〜更なる高みへ/067〜


 「ここここれでボクにどうしろと!?」


 ・・・・・・


 ハッサムはわけもわからずじぶんをこうげきした
 
 自分だけならいいが、今回の暴走状態は周囲を巻き込んだ攻撃だ
 グリーンとイエローがその大降りの攻撃を避け、更に避ける
 どごばぎっと地面を叩き、砂ぼこりが舞う

 「『ディス・カイ・クロウ』!」

 グリーンの指示が飛ぶが、ハッサムはその行動を全く取らない
 そして、実際は編み笠で見えないのだがネオにも焦りがみえる

 ディス・カイ・クロウは見えない相手、エネルギーを切り裂いて攻撃する
 当然、音波・音圧による攻撃も切り裂いていけるだろう
 
 この攻撃の危険性はネオはわかっている
 しかし、動けない

 確かにバクオングは攻撃と同時には混乱音波は出せない
 しかし、渓谷による反射・残響音でフィールドにはしばらくの間効力が残るだろうが・・・ 


 「ディス・カイ・クロウ」

 ハッサムの耳に、頭に、グリーンの指示が届いた
 目標を狙い、定め、一直線にバクオングに向かっていく
 発せられる音圧で押し返されそうになるのも、その切っ先に込められた力に道が拓かれていく
 『まもる』ことさえ間に合わない

 ハッサムはシュバッと音を立て、バクオングを切り裂いた
 その一撃で倒れはしなかったものの、ダメージは大きい 
 混乱音波が、完全に途切れた
 
 「・・・お前のバクオングの努力値振りなどというものを考えてみた」

 グリーンが一歩前に、足を踏み出した

 「通常、いばるなどの状態異常技は相手より先に出す必要がある。
 故に素早さを重視した性格、振りであることは間違いない」

 バクオングの素早さ種族値は低いものだが、振れば割と使える

 「そして唯一繰り出してきた攻撃技『砕秦』の威力は確かにそれなりのものだ。
 しかし、俺達のポケモンを1体も倒せなかった。勿論、複数対攻撃するにあたって威力が分散されたこともあるだろう。
 だが、攻撃に関する努力値とやらが振られていない可能性は充分にある。不足したステータス分、威力の高い技で補っていたのだな。
 よって、そのバクオングに考えられる努力値振りは素早さ、そして素早さを抜かれた際に相手の攻撃に耐えるだけのHPだ」

 グリーンの推測は概ね正しい
 このトレーナー能力は一度発動すれば、自ら攻撃する必要は殆ど無い
 攻撃技よりも自身の回復が重要であり、自滅を待つならばそれなりのHPは必要になってくる

 トレーナー能力による混乱音波は『さわぐ』が基になっている
 砕秦は『ハイパーボイス』
 
 「ねむる!」

 バクオングが突然眠りについたと思いきや、また突然起きる
 カゴのみの効果
 体力、傷共に全回復だ

 「ハッサム」

 静かなグリーンの指示に、ハッサムは素早く走った
 まだ多少混乱に引きずられているところがあるが、今なら指示通りに動ける
  
 「おのれっ!」

 ハッサムに懐に入り込まれ、バクオングが下から上へ再び切り上げられた 
 相手は正気にさえ戻れば、攻撃力を最大にまで高めた一撃を放てる
 だから、この能力はそれによって常に相手の混乱を継続させなければならないのだ

 諸刃の剣

 バクオングの技構成にまもるが入れられないのは自滅か否か、ターン制もあってそのタイミングがうまくはかれないからだ
 ランダム自滅の混乱と連続して使えないまもるの相性はいまひとつだった


 「ボクはいりませんでしたね」

 イエローはほっとしたような顔で言う

 彼女の役割はハッサムの自滅を軽減させることだ
 混乱による自傷でポケモンのHPはどんどん減っていく
 ハッサムの防御力なら上昇した攻撃力でもある程度は耐えられるが、限度はある
 だから、その限度を迎えるまでにイエローが飛び込んでハッサムを回復させるのだ
 混乱は回復し切れなくても、HPは満タンに出来る
 暴走状態のハッサムの懐に飛び込むなんて自殺行為であり、やらなくてすんだイエローがほっとするのも無理はない
 
 自滅覚悟の連続指示、回復能力者イエローの待機
 すべてはこの状況を一転させる一撃の為

 出来れば勝ちは決まったも同然だった

 バクオングは疲弊し、傷口のせいか思うようにさわげなくなっている
 声、音が出せなければ混乱音波は出せない

 「とどめだ」

 ハッサムの攻撃が、鮮やかに宙に描かれる
 両手が同時に振り下ろされ、同時に跳ね上がり、バクオングの身中線で交わる
 そうVとVが交差し、Wにも似た刃の奇跡が身体に残る

 「『クロッシヴィ』」

 グリーンのハッサムが使う新しい技
 きりさくというよりつばめがえしに近い軌道を持っていたようだ
 しかし、その両方の効果を持っているわけでもなさそうであり・・・融合技というよりきりさくの上位互換というべきものだろう

 バクオングが崩れ落ち、決着した
 どちらかのポケモンがきぜつすれば勝敗はつく

 しかし、ネオは虚無僧の服の隙間から何かを取り出し、バクオングに投げつけた
 それがバクオングの身体に溶け込んでいくと、きぜつしてたなのに・・・復活した

 げんきのかけらを使ったのだ

 「・・・もうお前の負けだ。攻略法も見えている以上、勝ち目は無い」

 「つーか、道具もありかよ!」
 
 ゴールドはブーイングしている
 ネオはその深い編み笠のなかから、レッド達を見据え、にらんでいるようだ

 「グリーンの言う通り、ネオ、お前の能力は攻略したと思う」

 レッドがブイを出し、速攻をかける
 エーフィの素早さはバクオングより上であり、ステータスも上回っていた
 混乱音波も今はなく、ボールから出したばかりだから混乱していることもない
 サイコキネシスの攻撃で再びバクオングはきぜつするが、ネオは同じようにげんきのかけらを与えて復活させる

 素早さの高いポケモンで音波を出させる前にバクオングを倒すと、ネオは復活させる
 それを延々と繰り返す
 見た目はそうでもないが、何度もきぜつと復活を繰り返すバクオングの精神状態は・・・あまり想像したくないものだ

 「・・・・・・ひどい」

 決着がついたというのに、トレーナーの意志だけで延々と終わりをつくらせてくれない
 何度でも、何度でも立ち上がらせる

 「いつまで続ける気だ」

 「勝つまで」

 そのハスキーな声は凄味に満ち、有無を言わさぬ迫力があった
 何があっても己の意志だけは貫く姿勢
 テレポートのような逃げにははしらない

 「お前達を潰す」

 ネオがバクオング以外のボールを取り出し、繰り出した
 なかから出てきたのはマルマイン2体
 特性ぼうおんを持ち、ポケモンのなかでも最速を誇る
 ただし、さわぐはおぼえないので混乱音波は出せないはずだが・・・特性によってバクオングの混乱音波も効かない

 「ここでお前達を―――!!」


 マルマインが素早く動き、グリーン達の後ろに回りこむ
 ネオは何よりも速いでんじはとひかりのかべでバクオングを持たせようとする算段だ
 

 ずどん、とマルマインよりも速く何かが撃ち込まれた
 ネオとグリーン達が渓谷を見回すと、ネオの背後からのっすのっすと歩いてくる男がいる
 褐色の肌、目は細いがゲジマユという見事なまでの顔の造詣アンバランスをかもし出す
 3色の腕輪、ネオと同じ幹部候補だとわかる

 「・・・ゼラ!」

 「何やっとんじぇす、ネオ」

 「とんじぇすぅ!?」

 ゴールドが思わず突っ込むその語尾に、ゼラはきっぱりと無視している
 バトルは一時中断となったカタチだが、一触即発の状態には変わりない
 黙ってネオのところまで歩き、それからぐぎんと首をかしげた

 「おぬしは何してんばげどるす」

 「あいつらを潰す為に来たんだ」

 「帰るはにと」

 「断る」

 「・・・致し方なはんばさ」

 ゼラは手加減無しの手刀をネオの首筋に打ち込んだ
 物凄い音がしたのだが、大丈夫なのだろうか・・・と心配したくなるほどだ
 気を失ったのか、ネオはぐったりと倒れこんだ

 「上から言われたでさまらんば。『鋭気を養え』つえ」

 「おい、帰ってくれるのか?」

 語尾を統一しろ、とかツッコみたいが後回しだ
 問題なのはゼラという男がここへ何をしに、いやネオを止めに来てくれたのかということ

 「うむ。おぬしんばには迷惑かけなはん。組織への忠誠がさせたことむな、許してくたっはあぶ」

 「そうか・・・それは残念だ」

 グリーンがふんと鼻を鳴らした
 このままいけば、幹部候補を1人減らせたかもしれない
 ゼラは目を閉じ、それから頷いた

 「こちらの都合ばかりですいまほんば。びゃけん、最終決戦はもふすぐでしぇんろ。
 こがなルール無用じゃへんと、きっつりした土俵で決着させてもらいまほづうな」

 最終決戦
 やはり、もうすぐ始まるのだ

 ゼラはネオを抱え上げ、それからうなる

 「ほんじ、おぬしんばは納得けぇへんじょうさ。
 ここはひとつ、オイの能力ばらすてこの場をおさめてくれはんだわ」

 「!」

 「悪い話じゃなかはん? 決戦前に幹部候補の能力2つも知れるっちゃーはぬめぇ」

 「いや、悪いがそれだけじゃ駄目だな」

 グリーンがそれを一蹴した

 「この場を収めたいと言うなら、お前の能力とその上にいる幹部達の能力をいくつか教えてもらう。
 このままいけばこちらは勝っていた。そして、そのネオから情報を引き出せたかもしれないんだ」

 ゼラは小さな目でグリーンを見る
 幹部候補が負けたくらいで口を割るとは思えない
 が、ここはそれなりの情報が欲しい
 全滅まではいかないが、暴走したポケモンもそれを抑えようとしたトレーナーも疲弊している
 割が合わない、と言えば合わないのだ


 「・・・よか。ただし、オイとてすべて知るわけでもなはばらぁん。
 じゃけ、ヒントば授かたるんで勘弁へなほ」

 懐からボールを出し、ゼラがまず自分の能力を披露して見せるようだ
 出てきたのは炎タイプのブースター

 「オイの能力は『偉圧』、相手のポケモンは技を使う際PPを1〜4多く減らしてしまうっちゅんばぐ。元のPPが多いほど多くPPも減りやすくなりんばへ、オイやブースターの方が相手よりレベル低いと効果が弱まるげんヴぁ。
 特能技は『炎円宴』(えんえんえん)、見てごとく超高炎の球体で身を包むバリアーボールしぅ。
 水技も触れる前から半減させるが故に連続して使える『まもる』の類に似ぱちけ、勿論この状態で突進せいば攻撃に転化も出来べーはーなむ」

 可愛らしいブースターの身を包む炎から発せられる熱気は相当のものだ
 元々炎を吐く際に体温を2000度以上まで上げるとされているブースター、その生態を技にまで高めたものと言える
 彼の肌が褐色なのはこの熱気にあてられてのことだろうか

 「それとオイの上、幹部達の能力を知りてーいうけんまどるも、あんまさ会わないこと多いっずら。
 伝聞で知ったこともあるっちゃけ、ヒント程度しかならへんぞうこ」

 「いいだろう」

 未だ接触したことの方が少ない幹部、その能力
 伝聞やヒントでもいい、出来るだけ・・・少しでも多く情報は欲しかった

 「まじゃ、オイの上にいる最高幹部はリサ様、つまりは朱雀組に入っつねど。
 上司は幹部・十二使徒が申のロイヤル・イーティ様、使用ポケモンはバリヤード、能力はわかねばっは」

 「それで」

 「あとはよぅけわからねまーたぅ」

 「駄目じゃっへほ!」

 なんかゴールドに移りつつある、というかからかっているだけだろうか
 あまり怒らせるようなことはしないでもらいたい

 「あと知るへんは四大幹部の能力の噂ーるま」

 「!」

 噂、ということは正確な能力内容は組織でも知られてないということか
 しかし、今の組織にいるものだ
 レッド達の推測やガイクの話より近づけるものだろう

 「ディック様は『蒼い稲妻』と呼ばれるでぃわつ。
 普通にそげから想像するものとは違うっちゃろうかんのぁ」

 それには何か聞き覚えがあった
 そうだ
 青いブラッキー
 サファイアをどろぼうし、エアームドに乗って逃げたあの色違いブラッキー
 やはりあれはディックのポケモンだったのだ
 しかし、そう見えたものがそのまま組織内でも言われていることとは・・・・・・

 「ジーク様の能力は・・・・・・おぬしらは知らん方がえーば」

 「なんだと!」

 「何故って最終決戦前に絶望びべ、戦意失われやかなわんけは。
 知ったやつぁ、あまりにもシンプル過ぎて噂ちゃー周りくどい伝聞出来へん。みんな口つぐむゃっか。
 そうさ、知る者増えればそれに対する恐怖ば発生やら何もかも損にはならねーざふ、でも誰も凄すぎて何も言えんようになるっくぬ」

 ゼラはそこまで言った
組織内で実力者の1人といえるだろう幹部候補が、そこまで言った
シンプルすぎるが故に伝聞や実力に誤魔化しや疑いの仕様が無く、誰もが口をつぐんでしまうような能力
それは圧倒的なジークの存在感を示していた

 「リサ様の能力は『最強の発動型』とも言われてゆっへま」

 「最強の・・・・・・発動型」

 常時、発動、特殊
 能力者の思うままに能力を使えるかどうかは、型次第だ
 どれでもそれなりに短所も欠点も見え隠れしているが、そのなかで『最強』とはどう定義付けるか
 発動してもしていなくても損にはならない、とすればどんな能力になるのだろう
 基本的にトレーナー能力は発動してこそ意味があり、使い方次第で全てがマイナスになる能力などない

 「・・・もうよかろ。あとはおぬしらで知って、後悔なさっま」

 「待って、もうひとつだけ!」

 ブルーが声を荒げて、ゼラに聞いた

 「シルバーはどうしてるか知ってる!?」

 ぴくりとゼラがその言葉、その名前に反応を見せた
 すると、何らかの形で組織と接触をしたか情報としてつかまれたのだろう
 レッドや他の皆だって、知りたい


 「シルバーやう男わ、オーレの支部をほぼ壊滅にまで追い詰めばぬ」

 は、皆の開いた口が塞がらない
 ヤナギの元で修行してどんだけ強くなったのだ、とあきれるばかりだ

 「じゃーけんあ、オーレ支部を仕切っとっけ四高将の1人に捕縛、近日中に本部に送還されっちゃーはんば」

 「!」

 オーレ支部をほぼ壊滅するまで追いやった、強くなったらしいシルバーを止めた
 まだまだ、それでもかなわない実力者がいるようだ・・・
 しかも捕まったとなれば、安心出来ないニュースとなってしまった

「引き上げさせてもらいんため。少々話し込んだっはっは」

 懐から出したボールから出てきたのはナッシー
 そのテレポートでゼラとネオは姿を消した
 
 「・・・・・・っかー、なんだったんだっぱへんゆ」

 思わず出てきた言葉がそれだ
 いきなり勝負をしかけられ、ダメージを負って
 追い込んだと思ったら邪魔が入って、適当に情報くれて

 「プラスよりマイナスでしょうか?」

 「ああ。そうだな・・・」

 そう答えるグリーン、クリスが何か変なことに気づいた
 ・・・上空から音が聞こえ、ぎゅばっとレッド達の前に降り立った

 『や〜、バトル終わった?』

 「シショー!」

 急落下、そして地面すれすれのところで上昇
 素晴らしいテクニックを見せてくれるが、まず先にとゴールドがシショーのこめかみを両腕でつかんだ
 
 『あたたたたたぁ!』

 「シ〜ショォ〜!?」

 混乱音波の危険性にいち早く気づき、いち早く逃げ出した
 一言でも喋ってくれればいいものを、それが可能な喋るポケモンなのにと皆は怒りの表情を見せている

 『ごめんごめん。野生の本能というか何というか』

 「おかげでひどい目にあったんですよ。少しは反省してください」

 散々説教され、正座をしてしゅんとシショーはうなだれる
 鳥のくせに器用に足を折りたたんで正座するとは、生意気だ

 「?」

 イエローがクリスに続いて、異変に気づいた
 それから、皆もすぐに気づいた

 「あぁっ!!?」

 グリーンの顔面から血が出ている
 気づかなかったというより、彼が気づかせまいと皆から顔を背け続けていたからだろう
 いつついた傷かと察するに、暴走ハッサムに指示を出した辺りだろう
 暴れてはじけた石のつぶてが飛んできたり、わけもわからず『ディス・カイ・クロウ』もどきが出てしまったのかもしれない
 傍にイエローもいたし、避けそこねたり庇ったりしたのだろうか・・・

 「問題ない」

 「ないわけないでしょ!」

 顔面流血で無表情は怖すぎる
 とりあえずブルーが止血をし、応急処置を取る
 思わぬけが人が出た

 「ていうか、俺も耳、変だ」

 はーい、とレッドが手を上げる
 混乱音波、というより大音量で一時的に耳をやられたのだろう
 他の皆もそれなりに耳がおかしいようだった
 それにくわえて暴走ポケモンの攻撃を避けようとして、どこかしら小さな傷ぐらいを皆負っているようだ

 「変な語尾に聞こえたのも耳のせいでしょうか」

 「いや、違うと思いますよ」

 「ほんっと厄介な技だったなぁ」

 「最終決戦でまた当たるかもしれない、と思うと・・・」

 いくらか対策は見えてきたが、完全ではない
 バクオングを上回れる素早さは確かに鍵だが、そこをつかれないようにする為にネオは渓谷という足場が整っていない環境・絶妙な距離を予め取ってきた
 足場は速度を落とさせ、距離は時間を稼ぐ
 自らに合った戦法や戦術を最低限熟知している幹部候補と戦うのは、相当大変なことだと改めて思う

 それ故に、自らの能力を知るのは敵の能力を知ること以上に重大なのだ
 完全な把握を

 「怪我はいい。それよりも、先に進もう」

 レッド達は歩き続けることを選んだ
 傷は治るものだ

 ひどく感じたらイエローの能力を使ってもらうのもありだろう
 ポケモンに効くヒーリングはある程度人間にも効果があるのはわかっている
 ただポケモンほど完全に治るわけでもないので、あくまでいざと言う時・またはとっておきという位置になる
 
 遺跡まであともう少しだ
 

 ・・・・・・


 「カントー地方上陸―っと」

 「・・・・・・」

 ハガネールの浮島に乗っていたら、海流に流された大男2人
 着いた先がカントー地方、地形から見るにクチバシティから少し西に離れたところのようだ
 
 災厄が無言でハガネールをボールに戻し、代わりにアブソルとオドシシを出す
 なかなか珍しいチョイスだ
 それが何かを警戒する態勢とわかっていながら、黄土色の髪と瞳を持つ男は無防備のまま何もしない

 「うわぁぁあぁぁぁあああぁぁあ」

 絶叫と共に何かが近づいてくる

 「もう少しで陸地だ、頑張ってくれ!」

 「頼むよぉ、ネイティオ〜」

 ピッ、ピシッ、シュバァアァと派手に水しぶきを上げてこちらの砂浜に突っ込んでくる
 大男2人はそれを傍目で見ながら、何もしない

 ドッガァァンと派手な音を立て、もろに突っ込んできた何かによって砂浜がえぐれる

 「げっほ、げほ」

 「酷い目にあったぁ〜ってあれれれぇ?」

 ピエロと白衣の男とネイティオ
 これもまた異色と言うべき組み合わせだろう
 そして、そのどちらにも見覚えがあった

 「・・・片方はキリュウ・トウド博士か。もう1人は・・・マスク・オブ・アイスの残党だったっけ?」

 「・・・・・・知らん」

 逆にピエロことイツキ、トウド博士は大男2人組の顔を知らない
 ただ慌てふためくばかりだ

 「敵か」

 「すごぉ〜く強そうだぁ、助けてぇ!」

 「何が助けてだ。お前らやる気満々だろ」

 ふんと黄土色の方の男が鼻を鳴らした
 慌てているようで、しっかりボールを握り締めて隙をうかがっている

 「もしかして戦闘の意志なしぃ〜?」

 「まぁ、な。お前らは?」

 「仲間と待ち合わせさぁ」

 互いに戦闘の意志無しとわかると、急に3人が打ち解け始めた
 災厄1人がついていこうとせず、オドシシがじーっとそんなトレーナーを見ている
 
 「ほんとはクチバで待ち合わせだったんだけどぉ、シッパイシッパイ」

 「あんだけ派手な上陸してたら誰だって気づくさ」

 「そうだよ。まったく、的の追跡を振り払うためにテレポートのPP使い果たすとは信じられないミスだ」

 「2人分だったから厳しかったんだよぉ。大体、助けてあげたのは僕の方なのになんでそう偉そうなわけぇ?」

 「博士だからだ」

 「ひどくない〜?」

 談笑と孤立している男4人
 その周りを取り囲むように、人やポケモンの気配が集まってくる
 あれだけ派手な上陸をしたのだ、気づかれないわけがない
 カントー本土は彼ら、組織に制圧されているのだ
 敵の真っ只中で・・・・・・

 気づかないふりをして、4人は警戒を緩めていない
 ボールをこっそり手に持ち、乱戦の始まりを期待していた
 
 ・・・好戦狂というほどではないが、戦いは嫌いではない
 好きだった
 何故なら、そう、男の子だからだ





 To be continued・・・
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