのかはよくわからない。ただ、ポケモンの生態系や人間社会を侵そうとは思っていないようだった」
ワタルの思想、サカキの支配とは全然違った
意図が読めない
なんで、わざわざ組織の人手を割いてまでするのだろうか
そこに何か組織の行動理念のヒントがあるのだろうが、よくわからないのが現状だった
「マサラタウンも?」
「ああ。潜入は3回行った。ジョウトは2回。
襲われ、被害を受けたとこの目で見たはずの建物や町並みは・・・見事なまでに修復されていた。
足りない欠片、いないかったのは町の人だけだ」
ごっそりと消えてしまった町の人達はどこに消えたのか
組織が連れて行ったのだとしたら、それだけの人数をどこに隠しておけるというのか
「組織の本拠地に隠しているなら、相当な規模の建物だな」
「ていうか、建物ってレベルじゃなくない?」
それこそ異次元でも何でもいい、広大なところが必要だ
逆転の発想で人を小さくすれば・・・・・・ありえない
ポケモンのちいさくなるを人に適用させるなんて、更に出来そうにない
仮にそういう能力者がいたにしても、かなりの厳しい条件があるのではないか
「そこに俺達も目をつけた。そして、ひとつの結論にたどり着いた」
ハヤトがすくっと立ち上がり、屋上の扉を見る
それに続いてジョウトジムリーダーズは立ち上がると、レッド達もつられて立ちあがる
どうやら場所を替える、下に降りようということらしい
「なぁ、奴らのアジトってどこにあるんだよ」
ゴールドが聞くが、ハヤトは黙っている
ここでは話せない、もしくはまだ話せない段階なのか
何にせよ、レッド達はその後についていくしかない
スイクンもスッと立ち上がり、クリスのあとについていく
「・・・・・・スイクンをナナシマに連れて来たのは俺達だ」
階段を下りながら、ハヤトが口に出す
屋上に、ここのオーナーとしているということからそうだろうと察していた
「ここの海流は速く、スイクンでも海を渡ることは至難だったようだ」
出来なくはなかったようだし、ジョウトのアサギからタンバへは過去に渡ったという記録がある
しかしジョウト地方で駆け回っていた頃とは違い、ナナシマでは基本的に海での『捜索』になる
水ポケモンのスイクンでも常に海上を走り回っていることは難しいし、島で休めばローラー作戦に出ていた組織の手にかかりやすくなる
「組織に戦力を取られるわけにもいかなかったが、我々を選ぶことはなかった」
「ライコウも途中まで一緒だったんだが、カントー本土に入ったらいなくなってしまった」
「エンテイは?」
「始めから2体とは別行動を取っていたようだが、組織に捕獲されたようだな」
マツバがずばりと指摘した
ライコウやエンテイと繋がりのあるスイクンから、千里眼を通して感じ取ったらしい
「じゃあ、ライコウも?」
「残念ながら、ライコウの行方はわからない。千里眼でも見通せなくなった」
エンテイも組織側に捕まったことは感覚でわかったが、持ち主を特定するまでには至らなかった
マツバにも見通せないものは確かにある
「エンテイは組織の四大幹部の1人、ディックのものになった」
「それとサンダーも、俺達の目の前で・・・」
捕獲された、そう弱々しくレッドがつぶやいた
今現在、誰がどの伝説のポケモンを手にしているかわからない
ファイヤー、サンダー、ライコウ、エンテイは組織の手側に落ちたもしくは可能性が高い
いや、ファイヤーはその姿を確認したわけではないからまだ逃げおおせているかもしれない
「あ、フリーザーは大丈夫です。災厄さんの手持ちになりましたから」
「災厄? 信用出来るのか」
イブキの問いに、イエローが大丈夫ですと微笑んだ
そうやって言い張るけれど本当は敵か味方かもわからないのに、とブルーは苦笑しつつあきれている
「で、スイクンは?」
『もう選んだ』
スッとクリスの方に身体を寄せ、クリスも軽く撫でた
グリーンはふむ、と納得するように小さくうなずく
「スイクンの求める資質は『愛』と『道徳』だったか」
「あー、道徳っておカタそうなイメージあるわ。学級委員のクリスっぽい。
でも、愛・ねぇ〜?」
「ゴールド!」
クリスが声を上げると、ゴールドはどたどたっと階段を素早く下りていく
そうやって部屋のなかに逃げ込んでみると、うひゃあと声を出した
壁や床にひびが入り、ここだけ爆撃を受けたような跡が残っている
どれだけ激しいバトルをしたのかと、思うほどだ
「ここはわたしの部屋ですね」
ミカンがふふっと笑う
そのパートナーのハガネールが、思う存分に暴れたのだろう
クリスはそれに、トレーナー能力ごと勝ったのだ
ゴールドはふーんと、感心する
こんな調子で勝ち上がり、屋上までたどり着いたのか
本当に強くなった
「でも、最後は少し運任せでしたね」
「・・・はい」
ミカンが思い出すようにあの戦いをそう評し、クリスが安堵と残念そうな表情を見せる
双方ぎりぎりのところでクリスがなんとか勝利を引き寄せた、ということだろう
「なんだ、運かよ」
ゴールドはあきれたぜ〜、というポーズを取ってみせた
クリスが「運も実力の内です」と言えば「やっぱ運じゃねーか」と返す
「何がいけないの」「運はいつか切れるもんだ。ガチンコの実力で勝たないとなー」「なんですって」「なんだよー」
悔し紛れに調子に乗る方、真に受けて相手にする方も悪い
もうほっとこう、と他の皆の意見が合致した
このトレーナータワーで、クリスは「ここという勝負をものにする思い切り」を手にしたのが大きい
それは戦いにおいて最後を分かつ一本の、か細い糸
引っ張れば切れるかもしれないし、勝利を手繰り寄せるかもしれない
トレーナーに限らず一流の戦う人間は勝機を狙い、それを見誤らないものだ
「床、抜けそうなくらいぼろぼろだな。ハガネールのじしんか」
「ヘラクロスが天井を足場に、メガホーンを撃ったからもあるんじゃないのか。
一番は私のハクリューが階下の壁や柱をりゅうのいぶきで撃ち抜いたからだろうがな」
「マジで大丈夫か、この建物」
「トレーナータワーの天井と床はくっついていない、二重構造だから早々床は抜けたりはせんよ」
「なんや、そうやったんかい」
「え、でも柱から崩れはするのよね・・・」
「確かにあのまま屋上にいたのは危なかったかもな〜」
「おーい、ゴールドくーん、クリスさーん、おーいてーくぞー」
アカネは知らんかったわと、つぶやくと・ツクシは「二重構造ってのは設計図上では、らしいですよ」と言う
クリスとゴールドを置いて、本当に皆が次の階下へ降りていく
ハヤトの呼びかけも聞こえていないのかもしれない
その2人のやり取りを、スイクンはふっと表情を緩めて見た
『どうしたのさ』
『いや、なんでもない』
シショーがスイクンの表情の変化を読み取り、声をかけた
察しているからか、どこかシショーの顔はにやっとしたものだった
・・・・・・
「・・・なるほど、ハヤト達の能力は大体理解したよ」
「そうかい」
レッド達は2時間ほどかけて1階ロビーまで下りてきた
1階降りるごとにどんな戦いだったのか、その反省点やジムリーダーズの能力の詳細を聞いた
流石、実力者の代名詞とされるトレーナーだけあって能力も強力なものが多い
「これから、どうする?」
「決着をつけに、組織のアジトに乗り込みたい。けど、まだ実力が足らないと思うんだ」
「こんだけ実力のある能力者の協力を得られるっていうのは力強いんだけどね」
これまで味方らしい味方は、敵に比べて圧倒的に少なかったので助かる
実力も申し分なく、心強く頼りになりそうだ
「ジョウトジムリーダーズの目的は『ジョウト地方の奪還』だ。
組織そのものと対抗し、戦おうとする君達とは利害一致する」
「何より、あなた達の活躍をいつも心から応援していますから」
ミカンがにこっと微笑むと、レッド達はなんとなく照れてしまう
タイプや能力的に考えると、ジムリーダーズのなかでの暫定的な実力的では彼女が一番らしい
「さて、実力が足らないと言ったお前達はこれからどうするのだ」
「うーん、このまま修行のような旅を続けるのもなー」
ナナシマ諸島、最後の島7のしま
ここが旅の終わり、という感じはする
しかし、最終的に目指す四大幹部を倒せるだけの実力を持っているのかどうか
「・・・うん、じゃあ遺跡に行ってみるといい」
ハヤトの提案に、首をかしげる
「遺跡?」
「7の島、しっぽうけいこくを南に抜けた先にアスカナ遺跡がある」
シジマが指差し、その先を示す
「そこで、我々は・・・・・・なんというか精神的な把握をすませたのだ」
心身を追い詰め、己の能力の限界を見極める『把握』
しかし、いくら心身を追い込んでおおよそ把握し終えても何かしっくりこないところがあった
「喋るイノムーの勧めで、遺跡に入った」
そこでどんなことがあったのか、よくおぼえていない
だが、出てきた時には変わっていた
能力と心身にあった何かが埋まっていた、とマツバが補足する
「その時のオレ達の人数は7人、喋るポケモンが1体。小さな浮島のような遺跡は7つで、それぞれ1人1つずつ入っていったわけだが・・・」
シルバーのいないレッド達は6人だが、状況は極めて近い
能力の大体はガイクの特訓や今までの戦闘から把握してきたつもりだ
特に喋るポケモン、その導きでここまで来たという状況も似ている
ハヤトの腹話術もどきも、この遺跡を出てから身についたものだという
ただ、その遺跡から出た後にイノムーがいなくなったというのは・・・
『大丈夫。僕はいなくならないよ』
ブルーやレッド、イエローが顔を見合わせる
シショーの言葉に不安もおぼえるが・・・
「行ってみる価値はありそうだな」
「そうですね」
人数が不思議な体験に関係してくるなら・あと1人は必要と言うことになるが、行けば何か代案のようなものが思い浮かぶかもしれない
シルバーが今になって帰ってくる、なんてこともありえるかもしれない
最後の目的地が決まった
新たな決定はレッド達の心を弾ませるが、シジマはそれを戒めるように言った
「そうして能力を知れたのはいいが、それで理想に近づくと言うことではない。
慢心せず、ただ目標に向けて高めていくしかないのだ」
そう、結局はそこに行っても使いこなせないところは残った
いわば知識に実力が追いつけていないようなものだ
それを解消するにはポケモンのレベルアップなどのフォロー、トレーナー自身を鍛えることは続けていく必要がある
・・・使わない力は衰えていくものだ
―――死ぬまで進め、二度と戻れない道を―――
ぞわりと背筋をなぞるような、冷たい声が聞こえた気がした
そういう覚悟はしていた
それでも底が見えない恐怖は、底が見えるという安心を得るまで続く
底があるのか、わからないまま・・・
「考えても仕方ないさ。行こう」
レッドは声に出し、皆に呼びかけた
・・・以前は暗いことばかり頭に浮かんでいた気がする
でも、いつからかそれを考えないことに決めた
前に進んで、前に進んで、
途中で止まることがあっても、後ろを見ないこと
後ろはきりがない
だから、前に進む
今は、まだそれだけでいいのだ
後ろを見るのは、目標にたどり着けるくらい充分に強くなってからでいい
「私達は組織のアジトについて、もう少し調べてみます」
「あと少しでわかるところまできている」
「わかり次第、アスカナ遺跡へ向かう」
「わかった。すぐに追いついてきてくれよ」
「それと話してくれた四大幹部の戦闘記録と能力内容について、これもこちらで推察しておく。
敵の能力は対決前に、少しでも解明しておきたいからな」
「・・・こちらでの能力推測も伝えてあるからには、新しい発想に期待する」
「あまりプレッシャーをかけるな」
「そうやそうや」
つかの間の談笑
いや、嵐の前の高揚というべきものだ
ジョウトジムリーダーズの協力も得て、最終決戦は間近に迫っているのを感じる
もうこの流れは止まらないのだ
「そうや、クリス、あんたのカラカラのホネっこ折れてもうたんや?」
「あ、はい」
アカネに言われた通り、ツクシとの戦いでカラぴょんのホネは完全に折れてしまった
ポケモンセンターでも治るものでもなく、実質戦闘不能状態は続いていた
「ほんなら、これやるで。いらへんもん」
渡されたのは『ふといホネ』だった
これがあればカラぴょんの力がまた上がる
「ありがとうございます!」
「ええって。それとスイクン、大事にしなや」
クリスの手持ちポケモンとなったスイクン
おさまるところにおさまった、という感じでボールのなかでくつろいでいる
今まで見せなかったその表情に、ジョウトジムリーダーズは少しばかり嫉妬しているようだ
「そーいや、メイルさんはどうするんですか?」
「ジョウトジムリーダーズに、まだしばらくはついていく所存だ。
最終決戦もおそらく参戦することになる。それがきっとポケモン協会、そして上司の意志だ」
はきはきと答えるが、その言葉の内容は重く凄惨なものがある
屋上から下まで来る時にポケモン協会壊滅の話を聞いたから、尚更だ
「気にすることはない。ただ互いが出来ることを、ベストを尽くしあえば自ずと結果は良いものなる」
「幸運を祈る」
ジョウトジムリーダーズに見送られ、レッド達はトレーナータワーをあとにした
目指すはしっぽうけいこく、アスカナ遺跡
そして、そこに待ち受ける能力者がいることを・・・まだ彼らは知る由もない
「・・・・・・そういえばゴールド君達に、しっぽうけいこくに能力者がいることを言い忘れてたね」
「ああ」
「大した問題ではないだろう」
「私達はするべきことを為すだけ」
ジョウトジムリーダーズはこの先に他の能力者がいることを知りながら、笑っていた
その笑いの真意は、
本当に彼らは味方だったのか
後ろを振り返らなかったレッド達は、その笑みを見ることはなかった
To be continued・・・
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