8、6月15日


「い〜や〜あ〜あ〜・・・・・」
この時期、特に虫が大量発生する。こんな田舎だから、なおさらだ。
あたしは上からぼとぼと降ってくる毛虫にひたすら悲鳴をあげつづけていた。

マップによれば、ここは『ヨシノシティ』、
春になると 一面に綺麗な桜の 咲くところらしいんだけど・・・
「桜の時期は、過ぎちゃってるわよねぇ・・・」
あ〜あ、ついてない。
あたしは ため息をつきながら長い旅路をとぼとぼ歩きつづける。
「ほんっと、何にもない所よねえ・・・・・
 景色に変わり映えがなくって、迷子になっちゃいそう・・・」
1人だとあまりにも暇だったので、ポコとワニクローをボールから出して、あたしたちは、1人と2匹で 田舎道を歩いていた。





「こーんーにーちーわー!!」
あたしは『ポケモンじいさん』の家の扉を叩いた。
ワカバを出発してから、実に1週間!!
ようやく、1つ目の目的地まで たどり着いたってわけ・・・・・・
「はいはい、どちらさまかな?」
中から出てきた老人は、人のよさそうな顔をしていた。
「あ、あたし、ウツギ博士から用命を受けてきました・・・」
「『クリス』ちゃんかい?」
「は、はい そうです!!」
ポコにふくらはぎを 突っつかれて、あたしはようやく 自分が緊張している事に気が付いた。
なんだ、あたし緊張してたんだ、ガラにもなく・・・・・


子供のような笑顔で迎えられ、あたしはポケモンじいさんの家のなかへと通される。
軽く見まわしてみると、家の中は、色々と奇妙なものでいっぱいだった。
正体の分からない機械類、ポケモンの色々な研究資料・・・・・・
その中でも、一際(ひときわ)あたしの目を引いたのは・・・

「あれ、何のタマゴですか?
 普通の卵より、ずいぶん大きいですけど・・・・」
ごちゃごちゃと玩具(おもちゃ)のような研究材料が乱雑に並んでいるなか、
その大きな卵だけが、大切そうにケースの中に入って飾られていた。
赤と青の穴のあいた三角形が 白い殻(から)の表面にアットランダムに並んでいる。


「おお、それなんだよ、ウツギ君に渡そうと思っていたものは。」
ポケモンじいさんは得意そうな笑みを浮かべて、その卵を取り上げた。
さも、それが自分が苦労して作り上げたものかのように、高々と掲げてあたしへと自慢する。
「何を隠そう、きっとこの卵は『ポケモンのタマゴ』なのだろうからねえ!!」
「『ポケモンのタマゴ』?」
あたしは何のことだかさっぱり分からなかった。
ポケモンが卵から生まれるなんて話、一度だって聞いたことがない。

ポケモンじいさんが とくとくと自分の話を進めるなか、あたしは ワカバで見たロケット団の事が気がかりだった。
もしも、ロケット団が復活をしたとなれば、被害は『研究所』だけで済むものではない。



「・・・・・・であるからして、・・・・おや、もうこんな時間だ。
 すっかり引き止めてしまったねえ、
 今夜はもう遅いから、うちに泊まっていくといいよ。」

・・・・・あ〜、疲れた・・・・・
3時間もずっと話しっぱなしなんだもの、ポケモンじいさん・・・・



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