〜更なる高みへ/066〜




 「・・・・・・そういえばゴールド君達に、しっぽうけいこくに能力者がいることを言い忘れてたね」


 ・・・・・・


 「スイクンが仲間になって心強いな」

 「数の上の不利は変わらないがな・・・」

 レッドの言葉にグリーンがまゆをひそめ、ぽつりとつぶやく
 ジョウトジムリーダーズという強い味方を得たが、組織の圧倒的人員にはかなわない
 伝説のポケモン保有数も向こうが上だから、楽観は出来ないのだ

 「ま、とにかく遺跡に行こうぜ」

 『慌てない。準備はきちんとしないと』

 シショーがシショーらしいことを言う
 ポケモンセンターに寄って、他から今の状況も知っておこうと決める

 
 「ようこそ、ポケモンセンターに」

 ジョーイさんの柔らかで優しい声かけが懐かしく聞こえる
 相変わらず必要物資の普及はままなっていないようで、カントー本土からの避難民も多かった

 「・・・うーん、見覚えのある人はいないなぁ」

 「そう」

 強い人というのはこういうところには来ないものなのだろうか
 少なくともレッド達の知人はまだ見つけていない
 この生活はいつまで続くのか、そんな嘆きの声も耳に届いてくる
 組織が何をしたいのか知らないが、早く終わらせなければならない
 
 レッド達は必要そうなものを買い込み、ポケモンセンターをあとにした
 値段はかなり割高で、需要と供給のバランスが崩れてきているのだろう
 ・・・そういう点からも、もう長くはナナシマ諸島での避難民生活は続けられないはずだ
 確かに早く終わらせる必要がある

 そういえば買ってもらったポケギア、まだあんまり使ってないなぁとイエローが笑う
 付かず離れず行動していると、確かに使う暇がない
 また分断されれば話は別だが、今のイエローにはそらをとべるポケモンもいるから合流は楽だろう・・・


 ・・・・・・


 しっぽうけいこくは壮観、といっても良い
 緑も意外と豊かで、挟まれた山肌との対比が海の青に見慣れた目には新鮮だった
 山に挟まれた川のあるところを渓谷というようだが、川はまだ見えない

 「考えてもみりゃ、カントーやジョウト地方の命運は俺達にかかっている!
 なーんて、おかしいッスよねぇ」

 突然、ゴールドは首をかしげて言う

 R団、四天王、仮面の男

 レッド達は自分の夢などのために思うままに行動し、そして運命・大きな事件に巻き込まれていく
 今回もそうだ
 
 「たまにはドアップできゃーたすけてー、って言うだけって方に回ってみたいわね。楽そうだもの」

 「死亡フラグ立ってませんか、それ」

 ブルーはそれだけでも出演料はがっぽり貰うけど、と更に付け加えた
 こういう人はどこでも主役になれそう、なってしまいそうと苦笑する

 『まぁ、そういう星の下に生まれついたんでしょ』

 「諦めた感じですねぇ」

 それをひっくるめて災難、というのかもしれない
 立ち向かうだけの力があるかどうかはまた別の話になってくるが・・・

 「ここを抜けたとこに遺跡か」

 「能力者の把握を促すなんて・・・どんな遺跡なんでしょうね」

 「まぁ、しばらくはこの景色を楽しめばいいんじゃね」

 のんきなピクニック気分で、レッド達が道を進む
 野生のポケモンも襲ってくるが、ガイクの庭に比べたらかわいいものだ
 出てくるソーナンスのカウンターやミラーコートをゴールドの特能技・ディブパクトで更に跳ね返す
 見事なものだ、と素直に感心する
 
 「へっへ〜、意外と使えそうだぜ」

 また野生のソーナンスが現れると、ゴールドはニョたろうを繰り出す
 水技を放てばそれを倍返しにしてくるので、再びそれをディブパクトで跳ね返してやる
 大慌てでソーナンスが逃げ出すと、山の斜面から何かが飛び出してきた

 「!」

 3倍の威力になった水流
 それを飛び出してきた何かは打ち消すが如く、パァンと音を立てて相殺してみせた 
 相殺、いや文字通り霧散したのだ

 「・・・成る程」

 「お前は・・・」

 目の前に現れた灰色の虚無僧
 レッドにはおぼろげに見覚えがあった
 育て屋ガイクの裏庭での戦いで出会った・・・組織の幹部候補だ

 「刺客、というわけか」

 『久々な気がするよ』

 「これは組織の意志ではなく、私の意志だ」

 虚無僧はそうはっきりと告げた

 「上はどこか軽んじている節があるが、お前達のこれ以上の成長は危険だ」

 手柄を立てよう、指令ではない
 組織存続の危機感

 「だから、私が潰す」

 シルバーに邪魔され、一度潰し損ねたという借りもある
 その相手がいないのは惜しいが、仕方ない

 「だからって1人でくるかよ、おい・・・」

 「確かに」

 6人+1体VS1人
 その無謀さに思わず突っ込まざるを得ない

 「笑わせてくれる」

 「んだと」

 虚無僧がふんと鼻を鳴らしたのを、その深い編み笠の下からでもわかった
 完全に下に見ているのだ

 「幹部候補の実力、思い知れ」

 虚無僧が、その被り物・深く大きな編み笠に手に取り・・・投げ捨てる
 空に舞い、地に落ち、それを右足で踏みつけた

 「幹部候補・ネオ」
 
 上に束ねて編み笠で抑えていた長い黒髪が、ばさりとしだれ落ちる
 細くやや吊り上がった目に強い意志を感じ取れた

 「お」

 「女ァ!?」

 虚無僧のスタイル、編み笠の下でくぐもったハスキーボイスからは想像つかなかった
 
 「ポケモントレーナー、ましてや能力者において男女の性別に差などない」

 それはその通りだが、女性が虚無僧の格好をして姿を隠すのに少し驚いたのだ
 しかし、構わずネオは懐からモンスターボールを1つ取り出す

 「そちらは何人、何体で来ようが構わない」

 ネオが取り出したボールから出てきたのはバクオング
 確かによく鍛えられているポケモンに見えるが、今のレッド達全員を相手にしきれるだろうか 

 「ただし自分の身の安全には気をつけろ」

 「ワケわかんねーこと言ってんじゃねー!」

 ゴールドのニョたろうがやる気満々、戦闘体勢を取る
 
 「何人で来てもいいんだな」

 グリーンがリザードンを繰り出し、ブルーがプリンを出す
 向こうから言い出してきたことだ、時間も惜しいことだし一気に勝負を決めたい

 「ああ、構わないさ」

 ネオは自信満々だ
 そして、その源は自身の力を信じているから・・・

 「何人来ようが、私の能力には勝てんぞ!」

 ネオと同様にバクオングが吼える
 その咆哮が渓谷中に響き渡った
 強大な音波、その振動が辺りを騒がす

 「うッ!?」

 レッド達の様子がおかしい
 胸をおさえ、少し苦しそうだ

 「音とは振動だ。渓谷中を反射し、四方八方からお前達を襲う」

 大きなスピーカー、大音量の前に立つと胸が締めつけられるようなことがある・・・そんな体験はなかったろうか
 過度の音・・・いわゆる低周波音などと呼ばれるものにより、胸や腹などに圧迫感をおぼえる
 それと同じことが起きているのだ
 ネオ自身にも降りかかっているはずだが、厚い生地と何重にもなる虚無僧の服が振動を和らげているようだった
 被っていれば編み笠も防音仕様であり、元々そういう音波系の能力にも耐性がある

 「これだけだとただの騒音だが、私の能力はここからだ」

 グリーンは胸を押さえていると、リザードンの様子がおかしいことに気づいた
 リザードンだけではない、プリンもニョたろうも身体を思い切り震わせている
 苦しそうに声をあげ、必死に堪えているように見えたのだ

 『い、けない・・・ッ! この音はぁああっ』

 シショーがうわぁあぁぁぁああぁと絶叫をあげて、物凄い速度で上空へと逃げて行く 
 レッド達はもうあっけに取られるばかりである
 ポケモンでありながら話せるんだから、その身に何が起こっているかぐらい言ってからにしてほしい

 「って、これなんか・・・」

 見覚えがあった
 反応こそ過剰を越えているものだが、どこかで見覚えがあるのだ
 このポケモンの状態は

 「混乱!」

 リザードンが自らを攻撃し始め、その横にいるグリーンまでも攻撃し始めた
 自傷行為もさることながら、その拳や尾で周りの地面を叩き割る

 「!」

 炎ではない素での攻撃がここまでの威力
 いつものリザードンで出せるものでもなく、ただの混乱ではないのがわかる
 
 「この音でっ、ポケモンを混乱させて・・・」

 「そうだ。この音でポケモンを混乱させ、暴力性を極限まで高めるのだ」
 
 いばるの強化版、といったところだろうか
 しかも音波そのものがトレーナーへの、ポケモンが暴れることで攻撃に繋がる

 「耳を塞いでも無駄だ。振動が身体を伝わり鼓膜や器官が震え、同じ効果を出させる」

 つまり、この能力から逃れるには音の届かないところまで逃げるしかない
 ・・・シショーのように・・・

 「ひでぇ!」

 「だが、飛行ポケモンで上空へ行こうが攻撃手段が無ければ意味が無い」

 近づけば音波で混乱してしまうのだから、音が届かないところからの攻撃が一番だ
 しかし、渓谷に囲まれた現在では本当にそれは空しかない
 アイテムを使っても、すぐ混乱になってしまう上にこうも暴れていては投与出来ない 

 「リザードンなら炎があるが・・・」

 「じゃあ、戻せばいいんですよ!」

 イエローの指摘は正しい
 ポケモンの混乱状態は一度ボールに戻せば回復する
 いったん戻して、思い切り上空へ投げ出せば何とかなるかもしれない

 だが、それも駄目だと肌で感じた
 すぐに諦めざるを得なくなる
 
 レッド達のポケモンが入ったボールががたがたと揺れている
 振動がボールを伝わり、なかにまで影響を及ぼしているのだ
 ボールに戻したところで混乱は回復しないようで、暴れては自傷していた

 「・・・!」

 「なんだってー!」

 ボールのなかにいるだけなのにそのポケモンは傷つき、HPが減ってしまう
 普通ではありえない

 「渓谷が、相手の能力を底上げしてるのかっ!」

 グリーンの推測が渓谷に響く 

 バクオングの力、能力もあってもここまで影響を及ぼすものとは考えにくい
 おそらく室内などの限定的な空間で効力を高めるのだ

 「これが私の能力、敵自らが涅槃(ねはん)へと往く音。
 すなわち『ネオ』だ」

 混乱状態、それも攻撃が上がっているポケモンが傍にいるのは危険だ
 しかし、ポケモンを出していなければ相手のポケモンに襲われる
 
 「どうすんのよ!」

 プリンがわけもわからず、のしかかるように上からブルーを攻撃する
 ニョたろうはその身体ごと腕をぐるんぐるんと振り回し、滅茶苦茶にぶつかってくる
 
 「ッつぅ、わかんねーって!」

 あわあわとゴールドが逃げ回り、ボールに戻そうかどうかと躊躇いがちだ
 そこにリザードンが火炎放射を吹いてきたので、レッドがさっと誘導する

 「混乱がいき過ぎて敵も味方も区別がつかないの!?」

 「頭が・・・」

 音波によるトレーナーの攻撃もある
 この胸を締めつける苦しみ、頭も痛くなってきた
 自分のポケモンの混乱行動に気をつけ、避ける

 確かに、これなら彼女1人対レッド達全員でも構わないだろう
 
 「皆さん、こちらへ!」

 クリスが叫ぶ
 その傍らにはスイクンが、苦しそうに何かをしようとしているのが見えた
 
 「なにを」

 「やってみたいことがあるんです」

 スイクンの頭部を音叉のように震わせている
 これで混乱音波をいくらか相殺しているらしく、スイクンは我を忘れていないわけだ

 「戻れ。リザードン」

 「ぷりり」

 「ニョたろう!」

 一斉にポケモンをボールに戻すが、やはりなかで暴れまわっている
 イエローの回復をさせようにも、これでは焼け石に水でしかない
 レッド達がクリスを中心に固まるように集まると、スイクンの頭部が光る

 そして形成されていく透き通るような美しい壁
 スイクンが生み出す水晶壁だ

 「そうか!」

 特殊な水晶壁なら、この能力による音を遮断出来るかもしれない
 望みはある
 
 「させるか」

 バクオングが構えを取り、そして放つははかいこうせん
 ・・・いや、収束されたハイパーボイスというべきものだった
 特能技に近い

 その攻撃が形成されかけだった水晶壁と激突する
 ミシミシと嫌な音が耳に聞こえる

 「お願い、頑張って・・・」

 スイクンがぐぐっと力をこめるが、閉まりかけでは音は完全に防げていない
 閉じさえすれば、頭部のものと共鳴させて水晶壁そのものを振動・混乱音波を相殺することが可能なのに

 「・・・幹部候補と戦ったことはあるか」

 接触したことはあっても直接的な戦闘はこれまで殆ど無かった
 ブレイド
 ジン
 サックス
 マストラル
 
 「腕輪1つや2つ・・・幹部候補レベルの実力のあった敵もいたろうが、所詮はそれまでの者」

 踏みつけ、台にしていた編み笠をネオが拾い上げる
 それから再びそれを被った
 
 「私程度に勝てない能力者風情が、四大幹部に勝とうなど片腹痛い!」

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドと猛烈なエネルギーが水晶壁を押し続ける
 その勢い、止まらない

 「伝説のポケモンといえどその力、使いこなすには努力値をきちんと振らねば無意味」

 べきべき、ばきんと水晶壁がひび割れていく
 
 「あ、あぁ・・・」

 クリスの表情が曇っていき、悲しげなものに変わる
 力の差が、わかっていくのだ

 努力値がきちんと振られていなければ、伝説のポケモンも力を発揮出来ない
 技、特性、その能力に合ったものでなければ・・・・・・ただのポケモンにも負ける
 
 「水晶壁も、努力値やスイクン自身のステータスに影響されるものと知らなかったか」

 これまでスイクンは水晶壁を何度か使い、攻撃などを防いできた
 しかし、それは並みのトレーナー・・・そのレベルが相手だったからに過ぎない
 能力者、努力値などの裏ステータスを知るものとの戦闘ではかなわない
 彼らの技に対抗するには、こちらも努力値を振る必要があったのだ
 
 故に、この結果は当然のものだった・・・
 スイクンの水晶壁が破れ、粉々に砕け散ることは・・・・・・

 「うわぁあぁああぁ」

 衝撃に飛ばされ、レッド達の体勢が崩れる
 そこでボールの開閉スイッチが入り、ポケモンが飛び出す
 まだ残るバクオングの攻撃に・・・身を挺してレッド達を護った
 
 それは一瞬のことだったが、確かなことだった
 おかげで、レッド達は直撃を避けられた

 「私の絶技、『砕秦』」

 ハイパーボイスを能力で強化、そして一方向に向け、威力を更に上げた
 タイプ一致、その破壊力ははかいこうせんレベルなことは確かなようだ

 「さて、混乱でじわじわ自滅させるか。それともひと思いに私の手で・・・」

 ネオとバクオングがじり、じりと迫る
 レッド達をかばったピカ、チュチュ、ゴルダック、メタちゃん、ウソたろう、スイクンが動こうとした
 そこを狙って、バクオングがまたあの混乱音波を放ち始める
 ・・・またも取り戻しかけた正気を打ち砕かれ、暴走混乱状態に入った
 守ろうとしたトレーナー達を攻撃し始め、必死にトレーナー達はそれを避けていく
 
 「くっそぉ! いい加減目を覚ましやがれっ!」

 「スイクン」
 
 「ピカ、10まんボルト」

 場の混乱のなかでレッドの指示も届かず、ピカはわけもわからず自分を攻撃した
 そして、こんな状況でも彼は笑った

 「やっぱり」

 暴走とはいえ混乱状態
 明確な指示を出さないからトレーナーをも攻撃してしまう
 逆に言えば明確な指示を出せば普通の混乱と同様に「自傷」か「指示通り」の2パターンになる

 グリーンやブルー、他の皆も気づいた

 「だが、確率は50%。いや、我を忘れた暴走でそれ以下だ」

 「自傷にはしれば、上がった攻撃で大幅にHPが減って自滅しちゃう」

 本当に、何も打つ手がないのか
 それよりも、これが本当の『幹部候補』の実力ならば・・・

 「まいったな、まだまだこんな強いやつらがいたなんて」

 ははっとレッドがまた笑う

 「渓谷という自分に有利なフィールドに持ち込む。
 自分の能力をしっかりと理解し、把握した結果か・・・」

 「いや、なに余裕ぶってんスか!」

 「その通りだ」

 ネオの、バクオングが発する音波がより強くなった
 編み笠を被ったことで、自身への負担がなくなったからだろう
 レッド達の頭痛、胸の締めつけが一層ひどくなる
 ・・・・・・気持ちが悪い

 「うげ」

 能力ひとつで何重にも苦しめてくる
 しかし、やっと欠点が見えてきた
 
 「イエロー、協力してくれ」

 「はい?」

 グリーンは何か光明が見えたようだ
 ゴルダックを戻し、代わりにハッサムを出した

 「かなり危険だが、やってくれるな?」

 「・・・なんていうか、断れないですよね」

 混乱音波にあてられたハッサムが暴れだした
 流石に元から攻撃が高い故、暴走状態でますます手がつけられない
 というよりも、手先が刃物のようなもので相当危険な代物だ

 「ここここれでボクにどうしろと!?」
 
 「久々に見せてやる。ハッサム、バクオングに『ディス・カイ・クロウ』!」

 グリーンの言葉ですべてわかった
 そして、ネオにもわかった

 
 ・・・・・・


 「なぁ、災厄」

 「・・・・・・」

 丸まったハガネールの上に乗る男2人
 何の進展もない

 「つかよ、このハガネールどこ行ってるわけ?」

 「・・・もう行き先は知らん」

 「は?」

 災厄のハガネールは海に浮くことが出来るわけであり、実際の蛇のように泳げるわけではない
 故に海での移動は海流に乗るだけであり、行きたいところがあれば海流を選ぶ必要がある
 海流から海流へ移るだけなら容易いことだし、ナナシマ諸島は海流が多いので移動には非常に便利だ
 
 しかし、今のハガネールは丸まって浮島形態になっている
 これでは浮かぶか海流に流されるだけで、海流を選んで乗り換えることは出来ない

 「てことは、これもしかしなくても」

 「流されている」

 「マジで?」

 いつの間にか海流に乗っかってしまったようだ
 浮いているだけならまだマシだが、どこへ向けての海流かわからない

 「いや、この方向は・・・」

 黄土色の瞳が流される先を見てみると、どことなく見覚えのある影がある
 それは・・・・・・

 「カントー本土じゃねーか。戻ってきちまったか」

 「・・・・・・」

 もやがかかって、今まで気づけなかったのか
 この速度と距離だと1時間もあれば本土に着いてしまうだろう

 「ま、それでも俺は構わんが」

 「・・・・・・」 
 
 災厄は相変わらず何も喋らない
 ハガネールの主としても、このまま流されるままでいいのだろうか
 押し黙ったまま、ただ突っ立って陸の方を見ている 

 「・・・こんな無口とはなぁ」

 「・・・・・・」

 退屈そうに言うが、黄土色の瞳が魅せる表情は楽しそうだ
 災厄の無口っぷりを肴に勝手に一杯やり始めそうな雰囲気でもある
 どこまでも自分の思うように楽しんでいるようだった 


 その浮島からまだ離れたところへ近づく何か、いやカントー本土へと何かが近づいてきているようだ
 海面ギリギリを跳ねるようにビシッビシャと水音を立て、その何かは勢いよく飛んできた

 「うわぁああぁあ〜」
 




 To be continued・・・
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