〜更なる高みへ/068〜



 「ひどくない〜?」


 ・・・・・・


 包囲されている
 敵の手に落ちたカントー本土へ適当に上陸したのはまずかっただろう
 しかし、この状況を楽しんでいる風な男達がいた

 「・・・さて、どうする」

 「どうするもこうするもないじゃなぁ〜い」

 早く襲ってこないかと、うずうずしている2人
 少しずつ面倒臭そうになり、戦う気が失せてきた博士が1人
 最初から戦う気が無さそうなやつが1人

 「・・・数が減っているぞ」

 「あ?」

 言われてみて気づいた
 感じる気配の力強さは変わらないようだが、発している人間の数が減っているのだ
 妙なことがわかる人間もいるものと思うが、そういうのがトレーナー能力的にも割と得意なメンバーだった

 この状況は、つまり「雑魚十数人と1人のような、格の違うトレーナーが代わりに現れた」ということになる
 雑魚とはいえこの4人に気づかれない内に掃討するとは、なかなかの実力者だとわかる

 「さっさと出て来い」

 黄土色の瞳が辺りを見渡し、どこにいるのかすぐに目星を付けた
 手に持ったボールをこれ見よがしに見せ付けると、もう一度挑発する

 「帝王の鉄槌、くらいたいか?」

 その言葉が本気、いや彼が常にその状態であることを周りが悟る
 どんなにへらっとしていようが、その心身の根底に揺るがず重く硬いものがあった
 
 がさりがさりと音を立て、周りから姿を見せはじめた
 安い挑発や脅しに屈したわけではなさそうだ、と隠す気もないプレッシャーで感じ取り、わかる

 
 ・・・・・・

 
 「グリーン、額の血にじんでるぞ」

 「ちょっとヤダ、予想以上に出血多すぎ!」

 「なー、クリス。これ、どう思う?」

 「って、なんでゴールドがびっこ引いてるのよ!」

 「ほら、あの辺走り回ったり岩と岩を飛び回ってたらグギッと」

 「バカじゃないの!?」

 クリスの声は徐々に荒げ、ゴールドを叱咤する
 ・・・予想以上に場が混乱していた
 イエローがオタオタと、どう治そうかなどと迷っている
 
 「とりあえずどっかで休ませてもらおうぜ」

 「ああ、その辺でいいだろ」

 レッドはまだ耳に難儀しているようで、グリーンも同意する
 どっかりと腰を下ろして、休んだ方がいいだろう

 「そうしたいのは山々だけどね」

 ふぅと、ブルーが息をつく
 野生のガラガラやゴマゾウの群れだ
 この渓谷はなかなかレベルの高いツワモノが揃っているようだ
 やる気満々という顔でいて、すぐに襲いかかってきた
 
 「スイクン!」

 地面タイプのポケモンを一掃する水流
 それにうめき、怯んだようだがそれでも突撃してくる

 「メガぴょん!」

 『僕も行くよ!』

 タイプ相性に忠実なクリスのメガぴょんとシショーが応戦する
 ただし、シショーは有効なタイプではないのでかく乱という役割で動く
 怪我人を押しのけて、ガラガラなどの野生ポケモン達を攻めて押し返す

 結構な数はいたが、とりあえずこれ以上の大事もなく撃退することが出来た
 ふーっとクリスが大きく息をつき、呼吸を整える
 レッドがぐっと親指をつきだし、彼女をほめる

 「やるじゃん」

 「このくらいは」

 「いつの間にか結構、渓谷を進んでたのね」

 「じゃあ、遺跡ももうそこかな」

 派手にやりあったのだから、しばらくは野生ポケモンも警戒して出てこないだろう
 これなら休息を取るのも可能になりそうだ

 「・・・もうちょっと先行きません?」

 「何言ってるの」

 足をひねっているらしいゴールドがまた岩の上に登って言うのに、あきれた
 どうせなら遺跡まで行ってから休もうというのか
 彼がその上にしゃがみこみ、ほらほらと指差す

 「あそこに家がありますよ」

 「・・・・・・ほんと」

 見たところごく普通の民家のようだが、岩の上からでなら見える位置という辺りからもまだ多少距離があった
 それでも野生ポケモンの出るところより、家のなかで休ませてもらえた方がいいには違いない
 
 『でも、いいって言ってくれるかな』

 「まぁ、見た感じ怪しげな団体でしょうけど、こんなところに家があるのも怪しいんだし、同士のよしみでなんとかなるわよ」

 どういう理屈だかわからないが、流れとして駄目もとで突撃することになったらしい
 ゴールドが先頭に立って、レッドは首をかしげ、グリーンは血をにじませ、ブルーは音頭を取り、イエローはシショーと顔を見合わせ、クリスは服のすそを整えるなどして失礼のないようにする
 数の上ではこっちの方が有利、などとぼそりと呟かれた黒い発言が誰のものだったか・・・


 ・・・・・・

 
 「何故私を連れ戻した!!!」

 ネオがゼラにつかみかかった

 レッド達との戦いから強制的に撤退させられたが、早々に意識を取り戻したのだ
 まだこの2人は7のしま内にいた
 追いかければまだレッド達に挑めるだろう

 「戻ることは許されっふぇ」

 取り乱し、渓谷に戻ろうとするネオの前にブースターが立ちふさがる
 距離にして4歩以上も離れているのに、服が燃え尽きてしまいそうなほどの熱量だ

 「『鋭気を、決戦を前に』ゅー。それが上の命だっちち、逆らうくす?」

 「・・・・・・」

 「組織を想う忠誠心は認めーや。だからこそ、従うしゃま」
 
 ぎり、とネオが歯を食いしばる
 ゼラはその肩を叩き、彼女の憤りをいさめた

 彼女の気持ちはよくわかる
 ・・・組織が放置していたような彼らの成長速度
 確かに恐ろしいものを感じる
 かつての己や他の幹部候補達とは比べられないほど、異常なものといえた

 何しろ、能力者になってから半年も経っていないのだから

 「鋭気を養え」
 最終決戦前の待機命令は本当にそれだけなのか

 ゼラはテレポートの支度を始める
 ネオは仁王立ちのまま、渓谷を睨み続けたまま動かなかった
 

 ・・・・・・


 「すいませーん、こんにちはー」

 自傷でボロボロになっていたポケモン達と支え合い、かなり速いペースで民家に到着出来た
 本当に普通の民家のようだ
 それから、なかから軽快なリズム・・・・・・音楽が聴こえてくる

 「入っていーよ!」

 少し遅れて聞こえてきた了承の言葉に、皆が顔を見合わせた

 「いいって」

 「・・・ノリ軽いわ」

 『いーのかな、本当に』

 こう良いと言われると不安になってくる
 問答していると、民家のなかからドアを開けてひょこっと顔を見せた
 ポケモンのラッキーだ

 「お?」

 「あら」

 『らきらき』

 くりくりっとした瞳で見つめられ、なんだか幸せな気分になる
 その隙にラッキーにささっと回り込まれ、『かいりき』でぐいぐいと民家のなかへと全員まとめて押し込まれていく

 「なんなの? なんなの!?」

 『らきらき』

 押し込まれ、ドアを閉められた
 ラッキーが満足そうな笑みを浮かべ、『らき!』と両手をあげて喜ぶ

 「おどって、おどって、ラッキーダンス!」

 詰め込まれた民家のなかで、おじさんが1人でフィーバーしていた
 ぽかーんと、怪しいどころかわけのわからないことが起きている

 「はい、おどっておどって!」

 「は?」

 「え?」

 おじさんが素早い動きで回りこんで、レッド達を取り囲みながらスキップする
 ラッキーも同じような動きで、全身をはずませるようにしてくるくる回ってみせた
 その突飛な行動についていけず、レッド達は戸惑うばかりだ

 「おどるの? おどらないの!?」

 軽快なリズムに合わせて脅迫しているのはなんか怖い
 そして、不思議な音楽に身体がうずうずする
 
 「踊りたい」

 「ちょ、ゴールド!」

 こういうノリに乗りやすいゴールドだが、今は怪我人だ
 クリスが止めようとするが、もはや彼の身体は小刻みに震えだしてとまらない
 
 「ていうか、シショー!!?」

 『え? 何か』

 既にシショーは踊っているのに、一同が突っ込む
 翼をパタパタとはためかせ、なんだか妙な阿波踊りのように見えるのがおかしい

 「ハイハイ、ラッキーダンス!」

 ラッキーのかいりきで無理やり民家の中心、舞台に押しやられる
 怪我人などもまったくお構いなし、完全に流され・押し切られた

 どぅ・どぅ

 『らきらき』

 「はじまるよっ、ラッキーダンス!」

 おじさんが張り切って、皆の前に左の人差し指を天に突き出し、右手を腰に当てながら立った
 先導するように、いやこの音楽が自然に人の身体を動かさせるのだ

 身体がリズムを刻み、皆がお腹や背からぐっぐと力を入れ込む
 怪我が痛むのに、どうしても動いてしまう

 たたた・たんたん

 両足で床を踏み足音立てて、音楽と一体化していく
 くるっと一回転、ターンする

 『らっききー』

 ラッキーが諸手をあげて、部屋いっぱいにに光を振り撒いた
 レッド達は踊るままに、その光を浴びる
 まぶしかったのか反射的にか、皆が同時にきゅっと目を瞑る
 
 次に目を開けた時、レッド達は驚いた
 全員の、その持ちポケモンの傷まですべて回復していたのだ
 出血も疲労も、何もかもが無かったかのように・・・

 「あっはっはっはっは」

 驚きを隠せないレッド達に、おじさんが明るく笑う

 「はい、元気になったね。ラッキー!」

 「の、能力者・・・?」

 『らき』

 ラッキーの技『タマゴうみ』は自身の体力を与え、他のポケモンの体力を回復させることが出来る
 それだけではトレーナーまで回復させることは出来ないから、やはり能力と考えるべきだろう

 「おどっておどってラッキーダンス!」

 「ありがとッス!」

 ゴールドが感謝を全身で表現し、おじさんの手を握ってぶんぶんと縦に振る
 おじさんもにこにこと笑顔で応える

 「待って、おじさんは能力者なの?」
 
 「そんなことよりラッキーダンス!」

 また踊りはじめた
 これを、まさか1日中続けているのではないか

 「・・・組織の人間じゃなさそうだな」

 「ここまでの道中は厳しいからね。ラッキーダンスでみんなハッピーハッピー!」

 『らきらき』

 ラッキーも嬉しそうにおじさんを見る
 優しい信頼関係で結ばれているのが一目でわかった

 「組織とか何のことかわからないよ〜」

 「ポケモン協会は・・・?」

 「ううん? まぁ踊っていればハッピーハッピー!」

 わずかにおじさんの声がよどんだ
 やはり何かあったのかもしれない
 しかし、今は聞かない方がいいだろう

 「アスカナ遺跡はもう目の前だよ」

 また明るい声に戻って、レッド達を踊りながら見送る
 というか、強制的にラッキーのかいりきで押されていく
 
 「・・・ども」

 「本当にありがとうございました」

 ぺこりと頭を下げ、民家を後にした
 軽快な音楽が耳にやけに残り、レッド達の足取りが不思議と軽くなった


 目の前に見えてきた渓谷の出口
 ナナシマの終わり


 「鍵は既に開いているからね」

 そう呟き、風にまぎれた声は誰のものだったか


 遺跡で何が起きるのか・・・
 

 


 To be continued・・・


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