〜更なる高みへ/069〜



 「鍵は既に開いているからね」



 ・・・・・・


 渓谷を抜けた先に海が見えた
 7のしま、ナナシマの終わり

 「着いたー」

 ゴールドが声をあげる
 潮風がびゅうっと強く吹きつけ、後ろに抜けていく
 渓谷を歩いている時も感じていたものだが、新鮮なものと感じた

 「遺跡はどこよ?」

 「えーと、ほら、あそこ」

 すぐ目の前に遺跡があるわけではなかった
 左右を指差し、海の上にぽつんぽつんと岩の塊のような小島が見える

 「ボクちょっと上見てきますね」

 ルーすけとピーすけを出し、イエローがふわりと飛んだ
 どちらか片方だけでもいいのだが、どうせなら一緒に出してあげた方がポケモンも喜ぶ
 充分な高さまで上がると、遺跡だけでなく7の島の形が見えてくる

 この島の外形が⊥になっており、遺跡は_の部分に当たり、小島のようなものはそこに左右に広がって点在していた
 イエローはスケッチブックに島の形と点在する遺跡(小島)の位置をおおまかに描く
 それから、すーっとレッド達の元に降りる

 「お待たせしました」

 イエローが差し出したスケッチブックの絵を皆が覗き込む
 渓谷を背に、右に4つ、左に3つで計7つ
 ただし一番左端の遺跡は他の倍以上の大きさがあるようだ

 「遺跡のならびに何か意味があるのかしら?」

 「これだけ大きいのも気になるッスね。ていうか、どれがアスカナ遺跡?」

 「7つあるこれら1つ1つが遺跡というより、7つの・・・・・・石室をまとめて1つの遺跡と呼んでるんじゃないの」

 『そうだよ』

 シショーが割って入ってくると皆がおっ、とそちらを見る
 注目されてるなかシショーもくるっと頭部を180度回転させたりして、存在感をアピールして見せた
 
 『左端からそれぞれ、イレス・ナザン・ユゴ・アレポカ・コトー・アヌザ・オリフの石室と呼ばれている』

 「ほぅ」

 『ようやく、ここまで来たんだね』

 シショーが淡々と、スケッチブックの絵を見て言う
 レッドが両腕を広げ、問いかける

 「シショー、俺達はここで何をしたらいいんだ」

 その問いと同時にパタタタと羽ばたき、少し離れた岩の上にとまる
 すべてをみすかし、みやぶる目がレッド達を見つめる

 『これが僕の教える最後の修行になるだろう』

 「いや、殆どシショーから教わってないんですけど」

 『これから1人ずつ、それぞれの石室に入ってもらう』

 「何がある」

 『各々がそこに出現するアンノーン、全種類(形状)を捕獲する』

 「!」

 アンノーン
 ツクシが調べていた、まだ謎の多いポケモン
 その生態や生息地すら不明なところが多いが、この遺跡に存在しているのか

 「待って。アタシ達は6人、石室とやらは7つ。やっぱり1人足りないわよ?」

 『大丈夫。代わりの人をもう用意しているから』

 「代わり?」

 『そう、だから、安心して臨むといい』

 淡々、淡々、淡々とシショーは話す
 原稿を棒読みするような、少し早口気味の話し方
 違和感がありまくりだ

 「アンノーンをすべて捕獲するとどうなる?」

 『わかるよ。それが必要なことだった、って』

 シショーはばさっと大きく右翼を広げ、左翼を空に掲げた
 
 『ゴールドはナザン、
レッドはユゴ、
ブルーはアレポカ、
イエローはコトー、
グリーンはアヌザ、
クリスはオリフへ』

 「・・・一番でかいイレスに代わりの人がいるってことか。石室と人の選ばれ方は?」

 『代理人が誰なのかは教えられない。選抜は適当ではないけど、適性とか色々関わってるかな』

 「適性? 何の?」

 シショーは何も言わなかった
ただ『アスカナ遺跡探検』でググるか、実際にゲームして石室の内部を確認してみるのもいいかもしれない
 それなりに選んだ理由に察しがつくはずだ

「アンノーンを捕まえる、か。意外と難しそうだな」

レッドが頭をかくと、きらきらと顔を輝かすクリスはぽんと手を叩く

「じゃ、私の特殊ボールを少しあげますよ」

 クリスが皆に少しずつ秘蔵の、ガンテツ特製のMBを渡す
 わかっているアンノーンの生態からスピードボール
この辺りのポケモンから推察し、相手のレベルの低いポケモンほど捕まえやすいレベルボール
この2種類が適しているだろうと捕獲のスペシャリストが判断した
 あとはグリーンから、協会から支給されたスーパーボールも分け合う

 「これで何とかなるだろう」

 「サンキュ、クリス、グリーン」

 レッドが快く礼を言うものの、露骨に分かる表情で言えばゴールド含む2名ほどはあまり嬉しそうではない
 ガンテツ特製のMBはポケモン種族別の当て所を見つけ、そこにぶつけることで最大限の力を発揮する玄人向けのボールだ
 そういった知識が無いまたは面倒なら、通常のMBより捕獲率の高いスーパーボールで充分かつ適している・・・といえる
 特にアンノーンのように生態がわかっていないポケモン、更に形状の違いで当て所が微妙に異なるらしく、それを見極めるには、それなりの経験が必須でもあるのだ


 『準備はいいかい?』

イエローの絵でそれぞれ担当する石室を確認する
手持ちのポケモンもトレーナーも、すべては万端だと思われた

「おう」

なみのり、そらをとぶが使えるポケモンにそれぞれ乗る
 最後の修行をやり遂げられる
 何が起こるかわからないから自信はそう持てないが、気概は充分にあった

『GOOD LUCK』

シショーがそうつぶやく
皆はアスカナ遺跡、それぞれの方へ散っていった


・・・・・・


「おう、出てきたか」

周囲から、それぞれの方から1つのところへ歩み寄る4つの影
見覚えのある顔ばかりだった

「イツキ、遅いじゃない」

「心配したぞ」

ブラッキーを従えた大人の女性
カポエラーを従えた大柄の男性

「お〜、シバにカリン〜」

イツキが飛び跳ね、2人にハイタッチする
それを後ろから見る少し年を食った忍びの者が1人

「まぁトウド博士共々無事で何よりだが、あとの2人は?」

 首をかしげ、その3人が胡散臭そうな目で部外者認定された2人を見ている
 部外者2人は無視しているというか、気にも留めない
 黄土色の瞳の男はくぁっと大あくびまでするほどだ
 トウド博士はその場でしゃがみこんで、適当な鼻歌を口ずさみながら海をにまにまと見ていた・・・

 「・・・ジョウト四天王か。まぁ、足りる実力はありそうだな」

 「なんだ、喧嘩売っているのか」

 じろりとカリンが黄土色の男をにらむ
 しかし、やはりその男はてんで相手にしない様子だ
 そこがまた腹立つようで、カリンは警戒を解かない

 「最後の1人は・・・・・・意外っちゃ意外だな」

 「フン」

 そこに立つ男は、あまりに悪名高かった
 もはや、『表の顔』を覚えている人間は少ないだろう
 裏の顔こそ、知らないものはいない

 「元トキワシティジムリーダー、R団首領ことサカキか。なんでこんなところに来たんだ?」
 
 「雑魚共が群れて目障りだったんでな。掃除した、それだけだ」

 「そうか」

 三白眼と黄土色の眼がぶつかり合う
 お互い譲らぬ気迫を感じる

 サカキは単独行動のようで、他にR団の団員が出てくる気配は感じられない
 タカムネは「ともしびやまで見たのは結局何だったのだろうか」、と考える
 一時はR団復活かとささやかれたが、サカキの行動はまるでそれにそぐわない気がする
 それ以降も現れたR団やエリートトレーナー達の動向からも思うに、あれは『宝石』を探していただけではないのではないか、と・・・・・・

 「ま。これで、いいか」

 黄土色の瞳の男は目をそらし、ふーと息をついた
 カリンは「何がいいんだ」と怒鳴るような声で聞く
 いい加減マイペースが過ぎると、ウンザリしている
 トウド博士は引きずって他は無視して行ってしまおうか、ジョウト四天王はそう思案もしていた

 「何って? 同盟さ」

 「同盟?」

 カリンが更に胡散臭そうな表情で黄土色の男を見る
 というか、白い方の男は何もしゃべらなくていいのだろうか

 「この世に生まれついて戦う理由も、守るものも無いやつはいない」

 サカキは目を閉じた
 まぶたの裏にじんわりと浮かんでくるものを、静かにかき消す

 「守る理由も、戦う理由が違っても、結局は俺達が行く先は同じだ」

 「ま、行く先同じったって死ぬ為じゃないけど」

 トウド博士がそう茶化す
 人生行った先にあるのは忘却の彼方だが、ここではそうではない
 ここに集った8人は『Gray War』に参戦する為に・・・・・・

 「なら、ここはちょいとお互い様ってことで付き合おうじゃないか。
 馴れ合う気はないだろーが、少なくともここにいるやつらは敵にも損にもならんだろ」

 「ま〜ね〜」

 「敵になるかは別だな。時と場合、それによって判断する」

 「まぁ、それまで邪魔をするわけでもなし、悪くない」

 キョウは口元に手を当て、フッとシバは笑う
 敵や利害が一致するならば、敵の敵は味方になりうる
 意識も行動理念もばらばらな、いびつな同盟

 「異存無し、でいいよな?」

 「決めつけるな」

 カリンはその強引さにあきれているが、反対はしていないようだ
 他の皆も無言で、それは同意と取っても良いだろう

 黄土色の瞳が、それぞれ他の7人を見た
 そして勝手に名を挙げていく

 「『悪女、カリン』」

 「『道化、イツキ』

 「『抜忍、キョウ』」

 「『闘将、シバ』」

 「『博士、トウド・キリュウ』」

 「『災厄、名無しの権兵衛』」

 「『大地、サカキ』」

 「そして、俺こと『帝王、タカムネ』!
 以上、この8人を以って『八角』を結成する」

 どどーんと、黄土色の男・・・タカムネが宣言した
 八角、それは各々が特出しすぎるが実力の為に同盟にあるような円にならないという意味だ
 

 その勝手な宣言と紹介のされ方に噛み付いた

 「なんだよ、悪女って!」

 「道化なんてまんまじゃないかぁ〜! しかも1人だけ格好いい帝王とかさ〜!」

 「文句は俺以上の実力あってから言えや」

 豪快かつ軽く笑いながらタカムネが挑発すると、カリンとイツキがかちーんときたのか戦闘体勢に入る
 シバはフーっと最初はあきれを思わせるような息を長く吐き、実はそれは話の前後に関係なく呼吸を作っているようだった・・・

 「へー、君が災厄かぁ。名無しって言うの、ふーん」

 「・・・・・・」

 トウド博士は災厄の能力者に興味がわいたのか監察をし、名無しの権兵衛とやらはそっぽを向いたまま動かない
 そこにひょいっと、にらみ合う臨戦状態な2人から抜け出したタカムネが災厄に耳打ちする

 「お前の名前、実は知ってけどな」

 「!」

 初めて表情らしい、動揺の表情を災厄は見せた
 かみつこうとするのを、踏みとどまる目だ
 
 「別に落としてきたモンじゃねーか。拾ってきて何が悪い厨二かコラ」

 「?」

 意味がわからないと災厄はタカムネを見るが、一向に気にしない
 それを落としてきたことが災厄にとって重要なことであろうと、タカムネには関係の無い話だ
 
 「オーレの白い英雄の足元にあったんだ。捨てたわけじゃねーだろ。置いてきたのか?」

 長い年月、彼は白いイワークと共にそのもののまま在り続けている
 災厄が何を思い、そこに落としたまたは置いてきたのか
 シバになだめられたイツキとカリンにタカムネはわざわざからかいに行き・・・災厄は何も語らなかった


 「お久し振りです」

 「・・・フン」

 キョウとサカキ

 かつて忠義を分かったものの再会
 背中合わせに、すれ違う2人は多くの言葉を交わさない
 それが彼らの過去を自ずと示した

 主君の為に身を張る戦いの充足感から、己を磨き突き詰める戦いの充足感へ
 そして目覚めたトレーナー能力
 元の関係に戻ることはないと思っていた
 もう道は交わらず、影はその後に添うこともないと感じていた
 
 ここで出会い、形だけの同盟を組むことになるとは・・・運命とは面白いものだ

 上下関係ではなく、対等の関係として

 2人はただ互いの背から、分かったその時から今まで流れた時間を感じ取った
 どれだけ練磨された実力があるか、そこに至るまでの苦労や困難
 忠義という関係から離れたからこそ、分かり合える
 
 それでも、サシで向き合い、酒を飲み交わすにはまだ至れない・・・

 キョウとサカキは、同時に、少しだけ微笑んだ


レッド達のようなカントー・ジョウト・オーレ解放に立ち上がる集団、その敵対組織『The army of an ashes cross』
その対立に参戦が目的だけの個別の8人こと『八角』が加わる
誰がまたは八角がどちらかの味方につくのか、両者の間に割って入るのか、それとも別の介入をするのか
船頭多くして山登ると言うが、彼らは1人1人が船を持つ船長である
そんな勝手気ままな彼らの行く末は、シナリオに影響するのか

 
 まだ、誰にも分からない


 ・・・・・・


 「『さて、じゃあ僕も遺跡に入るかな』」
 
 アスカナ遺跡の端、イレスの石室
 それぞれ石室に入っていったレッド達から隠れ、確認する1つの影
 
 「久し振りにトぶとしよう・・・」

 人影は目を瞑り、ふっと息を吐き、肩の力を抜いて、わずかに微笑んだ

 気は乗らないが、これは必要なことだ
 人影は石室への階段をのぼる

 なかに入ったら、そこに出現するアンノーンを捕まえる
 出てくる形状は各石室ごとに決まっているので、それを1体ずつでいい

 それから、それから
 何が起こるかを知っている
 そうだ
 ここで、それを、能力者が行うと・・・

 「後は頼んだよ」

 人影が石室のなかへと完全に姿を消した
 そのつぶやきは誰に届けられるものなのか
 人影は何者なのか

 その答えは、全員が石室から出てきた時に明かされるはずだ・・・





 To be continued・・・


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