2、5月30日


初夏の日差しを浴びながら、青い屋根の家をあたしは見つめていた。
「はぁ〜・・・結局来ちゃったよ。」
あたたかいけど、少し冷たい風。 ほんっと、田舎町に来ちゃったって感じ。
辺りを見ても、ほとんど家ってもんがないもんね。
場所によっては・・・地平線が見えちゃいそう!!

「クリス、ボーっとしてないで手伝いなさいよ。
 こんなときこそ、あなたの馬鹿力の使いどころでしょう?」
「『馬鹿力』言わないでよ!!
 こんなになったのも ロケット団のせいなんだから、文句ならロケット団に言って!!」
文句を言いながらも あたしは引越しの手伝いをはじめてた。
ここらでポイント取っとかないと、少なからずおこずかいに響くもん!!


洋服、本、研究材料・・・・・・
さっきから 重い荷物ばっかり 渡されてる気がするけど、
あたしには そんなの関係無い。

あたし、3年前にロケット団に会った事があって、本当にその時になんにもできなくって・・・
悔しくて、それからずっと、筋トレとか、ずっとがんばってきたんだけど、
これが効果ありすぎだったのよね・・・・・・




すっかり荷物を家の中に入れ終わって、引越し屋さんのトラックが去ってった頃、あたしは 少し外を 散歩する事にした。
夕方のワカバの空気は ひんやりしてて、荷物運びで疲れた腕には気持ちいい。
これが旅行だったら、大喜びだったんだけどね。
「はあ〜、こんな田舎町で友達、できるのかなぁ・・・・・・」
そう、それだけが心配。



「ん?」
あたしの左の方、何かが動いてるみたい、野生のポケモン、かな?
じっと、目を凝らして草むらをのぞいてみる。

がさがさがさっ

「ぐう?」
出てきたのは、青いからだに大きなあごが特徴的なポケモン。
口の中には鋭いキバが並んでいる、あんなので噛まれたらひとたまりもないわよっ!
「な、なになになに!?」
自分の知らない土地だから知らないポケモンが出てきてもおかしくはないんだけど、
それにしたって、見覚えがなさ過ぎるわよ。
3年前、オーキド博士が発表した150匹の中にこんなポケモンいなかったもの。

「わう?」
知らないポケモンは、あたしの方をじっと見ていた。
下手に刺激したら逆効果になるって、こないだテレビで言ってた、だったらこっちから観察してやろうじゃない!
「敵意は・・・ない、みたい・・・・・・ね。」
よく見ると大きな目にずんどうな体、なかなか愛嬌がある・・・かな?
ちょっと、ワニに似てるみたい。
・・・なんだか、可愛いかも。
「ワニの子、ワニの子、こっちお〜いで!!」
あたしが呼ぶと、ポケモンはこっちによちよち歩いてくる。
ひざに鼻先をこすりつけると、ふしゅ〜っと鼻から生暖かい息をふきかけてきた。
「ぐぎゅう、」
ふふ、かわいいなあ!!




ダンッ


不意に何かが落ちるような音がして、あたしは振り向いた。
「きゃあ!! ウ、ウインディ!?」
振り向いたら、そこにあるのは黒く湿って、テカテカしている『鼻』おっきな顔があったのよ。
そこにいたのは、でんせつポケモン、ウインディ。

「あら、珍しい、こんな田舎町にお客さん?」
ウインディの背中から 女の人が降りてきた。
ワンピースの上にエプロンを着けて、長い髪を2つに分け、輪っかになるようにゴムで束ねてて
幅広のバンダナで上げて、おでこが見えるようにしてある。
左目の下に泣きぼくろがあり、どこまでも純粋に真っ黒な瞳は、ずっと見てると吸い込まれそうだった。


「どしたの、迷子になっちゃった?」
「い、いえ、あたしクリスっていいます!!
 今日引っ越してきて、それで、散歩中でして・・・・・・」
母性あふれる人って、こういう人のこと、指すんだろうなあ。
女の人は あたしの横にいたポケモンを抱き上げると、
「こんなとこにいたのね、ワニノコ。
 あんまり外に出ちゃだめよ、迷子になっちゃうんだから!!」
しかってはいるんだけど、笑ったまんまで、ぜんぜん怖くなんてなかった。
だけど、あたしがあのポケモンだったら「はーい」って素直に従いたくなる、そんな感じ。

「ワニノコって名前だったんですか、そのポケモン・・・・・」
「ふふっ、ポケモンは好き?」
「はい!! とっても!!」
あたしの答えを聞くと、女の人は微笑んだ。
「だったら今度、うちに遊びにいらっしゃいよ、ポケモンがたくさんいるから!!
 こないだ息子が旅に出ちゃって、寂しくなってるところだから、お客さんは大歓迎よ!!」
女の人は 自分の家までの道のりを 紙に書き留めると それを渡してくれた。
「じゃ、今度遊びに行きますね!!」
「いつでも いらっしゃい、まってるわ!!」



きっと、それが『始まり』、よね。
運命の歯車の動き出した瞬間、だったのかもしれない。



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